いつものように近所の料理屋で朝食を済ませて、「牧」に戻ろうとしたところで、不意に違和感を覚えた。
同じような奴隷調教施設を十数箇所持っているが、宝象国のものはそのひとつだ。
白骨は、その建物を“牧”と呼んでいた。
もっとも、本当に広い牧があるわけではない。
ただ、妖魔を監禁して、調教や術式を行うための設備があるだけだ。
周りに、畠も民家もなく、広い荒れ地が周りにあるだけのその場所を白骨は気に入っていた。
もともとは、貴族の別宅だったらしいが、没落して土地と屋敷を手放したらしい。
そこを安く手に入れ、妖魔を飼育するための材料や設備を整えた。
広い地下室もあり、本当にうってつけだった。
ここは、まさに白骨の縄張りだ、施設の内部には白骨の道術の防護結界も張り巡らせている。
とにかく、施設の中まで行けば安心だ。
白骨は足を急がせた。
奴隷商人の白骨にとって、妖魔の売買を認めている宝象国は、いい商いの場所だ。
妖魔には、強い妖魔もいるが、大抵は弱い。
それを捕えて、調教し、高く売り払う。
妖魔は忌み嫌われている存在だし、手ひどく扱っても誰も文句は言わず、むしろ感謝される。
さすがに、人間を売買するほどの儲けにはならないが、人間を売買する闇商売のいい隠れ蓑にもなる。
そう考えると、この前の朱姫のときは、いい商売だった。
ああいう妖魔市は、妖魔を性の見世物にするのが習いになっており、それをすることなく、買い手に渡ったのは、集まった市民には不満そうだったが、それは白骨のせいではない。
それに、道端で拾った雌の半妖を売り払って、金の粒三袋、金貨にすれば四十五枚から五十枚の値だ。
処女で十代で調教の終わった人間の美少女を売っても、そんなに高額では売れやしない。
それにしても、あれは、錯覚だったのだろうか。
あの時、朱姫を買った老人――。
顔を覆いに包んでいたから顔はよく見えなかったが、ちらり覗いた面影は、あの
そう考えて、白骨は自分の思いを内心で打ち消した。
青蔡が世捨て人となって、もう百年以上の歳月が流れている。
いまさら、王都に戻るとは思えないし、ましてや、性処理用の雌妖を買うなどあり得ない。
じゃあ、あの老人は誰だったのか――?
実はあれから、白骨は、すぐに
だが、風のように消えてしまい、まったく、どこの誰なのか、わからなかった。
しかし、あの気配は、確かに道術師を思わせる。しかも、かなりの高位の術師ではないだろうか。
白骨自身がそれなりの道術師なので、術者の持つ霊気の大きさなどは、ある程度は感じる。
あれは、高位道術師だった。
青蔡のような……。
そんなことを考えているうちに、白骨は、何事もなく、根城にしている建物に到着していた。
誰かにつけられていると思ったのは、杞憂だったようだ。
白骨は、結界の中に足を踏み入れた。
「異常はない?」
入口に座って外を見張っている千鬼に声をかけた。
千鬼も
それなりに気配を感じることもできるし、余程の強い術遣いでもなければ、結界に包まれているこの施設内では十分に戦える。
「なんにもありませんよ、白骨様」
千鬼が退屈そうに欠伸をした。
「十全は?」
「中ですな。この間捕まえた妖魔の世話をしてますよ。本当に真面目なやつですねえ。あいつは、この仕事は向かないんじゃないですか?」
「どうしてよ。あたしは、あいつを買ってんのよ。なんたって、真面目だからさ」
「糞真面目な女衒なんて、聞いたことありませんよ。あいつには悪心が足りない。なんだかんだで、俺たちの稼業は他人を不幸にすることだ。その点、あいつは真面目すぎる」
「それが、あの坊やの見込みのあるところなのよ」
すると、千鬼は鼻を鳴らして、また居眠りをするような姿勢になった。
もっとも、ああいう格好ながらも、千鬼が少しも油断などしないというのを知っている。
白骨はそのまま建物の中に入っていった。
建物は、地下層のある二階建てになっていて、二階部分は白骨たちが誘拐した人間の女を閉じ込めるための部屋があり、一階には妖魔を閉じ込める檻がある。
また、地下には、調教や人体改造のための拷問具や装置が揃っている。
果たして、十全は一階の奥にある三匹ほどの妖魔を放り込んである檻に前いた。
朱姫を売り払った金の一部で買い求めた雄の妖魔だ。
ほとんど白痴だが、家畜用の雌妖の種付けとして飼育して、高く売るつもりだ。
すでに、性交の相手を極端に妊娠させやすく、また、雌を孕ませても、遺伝的には雌側の種族特徴しか幼体に受け継がせないような肉体改造処置を終わっている。
いまは、精力を絶倫にするための調教をしている。
「どうだい、調子は?」
白骨が声をかけると、十全が立ちあがって頭を下げた。
「あっ、お帰りなさい、白骨様。順調だと思います。かなり、命令に従うようになりました。ご覧になりますか?」
白骨を認めた十全は、微かに頬を赤くしている。
白骨は、密かにこの十全が自分を慕っているのを知っていた。
もちろん、こんなにも歳の離れた少年を性の対象として感じることはできないが、一人前の妖魔遣いとして、大事に育ててやろうとは思っていた。
なによりも、妖魔遣い、あるいは、調教師としては、十全は、なかなかの非凡なものを持っていると白骨は思っている。
千鬼は向いていないとか言っていたが、実は違う。
むしろ、この十全の生真面目さと気の回りようは、この仕事に向いている。
この仕事は、常に相手の心情に丁寧に向き合い、対象物の心に対するきめの細かい調整を必要とする。
細心さがなければ、うまくいく仕事ではない。
「見せてもらおうか」
白骨は座椅子に腰掛けて、妖魔の入っている檻に向かい合った。
檻は全部で十個あったが、妖魔が入っているのは、そのうちの三個だけだ。
これらの妖魔は、いわゆる、亜人とか鬼族とか称されることもある異人種ではなく、熊と虎と蜥蜴が特殊な魔力を帯びて人間化したものだ。
本当は、頭に角がある人族に近い知性の高い異種族たちと、目の前のように動物が人間化した個体は、まったく異なるものだ。
だが、人間はそれをまったく区分せずに、両方とも「妖魔」と呼んで区別しない。
それはともかく、檻の中の三匹は巨体であり、背丈は通常の人間の男の二倍近くある。
力は人の十倍はあるだろう。
しかし、檻には道術が込めてあるから、破るのは不可能だ。
この三匹には、常時、欲情した状態にあるように、淫霧を常に嗅がせている。
そのために、そびえたった巨根が天井を向いて、いまにも暴発しそうであり、その先っぽは、勇み汁でねっとりと濡れている。
その根元に勝手に暴発しないように、やはり、霊具の金輪で絞っているのだが、それでも溢れた精液が先端に溢れ出ているのだ。
三匹の妖魔は、白骨の雌の匂いを感じて、檻の中で咆哮して、暴れはじめた。
妖魔であろうと、人間の女であろうと、女は女だ。女が近づけば、無条件に発情するように洗脳処置をしている。
だが、十全がぴしゃりと棒鞭を床に鳴らすと、顔に恐怖の色を浮かべて、三匹とも檻の奥に退がってしまう。
「ほう、よくも、この低能の連中をここまで仕込んだね」
白骨は褒めた。
「まだ、不十分なんです、白骨様。ちょっと、見てもらえますか?」
十全は、真ん中の檻に近づいて、檻を二度叩いた。
真ん中の妖魔は悦びの雄叫びをあげて、檻に近づき、そそり立った肉棒を檻の外に出した。
十全が、肉棒の根元の霊具を棒鞭の先で軽く叩くと、金属の輪が外れて下に落ちた。
その妖魔が咆哮した。
「射精練習用の『
十全が白骨に振り向いて言った。
白骨は黙って頷く。
十全が壁の戸から出したのは、人間の女を形どった人形だ。
質感や形は雌妖や人間の女に似せてはいるが、模様もなにもないただののっぺらぼうだ。
ただ、股間に当たる部分には、膣の構造の穴がある。
また、人形全体の色は薄い白みがかった透明になっていて、挿入された男根の射精の様子も観察できるようになっている。
十全は、その『贋体』に霊気を注いで真ん中の檻に近づけるとともに、取り出した小瓶の液体を股間の部分にかけた。
この液体には、妖魔が雌を感じる強い成分が混じっている。
それにより、妖魔は、この『贋体』を本物の雌の妖魔と錯覚してしまうのだ。
雌の匂いを感じさせられたことにより、再び三匹が興奮状態になった。
しかし、十全の鞭の音でまた静かになる。
十全は、真ん中の妖魔に、まっすぐに棒鞭の先端を向けている。
妖魔の顔に強い恐怖が浮かんでいる。
それと同時に、十全と一緒にいる『贋体』の発する匂いに、激しく欲情もしているようだ。
十全が、棒鞭で檻の中の妖魔を差したまま、檻の入口を開いた。
この瞬間がもっとも危険な状態だと言っていいだろう。
白骨は、もしも妖魔が暴れ出して逃げ出そうしたら、自分の道術で助けようと構えた。
だが、その必要はなさそうだ。
開いた檻の中の妖魔は暴れ出さなかった。
涎を垂らしながら、じっと十全の横の『贋体』を見ている。
十全が檻の中に『贋体』を入れた。
すばやく、檻の戸を閉ざす。
「よしっ」
十全のひと言で、妖魔は吠えながら『贋体』に飛びかかり、巨根を『贋体』の“膣の穴”に挿入した。
透明の人形の身体を通して、妖魔の精液が『贋体』の内部に注がれるのが見えた。
そのまま抜くこともなく、妖魔は、二度、三度と続けざまに精液を放出した。
十全が棒鞭で檻を再び強く叩いて、大きな音を出す。
それでも、妖魔は『贋体』から離れない。
まだ、放出は続いている。
十全は、苛々した様子で床を二度叩き、最後には、棒鞭の先端から電撃を妖魔に向かって放出した。
悲鳴をあげた妖魔が、やっと『贋体』の股間の部分から一物を抜いた。
「ご覧のとおりです。まだ、調教の進み具合は、いま少しといったところです」
「いや、ここまでできれば上出来よ。短い時間で、よくここまで仕込んだものよ。もう、十分、種付けとしては使えるわ」
「でも、一度、性交をはじめさせたら、もう、命令を利かなくなります。歯止めがなくなるのです。もう、強引に痛みを与えるしかなくなるのです」
「まあ、この低能どもじゃあ、難しいわね。もう少し、徹底的に棒鞭に対する恐怖を植えつけるといいわ。性交の飴と鞭の罰を使い分けることも大事だけど、まずは、徹底的な恐怖よ」
白骨は立ちあがりながら言った。
十全の仕込みには概ね満足していた。
あそこまで、ひとりで調教ができたのなら、もう、一人前に近いと言っていいだろう。
「ありがとうございます」
十全が元気な声で言った。
「じゃあ、あたしは、地下で休むわ」
地下は、施術と調教をする場所であるが、白骨の私室のある場所でもある。
いずれにしても、この宝象国で雌妖狩りをしない約束を
ついこの間までは、一階の妖魔の檻など、調教待ちの雌妖でぎっしりだったのだ。
大した儲けにもならない、あんな種付け用の妖魔の育成などする必要もなかった。
白骨は、空っぽの調教部屋を通り抜けて、私室に戻った。
部屋に戻ると、すぐに妙に眠くなった。
白骨は、部屋の片隅の寝椅子に横になった。
*
「起きなさいよ、白骨――。あたしのこと覚えているでしょう?」
その声で、白骨はまどろみから目を覚ました。
ぎょっとした――。
寝椅子のすぐ横には、足を組んで椅子に座っている朱姫がいたのだ。
その朱姫がじっと白骨を睨んでいる。
起きあがろうとした。
だが、なぜか寝椅子に縛りつけられでもしたように動けない。
しかし、白骨を縛っているものなどなにもないのだ。
「無駄よ、白骨――。あたしの『縛心術』がかかっているわ。いくら、あたしとあんたほどの道術力の違いがあっても、さすがに眠っていては、かけやすかったわ。縛心術と眠りは相性がいいのよね。先日のお礼をしにやってきたわよ」
「ど、どういうこと――? どうやって……」
眼の前の朱姫は、ここで施術をして獣同然にしてやった面影はまったくない。
最初に黄袍魔の魔域で捕えたときに戻っている。
「面と向かったって、負ける気はしなかったけど、うっかりと眠り込んでしまうとは、ついていなかったね、白骨」
声は朱姫の反対側からあった。
白骨は、首を回して、その方向を見た。
黒い巫女服に身を包んだ美貌の女がそこにいる。
白骨でもぞっとするような、なんともいえない残酷な笑みを浮かべるその女のことを、白骨はよく知っていた。
「あ、あんたは――」
「久しぶりだね、白骨。覚えているかい? 宝玄仙だよ。少し前までは、天教の教団の八仙を名乗っていたけど、いまは追放の身でね……。いずれにしても、よくも、わたしの供に手を出してくれたね」
「な、なんで、あたしのことが……」
「今度、わたしの供に手を出すときには、あんなに、自分の霊気の匂いをさせた霊具を残していかないことだね。お陰で、追いかけるのは簡単だったよ。お前が、
「あ、青蔡の爺さんが裏切ったのかい――」
驚いて白骨は叫んだ。
「裏切ったというのは酷いじゃないかい? いつ、青蔡がお前みたいな三流の奴隷商人の女なんて本気で相手にした? わたしと青蔡がどれくらいの付き合いだか知っているのかい? わたしに敵対するようなことをするなんて、青蔡も怒っていたよ」
「あんたと、青蔡が?」
白骨は絶句した。
「昵懇さ。青蔡は、わたしには頭があがらないのさ」
宝玄仙が白骨に向かって、白い歯を見せた。
びっくりした。
この道から手を引いて長いといっても、この世界で青蔡といえば、誰もが一目も二目も置く大物だ。
青蔡に立てつけば、この諸王国の裏の世界ではやっていけないのも常識だ。
だが、青蔡と宝玄仙に接点があったとは知らない。
しかも、昵懇?
そんなの知らない。
知っていれば、宝玄仙の供になど手を出さない。
「あんたと青蔡の爺さんとはどういう関係なんだい?」
白骨は言った。
それとともに、なんとかこの危機を脱する方法がないかと思って一生懸命考えている。
だが、どうしても身体が動かない。
それだけじゃない。
朱姫の言った『縛心術』が効果を及ぼしているのか、自分の結界の中だというのに、一切の道術の力が宝玄仙にも朱姫にも及ぼさない。
「さっきから、道術を遣おうとしているようだけど無駄だよ、白骨。この宝玄仙の結界の中で、道術でわたしに勝とうというのはおこがましい話さ」
「あ、あんたの結界? な、なんで――?」
「おやおや、やっぱり本当に眠りこけてたんだねえ。そうなると、この朱姫の道術も大したもんかもしれないね。白骨、お前は、この朱姫の『縛心術』の効果により、眠ったまま捕まって、一日以上寝てたのさ。わからないのかい。そろそろ、腹も空いたし、膀胱も溜まってんじゃないかい?」
宝玄仙が笑った。
「一日?」
白骨は驚いた。
ほんのちょっとのまどろみの記憶しかない。
だが、そう言われてみると、空腹だし、尿ももよおしている。
そのとき、いきなり、白骨の頬が思い切り引っぱたかれた。
叩いたのは朱姫だ――。
襟首を掴まれて、力一杯に顔を叩かれたのだ。
いきなりのことで、火の出るような激痛が顔に走った。
「いつまでも、お喋りしてるんじゃないよ、おばさん。あたしにやったことを忘れていないよね」
朱姫が怖ろしい剣幕で怒鳴った。
その迫力は、とてもじゃないけど、十五、六の小娘とは思えない。
「こ、これは、本当にお前の術かい――? 身動きできないよ」
すると、今度は逆の頬を引っぱたかれた。
「口の利き方を直すんだよ、おばさん」
朱姫に寝椅子から床に蹴り倒された。
だが、本当に身体が動かない。
蹴り落とされたままの恰好で、白骨は床に横たわった。
下袍が腰までまくれ上がり、両足ががに股にみっともなく開いたままだ。
そんな格好にも関わらず、白骨は自分の衣服の乱れを直すこともできない。
「朱姫、暴力は感心しないね。それは、宝玄仙のやり方じゃないよ」
宝玄仙が愉悦のこもった口調でたしなめた。
「も、申し訳ありません、ご主人様」
朱姫がうな垂れた。
白骨は、一体全体、どうしてこんなことになったのか懸命に考え続けた。
隠れ家としていたこの施設を奇襲されて、不覚にも眠り込んでいるところを術にかけられたということは確かだろう。
だが、この施設は千鬼が警戒をしていたし、一階には十全もいたはずだ。
千鬼が警告くらいしてくれてもよかった。
彼らはどうしているのだろう。
「宝玄仙の責めは、色責めと決まっているのさ。これを貸してやるよ」
宝玄仙がなにかを朱姫に手渡した。
白骨は嫌な予感がした。
すると、朱姫がにやりと微笑んでから、白骨の両方の鼻の穴になにかを詰め込んだ。
「ご主人様の淫霧は効くよ、おばさん。『淫霧の綿』という霊具だけど、たっぷりと嗅ぐといいよ。おばさんの腐れ陰部が、熟れきった
朱姫が説明するまでもなく、鼻になにかを詰め込まれた途端に、白骨は得体の知れない感覚に襲われ始めた。
どろどろと身体をあっという間に蝕みはじめた疼きに白骨は恐怖した。
懸命に鼻息で出そうとするが、鼻から出る気配さえない。
「ご主人様の霊具は、そう簡単に外れはしないよ、おばさん。無駄無駄」
朱姫がそう言って、白骨の口を手で塞いだ。
そうされてしまうと、もう白骨は、宝玄仙の霊具から流れる媚薬の霧を吸い続けるしかない。
あっという間に全身が熱くなって、激しく汗が出てくるとともに、股間にじっとりの淫液が流れるのを感じた。
「だけど、白骨、ここはなかなかにいい場所じゃない? 一緒に来た青蔡も勧めてくれているし、しばらく、お前と遊び飽きるまで、ここをねぐらにすることにするよ。青蔡もそのうちに戻るだろうしね」
宝玄仙が言った。
「あ、青蔡の爺さんが、ここに?」
「ここの結界を破るのに、少しばかり手伝ってもらったのさ。あっという間に、結界が破られた理由がわかったかい、白骨。お前は、わたしだけじゃない、青蔡という術遣いの仙人にまで敵に回したんだよ。もっとも、お前への仕置きは任せるといって、出掛けたけどね。お前が売り渡そうとした
「青蔡はどこなのよ?」
白骨が雌獣として売り飛ばした朱姫は宝玄仙の供なのだから、なにをどうしても、白骨を許さないだろう。
当然に朱姫も同じだ。
白骨が助かるためには、青蔡の慈悲にすがるしかない。
「用足しだよ。百花に頼まれたことがあってね。その百花が国王に伝言を頼んで、沙那が引き受けたのさ。うちの沙那は律義にも、わざわざ国王に会いに行ったよ。だけど、いきなり向かっても門前払いだろうから、青蔡がついていったのさ。まあ、そんなことどうでもいいよ」
白骨はもう声も出なかった。
あの青蔡が完全に宝玄仙についたのだということを信じるしかない。
白骨が誘拐した百花をことも知っているみたいだ。そもそも、百花の誘拐に協力したのは青蔡だから、青蔡なら白骨がいるこの場所のことは知っている。
青蔡が宝玄仙についたなら、白骨があっという間に捕らわれるのは当然だ。
それにしても、宝玄仙と青蔡がどういう間柄なのかわからないが、青蔡は宝玄仙の味方のようだ。
宝玄仙の術がどれほどのものなのかは、実際はわからないが、青蔡だったら白骨の結界が破られたのは納得するしかない。
「ところで、そろそろ、ここはどうなの、おばさん?」
朱姫が無造作に白骨の股間を撫ぜた。
「ひいいっ」
股間に走った衝撃に、思わず白骨は嬌声をあげた。
下着はもうはっきりと冷たさを感じるくらいにびしょびしょに濡れきっている。
それでいて、股間は燃えるように熱い。
股間だけじゃない。全身が欲情の塊りのような状態になっている。
「ほら、ほら、こんな小娘相手に、そんなはしたない声を出さないでよ。この道じゃあ、百戦練磨の白骨夫人なんでしょう?」
朱姫が白骨を言葉でなぶりながら、白骨の股間を愛撫する。全身にとろけるような陶酔が襲う。
こんな娘に、簡単にいかされるなんて屈辱だ。
だが、淫霧は絶対的な力で白骨の全身を喜悦の果てに送り込む。
「いひいっ。ひっ。ひいいっ――」
いく――。
白骨は身体を弓なりに反らせた。
だが、その絶頂の寸前に、さっと朱姫は手を離した。
「そんなに優しくないのよ、あたしは……」
朱姫が快感の極みを寸前に取り上げられた白骨の髪を掴んで、自分に向けさせた。
「いいかしら、白骨のおばさん。これから、おばさんには、ご主人様とある盟約を結んでもらうわ。『真言の誓約』よ。術遣いなら知っているわよね。あんたは、自分の意思、いい、自分の意思よ――。すべての道術力をご主人様に渡すという誓約を結ぶのよ」
「自分の意思?」
わからない。
突如として、白骨から思考力が消滅したみたいになった。
言葉は頭に入ってくるのに、それが意味のある内容として入ってこない。
「『真言の誓約』は、お互いの自由意思で結ばれた誓約を絶対の契約として、相互を拘束するのよね。お前は、ご主人様に道術力を渡すことにより、今後、永遠に力を持たない術遣いに成り果てる。ただの人間よりも始末が悪いわよ。なにしろ、自分で術が遣えないだけで、道術の捌け口は残っているから、どんなに力の弱い術遣いからの術も効果があるものね。でも、仕方ないわよね。自分の意思で、そういう存在になることを選ぶんだから」
朱姫にその言葉を告げられた瞬間、頭を霧のようなものが覆った。自分の意思で宝玄仙とすべての力を渡す誓約を結ぶ――。
その言葉だけが、頭で繰り返される。
髪の毛を引っ張られた顔が ぐいと宝玄仙に向けられる。
「ほら、口に出してごらん、白骨。あんたの道術の力をどうするの……? ちゃんと言の葉に載せなさい。それと、代償はなし。無条件よ……」
朱姫が耳元で囁いた。
「……あ、あたし……白骨は、自分の意思で……道術の力を……宝玄仙に渡す……誓約を……無期限で……結ぶ……」
頭で繰り返しているその言葉を、言われるままに口に出す。なんでそうしているのか、わからない。そうするべきだという感情しかない。
「よく言えたね、白骨。誓約を結ぶよ」
宝玄仙の声がした。
自分の身体から、なにかが失われる凄まじい力を感じた。
髪の毛が離された。身体が床に崩れ去る。
耳元で、手が叩かれた。
「術を解くわ、おばさん」
朱姫の声がした。
白骨ははっとした。
たったいま、自分はなんという誓約を結んでしまったのか――。
しかし、理不尽な誓約を無期限で結んでしまったというのは、自分の身体に感じるものでわかる。
朱姫が微笑んで、こっちを見ている。
ぞっとするような酷薄そうな笑みだ。
この間、調教して、肉体改造の術式までやった相手に、いま、隠しようのない恐怖を感じている。
そして、朱姫を支配している宝玄仙――。
怖い。
怖い――。
怖い。
いやだ――。
彼女たちと一緒にいたくない。
力を失うということが、これ程までに恐ろしいものとは思わなかった。
幸いにも身体は動くようになってた。術を解くとか言ったから、とりあえず、縛心術は解かれたのだろう。
自然と身体が地下室を脱出する階段に向かっていた。
「動くな、白骨――」
朱姫の声がした途端、足が急に凍りついたように動かなくなった。
「お前への『縛心術』は、いつだってかけられるんだ。もう、お前はあたしの完全な操り人形なのよ。逃げられるがわけないでしょう。こっちを向くのよ、おばさん」
白骨の身体が勝手に向きを変えて、宝玄仙と朱姫に向き直る。
「ねえ、ご主人様、こいつは、ここであたしのことを家畜扱いしたんです。だから、あたし、こいつをあたしの家畜にしたいです」
「いいとも、朱姫。好きにしな。とりあえず、どうしてやるつもりなんだい?」
「まずは、服を脱がします。素っ裸にです。それから、この建物にあるこいつの服という服を集めさせて、燃やしてしまう……。これから、こいつは家畜になるんだし、服を着る必要なんてないものね」
「そりゃあ、いい考えさ、朱姫」
宝玄仙が笑った。
「……じゃあ、雌、さっそく、素っ裸になりなさい」
朱姫が白骨を睨んだ。
勝手に白骨の手が動き出す。
両手が上衣の衣服のボタンにかかる。ひとつ、ふたつと外しだす。
「待て――」
朱姫の声――。
白骨の手が止まる。
「最初に脱ぐのは下からよ、雌。しかも自分の股間を愛撫しながら脱ぐのよ」
白骨の手がひとりでにくるぶしまである下袍をたくし上げて、股間をまさぐりはじめる。
「ひいっ」
火傷するかと思うくらいに熟れきった股間に、自分の手が触れただけで、白骨は嬌声をあげた。
がくがくと肢が震えはじめる。
嗅がされ続ける淫霧に、もう全身が痛みのような疼きで溶けるようになっている。
「勝手に達するんじゃないのよ、雌――。あたしの眼を見なさい」
朱姫の声に逆らえない。
視線が合う。
「お前は、絶対に自分の手じゃあ、達することはできない。どんなに感じてもよ――。さあ、繰り返してごらん、雌」
「あ、あたしは……自分では達することはできない……」
「そうよ。でも、すごく気持ちはよくなるわ。だけど、他人の手じゃないと感じないの。いや……妖魔にするわ。お前は、妖魔に犯されなきゃ、絶頂に達しない。絶対によ。自分の手でも、人間の手でも達しない。お前が達するのは妖魔だけ。さあ、繰り返すのよ、雌」
朱姫が睨む。
やはり、その視線を逸らることがない。
「あ、あたしは……妖魔だけしか絶頂に達しない……。自分の手でも、人間の手でも達しない……。妖魔だけが……あたしの相手……」
「そうよ、雌。でも、気持ちはいいのよ。触る度に、自分でも他人でも、あそこを触る度に気持ちがよくなるわ。だけど、快感に身が震えるような満足を感じられるのは、相手が妖魔のときだけよ……。さあ、もう一度、言うのよ」
その間も白骨の指は、自分の股間をまさぐり続けている。気持ちいい――。
せりあがる。
だけど、多分いけない――。
それは妖魔じゃないから……。
「よ、妖魔でなければいけない……。はあっ……。で、でも、き、気持ちはよくなる……」
「そろそろいいわね。じゃあ、雌、自慰を続けながら、服を脱ぎなさい。素っ裸になったら、自分の服を集めて来るのよ。下着も含めて、一枚残らずよ。千鬼と十全の衣類もあれば持ってきなさい。あいつらも家畜よ。当然に服などいらないわ。全部、ここで焼き捨てる」
白骨は片手で肉芽をいじくりながら、もう片方で服を脱ぎ捨てていく。
宝玄仙が手を叩いて、大笑いしている。
なぜ、笑っているのかわからない。
ところで、千鬼と十全について言及したが、ふたりはどうなっているのか……。
わからない。
やがて、股間から拡がる衝撃に白骨は身悶えさせた。
全身が震えはじめる――。
だけど、いけない――。
なぜか、絶頂に達しない。
白骨は、狂ったように、ひたすら自慰を続けた。
朱姫が近づいて、白骨の鼻の穴から、『淫霧の綿』を取り出した。
「これはもういいわ。あたしは、じっくりと責めたいのよ。さあ、そのまま、自慰を続けながら、素っ裸で服を探しておいで、雌。一階の妖魔がいる檻の中に、お前の部下の十全と千鬼を素っ裸で鎖でつないでいるわ。そいつらの前で、少なくとも四半刻(約十五分)は、お前の自慰を見せておいで。そして、服を持ってくるの。全部終わったら、今度こそ、『縛心術』を解いてあげるわ」
「は……はい。ああっ……。ああ……。ああ」
白骨の足が動き始める。
もう、なにも考えられない。
告げられた言葉の通りに動くだけのことしか考えられない。
「念のためにもう一度。お前が絶頂に達することができるのは、どういうとき、雌?」
「うくうっ……。妖魔が相手のときだけ……。ああ、あっ、はあっ」
「この暗示だけは解いてあげないわ。苦しむのよ、雌。死ぬまでね……。絶頂したくても、できないのは、最高に苦しいわよ――。じゃあ、行っておいで」
白骨は、ひたすらに股間を愛撫しながら、部屋をあとにした。
足の指に股間から流れ落ちる愛液が垂れ落ちて、ぬるりと滑りそうになった。
「そうそう、この施設にある蓄財も全部、ここに運んでおいで、雌。あたしを買うために、ご主人様が使った金貨は回収しないとね」
白骨の背中に朱姫の声が追ってきた。