軍師役の沙那の指示によるものだ。
各隊に対する指示も的確だし、正直にいえば、沙那を侮っていたところもあったのだが、いまは感嘆している。
あの隊は、この侵攻軍からは離れて、再び金角領域に散り、この遠征軍の侵攻に連携して叛乱を起こすように、領域内の各部族のもとを説得してまわっている。
九霊聖女から見ても、旧金角軍の残党は、沙那はもちろん、九霊聖女に対しても反感を持っていたので、それを切り離したのは適当だろう。
それに、遠征軍に連携した地元の部族たちの蜂起は、数万の軍勢にも勝る。
その辺りの戦の機微も、沙那はよく理解しているようだ。
また、緒戦ということもあるのか、人間族の軍は後方に外して、補給品の防護をさせている。
道術を介する作戦ということになれば、不慣れな人間族の軍では、思わぬ痛手を被る可能性もある。
それで外したようだ。
それに遠征軍ということで、補給物資の保持は重要だ。その処置も適切だ。
「敵は、砦を出て手前に陣を張ったわ。勢力は一万というところね。残りの一万はさらに後方の出城に残っているわ。敵将の田楽天は砦の前の野陣にはいない感じよ。でも、田楽天は、出城と陣とのあいだを『移動術』の結界で結んでいると思うわ。だから、斥候で発見できなくても、戦闘になれば出てくるかもしれないわ」
黄獅姫はこの本陣を直接に防護する隊長だが、魔域における戦いに不慣れな沙那への助言役として沙那につけていた。
方陣の中央にあるこの本陣は、火避けと矢避けの幕で囲まれている。
幕の外には移動用の馬車も並んでいて、大部分の荷はまだ馬車だ。
すぐに移動するからだ。
幕の中は概ね三個に仕切られており、一番前が沙那たちがいる場所で、広い卓に地図なども広げられている。
道術通信を駆使する伝令役の亜人兵や本陣の守備兵なども控えている。
真ん中がここであり、九霊聖女と宝玄仙が並んで座っていて、作戦の指図をする沙那たちの背中を眺めるような感じだ。
沙那たちのいる場所とここの仕切りはない。
ここの後ろは、仕切りがあり、九霊聖女と宝玄仙の休む場所だ。
本来であれば、司令官と総帥の個室は別々に作るのだが、宝玄仙の命令でひとつにまとめられている。
そこで寝るし、食事もする。着替えなどもそこだ。
専任の侍女はいない。
宝玄仙の供の朱姫と素蛾がそれを務めている。
また、宝玄仙の供でもある沙那と孫空女も、休むときにはそこを使う。
もっとも、いまはすぐに推進する予定なので、なにも置いてない。
「『移動術』ということは、陣が危なくなれば、指揮官が道術で逃げることもできるということね、黄獅姫?」
沙那が言った。
「まあ、そういうことね。敵陣を完全に包囲してしまえば、逆結界をかけて、『移動術』を防げるけどね」
「じゃあ、作戦に『移動術』を遣うということは、道術で大きな隊を側面や後方に跳躍させることとかもできる?」
「まあ、技術的にはできるわ、沙那……。でも、数名ではなく、数百名、数千名の単位の勢力を道術で跳躍させるとなると、巨大な霊気が必要だし、簡単に探知もできるから事前にわかるわ。それに接すれば、跳躍したばかりの態勢が整わない段階で攻撃道術を集中すればいい。数名の道術遣いで対応ができることよ。探知するのも簡単だし。だから、余程の条件が整わない限り、それをしようとする指揮官はまずはいないでしょうね……。それよりも、それを防ぐための広域の道術防護をするのが普通よ。隊を道術で移動するとなると、その広域防護もいったん解かないとならないから、隙もできるということにもなるわ」
「なるほど……。わかったわ」
沙那が頷いている。
「まあ、存分にやりな、沙那──。今回に限っては、絶対にお前の邪魔はしないと約束するよ。まあ、玩具もあるしね」
九霊聖女の横に座ってる宝玄仙が笑った。
全軍の司令官の九霊聖女に対して、宝玄仙は遠征軍総帥という立場だ。
「あ、当たり前です──。ご主人様は、大人しくしていてください。ご主人様にしかできないこともありますから──」
沙那が怒鳴った。
宝玄仙が愉しそうに笑った。
それにしても、この主従はいったいどういう関係なのだろう?
これだけの道術遣いであり、大変な嗜虐趣味であって、供など奴隷同様に扱っていると思えば、思いのほか仲もいいようだ。
「飲み物をお取替えします」
朱姫と素蛾が後ろの控えからやってきた。
九霊聖女と宝玄仙が腰かけている椅子は横に並んでいて、真ん中に戦場用の卓がある。
そこにあった飲み物を交換したのだ。
「あ、ありがとう……」
九霊聖女は、自分の側の飲み物を交換した朱姫に言った。
どうも、この娘は苦手だ。
連環城で捕えられているあいだ、宝玄仙とともに、この朱姫にさんざんに調教された。
その記憶が九霊聖女の身体を竦ませてしまう。
もっとも、いまにして思えば、あの苛酷な調教は、宝玄仙の温情だっと思う。
ああやって宝玄仙の奴隷の刻印を受けなければ、九霊聖女はおそらく処断されていたと思うのだ。
だが、宝玄仙が九霊聖女に奴隷の刻印を刻み、この遠征軍の司令官をさせると騒いだおかげで、南山大王も九霊聖女の命を助けるほかなくなったし、その結果として、九霊聖女に従って南山大王の封印に加担した者もすべて不問というかたちになった。
奴隷の刻印を受けるというのは、ある意味、処刑に匹敵する罰でもある。
しかし、結局のところ、もっとも連環城自体に影響を及ぼさない処置だった。
いまでは、宝玄仙に感謝している。
「うっ」
そのとき、突然に肛門に衝撃を感じて、九霊聖女は思わずひと言呻いてから歯を食い縛った。
九霊聖女には、朱姫の悪戯により、小さな球体を肛門に挿入されている。
肉芽には、宝玄仙による『女淫輪』を根元に嵌められ、肛門には朱姫の『振動球』という小さな玉を入れられたのだ。
それが朱姫が後ろに立つとともに、ぶるぶると振動を始めたのだ。
九霊聖女は、左右の椅子の手摺りを固く握りしめて、必死で奥歯を噛みしめた。
肛門の球体は、肛門の中で前後に動きながら、強くなったり弱くなったりという振動を続ける。
こんなところでと思ったが、宝玄仙とその供からの嗜虐を受け入れるのは、この遠征軍の司令官という九霊聖女の役割に加えた、九霊聖女のもうひとつの役割だ。
それにしても、これから作戦が開始されようとしている段階におけるこのいたぶりは困る。
九霊聖女は、背後の嗜虐趣味の少女に閉口して、宝玄仙に助けを求めようと視線を向けた。
「んんっ」
だが、今度は、女淫輪まで微かな振動を開始した。
女淫輪にしても、振動球にしても、たちまちに九霊聖女の絶頂を促すような動きではない。
むしろ、九霊聖女がぎりぎり耐えられる程度を見計らっての責めという感じだ。
それだけに、陰湿さを感じる。
「……お前もこれだけの軍を率いる女司令官なら耐えきってみせな……。ましてや、沙那にばれんじゃないよ。わたしらが叱られるんだからね……。いいね……」
宝玄仙が身を乗り出してささやいてきた。
これは、もう助けはない……。
九霊聖女は覚悟するしかなかった。
とにかく、声は絶対に出せない。
不自然な姿勢もできない。
ここには、宝玄仙や供たちだけでなく、ほかにも多くの部下もいるのだ。
ただ、宝玄仙たちの理不尽な責めを払い除けるということもできない。
刻印により逆らえないということもあるが、九霊聖女自身の身体がそれを求めていた。
宝玄仙たちに与えられたあの調教以来、常に身体が火照ったような状態になり、放っておかれると、却って焦燥感で全身が激しく揉み抜かれたようなるのだ。
そして、いま前後の淫具から責めたてられて、九霊聖女は周囲に部下がいるという状況でありながら、異様な興奮に包まれた。
いや、むしろ、そういう緊張感と羞恥の中でこそ、九霊聖女の身体は本能のまま、異常なほどに性感が昂っている気もする。
「くっ……」
九霊聖女は思わず、口の奥で悲鳴を放っていた。
一瞬して、全身の性感が数倍に跳ねあがったのだ。朱姫の『縛心術』だと悟った。
この『縛心術』の得手の宝玄仙の供は、いつの間にか九霊聖女の身体をそうやって操れるようになっていて、時々そんな悪戯をする。
だが、こんなところで……。
すると、朱姫が九霊聖女の耳に口を寄せてきた。
「ふふふ……。満足したそうな顔してますよ、九霊さん……。身体の感度をあげてあげましたから、みんなにばれないように達してください。これも調教です」
朱姫が耳の中に息を軽く吹き掛けてから離れた。
九霊聖女はそれだけで、沸騰しそうな淫情を味わった。
とにかく、洩れそうな嬌声を押さえるために、手で口を強く押さえた。
股間の前後の淫具の動きが強くなった。さっきまでのじわじわなぶる動きでなくて、はっきりと絶頂を促す振動だ。
横で宝玄仙もにやにやしている。
九霊聖女は快感に抵抗するのをやめた。その代わり、さらに強く口を押さえた。
「んんっ」
そして、かすかに身体を震わせた。
達したのだ……。
こんなところで……。
しかも、周りに多くの部下がいるという状況で……。
九霊聖女はその事実に愕然となった。
しかし、さらに愕然とするのは、この屈辱を九霊聖女の心が強い快感として受け入れ、少しも宝玄仙や朱姫に対する反抗心のようなものを抱かなかったことだ。
これが、調教……?
九霊聖女は、それを自覚するしかなかった。
いつの間にか、二つの淫具は動きを止めている。
「敵が動きます、司令官。前面の猱獅と雪獅の隊に一斉攻撃させます」
沙那が大きな声で怒鳴った。
九霊聖女は慌てて頷いた。
戦況が慌ただしく届き出した。
前線からの道術通信がひっきりなしに弾け、次々に本陣の中で前線指揮官の声が響き渡る。
「孫空女と寓天に連絡──。いまと……。そして、孫空女は最初に敵陣を蹴散らしたら、すぐに戦場を迂回して、出城の方向に急行。敵の主力が城の外に出てくるから、その隙に城を奪えと伝えて」
沙那がそう伝令に伝えるのが聞こえた。
九霊聖女はさすがにびっくりした。
戦いはまだ、始まったばかりだ。
それなのに、目の前の敵を蹴散らすことができると信じているし、さらに、敵の主力が城の外に出てくることも、わかっているような物言いだ。
なぜ、そんなに自信があるのだろう……?
「九霊、なぜ、沙那があんな風に先が読めるのか不思議かい?」
宝玄仙が九霊聖女の心を見透かしたように、ささやいてきた。
「あ、ああ……」
九霊聖女は頷いた。
「あいつは頭がいいのさ。天才なんだ」
宝玄仙は笑った。この女主人は、沙那に対して絶対の信頼を置いているようだ。
「だから、お前はなにもかも沙那に任せて、ここでよがってればいいのさ」
宝玄仙がささやいた。
すると、また、女淫輪が動き出した。
九霊聖女は慌てて、手で口を押さえた。