※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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769 虜囚魔族の反撃

「食事です、玉面(ぎょくめん)さん」

 

 玉面は牢の中で顔をあげた。

 鉄格子の向こうに、いつもの宝玄仙と素蛾がやってきていた。

 ずっと檻車で輸送されていた玉面だったが、いまはこうやって、ある要塞の地下牢に監禁され直されている。

 どうやらふたりきりのようだ。

 素蛾が盆に載せた食事を両手で抱えている。

 

 飢えさせるつもりだけはないのか、移動中であっても、日に二度欠かさず食事は運ばれてくる。

 その代わりに衣類は与えられることはなく、いまだにずっと素裸のままだ。

 

 二日前に戦場で南山軍に捕えられた玉面は、両手に道術封じの効果のある手錠をかけられたまま、急ごしらえの檻車に監禁されて、南山軍とともに移動してきた。

 玉面を乗せた檻車は、南山軍のうち司令部にあたる隊と一緒に護送されたと思う。

 ただ、玉面が監禁されていた檻車の四方は窓のない壁だったので、外の景色は隠されていた。

 それでも天井部分には、鉄格子付きの大きな明かり取りがあり、外の音や声は聞くことができた。

 

 それで玉面は、田楽天(でんがくてん)軍を破ってすぐに北進した南山軍が、この要塞のある隘路にさしかかり、そして、この隘路の出入口にあたるふたつの要塞を守っていた夜叉天(やしゃてん)と金剛天(こんごうてん)の二将が戦わずして降伏したことを知った。

 

 夜叉天と金剛天は、巴山虎の子飼いの部下のふたりであり、玉面が見たところ、大部隊の指揮ができる数少ない男たちだった。

 このふたりが寝返ったということは、もう巴山虎軍には人はいないはずだ。

 また、このふたりすらも、戦わずして寝返ったということで、巴山虎に見切りをつけて、次々にこの領域の部族長たちが南山軍に下るかもしれない。

 

 玉面は寝ころんでいた身体を起こして、鉄格子越しにふたりに近づいた。

 ここが投降した夜叉天と金剛天の守っていた隘路沿いの要塞のうち北側の要塞であることは間違いない。

 ここは、その地下室だ。

 

 南の境界で田楽天軍を破った南山軍が進んだ進行方向には、狭い山間隘路の両端を塞ぐかたちで、ここを含む二個の要塞が待ち受けていたはずだった。

 そのふたつを呆気なく確保した南山軍は、とりあえず巴山宮に近い北側の要塞に入って、さらに北に向かう態勢を整えようとしているのだと思う。

 この隘路から先は、旧金角域の中心部となる巴山宮までただ平原が続くだけだ。

 

 電撃のように進攻してきた南山軍がここまで進攻して停止したのは、裏切りと離反が続いている巴山虎軍から、さらに投降が増えるのを待っているのだと思う。

 巴山虎に見切りをつけた各部族が南山軍に集まっているということは、宝玄仙が愉快そうに語っていた。

 

 玉面と鉄扇(てつせん)のふたりが、牛魔王に命じられているのは、できるだけ旧金角域の部族長たちを互いに戦わせて、この領域の力を根絶やしにすることだった。

 巴山虎など敗北しようが、生き残ろうがどうでもいいのだが、このまま大きな戦いが起きることなく巴山虎が敗れてしまうということは避けたい。

 

 鉄扇とは、こういう状況になったら、巴山虎が監禁して嗜虐している銀角を軍将として戦に出すことを話していた。

 銀角が南山軍の迎撃隊長ということになれば、南山軍の北侵はいささか複雑な状況に陥る。

 いまは、金角を裏切った巴山虎への復讐と、捕らわれている銀角の救出という大義名分によって、旧金角域の多くの部族長は雪崩を打って南山軍に集まっている状況であるらしいが、その南山軍への迎撃に、当の銀角が将軍となって立てば、南山軍の立場はかなり滑稽なものになる。

 

 南山軍は単なる侵略軍ということにもなり、もう一度部族長たちは銀角のもとに集まり直すことも考えられる。

 銀角は、『服従の首輪』という支配霊具で巴山虎が支配しているので、軍を与えても銀角がこちらに逆らうことはありえない。

 また、『服従の首輪』ほどの支配霊具は玉面も接したことはないくらいであり、そんな究極の操り具など誰も想像できないはずだ。

 だから、銀角が操られて南山軍の迎撃軍を率いていることは誰にもわからないと思う。

 

 いずれにしても、玉面としては、早くこの囚われから脱走したい。

 しかし、道術封じの手錠をつけられているうえに、この牢自体にも霊気が集まるのを防止する仕掛けをされているようだ。

 二重、三重の逃走防止の処置によって、それはなかなか難しいことだった。

 だが、ついに千載一遇の機会がやってきた。

 

「では、いつものように鉄格子から性器を出してください。食事の上に精をかけたら、盆を取ってもいいです」

 

 素蛾が鉄格子の下にある小さな隙間から食事を載せた盆を半分だけ差し込んだ。

 玉面は食事がある鉄格子の上から性器を外に出した。

 これから手錠をした両手で、自慰をして食事に自分の精をかけるのだ。

 素蛾の隣にいる宝玄仙という性悪魔女が、悪ふざけの思い付きで、ずっと玉面に強いている嫌がらせだ。

 そうやって、この人間族の魔女は、玉面自身の精のかかった食事を毎食食わせるのだ。

 

「えっ、ええ──? な、なにをするって──?」

 

 だが、宝玄仙が驚いたような声をあげた。

 玉面は顔をあげた。

 

「ご、ご主人様、い、いつもの儀式ですよ。ご主人様がやらせているやつです」

 

 なぜか、素蛾が慌てたように言った。

 

「そ、そうだったわね。じゃあ、やりな──」

 

 宝玄仙が焦ったような表情になり腕組みをした。

 

 なんなんだろう?

 まあいい……。

 

 とにかく耐えるのだ。

 こんな恥辱ももう少しの辛抱だ……。

 

「では、お願いします。もしも、勃起させるのが大変なようであれば、わたくしがお手伝いいたします」

 

 素蛾が言った。

 この宝玄仙の女奴隷の童女は、特殊な唾液の持ち主であり、この童女に舐められると、その部位が強烈な媚薬を塗られたのと同じようになるのだ。

 もう何度も、宝玄仙にけしかけられた素蛾に、玉面の一物を舐められたので、玉面も素蛾の唾液の怖さはよく認識している。

 また、素蛾の唾液は塗るだけでなく、飲んでも怖ろしい媚薬になって身体の火照りが収まらなくなる。

 この童女の唾液の洗礼は、もう繰り返し味わわされた。

 

「な、ならば、頼む……。どうしても、勃ちそうにない……」

 

 玉面はできるだけ弱々しい口調で言った。

 自分で素蛾の唾液を求めるのは初めてだ。

 いままでは、いつも宝玄仙が玉面をいたぶるために強引に素蛾にやらせたのだ。

 しかし、玉面には狙いがあった。

 

「わ、わかりました……。で、では……」

 

 素蛾が鉄格子から突き出している玉面の怒張に顔を近づけるためにしゃがみ込んだ。

 

「きゃあああ──」

 

 次の瞬間、素蛾が悲鳴をあげた。

 鉄格子の外に腕を伸ばした玉面が、素蛾の髪を掴んでこちら側に思い切り引っ張ったのだ。

 

「お、お前、なにするんだい──」

 

 少し離れていた宝玄仙が叫んだ。

 これは賭けだった。

 もしも、咄嗟に起きた玉面の抵抗に対して、宝玄仙が離れたまま道術を玉面に注げば、玉面には抵抗のしようもない。

 あるいは、声をあげて、どこかに待機させられているかもしれない衛兵を呼ばれても終わりだ。

 

 だが、動転した宝玄仙が素蛾の髪から玉面の手を離させようとして、思わず、近づいたならば……。

 しかし、その可能性は十分にある……。

 この二日で宝玄仙という女の性質は十分に理解した。

 あまり思慮深い女ではない。

 むしろ、浅慮で軽はずみだ。

 それに、この牢に掛かっている霊気発散の効果は、閉じ込められている玉面だけではなく、外にいる宝玄仙たちにも及ぼすと思う。

 霊気が発散する牢の中の玉面には、道術をかけるのは難しいはずだ。

 

「い、痛いです──痛い──。や、やめてください──」

 

 ぐいぐいと鉄格子に顔を引っ張られている素蛾が悲鳴をあげた。

 いい悲鳴だ……。

 素蛾を守りたいと思った宝玄仙が、うっかりと玉面の腕に手を伸ばしてしまう可能性は十分にある……。

 

「お前、素蛾を離しな──」

 

 案の定、怒った宝玄仙は、素蛾の髪を掴んでいる玉面の手に腕を伸ばした。

 

 しめた──。

 

 玉面は素蛾の髪を握っている手を離して、宝玄仙の手首を握り直した。

 

「なっ?」

 

 宝玄仙が驚いている。

 しかし、玉面は手首にしっかりと装着しているように見せかけていた道術封じの枷を自分の腕から外すと、その宝玄仙の手首にがちゃりとかけた。

 

「こ、これは道術封じの手錠──? な、なんで、これが外れているんだい──?」

 

 宝玄仙が大きな声をあげた。

 構わず、玉面は宝玄仙の反対の手首も掴んで、鉄格子のこちら側に引っ張って反対の枷をかけてしまう。

 宝玄仙は鉄格子を通して、両手に道術封じの手錠をかけられてしまったということだ。

 玉面は鉄格子から離れられなくなった宝玄仙の腰から鍵束を奪った。

 

「素蛾、動くな──。逃げると、この宝玄仙の眼の玉に針金を突き刺すぞ──」

 

「ひいいっ」

 

 宝玄仙が悲鳴をあげた。

 玉面の手には小さな針金が隠されていたのだ。

 鉄格子の向こうの宝玄仙の前髪を掴んで引き寄せ、針金の先を宝玄仙の眼の近くに突き出した。

 

「に、逃げません──。ご、ご主人様を傷つけないで──」

 

 素蛾が叫んだ。

 玉面はにやりと笑った。

 

「腹這いになれ──」

 

 玉面は言った。

 素蛾は素直に床に腹這いになって手足を伸ばした。

 玉面はそれを確認すると、宝玄仙の髪を離して、まずは鍵束で鉄格子を開けて牢の外に出た。

 次に素蛾を促して牢に入らせ、鍵を閉めてしまう。

 

「お、お前、どうやって……?」

 

 鉄格子に両手を拘束されている宝玄仙が懸命に手錠を揺すりながら言った。

 だが、無駄なことだ。

 さっきまでは、しっかりと装着せずに、ただ玉面の手首に巻いていただけだが、今度はしっかりと錠をかけた。

 道術封じでもあるので、道術も遣えなくなっているはずだ。

 宝玄仙には、もうどうしようもないと思う。

 

「素っ裸にして身体検査までしても無駄だったな。針金は踵の皮膚の下に差し込んで隠してあったのだ……。次からは皮膚の下もしっかりと点検するんだな……。それと腹の中もな……」

 

 玉面は指を喉に入れて、飲み込んで胃に隠していた油紙の包みを身体の外に出した。

 道術封じの鍵を外した方法は別に大したことではない。

 玉面は踵に小さな針金を突き刺して隠しており、それを使って鍵を開けたのだ。

 だから、道術封じの枷などいつでも外すことはできた。

 しかし、いままでは軍に囲まれた檻車だったので、逃亡は自制していただけだ。

 

 どうやら、外に看守もいない要塞の地下のようだ。

 だから、玉面は行動を起こすことにした。

 玉面は後ろから宝玄仙の首を腕で締めると、鉄格子に顔を押しつけさせた。

 

「うぐっ──。な、なにすんだい──? は、離せ──。離すんだよ──、くっ、い、痛い……」

 

 鉄格子にぐいぐい顔を押されている宝玄仙が苦しそうに呻いた。

 

「ぎょ、玉面さん──や、やめてください──」

 

 牢の中の素蛾が悲鳴をあげた。

 

「素蛾、ご主人様を殺したくなければ、お前の唾液をこいつに飲ませるんだ……。たっぷりとな。さもなければ、このまま首の骨をへし折るぞ」

 

 玉面は腕に力を入れながら言った。

 

「うぐっ……。お、お前……な、なに……する……つもり……」

 

「うるせい、宝玄仙──。さんざん、俺のことを虚仮にしやがって──。このまま牛魔王様のところに連れ帰ったんじゃあ、俺の腹の虫が収まらねえんだよ──。逃げる前に、ここで仕返しをさせてもらうぜ──」

 

 玉面は怒鳴りあげた。

 そして、宝玄仙の首に巻いている腕ではない側の手で、後ろから宝玄仙の下袍の下に手を入れて、下着を膝までおろした。

 そのまま、下着に足をかけて足首までおろして抜き去る。

 

「な、なに……してんだい……お前──」

 

 宝玄仙が暴れそうになった。

 だが、首を絞める腕に力を入れてやると、宝玄仙は大人しくなった。

 

「こらっ、素蛾、早くしろ──。本当に殺すぞ」

 

「は、はい……。し、失礼します、ご主人様……」

 

 素蛾が鉄格子越しに、宝玄仙と唇を合わせた。

 

「いいというまで飲ませ続けろ……。宝玄仙、たっぷりと飲め……。お前が俺に加えた屈辱を思い知れ」

 

 玉面はさらに腕に力を入れる。

 もう宝玄仙は抵抗しない。

 ただ、呻くだけだ。

 そして、素蛾の口から注がれる唾液を飲み下し続けている。

 

「んん……んああ……んはあっ……」

 

 すると、だんだんと宝玄仙が身体を悶えさせだした。

 素蛾の唾液の媚薬が早くも効果を示しだしたのだ。

 背後から絞めている腕を通して、宝玄仙の身体が熱を帯び始めたのを感じたし、じっとりと汗をかき出したのもわかった。

 

「もういいぞ、素蛾」

 

 玉面は素蛾に宝玄仙に唾液を飲ませる行為をやめさせると、宝玄仙の下袍をまくり上げて股間に指を伸ばした。

 

「はああ──」

 

 宝玄仙がびくりと身体を跳ねあげて、背を反らせた。

 股間はすでにたっぷりと濡れていた。

 

 やはり、怖ろしい媚薬だ……。

 玉面はほくそ笑むと、宝玄仙の両脚を大きく開かせて、前屈みの姿勢にさせた。

 そして、指で股間をいじり始める。

 

「な、なにを……はあ……や……いや……ああっ……はあっ……」

 

 たちまちに宝玄仙の口から荒い息と甘い声が漏れ始める。

 

「これなら、前戯もなにもいらねえな……」

 

 玉面はすでにそそり勃っている一物を尻たぶの下から股間に向かって伸ばす。

 

「うっ」

 

 硬い怒張が火のように熱くなった女陰を貫き始めると、宝玄仙は電撃でも浴びたように大きくうなじをあげた。

 

「ざまあみろ、宝玄仙──。思い知ったか──。どうせ、お前も、牛魔王様の慰み者になって性拷問の日々を送るんだろう──。これは、その前渡しだ──」

 

 玉面は、さらに腰を押し出して、ついに深々と一物を宝玄仙の女陰に突き挿した。

 宝玄仙が苦悩の呻きを出して、身体を悶えさせる。

 

「そんなに嫌がることはないだろうが、宝玄仙──。男を苛めるのはなかなかのものだったが、男に犯されるのは嫌いなのか?」

 

 玉面は笑った。

 こうなれば、もうこっちのものだ。

 玉面は余裕たっぷりに反復運動を繰り返した。

 

「嗜虐する者と被虐する者の立場が逆転する──。世にこれほどの愉しいものはないな、宝玄仙……。牛魔王様のところにお前を連れて行けば、俺も出世するだけでなく、褒美を与えられるだろう……。俺はお前の調教係に加えてもらうことを願うことにするよ……。牛魔王様は、自分に逆らった者はすぐには殺さない。たっぷりと嗜虐して後悔させてから殺すのだ……」

 

 玉面は宝玄仙を背後から責めながら言った。

 宝玄仙は鉄格子に拘束された身体を揺すりながら、黒髪を左右に振って歯噛みしている。

 しかし、その一方で、素蛾の媚薬と玉面の責めに、早くも身体を蕩けそうになったのか、大きな悦楽の反応も示しだした。

 玉面は宝玄仙の感じる場所を探して怒張を突き挿すとともに、速度をあげたり、緩めたりして宝玄仙を揺さぶり抜く。

 宝玄仙がついに陥落の気配を示してきた。

 女っぽく身体をくねらせるとともに、女の悦びを甘い悶えで表しだす。

 

「ああ、ああああ──」

 

 ついに、宝玄仙が悦びの声を張りあげた。

 

「遠慮はいらんぞ、宝玄仙──。たっぷりと女の快感に浸るがいい──」

 

 玉面は嘲笑いながら、一層激しく宝玄仙を責めたてた。

 もう宝玄仙はすっかりと頭から足の先まで快感で痺れきっている感じだ。

 こんなにも、呆気なく快感に襲われるのは、素蛾の唾液によるものが大きいだろう。

 玉面は、宝玄仙だけでなく、この不思議な童女も連れ帰りたいという誘惑にかられた。

 だが、胃の中に隠していた道術紙の霊気では、玉面のほかにもうひとりを連れ帰るのが限界だ。玉面は諦めた。

 

「うはああっ──」

 

 宝玄仙が大きく呻いて、玉面を深く受け入れている腰を激しく痙攣させた。

 達したようだ。

 玉面は、復讐を果たした大きな満足感とともに、宝玄仙の膣に精を放出させた。

 精の放出を感じた宝玄仙が今度は屈辱に震えだした。

 

「さあ、そろそろ逃げねばな──。では、宝玄仙、出発するぞ」

 

 精を完全に放ち終わった玉面は、宝玄仙の腰から怒張を抜いた。

 そして、部屋を見渡して、古ぼけた毛布があるのを見つけ裸体に巻きつける。

 次いで、油紙に包んだ道術紙を開いた。

 

 この道術紙は、到着地を巴山宮とする『移動術』を刻んでいる。

 鍵は外してあったものの、道術封じをずっと手首に乗せていたし、霊気が拡散されてしまう牢に入れられていたので、まだ玉面の身体には霊気が復活していない。

 しかし、この道術紙さえあれば、とりあえず、巴山宮には逃げられる。

 そこで、牛魔王と連絡をして宝玄仙を捕えたことを報せるつもりだ。

 牛魔王は狂喜するに違いない。

 すぐに、宝玄仙の身柄は、牛魔王のもとに送ることになるだろう。

 

 それからは、当初の予定通りに、巴山虎と金角軍の残党を共倒れにさせるという、そもそもの任務に戻ることになるはずだ。

 予定と異なるのは、共倒れの対象に南山軍が加わることになるだけだ。

 鉄扇と相談しながら、銀角を総大将とする迎撃軍と南山軍にぶつけることで、両者を激しく戦わせる算段をしようと思う。

 そして、旧金角域の部族たちに加えて、南山軍も疲弊したところで、牛魔王軍団が乗り込む。

 おそらく、熟れた果実が樹木から落ちるように、旧金角域も南山域についても、牛魔王軍団のものになる。

 玉面は床に落としていた針金を取った。

 

「はあ、はあ、はあ……ちょ、ちょっと待ちな……。お、お前、もしかしたら、……わ、わたしを……どこかに……連れていこうと……し、しているのかい?」

 

 まだ素蛾の唾液による媚薬の影響が消えないのだろう。

 宝玄仙は充血した顔で苦しそうに息をしながら言った。

 

「当たり前だろう。お前のことは、牛魔王様が必死になって探しておられるのだ」

 

「ま、待ちな──。はあ、はあ……ど、どこに……連れていく……つもり……なんだい……?」

 

 この糞生意気な人間族の魔女がやっと焦った声を出した。

 玉面はこの女に対する溜飲が一気にさがる気がした。

 鍵穴に針金を差し込んで器用に宝玄仙の片手から枷を外すと、鉄格子から宝玄仙を離して、すぐに手錠を装着し直す。

 

「し、質問に答えないか──。ど、どこに……連れて行こうと……しているのかと……た。訊ねて……いるだろう──」

 

 道術封じの手錠を装着されたまま引っ張られる宝玄仙が懸命の声で怒鳴った。

 

「まずは、巴山宮だな──」

 

 玉面はそれだけを言った。

 宝玄仙の脚はふらついており、ちょっと引っ張っただけで、ほとんど抵抗なく玉面についてきた。

 道術紙を床に落として、宝玄仙を拘束している手錠を掴んだまま踏みつける。

 その瞬間、身体が跳躍する感覚が玉面を襲った。

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