“三個の身体で支配する者が、魔の地でふたつの宝を手に入れる。
それまでの支配者は倒され、
ふたつの宝をまとめた者が新たな魔の地の王となるであろう。”
(金鳳妃・
*
あくび混じりの声で
「
毎朝の日課である定例報告のときだった。
朝といっても、宮殿の外の陽は中天に差し掛かり始めている。
だが、日中のほとんどを後宮において、大勢の美女たちとすごす雷音大王には、陽の動きなど関係ない。
また、雷音大王に仕える文官、武官が集まる朝儀にも大王は出席せず、女宰相の美小淋がすべてを受けて主要なものをまとめて報告する。
そういうことになっているので、どうしても、この時間になってしまうのだ。
報告の場所は後宮だ。
そういうやり方にしたのは、美小淋が雷音大王に仕える女宰相になってからだ。
女好きで政事に興味のない雷音は、政務を任せてずっと後宮にいてもいいという話に喜んで応諾した。
それ以来、雷音大王が正殿に現れることは滅多になくなり、誰がどんな内容の要件があっても、美小淋を通じてしか雷音大王に話をすることができなくなった。
なにしろ、男である者は雷音大王の後宮には入ることはできない。
主要な部下の中で唯一の女である美小淋だけが、後宮からほとんど出てこない雷音大王に面会できるのだ。
自然と美小淋の権力は巨大なものになる。
いまや、この雷音院における美小淋の権力は、本当の主人である雷音大王にでさえも凌ぐとも思っている。
美小淋は、この地位を雷音大王と直々に話をできるという立場を独占することで手に入れたのだ。
もっとも、例外はある。
人間族として初めて雷音大王の近習の部下となった
御影は、自ら「魂の欠片」と、さらに大きな力をもつ魂の欠片を道術石として提供することにより、雷音大王のお気に入りの部下という立場を手に入れた。
そして、あるとき、女人国という人間族の国から大勢の美女奴隷を後宮に納めることで、唯一の例外として後宮への出入りを認められているのだ。
つまり、雷音大王に日常的に会うことができる美小淋以外の人物が御影ということということだ。
御影が「小宰相」と呼ばれ始めたのも、それが理由だ。
まあ、美小淋としても、別段、御影と雷音大王との権力を争うつもりはない。
あの男とはしっかりと共存している。
表向きにも、裏でもだ。
ふたりの思惑が離れたものになることはないのだ。
「どのような噂でありましょう? わたしは、その金凰をいう女のことを知っているべきなのでございますか?」
美小淋はとぼけた。
「いや、そういうことではない。昨夜、抱いた側女がそのようなことを口にしたのだ。予言をする女ということらしい。だが、その女はもう生きてはいないのだそうだ」
「大魔王様、お怖れながら予言という道術はございません。古今東西のあらゆる道術学でも、未来のことを霊気で解読できるということは、証明されていないのです」
「だが、現に予言が存在するのも確かだ……。それに、その金凰という名の女の予言は絶対に当たるのだそうだ。余も興味深い内容だった。余は耳にしてよかったと思っている」
「いいえ。その側女は、そのようなことを陛下に申しあげるべきではありませんでした。もしも、魔王様が、そのような不確かなことで、何度も心を煩わせるようなことがあれば……。ましてや、すでに死んでしまった女の言葉など、本当であるかどうか確かめようもありません……」
美小淋は殊更、憤慨を装って声をあげた。
だが、その美小淋の言葉を雷音大王が片手をあげて制した。
「いやいや、そのような大袈裟ものではない。ただの寝物語の戯れ事だ。余も別段、信じているわけではない。ただ、面白かったのだ。予言とはいうが、まあ、なぞなぞのようなものだな。言葉遊びだ。言葉はなにかの判じ物のようなものだ。とても表現が曖昧で喩えが多く、どういう意味なのかは、すぐにはわからんのだ」
「わからないのに予言なのですか?」
「いやなに……。ところが事が起きてしまうと、ああ、あの予言は、このことを暗示していたのだなとわかるのだそうだ……。だから、なんとなく面白い謎解きとして興味が湧いた。予言として興味があったわけではない」
「差支えなければ、どのような内容であったか教えていただくことはできますか、陛下?」
「ああ、構わんぞ。長い言葉ではないし、多分、全部覚えておる。こうだ。
“三個の身体で支配する者が、魔の地でふたつの宝を手に入れる。
それまでの支配者は倒され、
ふたつの宝をまとめた者が新たな魔の地の王となるであろう”
……どうだ、愉快であろう?」
雷音大王は笑った。
「冗談ではありません。新たな魔の地の王など陛下に対する不敬です。そのような戯言を陛下の耳に入れた馬鹿者は、すぐに処断しなければなりません」
美小淋ははっきりと言った。
だが、雷音大王は大きな声で笑った。
「わからんか、美小淋。この予言は余のことだぞ。不敬などとんでもない。三個の身体というのは余のことだ。余は並外れて身体が大きく、それは普通の亜人の三倍の広さがある。即ち、三個の身体を持つ者だ。そして、手に入れたふたつの宝とは、ひとつはお前だ、美小淋。お前は余の治政を一手に引きつけて支えてくれている。余はお前ほどの能力の高い者など知らん。お前がいてくれるおかげで、余はこうやって後宮で好きなように暮らすことができる」
「これはおそれいります……」
「もうひとつの宝というのは牛魔王だ。余に代わって、余の敵と戦ってくれている。このふたつの宝を手に入れることで、余は魔の地の覇王となったのだ。まさに予言の通りではないか……」
雷音大王は笑った。
「なるほど、そのように考えれば、まさに雷音大王様が覇王となるのを予言したとも言えますね」
美小淋は頭をさげた。
だが、美小淋は、つまらないことを雷音の耳に入れた側女を特定して、すぐに処断をしようと決めていた。
そのような予言など、どこで耳にしたのかわからないが、この雷音という男はできる限り外の世界から遠ざけて、いつでまでも無能な大魔王であってもらわねばならぬのだから……。