「相変わらずねえ、みんな……」
素蛾をはじめとして全員の視線が不意にやってきた女に移動した。
やってきたのは若い女であり、検分でもするように扉のところに立って部屋の中を見回している。
素蛾の知らない女性だ。
その女は、とても可愛らしい顔立ちをしていたが、不思議な迫力のようなものを素蛾は感じた。
すぐに、扉の外から
「待ちなさいと言ったでしょう、あなた……。うわっ──」
黄獅姫が荒い息をしながら扉の外から飛び込んできて、やってきた女の腕を掴んだ。だが、室内の光景をひと目見て、身体を強張らせた。
なにしろ、室内では素蛾たち六人の女が完全な素っ裸だ。
さらに、朱姫が沙那の口の中に放尿しようとして、沙那の顔の上に跨っているところだったのだ。
黄獅姫のほかにも、警備の兵が追いかけてきているようだったが、黄獅姫は慌てて、彼らに廊下で待機するように叫んだ。
朱姫と沙那は思い出したように身体を離す。
一方で突然にやって来た闖入者は、にやにやと微笑んでいた。
黄獅姫に腕を掴まれても、怯む様子もない。
「申し訳ありません、宝玄仙様──。止めたんですけど、無理矢理に振り切られてしまって……」
黄獅姫が申し訳なさそうに宝玄仙に言った。
「仕方ないよ……。お前らが束になっても、こいつには敵いはしないさ。わたしの結界でさえも、簡単に破られたくらいだしね……」
宝玄仙が肩を竦めた。
そして、闖入者の女に顔を向ける。
「お前、お蘭だね。また、姿を変えたのかい?」
宝玄仙が呆れたという口調で言った。
「お蘭──?」
「お蘭ですって?」
沙那と孫空女が大声を放った。
素蛾はふたりの顔が完全に強張ったようになったのがわかった。
「ご、ご主人様、この人は誰ですか──? ご主人様と同じくらい霊気が強いですよ──」
朱姫が声をあげた。朱姫も素蛾と同様に、お蘭という闖入者に面識はないようだ。
しかし、その朱姫は、お蘭を警戒するように、さりげなく沙那の背中側に移動して、お蘭から身体を隠すように動いている。
「宝玄仙様、本当に、こいつは何者だい──? 確かに、凄まじい霊気だよ──?」
銀角だ。
その銀角は裸のまま立ちあがって、手元に置いていた剣を鞘ごと掴んでいる。
「あんたは銀角ね……。その剣でわたしになにかしようというの? 相手を見て凄んだ方がいいわね。さもないと命がいくらあっても足りないわよ」
するとお蘭が銀角を嘲笑するような声を出した。
「な、なんだと、女──? お前、誰だい──?」
銀角だ。
険しい顔をして、闖入者のお蘭を睨んでいる。
「随分とお愉しみだったようね、みんな……。それにしても、あんたひとりだけ、股間に陰毛を残しているのね、銀角……。お宝姉さんの性奴隷にしては厚かましいんじゃないの? 主人のお宝姉さんでさえ童女のように剃っているのに、性奴隷のお前が陰毛を残しているなんて許されないんじゃなくて? わたしが剃ってあげましょうか?」
お蘭が手を振った。
「うわっ──」
銀角が叫んだ。
いきなり銀角の両手が剣を握った右手ごと背中に回り、寝具の上に尻もちをついたのだ。
それだけじゃなくて、膝を曲げた両脚がすっと左右に開いていく。
銀角が真っ赤な顔でもがいているが、お宝の道術に掴まえられて動けないようだ。
「ほらほら、抵抗してご覧なさい……。さもないと、本当に剃るわよ。道具なんてなくても、こんなこともできるのよ……」
お蘭が笑いながら銀角の前にしゃがみ込んだ。
そっと銀角の股間に手を伸ばす。
すると、お蘭の指が当たった場所の銀角の銀色の陰毛が、まるで剃刀でも当てたようにぱらぱらと落ちだした。
素蛾は驚いてしまった。
道術遣いではない素蛾だが、銀角という女将軍が雌妖として相当の霊気の持ち主だということは知っている。
それがまるで子ども扱いなのだ。
「半分だけ剃ってあげましょうか、銀角? 出会いの記念にね」
お蘭が笑いながら銀角の股間で指を動かし続ける。
それにより、どんどんと銀角の股間から陰毛が落ちていく。
本当に左半分だけ、なにもなくなりかける。
それにしても、銀角はともかく、沙那と孫空女の反応もおかしい。
こんな無法をするような闖入者なら、いつもならすぐに反応するのに、ふたりとも怯えたようにお宝から距離をとって近づこうとしない。
「いい加減にしな、お蘭? お前、こんな魔域くんだりに、なにをしに来たんだい──? いきなりやってきて随分とご挨拶じゃないかい?」
宝玄仙が怒鳴った。
お蘭が銀角の股間から指を離した。
その瞬間、銀角を縛っていた見えない拘束のようなものが消えたのか、銀角がその場に後ろ向きに倒れた。
しかし、すぐに起きあがって、お蘭から離れて身体を手で隠すような仕草をした。
宝玄仙がまだ扉のところで呆然としていた黄獅姫に視線を向けた。
「黄獅姫、こいつは大丈夫だよ。わたしの妹だ。東方帝国にいたはずで、こんなところに、なにをしにきたのかわからないけどね──。とにかく、後ろの警備兵にも問題はないと伝えな。そして、お前は部屋に入っておいで」
「あっ、妹様? そ、そうなのですか? 西方帝国からの増援部隊の陣営から連れられてやってこられたのです……。宝玄仙様に会いたいという申し出だったのですが、なにがあろうとも今夜は、誰も部屋に入れるなという宝玄仙様のご命令だったので、お断りしたのですが……」
「だけど、こいつが無理矢理に入ってきたんだろう……? まあ、仕方ないさ。なにしろ、お蘭は単純な道術力なら、わたしさえ上回るかもしれないからね」
宝玄仙が苦笑しながら言った。
これにも素蛾はびっくりした。
宝玄仙を上回る道術遣いなど、素蛾は想像もしたことはない。
素蛾の知る限り、宝玄仙の霊気はなんだかんだいっても桁外れだ。
しかし、それでさっきから、朱姫がお蘭を異常なほどに警戒した様子なのかがわかった。
霊気を感じることのできる朱姫は、闖入者のお蘭の霊気の強さがすぐにわかったのだ。
「と、とにかく、宝玄仙様が問題ないのであれば、お蘭様はお預けいたします。では、わたしは引き続き陣営の警戒を……」
黄獅姫が立ち去ろうとした。
だが、宝玄仙が手で思い切り床を叩いた。
黄獅姫がびくりと直立不動の体勢になった。
「黄獅姫──。お前、なにを聞いているんだい──。外の連中は戻せとは言ったけど、お前には入ってこいと言っただろう──。そういえば、九霊聖女とか銀角にかまけて、お前はしばらく遊んでやってなかったからね。ちょうどいい。朝まで遊んでいきな」
宝玄仙が言った。
「い、いや……で、でも……。に、任務が……」
黄獅姫が困惑したようにもじもじとし始めた。
だが、もう一度、宝玄仙が一喝すると諦めたように外の者になにかを告げて、部屋の中に入ってきて扉を閉めた。
「この黄金色の髪の雌妖は、黄獅姫というの、お宝姉さん? この娘は完全に“受け”ね。その銀角は、性格は強そうだけど、やっぱり“受け”の素質があるわ。本格的な調教をすれば、躾の行き届いた雌犬になると思うわね……」
「ふっ……。さすがはお蘭だね。ちょっと見ただけで、それだけ、わかるのかい? まあ、確かにその通りさ。この黄獅姫は、本当は
黄獅姫は宝玄仙の前に立つように強要されて、宝玄仙から下袴と下着を脱がされている。
顔を真っ赤にして嫌がっている様子だが抵抗はしない。
そして、下半身だけ完全に裸にされた黄獅姫の股間に、宝玄仙がさっと手を伸ばした。
「ひいいっ」
黄獅姫がその場で股間を抱えてうずくまった。
「あら、なにをやったの、お宝姉さん?」
お蘭が笑いながら訊ねた。
「『影手』という道術だよ。身体に手の影が張りついて股間をまさぐっているのさ。影だから、いくら取り払おうとしてもできないというわけだよ、お蘭」
「あら、愉しい道術なのね。じゃあ、わたしも、この銀角で遊んでいいかしら?」
お蘭が銀角にすっと視線を向けた。
「な、なに?」
不意にお蘭に見竦められた銀角が顔をひきつらせている。
「『分身』という道術よ、銀角……。自分の右手に責められなさい。両脚も自由にさせてもらうわ」
お蘭が言った。
「い、いやああ──」
銀角が叫んだ。
次の瞬間、銀角の脚が再び大きく開いて、右手で自分の身体をまさぐり始めたのだ。
銀角は慌てたように、左手でそれを阻止しようとしている。
しかし、右手の方が力が強いのか、右手が愛撫しようとする股間を守りきれないようだ。
いきなり始まった銀角自身の右手と左手の戦いに、素蛾は唖然とした。
それにしても、お蘭の闖入により、この部屋は宝玄仙とお蘭の独壇場だ。
ほかの者は戦々恐々として、ふたりの淫行の嵐に恐れおののいているという感じだ。
また、宝玄仙とお蘭の道術で責められている黄獅姫と銀角は、身体を真っ赤に充血させて、早くも身体を震わせて始めた。
「そ、そんなことよりも、どうして、お蘭がここにやってきたのか説明してよ」
しかし、ついに沙那が焦れたように声をあげた。
それでやっと宝玄仙も我に返ったような表情になった。
「そ、そうだよ──。そうだったよ──。遊ぶのは後だ。それよりも説明しな──。お前、なんでここにいるんだい、お蘭?」
宝玄仙も叫んだ。
「そうだったわね……。でも、半分はお宝姉さんの責任よ。わたしは無理矢理に派遣されてきたんだから……」
お蘭は言った。
「派遣?」
疑問の声をあげたのは沙那だ。
「そうよ、沙那殿。あんたたち、少し前に
お蘭は言った。
「あいつ、まだ諦めてなかったのかい……」
宝玄仙が苦虫を潰したような顔になった。
「ああ、ああ、はあ……」
「いや……くっ……うう……」
そのとき、黄獅姫と銀角がほぼ同時に不意に甲高い声をあげた。
ふたりとも、宝玄仙とお蘭のそれぞれに淫靡な道術を仕掛けられて、そのままなのだ。
「ふたりとも、いったん道術を解いてください──。怒りますよ──」
沙那が叫んだ。
宝玄仙とお蘭が顔を見合わせるようにしてから、同時に肩を竦めた。
すると、黄獅姫と銀角が脱力した。
道術を解かれたのだろう。
「沙那殿の怖さも相変わらずねえ……。あなたから受けた調教は、いまでも夢でうなされることがあるわよ、沙那殿……」
「話を混ぜこぜにしないで、お蘭──。まるで、ご主人様がふたりもいるみたいだわ──。それであなたは、藍蔡仙に言われて、ご主人様を強引に連れ戻しに来たの?」
沙那が言った。
「いや、そのつもりはないのよ、沙那殿。それは安心して……。それに、お宝姉さんがわたしの言うことに従うわけもないしね……。藍蔡仙がわたしに命じたのも、無理矢理にお宝姉さんを連れ戻せという指示じゃなかったわ……。なんか、天教も改革をしているそうね……。それを知らしめて欲しいということだったわ。『映録球』も預かっているわ。それを再生すれば、藍蔡仙の映像が登場して、必要なことを喋ると思うわ」
『映録球』というのは、なにかの光景を水晶玉の霊具に記録し、それを好きなときに、好きな場所で立体映像で再生できる霊具だ。
それに、その藍蔡仙とかいう道術遣いの言葉と映像が記録されているのだろう。
「じゃあ、お蘭はわざわざ、その『映録球』を運ぶために、こんなところにやってきたのかい?」
孫空女だ。
「表向きはね、孫殿──。だけど、実際は違うわ。わたしはお宝姉さんに、どうしても伝えなければならない話があるの。それでやってきたのよ……。藍蔡仙の話は渡りに船だったわ。わたしだけでは、こんなところにどうやっても来られないもの。第一、あなたたちが、どこにいるかも知らないし……。だけと、あの『移動術』の得意な鎮元仙士がいればこそ、ここまでやって来られたのよ」
「伝えなければならないこと?」
宝玄仙が眉をひそめた。
「少し変な男だけど便利な男ね。それから、さらに言えば、藍蔡仙はあなたの動きをずっと把握しているようよ。西方帝国の宮廷を訪ねれば、お宝姉さんに接触できると藍蔡仙に言われてやって来たんだけど、その通りだったわ」
「天教のことも、藍蔡仙のこともいいよ……。あいつらは放っておきな……。ところで、お前の話というのはなんだい、お蘭?」
宝玄仙が言った。
すると、いきなりお蘭ががばりと宝玄仙に向かってひれ伏した。
素蛾は驚いた。
「ごめんなさい、お宝姉さん──。お宝姉さんから預かっていた残りふたつの『魂の欠片』は数年前に盗まれたの──。本当にごめんなさい」
お蘭がひれ伏したまま言った。
「残りふたつって……。ああ、そういえば、あのとき、あたしと沙那の『魂の欠片』だとか言って、残りふたつは保管しておくと言ってどこかに片付けてたよね。あれのことかい、お蘭?」
孫空女が横から口を挟んだ。
「そうよ、孫殿……。でも、お宝姉さんは、もう気がついていると思うけど、あれは方便よ。お宝姉さんを混乱させたくなかったから……。あれは両方とも、お宝姉さんの『魂の欠片』よ……。『魂の欠片』は道術遣いや妖魔……つまり亜人だけからしか作れないの。ただの人間のあなたたちからは作れないわ……。あのとき、わたしも驚いてしまって……。とりあえず、混乱させない方がいいだろうと思って、ああ言ったの……。あれっ? そういえば、沙那殿の胸に入れた『魂の欠片』はどうしたの? いまはないようね」
お蘭が沙那を改めて見て声をあげた。
「いろいろあってね……。あれは処分したんだ……。それよりも、お蘭、続きを話しな──。お前が保管していた『魂の欠片』はやっぱり、わたしの『魂の欠片』だったのかい? そして、それが盗まれたというのはどういうことだい?」
宝玄仙が言った。
「うん……。それを話すわ……。わたしがここにやってきたのはそれが目的だし……。だけど、その前にひとつだけ確かめたいことがあるわ……」
そのとき、お蘭がいきなり、素蛾に視線を向けた。
そして、その顔があまりにも険しいものだったので、素蛾はびっくりしてしまった。
「お前はお宝姉さんの四人目の供ね──。だけど、わたしの予言では、お宝姉さんを助ける供は三人だけよ……。四人目の供は裏切者……。“裏切らぬと信じる者が、古き仇にお宝姉さんを売り渡す……”。それがお前よ──。それがわたしの予言なのよ──。お前は裏切者──。お前は何者なの──? さあ、答えなさい」
お蘭が素蛾を指さして怒鳴った。
「わ、わたくしがご主人様を裏切るのですか──?」
素蛾は驚愕した。