「だから、謝ってるじゃない、お宝姉さん──」
「それが謝る態度かい──。そもそも、 そもそも、最初に御影がお前と関係したときに、お前がつまらないことをべらべらと話すから、わたしは、あいつに脅迫されて、とんでもない目に遭ったんだよ──」
「それはお宝姉さんのせいでしょう。しかも、あいつが悪党なことはわかっていて、ちょっと味見のつもりで手を出したんでしょう? ちゃんと聞いたわよ」
「それがどうした──」
お蘭と宝玄仙が怒鳴り合いを始めた。
一方で、沙那もびっくりした。
当時は、御影という宝玄仙の仇敵がお蘭の里の訪問の少し前に道中で宝玄仙を襲撃をし、沙那たちが返り討ちにしたばかりだった。
宝玄仙もお蘭にその話はしたから、お蘭は、御影が宝玄仙を殺そうとしている敵であることを知っていたはずだ。
つまり、それを承知で身体を許したということになる。
だが、すぐに、この宝玄仙の妹なのだから、それくらいはやりかねないと思い直した。宝玄仙にしろ、お蘭にしろ、およそ、沙那の常識というのは通用しないのはすっかりと認識している。
「ねえ、ご主人様と御影って、ずっと昔からの仲なのかい?」
すると、孫空女が口を挟んだ。
「どっちも、ずっと若いときの話だ、孫空女──。わたしはまだ天教の仙士で、東帝国の帝都にある教団の本部で働いていた。その当時、この馬鹿垂れは、作ったばかりのあの里で御影と関係して、わたしらの母親のことを喋ったんだ。そのおかげで、わたしはあいつに脅されて、しばらくあの女男の調教を受けなければならなかったんだよ」
宝玄仙が吐き捨てた。
「だけど、その仕返しに、御影を罠に嵌めて処刑させたんでしょう? だから、その話はもういいじゃないの」
「冗談じゃないよ──。そのときに死んでいれば、あいつはもうわたしには関わりなかったんだ。お前が最初に遭ったときに、あいつの『魂の欠片』なんか作ってやるから、あいつが復活したんだろうが──。それで、旅を始めた頃のわたしを襲ったんだ。沙那と孫空女が殺してくれなければ、わたしは再びあいつの飼い犬になっていたところだったんだよ」
「飼い犬でもいいじゃない……。あの御影は確かに、性の技に長けているわ……。あんなに快感を引き出してくれる男はいないわよ、お宝姉さん……」
「黙りな──。あんなの男じゃないよ。女男だよ──。あいつが女みたいな喋り方で話すたびに、身体に虫唾が走るんだよ。お前、よく我慢できるねえ──?」
「あの御影は、お宝姉さんに捨てられたばかりのわたしの身体を本当に満たしてくれたわ。お宝姉さんを狙うことさえしなければ、わたしはずっとあいつの調教を受け続けてもよかったんだけどね……」
お蘭が笑った。
沙那は横で聞いていて嘆息した。
お蘭と御影がどんな関係だったのかはわからないが、宝玄仙と御影が確執があるように、お蘭と御影もまた、それなりの関係があったようだ。
「馬鹿じゃないかい──。あんな女男」
宝玄仙がまた言った。
「仕方ないじゃないの……。あいつは自分のすごい能力のために、女でもあり、男でもあるのよ。だから、あんな風に男と女の中間みたいな存在になるのよ」
お蘭が言った。
「能力──? あいつの能力といえば、あの『影法師』の術だろうが──。あんな術のどこが凄いんだよ。糞のような術さ……。まあ、ひとりの人間が三人もの人間として活動できるというのは、ほかの者には真似のできない道術だということは認めるがね」
「お宝姉さんは、御影の『影法師』の術の本質的なところはわかっていないのね……。御影との関係が長いわりには……」
お蘭が苦笑した。
「なんだい、本質的なことって……? そもそも、お前は御影との関係は長いのかい──?」
「最初に調教を受けたのは一年間くらいよ……。姉さんがわたしを捨てて、しばらくの頃ね……」
「あの男は正真正銘の悪党だよ。一年間も付き合っていて、それも見抜けないのかい?」
「悪党でもなんでも、わたしにはああいう支配してくれる存在が必要だったのよ。お宝姉さんが、わたしをお母さんから引き離して戻れないようにしながら、さらにわたしを捨てたりするから……」
「だからといって、あの御影でなくてもいいだろう──。いくらなんでも男を選びな。誰かに支配されたいという、お前の性癖は仕方がない。だが、それなりの性格の者を選ぶんだよ」
宝玄仙が怒鳴った。
すると、お蘭が大きな声で笑い出した。
「わたしがいままでに支配をされたことがある人間の中では、御影が一番、性格がましな方よ。なにせ、最初のご主人様は、お母さん……。次がお宝姉さん、そして、御影だもの」
お蘭がさらに笑い声をあげた。宝玄仙はむっとしている。
「とにかく、御影は悪くなかったわ。お宝姉さんの奴隷だった頃の次くらいに充実していた日々だったわね……。さっきも言ったけど、あいつがお宝姉さんを狙おうとしなければ、わたしは、ずっと御影に飼われてやってもよかったと思っていたわ」
「だ、だから、わたしを殺そうとしたことを知っていながら、復活してのこのことやってきたあの女男に身体を許したのかい──。この淫売──」
宝玄仙が激昂して叫んだ。
「ほ、本当にお宝は、わたしたちの母親に似てきたわねえ……。そんな風に、自分のことすっかり棚にあげて怒る姿なんてそっくり──」
お蘭がからかうような口調で言った。
「お宝と呼ぶんじゃないよ──」
それで宝玄仙はますます顔に怒気を溢れさせた。
そろそろ、沙那もうんざりしてきた。
沙那は宝玄仙を遮るようにお蘭の前に出た。
「ねえ、お蘭──。訊ねたいことはいくつかあるわ──。まずは、最後に復活した御影がやってきたとき……つまり、ご主人様の魂の欠片を盗まれたのはいつなの?」
沙那は口を挟んだ。
「……あんたたちが去ってから、半年くらい経ってからかしら……。だから、四年近くも前になるのね……。本当にあなたたちって、長い旅をしてるわねえ……。ねえ、愉しかった? それとも、大変だった? 一番苦労したのはなに?」
沙那は咳払いして、お蘭の質問は完全に無視した。
「そのときは御影は復活したばかりだったのね、お蘭? そもそも御影はどうやって復活したの……? つまり、お蘭がそれ以前に与えた魂の欠片を復活させたのは誰? それを御影は話したかしら?」
「別に御影は隠していなかったわね……。御影は雷音大王というこの西域の魔王の世話になっていると話していたわ。その魔王に自分の魂の欠片を預けていたのね……。その代わりに御影は魔王の部下として力を尽くす──。そういう関係だったらしいわ……」
お蘭は言った。
「ちょ、ちょっと待ってください。四年近く前といえば、雷音大王が牛魔王とともに、この魔域の覇者になった頃だと思います」
ずっと黙って話を聞いていた黄獅姫が口を挟んだ。
「そうだね……。確かにそれくらいの時期だね……」
銀角も言った。
「そりゃあ、そうよ……。だって、それは御影の力だもの……。御影がわたしから盗んだお宝姉さんの魂の欠片……。その力のおかげで、雷音大王と牛魔王は霊気を向上させて、魔域の覇王となるような力を振るうことができるようになったのよ──。だから、当然、時期は一致するわ」
「わたしの魂の欠片のおかげだって──?」
宝玄仙が声をあげた。
「ま、待って……。それはどういうことなの、お蘭?」
沙那も驚いて、声をあげた。
「どういうことって……。魂の欠片が道術石ともいい、道術遣いを復活させるだけじゃなくて、石を体内に取り込むことで、取り込んだ者の道術力を飛躍的に増大させる効果があることは知っているわね? 沙那殿にやったのと同じような方法よ。沙那殿は霊気を帯びていない人間だったから、ただ霊具が使えるようになるだけだったけど、もともと霊気を持つ存在が同じことをやれば、その魂の欠片の本体だった者の持っていた霊気分向上するのよ。それは知っている?」
「ええ……」
沙那は頷いた。
だから、獅駝の金凰大王や青獅子大王が宝玄仙を捕らえて、道術石を作り出す家畜にしようとしたりしたのだ。
「御影はわたしの屋敷から盗んでいったお宝姉さんの魂の欠片……、即ち、お宝姉さんの道術石を雷音大王に提供したの……。御影はそうやって、雷音大王に定期的に道術石を届けることで、雷音大王に取り入っていたのよ……。最初は自分の魂で作った道術石……。それからは北王国で道術石狩りをしたり……。それを代償に、御影は雷音大王の近習の地位を確保したの……。だけど、さすがはお宝姉さんの道術石ね……。雷音大王がお宝姉さんの欠片を取り込んだときに、驚くべきことが起きたのよ……」
「驚くべきこと……?」
沙那は言った。
「雷音大王の霊気が信じられないくらいに上昇したのよ……。雷音大王は、御影から提供されたもうひとつの道術石を、自分がもっとも信頼する部下である牛魔王にも与えたわ。そして、牛魔王もまた、大きな力を得た……。その新たな力で、ふたりは自分たちに逆らう者を次々に滅ぼして、魔域の覇王と呼ばれる立場になったのよ。まあ、戦ったのはもっぱら牛魔王だけだけどね……。雷音大王自体は、戦いは好きじゃないのよ」
「じゃあ、その雷音とかいうやつがのさばるようになり、牛魔王がやりたい放題のことをして、金角や銀角を酷い目に遭わせたのも、わたしの道術石が発端ということかい──? つまりは、お前が原因かい──?」
宝玄仙は呆気にとられている。
「まあ、そういうことになるわね……。だから、こんなに謝ってるじゃないのよ」
お蘭は肩を竦めた。
「そ、それが謝る態度かい、お蘭──」
宝玄仙が金切り声をあげた。
沙那は黄獅姫と銀角を視線をやった。
ふたりとも、雷音大王や牛魔王の力の源が、宝玄仙の魂の欠片だという話に目を丸くしている。
「い、いや……、だったら、ちょっと待ちな──。そうであれば、もしかして、そいつらの身体に入っている魂の欠片を処分してしまえば、あいつらの力はずっと弱まるということかい──?」
宝玄仙は言った。
「そういうことになるわね……。というよりも、それはお宝姉さんにしかできないわね……。自分の魂の欠片なんだから、お宝姉さんにはそれを取りあげることも、毀すことも自在にできるはずよ……。わたしを含めて、他人の術者では道術石として誰かの体内にある欠片に触れるのは難しいわ……。だけど、お宝姉さんにはできるのよ……。だって、あれはもともと、お宝姉さんの魂なのよ」
お蘭は言った。
「……それなら、さらに勝機が見えてきましたね……。つまり、なにも牛魔王を殺すことに拘らなくてもいいのです。ご主人様が牛魔王を捕捉できる機会を作ればいいということです。戦いの中で、牛魔王をご主人様の道術の届く範囲に連れてくる……。それだけでいいんです。それで牛魔王の力を封じることができます」
沙那はきっぱりと言った。
つまりは、そういうことになる。
「牛魔王の力がなくなれば、牛魔王軍団は終わりだ──。あいつの傀儡兵など消滅する──。金角姉さんを助けられる──」
銀角が大声をあげた。
「……まあ、及ばずながら戦いにはわたしも協力するわ……。わたしにも責任がまったくないというわけでもないしね……」
お蘭は肩を竦めた。
「な、なにが責任がまったくないわけじゃないだい──。なにからなにまで、お前のせいじゃないかい、お蘭──」
宝玄仙が叫んだ。
しかし、お蘭は笑い返すばかりだ。
それで、ますます宝玄仙は熱くなったようになる。
沙那は慌てた。
そろそろ、宝玄仙は爆発する……。
その前に、知りたいことをすべて質問しなければ……。
「ま、待ってください、ご主人様──」
沙那はいまにもお蘭に飛びかかりそうな宝玄仙を制した。
「……それで、お蘭、さっき言いかけた御影の能力というのはなんなの? ご主人様の知らない力が御影にあると仄めかさなかった?」
沙那は訊ねた。
この魔域における敵は牛魔王やその親玉である雷音大王ばかりではない。
これまでの旅で、時折、ちらついていた御影もまた、倒さなければならない敵だ。
御影のところには、鳴智が捕らわれている。
宝玄仙の偽者もいる。
御影が宝玄仙の身柄を狙い続けているのは間違いない気がする。
「ああ、そのこと……? 御影は『影法師』を操るけど、あいつの本当の恐ろしさは、その影法師の作り方そのものなのよ。あいつがどうやって影法師を作るか知っている?」
お蘭は言った。
沙那は首を振った。横を見ると宝玄仙も肩を竦めている。
「……あいつは自分と性交をした相手そのものの影法師を作るのよ。本物そっくりというよりは、本物そのものを複製するの……。それを影法師として操るのよ。だから、男の影法師を作るときには女にもなるのよ──。男にもなって、女にもなる……。そうやって自分自身の身体を使い分けて性交するのよ。すごいと思わない──? 男になって女を犯す快感を味わい、女になって男に犯される快感を味わえるのよ──」
お蘭が愉し気に言った。
「なにがすごいんだい、馬鹿かい──。もういい──。とにかく、お前にはお仕置きだ。残りの朝までの時間はお前のお仕置きの時間にする。覚悟はいいね、お蘭──」
宝玄仙が立ちあがった。
「えっ? お宝姉さんがわたしをお仕置きしてくれるの──? 本当に?」
しかし、お蘭は眼を輝かせている。
沙那は、相変わらずの変態ぶりに呆れかえってしまった。
この宝玄仙という姉にして、お蘭という妹ありだ……。
「ふん──。わたしのお仕置きなんて、おこがましいよ──。とりあえず、わたしの供の洗礼を浴びな──。朱姫、ちょっと、この性悪魔女を懲らしめてやるんだ。お前に任せる──」
宝玄仙が朱姫を見た。
「あ、あたしですか──?」
突然に話を振られて、朱姫はびっくりしている。
だが、すぐにいつもの嗜虐の笑みを顔に浮かべた。
「……へえ、いいですよ……。じゃあ、相手をしましょう。お蘭さん……。服を着たままでいいですから腕を背中に回してください」
朱姫が言った。
そして、朱姫は部屋の隅にある荷に向かった。
戻ってきたときには、縄の束を手にしている。
あれは『魔縄』だと思う。あれで拘束されれば、縛られた者はどんな方法でも縄抜けはできない。
「怖いわねえ……。どんな方法でわたしを愉しませてくれるのかしら……」
お蘭は腕を背中に回しながら言った。
その様子はこれから始まることに期待している感じであり、宝玄仙ではなく、その供の朱姫に責められるということについても満更でもないようだ。
朱姫はお蘭を後手縛りにすると、その縄尻を天井に投げた。
すると縄の先が天井に密着して、それが縮み始めた。当然、お蘭の身体は上にあがり、ついには足先が床から離れて宙に浮いた。
そして、朱姫はお蘭の足首にも縄を巻いて縛ってしまった。
「……これだけじゃ、まだ自由を奪えませんね。さあ、お蘭さん、道術を一時凍結してください。あたしの『縛心術』を受け入れるんです。それで責めのあいだは、お蘭さんが道術を遣えないようにします」
「まあ、あなたって、『縛心術』が遣えるの? さすがは相の子ね。とても愉快……」
お蘭は笑った。
朱姫はお蘭の額に指をとんと当てた。
それで道術が封じられたのだろうか?
そのとき、沙那はなにかの違和感を覚えた気がした。その理由は自分でもわからなかったが……。
「……さあ、準備はできました──。それじゃあ、乱交の続きをしましょう。お蘭さんはそこで、みんなが愉しむのをじっと見ているんです。それが罰です──」
朱姫がけらけらと笑った。
「え、ええ──。わたしを愉しませてくれるんじゃないの──? ただ、見ているだけ? そんなのないわよ──」
それを聞いて、お蘭がびっくりした声をあげた。
「だって、お蘭さんが悦んだら罰にはならないじゃないですか……。さあ、みんな、再開しましょう──。お蘭さんに見せつけましょうね」
朱姫が言った。
「そりゃあ、いいね……。お蘭、そこでぶら下がってわたしたちが愉しむのを見てな──」
宝玄仙も笑った。
「そんなあ……」
お蘭が宙吊りのまま不満の声をあげた。
「……じゃあ、次の組み合わせを言うよ。また、最初に戻って、それぞれにやるんだ──。まずは、沙那と孫空女──。お前らふたりで組みな──。お蘭にわたしらが愉しむのを見せてやるんだ」
宝玄仙が言った。
「そ、孫女と?」
「あ、あたしかい?」
沙那と孫空女は同時に声をあげていた。
さっきからいろいろな組み合わせでやっていたが、孫空女とふたりだけで組むのは初めてだ。
かっと身体が熱くなるのがわかった。
長い付き合いだが、孫空女とふたりきりでやり合うというのは、いまでも恥ずかしいのだ。
沙那は急激に鼓動が早まるのを感じた。
「……それと銀角には朱姫、黄獅姫には素蛾だ。まずは、それでいこうか」
宝玄仙が愉しそうに言った。
「いえ、ご主人様……。素蛾にはお蘭さんの足の指を舐めさせましょう。お蘭さんがもっと焦れったくなるように……」
朱姫が口を挟んだ。
「そりゃあいいねえ……。じゃあ、素蛾はお蘭の足の指をしゃぶるんだ。黄獅姫はわたしのところにおいで──。さあ、始めな──」
宝玄仙が大きな声で言った。
「はい、わかりました」
すぐに素蛾がお蘭の足に向かう。
「ちょ、ちょっと、な、なによ──。あ、あんたの舌……。その唾液はなんなの……?」
すると、お蘭はあっという間に宙吊りの身体を切なそうにくねり始めた。
素蛾は命じられるまま、一心不乱にお蘭の足の指を舐めている。
一本一本丁寧に……。もちろん、指と指のあいだも余すことなく、唾液を擦りつけ続ける。
*
「ひい、ひいいっ……こ、こんなの──」
お蘭は悲鳴のような声をあげた。
やがて、周りから女たちの嬌声が聞こえだした。
三組に分かれた仲間たちが、それぞれに女同士の営みを開始したのだ。
もちろん、素蛾は宝玄仙に命じられたことをやっている。
つまりは、このお蘭という人の足の指を舐めることだ。
それこそ、一心不乱に……。
「あ、あんたって、不思議な唾液を持っているのね……。こ、これはつらいわ……。ああ、この唾液はつらい──。こんなんじゃ、とてもいけないけど、快感だけはせりあがるのね……。う、うう……。だけど、悪くない……かも……で、でも、これは……ぐうう──」
お蘭が身体を悶えさせる。
素蛾はお蘭の足の指が素蛾の口から離れないように、両手でしっかりと抱え込まなければならなかった。
「……ね、ねえ、素蛾……。さ、さっきは変なことを言って悪かったわね……。ちょっと、わたしの顔を見てくれない……」
そのとき、お蘭が不意に言った。
素蛾はいったん口からお蘭の足の指を離して顔をあげた。
「うっ」
その瞬間、なにかが素蛾の身体に入ってきた。
それがなにかはわからなかったが、それが霊気ではないかとすぐに思った。
素蛾の中に、素蛾以外のなにかが不意に入り込んだような感じだ。
気持ちの悪さに素蛾は思わず悲鳴をあげそうになった。
「静かに……」
そのとき、お蘭が小さく叱咤の声をあげた。
すると、素蛾の口は黙り込み、まったく声を出せなくなった。
素蛾は驚愕した。
慌てて朱姫に助けを求めようと思ったが、朱姫は銀角を張形で責めるのに夢中でこちらには注意を払っていない。それは宝玄仙も一緒だ。沙那と孫空女に至っては、お互いの股間を重ね合わせて、一番激しく性行為に没頭している。
そのとき、突然に頭の中に声が響いた。
“……あんたのご主人様のように、あたしはお人よしじゃないのよ……。うまい具合に、身体に魔方陣を刻んでいるようね。おかげで、霊気をそこからお前に注ぎ込めるわ……。さあ、操りの霊気を受け入れなさい……”
素蛾は自分の中でなにかが大きく膨らむのを感じた。
「……終わったわ……。じゃあ、忘れなさい……。足の指を舐めるんでしょう……」
お蘭が素蛾の頭の上からささやいた。
素蛾はその言葉で、なにもわからなくなった。
はっとした。
素蛾はお蘭の脚を抱え込むようにしたまま、少しのあいだ、ぼうっとしていたようだ。
どうしたのだろう……?
「ああ、切ないわあ──。こんなのないわよ──」
お蘭が急に大きな悶え声をあげた。
それで、素蛾の思念は遮られた。
そうだ──。
お蘭の足を舐めるのだ。
素蛾はやっと自分のやることを思い出して、お蘭の足の指を舐める作業に戻った。
(第118話『三つの予言と意外な来訪者』終わり)