※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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 第120話 戦場の女囚処刑祭【牛魔王(ぎゅうまおう)】
786 快楽の鞭


「さ……三百……五……じゅ……」

 

 尻に加わった鞭の衝撃に歯を食い縛り、銀角は呻くように言った。

 しかし、数を数え終らぬうちに風を裂く音がした。

 はっとして、腰を捻ってせめて局部そのものへの打撃を避けようとしたが、牛魔王の部下の振った一本鞭は容赦なく銀角の肉芽を直撃した。

 

「ぐああっ──はうううう──」

 

 尋常ではない苦痛だった。

 だが、その激しい痛みは、すぐに怖ろしいほどの快感に変化した。

 激しい激痛が薬物の力で一瞬後にそれに匹敵する快感に置き換えられるのだ。

 銀角は股間から尿のような淫液の迸りが飛び出すのがわかった。

 さすがに耐えられるわけもなく、銀角は悲鳴を口から迸らせてしまった。

 その声は悲鳴ではなく、明らかに快楽を受けた女の嬌声だ。

 

「また、いきよったわ──。堪え性のない雌だのう──。いつになったら千発の鞭を終わるのだ、銀角? 鞭の味はそんなに甘美か?」

 

 豪華な椅子を地面に置かせて、銀角に対する鞭打ちを眺めている牛魔王が嘲笑った。

 銀角は激しい息を懸命に整えながら歯噛みした。

 

「黙ってないで、なんとか言わんか、銀角? ところで、お前の陰毛がおかしな生え方をしておるのがなぜなのか、そろそろ教えてくれんか? 片側だけ生え、反対側がつるつるである理由を教えてくれたら、鞭打ちの数を減らしてやるぞ」

 

 牛魔王がさらに揶揄した。

 銀角は悔しさと情けなさで、吊られている両手の拳をぐっと握りしめた。

 

「う、うるさいねえ……。しゅ、趣味なんだよ」

 

 銀角は吐き捨てた。

 こんな風に剃ったのは、宝玄仙の妹だというお蘭という人間族の魔女だ。

 しかし、女同士の性愛の中でふざけて剃ったと説明すれば、牛魔王はそれをさらに銀角に対する侮辱の材料にするだろう。銀角はうそぶいた。

 

「そうか、そうか……。お前には股の毛を半分だけ剃る趣味があるか。ならば、それはそのままにしておいてやるぞ」

 

 また、牛魔王が笑った。

 銀角はぐっと怒りを飲み込んだ。

 いま銀角は、大きく手を拡げて、両端の太い支柱の上にある横材から、両手首に嵌められた鉄枷によって鎖で吊るされていた。

 両脚は頭ふたつ分ほど宙に浮いていたが、その足首にも鉄枷が嵌められ、やはり鎖によって大きく股を開いて固定されている。

 足首から伸びる鎖についても、地面に埋められた二本の杭にそれぞれ繋がっていた。

 

 もちろん、銀角は一糸まとわぬ素っ裸だ。

 つまり、銀角は全裸のまま四肢を大きく拡げて吊り下げられ、戦場に立てられた首吊り台の下に四本の鎖で固定されているのだ。

 

 この状態にされて、かなりの時間がすぎた。

 銀角の前後には、鞭を持った三人ずつの拷問師がいて、代わる代わる銀角の全身を鞭打っている。

 銀角の肌はすでにあちこちが破けて真っ赤な血で包まれており、身体の下には銀角の身体から滴り落ちた血が大きな血溜まりを作っている。

 この状態にされる前、銀角は無数の傀儡兵に犯されて全身が精液まみれになっていたが、それはすべて、銀角自身の血で洗い落とされてしまった感じだ。

 

 もう何百発も鞭を浴びている。

 全身は惨たらしい鞭痕で、もはや傷のない場所を探すのが困難なほどに違いない。

 本来であれば、激しい苦痛で息も絶え絶えの状態だったはずだ。苦痛を与えることに長けた拷問師の鞭だ。

 それが六人もいて、銀角に息をするのも許さないような鞭打ちを代わる代わるに加えるのだ。

 さすがの銀角もこれだけの鞭打ちを一度に与えられるのは初めてだ。

 

 しかし、それにもかかわらず、銀角の身体は、痛みではなく、激しい性感で耐えられない状態になっていた。

 鞭打たれることによって、悶え達する回数はすでに十回を超えただろう。

 それは、繰り返し体内に抽入されている薬物のせいだ。

 牛魔王が鞭打ちに先だって銀角に投与したものであり、それは与えられる苦痛を快感に変化させる効果があるのだ。

 銀角はそれにより、激しく鞭打たれて引き起こるはずの激痛をむせび悶えるほどの快感に変化させられている。

 それは銀角に震えるような恥辱を与え続けていた。

 

 激痛なら耐えられる。

 いや、耐えられないとしても、痛みであればこれほどの恥辱を覚えることはない。

 それは銀角をひとりの戦士として扱われているという証であり、むしろ名誉の苦痛だ。

 しかし、牛魔王の前で女の声で悶え泣くなど耐えられるわけのない心の拷問だ。

 牛魔王は、そうやって鞭で打たれて苦痛に呻きながらも、激しく欲情する銀角を眺め笑っているのだ。

 苦痛で悲鳴をあげる姿を見物される以上に、快楽で喘いで絶頂する姿を眺められることは、銀角の心を強い苦しみの刃で蝕んだ。

 

 果たして、牛魔王に捕らわれてどのくらいの時間がすぎたのだろう……?

 死闘の末に沙那が敵将の奇勝天の首を討ち取り、摩雲城への撤退を考え始めた矢先のことだった。

 銀角は、突然に不思議な霊気の迸りを発生させてしまい、沙那と孫空女を巻き込んで、牛魔王軍団の真っただ中に転送されてしまったのだ。

 そして、捕らえられた。

 それは、そろそろ陽が西の山に沈みかけていた頃だったが、その後、気を失っている時間もあったから時間の経過がわからないのだ。

 

 いまは、完全な夜だ。

 ただ、牛魔王の道術により、空には大きな発光球が三個浮びあがっていて、辺りはまるで昼間であるかのように明るい。

 暴走した『移動術』の道術によって、急遽道術転送により進軍してきた牛魔王軍の大軍に捕えられた銀角と沙那と孫空女は、まずは、牛魔王自身が殺した奇勝天軍の亜人兵の死骸から作った数千の傀儡(くぐつ)兵から一斉に凌辱された。

 

 傀儡兵というのは、牛魔王独自の道術によって作る人工亜人であり、牛魔王は人の死骸からでも、動物でも、あるいは虫、さらには砂粒からでも無数の戦闘員を作成することができる。

 それを傀儡兵と呼ぶのだ。

 

 牛魔王軍団の兵は、いまでは侵略地から徴収した大勢の奴隷兵により成り立っているが、そもそも、数年前から始まった牛魔王軍団による魔域の席巻については、牛魔王の作るその傀儡兵によるものだった。

 その道術には抗しようもなかった。

 

 どんなに牛魔王軍を撃破しても、牛魔王は傀儡の術により、あっという間に新しい軍隊を作ることができるのだ。

 牛魔王軍団は、決して戦いの巧者ではない。むしろ、勝つよりも負けることの方が多いくらいかもしれない。

 また、傀儡兵についても、ひとりひとりの戦闘力は決して高くなく、それを破ることは困難ではない。

 傀儡兵の戦闘力の低さは、牛魔王も認識しているので、いまでは通常の戦いの牛魔王軍団の兵には、傀儡兵ではなく、侵略して獲得した領域からの奴隷兵を主体にしているくらいだ。

 

 しかし、牛魔王は戦局が不利になると、必ず傀儡兵を動員して無限に続くような攻撃を仕掛けてくる。

 傀儡兵の怖さは無限性だ。

 なにしろ、牛魔王は数万の軍隊を瞬時に幾らでも作れるのだ。

 この傀儡兵を動員する戦いによって、どんな敵対勢力も最後には牛魔王に屈服するしかなかった。

 そうやって、牛魔王はこの魔域において「最強軍団」の名を得たのである。

 

 銀角と金角もそうだった。

 全体的にみて、金角軍は牛魔王軍に勝ち続けたと思う。

 しかし、いくら勝っても損亡はある。

 だが、敵にいくら損亡を与えて敵を撃破しようとも、しばらくすれば新しい軍が出現して進軍してくる。

 それは傀儡兵のこともあったし、いまや巨大になった牛魔王域からの徴発兵のこともあった。

 

 いずれにしても、牛魔王軍団は負けることがあっても、すぐにそれを帳消しにする新手を送り出してきた。

 これを繰り返されて、金角軍は勝ちながらも追い詰められていった。

 そして、最後には、青竜山という牛魔王の勢力地において、味方だった巴山虎の裏切りにより大敗し、金角と銀角は青竜城という要塞に逃げ込むことを余儀なくされた。

 

 逃げ込めたのは千余名にすぎなかった。

 青竜城は牛魔王領域の南側の出城なのだが、当時は金角軍が占領していて、一時的にこちらの支配にあったのだ。

 牛魔王はそこに大軍を出現させた。

 青竜城の周囲に数万の勢力の傀儡兵を発生させて完全包囲したのだ。

 抵抗など不可能であることは明らかだった。

 

 それを指揮したのは裏切者の巴山虎だ。

 牛魔王は、裏切り者の忠誠の証として、旧宗主を捕えることを巴山虎に指示したのだ。

 牛魔王は結局、最後の最後まで自らは戦場には立たずに、兵を遠くから送り続けることで金角軍を破ったのだ。

 

 降伏勧告をする巴山虎に対して、金角はそれに応じた。

 銀角は最後まで抵抗して、ここで討ち死にすることを主張したが、金角はもう十分に暴れたと小さく微笑んだだけだ。

 金角も疲れていたのだと思う。

 勝っても勝っても続く戦いは、金角だけでなく、ほかの将兵も厭戦気分に包んでいた。

 銀角もそうだった。

 おそらく、巴山虎もそうだったのだろう。

 その終わらない戦いに対する恐怖が、金角を裏切るという行動に奔らせたのかもしれない。

 

 無限を相手にする戦い……。

 それは、神なる身であったとしても虚しき戦いだった。

 

 金角が提示しようとした条件は、銀角を含めた全将兵の命を助けることだ。

 金角はそれが保障されれば、牛魔王に降伏してもいいと言ったのだ。

 

 金角に説得されて、銀角は降伏の条件を話し合う軍使として、巴山虎の陣営に向かった。

 そのとき、巴山虎はもうひとつの条件を要求して、それを応諾すれば全将兵の命を救うと道術契約を交わしてもいいと、銀角に返してきた。

 それが、銀角が『服従の首輪』という支配霊具を受け入れることだった。

 その霊具により、銀角が巴山虎の奴隷になることが、ほかの将兵を助ける条件として追加された。

 

 銀角は承知した。

 その代わり、金角の命も取るなと銀角は巴山虎に要求した。

 

 巴山虎はにやりと笑って、まずは銀角と道術契約を交わした。

 道術契約は、霊気を帯びる者同士の絶対に約束だ。どんな者でもそれを違えることは不可能なのだ。

 そうやって銀角は巴山虎の奴隷となった。

 

 そして、その話し合いの結果に応じて、次は金角が全将兵の命を助けることを身代わりに、牛魔王に降伏することを巴山虎と道術契約した。

 巴山虎に身柄を降伏された金角は、道術を封じられた状態で青竜城の前庭に拘束された。

 

 そこにやってきたのは、牛魔王の代理人を称する別の将軍だった。

 その将軍は、すぐに金角の処刑を命じた。

 銀角は猛抗議したが、銀角は巴山虎の「命令」により、道術契約を解除させられた。

 道術契約は、確かに絶対の約束でもあるが、同時に、両者双方の合意があれは解除できる。

 

 銀角の首には、すでに巴山虎を「主人」として受け入れる服従の首輪が嵌まっていた。

 逆らうことは不可能だった。

 

 結局、銀角は巴山虎の命により、巴山虎と交わした契約の解除に応じさせられた。

 そして、金角は部下の全将兵の見守る前で首を切断され、その首は牛魔王に渡されるために首桶に入れられて運ばれていった。

 

 だが、銀角には金角の死を悲しむ時間はなかった。

 その次の瞬間から、巴山虎の性奴隷としての惨めな生活が始まったのだ。

 金角を裏切り、銀角を騙し、そして、金角を殺した男に調教されて、かしずくのだ。禁止されたので自殺もできなかった。

 惨めで、希望のない絶望の日々だった。

 だがそれは、宝玄仙たちが銀角を巴山虎から解放してくれたことで、数箇月で突如終わった。

 

 そして、金角は生きていた。

 首だけになった姿で牛魔王から死なないように道術をかけられ、牛魔王の慰み物としての生活を送り続けていたのだ。

 銀角は今日初めてそれを知った。

 

 いま、その金角の首は、椅子に座ってこっちを見物している牛魔王の足の下に転がっている。

 それはともかく、最初に無数の傀儡兵をけしかけられた銀角と沙那と孫空女は、最初は懸命に抵抗したものの、やがては彼らに捕えられて服をむしられることになった。

 なにしろ、蹴っても殴っても傀儡兵はすぐに起きあがってきて、襲ってくる。

 どうしても倒せないのだ。

 それこそ手足をばらばらにすれば、起きあがる脚がないから立ちあがることはないだろうが、脚がある限り立ちあがり、腕がある限り銀角たちの衣類を引きはがして強姦をしようとする。

 牛魔王が傀儡の術をかけ続けているからだ。

 

 やがて、銀角たちは、ひとりひとりと力尽きていった。

 疲労で動けなくなってしまえば、あとは身体を掴まれて犯されるだけだ。

 銀角は身に着けているものをすべて剥がされた。

 

 そして、犯された。

 抵抗しようとしても、動けなくなるまで殴られるか、大勢で押さえつけられる。

 膣と肛門に性器を突っ込まれて、口の中にまで怒張を入れられる。

 噛み千切っても連中には通じない。

 別の傀儡兵が口に性器を挿入してくるだけだ。

 

 そうやっていつまでも犯された。

 全身にはおびただしい精液をかけられた。

 沙那と孫空女は、銀角よりもやや長く抵抗をしていたように思うが、それはちょっとした時間の差にすぎなかった。

 銀角が傀儡兵に屈して、しばらくして沙那が同じ運命となった。

 孫空女はやや長く頑張った。

 しかも、自分だけでなく、沙那や銀角も助けようとしてくれたが、やはり、最後には傀儡兵に捕えられて犯された。

 

 かなりの長い時間三人で犯され続けたと思う。

 ついには、銀角は意識を手放した。

 気がつくと、いまのように鎖で横材で両手両脚を大きく拡げた状態で吊るされていたのだ。

 

 そして、牛魔王が椅子に座っていて、鞭打ちが始まった。

 沙那と孫空女は別の場所で違う拷問を受けている。

 だが、もう銀角にはそれを顧みる余裕などない。

 

「銀角に薬物を追加しろ──。銀角、そして、また一から開始だ。数をかぞえながら、千発の鞭を受ける。そんな簡単なことがなぜできん──。とにかく、それが終わるまで、眠ることも、食べることも、気絶することも……、無論、死ぬこともできん。お前も金角もな……」

 

 牛魔王が笑った。

 拷問師が銀角の腕を取った。

 筒状の霊具が銀角の腕に当たる。

 

「や、やめろ……」

 

 銀角は呻いた。

 銀角の痛覚を性感に変化させる薬物がその筒に入っている。

 筒の先に針があり、それを肌の下に喰い込ませて、その針先から体内の血に直接に薬物を混ぜられるのだ。

 そして、それは薬物を追加すればするほど、快楽の度合いが激しくなる。

 痛みから変化する快感が増大するのだ。

 もうすでに銀角は大量の薬物を投与されている。

 それによって、銀角は鞭打たれながらも咽び悦ぶ醜態を演じさせられ続けているのだ。

 

「くうっ……、はああっ……」

 

 ちくりと腕に針が刺さるのがわかった。

 その瞬間に針が刺さる痛みが強い快感になる。

 そして、薬物がまた追加された。

 痛みから拡がる快楽が、荒波のように銀角の身体に一気に拡がる。

 

「また、股間から蜜を垂らしおったか……。堪え性のない雌だ──。早く千発を終わらせねば、姉の苦痛はいつまでも続くぞ──。自分はよがり狂って気持ちがいいのかもしれんが、姉を見んか。あんなに苦しんでいるであろう……」

 

 牛魔王は脚の下に転がしていた金角の首を蹴飛ばした。

 最初に牛魔王が銀角の前に現れたときには、金角の首は牛魔王の持つ棍棒のような杖の先に装着されて、その杖飾りのようになっていたが、いまはそれから外されて地面に無造作に転がされていた。

 頭を蹴られた金角がころころと地面を転がって悲鳴をあげた。

 

「や、やめろ──。もう、やめてくれ──。ご、拷問ならあたいだけにすればいいだろう──。殺せ──。もう殺せ──」

 

 銀角は喚いた。

 

「殺しはせん──。わしが飽きるまではな……。だが、わしに逆らい続けたお前ら姉妹が屈辱に顔を歪め続ける様は愉しくてかなわん。しばらくは飽きんだろうなあ──。それよりも、金角にも腫瘍を追加だ。お前が失敗するたびに一個ずつ腫瘍が増えるからな。一個一個が怖ろしい苦痛を与え続ける『苦痛の腫瘍』だ──。早く、金角を解放してやれ、銀角」

 

 牛魔王が大笑いした。

 すると、金角の切断された首の部分にある腫瘍が増えたのがわかった。

 

「ぐわあああああああ──」

 

 激しい苦痛の悲鳴が金角の口から放たれた。

 

「き、金角姉さん──。金角姉さん──」

 

 銀角は絶叫した。

 

「無駄だ──。いまの金角には、お前の姿を知覚できる神経を遮断しておる。お前が目の前にいてもわからんわ──。お前が目の前にいることがわかると、悲鳴を我慢されたり、お前の代わりに自分に苦痛を与えろなどという聞くに堪えん戯言を聞かされるからな──。いまの金角の苦痛の声が毎日の金角の日常だ。まだまだ、わしに対する抵抗心が消えんようだから、もう少し生かして苦しみ続けさせる──」

 

「ああああ──。もう、許してやってくれよおお、頼むうう──」

 

 銀角は哀れに泣き苦しむ金角の首を見て叫んだ。

 あんな金角は初めてだ。

 

「いや、ならん──。それに、お前も同じ日々が始まるのだぞ……。毎日、耐えられん苦痛だ──。苦痛の解放には死しかない。そして、それはわしにしか与えられん。自殺の方法など皆無だ──。死にたくば屈服せよ。心の底から屈服したとわしが認めたら殺してやろう──。だが、一片の抵抗心でも残っていると認めれば死なしてはやらん」

 

 牛魔王が笑った。

 一方でいまや十数個の腫瘍を首の周りにつけている金角が激しい苦痛の声をあげて苦しみ続けている。

 確かに、いくら名を呼んでも金角は、それに反応を示すことはない。

 ただ、苦痛の叫びをあげるだけだ。

 

「それ、では一からだ。千発を悲鳴を出さずに受け続ける──。それで金角の首の腫瘍を消滅させて正気に戻す。そして、姉妹の対面をさせてやる。早く終わらせろ──」

 

 牛魔王が言った。

 銀角が求められているのは、数を唱える以外の声を出すことなく、鞭を千発を受けることだ。

 だが、それは難しいことになっていた。

 まだ、薬物の影響が少なかった最初の頃はともかく、いまや痛覚を快感に変化させる薬物を大量に投与されていて、鞭打たれるたびに強い甘美感が全身を走り抜け、どうしても声を出してしまうのだ。

 

 だが、金角は本当に苦しそうであり、まるで発狂したかと思うような声を出し続けている。

 しかし、発狂して苦しみから逃れるなどという生易しいことは牛魔王は許さないだろう。

 金角は狂うこともできず、身体のない首だけの姿でこうやって数箇月間、牛魔王のあらゆる拷問を受け続けていたのだと思う。

 それを思うと、巴山虎から自分が受けいていた銀角の仕打ちなど、苦痛のうちにも、恥辱のうちにも入らないと思った。

 

 背中に鞭を感じた。

 

「い、いちいっ……」

 

 銀角は声をあげた。

 鞭を打たれた場所から、身体が溶けだすような気持ちよさが襲った。

 銀角は必死になって出そうになる嬌声を我慢した。

 

「いくら、達しても構わんぞ──。その代わり、声を出すな──」

 

 痛みを変換させた欲情と興奮のうねりにまみれている銀角の姿に牛魔王が大笑いを続ける。

 そのとき、牛魔王の背後から女の影がすっと近づいたのがわかった。

 

「……牛魔王様、お蘭とのお約束を忘れなく……。銀角にしても、沙那にしても、孫空女にしても、命だけは奪わないと約束したはずですよ……。でも、このままでは銀角は死ぬかもしれません。かなりの出血です──。続けるにしても、一度治療をしてくれませんか……?」

 

 その女が言った。

 

「んっ? 小宰相のところの鳴智(なち)か──。うるさいことよ──。まあ、あのお蘭という魔女との約束だからな……」

 

 牛魔王が手をあげた。

 二発目を打ち込もうとしていた拷問師の鞭が中止された。

 次の瞬間、身体に熱いものが流れてきた。

 それが、牛魔王の発する『治療術』の霊気だとわかったのは、銀角の身体の傷が塞がり、全身の血が拭い去られるように消えていってからだ。

 

 銀角は吊るされた状態で牛魔王に話しかけた女を改めて見た。

 牛魔王は“鳴智”と呼びかけたと思う。

 霊気はないと思う。

 

 人間族の女だ。

 だが、この女は何者だろう……?

 小宰相のところの鳴智……?

 

 小宰相というのは、牛魔王が忠誠を誓っている魔域の覇王こと雷音大王に仕えるひとりの側近のことだ。その側近も人間族であり、雷音大王のもとで、かなりの権勢を誇っている……。

 

 名は御影(みかげ)……。

 宝玄仙が自分にまとわりつく仇敵だと称していた男だ……。

 その御影が牛魔王に送った鳴智──?

 

 それにしても、自分はいまなにかの聞き違いをしたのだろうか?

 その鳴智と牛魔王が、お蘭が牛魔王となにかの取り引きがあるかのようなことを仄めかせた。

 お蘭というのは、多門軍の正面に迎撃に向かった人間族の隊に、宝玄仙とともに同行している宝玄仙のあの妹のことであろうか……?

 

「さあ、銀角を治療したぞ、鳴智──。これで文句はなかろう──? では、拷問を再開してもよいな」

 

 牛魔王が笑って言った。

 

「……それと沙那と孫空女もお願いしますよ……。いくら痛めつけても殺すことだけはないように……。それよりも、いつまでも遊んでいないで、早く、三人にこれを取りつけてはいかがですか? お蘭は、もう宝玄仙を罠に仕掛ける支度を整えていますよ──。お蘭が宝玄仙をここに連れてくる前に、こっちの三人に首輪を嵌めて人質にする状況を作っておかないと……。まあ、多門殿が、思いのほか、人間族の隊に苦戦しておられるようなので、罠を仕掛けるのは明日の朝以降になるかもしれませんが……」

 

 その鳴智が言った。

 やっぱり、お蘭というのは、あのお蘭──?

 

 そのお蘭が宝玄仙を罠に掛ける──?

 どういうことなのだ──?

 

 銀角は混乱した。

 そして、鳴智が牛魔王の椅子の手摺りにある台に一個の首輪を置いた。

 

 それは紛れもなく、新品の服従の首輪だった。

 銀角は目を丸くした。

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