「しょ、処刑遊戯って、なによ──。い、いやあ──。な、なんてことを命じるの──。いやああ──。た、助けて──。だ、誰か──」
沙那は無駄だとわかっている助けを叫んだ。
だが、銀角が引きつった顔のまま、捨てられた筆を拾った。
そして、孫空女が乗った板を支えるために、腕を大きくあげている沙那に近づいてくる。
始まった「余興」に大勢の亜人兵たちも集まってきて、この首吊り台を取り囲み始めた。
「さ、沙那、ご、ごめん……」
銀角が呻くように言って、筆で沙那の脇腹をすっと撫ぜあげた。
「ああ、あはあああ──」
沙那は狼狽して、思わず身体を捻った。
「んぐうっ」
その瞬間、孫空女の呻き声がした。
沙那が身体をよじったので、両手で抱えている板が傾いてしまったのだ。
それにより、孫空女が体勢を崩して、ぎりぎりまで引きあげられている孫空女の首縄が絞まってしまったのだ。
沙那は慌てて両脚を踏ん張った。
「さ、沙那──。た、頼む──。な、なんとか……」
銀角が泣きそうな声で言った。
なんとか我慢してくれと言いたいのだろう。
しかし、銀角の操る筆は脇腹から背中に向かって擦り動く。
「う、ううっ──」
沙那はぞわぞわしたくすぐったさに、無意識に身体を突っ張らせた。
だが、耐えられる……。
そんなに敏感ではない背中だし、なんとか息を大きく吐くことで、気を逸らすことができた。
しかし、同じ場所を繰り返し刺激されると、どうしてもくすぐったさが拡大してくるのだ。
いまがそうだ。
沙那の身体の震えが大きくなってきた。
銀角がそれを悟ったのか、少し腰骨の辺りに筆先をずらした。
「あっ、ああっ……」
しかし、新たな刺激に沙那はびくりと身体を動かしてしまった。
「ご、ごめん……。だ、だけど、どうしても……」
銀角は半泣きになりながらも、筆先を沙那の裸身に這わせてくる。
その動きは少しも緩まらない……。
緩められないのだ。
銀角は牛魔王に筆で沙那をくすぐるように命じられている。
命じられた以上、それは絶対だ。
忠実に「命令」の言葉を身体が実行するのだ。
それに意思は関係ない。
銀角はそういう状態なのだ。
いまの沙那を筆で責めれば、どうなるかをわかっていながら、銀角はくすぐりを続けなければならないのだ。
「わ、わかってる……。わかってるの……。う、うはあっ……」
筆が脇腹からその下の腰骨あたりをなぞり擦る。
沙那は歯を食い縛って、襲ってくるくすぐったさに耐えた。
「さ、沙那……? な、なんだい……これ……?」
頭の上の孫空女が言った。
孫空女はたったいままで半死半生の状況だった。
牛魔王の道術で身体の損傷は回復したものの、まったく意識がなかったから状況をよくわかっていないのだと思う。
孫空女にとっては、いきなり首吊りの状態にされて、気がついたら、沙那の抱える板の上に乗っていたということ違いない。
やっと状況を把握しようとしているという感じだ。
「んんっ──。んふうっ」
銀角の筆は腰骨から太腿の横を上下に動いてきた。
どうやら銀角は懸命に沙那のくすぐったい場所ではないところを探して、筆を動かしてくれているようだ。
だが、それでも、沙那は身体の力が抜けるほどの衝撃を味わっていた。
長い時間、亜人兵たちの輪姦を受け続けて、肉体は怖ろしいほど敏感になっている。
もう全身が性感帯のようにどこも研ぎ澄まされていて、沙那の身体はどんなに些細な刺激でも弾けるような快感を拾ってしまう。
「牛魔王様、服従の首輪は、『主人』として刻まれた相手のどんな言葉でも命令として従わせますが、逆に言えば、『文字通り』の言葉にしか従わせることはできません。意思は残っていますから、命令の言葉の範囲内で奴隷は自分の意思で行動しようとします」
牛魔王の横で、
「んっ? どういうことだ?」
牛魔王が横の鳴智に視線を向けた。
「さっき、牛魔王様は単にくすぐれと銀角に命じただけなので、銀角はできるだけ沙那が耐えられる場所を探して筆を動かしているようですね」
「なるほど、そういうものか……。つまり、手を抜いているということだな……。よし、銀角──。では、沙那の急所を探して筆を動かせ。沙那が孫空女を振り落とすように筆で責めるのだ」
牛魔王が笑いながら言った。
「くっ」
銀角が歯噛みしたのがわかった。
沙那の身体の横をまさぐっていた銀角の持つ筆が、いきなり沙那の肉芽に移動した。
「あふううっ」
くるくると女の蕾の周りをくすぐられて、沙那はがくりと両膝を倒しかけた。
ただでさえ身体は疲労困憊の状態なのだ。
一度、姿勢を崩すと、本当にそのまま倒れてしまいそうだ。
「あっ、だめっ」
沙那は懸命に脚に力を入れた。
「あぐっ」
また、孫空女が呻いた。
上で孫空女が体勢をよろけさせたのがわかった。
沙那の手と孫空女の脚のあいだにあるのは、ほんの小さな板だ。
孫空女だって、その上に立つのは大変なはずだ。
「あっ、ご、ごめん──」
沙那はなんとか姿勢を真っ直ぐに直した。
同時に、やや開いていた脚をしっかりと閉じて、銀角の筆から股間を守るように股を締めつける。
だが、銀角は、沙那の裏をかくように、すかさず背後に回って臀部の亀裂に筆を這わせてきた。
「いひいっ」
今度は、銀角は“沙那が孫空女を振り落とすほどに筆で責めたてろ”と命じられている。
だから、容赦なく沙那が備えられないような場所を探して筆を動かしてくる。
「そ、そんなあ──。い、いやあ──」
沙那は狼狽した。
お尻から筆が離れていかない。
力が抜ける……。
「くっ」
不意にお尻を襲った感覚を追い払おうと、沙那は激しく身体を振ろうと思った。
しかし、そんなことをすれば、今度こそ孫空女を本当に落としてしまう……。
せめて、必死でお尻をすぼめて筆を侵入させまいとする。
だが、銀角が反対側に持つ筆が、身体越しに沙那の腰の前に動いて、もう一度肉芽の周囲を動き始めた。
「ん、んんんっ、んああっ」
前後に筆を受けることになった沙那は泣き声をあげた。
後ろに意識を集中すれば前が無防備になり、前の刺激を避けようとすれば、後ろに筆が襲いかかる。
沙那は進退窮まった。
結局、どう避けようとしも、敏感な場所を責められることになる。
沙那を襲う官能の疼きが、身体の芯が痺れるほどの衝撃になる。
膝が痙攣したようにがくがくと震えてきた。
もう駄目……。
耐えられない……。
「ひっ、ひっ、ひいっ、や、やめてえ……もう、やめて……だめええ……ああああ──」
沙那は叫んだ。だが、その悲鳴もかすれている。
背筋にも震えが走り、身体の芯が火のように熱を生じてきた。
筆先が腰の前後に這うたびに、恐ろしいほどの疼きが全身を走り、身体の肉が蕩けていく。
力が抜ける──。
もう姿勢を保っていられない──。
だが、身体が崩れれば孫空女が──。
周囲では大勢の亜人兵が、裸の女三人の痴態に揶揄と哄笑を浴びせている。
だが、いまの沙那にはもう耳には入らない。
銀角の責める筆と戦うのに必死だ。
「さ、沙那──。もう、もういい──。頑張らなくていい──。ち、畜生──牛魔王──。あたしを責めな──。こんな意地の悪い処刑方法なんかじゃなく、さっさと殺せばいいだろう──」
上で孫空女が絶叫した。
だが、そのために孫空女の身体が揺れて、沙那は体勢を崩しかけた。
「ん、んんっ──。あ、暴れないで、孫女──。さ、支えられない……。う、うくっ──」
沙那は声をあげた。
そのあいだにも、銀角は背後から筆を動かし続けている。
すでに沙那の全身はすっかり脱力して、激しく喘ぎ声をあげている。
もう沙那は気力で立っているだけだ。
いまにも身体が崩れてしまいそうだ。
「ねえ、牛魔王様、筆責めよりも脇の下をくすぐらせてはどうです? いかにも、無防備な脇じゃないですか」
鳴智がふっと笑みを頬に浮かべた気がした。
だが、同時にはっとした。
そんな……。
「それはいいな。よし、銀角、脇だ──。脇をくすぐれ──。沙那が思い切りくすぐったがるように手でくすぐるのだ」
牛魔王が言った。
銀角が筆を捨てた。
「さ、沙那、ごめんよ」
銀角が叫んだ。
両手が後ろ側から脇に襲いかかった。
「はああっ、はははは……、あはははっは、ちょ、ちょっと、だめええ……、うぐうう──。うふふふふ──ははははは──」
たちまちに襲った笑いの発作に、沙那は笑い悶えた。
必死の思いで孫空女を持ちあげている沙那の脇を銀角はこれでもかと襲ってくる。
沙那は悲鳴をあげた。
「沙那、首輪を受け入れると誓いなさい──。服従の首輪の刻みを受け入れて牛魔王様の命令に従う人形になりなさい──。孫空女を救うにはそれしかないわよ」
鳴智が声をあげた。
「う、受け入れる──。受け入れるからやめてえ──、あははははは、ははははは──」
沙那は笑いながら絶叫した。
その瞬間、なにかが沙那の身体に入ってきたのがわかった。
首輪の道術による身体の縛りだ──。
ずっと以前に、故郷で騙されて宝玄仙の首輪を受け入れたときの感覚と同じだった。
「さあ、これでお前は牛魔王様の奴隷よ──。牛魔王様のどんな命令にも従いなさい──。一生ね──」
鳴智が静かに言った。
「銀角のときもそうだったが簡単なものだな……。これで、沙那はわしのいいなりか?」
牛魔王が鳴智を見た。
「そうです。さっきも言いましたが、理解できる言葉でしたら絶対に牛魔王様には逆らえません……。例えば、宝玄仙を殺せという命令でも……」
「殺しはせん……。こんな面白いものなら、宝玄仙にも必ず首輪を装着してやる──。確か、お前とお蘭が持ってきた首輪は、あと一個あったよな?」
「はい。宝玄仙用のものとして残してあるものです……。宝玄仙は供想いです。供を人質にすれば、あの女は首輪の受け入れに同意すると思います」
「愉しみだ……。ところで、お蘭はいつ宝玄仙を連れてくるのだ?」
「沙那の出す全軍撤退命令が、こちらの準備がすべて整ったことをお蘭に報せる合図ということになっております。お蘭は沙那の撤退指示を受けて、仕掛けを開始します。撤退する隊から離れて、こちらに向かうように宝玄仙を誘うはずです」
「そうだったな。ならば、沙那に撤退指示を出させねばな」
牛魔王と鳴智が語り合っているのが聞こえた。
言葉の端々にお蘭という名が聞こえたのが気になった。
だが、沙那はそれ以上考えられない。
銀角による沙那の脇へのくすぐりは続いているのだ。
「はははははは、ひひひひひひひ、も、もうだめええ──。はははははは、た、助けて──受け入れた──受け入れたわあああ──あはははは──や、やめてええ──」
沙那は笑い苦しみ続けていた。
それでも、懸命に孫空女を乗せている板を支え続ける。
「銀角、やめよ──。沙那、ひとつ仕事をせい──。全軍に撤退命令を出すのだ。銀角はそれを通信球で送れ。怪しまれないようにするのだ──。余計なことを話すな。命令だ」
牛魔王が言った。
銀角の手がとまる。
やっと、終わった……。
耐え抜くことができた……。
沙那はほっとして、身体を崩しかけた。
だが、慌てて手足に力を入れる。
「さ、沙那……、だ、大丈夫……? ご、ごめんよ……」
銀角が申し訳なさそうに言った。
沙那はわかっているという気持ちを込めて、小さく数回首を縦に振った。
「さ、沙那……」
上からも孫空女の心配そうな声がした。
沙那は大丈夫だと応じた。
亜人兵たちが不満そうに声をあげたが、牛魔王が腕を振るとしんと静まり返った。
沙那は「命令」に従って、銀角が道術に作った通信球に撤退指示を告げる声を込める。
銀角は道術は遣えるようだ。
ただ、許可なく遣うことは、すでに首輪の力で禁止されたのではないかと思う。
いずれにしても、通信球に沙那たちが捕らわれていることを示唆するような内容を含めることはできなかった。
“怪しまれないようにせよ”──という言葉を牛魔王に告げられたからだ。
沙那の指示を乗せた通信球が消えた。
それぞれの隊に転送されたのだ。
しかし、ふと思った。
三方向で迎撃した三隊のうち、東と西で迎撃した隊とは異なり、中央の本隊は、沙那たち三人がいなくなっている状況のはずだ。
この牛魔王軍は、沙那たちがいた戦場地域までは進出しておらず、まだ、平原の北側までしか出てきてはいない感じだ。
だから、こちらの迎撃隊とは接触はしていないようだ。
つまりは、奇勝天軍を破ったこちらの中央迎撃隊は健在であり、突然にいなくなった沙那たち三人の指揮官を捜索している状況ではないかと思う。
その異変は当然、宝玄仙のいる伊藉隊にも伝わっているだろう。
それなのに沙那からの撤退命令が当たり前に出されれば、逆に不審に思うのではないか……?
ならば、宝玄仙は不用意な行動を取らないでくれるかも……。
「……そういえば、こいつらのいた隊はどうなっておるのだ? 銀角たちが突然に消えたことで怪しんでおるのではないか?」
牛魔王が言った。
沙那と同じ疑念を牛魔王も抱いたようだ。
「問題ありません。この三人が移動術で消滅したのと同時に、
「あの物真似妖魔か……。さすがは謀略に長けた人間族だ。抜かりはないということだな」
牛魔王は満足気にうなづいた。
六耳族というのは覚えている。
この魔域のどこかに生息するという物真似妖魔だ。
他人には見分けのつかないくらい、誰かそっくりに変身する能力がある。
あれも女人国を旅していたときのことだった。
御影がその六耳族のひとりを孫空女に変身させて、誘拐した孫空女と入れ替えたということがあったのだ。
あれは確かに本物そっくりだった。
宝玄仙や朱姫なら、かすかな違いで偽者であることに気が付く可能性もあるが、中央隊の将兵ではまずわからないだろう。
つまりは、すでに手を打たれているということだ。
沙那は失望した。
だが、すぐに、さっき失念してしまったことが頭によぎった。
お蘭──?
そういえば、鳴智はたったいま、お蘭が一枚噛んでいるということを仄めかした。
お蘭が牛魔王と、なにかの取引きをしている可能性が……?
「ま、待って、鳴智──。お蘭の仕掛けというのはどういうこと? あなたたちにお蘭は関わっているの?」
沙那は思わず言った。
しかし、鳴智はにやりと笑っただけだ。
「では、続きをするか、沙那──。今度は腕をおろさないように命令を与えてやろう。そうすれば、くすぐりに耐えられなくても、気を失うまで、くすぐり責めを受けれるからな。孫空女の寿命がそれだけ伸びるということだ──。腕でしっかりと支えていよ──。命令だ」
そのとき、牛魔王が言った。
沙那はびっくりした。
もう終わったと思っていた……。
あれがまだ続く……?
沙那は愕然とした。
「銀角はもういい……。こちらに来て奉仕せよ。沙那はそっちで気を失うまで、くすぐり責めを受けよ──。周りの者は沙那の無防備な脇や股ぐらを交代でくすぐってやれ──。ただし、銀角の捨てた筆を使うのだ。さもないと、お前らは滅茶苦茶するからな──。やってもいいのはくすぐりだけだ」
牛魔王の指示で亜人たちが歓声をあげた。
たちまちに地面に置き捨ててあった筆に亜人兵が殺到した。
そして、それを最初に拾うことができたふたりの亜人が、沙那の裸身にさっそく襲いかかった。
「ひいいっ、いや、いやああ、もういやあ──。や、約束が──あはああっ、はははははは、ひふふふふふふ、くふふふふうっ、はははははは──」
再び始まったくすぐり地獄に沙那は悲鳴をあげた。
「や、やめろよ──。もう、やめてくれよ──」
孫空女が絶叫したのがわかった。
「孫空女、お前も首輪を受け入れなさい。そうすれば、牛魔王様は、お前が死ぬまで、沙那をくすぐることはやめると思うわ。首輪を受け入れてしまえば、殺すよりも生かしていた方が使い道はあるし」
鳴智が叫んだのがわかった。
「わ、わかった。受け入れる──。受け入れるから、沙那を苛めるのはやめておくれよ──」
孫空女が声をあげた。
「ははははは、あははははは──お、お願い──やめてええ──」
だが、もうそれについても考えられない。
一本の筆はまた脇を襲い、もうひとつの筆は股間の割れ目を前側から襲ってくる。
沙那は孫空女を乗せた板を支えながら、涙を流して苦しみの笑いを続けた。