795 女宰相と小宰相
「うわあっ──」
背中に鋭い刃が刺さり、そして、引き抜かれたのだ。
感じた衝撃で一瞬椅子から浮きあがりそうになり、右手で胸を押さえてしまった。
もちろん、穴など開いてはいない。
突き刺された剣も遥か遠くにある牛魔王の陣営にいた影法師のお蘭に対するものだ。
だが、いつ味わっても、影法師が殺されるというのは嫌なものだ。
なにしろ、自分の身体の一部が死ぬのというのは、自分が死ぬのと同じなのだ。
幻影とはいえ、御影はいま死を体感した。
「どうしたの、御影?」
御影は小宰相と呼ばれ、女宰相の美小淋とともに、雷音院では雷音大王の後宮に出入りのできる権利のある唯ふたりだけの存在だ。
美小淋も仮の執務室を後宮の隅に確保していたが、その隣に御影の部屋もある。
もうひとりの例外は牛魔王だ。
いまや、独立した魔王ともなっていた牛魔王は、いついかなる状況でも雷音大王に面会できる存在でもある。
牛魔王を凌ぐ権限を持った家臣は雷音大王にはいない。
名実ともに、雷音大王の一番の部下が牛魔王だったのだ。
御影は、ここに美小淋と大事な打ち合わせをするためにやってきていたのだ。
その途中で自分の片割れのひとりであるお蘭の影法師の死を感じた。
お蘭の導きにより牛魔王を殺すことに宝玄仙が成功した──。
そこまでは思惑通りだったのだが、その後、牛魔王から取り出された道術石を奪おうとして、宝玄仙の供に邪魔をされたのだ。
もう少しだったのに……。
御影は歯噛みした。
「牛魔王が死んだわ……。そのうち、ここにもその報せが届くと思うけどね……。宝玄仙が牛魔王から道術石を抜くことに成功したわ。そして、宝玄仙の供に殺された──。あたしたちの計画のとおりにね……」
御影は言った。
「それでは──」
美小淋は目を丸くした。
「ただ、宝玄仙のそばを見張らせていたお蘭の影法師は、殺されたわ。宝玄仙の供がお蘭が影法師であることを見破ってしまったのよ。ただ、
御影は肩を竦めた。
失われた影法師は、すぐに復活することは可能だ。
御影は、一度性交した相手を影法師として複製して、自分の一部として操ることができる。
そして、別の身体でありながら、自分の身体の一部として意識を共有するのだ。
一度に操作できる影法師はふたつまで……。
つまり、御影は三個の身体を同時に支配できる。
それが御影の能力だ。
ただし、さっきのお蘭のように殺されて消滅した影法師は、本体の御影のそばでしか復活しない。
だから、もう、宝玄仙の近くには誰もいないという状態になってしまった。
お蘭が素蛾という童女に施した暗示は生きているだろうが、お蘭がいなくなった以上、もう素蛾という童女の器量に委ねるしかない。
まあいい……。
別にこれが最後の手段というわけでもない。
手はいくらでも打っている。
ふたつの宝を手に入れるための方策は……。
「それよりも、美小淋、牛魔王が死んだということは一両日中に情報が届くと思うわ。それまでに動きたいわね。例の件はどうなっているの?」
御影は訊ねた。
「影女のこと? それとなく、大王には情報を入れといたわ。庇護を求めている北方帝国の貴族美女……。大王は興味を抱いているようだったわ。あの男は好色だから……」
美小淋はにやりと笑った。
「じゃあ、大王は影女という女を後宮に加えるということね?」
「加えるかどうかは、まあ味見をしてみてということになるのかしらね。いずれにしても、大王は影女という女を抱くと思うわ。わたしが連れてくることになっているの……。もちろん、影女はただ謁見のためにここにやって来ることになっているわ。わたしは、影女にはここではないと大王には面会できないとだけ伝えることになっている。そこで大王は打ち解けた雰囲気で影女という人間族の女に飲み物を出すわ。その飲み物には痺れ薬が入っている。そして、大王は影女を犯す……。そういう手筈よ」
「あら? そんな手筈を踏まなくても、影女は大王に抱かれるわよ」
御影は笑った。
「手に入らないものを無理矢理に摘むのが好きなのよ。あの男は……。影女はとても慎み深い貞女だと言っているからね。そのつもりで対応してよ、御影」
美小淋は笑った。
影女というのは、政争で居場所のなくなった北方帝国の貴族の姫という架空の女だ。
それが魔域の覇王である雷音大王に身体を提供する状況を美小淋に作為してもらった。
美女ならあの大王は、間違いなく手を伸ばす。
それは、御影の計画にどうしても必要なことなのだ。
それがなければ、御影の野望は成立しない。
「大王については、あなたの思惑通りに動かしてあげるわ。大王を動かせるのはわたしだけなのよ……。その代わり……」
美小淋が宰相としてのマントと上衣を外した。
そして、さらに下衣も脱いで自分の座っていた椅子の背に置く。
官能美に満ちている美小淋の太腿が露わになった。
年齢は重ねているから若々しくはないものの、成熟した脚全体が女としての色気を強く醸し出している。
その美小淋が椅子に座る御影に向かい合うように、御影の膝を跨いで座った。
美小淋の顔がすぐ間近に迫る。
美小淋がすっかりと欲情していることは明らかだ。
御影は軽く口を伸ばして、美小淋の口を吸った。
そして、上下の唇を交互に吸いあげてから、御影は美小淋の口の中に舌を差し入れた。
すると、美小淋は柔らかな舌でそれを迎え入れ、舌を御影の舌に擦りつけてきた。
美小淋の口の中でお互いに舌を舐め回し続ける。
美小淋という年増の亜人女を御影のものにするのは難しい作業ではなかった。
この女は雷音大王のそばで働く者として、長年知られている存在だ。
亜人の世界でも、もう中年といえる年齢だが、夫もおらず、決まった恋人もいない。
美人だが権勢のある女宰相を誰も手を出そうとはしなかったのだ。
この美小淋もまた、男を飼って自分の性欲を満たすような振る舞いをすることはなかった。
慎みのある女宰相としての立場がある。
それに、勤勉で貞節そうな美小淋は、とてもではないが、男が手を出そうとする隙を見せたりはしなかった。
それをあっさりと御影は抱いた。
この後宮に御影が出入りをするようになってからだ。
雷音大王が多くの古今東西の美女を集めた後宮に引きこもって政務をしなくなったのは、この美小淋の思惑だ。
この女宰相は、そうやって巧みに大王に直接面会できるのが自分だけという立場を作りあげて権力を独占したのだ。
例外は、御影と牛魔王だけしかない。
御影は好色な雷音大王に女人国の美女奴隷を大勢差し出すということをして、後宮に出入りできる権利を得た。
さらに、後宮の隅に一室をもらうという特権を得たのは、この亜人女を御影のものにしてからだ。
いずれにしても、後宮に出いるできるほとんど唯一の部下として、美小淋がここに滞在する時間は長くなる。
しかし、そこに御影の罠もある。
美小淋は知らないことだが、御影は雷音大王と謀って、ほとんどわからないくらいの微かなものだが、この後宮全体に女が欲情する香を蔓延させている。
それは男には効果はないが、女が長く吸い続ければ、果てしなく身体が欲情することになる。
そうやって、雷音大王はここで飼う美女奴隷たちを常に欲情させていおき、好きなように抱く状況に置いているのだ。
だが、当然、その影響は美小淋にも及ぼす。
美小淋もなぜ、この後宮にやって来るたびに、それほどまでに自分が欲情をするのかわからなかっただろう。
そんな美小淋を御影は簡単に抱いた。
それからは、美小淋は完全に御影の与える肉欲の虜だ。
むしろ、少々要求が激しくなり、御影も閉口気味なくらいだ。
美小淋が御影の口に舌を入れ返してきた。
御影の舌を中心に右に左にと、顔を傾けてむさぼりついてくる。
やがて、やっと口を離した。
「影女を連れて行くのは明日よ……。今日はここでつき合ってもらうわ。あなたはわたしのものよ」
美小淋はすっかりと上気した顔でそういうと、跨っている腿の先にある御影の股間をぎゅっと握ってきた。
「うっ」
御影はその強い力に思わず呻いた。
「ふふふ、さすが御影ね。すっかりと硬いわ……」
美小淋が御影の膝からおりると、御影の脚のあいだに跪くようにしてきた。
そして、御影の下袴の前から勃起した性器を外に出す。
その御影の肉棒を美小淋が口で咥える。
むねむねとした温かく柔らかい美小淋の舌の感触が御影の怒張を這い出した。
先端から根元までを美小淋はねっとりと舌で舐めあげられる。
大した技量ともいえないが、御影の受ける甘美感は大きかった。
さらに美小淋は御影の性器の先端に唇を押し当てると、窪みの粘液まで吸い取るように強く吸ってきた。
気持ちがいい……。
御影は素直に美小淋という女宰相の奉仕を受けることにした。
美小淋の口による本格的な抽送が始まる。
そして、それはかなり続いた。
美小淋は決して疲れを知らないかのように、御影の肉棒を一心不乱に知る限りの方法で刺激し続けた。
「もういい、出そうだ」
しばらくして、御影は言った。
「……いいの。そのまま出して……」
美小淋は一度だけ口を離してそう言った。
そして、さらに熱を込めた奉仕に戻る。
どうやら、心の底から肉棒を舐めるのが好きなようだ。
美小淋は鼻先で御影の肉棒の幹を擦るほどに強く顔を密着させ、左右に顔を振り立てて口を舐め吸っている。
本当にこのまま出して欲しそうだ。
こうなれば、自制するもの馬鹿馬鹿しいので、この女宰相の要求に応じることにした。
美小淋もそれを察したのか、抽送を弱めて舌先で先端を擦るように刺激をしてから、喉の奥まで一気に顔を御影の股間に沈めた。
御影は美小淋の喉に向かって精を思い切り放った。
美小淋はさらに酔ったような顔になり、御影の夥しい放出を受けとめた。
そして、しばらく、そのまま余韻に浸るように御影の性器をしゃぶってからやっと口を離した。
御影の股間はやや萎えている。
だが、精を放った御影よりも、口で受け止めた美小淋の方が、すっかりと満足した表情をしているのが面白かった。
口から精は出さなかったので、すべてを飲み干したのだろう。
さらに美小淋は口の周りに残った精を自分の舌で舐め回して綺麗にした。
「さあ、しましょうよ。服を脱いで、御影──」
美小淋は御影を立たせて、着ているものを剥ぎ取るように奪っていく。
「あらあら、自分で脱ぐわよ」
御影は笑いながら言ったが、美小淋は愉しそうにどんどんと御影から着ているものを奪って脱いでいく。
やがて、御影は完全な素っ裸になった。
そして、美小淋自身も腰の下着一枚だけの格好になる。
「後ろを向いて、御影」
美小淋が言った。
「えっ?」
「いいから」
なにか悪戯をしたいらしい。
美小淋はまるで少女のような無邪気な笑みを浮かべている。
御影は苦笑しながら、言われるままに美小淋に背を向けた。
「両手も後ろ」
「はいはい」
素直に手を背中に回すと、いきなり手首に重いものが嵌められた。
「な、なに、これ?」
抗議の声をあげたが遅かった。御影は両手首に手錠をつけられてしまった
しかも、これは道術を封じる効果のある枷だ。
御影はびっくりしてしまった。
「な、なにをするのよ──。冗談でしょう?」
御影は怒鳴った。
「冗談ではないわよ。これであなたは道術は遣えない。しかも、素っ裸……。さあ、面白くなったわね」
美小淋がにやりと笑った。
「な、なによ……。どうするつもりよ?」
「さあ、どうしようかしら……? 雷音大王に謀反を企てた大逆者として、衛兵を呼ぼうかなあ……。ついでに、わたしも犯そうとしたという罪状をつけてね。そうすれば、あなたは終わり。残酷な方法で処刑されるんでしょうね……。その処刑にはわたしも立ち会ってあげるわ……」
美小淋が言った。
「ちょ、ちょっと……」
御影はぞっとした。
いまのいままで、完全に美小淋は陥したと思っていた。
だが、そうではなかったのだろうか……?
亜人女など利用するつもりで、うっかりと罠に仕掛けられた……。
そんな間抜けなことになったのか……?
もしかして、美小淋にしてやられた?
考えてみれば、美小淋の政治的な敵対者は牛魔王だった。
雷音大王のために、魔域で戦い続けていた牛魔王に、雷音大王は絶大な信頼を寄せていた。
それを排除することは、御影だけでなく、美小淋にとっても望ましいことだったはずだ。
そもそも、牛魔王は女を軽視する差別主義者だった。
事あるごとに、牛魔王が美小淋を軽視するのは有名な話だ。
美小淋の苛立ちは頂点に達していた。
しかも、牛魔王は金角の抹殺に成功して以来、女に対する蔑みを一層強くして、ひそかに雷音大王に宰相の交代を薦めていた。
無論、美小淋は牛魔王のそんな動きを察していた。
平素、雷音院にはいない牛魔王などどうとでもなるが、牛魔王派とでも称すべき反美小淋派の重鎮たちの動きが無視できないものになりつつあった。
だから、美小淋は御影と手を組んだ。
しかし、その牛魔王が死んだ。
そうすれば、美小淋にとっては、御影はただの邪魔者でしかなくなったのではないか……。
そして、早速、始末することにした……。
そういうことではないか……。
御影は背に冷たい汗を感じた。
すると、美小淋が爆笑した。
「まあ、すっかりと元気がなくなっちゃって……。そんなに怖いの? さあ、そんなことになりたくなければ、わたしに奉仕しなさい。わたしを満足させてくれたら、その手錠を外してあげる……。でも、あなたのいまの顔は新鮮だったわ」
美小淋が小悪魔的な笑みを浮かべながら、すっかりと小さくなってしまった御影の股間を手のひらで握りしめた。
そして、睾丸を捏ねりあげるように動かす。
だが、その力が結構強い。
御影は顔をしかめた。
「で、でも、両手がなければ、美小淋を抱けないじゃないの」
御影は美小淋に股間を刺激されながら言った。
「口があるでしょう──。その肉棒だってあるわ──。さあ、満足させなさい」
美小淋は下着一枚の姿で御影の前に仁王立ちになった。
仕方なく御影は、その前に跪き、美小淋の下着の縁を口で咥えた。
その下着の中からは強烈な女の蜜の匂いが放たれていた。