すると、そこに隠し扉が現れて、
「お愉しみでしたね」
相変わらずの感情を押し殺したような口調で鳴智が言った。
美小淋との逢瀬で御影に危機が訪れるようであれば、外に出てきて救出するように「命令」をして待機させておいたのだ。
なんだかんだで御影は、鳴智ほど役に立つ者の存在を知らない。
この女の暗殺術、謀略術はかなりのものだ。
元はただの貴族少女とは思えない。
もともと、そのような仕事をこなす天賦の才能があったのだと思うが、それが闘勝仙という悪党に鍛えられ、さらに御影に捕まって多くの経験を積んだ。
いまや、女暗殺者としても工作人としても玄人中の玄人だ。
そして、鳴智の首には、御影を「主人」と刻む『服従の首輪』がある。
その首輪の力によって、御影に絶対服従であることと、御影のためにならないことを絶対にやらないように命じている。だから信用できる。
ある意味、御影はこの鳴智に絶対的な信頼を寄せていた。
「……それと結婚をついに決意されたんですね。おめでとうございます」
さらに言った。
このときは、鳴智の頬が少しだけ小馬鹿にしたように緩んだ気がした。
「あんな亜人女と結婚する気なんかないわ。あんなのは方便よ」
御影はさらりと言った。
「でも、道術契約をしたじゃないですか」
美小淋との結婚を否定した御影に、鳴智が少しだけ意外だという表情になった。
「それよりも床を掃除しなさい、鳴智。ここは侍女を送り込めないから困るのよね。大王の側女を侍女代わりに連れてくればいいんだけど、まさかここで女と抱き合っていた痕を見られるわけにはいかないしね。大王に告げ口でもされたら面倒だわ」
御影はこの執務室にある卓の前の椅子に座ると、引き出しから布を取り出して床に放った。
それを受け取った鳴智が四つん這いになって床を拭き始める。
床には、美小淋と御影の淫行の残痕がたくさん残っている。
「冷酷な女暗殺者が、そんな風に床に這いつくばって、男女の精を拭くなんていうのはいい眺めね。お宝がここにいたら、すぐに布じゃなくて、舌で掃除しろとくらい言い始めそうね」
御影は床の掃除を続ける鳴智に向かって笑った。
「なんでも命令したらいいでしょう……。わたしには逆らえないんだから」
鳴智が少しだけむっとした顔で言った。
そのあいだも手は動き続けている。
この女はいつも感情を押し殺している。
鳴智が感情を曝け出すのは、いまのように腹をたてたときや、被虐責めに遭っているときくらいだ。
だから、御影も好んで鳴智をいじめるのかもしれない。
しかし、この女を絶対的に信頼していることは確かだ。
『服従の首輪』や新しく作らせた『服従の鎖』のような霊具作りくらいしか使い道のないお宝なんかよりも、この鳴智はずっと重要な仕事を簡単にやってのける。
「……いずれ、美小淋はお前に始末してもらうわ。いまはまだいいけどね……。結婚の儀をしてしまえば、美小淋が生涯の伴侶だとあたしの心が縛られるから、それはできなくなるけど、道術契約なら別よ。結婚の儀の前に契約の相手が死んでしまえば、結婚の儀はできないわ」
御影は床を拭いている鳴智の背に向かって言った。
美小淋と道術契約を結んだ瞬間に、美小淋を最終的には処分することを考えた。
道術契約というのは道術遣い同士の魂の結びつきであり、その死によって約束した刻みから逃れられるわけではないが、相手が死んでしまえば結婚の儀はできない。
それに比べれば、美小淋は、御影の野望に協力すると道術契約をしたので、御影の大願成就まで美小淋は裏切ることはない。
だから、まだ生かしておいていい。
あの女もしばらくは役に立つ。
「あら? 美小淋をすぐに暗殺しろと命じるわけじゃないんですね? そうするものだと思っていましたけどね。お宝を処分するように美小淋から要求されたし……」
鳴智が皮肉な表情を浮かべて立ちあがった。
床はきれいになっている。
だが、御影はなんとなくだが、鳴智には隠していることがある気がした。
この鳴智とも長い付き合いになってきた。
無表情だが考えていることは少しはわかるのだ。
御影は小さく嘆息した。
「いまの指示に関連することで知っていることを言うのよ……。命令よ」
鳴智の口が開いた。
「命令」をすれば、この鳴智は黙っていようと思っていることでも、口を開かざるを得ない。
だが、そうされない限り、この鳴智は絶対に御影の不利になることでも黙っている。
その態度は本当に頑なだ。
もっとも、その原因を作ったのは御影だ。
鳴智の首にある服従の首輪の性能を試すために、鳴智の夫だった
あんな役立たず、鳴智としても死んでほっとするのではないかと思ったものだったが、それにより、鳴智は完全に心を閉ざしてしまった。
しかし、当時の桃源は御影から見ても、目に余るほどの体たらくだった。
魔域で囚われとなった不安を酒に逃げ、そして、御影に重用される鳴智におかしな八つ当たりをするだけの迷惑な男だった。
しかし、あんな男を鳴智は大事に思っていたのだろう。
これほどの女がこんな男にとも思ったが……。
とにかく、それ以来、鳴智の扱いは本当に困っている。
だが、鳴智を処分することはできない。
こんなに有用な部下は御影もほかに知らない。
「……美小淋を始末すること自体は難しいことではありません。でも、あの女宰相は馬鹿ではありません。あなた方の周辺にひそかに手の者を配置しています。そして、見張らせています。また、もしも、美小淋が不慮の死を遂げれば、すぐに、あなたの悪事が雷音院で明らかになるような処置もしています。告発の映像を霊具に刻んで、それをある場所に隠しているのです」
鳴智が言った。
御影はびっくりしてしまった。
「な、なんですって?」
慌てて周囲を見回した。
この会話も美小淋に知られたのか──?
「さすがに後宮は大丈夫ですよ……。美小淋もここには手の者は送り込めません。ここは雷音大王の聖地のようなところですから……。でも、あなたの屋敷や雷音院の執務室……。そういう場所に美小淋は手の者や監視の霊具を置いています」
「監視の霊具が?」
「目障りなのは排除しましたけどね。いずれにしても、あの女はしたたかですよ。あの女自身は道術契約で裏切らないと約束したかもしれませんが、すでに彼女の意を汲んで動く者があなたに配置されているんです。そして、その者は、おそらく美小淋の指示を仰がずに行動します。つまり、そういう指示を与えられているんです──」
「ちっ、あの売女が……」
御影は舌打ちした。
「要はあなたと似たようなことをあの美小淋もしているということです。美小淋が結んだ道術契約もあなたの大願成就に協力するというものですが、あなたが死ねば、やはり、意味のないものになります……」
「同じようなことを考えているということね……」
「まあ、この際、そのまま結婚の儀を結んだらどうですか? わたしが観察している限り、あの女はあなたが裏切らない限り、裏切らないと思いますよ。ただ、あなたが裏切れば、それも辞さないだけです。あなたと美小淋が結婚の儀を結んで、お宝が口惜しそうな顔をするのを想像するだけで、わたしは喜びます」
鳴智がわざとらしく笑った。
その笑い方は、意図的に御影を不快にさせようとしている感じだ。
御影はむっとした。
「……下袍を下着を脱いで、こっちにおいで……。命令よ」
御影は言った。
鳴智がぎょっとした表情になった。
だが、すぐにそれを無表情の仮面に押し隠した。
鳴智がその場で下袍と下着を脱いで床に置く。
持っていた布も放した。
そして、上半身だけに服を身に着けているという破廉恥な恰好で、卓を回り込んできて、御影の前に立った。
「股を開きなさい。そのまま動かないのよ……」
すっと開かれた鳴智の股間に御影は指を伸ばした。鳴智の肉芽を探して柔らかく揉んでやる。
するとすぐに鳴智の陰核は大きく膨らんで勃起してきた。
「あっ……な、なんのために……こ、こんなこと……」
顔を上気させた鳴智が恥辱に顔を歪めた。
「なんのためかしらね……。考えてみれば、お前とも長いけど、まともに性交だけはやっていない気もするわね。珍棒は何度も奉仕してもらったけどね……。お前のような扱いにくい性格の人間族の女を飼っておくよりも、さっさと性交して、お前の影法師を作って仕事をさせておいた方がいいんじゃないかしら……」
「うっ、くっ、ああ……」
あっという間に鳴智の股が濡れてくる。
御影は鳴智野又を愛撫しながらくすくすと笑った。
「ふふふ……。そうすれば、お前の暗殺術の能力はその影法師が持つし、しかも、あたし自身だから、さっきのように、大事な情報を握っているのに、意地悪して教えてもらえないなんてこともないしね……。そのときは、お前なんて用無しよ。さっさと殺してしまおうかしら……」
御影は鳴智の股間を刺激しながら言った。
「だ、だったら、さっさと殺せば……い、いいじゃ……な、ないですか……。あっ、ああ……」
鳴智が声を震わせながら言った。
また、必死になって喘ぎ声を出すのを耐えようとしているようだ。
だが、御影も女を相手の手管は一流だ。こんな女を達しさせるのにそんなに時間は必要ない。
鳴智の股間はあっという間に蜜が溢れるほどになった。
御影はその女陰にすっと指を入れる。
そして、膣の中の手前の土手の部分を強く擦ってやる。
「あっ、あああっ──」
すぐに鳴智がぶるぶると身体を震わせて膝をがくりと落とした。
「他愛ないものね」
御影はわざとらしく侮辱して、鳴智の股間から指を抜いた。
その指を鳴智の頬に擦りつけて拭く。
鳴智の顔が恥辱に歪むのがわかった。
「お前を犯したいけど、美小淋を相手に三度も精を出しちゃったから難しいわね……。今度にするわ。殺すのもね……」
御影は言った。
そして、また鳴智の股間に手を伸ばす。
再び肉芽をゆっくりと擦っていく。
さすがに、鳴智がはっとした表情になった。
「……今日中に美小淋があたしの周辺に配置しているものは処分しなさい。命令よ。お前のことだから、すでに手は打っているんでしょう? それと美小淋が隠している告発の道具というのもなんとかしなさい。いいわね……」
御影は鳴智の股間を刺激しながら言った。
今度はすぐに達してしまうような刺激ではない。
だが、鳴智の息を荒くするには十分な愛撫だ。
「あっ……はあ……で、でも、び、美小淋は妹の身体に……告発球を隠している……んっ……ああ……です……。道術なんで……わ、わたしには……」
鳴智が吐息混じりの声で言った。
「身体の中に……?」
「え、ええ……」
鳴智がうなずいた。
体内に物を隠すというのは、道術としては特殊な部類に入る。
それができる道術遣いは多くはないだろう。
だから、隠し場所としては有用なのだ。
御影自身もそれを取り出す能力はない。
道術遣いでもない人間族の鳴智には不可能だ。
「お宝に……。いえ、無理ね……」
お宝は、宝玄仙と同じだけの霊気を持つものの、お宝の道術はかなりの制限がある。
他人の体内に手を入れるというのは一種の攻撃道術にもなる。
他人をそれで傷つけることができるからだ。
だから無理だと思う。
御影は咄嗟にはどうすればいいか思いつかなかった。
「どうすればいいと思う?」
御影は何気なく鳴智に訊ねた。
「ほ、宝玄仙の供に……しょ、朱姫というのがいます……。そ、それを捕えてきて、やらせれば……、ああ、ああ……、ああ……」
鳴智には、お蘭の影法師としてやった摩雲城の工作について承知させている。
だから、朱姫が素蛾の操り状態に陥っているという状況を承知しているのだ。
「朱姫はその道術が遣えるの?」
御影は知らない。
宝玄仙たち一行の旅について、ずっと調べさせていたのは鳴智だ。
しかも、鳴智は訊ねたこと以外に絶対に喋らず、進んで説明するということがないので、自然と御影も宝玄仙たちについて最小限度の知識しか得られないということになる。
「うっ、くっ、遣えます……。も、もちろん、宝玄仙も遣えるとは思いますが、宝玄仙は危険です……。あっ、はっ、ああっ、宝玄仙に手を出した者はすべて最後には不幸な結果に陥っています……。と、ところで……、そ、そろそろ、ご、ご勘弁を……」
鳴智は喘ぎながら言った。
会話のあいだ、ずっと御影の指は鳴智の股間を愛撫している。
鳴智は、上気した顔にかなりの汗をかいていきた。
股間をいじられながら、喋らせられるのが屈辱そうだ。
御影は、鳴智の肉芽を激しく擦ってやった。
「あぐううっ」
鳴智の身体がぴんと伸びて、大きな嬌声がその口から迸る。
「お前はあたしが宝玄仙に手を出すのに反対なの? もういいわ。これ以上すると、淫乱なお前は達しそうだし、そこまでご褒美をあげる理由もないわね」
御影は指を離した。
多分、昇天する寸前だったと思う。
そこでやめたことで、ちょっとだけ鳴智が口惜しそうな顔になった。
しかし、すぐに真顔で感情が隠れる。
だが、まだ息は荒い。
「き、危険だと申しあげているだけです……。それに、正直にいえば、なぜ、あの宝玄仙にあなたが執着なさるのかわかりません。もう、放っておけばいいのでは?」
鳴智は言った。
だが、御影は鼻を鳴らした。
御影自身も宝玄仙に固執する自分の感情はわからない。
確かに、鳴智の言うとおりに、宝玄仙に関わる意味はないのだ。
宝玄仙の魂から分離された“ふたつの宝”を手に入れることは重要だが、それと宝玄仙自身を捕えることは別だ。
それはわかっている。
だが、御影は宝玄仙を手に入れたい。
あの女を牢に繋ぎ、思うのまま犯して苛め抜く……。
それを想像しただけで全身が愉悦に震える──。
意味のない執着──。
そう評価されれば、その通りなのだろう……。
しかし、御影は宝玄仙への執着を捨てられない。
どうしてもだ──。
「なるほど……。まあいいわ。そっちはすぐに手を打たなくても……。すぐに美小淋を始末するわけじゃないしね……。でも、見張られているのは不愉快よ。それはすぐに処分しなさい」
「は、はい……」
「それと……」
御影は卓の引き出しから、一個の小瓶を取り出した。
「……これは、どんな道術遣いでも、一定時間、霊気が麻痺して道術が遣えなくなる薬よ。道術遣いなら全身も弛緩してしまうわ。この道術封じの枷も持っていきなさい──。お宝を処分しておいで──。殺す必要はないわ。ただ、無力化して、屋敷の地下牢に監禁すればいい……。どんな風に扱うかはお前に任せる……。ただし、あたしが命じたということは秘密にしなさい。もしかしたら、まだ使い道があるかもしれないから……」
御影は鳴智にその小瓶と卓の上にあった道術封じの枷を押しやった。
鳴智が大きく目を見張った。