そのときだった……。
得体の知れない違和感──。
「上──」
孫空女ははっとして、声をあげた。
「上?」
しかし、宝玄仙はきょとんとしている。
その宝玄仙の顔に、突然に真っ黒い布が落ちてきて、くるくると巻きついて、宝玄仙の首から上をすっぽりと包んだ。
「うわっ」
その直後、まるで糸人形の糸が切れたように、宝玄仙が崩れ落ちた。
同時に、孫空女背中側で密着していた
両脚も自由になる。
孫空女は樹木から外れて。地面に投げ出されるかたちになった。
「な、なんだい? なにが起こったんだい?」
布の下から狼狽えた声をあげた宝玄仙が、手で布をむしろうとした。
だが、布に手がかかりそうになると、がくりと宝玄仙の両手が力を失ってだらりと垂れる。
おかしな感じだ。
どうやら、宝玄仙はあの布に触れると、力を失ってしまうようだ。
そして、樹木の上から飛んできた縄が宝玄仙の両手首をまとめるように巻きつき、さらにぐいと持ちあがって、宝玄仙の身体を引きあげた。
宝玄仙は、黒い布に顔を包まれたまま、樹木の上から両手首を吊られる体勢になった。
縄が引きあがる。
宝玄仙の両脚が地面からほんの少し離れた。
そこでやっと縄の引き上げがとまった。
道術──?
いや、間違いなく道術だ。
さもなければ、布や縄が勝手に動くなどあり得ない。
「だ、誰だ?」
孫空女はとっさに身構えた。
樹木の上に誰かいる──。
茂った葉に隠れていてわからないが、何者かが樹木にいるということだけはわかる。
その樹木の葉ががさがさと揺れ、黒い装束に身体を包んだ美女がふわふわと降りて来た。
やっぱり道術だ……。
孫空女は得体の知れない女の出現に眉をひそめた。
「相変わらず、あたしの『霊気封じの布』には弱いわね、宝ちゃん。これを身体に触れさせれば、それだけで、道術が遣えなくなるのよね。そうやって、たっぷりと調教してあげたものよねえ……。久しぶりだけど、あたしのことを覚えている?」
女は宝玄仙と同じ真っ黒い髪をした美人だった。
その女は地面に降り立つと、両手を引きあげられて宙吊りになっている宝玄仙の前に立った。
「そ、その声は……、く、
宝玄仙が口惜しそうに言った。
黒女……?
御影……?
誰かわからないが、どうやら、この女が宝玄仙の頭にかけた黒い布のために、宝玄仙は道術を封じられてしまったようだ。
それで、突如として孫空女は自由を得ることができたに違いない。
とにかく、孫空女は、性交の余韻の気だるさにに耐え、樹木から少し離れたところにある荷の場所に駆けた。
そこに沙那が外した剣があるのだ。
沙那は、村に買い出しにいくときに、剣は持ってはいかずに置いていっていた。
その剣を取り、鞘を抜く。
「だ、誰だ、お前──?」
孫空女は剣を抜いて叫んだ。
そのとき、孫空女はあれだけ苦しめていた痒みが消失していることに気がついた。
いや、正確にいえば、少しのむず痒さは残っているが、これなら十分に我慢できる程度だ。
「落ち着きなさい、あんた……。あたしは、別にあんたと戦うつもりはないのよ。あんたも、このあたしと同じで、この狂い巫女の犠牲者なんでしょう? ほら、これをあげるわ」
黒女と呼ばれた女が木製の小さな薬壺を投げた。
孫空女はそれをとっさに手に取った。
「……宝玄仙の痒み剤を無効にする解毒剤よ。もっとも、宝玄仙の薬剤は、こいつの道術で増幅してあるから、霊気が消失したいまでは、痒みはすでに、かなり効果が低くなっていると思うけどね」
黒女が言った。
霊気というのは、道術の源であり、不思議な術の原動力のことのはずだ。
道術の遣えない孫空女だが、それくらいの知識はある。
やっぱり、あの宝玄仙の顔に巻かれた布が、宝玄仙の道術を封じているのだ。
いずれにしても、この黒女という女は、敵ではないらしい。
孫空女は剣を手にしたまま、その場にしゃがみ込んで解毒剤という油剤を局部に塗ってみた。
残っていたむず痒さもすっと消えていく。
慌てて、孫空女は乳房にも解毒剤を塗っていく。
「な、なんで、お前がここにいるんだよ、黒女……。いや、御影……」
宝玄仙が呻いた。
その声はひどく苦しそうだ。
おそらく、両手だけで宙吊りになっているので、かなり痛いに違いない。あるいは、完全に道術が遣えない状態というのは、宝玄仙の身体になんらかの苦痛を与えているのかもしれない。
とにかく、宝玄仙はすでにかなり弱っている感じだ。
「別にどうということもないわ。あなたの罠で帝都で処刑されたけど、こうやって復活したということだけよ。もっとも、いまさら天教には戻れないし、とりあえず盗賊団に身を寄せただけのことね。わたしこそ、五行山みたいな辺鄙な場所に、あんたがやってくるなんて驚いたわ。あんたこそ、なにやってんの?」
「お前の知ったことかい、御影──」
宝玄仙が吐き捨てた。
とにかく、このふたりはよく知っている間柄の感じだ。
それにしても、宝玄仙は、この女のことを“黒女”と呼んだり、“御影”と呼んだりする。
なぜだろう──?
御影というのは、男の名前のような気がするのだが……。
「とにかく、こんなところで会ったんだから、また、昔のようにあんたを調教してあげるわ。いつぞやは、あんたの罠のために、雌犬調教が途中だったからね」
「ふざけるんじゃないよ。このわたしを調教しようなんて、舐めたことするから、殺してやったのさ。まだ、懲りないのかい、御影」
宝玄仙が悪態をついた。
一方で孫空女は呆れる思いだった。
どういう関係なのか検討もつかないが、調教だの、雌犬だの、この女も宝玄仙と同じ変態の気配がする。
そのとき、今度は四方から、大勢の人間が出てくる気配がした。
孫空女は慌てて、しゃがんだまま剣を持ちなおすとともに、空いている片手で乳房を隠し、片膝をあげて裸身を隠すようにした。
「おう、そこにいるのは、孫空女じゃねえか。随分と涼しそうな恰好をしていじゃねえか」
現われたのは、十人ほどの子分を率いた
孫空女が率いていた盗賊団が、五行山の東側が縄張りだったのに対して、眼看は、こっちの西側を縄張りにしている盗賊団の頭領だ。
孫空女が東側の盗賊の女頭領になって以来、なにかとちょっかいを出してきたりしていたが、その都度、こっぴどく懲らしめてやった。
だが、よりにもよって、こんな格好をしているときに出逢ってしうとは……。
孫空女は歯噛みした。
「どうやら、
寅将軍というのは、孫空女のいた盗賊団の副頭領みたいな立場の男であり、身体が大きくて力が強いだけが取り柄の能無しだ。
もちろん、あだ名であり、虎の模様を思わせる傷痕が両頬にあり、身体が大きいからそう呼ばれてる。
もっとも、腕っぷしでは孫空女が上回り、孫空女がしっかりと手綱を抑えていたのだが、昨夜の今日で、もう頭領の座を奪ったつもりで、眼看に使いをやっていたらしい。
そういえば、昨夜の輪姦のときも、寅の野郎は混じっていたか……。
調子に乗ったあいつに、尻の穴まで犯されたような……。
そして、眼看たちが、それぞれの得物を抜いて、素裸の孫空女ににじり寄って来た。
「そ、それ以上、近づくな。あたしの強さを知っているだろう?」
孫空女は、座ったまま必死に裸体を隠し、取り囲んだ男たちに剣を向けた。
座ったままでいるのは、素っ裸だからというのもあるが、さっき激しく達したばかりなので、まだ腰にうまく力が入らないのだ。
「まあ、そう言うなよ、孫空女。ちょっとばかり、いい思いをさせてくれよ。寅野郎ばかりずるいじゃねえか。まあ、悪いようにはしねえよ」
眼看が舌舐めずりするような声を出し、さっと手をあげた。
「警告したよ……。それ以上近づけば容赦しないからね」
孫空女は凄んだ。
「大人しく犯される気はねえようだな……。よし、捕まえろ、お前ら──。手足は斬ってもいいが、股には傷つけるな。全員で犯し終わるまで、生きてもらわねえとならないしな」
槍を持った男がふたり、突きかかってくる。
孫空女は剣で跳ねあげて、次の瞬間、そのふたりを斬り倒した。
血しぶきをあげて、地面に彼らの身体が倒れる。
「やりやがったぞ」
誰かが驚くように叫んだ。
「当り前だよ。さっさと消えな。どいつもこいつも、殺すよ。あたしに二言があると思うんじゃないよ」
孫空女は立ちあがった。
こんな連中、束になったところで孫空女の敵じゃない。
血がたぎれば、絶頂の余韻など気にならない。
孫空女は、周囲を囲む眼看たちに向かって、血のついた剣を突き出した。
そのとき、樹からぶらさげられている宝玄仙の前にいる黒女が笑い声をあげた。
「ふふふ、加勢してあげるわ、眼看……。霊気を持っていない孫空女とやらに直接ぶつける道術はないけど、生のない“物”であれば、むしろ、霊気が染み込んでいるのよね」
さっと手を伸ばしたと思った。
次の瞬間、孫空女の持っていた剣が、突然に弾き飛ばされて、遠くに飛んでいった。
「うわっ、く、くそおっ」
空身になった孫空女は、痛みの走った手首を押さえて叫んだ。
見えない力が加わって、孫空女の手から剣をもぎ取っていったのだ。
「しめた──。こうなりゃあ、こっちのものだ。全員で身体を押さえつけろ」
眼看が声をあげた。
男たちがわっと駆け寄って来る。
孫空女は跳躍した。
男たちの頭を飛び越えて、輪の外に出る。
そのまま駆ける。
「えっ?」
駆けた先は、黒女の前だ。
黒女の当惑した声がした。
構わず、首を掴む。
力の限り横に捻った。
ぼこりと音がして、首の骨が折れる感触が伝わった。
「黒女殿──」
崩れ落ちる黒女の姿に、眼看たちが悲鳴をあげた。
これで邪魔する者はない。
孫空女は再び眼看たちに飛びかかった。
手近な男の顔を宙で膝蹴りする。
倒れる男から剣を奪い取る。
背中──。
後ろから襲い掛かったひとりを振り向きざまに袈裟斬りにする。
「うぎゃああ」
さらに跳躍する
目の前に三人──。
全員を斬った。
残りは四人──。
明らかに怯えている。
孫空女から距離をとるように、そいつらが離れた。
逃げ腰になっている眼看に向かって、持っている剣を投げつけた。
「んがあっ」
剣はものの見事に眼看の喉に当たり、そのまま倒れる。
残りは、一目散に逃げていった。
立っているものがいなくなると、孫空女は大きく息を吐いた。
孫空女が斬った男たちは、全員が致命傷を受けて、すでに死んでいるか、あるいは、死にかけているかだ。
いずれにしても、すぐに全員が屍体になるだろう。
とりあえず、倒れている男から、血の付いていない
やっと、素っ裸から開放されて、ほっとした。
「……そ、孫空女……」
そのとき、宝玄仙の弱々しい声がした。
振り返ると、宝玄仙の下で、崩れ落ちた格好のまま、黒女がなにかをぶつぶつと呟いているのがわかった。
孫空女は、投げた剣の代わりを拾って、ゆっくりと近づく。
「……ざ、残念よ、宝ちゃん……。あんたを調教しなおしてやろうと……思ったのにね……」
孫空女がやってくると黒女が宝玄仙に言った。
「ふん──。わたしの供は強いだろう……。二度と近づくんじゃないよ、御影」
宝玄仙が宙吊りのまま、布に包まれたくぐもった声で言った。
孫空女は、足で蹴って黒女の身体を仰向けにすると、心臓に向かって剣を突き下ろした。
黒女から生の気配が消滅する。
「……もう、近づけないよ。この女は死んだからね」
孫空女は宝玄仙に言った。
「い、いや……。お前が斬ったのは、御影の影法師だよ……。そのひとりで黒女と名乗っているが、あいつの分身のひとりだ……。『分身術』が御影の得意でね……」
「分身術?」
「御影は、自分以外に、いくつかの分身を作れるのさ。それを離れた場所から操る……。それが、『分身術』だ……。本体の御影は、多分、ずっと離れた場所にいると思う……。いずれにしても、お前が分身を斬ったおかげで、本体との接点は消滅したようだね……」
「御影って、誰だよ?」
「わたし同様の天教の男法師さ。もっとも、破門になって処刑されたけどね。だけど、道術で生き返ったんだろうさ。まあ、わたしに恨みを持っているのは確かだね……。とりあえず、ひと先ずは、これで大丈夫さ……。感謝するよ……。ところで、そろそろ、おろしておくれ、孫空女」
よくわからないが、天教の法師にも、どうしようもない連中が多いようだ。
この宝玄仙といい……、御影とかいう男といい……。
まあいい……。
もう、孫空女には、関係ない話だ……。
こんな変態巫女とは、これでお別れだ。
しかし、その前に、仕返しだけはしないと、気が収まらない。
「気安く、あたしの名前を呼ぶんじゃないよ、宝玄仙……」
孫空女はにやりと笑って、剣先で宝玄仙の白い腿をすっとなぞった。
宙吊りの宝玄仙の脚に赤い線が走る。
「ひぎいいっ、い、痛いじゃないか、孫空女──」
宝玄仙が悲鳴をあげて、脚をばたつかせた。
「さて、どこから刻んで欲しい、宝玄仙……。ゆっくりと殺してやるよ。あんたは、その黒い布で包まれると、道術が遣えなくなるんだろう? まずは、そのでかい乳房からいこうかな……。それとも、足首だけ切断して、放っておいてやろうか。血がだんだんと下から抜けていって、自分が弱まっていくのを感じながら死んでいけるよ」
孫空女は今度は剣の腹で、宝玄仙の足首を叩いてやる。
宝玄仙が、またもや悲鳴をあげた。
気持ちいい……。
このひと晩で味わわされた恨みつらみが、一気に消滅する気がした。
孫空女は笑い声をあげてしまった。
「お、お前、わ、わたしを殺すつもりじゃないだろうねえ?」
宝玄仙が怯えた声で言った。
「殺すつもりじゃないだろうねだって? お前、それを質問しているのかい? 当たり前のことを訊くんじゃないよ、宝玄仙。あたしは、あんたを殺すかどうかなんて、迷っていないよ。どうやって、殺すのかを迷ってんだ」
「じょ、冗談じゃない……。そ、そうだ。お前、身体に異常はないのかい? 御影の影法師の黒女が死に際に、呪文を唱えていたよ……。あれは、お前の身体になにかの霊気の入口の紋様を刻んだように思ったけどね……。道術を仕込む紋様を刻まれて、悪意のある霊気を入れられていないかい? 早くわたしをおろして、ちょっと身体を見せるんだ。あいつも、わたしと同じことができるんだ」
宝玄仙が言った。
孫空女は鼻を鳴らした。
「その手には乗らないよ、宝玄仙」
孫空女は応じた。
そのとき、ふと足元に、随喜油の容器があることに気がついた。
孫空女はにやりと笑った。
そして、指にたっぷりとその薬剤を載せると、宝玄仙の股に指を入れて股間に塗る。
「ひゃああっ、うわっ、お、お前、なにしてんだよ?」
「なにしてんだよじゃないよ。あんたにも、随喜油を塗ってやろうと思ってね……。あたし自身が殺してやりたいと思ったけど、それじゃあ、沙那に悪いさ。あんたを殺す役目は沙那に任せるよ……。それよりも、もっと、股を開くんだよ。股に薬が塗れないじゃないかい」
孫空女は笑いながら薬を足していく。
しかし、宝玄仙が必死になって、脚を閉じ合わせて妨害をしようとする。
仕方なく、孫空女は後ろに回った。
「ちょ、ちょっと待つんだ。な、なんで、後ろに行くんだい? し、尻に触るんじゃないよ」
そのとき、宝玄仙がひどく動転した声をあげた。
孫空女は、そういえば、輪姦のとき、宝玄仙がやたらに尻を触られるのを嫌がっていたのを思い出した。
そんな記憶がかすかにある。
「へえ……そんなに尻に塗られたくないのかい、宝玄仙? だって、股に塗るのを脚で邪魔するから仕方ないじゃないかい……。幸いにも、尻たぶは手でめくれば簡単に、尻穴に触れるしね」
孫空女は片手で宝玄仙の尻を掴むと、ぐいとめくってやる。
宝玄仙は悲鳴をあげた。
「わ、わかった……。あ、脚を開く。だ、だけど、尻は嫌なんだ。や、やめるんだよ」
宝玄仙が脚の力を抜いて、わずかに開くようにした。
孫空女は、ちょっと驚いた。
だが、余程に尻に薬剤を塗られたくないのだと悟った。
孫空女はにんまりとしてしまう。
「へえ、そんなに嫌なんだね? 尻に触られるのが……」
孫空女は薬剤を塗っていない指でちょんと宝玄仙の菊座を触ってやった。
「あ、ああっ、んあああっ」
すると、宝玄仙がこっちが驚くくらいに大袈裟に身体を左右に振って、激しい悶え声をあげた。
孫空女は思わずたじろいでしまった。
同時に、なんで、宝玄仙がそんなにお尻に触られるのを嫌がるのがわかった。
どうやら、宝玄仙は、お尻の穴が異常に感じてしまう体質のようだ。
「ここは、あんたの性感帯かい? それなら、そうと教えておくれよ。たっぷりとこの薬剤を塗ってやるからね」
孫空女は今度は薬剤を塗った指をお尻の穴に突っ込んでやった。
宝玄仙がけたたましい声をあげて、身体を弓なりにした。
すごい反応だ……。
それにしても、宝玄仙のお尻はまるで膣そのもののように柔らかくて、しかも、熱かった。
孫空女はちょっと驚いていた。
「や、やめておくれ……。そ、そこだけは嫌なんだ……。ねえ、孫空女……。お願いだから……」
すると、今度は宝玄仙が急に哀願するような声を出してきた。
これには、孫空女もすっかりと満足感を覚えることができた。
もっと、恥をかかせてやろう……。
孫空女は、思い切り、宝玄仙の尻を平手ではたいた。
「……あふうっ」
宝玄仙が激痛に声をあげた。
「それが人になにかを頼むときの言葉遣いかい、宝玄仙? あたしのことをご主人様と言ってみな。あたしに向かって、奴隷の言葉を使うんだ」
孫空女は笑った。
「くっ、お、お前、こ、こんなことをしてただで済むと思ってるんじゃあ……」
宝玄仙が憎々し気な声を出した。
「じゃあ、その気になるまで、ひっぱたいてやるよ。あたしの力は強いからね」
孫空女は平手で宝玄仙の尻たぶを叩いた。
宝玄仙が音をあげるのに、三発しかかからなかった。
「いぎいっ、わ、わかった。ご、ご主人様、もう、やめてください」
宝玄仙が泣き声をあげる。
そのお尻は、孫空女に叩かれて真っ赤になっていた。
「ほかになにをやめて欲しい、宝玄仙?」
孫空女は再び薬剤を指にもって、宝玄仙の肛門に当てた。
「う、うわあっ──。そ、それも嫌です、ご主人様──。お、お尻にはどうか、随喜油は……」
「お尻だけは嫌なんだね、宝玄仙?」
「は、はい、い、嫌なんです……。ねっ、お願いですから……」
愉しい……。
世の中にこんなに面白いことがあるだなんて……。
孫空女は、必死になって、孫空女に哀願する宝玄仙の姿を見て、心の底からそう思った。
「……だったら、薬剤の残りを全部、股に塗るよ。それでいいね、奴隷?」
「ど、奴隷……?」
宝玄仙がむっとした声を出した。
孫空女は無言で、尻穴に薬剤を塗り足してやった。
「いやあっ、や、やめて──。そ、それは塗り足せば足すほど、痒くなるんだよ──。わ、わかりました。わたしは奴隷です。孫空女様の奴隷です──」
宝玄仙は大声で言った。
孫空女はいつの間にか、大笑いをしてしまっていた。
しかし、もう少し遊んでいたけど、このくらいが潮時だろう。
「わかったよ、宝玄仙。でも、あたしは、やっぱり、残りの薬剤を全部、あんたの尻穴に詰めることにするよ。沙那に殺されるまでの短い時間、せいぜい、尻穴の痒みにのたうち回るといいよ」
「ひ、卑怯者──」
宝玄仙の怒りの声が響き渡った。
孫空女はその声を心地よい音楽のように耳にしながら、次々に指で薬剤をすくっては、宝玄仙のお尻の詰めていく。
宝玄仙の怒声が、甘い喘ぎ声に変化するのに、いくらもかからなかった。
*
歩くたびに、触手の粘液が膣と肛門を舐めつけられる。
それは地獄のような快感だった。
「う、うううっ」
沙那はまたもや、達しそうになり、近くの立ち木に思わずもたれかかった。
しかし、意地の悪い下袴の触手は、沙那の絶頂の寸前でぴたりと動きをとめる。
沙那は恨めしさとともに、樹木から手を離した。
この状態のときに、少しでも距離を稼がなければ、いつになったら、宝玄仙たちのところに戻れるかわからない。
沙那は山道を登り始めた。
宝玄仙たちを別れて五行山と降り、村でなんとか買い物をするまでは、ここまで触手の責めは酷いものではなかったのだ。
しかし、山を登り始めた途端に、状況が一変した。
触手の責めが容赦のないものに変化して、沙那は満足に歩くこともできなくなってしまったのだ。
おそらく、これは宝玄仙のあらかじめの細工だろう。
村で買い物をするまでは、少し手加減をするように設定し、宝玄仙のところに戻る頃合いになるのを待って、本格的な責めを開始させたということに違いない。
それにしても、本当に底意地の悪い霊具の下袴だ。
股間の内側の触手は、絶対に沙那を快感の極みに達しさせないくせに、快感だけはどこまでも上昇させるのだ。
淫靡な触手は沙那から愛液を搾り取るために、沙那の股間を狂おしい刺激を与え続け、そして、沙那が快感に達しそうになると、ぴたりと動きを止める……。
しかも、そのあいだに、触手の表面から媚薬の放出をやめるわけではないのだ。
だから、沙那の身体はどこまでも敏感になり、ますます感じやすくなる。
そして、触手責め……。
だけど、寸止め……。
沙那はその責めをもう百回以上も繰り返させられていた。
すでに、頭は朦朧として、なにも考えられない。
白い下袴の股の部分は、すっかりと沙那の体液でびしょびしょになり、まるでおしっこを漏らしているみたいに、ぽたぽたと道に滴をたらしている、
ここが旅人の少ない五行山の山街道でよかったと思う。
さもなければ、こんな恥ずかしい姿で道を歩くなど、とても耐えられるものじゃない。
「ああ、またっ」
沙那はびくりとして、足を竦ませた。
またもや、触手が活発にうごめき始めたのだ。
とにかく、歩く……。
沙那は懸命によろける脚を進ませた。
だが、これは……。
膣に……。
肉芽に……。
お尻に……。
容赦のない触手の同時責めに、沙那の脚はまたもや静止した。
いく……。
沙那は身体を仰け反らせた。
「ああっ」
しかし、またしても、触手はぎりぎりの寸止めで動きをやめた。
沙那は、絶望の声をあげてしまっていた。
いくにいけない。
いけないのに、快楽だけがどんどんと詰みあがる……。
それは、まさに淫情の地獄だった。
沙那は、泣きそうになるのに耐えて、再び脚を進めた。
「と、とにかく……戻れば……」
沙那は呟いた。
戻れば、なにがあるというのか……。
沙那は自分の言葉に歯噛みした。
しかし、口惜しいが、もう沙那はたったひとつのことしか考えられなくなっている。
早く戻って、宝玄仙にこの寸止めの苦しさを開放してもらいたい……。
戻れば、この寸止め地獄を許される……。
思うのは、そればかり……。
また、触手が動き出した。
沙那は知らず、嬌声をあげていた。
もう少し……。
「ああっ──。また」
だが、触手がぴたりと動かなくなった。
あと一瞬だけ動いてくれれば、沙那は達することができただろう。
いまいましさに、沙那は唇を噛んだ。
それにしても、なんという浅ましい身体に変えられてしまったのだろう……。
故郷の町で、女ながらも若くして地方軍の将校になった沙那は、実は、男性経験はおろか、自慰さえもしたことのない初心な女だったのだ。
軍人になったのは、沙那の両親が早世していて、身寄りのない沙那には、それくらいしか生きる道がなかったからだ。
しかし、軍で沙那の才能は花開いた。
武術に、軍の指揮、そして、用兵……。
将軍にも認められて、すぐに千人隊長という責任のある地位につくことができた。
順風満帆の軍人人生のはずだったのだ……。
だが、城郭にやってきた旅の帝都の女法師の宝玄仙の罠に嵌まって、人生は一変した。
彼女の旅の供という名の宝玄仙の異常な性癖を解消するための「性奴隷」にされたのだ。
宝玄仙に騙されて『服従の首輪』を嵌められた沙那は、その霊具の力によって、やってもいない盗みの罪を自白させられた。
そして、本来なら流刑となるはずのところを旅の護衛を兼ねた見習い巫女として連れていきたいという宝玄仙の申し出により、沙那の身柄は宝玄仙に委ねられることになったのだ。
本当の悪人はこいつだと言うこともできず、思ってもいない宝玄仙への感謝と謝罪の言葉を口にさせられる屈辱……。
寛大で慈悲深い巫女と感嘆される宝玄仙の横で、盗みを働いた女として蔑まれながら、生まれ育った城郭を出発したときの惨めさ……。
こうして、宝玄仙との旅が始まった。
そして、『服従の首輪』に支配され、逃げることのできない肉欲地獄……。
それが始まった……。
さっき孫空女に塗った「随喜油」を初めて使われたのは、故郷を離れてすぐだった。
武道着と革の具足の下につけていた股布は、街道に出た途端に剥ぎ取られた。
そのときに、さっき孫空女に使ったのと同じ痒み剤を塗られたのだ。
薬が効いてくると猛烈な痒みが沙那を襲って、満足に歩けなくなった。
しかし、『服従の首輪』をつけている沙那に、宝玄仙は歩き続けるように“命令”した。
発狂するような痒みに耐えられずに、沙那は何度も宝玄仙に掻かせてくれと哀願したが、宝玄仙は愉しそうに笑うだけだった。
その日は、宿町の小さな宿に泊まったが、どうやってそこまで辿りついたのか、いまだに記憶がない。
そこで、宝玄仙にさんざんにいたぶられた後で、男根を生やした宝玄仙に処女を奪われた。
狂ったような大声で嬌声をあげていたはずだから、声が外に洩れないように、宝玄仙は部屋に結界を張っていたのだと思う。
だが、責めはそれで終わりではなかった。
宝玄仙は、沙那を犯し終わった後に、再び『随喜油』を股間に塗って、四肢を寝台に縛りつけて放置したのだ。
夜のあいだに気絶した沙那が、朝に目覚めると、股間の肉芯と乳首の根元になにかが嵌められていた。
それが『女淫輪』と呼ばれる淫具だ。
その瞬間以降、その股間と乳首に食い込んだ『女淫輪』は、沙那を性欲の疼きから一度も解放させることはなく、絶え間ない刺激を与え続ける。
いまでこそなんとか普通に行動できるし、剣さえも遣えるが、装着されてからしばらくは、満足に動くこともできなかった……。
そして、軍人をやっていた頃には、考えもしなかった恥獄を与えられた。
呼吸もできないほどの連続絶頂……。
人の多い宿の食堂で、右手で食事をしながら机の下の左手で隠れて行う自慰……。
媚薬で敏感にされた身体を果てしなく筆で擽られるくすぐり地獄……。
城郭の中で……。
街道を歩きながら……。
あるいは眠っているときでさえも、気まぐれで動かされる『女淫輪』……。
小便や大便さえも、沙那に屈辱を与える材料にされた……。
排泄器官としか考えていなかった肛門で快楽を貪ることも覚えさせられた。
また、股間の恥毛は剃毛をして、二度と生えないように薬剤をすりこまれた。
寝台に拘束され、媚薬を塗られた肉芽と乳首の淫具を糸で天井から限界まで吊るされて、ひと晩放置されたこともある。
そして、昨夜の輪姦──。
男に凌辱されることは屈辱ではあるが、それよりも沙那にとって恥辱だったのは、それを快楽として感じてしまった自分だ。
恥辱には慣れることはできないが、淫欲には慣れ始めている。
どんなに耐えようとしても、あの宝玄仙により必ず絶頂させられるのだ。宝玄仙の凌辱を愉悦として受け入れようとする自分が育ち始めていることも、諦めとして受け入れるようになっていた。
あの孫空女も、いつかはこの自分のようになるのだろうか?
きっとなるのだろう……。
宝玄仙によって快楽を貪る雌に陥された女が、自分のほかにもできるのだと考えると、彼女には悪いが、嬉しさのようなものもある。
ふたりなら、この理性とけだものの心に揺れ動く精神の拷問の日々にも、愉しさを見出せるかもしれない……。
どうせ、逃れることができないのなら、果てしなく落ちてもいい。
自分だけではなく、ほかにも地獄に落ちるそんな仲間がいるなら、それもいいとも思えた……。
それに、孫空女とだったら……。
それにしても、こうやっていかされないことがこんなにも苦痛とは考えもしなかった。
いまの沙那には、一刻も早く、宝玄仙のもとに戻り、彼女にこの身体を癒して欲しいと思っている。
それしか考えられなくなっていた。
沙那は、進んでは襲う触手の寸止め責めに耐えながら、ひたすらに歩き続けた。
もう少し……。
やがて、やっと出発した場所の近くに戻ってきた。
ここから街道を外れて少し進めば、宝玄仙と孫空女の待っている場所だ。
沙那は樹木の繁る小道を抜け、宝玄仙と孫空女が待っているはずの場所に到着した。
だが、そこにあったのは、思っても見なかった光景だった。
大勢の男たちの死骸が血の海の中に転がっている。孫空女らしき者はいない。
ただし、首から上を布で包まれた裸の女が、両手首を縄で束ねられて宙吊りになっている。
あれは、宝玄仙?
「なにがあったの……?」
沙那はしばらく呆然とそこに立ち尽くした。