宝玄仙は、部屋の脇の椅子に座り、卓の上にある菓子を口にしながら、朱姫とともに、
その部屋の真ん中では、全裸の
白骨は獣のように吠えながら、絶頂に達したかのような咆哮をあげている。
だが、一度も達してはいない。
達したように感じるだけで、一瞬後にはまったく達していないことを知覚する。
そういう責めをもう数刻続けられている。
気を失ってもおかしくはないのだが、朱姫の『縛心術』がそれさえも防いでいる。
毎日の拷問まがいの調教に加えて、夜ともなれば、天井からぶら下げられたまま、一晩中『魔蛭』を身体につけられて放置されている白骨は、掻痒と欲情に発狂寸前になっているだけじゃなく、満足な眠りさえ与えられていない。
今日で三日目になるが、白骨は最早生きる屍のような状態だ。
一切の反抗的な態度が消滅している。
三日目の今日に始まった朱姫による白骨への拷問もなかなかのものだ。
二夜連続で魔蛭の洗礼を受けた白骨は、朱姫により、朝になって、やっと宙吊りから解放されて、床に降ろされた。
もっとも、両手は背中で組まされ、後手縛りに縄で括られた。
床に降ろした狂乱状態の白骨に、朱姫は妖魔用の餌をすべて食べ、その後、十全の前で大便と小便をしろ命じた。
そうすれば、痒みを取り除いてやると――。
白骨は、躊躇わずに両方ともやってのけた。
もはや、抵抗する力が心に残っていないのだろう。
朱姫は、ご褒美だと言って、その白骨の身体のあらゆる部分に、『振動片』を貼りつけ、痒みを取り除いてやっていた。
それだけで、白骨は愉悦にどっぷりと浸かった表情で、歓喜の涙を流し続けた。
そして、この十全による凌辱だ。
『振動片』で全身の愛撫を受けている白骨を、朱姫は、さらに十全に犯させている。
十全は、朱姫に股間のものが役に立たなくなれば、千鬼と同じ目に遭わせると言われているので、精力剤の媚薬の液体を飲み続けながら、白骨の股間や肛門を犯し続けている。
十全にとっても、性の地獄だろう。
しかし、十全以上に地獄を感じているのは、間違いなく白骨だ。
白骨は、朱姫の『縛心術』により、いけなくされた身体で快楽責めに遭っている。
その結果、数十回もの絶頂をしていながら、達したという満足を感じることができない状態なのだ。
白骨は、自分が達していないと思っているだろう。
つまり、身体は性の絶頂を味わうが、心はそれを感じることができないのだ。
それで、絶対に満足することを許されない、快楽と転落を激しく繰り返している。
そのふたりのそばに椅子に腰かけて見守っている朱姫がいる。
朱姫は、十全の動きが少しでも衰えると、竹鞭でびしりとその背を叩くということを繰り返している。
十全は、そのたびに精力剤を飲み直して、白骨を激しく突きまわすのだ。
その朱姫の姿は、まさに残酷に動物を躾ける「調教師」そのものにほかならない。
基本的に、白骨への調教は朱姫が行い、宝玄仙はそれを見物し、ときにやりすぎを咎めるという役割だ。
それにしても、自分が、嗜虐の責めをたしなめる側になることがあるとは思わなかった。
残酷な責めをすることでは、誰にもひけをとるつもりはなかった宝玄仙だったが、いまの朱姫だけは例外だ。
復讐に燃える朱姫は、本当に白骨に妖魔の子を孕ませるつもりだったようだ。
だが、宝玄仙はそれをやめさせた。
妖魔であろうと人であろうと、「命」は「命」だ。
命を嗜虐の材料にするというのは、宝玄仙にとっては、超えてはならない一線だ。
そう言われた朱姫は、うな垂れて意気消沈していた。
それで、朱姫は、白骨を完全に屈服させることに方針を変えたようだ。
まずは、他人が知れば、身の毛もよだつような痒み責めをする――。
その後、その痒みを癒す。
癒しながらも、身体の絶頂を頭が否定してしまう性の地獄を味あわせている――。
徹底的に苦しみを与え、その苦しみが癒される苦しみを与える……。
それをしているのだ。
これをやられれば、白骨は苦しみが癒される苦しみこそ、快感だと思うしかない。
そうやって、苦痛を悦ぶ変態をつくりあげるのだ。
そして、おそらく、次は、白骨が渇望している絶頂を与えるだろう。
もちろん、次の苦しみを与えながら……。
白骨が完全に朱姫に屈服するのに、そう時間はかからないはずだ。
おそらく、沙那と孫空女が戻る頃には、白骨は、朱姫の奴隷に成り下がっているはずだ。
まったく、大した「調教師」だ。
朱姫の歳でこれほどの残酷で冷徹な責めができるのは、天性のものなのかもしれない。
この若い半妖に備わっている「悪魔」の血だ。
朱姫がこれほどの調教師というのは、宝玄仙にとって嬉しい誤算だ。
これなら、今後は朱姫を沙那や孫空女を調教するときの助手として育てるのもいいかもしれない。
あのふたりは嫌がるだろうが、それはそれで、また面白い。
まったく、これからの旅がさらに愉しくなりそうだ。
「……ほら、雌。そろそろ、昇天したい? 絶頂したいの?」
「ひいっ……ひいいいっ……いひっ――。し、したい……。させて……ひいいっ……させて、ください――ひいっ」
白骨は十全に激しく突かれながら叫んだ。
「だったら、あの種付け用の妖魔の檻に入れるわ。あそこでは、千鬼が二匹目に犯されているけど、もう、一匹はお前に使わせてもいいわ。どう? その代わり、妖魔が相手なら、お前は絶頂できるのよ。この世のものとは思えない快楽よ」
「あ、ありが……。ありがとう……ありがとう……ご、ござい……ます……」
白骨が、身体を震わせて悦んでいる。
それくらい、いまの状態はつらいのだろう。
妖魔に凌辱されるということに対して、白骨は心からの嬉しさにうち震えている。
「いいわ、雌……。でも、始まれば、すぐには終われないわよ。もう妖魔の檻から出さないかもしれないわよ。朝昼晩、妖魔の気が済むまで犯されるのよ。あそこにある淫霧を吸いながら……」
「お……お願い……します――はああっ――あはあっ――。お願い、朱姫様――朱姫様――慈悲を――。白骨を……妖魔の……檻に……」
「いいわ。お前を完全に壊してあげるわ、白骨」
朱姫が白骨の名を呼んだ。
その眼は、冷酷で、残酷で……そして、嗜虐の悦びに充ちている。
「……もういいわ、十全……。白骨に首輪をつけて、妖魔の部屋に連れて行きなさい。千鬼はもう出していいわ。さっき見たとき、肛門が破れて血と汚物で床が汚れていたから、掃除もしておいて」
「わかりました、朱姫様」
ほっとした顔の十全が、白骨の中から一物を取り出した。
*
「ああっ、いぐううう、いがあああっ」
白骨の口から淫らな大声が放たれ、もう十回目近くになった絶頂を極めたのがわかった。
もともとここにいた繁殖用の妖魔の檻であり、その中に白骨を放り込んで、そろそろ二刻になる。
相手が妖魔というのに、白骨は嬉しそうに、股間を妖魔に貫かれて腰を振り続ける。
丸二日間も絶頂を許されなかった性の拷問を取り戻すかのように、白骨は悦楽に呆けきった姿だ。
あまりの快感に涎を流し、涙まで流して、快感をむさぼり続ける。
「浅ましいねえ。こうなると、泣く子も黙る冷酷非道の奴隷商の面影はないねえ」
「気持ちよくって仕方がないみたいですね。これじゃあ、ちょっとつまんない」
朱姫は膨れ顔だ。
宝玄仙は苦笑した。
妖魔に犯されることに白骨を同意させ、妖魔が興奮する薬剤をぶっかけて、同じ檻に放り込んだのはいいが、自分を凌辱しはじめた妖魔を白骨が嬉々として受け入れたのが、朱姫には不満らしい。
とにかく、徹底的に苛め抜きたいみたいだ。
肝心の白骨が嬉しがったのでは、興醒めという気分のようだ。
「だが、快感を過ぎれば拷問さ。種付け妖魔の精力は底無しみたいだし、そのうち、また泣き出す。そのときは、また苛めてやりな」
「そうします」
朱姫は真面目な顔で頷いた。
宝玄仙は小さく笑った。
いま、宝玄仙たちがいるのは、種付け妖魔の檻の前だ。
ここで、さっきまで、
もっとも、やらせたのは朱姫であり、宝玄仙ではない。
宝玄仙には、いくら復讐とはいえ、男の尻に妖魔が発情する薬剤を塗り、無理矢理に白痴の雄妖魔をけしかけるなど思いつきもいなかった。
面白いことを考える娘だと、感嘆してしまった。
とにかく、その千鬼は、完全に尻の穴が破れてしまって、血だらけになって意識朦朧になっていた。
いまは、とりあえず、治療術で傷を治して、別の檻に入れて、十全に面倒を看させている。
いまだに、朱姫は千鬼の性器に金属棒を挿し込んで、首輪代わりにして、格子に繋いでいるので、逃亡はできないだろう。
まあ、一見したところ、その気力もないみたいだ。
正気を保っているかどうかも怪しい。
「うあああっ、うあああっ」
またもや、耐えきれなくなった白骨が悲鳴のような嬌声をあげて、妖魔の背中にしがみついた。
繁殖用の種付けとして、際限なく欲情して精を放てるように改造されている妖魔もそうだが、檻の中には性感を蝕む淫霧がたち込められていて、白骨も狂ったように欲情している。
身体も信じられないくらいに敏感になっているので、恐ろしいほどの速度で快感を極めまくっている。
堰を切ったものが押し留められなくなったようになり、白骨の声は明らかな喜色に染まっている。
朱姫にはそれが気に入らないらしい。
「それにしても、恥知らずですね。妖魔を相手にこんなに感じまくるなんて」
十全だ。
どうやら、千鬼の治療を終えて、こっちの様子を見にきたみたいだ。
白骨を慕っていた若者ということ聞いた気がするが、いまの物言いには、白骨に対する心の底からの侮蔑の響きがあった。
宝玄仙や朱姫に媚を売るための言葉という感じはない。
まあ、確かに醜い妖魔を相手に、知性の欠片もなく腰を振り続ける白骨の姿に接すれば、百年の恋も醒めるというものかもしれない。
「あがあああ、いぐうう、ぎもじいい――」
白骨がまたもや絶頂して、今度はがっくりと全身を脱力させた。
どうやら、気を失ったようだ。
体力の限界がないかのように、激しく性交を続けていたかと思ったが、まるで糸が切れたかのように、突然に気絶してしまった。
「やれやれ、もう終わりだね。これ以上は無理かい」
宝玄仙は笑った。
「冗談じゃないですよ、ご主人様。さっき、ご主人様自身が言ったじゃないですか。限界を越えてもやらせますよ。快感が苦痛になるまでやるんです」
朱姫が怒ったように言った。
「えっ、まだ、やんのかい?」
宝玄仙は呆れた。
しかし、朱姫は本気だ。
格子越しに、小瓶の中の液体を妖魔と白骨の顔にぶちまける。
「ウギアアウッ、ンギャアアアッ」
まだ、妖魔の性器は白骨の中にあり、意識を失っている白骨を妖魔は構わず犯していたのだが、朱姫に液体をかけられた途端、狂ったように暴れ犯しだした。
白骨も同じだ。
失っていた意識を取り戻し、眼を血走らせて、奇声をあげる。
「うわあああっ、あがあああっ」
犯されながら白骨は口から泡を吹いている。
眼も血走り、自ら激しく妖魔の腰を咥えたままの腰を動かす。
多分、さっきのは興奮剤だろう。
強い覚醒効果もあるのだと思う。
「十全、あの雌が気を失うたびに、これをぶちかけなさい」
朱姫がそばの台を差した。
さっき朱姫が投げた瓶が二十本はある。
「……瓶が尽きたら、電撃鞭を遣いなさい。とにかく、なんでもいいから、あの雌を覚醒させ続けるの。少なくとも夜まで犯させ続けるのよ。雄妖魔の一物が役立たなくなったら、別の檻から交換して。ただし、死なないように、逐次水だけは補給させといて」
朱姫が十全に怒鳴った。
本当に続けるのようだ。
宝玄仙は苦笑した。
「お任せください。休ませもしません。死なせもしません。きっちりと、白骨を調教してみせます」
十全が力強く応じた。
やれやれ、白骨もとんだ相手に復讐されることになったようだ。
宝玄仙は黙って、ひとりで肩を竦めた。
*
白骨の長く美しい髪が、ばさりばさりと床に落ちていく。
両手両足を拡げた立ち姿で拘束されている白骨には、特に、抵抗する様子も、泣き叫ぶ様子もない。
朱姫は呆然として反応のない白骨の髪を十全に切らせながら、注意深く白骨を観察している。
自分の髪を剃られるという辱しめだが、白骨は諦めたように呆然と自分の髪がなくなるのを感じているだけのようだ。
白骨を妖魔に丸一日犯させたのは、昨日のことだ。
妖魔により丸一日犯され続け、何度も気を失い。それでも、妖魔の精液を子宮に注がれ続けた。
淫霧の流れ続ける檻の中では、白骨に対する妖魔の欲情は収まらない。
しかも、その妖魔の精に激しい絶頂を感じるように白骨には、『縛心術』で暗示を与えている。
白骨は、妖魔の精により、いままでの分を取り戻すかのような激しい性交を行い続けた。
だから、終わらない。
そして、百回を超える絶頂に達し続けて、ついに、白骨は完全に正気を失ったようになった挙げ句に失神し動かなくなった。
朱姫はとりあえず、寝ている白骨を犯し続ける種付け用の妖魔を十全に追い出させて、別の檻に白骨を引きあげた。
そして、その白骨を蹴りあげたうえに、強力な気付け薬で強引に覚醒させると、狂ったように、もう許してくれと号泣し始めた。
だから、朱姫は休ませて欲しければ、身体中の毛を剃りあげてくれとお願いをせよと言ったのだ。
すると、すぐに白骨は応じた。
朱姫は、やっと白骨に休むことを許した。
いずれにしても、その時点で丸二日間眠らせていなかった。
白骨の体力から考えても、それが限界だと思った。
宝玄仙から、殺してはならないと釘を刺されていたこともあり、死なさないためには、白骨の体力を回復させることが必要と判断した。
そして、朝になって戻ってきたときには、白骨はまだ眠っていたが、朱姫は、檻を蹴飛ばして、外に出てくるように命令した。
白骨は、大人しく檻から裸身を這い出らせた。
そのまま、地下に連れて行き、鎖で拘束すると、十全に毛剃りを命じた。
「白骨、お前の暗示を解いてあげるわ。あたしの気も済んだし、妖魔だけしか感じないという心の縛りは解いてあげる。その代わり、別の暗示を与えるわ……」
聞こえてはいるのだろうが、白骨の眼は虚ろだ。
白骨はほんやりとした表情で頷いた。
「……そうねえ、名前にしよう。名前を呼ばれると、お前は、気をやってしまう。そういうことにするわ。名前を変えても駄目よ。お前が自分が名前だと思っているものが、お前が鍵となる言葉になるからね。これらかは、誰かに名を呼ばれるたびに、いい気持ちになれるわ」
結局、股間の恥毛を剃られたときも、眉毛を剃られたときにも大した反応しなかった。
白骨が顔をあげた。白骨の髪の毛の大部分は、すべて床に切り落ち、頭は丸坊主になった。
つるつるの肌と眉さえもない顔はまるで人形のようで、さらに間が抜けて見える。
「じゃあ、これから、また、髪の毛に泡をつけますからね。それから、頭をつるつるに剃りあげます。いいですね、白骨様」
十全が刷毛で白骨の頭に泡を拡げながら言った。
「あひいいっ」
白骨が可愛らしい声を出しながら、眼を見開いて、身体を震わせた。
その仕草は、数日前まで、「白骨夫人」として、残忍な奴隷商人として知られていた女の姿はない。
「そんなに、動いてはいけませんよ。剃刀が当てられないじゃないですか、白骨様」
わざとらしく、十全は名前を呼ぶ。
白骨は、両手で股間を押さえて、椅子に座っている身体を弓なりにしてから、またもや身体をぐったりとさせた。
絶頂したのだ。
それにしても、わざわざ名前を連呼するのは、十全の悪戯だろう。
もう十全には、白骨を女主人として尊敬する気持ちは消失してしまっているようだ。
「面白いことをしておるのう」
声がした。
朱姫は、どきりとした。
振り向くと、宝玄仙と歩いている青蔡だ。
他人を責めている姿を見られるのは、自分の恥部や性行為そのものを見らたような気がするのだ。
「あ、青蔡さん……。どうして、ここに?」
朱姫は言った。
「お前は十全じゃな。続けよ、続けよ――。むしろ都合がいいわい」
硬直してしまった十全に青蔡は声をかけた。
宝玄仙はにやにやしている。
多分、朱姫が嫌がることを知っていて、ここに青蔡を連れて来たのだろう。
本当に意地が悪い。
青蔡と宝玄仙が部屋の隅の卓の前の椅子に腰を降ろす。
朱姫は十全に続けるように命じると、ふたりの前に歩みよる。
「沙那姉さんと、孫姉さんはどこに?」
朱姫は訊ねた。
「まだ王宮らしいよ。
青蔡ではなく、宝玄仙が応じた。
「軍……ですか?」
朱姫は驚いた。
すると、青蔡が口を開いた。
「ふむ。白骨夫人が
「まあ、そういうことらしいよ、朱姫。ここも、いい場所だと思ったんだけどね。退屈しのぎの玩具にも事欠かないし……。もっとも、この小さな半妖が、壊しやしないかと見張っていないとならなかったけどね」
「ひ、酷いですよ、ご主人様――。あたしは、ただ、やられた仕返しを……」
「わかっているよ、朱姫。だけど、お前には、このわたしと同じ性癖があるね。白骨を責め尽くしているお前は、それこそ、なにかに憑りつかれたような妖しい表情をしていたよ。恍惚の表情さ」
宝玄仙がにやりと笑う。
簡単に心の底を見抜かれて、朱姫は思わず視線を逸らせた。
「そうだ――。あのう……、なにか、お茶でも……」
「気にするな、朱姫。お前も忙しいのじゃろう?」
青蔡が意味ありげな表情をする。
朱姫は、自分の顔が赤くなるのを感じた。
「お前の責めぶりは青蔡にも説明しておいたよ、朱姫。この宝玄仙も形無しの残酷な嗜虐者だってね」
「やめてください、ご主人様」
朱姫は声をあげた。
「……ところで、青蔡――。宮廷の騒動が終わったと言ったかい?」
「そうじゃ、お宝。国王は、
青蔡は、意味ありげに微笑んだ。
「でも、軍が来るって……。あたしたちは逃げなくていいんです?」
朱姫は寛いだ態度のふたりに、少し不安になって訊ねた。
すると、宝玄仙が声をあげて笑った。
「もちろん逃げるさ。白骨の仲間だと思って捕まっても面倒だ。そうじゃないとしても、巻き込まれたくないね。もう、潮時だろう」
「だったら、ご主人様……」
「だけど、大丈夫なのさ。そのために、沙那たちが残ってるらしい。出立もあいつらが戻ってからでいい」
「そうですか」
朱姫はほっとした。
「いずれにせよ、とにかく、うまくいったということだね、青蔡?」
すると、宝玄仙が青蔡に向かって言った。
「おそらくな。お前のところの沙那殿が、随分とうまく処理をしてくれたようだ。わしも驚いたが、なかなかの策士じなゃ」
「それにしても、お前も思い切ったことをしたねえ、青蔡。隠居を決め込んだ爺じゃなかったかい?」
「隠居もしてられんて。あの黄袍魔はわしの子供じゃ。血は繋がっておらんが、確かにわしの子じゃ。暴走するのをとめんとなあ」
「まあ、これからは、忙しくなるよ、青蔡」
「確かにのう。支えなければならんものもできた。孤高を愉しみ続けるのみではいかんようじゃ」
「だいたい、その爺臭い喋り方と、姿はなんなのよ――。お前は、わたしの最初の男でもあるんだよ。それが、こんな爺だと、わたしも体裁が悪いじゃないかい」
「事実、歳だから仕方あるまい。それにしても、相変わらず、美しいのう、お宝。若い頃と同じ……。いや、若いとき以上じゃ」
「ふん、その爺くさいお前が、若いときのわたしを犯したんだろうが」
宝玄仙がからかうような口調で言った。
「もう、勘弁せえ。随分前の話だし、こうやって、お前の頼みはなんでもきいておるじゃろうが」
「こんなもので済むとは思わないことだね、青蔡。とことん、尽くさせるよ。どうせ、もう帝国には戻れん身だからね。もしかしたら、また、旅先でも呼び出すかもしれない」
「お前に尽くさせて貰えるなら、こんな爺じゃなくて、もっと若い姿になってもいいのう」
「なら、なってみてはどう? 男に抱かれるのは、こりごりだけど、あんたなら、もう一度、抱かれてもいいよ」
宝玄仙は、そう言ってまんざらでもない表情をした。朱姫は驚いてしまった。
「……ほ、本当か、お宝?」
同じことを朱姫も思った。
「ああ、ただし条件がある」
宝玄仙がじっと青蔡を見た。
すると、青蔡が少し気遅れた表情をした。
「条件?」
「わたしを無理矢理に犯すこと。わたしの道術の力でも逆らえないような道術でわたしを押さえつけ、それで犯すのさ。そうしてくれたら、わたしは、お前のものになってやってもいい」
「冗談じゃない。わしの力程度で、お前に叶うわけがないだろう」
「だったら、この話はなしだね」
宝玄仙は大きな声で笑った。
「……あのう。終わりました……」
十全が声をかけた。
ふと振り返ると、作業の終わった十全が剃刀を手にしてこちらに視線を向けている。
十全の横には、髪の毛を剃られても、無反応の白骨が身体をこちらに向けて、がっくりと首を垂らしている。
恥毛と眉毛は全部剃りあげさせたが、髪の毛は頂点に髪はないが裾の部分には、一寸(約三センチ)だけ残させた。
ただ全部剃りあげるよりも、ずっと恥辱的な顔だ。
いまの白骨を見て、もう美しいと思う者はこの世にひとりもいないだろう。
「それで、どうするんです? あれを兵に引き渡すんですか?」
朱姫は言った。
「いいや。こいつは青蔡に託すことにしたよ、朱姫……。引き渡しには、身代わりをたてる」
宝玄仙が言った。
朱姫が青蔡に視線を向けると、青蔡が軽く頷いた。
「青蔡さんのところですか、ご主人様?」
「そうだよ、朱姫。こいつには、まだ罪が残っている。百花の侍女で、青蔡が預かっている
「わしのところにいる娘ふたりは、お前の供みたいに残酷ではないぞ。あんなのをつれて行っても、怖がるだけじゃぞ」
青蔡が言った。
「残酷って……」
朱姫は、否定をしようとしたが、やっぱり、そうかもしれないかもしれない。
酷い目に遭わされた仕返しのつもりだったが、白骨を責め抜いているときには、確かに、朱姫は性的な興奮状態にあった。
気がつくと、股間がどろりと濡れていたことは本当だ。
「いいのさ、十全をつけるよ。朱姫が仕込んだから、こいつを適当にいたぶってくれるよ。ねえ、十全?」
「お任せください」
十全が言った。
「可愛がっていた部下に裏切られた気分はどうだい、白骨?」
宝玄仙が大きな声で言った。
「あはあっ」
名前を呼ばれたことで、気をやってしまった白骨が仰け反る。
宝玄仙が立ちあがって、拘束されている白骨の顔を掴んだ。
「……これでお別れさ。二度と、わたしのものを奪おうとするんじゃないよ。そんな連中は容赦なく潰してきた。わかったね、白骨?」
「あはああっ、いやああっ」
また、達してしまった白骨が顔を左右に激しく振る。
その顔を宝玄仙がしっかりと掴んでいる。
「聞いてるのかい、白骨?」
「ひぎいいいっ、や、やめてえっ」
白骨が苦悶の表情で、またもや、気をやった。
こうなると哀れなものだ。
名前を呼ばれるたびに絶頂するとなれば、もう普通の日常生活は不可能だ。
「き、聞いています――。だ、だから、もう、やめてっ」
「よかったねえ。朱姫に完全に壊されて口もきけなくなったのかと思ったよ、白骨――。青蔡の小屋にいったら、一生懸命に詫びな、白骨。ねえ、白骨……」
「ひがあはえお、んげえええ」
白骨が化物じみた奇声をあげて白目を剥いた。
ついに椅子から転げ落ちて、床でのたうち回っている。
しかも、嬌声をあげる口が閉じない。
絶頂しているあいだに、名前を呼ばれて絶頂を重ねられ、そこにさらに絶頂を加えられて、白骨はほとんど悶絶状態になった。
「朱姫の『縛心術』で刻まれた命令で発情するお前は、これからは、名前を呼ばれただけで、この最高の愉悦を味わうんだ。まともに生きるのは不可能だろうから、髪の毛が生えたら娼婦にでもなりな――。白骨」
「んはああはあえげええ――」
白骨が絶叫して果てた。
そして、がっくりと脱力して動かなくなった。