奥の部屋に入った途端に、急に身体がねじれるような感覚が襲った。
『移動術』だ──。
気がつくと、正面に鏡のある見知らぬ部屋にいた。
摩雲城のどこかの一室だとは思うが、ここがどの部屋なのか宝玄仙には覚えがない。
部屋には調度品のようなものはなにもなかった。
床に燭台があるだけだ。
その灯りで部屋は明るかったが、窓や扉のようなものはない。
その代わり、宝玄仙の立つ正面に大きな鏡が一面に張られていた。
また、天井から垂れている一本の縄があった。
その縄にはたくさんの結び瘤が作ってあり、両端とも天井から吊られていて、ちょうど宝玄仙の腰の位置くらいの高さで垂れさがっている。
さらに、宝玄仙が感じたのは、部屋全体に立ちこめている甘い香りだ。
どこかで嗅いだ記憶のある匂いだと思ったが、宝玄仙にはそれがなにかはすぐにわからなかった。
「よく、来たわね、宝玄ちゃん……。相変わらずいい身体ね。ぞくぞくするわ」
鏡の向こうから声がした。
「み、御影かい……」
紛れもない御影本人の声だ。
影法師ではない──。
本人だ──。
てっきり、ここには影法師を送り込んでいるだけだろうと思っていたので、少し驚いた。
「お前、そこにいるのかい──?」
宝玄仙は叫んだ。
正面の鏡の向こうには、なにかの強い結界が張ってあると思う。
その向こうに存在する者の霊気の気配を宝玄仙は感じることはできない。
「いるわよ。いよいよ、あんたを捕えることができるという素晴らしい瞬間だもの。それを影法師を通して味わうというのは勿体ないわ。それにしても、前に見たときには、ちゃんと股の毛があったのに、いまはつるつるに剃っているのね。奴隷らしくていいわね」
鏡の向こうの御影らしき男が笑いながら言った。
どうやら、向こう側からは透明の壁なのだろう。
こっちをはっきりと見ている気配だ。
だが、御影本体がいるなら好都合だ。
御影は、宝玄仙が道術封じの枷で道術が遣えない状態だと思っているだろう。
ならば、一気に……。
「わたしを捕えるとはどういう意味だい、御影? わたしと話し合いをするために呼んだんだろう? 首にかかっている道術石はくれてやるよ。好きなように扱いな──。その代わり、わたしとわたしの供には手は付けないと約束するんだ。それで終わりにしようじゃないかい──」
宝玄仙は鏡に向かって言った。
「それは、あたしの提案する条件とは違うようね……。あたしからの条件はこうよ。大人しく道術石を渡せば、少しばかり優しく扱ってあげるわ……。奴隷としてね。でも、抵抗するようなら、手酷く扱うわ──。やっぱり、奴隷としてね。どっちがいい?」
御影の声がくすくすと笑った。
宝玄仙は舌打ちした。
「話にもならないね──」
宝玄仙は叫んだ。
「だったら、話し合いは決裂ね。お前をここで捕えて、
「嫌だと言ってるだろう──。いいから、顔を見せな──。鏡越しに話すると苛つくんだよ──。どうせ、わたしを犯したいんだろう──。さっさと犯しな」
宝玄仙は声をあげた。
御影が出てきた瞬間に、息の根をとめてやろうと思った。
それで長年の確執は終わる。
「……そうね。まずは、味見というのもいいかもね……。だけど、その前に話をしましょうよ。話のあいだ退屈だろうから、退屈凌ぎをさせてあげるわ。その縄を跨ぎなさい」
御影の言葉と同時に、天井から吊られている縄が少しさがった。
「ふざけるんじゃないよ、御影──。いいから出て来いと言っているだろう──」
「あんたの股がいい具合に仕上がったら、出てきてあげるわ。いいから跨ぎなさい。それとも、四人の供のうち、ひとりくらい死なないと、その気になれない?」
御影が愉しそうに言った。
宝玄仙は舌打ちした。
脚をあげて縄を跨いだ。
すると、縄の両端が天井に吸い込まれるようにあがっていき、宝玄仙の股間に喰い込む。
「うっ」
宝玄仙は思わず声をあげてしまった。
見ただけでは気がつかなかったが、縄の表面には潤滑油のようなものがたっぷりと塗られていたようだ。
それが宝玄仙の股間に冷たい感触を与えたのだ。
そして、瘤のある縄がゆっくりと後ろから前に向かって巻きあげられだした。
「あっ」
宝玄仙は思わず小さな声をあげた。
瘤縄がさらにせりあがり、縄が股間に強く食い込んだ。
宝玄仙はほとんど無意識に裸身を一直線に伸ばして爪先立った。
瘤縄はかなり大きなものを作ってある。
それが花芯にぬめり込み、その前後で肉芽と菊座にも食い込み動いていく。
「う、ううっ」
宝玄仙は歯を食い縛った。
体重が縄にかかり、喰い込んだ縄瘤が股間を擦りあげるのだ。
しかも、縄に塗られていたのはただの潤滑油ではなさそうだ。
すぐにじんと身体を痺れさせるような痒みが沸き起こってきた。
おそらく、媚薬効果もあるのだろう。
あっという間に異常なほどに股間が疼いてくる。
「んんっ」
そして、痒みと疼きに襲われている股間の亀裂を搾りあげるように、ゆっくりと縄が回転する。
宝玄仙の身体がすぐに充血して汗ばむのがわかった。
官能の芯を揉みあげるような縄瘤に、いつしか宝玄仙は腰を淫らに揺らすようになっていた。
「あらっ、お気に入り? だったら、雷音大王の後宮に備えつける予定のお前の牢にも同じものを取り付けてあげるわ」
御影の笑い声がした。
「ふ、ふざけるな……。な、縄を……動かすのを……やめな……」
宝玄仙は歯ぎしりながら言った。
「いいじゃないの……。気持ちよさそうじゃないのよ……。話をしましょうよ。ちょっと、昔話よ」
御影の声が言った。
「な、なんだい……。む、昔話って……?」
宝玄仙の爪先は伸びるだけ伸びた状態にある。
その宝玄仙の股間を容赦なく縄瘤が強烈に刺激をしてくる。
官能の疼きが一気に子宮に集中していく。
「闘勝仙のことよ……」
「闘勝仙?」
意外な名に宝玄仙は眉をひそめた。
「あんたって、闘勝仙の奴隷だったのよね。二年間も……。あの男はとんでもない嗜虐癖だったから、その期間、さぞたくさんの辱めを受けたんでしょうねえ……。惜しかったわ。その当時のあんたをあたしも見てみたかったわ」
「お、お前に関係ない……だ……ろう……。それがどうしたんだい……?」
宝玄仙は腹がたって怒鳴った。
一方で、縄瘤はいやらしく宝玄仙を責め続ける。
宝玄仙は必死になって気力を保とうとした。
いま、この瞬間にも御影が鏡の向こうにある結界から出てきて、宝玄仙を抱こうとするかもしれない。
その機会を逃してはならないのだ。
だが、媚薬と縄瘤を使った淫らな攻撃に、宝玄仙はともすると我を忘れそうになる。
「だけど、あんたは、その闘勝仙に復讐を果たした……。服従の首輪という霊具を使ってね……。大した操り霊具よね……。あたしも、あんなに完璧な操り霊具は知らないわ……」
「……お宝を使って、その首輪を量産して遊んでいる……ようじゃ……ないかい……。め、迷惑してるんだよ……。あううっ──」
宝玄仙は喉をあげて呻いた。急に縄の回転が速度を増したのだ。
堪らず、宝玄仙は少しでも刺激を弱めようとして、脚を閉じてさらに爪先を伸ばした。
「でも、どうやって逃れたんだろうと思ってね……。だって、あの闘勝仙のことだもの──。あなたには、たくさんの支配の刻みをしていたはずよ。闘勝仙に逆らわないとか、その取り巻きの命令に従うとか……。そういう道術契約を次々に結ばせたでしょう? あの男はそういう用心深さがあったのよね。それなのに、どうやって道術契約をかいくぐって、あんたは闘勝仙に逆らったんだろうと不思議に思っているのよ……」
「お、お前には関係……ない……」
宝玄仙は呻いた。
いよいよ縄瘤の刺激に耐えられなくなりそうなのだ。
一個一個の瘤が菊門や女陰に喰い込むたびに、火のように鋭い快感が貫く。
それが連続で襲う。
宝玄仙の身体はもはや痙攣しているかのような震えを止められなくなった。
「でも、あんたのことをいろいろと調べているうちにわかったのよね……。あんたが、どうやって闘勝仙との道術契約を無視して復讐を果たせたのかが……」
「な、なに……?」
宝玄仙は全身の疼きに悶えながら声をあげた。
御影はなにを知ったというのだ……?
「あんたには、多分ふたりの人格が心にいるのよ……。そのうちのひとりが、闘勝仙に服従して道術契約を結んだ。そして、もうひとりのお前は、闘勝仙との支配から逃れて、服従の首輪で復讐を果たした……。そうなんでしょう? 宝玄仙? もしかして、もうひとりの名は宝玉? あんたの昔の名よね? 蝦蟇婆の遺した遺産に、“玉”と書かれている缶に入った香草があったわ」
御影がくすくすと笑った。
宝玄仙には、やっとこの部屋に立ちこめている甘い香りのことを思いだした。
これは、青獅子魔王に捕えられていたとき、蝦蟇婆が宝玄仙の人格支配に使っていた香りだ。
この甘い香りは、蝦蟇婆が“宝玉”を呼び出すときに使っていた匂いだ。
「その顔はだいたい図星のようね……。あんたが正直者で助かったわ。長い付き合いだし、あんたの考えていることは顔を見ているとわかるのよね……。やっぱり、ふたりの人格がねえ……。不思議なことだけど、そんなこともあるのね……」
御影が言った。
「それで、もうひとつ思い出したんだけど、闘勝仙って、あらゆることを道術契約で縛ったのよねえ……。鳴智のこともでしょう? 鳴智には逆らうなという道術契約も闘勝仙は結ばせたでしょう? 答えなくていいのよ。それは鳴智に直接確かめたから……。闘勝仙は、お前に対するたくさんの道術契約の縛りの中で、鳴智の命令に従うという契約もしている。そして、闘勝仙は死んだけど、それはお前の中に刻まれて残っている……。だって、道術契約というのは、どちらかが死んでも、契約は残るのよね。むしろ、相手が死んでしまえば、道術契約は解除できない。厄介なものよねえ……」
「さ、さっきから、なにをねちねちと言ってるんだい──。い、いい加減に……こ、これをとめないかい──。ふ、ふざけるんじゃないよ──」
宝玄仙は絶叫した。
もう絶頂の寸前まで追いつめられていた。
だが、それを察知したように、縄瘤の回転が止まった。
宝玄仙はほっと救われたような気持ちになったし、一方で、燃え立った肌に水をかけられたような腹立たしい気持ちにもなった。
「つまり、お前の中には、鳴智の命令には従うという道術契約も刻まれたまま残っているのよ……。もちろん、それはお前ではなく、もうひとりのお前が結んだ契約だろうけどね……。だから、あたしは、もうひとりのお前を呼び出す香りをかがせ続けているのよ……。あたしの仮説が正しければ、この香りは、もうひとりのお前を呼び出すための匂いのはずよ」
御影が言った。
宝玉はいなくなった──。
思わず、そう喋りかけて、宝玄仙は慌てて口をつぐんだ。
そのとき、なにか心のざわめきのようなものを感じた。
動揺だ──。
激しく、動揺している──。
だが、それは宝玄仙自身ではなかった──。
宝玄仙は突然に宝玉の存在を心の中に感じていた。
「……宝玉……」
そのとき、鏡の向こうから声がした。
御影の声ではなかった。
女の声だ。
「な、鳴智――?」
宝玄仙は叫んだ。
「宝玉に命令する。宝玄仙の霊気を封印して、御影様に宝玄仙を売り渡しなさい」
鳴智が言った。
感情のない抑揚のない口調だ。
まるで命令されて、仕方なく喋っているような感じだ。
その瞬間、宝玄仙の中にある霊気が凍りついたようになったのがわかった。
宝玄仙……。
心の中で名を呼ばれた気がした。
「ほ、宝玉──? 宝玉かい──?」
そして、宝玄仙は驚愕した。
鳴智の言葉によって宝玄仙の霊気が封印されたのだ。
それがわかった。
眠っていた宝玉が……?
宝玄仙は当惑した。
そのとき、鏡の向こうから御影の身体が通り抜けてきた。
「……仮説は正しかったようね……。お前の霊気が突然にとまったのが確かにわかったわ」
御影が宝玄仙の股間に喰い込んだ縄を引っ張って外し、後ろ手に拘束している宝玄仙を仰向けに押し倒した。
御影──。
宝玄仙はありったけの気力を総動員して霊気を出そうと思ったが、やはり、封印された宝玄仙の霊気は動かない。
「ほ、宝玉──。や、やめな──。封印を外すんだよ──。すぐにだ──」
宝玄仙は声に出して叫んだ。
その宝玄仙の両腿を抱くようにした御影が下袴から怒張を出して、宝玄仙の股間を断ち割ってきた。
「んぐううっ──み、御影──」
限界まで燃えあがりすっかりと濡れていた股間を貫く怒張の刺激に、宝玄仙は身体をのけ反らせて悲鳴をあげた。
「ふふふ……、いろいろと小細工していたみたいだけど、全部無駄だったようね──。お前の供ともども、たっぷりと調教してあげるわ」
御影が宝玄仙の首から道術石用の袋を外して自分の首にかけた。
そして、嬉しそうに律動を開始する。
宝玄仙は甲高い声をあげていた。
“……裏切らぬと信じた者の裏切りで
……全員が卑怯な敵の虜となる”
その言葉が不意に頭に蘇った……。