身体の下の宝玄仙が絶息するような呻きをあげながら、二度目の羞恥の滴りを噴きあげたのがわかった。
御影は怒張が貫いている宝玄仙の腰が淫らに震えるのを愉しみながら精を放った。
宝玄仙が口惜しそうに顔を歪める。
御影は満足して男根を抜こうとした。
すると、宝玄仙の性器はそれを拒むように粘着力を発揮して絡みついてくる。
そういえば、この吸い付くような性器の具合の良さがきっかけだった。
まだ、御影が東方帝国の教団本部にいた頃、当時、宝玄仙士だった宝玄仙と一晩をともにして、身体を愉しんだ。
そのとき、この宝玄仙の身体に感動し、こんな名器を持った女を性奴隷にしてやろうと思って手を出した。
だが、それで手痛いしっぺ返しを喰らった。
それが、御影と宝玄仙の因縁の始まりだ。
「久しぶりだと感動しちゃうわね。やっぱり、あんたの道具は最高よ。雷音院に着いたら、今度はお尻も犯してあげるからね」
御影は宝玄仙から身体を離すとともに鳴智の名を呼んだ。
同時に部屋を二分していた結界としての鏡を消失させる。
鳴智は鏡の壁の結界の反対側で待たせていた。
鏡の壁が消失することで鳴智が現れる。
相変わらずの無表情だ。
「例の物をお貸し」
御影は服を整えながら言った。
鳴智が取り出したのは、『服従の首輪』だ。
御影はそれを受け取ると、まずは、宝玄仙の首の横にある炸裂砂を取り外し、次いで、服従の首輪を装着させた。
後ろ手の宝玄仙が身体を起こした。
そのとき、不意に宝玄仙が眼を閉じて身体を震わせた。
「なに?」
違和感を覚えて、思わず御影は声をあげた。
眼を開いたときの宝玄仙の雰囲気が変わっていたのだ。
なにがどう違うとはわからないのだが、たったいままでの宝玄仙とは違う宝玄仙がそこにいる──。
そんな感じだ。
宝玄仙の目に怯えがある。
一度、御影を見て、慌てて視線を鳴智に移す。
そのとき、なぜか御影は目の前の宝玄仙に不思議な恐怖を覚えた。
理由もなく、急な不安感に襲われたのだ。
慌てて宝玄仙から飛び退がって、強力な結界で自分だけを覆う。
「鳴智、早く、首輪を受け入れるように命じなさい──。すぐによ──」
御影は金切声で叫んだ。
もうひとりの宝玄仙には、闘勝仙と結んだ道術契約により、鳴智には逆らわないという縛りが残っているはずだ。
「服従の首輪を受け入れると言いなさい、宝玉」
鳴智が抑揚のない口調で言った。
闘勝仙の命令とはいえ、かつて宝玄仙を二年間も嗜虐し続けた鳴智だが、なぜか宝玄仙を再び陥れるのは意に添わない様子だ。
だから、無理矢理に「命令」で従わさなければ、宝玄仙の捕獲に積極的には協力しない。
まあいい──。
気が進もうと、進むまいと、御影を「主人」として服従の首輪を受け入れている鳴智は、御影に従うしかない。
それが首輪の力なのだ。
「……
そのとき、宝玄仙の口が小さく開いて、そういうのが聞こえた。
あるいは、聞き間違いかもしれなかったが、宝玄仙の口調がすごく幼児的な舌足らずのように思えた。
これが宝玉──?
御影は首を捻った。
「宝玉、お前の役目は宝玄仙を御影様に売り渡すことよ……。わたしがそれを命じているのよ。お前はわたしの命令には従うはずでしょう?」
鳴智が少し強い口調で言った。
すると、宝玄仙がすっと眼を閉じた。
御影は唖然とした。
いまのはなんだったのか……?
あれが人格交代?
宝玄仙は、今度は鳴智を凝視し、そして、部屋の壁まで離れていた御影に視線をやった。
これは、宝玄仙であって宝玄仙ではない──。
それはわかる。
なんとなく、雰囲気が違うのだ。
「お、お前の名は?」
御影は言った。
「お前は……御影ね……?」
宝玄仙はじっと御影の顔を見て、思い出すような感じでそう言った。
やはり、宝玄仙ではないのだ。
「答えるのよ──。お前の名は?」
鳴智が言った。
「宝玉……」
そう言った。
やっぱり──。
御影は自分の推理が完全に正しかったことを知った。
宝玄仙にはふたりの人格がいる。
闘勝仙の支配を逃れたのは、その人格交代を利用して、ひとりが道術契約の支配を受け入れる役目を負い、もうひとりは闘勝仙の支配から逃れて復讐を果たしたのだ。
御影も宝玄仙とは長い付き合いだが、宝玄仙にそんな秘密が隠されていたのとはまったくわからなかった。
逆に言えば、あの闘勝仙は宝玄仙のその秘密を知らなかったから、してやられてしまったということだ。
だが、御影はそれを知った。
だから、宝玄仙を完全に支配できる。
「宝玉、首輪を受け入れると言いなさい……」
鳴智が言った。
「……そ、それは……」
宝玉が当惑した表情になった。
「お前はわたしに逆らえないはずよ……。そう闘勝仙と契約したのよね……。思い出しなさい、宝玉」
宝玉の顔は今度こそ恐怖に包まれた表情になった。
「……受け入れるわ……」
宝玉の唇が動いた。
御影はその瞬間、服従の首輪が効力を発揮するのがわかった。
「お前はこれであたしの奴隷よ──。わかったわね、宝玉……。あたしのいかなる言葉にも絶対服従──。いいわね。命令よ」
「わ、わかったわ……」
「あたしのことは御影様と呼びなさい。そして、丁寧な言葉を遣いなさい」
「わ、わかりました、御影様……」
宝玉の顔が悲しそうに歪んだ気がした。
意に添わないことを命じられると、人はあんな顔をする。
これまでも、そうやってたくさんの者を従わせてきた御影はそれを知っている。
だが、そのうちに命令に従うのが当たり前のようになってくるのだ。
そうやって、人は完全な奴隷になっていく……。
「お前には自殺を禁じる。首輪を外そうとするいかなる行為も禁止する。あたしに危害を及ぼすのも禁止。それをやろうとする者がいれば全力で阻止しなさい。それと、もうひとりの宝玄仙があたしに逆らうのも阻止しなさい。わかったわね」
だが、宝玉は首を振った。
「さ、最後の命令には従えません。わたしは宝玄仙を従わせることはできないのです」
「嘘を言うんじゃない──。あたしに嘘をつくことを禁止する。宝玉、お前は、あたしには常に本当のことしか言えないのよ。命令よ──」
「嘘じゃありません。宝玄仙には宝玄仙の自由意思があります。わたしには、宝玄仙の心を拘束したり、操ったりということはできません」
宝玉は言った。
御影は舌打ちした。
首輪の力が効いているのはわかっている。
嘘を言うなと命じた限りは、本当のことなのだろう。
「じゃあ、宝玉──。お前は首輪を受け入れた。それは間違いないわね?」
「間違いありません……」
「それは、もうひとりの宝玄仙も受け入れたと同じことになるの?」
宝玉は首を横に振った。
「わたしが首輪を受け入れるということと、宝玄仙が受け入れるということは違うことです」
宝玉は言った。
やはり、そういうことになるのか……。
そうやって、ふたつの心を持つ宝玄仙は、人格を使い分けて闘勝仙の支配から逃れたのだ。
いずれにしても、それならば、宝玄仙についても首輪を受け入れさせるという作業が必要になるということだ。
もうひとりの宝玄仙については、鳴智の命令に従うという縛りもない。
脅迫か拷問によって受け入れさせるしかないだろう。
「お前は、自分自身の霊気を封印したわね。それは解除してはならない。命令よ」
「解除しません」
宝玉がうなずいた。
だんだんと宝玉の顔が恐怖に包まれるのがわかった。
次々に受け入れさせられる「命令」に怖れをなしてきたという感じだ。
「お前が霊気を封印すれば、もうひとりの宝玄仙も道術を遣えなくなるの?」
「わたしたちの霊気も身体も共通のものです。わたしが封印してしまえば、宝玄仙にも道術は遣えません」
御影はその言葉に満足した。
ならば、もうひとりの宝玄仙も支配に陥らせたのも同じだ。
霊気の遣えない宝玄仙など、ただの非力な女にすぎない。
「お前は、『魂の施術』を遣えるわね……?」
「相手を害する道術でなければ、わたしと宝玄仙の道術は共通です……。遣えます」
「じゃあ、この道術石をあたしの身体に入れなさい」
御影は結界を解いた。
そして、宝玉に近づき、まずは後手に拘束している枷を外した。
宝玉が手を擦りながら、両手で乳房を隠すように前にやった。
御影は袋を開こうとした。
「えっ?」
そのとき、御影は、牛魔王の身体に入っていた道術石が入っている小袋に道術の封印がしてあることに気がついた。
『道術錠』だ──。
道術による施錠術の一種だが、ある特定の行動が施錠を開錠する条件になっていて、それが実行されないと開錠されないという道術だ。
一度、条件付けをしてしまうと、術者にもそれは解除できないという厄介な封印なのだ。
かなりの高位道術者でなければ施すことのできない封印であり、宝玄仙はそれを事前に施していたようだ。
御影は舌打ちした。
「宝玉、開錠の条件はなに? 言いなさい」
御影は宝玉を睨んだ。
「わ、わたしはたったいままで長く眠った状態にあったのです。宝玄仙がそのあいだにやったことは知りません」
「嘘おっしゃい──」
御影は怒鳴ったが、嘘を言うなという「命令」を与えていることを思い出した。
宝玉は知らないのだ……。
「お前は、宝玄仙と自由に人格交代できるの?」
「で、できます……。それはわたしの力のひとつです……」
「だったら、あたしが名を呼んだら、すぐにお前が出てきなさい……。そして、宝玄仙を出しなさい……」
御影が言うと、宝玉の目が閉じた。
しばらく閉じられた状態が続いてから、やっとその眼が開いた。
そのときには眼が攻撃的なものに変化している気がした。
人格が宝玄仙と交代したのだろう。
宝玉のときは脚を閉じて横に曲げていたが、いきなりその脚が胡坐になった。
胸を隠していた手は、最初に首につけられた首輪に触れ、腕組みに変わる。
「……宝玉を復活させてくれたことには礼を言っておくよ、御影……。かなり、謝っていたけどね。やってくれたじゃないか……。闘勝仙との道術契約のことなんて、わたしどころか、宝玉も忘れていたようだよ……」
宝玄仙が御影と鳴智の顔を交互に見ながら言った。
「……さあ、袋の封印を解く条件を言うのよ、宝玄仙」
すると、宝玄仙の顔が破顔した。
「へえ、やっと封印されていることに気がついたかい。だったら、わたしたちを解放しな。二度と手を出さないと誓えば、袋を開く条件を教えてやるよ」
宝玄仙が笑った。
御影はかっとなった。
宝玄仙に拘束の道術をかけた。
「ぐうっ」
宝玄仙が呻き声をあげた。
宝玄仙の身体が見えない鎖で引っ張られたかのように、四肢を大きく拡げた形で固定されたのだ。
御影は鳴智に命じて、奥側の壁にあった薬剤の壺を持ってこさせた。
「これはさっきの縄瘤に塗っていた薬剤よ。強烈な痒みをもたらすのよね。身体に訊ねるという手もあるのよ……。それとも、供をひとりひとり殺していくのがいい? さっさと言いなさい、宝玄仙……」
御影はそういうと、壺に浸けてあった刷毛で痒みをもたらす液剤をたっぷりと股間に塗ってやった。
「な、なにをするんだい──。あっ、くうっ」
宝玄仙が真っ赤な顔になって、道術で金縛りになった身体を捻ろうとした。
だが、ほとんど身じろぎくらいしかできない。
御影は構わず、たっぷりと股間に塗りつけてやった。
さらに後ろに回り、尻の亀裂に添って刷毛を動かしていく。
「はああ──あああっ──」
宝玄仙がいきなり飛び跳ねるように身体を動かした。
そのため、宝玄仙が倒れそうになり、慌てて御影は道術を強化しなければならなかった。
「宝玄仙は特にお尻が苦手なんですよ。言ってませんでしたか……」
鳴智がぽつりと言った。
すると、宝玄仙がきっと鳴智を睨んだ。
「……お、お前には、そのうちにきっちりと話をつけるからね、鳴智……」
「愉しみにしているわ、宝玄仙」
鳴智は言った。
「聞いてはいたけど、これほどとはね……。じゃあ、面白くなってきたわね」
鳴智は執拗に菊座に液剤を塗りたくってやった。
液剤を奥に入れるために、肛門に指を突っ込んでやると、宝玄仙はそれだけで腰をがくがくと動かして激しく反応した。
その反応のよさに御影はほくそ笑んだ。
「いつまで我慢できるかしらね」
そう言って御影が刷毛を離したときには、宝玄仙が呻き声のようなものを出し始めた。
「さっさと言いなさい、宝玄仙──。我慢できるわけないでしょう。それくらい、わかってんでしょう?」
御影は髪を振り乱しだした宝玄仙の黒髪を掴んで、自分に顔を向けさせた。
「ぐうっ……。だ、だから、言ってんだろう……。わ、わたしと供に手を出さないと道術契約で誓いな……。そうしたら、封印が開くよ……。くうっ、か、痒い……ぐうっ……」
宝玄仙が悲痛な顔になった。
さっきは縄瘤には媚薬で薄めた掻痒剤を使ったのだ。
今度はまったく薄めていない原液である。
猛烈な痒さが襲っているはずだ。
「あたしを馬鹿だと思っているの、宝玄仙──。道術契約のような複雑なものを『道術錠』の封印解除の条件にはできないわよ。ちょっとした合言葉でしかないはずよ。ぐずぐず言ってないで白状するのよ──」
「な、何度も言っているだろう……。道術契約をすれば、その合言葉を教えてやるよ……」
宝玄仙が苦しそうに言った。
御影は腹が立って、思い切り宝玄仙の頬を引っ叩いた。
「だったら、ここにお前の供をひとりひとり連れてくるわ──。目の前で供がひとりひとり死ぬのを見れば、思い出すでしょうしね……」
御影は怒鳴った。
そのとき、宝玄仙が慌てたように言った。
「ま、待て──。わ、わかった、言う──。四人の供がある言葉を同時にかける。それが開錠の条件になっている。だから、供をひとりでも殺せば、封印は解けないよ──」
宝玄仙が早口で言った。
御影は宝玄仙を睨んだ。
おそらく、それは嘘じゃないだろう。
『道術錠』の封印を解錠する条件付けの設定はある決まりがある。
たとえば肉体の一部を糸でつなぐとかの場合は、施錠の対象である肉体の持ち主が理解できるものであれば、かなり複雑な条件付けが可能だ。
しかし、単なる無機質の施錠であるとか、この場合のような袋の場合は、ぜいぜい合言葉を設定するくらいのものだ。
宝玄仙が四人の供に危害を加えられるのを防ぐために、四人の供が必要なように合言葉を設定するというのは十分に考えられる。
そのとき、御影はあることを思いついて、にやりと笑った。
『取寄せ術』で革の貞操帯をこの場に取り寄せた。
そして、それの内側にたっぷりと壺の液剤を流してから、宝玄仙の腰に装着してやった。
そして、『道術錠』で封印する。
「開錠の条件は、“服従の首輪を受け入れる”という言葉よ……。それをお前が口にしなければ、貞操帯は外れないわ」
御影の言葉にはっとしたように宝玄仙の顔が引きつった。
すでに宝玄仙の首には、『服従の首輪』がしてある。
この状態でその言葉を口にすれば、その瞬間に首輪の刻みが宝玄仙を縛りつける。
「とりあえず、鳴智、雷音院にあるあたしの屋敷の地下牢に閉じ込めておきなさい──」
御影は言った。
そして、『移動術』で宝玄仙と鳴智を雷音院の城郭の中にある御影の屋敷まで転送させた。
*
「ふたりとも、やめなさい……」
声がした。
朱姫の舌が股間から離れた。
沙那はがっくりと脱力するとともに、朦朧としている顔をあげた。
そこにいたのは、御影と宝玄仙だった。
声をかけたのは御影のようだ。
沙那が御影を直接見るのは、この旅の最初の頃に、宝玄仙をさらおうとした御影を孫空女とともに抹殺したときのことだ。
御影はそのときと、まったく変わってなかった。
また、宝玄仙は特に拘束はされてはおらず、きちんと服も着ていた。
「話はついたよ。御影に道術石を渡すことになったよ。それを条件に、御影は道術契約をして、わたしらに二度と手を出さないと誓う……。さあ、合言葉を四人でかけな」
宝玄仙が言った。
合言葉……?
なんだそれはと思ったが、どうやら道術石を入れたことになっている袋の封印のことだとわかった。
しかし、沙那は宝玄仙が道術石が入っていると見せかけている小袋を『道術錠』で封印したことはわかってるが、合言葉など教えてもらっていない。
だが、宝玄仙がそう言うのだから、なにか意味があるのだろうと思って話を合わせることにした。
「わ、わかりましたけど……。で、でも、か、身体が……」
沙那と孫空女は両脚を椅子の手摺りに乗せて、随分長いあいだ、朱姫と素蛾の舌の洗礼を受け続けていた。
達した回数は十数回にもなる。
股間の下には夥しい愛液が流れているし、手足は痺れたようになっていて、まったく力が入らない。
「朱姫、素蛾、ふたりを椅子からおろしてやるのよ」
御影がそんな沙那と孫空女を一瞥して苦笑した。
それとともに、素蛾の身体に巻かれていた縄と炸裂砂が一瞬にして消滅した。
沙那はほっとした。
ふと、宝玄仙の首を確かめた。
ここを出ていくときに、朱姫につけられた首の炸裂砂はすでにないようだ。
「沙那姉さん……」
朱姫が手摺りにかかった沙那の脚を外してくれた。
沙那はそのまま床に転げ落ちかけた。
「う、うわっ、沙那姉さん──」
それを慌てて朱姫が抱えて、沙那を床にゆっくりとおろす。
孫空女も同じようなことになっている。
「み、みんな、集まるのよ……」
沙那は声をかけた。
後ろ手の手錠はそのままだが、いつでも力を入れれば外れることはわかっている。
機会は一度しかないだろう……。
宝玄仙は沙那たちの反撃を期待して、御影を連れてきたのだろうか……?
沙那は朱姫に身体を支えられて、這うように前に進んだ。素蛾に身体を支えられた孫空女も同じように這いながらやってくる。
そのとき、孫空女が沙那を見て小さく頷いた。
沙那も目で応じる。
「さあ、じゃあ、合言葉を言うわ……。袋を近づけて……」
沙那は御影を見た。
道術石の袋は御影の首にある。
開いてしまえば、中身はただの石ころだ。
道術契約の約束など無意味だろう。
始末をつけるとすれば、いましかない。
御影が結界で身体を覆っているとしても、袋を近づけるためにそのときには結界を解くしかない。
「ほら」
御影が近づいた。
不意に孫空女が後手の手錠を引き千切った。
「うわっ──」
御影が孫空女に驚いて、悲鳴をあげた。
いまだ──。
御影が完全に沙那に対して無防備になっているのを確信した。
沙那も手錠を千切ると、瞬殺の経絡のつぼに指を伸ばす。
やっと沙那の動きに気がついた御影の目が大きく見開かれた。
だが、もう遅い──。
沙那は経絡突きが御影に当たるのを確信した。
「ぐうっ」
そのとき、なにかが起きた。
強い衝撃を横から感じたのだ。
沙那の身体は朱姫から長く股間責めに遭っていたために、すっかりと弱っていたので、衝撃のまま転がって孫空女たちを巻き込んで倒れてしまった。
鳴智の横にいた宝玄仙が沙那の腹を蹴飛ばして、御影への攻撃を邪魔をしたと気がついたのは、御影自身がさっと退がって身を守る態勢を取られてしまってからだ。
「な、なんで、邪魔するんです、ご主人様──」
沙那は叫んだ。
「さ、沙那様……、ご主人様じゃないと思います。多分、それも御影さんです」
素蛾が言った。
「えっ?」
沙那は声をあげた。
「なんでお前にはわかるの、小娘? 不思議な勘が働くのねえ」
宝玄仙の口調が男の声に変わった。
そして、一瞬で宝玄仙の姿が消滅して、黒い頭巾と外套を身に着けた影法師の姿に変化した。
「か、影法師──」
叫んだのは孫空女だ。
そのとき、不意に自分の身体が浮きあがるのを感じた。
なにかの透明な球体に閉じ込められていて、それがふわりと浮いたのだ。
沙那だけではなく、孫空女や朱姫も素蛾も同じように浮いている。
「もしかして、合言葉を教えられているかと思ったけど、その感じでは知らないかもしれないわね──。まあ、念のために連れ帰って拷問にかけるわ。それとも、宝玄仙が白状するのが早いかしら」
御影がにやりと笑った。
そのとき、御影が周りの空間がかすかに揺れるを感じた。
そして、御影が消滅した。
『移動術』だ──。
そして、沙那たちを閉じ込めた球体も、御影が消えた場所に吸い込まれるように移動していく。
やがて、沙那の身体に捻じれるような感覚が加わった。
(第122話『裏切りの摩雲城』終わり、第123話『主従解散』に続く)
*
次話より、舞台を雷音城に移して、最終エピソードとなります。