「初日から、途中でくたばんじゃねえ――」
顔面に水をぶつけられた。
気がつくと、薄暗い部屋で仰向けになっていた。
「気がついたか、孫空女」
顔の上に、
自分は、どうしたのだろう……?
確か……?
いや――。
そうか……。
確か、数十匹もの妖魔に凌辱された。
媚薬を股間に塗られていた孫空女は、不本意にもよがり狂ってしまい、犯されることで肉欲に狂う自分を制御できなかった。
次から次に欲情しきった股間に肉棒を突っ込まれて、半狂乱になったことだけは覚えている。
それから、どうなったかわからない。
「……こ、こ……こは?」
自分の声が信じられないくらいに枯れていて、しかも、全身のどこにも力が入らないくらいに疲労困憊していることに気がついた。
「ここは調教部屋だ。今日からお前たちのねぐらになる牢には、後で連れていく」
明月が言った。
「さ、沙那は……?」
「沙那は、牢で休ませているぜ。可哀そうに、気を失ったお前の分も引き受けたんだ。完全に白目を剥いていたが、それでも百五十匹の妖魔兵との性交を終わらせた。それに比べれば、お前なんてえのは、半分の五十匹目で気を失うから、その分を沙那が受け持たなくちゃあならなかったんだぜ」
驚いた。
孫空女は身体を起こそうとしたが、両手と両足を台の四隅に伸ばして拘束されている。
頑丈な鎖で逃げることはできない。
あの鼻鉤は外されているようだ。
もちろん、全裸だ。
股間に違和感がある。
大量の精液が膣内に残ったままでいるのは間違いないが、少しは裂けているのかもしれない。
「明日からは、ひとりにつき一日五十匹がお前たちの受け持ちになった。今日の半分だ。ありがたく思うんだな――。お前らが壊れてしまわないようにという銀角様の配慮だ。今度、お会いしたら、しっかりと礼を言うんだぜ。それと、しっかり励むんだ」
明月が言った。
「沙那は……、ろ、牢にいるの……かい……?」
「お前が心配することじゃねえ。お前は、これから、俺たちに拷問されるんだ」
「ご、拷問?」
次の瞬間、明月の両手が手首を拘束されている右の親指を掴んだ。
清風は左の親指だ。
その指がそれぞれに体重をかけて、関節の反対方向に曲げられた。
容赦なく親指がありえない方向に無理矢理にねじ折れる。
「ひぎゃあああっ」
孫空女は絶叫した。
両方の親指が完全に折れる感触が伝わった。
折れた親指を乱暴に動かされる。
「がああぁぁぁっ――ひぎゃあああっ――あがああああ――」
孫空女は恥も外聞もなく悲鳴をあげた。
味わったことのない激痛が走る。
その孫空女の顔の上に、絹の布が被せられる。
「水が飲みてえだろう、孫空女。たっぷりと飲みな」
布の上から水が被せられた。
孫空女は、口の中に絹布を通して水が浸透してくるのを感じた。
だが、ぺったりと鼻の穴と口に絹布が張り付き息が遮断された。
孫空女は慌てた。
四肢を拘束されている孫空女には、顔の布を払いのけることができない。
降りかかる水は止まったが、布は避けて貰えない。
だんだんと苦しくなる――。
孫空女は、思い切り吠えた。
「これから、お前は声を出すな。悲鳴もあげるんじゃねえ。お前が悲鳴をあげなけりゃあ、布は取ってやる。だが、声を出せば、いつまでもこのままだ」
明月の声だ。
右手の折れた指が、また乱暴に動かされる。
孫空女は、必死に悲鳴をあげそうになるのを耐える。
もう苦しい――。
頭の中にもやのようなものが拡がる。
意識が遠くなる。
そして、だんだんと……。
不意に顔の布が除けられた。
息が入ってくる。
孫空女は懸命に息を吸った。
「盛大に息をしているな――、孫。そんなに生きたいか?」
明月だ。
その明月が、今度は両手で薬指を握った。
孫空女の心に恐怖が拡がる。
薬指がだんだんと手の甲に向かって曲げられる。
「や、やめろ――」
孫空女は叫んだ。
すると、清風が孫空女の顔に濡れた布を置いた。
布に水がかけられる。
また、呼吸が遮断される。
孫空女は、恐怖を感じて力の限り口で息を吸う。
だが、濡れた布が口に張りつくだけで、息は入ってこない。
「喋んじゃねえって、言っているだろう。言っておくが、俺たちは、お前なんか死ねばいいと思っている。金角様、銀角様に禁止されているから、指で我慢している。本当なら、その赤い髪を一本一本むしるところだ――」
そんな声を耳にしながら、孫空女は新鮮な息を求めて布を吸う。
しかし、そんなものはどこにもない。
また、頭の中に霧がかかる。身体の感覚も次第になくなっていく。
「俺たちは死のうと思ったんだ。だが、この妖魔軍に拾われた。孫空女。お前らがやってきたとき、俺たちは、夢じゃないかと疑ったくらいだ」
「あれから、つらい目にあった。教団には戻れず、惨めに
「知らねえだろうけど、あれから、俺の一物は一度も勃起したことがない。清風のものは知らないけどな。多分、そういう機能は壊されちまったんだろうな。いろいろなことをしてくれたものな――」
「そういえば、覚えているか、孫……。あの変態女法師が、俺たちに、自分で勃起した肉茎を斬り落とせと言ったときには、お前は手を叩いて笑ったものな」
清風と明月が変わりばんこに喋りかける。
もう、ほとんど身体の感覚がない。
息を求める喉の奥が鳴る。
もうすぐ死ぬ――。
孫空女は死を覚悟した。
苦しさが消えていく……。
だんだんと……。
すると、すっと楽になり……。
「ぷはあっ」
そのとき、布が外された。
息が入ってくる。
それとともに、意識も戻っていく。
そのとき、孫空女は自分の股間から尿が流れていることに気がついた。
「小便もらしたのかい――、孫空女。それとも、妖魔どもの精液を自分で洗い落したかったのかよ?」
「心配しなくても、後で俺たちが洗ってやるよ。俺たちの仕事だしな。もう、お前らの身体を見ても欲情しやしねえ。動物の身体を洗うようなものだ」
明月と清風が笑った。
孫空女は、ふたりの顔を睨みつけた。
必ず、また復讐してやる――。
だが、清風が薬指を掴んだとき、屈辱よりも恐怖が走った。
すぐに、指が折れる音がはっきり聞こえた。
孫空女は、獣のような悲鳴をあげた。
「本当に物覚えの悪い“もの”だな」
また、顔に布――。
濡れている布は、顔に乗せられただけで、息を遮断する。
助けて――。
孫空女は、叫ぼうとして思い留まった。
喋ったら、今度は布をどけてもらいないかもしれない。
布の上から水がかけられる。
「孫空女、身体を傷つけてはならんと命じられているが、指だけはいいと言われているんだ。お前らは武器を持つと強いからな。二度と武器を持てない身体にすることは、むしろやって欲しいことらしい」
明月が、もう折れている親指を掴んだ。
そして、折れている骨を今度はさらに捩じり折った。
信じられないような激痛が走る――。
悲鳴を我慢する必要はなかった――。
その痛みで孫空女の意識は失われた。
*
今日で、三日目……。
唇を濡らした途端、宝玄仙がなにかを求めるように口を開けた。
その唇は震えている。
なにかを喋りたいのだ。
だが、まだ喋れない。
舌が石化したままだ。
『浄瓶』の水を飲めば、喋れる。
金角は、小さな杯に『浄瓶』の水を溜めた器からとる。
石化して動けない宝玄仙の前にこれ見よがしにかざす。
だが、まだ飲ませない。
宝玄仙がよく認識できるように、丸薬を水に溶かす。
この薬が身体を溶かすような強力な媚薬であることは、わかっているだろう。
だが、飲まなければ、このまま放っておかれるだけだ。
宝玄仙の尻には、宝玄仙を追いつめる張形が暴れ回っている。
石化している宝玄仙だが、一緒に石化している張形の刺激は感じなければならないのだ。
快感だけは与えられるのに、絶頂することのできない宝玄仙は、もう発狂寸前の状態だろう。
それが石化の恐ろしさだ。
石化している宝玄仙は、はっきりと口にすれば、尻でいかせてやると教えている。
石化しているといっても、眼も見えるし、耳も聞こえる。
ただ、外見が石のように固まるだけだ。
毎日、少しずつ宝玄仙の身体の一部を解放しては、快楽責めをして石化の封印をするということを続けている。
もう、三日目だ。
だんだんと宝玄仙が追い詰められているのがわかる。
宝玄仙は媚薬を飲むし、いかせてくれと口にするはずだ。
それしか望みがないからだ。
器を口に近づけると、宝玄仙は躊躇なくそれを飲み干した。
すぐに、甘い声を出し始める。
「……お、お願いだよ……。き、金角……」
宝玄仙の震える声が口から出た。
「この指で尻をひと撫ぜする。すると尻が生身になり、溜まったものを発散できるかもしれないね」
「……撫ぜて……おく……れ」
宝玄仙の声は震えている。
おそらく、怖ろしいほどの精神力で耐えているのだ。
本当は、欲情で爆発しそうに違いない。
泣き叫び、懇願したいだろう。
だが、自制心がそれを阻止している。
それをゆっくりと剥ぎ取ってやる。
時間はいくらでもる。
じわじわと「希望」というものを砕いていく。
それをされれば、どんな者でも堕ちる。
「まずは、口の利き方だね、宝玄仙。お前は、こうやって、石化されて、妖魔のあたしに、その身体を自由にされているんだ。溜まった性感さえも、石化を解放してもらわなければ発散できないのさ。だから、嘘でもいいから、丁寧な口の利き方をしな。そうした方がいいくらいは頭のいいお前なら、わかるだろう、宝玄仙?」
「お尻を撫ぜろおおっ――」
宝玄仙の絶叫が口から迸った。
金角は、口調とは逆に、かなり宝玄仙が追い詰められているのがわかった。
こんな、やけくそのような叫びは、そんな自分を打ち払いたいのだ。
「そうかい、じゃあ、残念だったね。もう一度、お前を閉じちまう。銀角に預けてある『紅ひさご』を持ってくるさ」
金角は立ちあがった。
「ま、待って……。待ってよ」
扉に向かい始めた金角に、宝玄仙の焦った言葉がかけられた。これも予想通りだ。
「どうしたんだい、宝玄仙?」
金角は、宝玄仙の裸像の前に立った。
本当にいい女だ。
こうやって石化していると、これが本当は人間ということは誰にも想像できないだろう。
腕のいい芸術家が美の理想像を石で表現したとしか思わないだろう。
だが、宝玄仙は人間だ。
そして、術遣いだ。
道術にかけては、金角や銀角などよりもずっと上だ。
『紅ひさご』によって、捕えられなければ、金角でも歯が立たなかっただろう。
それはわかる。
「ほ、本当に……。口の利き方を……あ、改めれば、お、お尻を……解放……して……くれるんだね?」
一語一語ゆっくりと喋るのは、一度に長く話すと、どうしても嬌声が漏れてしまうからに違いない。
そんなところは、この偉大な術遣いが妙に可愛く感じる。
「そうだよ、嘘は言わないさ、宝玄仙。お尻を撫ぜて、生身に戻してやるよ。嘘でいいのさ。嘘で――。仕方ないだろう、宝玄仙。お前は、こうやって媚薬を飲まされ続け、身体の中で一番の弱点の尻に張形を入れられて、しかも、ずっと刺激を受け続け、それなのに、発散させてもらえないでいる。このままじゃあ、狂ってしまうだろうよ。脱走の機会を待つには、少しでも身体をまともな状態に戻しておく方がいいだろう」
金角は、宝玄仙に諭すように言う。
「あ……」
宝玄仙の口が開く。
だが、それから先の言葉が出ないようだ。
金角は微笑んだ。
「ほら、ほんの少し悔しいのを我慢するだけだ。この『浄瓶』の水で濡れた指ですっとお前の尻を撫でる。すると、尻は生身になる。いまの苦しさから解放されるかもしれないよ……。そりゃあ、ちょっとだけ胸は痛むさ。自尊心が傷つく痛みだ。だけど、そんなことがなによ。あんただって、随分と苦労はしたんだろう? そんな胸の痛みくらい」
宝玄仙の口がもう一度開く。
「……お、お願い……です。……お尻を……撫ぜて……ください……」
宝玄仙の口からやっと哀願の言葉が出て。
「いいよ、宝玄仙」
金角は、もう一度、指を『浄瓶』の水に浸け、そして、宝玄仙の尻を割れ目に沿って撫ぜた。
すると、宝玄仙の菊門がそこだけ別の生き物のように動き始める。
「あああっ――」
宝玄仙の口から激しい嬌声が出始めた。
唇が震えているは。
そこだけが生身だからだ。
本当なら、全身で打ち震えているのだろう。
宝玄仙の嬌声は、悲鳴のようなものに変わりはじめた。
いけないのだ。
いまだに、宝玄仙の肉襞では霊具の張形が暴れ回っている。
それでも、いけないはずだ。
とっくの昔に、本当なら三日も前に絶頂に達している快楽を受け続け、一度も宝玄仙は達していない。
それが欲しくて、宝玄仙は金角に哀願までしてみせた。
それで、いけなかった宝玄仙の衝撃は大きいだろう。
希望を潰す。
これが調教だ。
心の拷問だ。
宝玄仙は、もうすぐ堕ちるだろう。
金角には、それがわかる。
「お、お前……嘘を……嘘をついたね……。この宝玄仙を……騙した……。よ、よくも……」
「騙してなんかいないさ、宝玄仙」
金角は笑った。
宝玄仙の唇が震えている。
口惜しいのだ。
いけると思っていて、いなけなかったことの絶望と恥辱が宝玄仙を追い込んでいる。
「確かに、尻は生身に戻してやった。だけど、お前は尻で淫液を噴き出すわけじゃないだろう? 女は子宮で感じるんだ。どこで快感を覚えるかはそのきっかけでしかない。淫汁は、膣襞から出るんだよ。そこが石化したままなのに、いけるわけないだろう」
「だ、だったら……。か、解放しておくれよ――。前を――。前の孔を解放してえ……お願いです……。お願い……。お、お願いですから―――。お願い……ああっ……します……、金角様」
宝玄仙の口調が、はっきりと泣き声に変わった。
金角は驚いた。
いきなり、人間が変わったような感じがしたのだ。
金角も宝玄仙ほどではないが、大きな魔力を持つ妖魔だ。
人や妖魔の持つ魔力の波を感じることができる。
魔力や霊気というものは、それぞれの持ち主の独特のものだ。
ひとりとして、同じ波というものはない。
魔力や道術力を持たない人間が、顔で人を見分けるのと同じように、大きな魔力を持つ者は、魔力や霊気の波で相手を見分ける。
さっきまでの宝玄仙といまの宝玄仙は、魔力の波が違う――。
魔力の量は同じだが、質が微妙に違うのだ。
金角は混乱した。
宝玄仙は哀れな口調で哀願し続ける。
だが、そこに屈辱感のようなものは感じない。
「お前は、誰だい……?」
思わず訊ねた。
次の瞬間、その質問の馬鹿馬鹿しさに気がついた。
眼の前の人間の女は宝玄仙――。
ほかの人間であるわけがない。
「
宝玄仙が小さな声で言った。
「宝玉?」
「宝玄仙の昔の名……。宝玄仙が使わなくなった名……。だから、わたしが使って……います……」
「なんのことだい?」
金角は驚いた。
しかし、やはり、眼の前で石にされている法師は、宝玄仙であって宝玄仙ではない。
金角は混乱した。
しかし、また、宝玄仙が発散する霊気の質が変化した。
元に戻ったのだ。
いまのは、なんだったのか――。
「金角……。頼むから解放して……。膣を――」
その宝玄仙の口がそう言った。
今度は、最初からずっとそこにいた宝玄仙だ。
金角は、いまの現象の理由がわからず、途方に暮れた。
「……解放してもいい……。お前が、少しだけ心を開いたらね」
とりあえず、もう少し宝玄仙と話をしてみたいと思った。
さっきのは、なんだったのか?
「心を……開く……?」
宝玄仙が呟くように言った。
「あんたみたいな力の強い天教の術遣いが、なんで天教から追われているのか教えておくれよ」
金角は言った。
宝玄仙の口が、なにかに耐えるように閉じた。
その口が震えている。すると、また霊気の波が変化した。
これは、宝玄仙じゃない――。
「か、身体が、おかしくなるの。お願い……。か、解放してよ。お、お尻で……お尻で……いきたいの……」
金角にとって、眼の前のことは、すでに理解を超えている。
目の前のは、違う宝玄仙だ。
なぜ?
宝玄仙の中に、別の人物がいるのだろうか――?
いや、違う。
あれは、性質の異なる他人の人格じゃない。
同一人物のものだ。
同一人物だが、明らかに異なるふたつの人格――。
宝玄仙がふたり――。
宝玄仙の中には、ふたつの人格が存在する。
そう考えれば、宝玄仙の力の質が、ころころと変化する理由が説明できる。
「……なんで、あたしらが鎮元の持ってきた話に乗ったのかわかるかい……?」
金角は静かに宝玄仙に語りかけた。
いや、宝玄仙の中にいた、もうひとりの宝玄仙に……。
「知り……ません……。天教の階級か……それとも、宝具が欲しかったのか……。お、お願いです。もう…」
宝玄仙の言葉に甘い口調が混じる。
苦しいのだ。
すっかり、熟れきった身体を発散できないことで苦しんでいる。
石化されていなければ、のたうち回っているはずだ。
そして、また、霊気の波が変化した。
こっちは、最初からいた宝玄仙だ。
さっき垣間見せた別の宝玄仙ではない。
しかし、ころころと中身の人間が変わるように感じるのは、錯覚なのだろうか。
「ほ、宝玄仙……、聞いているね?」
金角は言った。
「き、聞いているよ……。た、頼むよ、金角……。ご、後生だよ……」
「宝玄仙だよね?」
金角は確信した。
これは、宝玄仙だ。
「お、お前、馬鹿か……。ほ、宝玄仙に決まっているだろう。こ、これ以上、なぶるのかい」
「そうじゃないよ。話をしたいのさ。どうして、あたしが天教の持ってきた話に乗ったか教えてやろうと思ってね」
「し、知るかよ。あのくだらない戒名が欲しかったんだろうが……」
「戒名はどうでもいいのさ。欲しがった素振りをしただけさ。興味があったのは、お前のことさ、宝玄仙。鎮元が、お前は罠に嵌り、二年間、調教されたことがあると言ったからね。それが、同じ八仙を殺害した動機だと――。そんなことをあいつは洩らしたんだ」
金角は言った。
「それが……どうしたんだい……。笑いたいのかい……」
宝玄仙は悔しそうだ。
動くのは口元だけだが、それはわかる。
金角は、身体にまとっている薄物をとった。金角の裸身が、宝玄仙に見えるはずだ。
「たくさんの魔術紋が刻んでいるだろう、このあたしの身体には……」
「……ああ」
金角の身体には、大小合わせて魔術紋の刺青が百以上ある。それが、消えることなく刻まれている。
どんな魔術をかけても、永遠に消えることのない金角の呪縛だ。
「妖魔の寿命は長い。この金角はねえ……。十年間、この身体に刻まれた結界の数と同じ数の雄の妖魔に支配されていた。このあたしは、そいつらの性奴隷だったのさ。厠女さ……」
「厠女――?」
宝玄仙は信じられないという口調で言った。
「驚いたかい。嘘だと思うなら、信じなくてもいいけどね。この身体を面白おかしく遊ぶために、連中がやったのさ。合言葉ひとつで絶頂する呪縛や、壮絶な痒みが生まれる呪縛、犬のように四つん這いにしかなれなくなる呪縛……。なんでもあるよ。そういえば、いまのお前のように、人形のように動けなくなる呪縛紋もあるねえ。よくがに股になって、尻を突き出した格好とかで、固められたっけ」
金角は乾いた笑いをした。
本当のことだ。
銀角でさえも知らない。
あの当時、銀角はまだ子供で、一緒に生活をしていたわけじゃない。
そんな奴隷同然の身分から這いあがり、魔域で軍団を率いる身分になったとき、銀角を金角自身が探し出して、金角軍の副将に据えたのだ。
銀角にとっては、金角は、最初から一万もの軍団の頂点に立つ偉大なる雌妖だった。
哀れな性処理用の道具にすぎなかった時代の金角のことは知らない。
「……そ、そいつらはどうしたのさ」
「殺したよ。それこそ、何十年もかけてね。この金角の肌に、遊び半分で魔術紋を刻んだ連中は、この世にはいない……。それを知っている者もいない……。皆殺しにした……。家族も全部……。とにかく、殺しまくった……。この金角の過去を知る存在は許さない。いまでは、知っているのは、このあたし自身だけだ。随分と昔のことだからねえ……。それと、お前だ。宝玄仙……」
「……だ、だったら、なんで、そんなことを……わ、わたしに……教えるのさ」
「なんでだろうねえ……?」
金角は薄物を着直した。
「……境遇が似ていたからかねえ。ねえ、宝玄仙、どうせなら、魔域に来る気はないかい? このあたしと一緒に、面白おかしくやろうじゃないか」
「一緒に?」
「あたしと『真言の誓約』で忠誠を誓いな。お前を副将にする。銀角の上だ。お前の部下も助ける。それぞれ、この金角軍の幹部にする。悪い話じゃないはずさ……。あんたとあたしは、似た者同士……。助けてやるよ。まあ、隷属はしてもらうけどね……。あんたは力がありすぎる……」
「ふざけやがって……。わたしの昔を知って、いいように話を作りやがって……」
宝玄仙は言った。
だが、動揺している。
それはわかる。
「あたしに言わせれば、お前の境遇の方が、このあたしに合わせやがってという感じだよ。騙されて魔術で縛られる。自分を慰み者にした雄に支配される。その雄が連れてきた別の雄にも支配される。だが、その境遇に耐えて、復讐を果たす――。なにからなにまで一緒だ。慰み者だった期間が、お前は二年。あたしは、十年という違いだけだ」
そう言って、金角は笑った。
鎮元仙士から聞いた宝玄仙の身の上話は、昔の金角の境遇とそっくりだ。なにからなにまで――。
だから、宝玄仙を手に入れたいと思った。
もちろん、宝玄仙を魔域に連れていくことは、ほかの魔王を刺激する大きな騒動になる。
しかし、金角はそうするつもりだ。
「……ところで、そろそろ、いかせてやるよ。宝玄仙。でも、一度だけだ……。そして、また、尻に張形を入れたまま石化する。張形の振動は倍にする。それでいいね」
「……それでいい。お願い……」
宝玄仙は、もう眼の前の絶頂――。
それしか頭にないようだ。
「だから、さっきの話、考えておくれよ」
「さっき?」
「あたしの右腕になることよ」
「奴隷だろ」
「奴隷だ。だけど、片腕だ。あたしがあんたの居場所を作る。その代償だ。奴隷を誓えば、なにか、受け入れられる条件の誓約なら飲んでもいい……。無条件の隷属でなくていい。あたしも誓約しよう」
「考えるよ」
宝玄仙ははっきりと言った。
金角は満足した。
宝玄仙は、明らかな拒否をしなかった。
“考える”と言ったのだ。
以前は、あからさまな拒否をしていた。
それが折れた。
金角は『浄瓶』の水を手に取った。
そして、少しずつ、膣の入口から内側にかけて水を拡げながら、石化を解いていく。
そのまま、指で膣の中を愛撫した。
宝玄仙が震える。
『浄瓶』の水が子宮に届いた。
「はがあああああ――」
宝玄仙が獣のような声をあげて、最初の絶頂をした。
金角は指を抜き、『紅ひさご』を受け取るために、部屋を出ていこうとした。
その金角の背中側で二度目の咆哮を宝玄仙が発していた。
尻の玩具を入れっぱなしだ。
それで達したのだろう。
それは、宝玄仙の心からの満足そうな絶頂の声に間違いなかった。