宝玄仙の術により、地下砦の外に転送された。
どこかの森の中だ。
いずれにしても、不覚をとったものだ。
まさか、銀角がやられていたとは思わなかった。
どうやら、宝玄仙の供が、先に銀角を石化して倒し、その銀角に化けて、金角にあの『紅ひさご』を仕掛けたということらしい。
その銀角に対する拷問はすでに開始されている。
残念だが、逆転の目は思いつかない。
金角も石化した身体を樹木の下に運ばれ、顔が『浄瓶』の水で洗浄された。
だが、洗浄されたのは、金角の首から上だけだ。
首から下は相変わらず固まったままだ。
眼の前には、最初に運ばれたときの黒い法衣姿の宝玄仙が座っている。
顔に不気味な笑みを浮かべている。
手になにか小さな綿を持っている。
それを金角の鼻の穴に詰め込んだ。
「な、なにをしたんだい、宝玄仙?」
「口の利き方に気をつけるんだね、金角。まだ、宝玄仙を虜にしているつもりかい? お前の鼻に入れたのは強力な媚薬だよ。『淫霧の綿』というね。石化しても生身に戻された部分の機能は戻るんだろう。たっぷりとこの宝玄仙の淫霧を味わいな。そりゃあ、怖ろしいものだよ」
「け、形勢逆転というわけだね……」
「そういうことだ、金角……。朱姫、おいで、可愛がってやりな」
宝玄仙があの半妖を呼んだ。
その朱姫はすぐにやってきた。
一方で、少し離れた眼の前では、銀角の悲鳴が続いている。
銀角は、あられもない恰好で石化したのだが、ここに連れられてから、『浄瓶』の水で、金角と同じように首から上と、そして、乳首と股間の陰核だけの石化を解かれている。
それを沙那と孫空女、そして、
だが、膣内の石化を解かれないと、どんなに快楽を受けても発散できない。
地獄のような快楽が続くだけだ。
すでに銀角は狂乱状態だ。
「銀角の様子が気になりますか、金角様?」
朱姫がくすくす笑いながら、金角の口に舌を入れた。
「抵抗するんじゃないよ、金角。あの銀角も翻弄された朱姫の舌技だ。味わうといいよ。この宝玄仙ですら、朱姫の舌の技には弱いんだ」
宝玄仙は、嗜虐の笑みを浮かべて、こちらを見ている。
確かに朱姫の舌技は巧みだった。
「くっ……、あっ……んふっ」
たちまちに翻弄される。
口中を刺激されて、たちまちに高まる性感に金角は恐れおののいた。
しかも、鼻の淫霧は確かに強力だ。
あっという間に、淫らな感覚が金角を支配する。
口の中がこんなに感じるものかと思った。
こんな口づけは初めてだ。
朱姫の舌が離れた後、金角はしばらく、口が閉じられなかった。
「涎を垂らすほど、強烈だったか、金角?」
我に返って、慌てて口を閉じる。
「行っていいよ、朱姫」
宝玄仙が言った。
「はーい。じゃあ、銀角と遊んでいます。三日もあれば、銀角を調教してみせますね。あの銀角は、見かけによらず、“受け”ですよ。自分でも気がついていないと思いますが」
「好きにおやり、朱姫。ただ、三日経ったら、『紅ひさご』と『
「ええ――? 壊すんですか? もったいないなあ。貴重な霊具なんじゃないですか?」
「貴重には違いないけど、いまの教団の帝仙の
宝玄仙は言った。
「そうなのですか?」
口を挟んだのは沙那だ。
すぐ背後で、銀角を弄んでいたのだ。
手に持っているのは小さな刷毛で、それを生身にした銀角の乳首をくすぐっていたのだ。
いまでもまだ、孫空女と日値が銀角を責めている。
銀角の狂ったような嬌声が周囲に響き渡っている。
「ああ、一族の霊具というのは、そういうものさ、沙那。ほら、御影が自分の分身を使って、遠くのものを見聞きできるのと同じさ。これが手元にあると、曹国仙の手の中にいるのと同じということさ。残念だけど、壊すしかないね。壊してしまえば、いまの曹国仙には、これを復活できる能力はない。この霊具を作ったのは、曹国仙の祖先だしね。一族の重要な霊具を壊すのは、いい腹いせにもなる」
「そうですか」
沙那が朱姫にも刷毛を渡した。
朱姫は沙那とともに、銀角の方に向かった。
「眼の前にいるのは、宝玄仙かい? それとも、
金角は言った。
この宝玄仙が本来の宝玄仙であるのはわかっている。
金角が相手をしていたときに見え隠れしていた、宝玉と名乗った弱々しい宝玄仙はここにはいない。
きっと、また、眠ってしまったのだろう。
宝玄仙の手が金角の顔に伸びた。
顔に怒りが浮いている。
「金角、眼の玉をくり抜かれたいかい?」
宝玄仙が恐ろしい形相で睨んだ。
こんな顔もできるのかと驚いた。
そして、恐怖を感じた。
「あ、あたしらをどうするつもりだい……?」
金角は言った。
「どうもしないよ。適当な日にちが経てば、いずれ解放してやる、金角。ただし、この宝玄仙の一行を襲った落とし前はつけさせるよ」
宝玄仙は一度立ち、金角のすぐ前に座り直すと、懐から小さな板切れを出して、金角にかざした。
板切れは三枚あり、そのうちの二枚は黒焦げだ。
「お前たちは、西域に戻らせてやる。そのときに、これを持っていくんだ。この中には、朱姫の家族にも等しい三匹の使徒が眠っている。いまは、銀角のお陰で、ほとんど死んでいるのと同じだ。この宝玄仙でも復活できない。だけど、西域でなら、また、この中の使徒を復活できるだろう。それをしな。いずれ、わたしたちも西域に行く。そのときまでに、復活させておくんだ。朱姫もそれで許すと言っている」
「いずれ来る? そ、そうなのかい? それよりも、あたしたちがいなくなったことは、部下たちも、そのうちに気がつくよ……。そ、そうすれば追ってくる……。に、逃げられりゃしないよ」
話ながらも、どんどんと身体が熱くなり、蕩けるように疼いてくるのがわかる。
なんだ、この強烈な淫霧は……。
「だったら、部下を追い返すんだね。部下たちの前で色責めに遭いたくなければね。辺りをすでに結界で包んだ。あの宝具で不覚をとらなけらりゃあ、この宝玄仙を相手にお前ら雑魚が大勢かかってきても、かなうわけないだろう」
宝玄仙が吐き捨てた。
まあ、そうだろう。
それに、金角の私室には、こちらから呼ばない限り、絶対に入ってこないように躾ている。
銀角も同じのはずだ。
不審に思って、強引に部屋に入ってくるには、半日以上先だろう。
部下による捜索が始まるのは、それからだ。
それに、金角と銀角が人質になったら、連中は手を出せない。
金角たちの命を最優先に行動するはずだ。
連中と結んでいる『主従の誓い』がそうさせるのだ。
「……わ、わかったよ。使徒とやらの復活の方法は探してみる……。と、ところで、そ、その条件だけで、あたしらを解放するのかい?」
「そんなわけがないだろう、金角――。第二の条件は、お前がわたしと『真言の誓約』を結ぶことだよ」
宝玄仙が言った。
「……隷属を誓えというのかい? そんなことをするわけがないだろう、宝玄仙。このあたしは、十年間も責め続けられて、誰とも隷属の誓約を結ばなかったのだよ」
「わかっているよ、金角。だけど、お前は結ぶ……。それに、誓うのは、隷属じゃない。主従の誓いでもない。対等の羲姉妹でいい。ただし、わたしが姉で、お前が妹だ」
「羲姉妹? 魔族のあたしと、人間族のお前とかい? そもそも、お前をあんな風に拷問したあたしと?」
金角は驚いてしまった。
「……魔族と人間だからなんだっていうんだい。それに、お前とわたしは、あの拷問を通じて、あんなにも語り合った……。多分、いい関係になれる……。そうは思わないかい……」
「い、いい関係って……」
「ねえ、金角」
宝玄仙がさらに近づいて、金角の頬に手で触れた。
金角は口を閉じた。
「……正直に言うよ。わたしは、お前と隷属を結んでもいい気になっていたよ……。それは、お前も知っていただろう? しかし、お前はそれを強要しなかった。しようと思えば、させられたのに、お前はわたしを隷属させることを躊躇ってたんだ」
宝玄仙の唇が金角の唇に触れた。
そうかもしれない……。
宝玄仙の言葉を聞いて、金角は思った。
いや、そうなのだろう。
確かに、金角は躊躇していた。
宝玄仙をもっと冷酷に追い詰めれば、簡単に宝玄仙は堕ちただろう。
だが、しなかった。
そうか、自分は宝玄仙をあんな手段で奴隷にしたくなかったのだ。
いま、やっと自分の心情がわかった。
宝玄仙の舌が金角の舌に触れる。
それとともに、金角の唾液を吸われる。
金角もまた宝玄仙の舌を絡めて、宝玄仙の唾液を吸う。
お互いの唾液をしばらく吸い合う。
宝玄仙の口が離れた。
痺れるような疼きが全身を駆け回る。
「あ、あたしたちは、姉妹になるのかい、宝玄仙……」
金角は溜め息をつきながら言った。
身体が溶けるような口づけだ。
さっきの朱姫といい、この宝玄仙といい、この主従は、本当に性技が巧みだ。
それよりも、身体が溶けそうだ――。
『淫霧の綿』から与えられる淫靡な香が、石化した金角の身体に充満し続けている。
つらい――。
この燃えたぎる身体が淫靡な責めを求めている。
乳房を揉んで欲しい。
膣孔を激しく掻きほじってもらいたい。
「だから、羲姉妹になろう……。それを、結ぼうや……。実は、これもお前がわたしに強要したことと同じなんだよ……。奴隷でも……、主従でも……、羲姉妹でも……。お前が上でわたしが下でも……、わたしが上でお前が下でも……。ちょっとした違いだ……。さあ、あのとき、結びかけていた誓いをしようじゃないか」
宝玄仙は『浄瓶』を手に取った。
『浄瓶』は、宝玄仙のすぐ横にある。
宝玄仙が『浄瓶』の水を金角の股間にかけた。
金角の股間が生身に戻った。
その股間に宝玄仙の手が触れる。
道術なのか、金角の股間から衣類が消滅させられた。
宝玄仙の指が金角の膣に触れる。
陰毛を掻き分け、淫襞を擦られ、陰核をいじられ、そして、膣内に指が入れられた。
なんという優しい愛撫だろう。
あっという間に金角は追いつめられた。
「金角、ほら……」
宝玄仙の甘い声――。
「ああ……」
金角は震えた。
宝玄仙の優しい愛撫……。
それが続く……。
「いきそうかい……、金角……?」
「い、いく……。いきたい……」
宝玄仙の指が激しくなる。
それでいて優しい。
宝玄仙の指から伝わる愛情――。
それが、金角を震わせる。
「じゃあ、そう言いな……。宝玄仙の弟子は、みんなそう言うんだ……。いくときには、宝玄仙にそれを伝える……。それを合図に、この宝玄仙は、いつも最高の快楽を注ぎこむ」
「い、いくっ、宝玄仙――。い、いかせて……、く、ください」
叫んだ。
宝玄仙がふっと笑った気がした。
あがってくる……。
なにかが拡がる……。
触っているのは、たった数本の指だ。
もっと大勢の人間に愛撫をされたことがある。
もっとたくさんの淫具に責められたこともある……。
もっと強い媚薬を大量に使われたこともある……。
もっと陰湿な恥辱を味わった……。
そのときには、一度も与えられなかった圧倒的な官能の矢が金角に突き刺さる。
こんなに愛情を注ぎこまれた愛撫がなかった。
そんなものはあり得なかった。
しかし、ここにあるものは……。
「お前の魔力を戻す、金角……。だから、誓おうよ、金角。お前とわたしと語り合ったときの続きだ……。お前は、わたしに、隷属を強要しなかった。だから、わたしもしない。結ぶのは羲姉妹の誓いでいい。わたしたちは敵対しない。盟約はそれだけだ……」
「あ、あたしと……姉妹になって……く、くれるのかい……」
突きあがる快楽――。
もう、なにも考えられない。
確かに、魔力が戻っている。
だが、そんなことはどうでもいい。
ただ、気持ちがいい。
羲姉妹だって?
お人好しの女だ……。
いまの金角は、強要されれば、奴隷になることも受け入れたかもしれない。
宝玄仙には、それがわかっていると思う……。
しかし、宝玄仙が求めるのは、羲姉妹の誓いだ。
あの十年間、奴隷になれと言われ続けた……。
こんなやつらの奴隷になんかなるものかと思った。
奴隷になってもいいと思った相手はひとりもいなかかった……。
だけど、宝玄仙となら……。
なってやってもいいかもしれないと考えた……。
ましてや、羲姉妹なら……。
まあ、宝玄仙にとっては、性奴隷も、羲姉妹も同じ意味なのだろう……。
「お前は、あの宝玉からも宝玄仙を救ってくれた。わかっていたんだね。だから、感謝をしている。このわたしの奴隷になりな。悪いものじゃない。あの三人が、わたしを慕っていることは見ればわかるだろう?」
「ど、奴隷じゃなくて、ぎ、羲姉妹だろう、あああっ」
金角は喘ぎながら言った。
「そうだったね。でも、同じことだろう」
宝玄仙が笑った。
同じことなのだ。
金角も笑いそうになった。
そのとき、金角を襲う愛撫が強くなる。
「あ、ああっ、はああっ」
快感が強くなる。
石化した全身に愉悦が走る。
「誓うね?」
宝玄仙の声が耳元で囁く――。
誓う……。
そして、この快楽を永遠に……。
「誓うね、金角?」
「ち、誓うから……、も、もっと、宝玄仙――。もう、少しで――」
なにも考えられない。
やってくる。
圧倒的な甘美感が金角を襲う。
一条の快感の光が金角に刺さる。
「ぐあああっ」
金角は吠えた。
強烈な快美感が全身を包む。
「誓うね、金角? わたしたちは羲姉妹だ。わたしが姉、お前は妹分だ――」
宝玄仙の声だけが聞こえる。
ほかにはなにもない。
「ち、誓う。誓うよ――」
金角は叫んだ。
「わたしも誓うよ、金角」
金角の中でなにかが爆発した。
爆風が金角を掴み、どこかに連れていく。
昇天した。
同時に魔力が宝玄仙の霊気と交差し、そして、真言の誓約が結ばれた。
宝玄仙の姉妹になれた……。
甘美な充実感が金角を包んでいた。
*
「朱姫、すまなかったね。責任を持って、使徒は復活させるよ」
銀角が朱姫にそう言っている。
沙那はそれを横でそれを聞いていた。
蓮花洞の一室だ。
金角と銀角の部屋のそばに設けられた宝玄仙一行のための部屋だ。
そこに、金角と銀角がいる。
別れの挨拶をするためだ。
金角が宝玄仙と羲姉妹になる『真言の誓約』を結んだことで、宝玄仙一行は、金角軍の捕虜の立場から一転して、主賓という扱いになった。
銀角もまた、納得してそれを受け入れた。
朱姫は、宣言のとおり、三日で銀角をたらし込んだ。
銀角は、朱姫の三日間の責めに完全に屈して、完全に朱姫を受け入れた。
最初ときは、銀角が朱姫を白蛇で責めたとも聞いたが、調教の三日目には、朱姫の要求のまま、自ら白蛇を出して、自分を責めさせるまでに、銀角は「調教」されてしまった。
いまでは、朱姫と銀角は親友といっていい仲だ。
「うん、一次預ける。そのときには、また遊んであげるよ、銀角」
朱姫がそう応じた。
銀角が頬を染める。
その光景は、百歳近い妖魔とたった十六歳の半妖の関係とは思えない。
「それにしても、宝玄殿たちも一緒に戻ると思ったのにねえ」
今度は、銀角が宝玄仙にそう言った。
「それについては、話し合っただろう、銀角」
金角だ。
「だって、名残り惜しいじゃないかい、姉さん」
「だけど、鎮元の馬鹿があちこちの魔王に、宝玄仙の手配書のようなものをばらまいて、賞金をかけたしねえ。いまは、まずい。ほとぼりが覚めるのを待った方がいいし、しばらくすれば、あんなの意味がないとわかる。そうすれば、宝玄仙を迎えに来れる」
金角が言った。
宝玄仙と金角は、羲姉妹の契りを結び、いずれ、金角が宝玄仙を迎え入れることになったが、一緒には行かない。
いま、西域にいる各魔王のところには、鎮元仙士が自分自身や妖魔を使役してばら蒔いた宝玄仙の人相書きが出回っていて、宝玄仙がのこのこと行けば、大騒ぎになることが予想されるからだ。
時間さえ経てば、ほとぼりも覚めて、宝玄仙が西域入りしても、問題はなくなる。
そのときに、金角は改めて、宝玄仙を迎えに来る。
そういうことになった。
そもそも、宝玄仙自身がまだ旅を続けることを望んでいる。
帝都で貴族扱いだった宝玄仙には、この野宿ばかりで、人里を避け続けるような旅がつらいのではないかと思うのだが、宝玄仙は愉しいらしい。
まあ、いい……。
しかし、旅を続けたとして、向こうの態勢が整ったとき、どうやって、金角が宝玄仙と接触をするのか……?
鎮元仙士なしに、遥かな西域から沙那たちのいる場所に移動術でやってくる手段はなにか――?
沙那にはわからないが、宝玄仙と金角が話し合っていたので、なにか方法があるのに、違いない。
とにかく、金角が戻ることになったのは、宝玄仙の居場所をできるだけ早く作るという目的もある。
いま、西域は宝玄仙を迎い入れる状況にない。
西域で人相書きが出回った宝玄仙が、いま西域に進めば、金角全軍が宝玄仙を護ったとしても、とても守りきれるものではないかもしれないようだ。
だから、金角と銀角が戻り、それを少しでも整える努力をする。
まあ、そういうことだ。
「言っておくけど、銀角――」
孫空女がぐいと銀角の肩を掴んだ。
銀角がぎくりとしている。
「みんなが許したから、あたしも許すけど、本音じゃあ、お前の仕打ちをあたしは許していないよ。あたしと沙那を妖魔どもの性処理に使いやがって……。一日、五十匹だって? 呆れるよ」
「そ、その報いは受けたじゃないか、孫空女」
銀角が顔を引き攣らせながら言った。
沙那は、そのやり取りを横で聞いて、苦笑した。
銀角の言うとおり、三日間の朱姫の責めを受けた最後に、銀角は『変化の指輪』で適当な人間族の娘に変身させられ、調教部屋に拘束されて、妖魔兵の相手をさせられた。
つまり、沙那や孫空女がされたのと同じように、台に開脚で拘束されて、次々にやってくる妖魔の性処理をさせたのだ。
朱姫と孫空女は、その銀角にたっぷりと媚薬を塗りたくっていたから、ただ、妖魔の精を受けるだけではなく、味わってしまう快感で、銀角は半死半生の状態だった。
もちろん、わざわざ変身させたのは、これからも銀角には、この妖魔軍の副将でいてもらわないとならないからだ。
一方で、あの清風と明月もまた、沙那と孫空女以外の姿の女に変えて、妖魔の性処理をさせ続けた。
そもそも、自分たちと同じ姿の者が犯されているのは、正直、気持ちが悪い。
宝玄仙に頼み込んで、別の姿に変えてもらった。
また、
日値は、宝玄仙の一行に加わりたがったが、宝玄仙がにべなく断った。
男は供にしないというのが理由だ。
日値は残念そうだったが、朱姫と別れを済ませ、ひと足先に西域に帰る軍の先遣隊と行動を共にした。
実は、金角軍の主力もすでに大部分がここを去り、残りは、金角の親衛隊と銀角の直轄隊くらいなのだ。
それも、沙那たちが出立すれば、とりあえず、西域に帰る。
あの清風と明月も、性処理用の奴隷のまま、一緒に連れていかれた。
沙那は、孫空女とともに、今度こそ清風と明月を殺してしまうことを提案したが、その意見は宝玄仙に拒否された。
それから、この洞府の入口で看板掛けにされていた鎮元仙士もとりあえず、この部屋に運び入れられている。
どうするかと言えば、このまま放置だ。
この鎮元仙士もまた、宝玄仙はここで殺すのを拒否した。
道術を封印して放逐すると言っている。
殺さなければ、絶対に遺恨が残ると思うが、宝玄仙はどうしても、命を奪うことに躊躇いがあるみたいだ。
死ぬよりもつらい目に遭わせているのだから、そっちの方がいいと言うのだ。
沙那は、もう宝玄仙が甘いことには、諦めの境地だ。
「じゃあ、待っているよ、宝玄仙」
金角が言った。
「ああ、いずれ、わたしらが到着する頃には、環境を整えていておくれ、金角」
「わかったよ、宝玄仙」
「それと、これを持っていっておくれ、金角」
宝玄仙が金角に銀色の縁取りがある小さな袋を渡した。
袋は中身が丸く膨らんでいて、中に丸いなにかが入っている気配だ。
「なんだい、これは?」
金角が言った。
「なんでもないさ。再会を願う御守りさ、金角。大事にしてどこかに仕舞っときな。わたしがお前の勢力地に着くまではそれを預けとくから、わたしがお前の姉であることを忘れるんじゃないよ」
「気味が悪いねえ。得たいの知れないものじゃないだろうねえ、宝玄仙?」
「得たいの知れないものに決まってるだろう、金角。お前がわたしを裏切れば、全身にいき狂いの発作が起きるようにするための呪い具だよ」
宝玄仙が笑った。
「羲姉妹を誓約したあたしだ。どうやって、誓いを破って裏切ればいいんだよ、宝玄仙。裏切れるわけないだろう」
「馬鹿言うんじゃないよ。誓約を破る方法はいくらでもあるよ」
「まあいい。とにかく、御守りとして持ってりゃいいんだね?」
金角が苦笑しながら、その小さな袋を受け取った。
いずれにしても、今回は、天教教団は、西域まで出向いて、妖魔軍をけしかけて、宝玄仙を襲わせたが、それは余技のようなものだろう。
諸王国の領域だったら、教団の影響力で各国の王軍を動かして宝玄仙を逮捕させることも、再び、教団兵を送る込むことも可能だ。
教団が、宝玄仙の討伐を諦めないのであれば、これからも、宝玄仙は逃亡の道を選ぶしかない。
これから進む諸王国も、同じように宝玄仙の手配書がばら蒔かれていると考えた方がいい。
西域で妖魔の魔王を相手にやったのだ。
同じことを諸王国の王室相手にやらないわけがない。
もう、沙那は宝玄仙がどこ行こうとも、どこまでも運命を共にするつもりだ。
すでに、覚悟はできている。
今回のような目に遭ったとしても、それは選んだ道だ。
「それと、もうひとつ頼みがある、金角」
宝玄仙はこれまでにない真面目な表情で言った。
「なに、宝玄仙?」
「
「東方帝国の帝都から? それは、どのくらい前のことだい?」
「もう、三年になるね」
「帝都から売られきた人間族の奴隷が三年も生き延びるわけはないよ。残念だけど、宝玄仙……」
「わかっている。探してくれれば、それでいい。死んでいるとしても行方を知りたいんだ」
「まあ、努力はしてみるけど……」
金角は言った。
「それと、
恵圭とは何者だろう?
桃源と鳴智という夫婦とは、なんだろう。
そして、宝玄仙とはどういう関係なのだろう。
沙那は疑問に思ったが、必要だと思えば、宝玄仙は自分から説明するだろうと思って、敢えてなにも訊ねなかった。
「じゃあ、これを壊すよ」
宝玄仙が『紅ひさご』と『浄瓶』を床に置いた。
簡単に壊せるような霊具ではない。
だが、宝玄仙が魔力を注ぎ込めば、完全に破壊できるのだという。
「待って、ご主人様」
沙那は、はっとして叫んだ。
しかし、宝玄仙の足元でふたつの霊具が粉々になった。
「なんだい、沙那?」
宝玄仙が顔をあげた。
「ああ、もう、壊しちゃって……。これ、どうするんです?」
沙那は、まだ石化したままの鎮元仙士に目線を送った。
『浄瓶』が壊れてしまえば、鎮元仙士は、元に戻れない。
「ははは、忘れていたよ」
宝玄仙は笑った。
絶対に嘘だ。
「ここに置いときゃいいよ。二度と近づくなというご主人様の警告に逆らって、いろいろと動きまわったんだ。じっくり、反省すればいいのさ」
孫空女だ。
「じっくりと反省する時間はあるだろうねえ。多分、この一物を勃起させた姿で、永遠にこのままだ……。もっとも、この霊具は曹国仙の一族に伝わる大事な霊具だ。ここに破片を散らばせておけば、いずれ、曹国仙の手の者が霊気の流れを頼りに、回収に来るかもしれない。もしかしたら、石化を解く別の手段で助けられる可能性もあるさ――。まあ、大切な霊具を壊させてしまった鎮元仙士を曹国仙が許すかどうかは知らないけどね」
「じゃあ、曹国仙の手の者が、ここに来るんですか、ご主人様?」
沙那は訊ねた。
「多分ね。もっとも、この鎮元のように『移動術』を使いこなせるわけじゃないから、手の者が帝都からここに来るのは、早くとも数箇月はかかるね」
「では、ここに、伝言でも残しませんか? せめて、天教には敵対しないことを伝えましょう。放っておいてくれと。これだけ、追ってくるのも、そもそも、ご主人様の仕返しを怖れているんじゃないですか?」
「そうかもしれないね、沙那。まあ、やっておこうか」
宝玄仙が鎮元仙士の肉棒に掛かっている看板を外した。
沙那が、荷物の中から取り出した筆と墨を宝玄仙に渡すと、宝玄仙は、看板の裏側に文字を書いた。
“八仙返上 絶縁御免 宝玄”
宝玄仙が八仙の地位を返上して、教団とは絶縁するという意味だ。
「なんて書いてあるんだよ、朱姫?」
孫空女が言った。
朱姫が説明している。
「お前たちの名も書きな」
宝玄仙が沙那に筆を渡す。
沙那は、宝玄の文字の横に“沙宝蔡”と書く。そして、その下に、“孫玉蔡”とも記す。
「あなたの名は書いたわ、孫空女」
そう言って、筆を朱姫に渡した。
「やっぱり、あたしも書くよ」
朱姫が名を書いた後、孫空女が筆を取りあげた。
そして、板ではなく、鎮元仙士の石の肌に落書きをしはじめた。
すると、孫空女だけではなく、銀角も面白がって、その筆で訳の分からない絵を描きはじめた。
宝玄仙が喜んで笑っている。
すると、沙那の肩に金角がそっと触れた。
振り返ると、その金角に少し離れた場所に呼ばれ、耳打ちで、宝玉の存在について教えられた。
それは驚くべき話だった。
「……本当なの、金角?」
「間違いない。似ているがまったく別の人格だよ……」
「そんな……」
「宝玄仙は隠している。宝玉を抑えておけるから問題はないと思っているようだけど、供の誰かは知っておいた方がいいと思ってね……」
「そう……」
金角から告げられたのは、驚くべきことであり、なんと、宝玄仙の中には、もうひとりの宝玉という人格がいるという話だ。
たとえて言えば、宝玄仙が嗜虐の性癖であれば、被虐を性癖とする別の宝玉もまた存在し、それがひとつの身体に共存しているというのだ。
普段は、宝玉は眠っているが、それは、ともそれば、存在を主張し、本来の宝玉に変わろうとしている――。
もともと、二年間の「調教」の日々の中で、宝玄仙が故意に作り出した人格らしい。
本来の宝玄仙を闘勝仙たちから護るために作りあげた別人格……。
だが、一度、作り出した人格は、そのまま別の人間として、存在が残ってしまった。
俄には信じられない。
しかし、真実なのだろう。
金角は、石像化した宝玄仙をとことん追いつめて、その秘密を知ったとのことだ。
「どうしたらいいと思う、金角?」
「どうしようもない。どちらも、宝玄仙であることには、変わりはない。どちらが表に出ても、受け入れるしかないだろう。あんたらが受け入れるなら、宝玄仙の心は安定し、ふたつの人格を共存させられる」
「共存?」
「覚えていた方がいい、沙那。いまのまま、もうひとつの人格を封じ込めておけるなら、それでもいい。だけど、ふたつの人格が争い始め、存在を奪い合うことがあるかもしれない。そのときは、どちらかに加担するのではなく、共存させる方がいい。さっきも言ったけど、どちらも本物の宝玄仙だ。裏と表……」
金角は静かに言った。
「なにやっているの? 沙那、金角、書かないのかい?」
孫空女が声をかけてきた。
ふと見ると、鎮元仙士の身体は、卑猥な言葉と絵で埋まっている。
「な、なにやっているのよ、あんたたち。そんな品のない落書き」
沙那は叫んで、まだ落書きを続けようとしている三人から筆を取りあげた。
(第14話『魔域からの軍団』終わり)
*
【西遊記:32~35回、金角・銀角】
平頂山という難所を進んでいた一行は、その途中でひとりの木こりと出会い、この先で、金角と銀角と妖魔の率いる妖魔軍が、玄奘の似顔絵を持って、捕らえようと待ち構えていると教えられます。
実は、その木こりは、警告を与えに来た
とりあえず、猪八戒が偵察に行きますが、銀角の率いる一隊に猪八戒は捕まります。
さらに、進軍してきた銀角隊は、孫悟空を術で山に押し潰させて、玄奘と沙悟浄を浚ってしまいます。
目的の玄奘を捕らえて喜ぶ金角と銀角でしたが、まだ孫悟空が残っていては安心できないと話し合い、部下の
銀角の術で山に潰されていた孫悟空でしたが、なんとか抜け出し、さらに銀角の部下が来ることを千里眼で見抜いて、ひとりの道士に化けて、うまくふたつの宝具を取りあげます。
宝具を孫悟空に奪われたことに焦った金角は、助力を受けるために、
しかし、やはり先回りした孫悟空は、老母を殺してすり変わります。
銀角は、老母を出迎えるときに、偽者であることに気がつきます。そこで、老母の武器である「幌金縄」という武器に術をかけ、孫悟空が拘束されたことろで、紅ひさごと浄瓶を取り戻すことに成功します。
銀角は紅ひさごを向けて、孫悟空を呼びます。
孫悟空は、呼び掛けの名が偽名だったので、安心して返事をしますが、偽名でも術が発動して、孫悟空は紅ひさごに閉じ込められます。
紅ひさごという瓢箪の中で、上半身だけの死体の偽物を準備した孫悟空は、銀角がこっそりと中を覗いた隙に、虫になって飛び出して脱出します。しかし、銀角は、溶けかけている孫悟空の死骸を見つけたことで安心しきってしまいます。
さらに、孫悟空は紅ひさごの偽物を作って本物とすり替え、孫悟空の弟と称して、銀角に挑みます。
紅ひさごが偽物だと気がつかなかった銀角は、孫悟空の呼び掛けに返事をしてしまい、紅ひさごに吸い込まれてしまいます。
孫悟空は、銀角を失った金角を襲撃し、金角は玄奘たちを置いて逃亡します。
しかし、体勢を取り直して、金角は妖魔軍を率いて逆襲します。
攻防の末、金角も浄瓶に捕らわれ、戦いは孫悟空が勝利します。