92 肩透かしの襲撃
「やっぱり、気が進みません」
沙那はきっぱりと言った。
「この後に及んで、なにを言っているんだい。やるんだよ、沙那──。あいつらは敵だ──。なんの遠慮がいるものかい」
宝玄仙が呆れたような声を出した。
ここは、
天教教団の寺院であり、看板には
帝国領から巡教の旅をした法師が開いたもので、この道館が起点となり、多くの寺院が烏鶏国に建立されたそうだ。
烏斯国の王都には、教団の最上級の格式の寺院まで存在するとのことだ。
つまり、烏鶏国は、ほかの諸王国に比べれば、教団の影響力が遥かに大きいのだ。
教団が、各地の教団施設を通じて、諸王国の王室に宝玄仙の手配書を回したらしいことがわかってからは、関所も使わずに僻地を越境し、大きな街道や城郭も避けて、ひたすらに西に向かうというのが常態になっていた。
特に、天教の影響が強いこの烏鶏国では、特に、人との接触には用心していた。
宿町にも入らず、農村でさえも避け、可能な限り人に触れないように旅をした。
無論、すべて野宿だ。
だが、宝玄仙のいつもの我が儘と鬱憤がついに暴発した。
教団の寺院を襲って、しばらく乗っ取って休むと言い始めたのだ。
逃げ回るような旅には飽きた。
溜まった疲れの腹いせに、教団から一個くらいは寺院を奪ってやろうというのだ。
その襲撃目標として選ばれたのが、眼の前にある“宝林道館”だ。
烏鶏国ではもっとも古い教団寺院であり、深い山の中にある。
周りに人家もない。
その点では、襲撃して占拠するにはうってつけかもしれない。
だが、烏鶏国では最初の教団の寺院ということで、多くの修行中の坊士や僧士がいる。
管領するのは、能力のある教団の法師のはずだ。
王都からは半日ほどの距離であり、ここを襲えば、王兵が必ずやってくることは間違いないと思う。
まあ、あっという間に完全に制圧し、ひとりも外に出さずに一切の外部との連絡を遮断させられれば大丈夫かもしれないが、下手すれば、夜休んでいるうちに周囲を囲まれる。
「でも、わざわざ、騒動を起こさなくてもいいのではないでしょうか、ご主人様」
「なに言っているんだい。わたしは、今夜はここに泊ると決めたんだ。この道館に何十人いるか知らないけど、お前と孫空女の武術で蹴散らす。そして、全員集めて、朱姫の『縛心術』で、わたしらのことは、帝都からやってきた大神官だと思わせ、手配中の宝玄仙だというのは忘れさせる。それで、しばらくは、ここに逗留すればいい。何度も説明しただろう。この策に問題があるとでもいうのかい?」
「わたしには、あまりにも大雑把すぎるように思えます。朱姫の『縛心術』が失敗すれば終わりです。霊気を帯びない人間に対する『縛心術』は不安定です。それに、ここに何人いるのかわかりません」
「問題ないだろう。とにかく、全員捕まえちまえばいいんだよ。かかるまで、縛心術なんて、何度でもやり直してかければいいじゃないか」
「しかし、最初に全員を拘束すると言っても、ひとりでも逃してしまって、その人間が王都に異変を報せにでもいけば、数刻後には、この道館は、王兵の包囲下です」
「まあ、いいじゃない、沙那。そのときには、また、蹴散らして逃亡すればいいし、ご主人様の『移動術』もあるしね」
孫空女は気楽なものだ。
「なに言っているのよ、孫女。王兵を蹴散らすたって、わたしとあなたしかいないのよ。ご主人様と朱姫を護りながらそれができるの? それに『移動術』だって、包囲されたときに、王兵の中の道術師たちに『移動術』を妨げる『逆結界』を刻まれれば終わりじゃないのよ」
『逆結界』というのは、「結界」を刻んだ術遣いを、逆にその結界から逃げられないようにする包囲術だ。
ひとりの術遣いではできないが、数名の術遣いが四方から同時にそれをすることで、『逆結界』が刻める。
そうなれば、宝玄仙の道術といえども、それをはね返すことは難しいはずだ。
「お願いだよ、沙那……」
急に宝玄仙が哀れな表情をした。
芝居だとはわかっているが、逆に怖ろしい。
「……わたしは、お前たちのように、鍛え抜いたような身体でないし、野宿に馴れた旅人でもない。ただの巫女だったんだよ。しかも、お前は忘れているかもしれないけど、貴族巫女だったんだ」
「わ、忘れてはないですけど……」
明らかに演技だ。
沙那は、この女三蔵が異常なほどに旅慣れていることを知っている。
「野宿が耐えられないわけじゃないんだけど、こうも続くと疲れが取れないんだよ。旅がつらいんだ。数日でいいんだ。床の上で寝かせておくれ。温めたお湯で身体を洗わせておくれよ」
まるで両手を合さんかのような哀願に、沙那もそれ以上は強くは言えない。
ただ、閉口した。
それほどに野宿が嫌なら、無理して金角に同行して、そのまま西域に隠れ住むという選択肢もあった。
それをまだ、旅が続けたいから、西域に向かうのは後でいいと言ったのは宝玄仙だ。
金角としても、現段階で宝玄仙が一緒に来るのは、必ずしも安全ではないので、態勢を整えて迎えに来るということになり、平頂山で別れたのだ。
「ご、ご主人様、そんなに言わなくてもいいから……。沙那もわかってくれてるって」
単純な孫空女は、宝玄仙の悲痛そうな物言いに、いまにももらい泣きでもしそうな雰囲気だ。
朱姫を見た。
なんだかぼうっとしているように見える。
これは駄目だと、沙那も諦める。
いつもの発作だ。
朱姫の茶色の革の首紐は、朱姫を一日三度、身体を激しく欲情させる効果がある。
宝玄仙が悪戯で施した淫具の霊具だ。
尻で達することができれば発作はなくなるが、その数は一日に三度だ。
旅をしながら、日に三度、野外で尻の自慰をする朱姫の姿は、哀れというほかない。
「だったら、宿に泊まりましょうよ、ご主人様。ここからなら、宿町も遠くはありません。
「嫌だよ。わたしはここがいいんだよ。理屈じゃないんだ。それに教団の動向を知っておくには、寺院のひとつでも奪って、帝都から出回っている触書きでも眺めるに越したことはないんじゃないのかい?」
宝玄仙は言った。
確かに、それは正しい。
教団が帝都から、諸王国の寺院に触書きを回して、教団はもちろん、諸王国まで動かしているのは間違いない。
どういう指示を流しているかを知ることができれば、もっと楽な旅もできるのかもしれない。
沙那は嘆息した。
「わかりました。やりましょう。この宝林道館を奪いましょう。でも、むやみやたらに襲うのは危険です。まずは、誰かが情報を取るために、中に入りましょう。それによって、内部から手引きするなり、外から襲撃するなり、考えましょう――。まずは、わたしと朱姫が行きます。ご主人様と孫空女は、隠れて待機していてください」
「あたしですか?」
朱姫が言った。
「うん。あなたは、まだ教団に顔がそれほど割れていないし、『移動術』が使える。なにかのときは逃げられるし、『移動術』を使えば、ここで待機しているご主人様と孫空女にも連絡ができるわ」
「なんだよ、だったら、あたしが行くよ。沙那も強いけど、あたしだったら、そんじょそこらの兵隊どもくらい、いくらでも蹴散らせるよ」
「あんたは、精細さの欠片もないでしょう、孫女。偵察なんて仕事は向かないのよ」
「連絡手段なら『遠口』をしておいき」
宝玄仙が言った。
「あれは、一日経ったら、いき狂いの地獄が待っているという副作用があるじゃないですか、ご主人様――。早く、改良してくださいよ」
沙那は声をあげた。
「なんだい、たった一刻(約一時間)程度じゃないかい。わたしなんて、帝都にいたときには、もっとひどいものだったよ……。帝都で闘勝仙の凌辱を受けていた時代さ……」
「帝都時代?」
沙那は驚いた。
秘密主義の宝玄仙が、自分のことを語るのは数の多いことじゃない。
ましてや、宝玄仙が帝都で闘勝仙とかいう八仙たちに嗜虐を受けていた時代に、どんな仕打ちを受けていたかを話したことはない。
「あいつらに、一刻(約一時間)どころか、二日以上もいき狂いにされたものさ。おかしな仙薬を飲まされてね……。たった一日だけでも数千回も気をするんだよ。それも、鳥肌の立つように嫌いな連中の前でね――。しかも、連中はそれを飯を食いながら見物して笑いものにするんだ。快楽なんかじゃない。拷問だよ。それをとめてもらうために、その虫酸の走るような連中の小便を飲まされるんだ。小便だよ」
「そ、それは……。酷いね……」
孫空女だ。
だが、呆気にとられている。
朱姫も驚いた表情だ。
宝玄仙が、ここまで自分のことを赤裸々に語るとは、どういう心境の変化だろう。
「……それに比べれば、たった一刻(約一時間)じゃないか。しかも、気心の知れているわたしら仲間の前だし」
「仲間?」
沙那もびっくりした。
宝玄仙は、沙那たちのことを“奴隷”だの、“玩具”だの、“家来”など、好き勝手に呼ぶが、“仲間”なんて言ったのは初めてではないだろうか。
「お前たちは仲間だよ。そう思っている」
宝玄仙は言った。
「あ、ありがとうございます。もちろん、わたしたちは、ご主人様の供であり、玩具であり、そして、仲間です」
三人を代表するような感じで沙那は言った。
横で孫空女と朱姫が頷く。
「うん。これからもよろしく」
宝玄仙はにこにこしている。
まったく、気味が悪い。
「……じゃあ、行っていきます……。朱姫、行くわよ」
沙那に促されて、朱姫は立ちあがった。
ふたりで並んで山の階段を昇る。
ただの旅の女として、訪ねるつもりだから、隠れてはいない。
堂々としたものだ。
「驚きました。ご主人様が、あんな仕打ちを受けていたなんて。沙那姉さんたちは、知っていましたか?」
階段をのぼりながら朱姫が言った。
「とんでもない。あなたに出遭う直前に、帝都で教団の八仙の三人を殺したと教えられただけよ。そして、殺した理由はご主人様を二年間も凌辱し続けただと言われたわ。それくらいはあなたも知っているでしょう? だけど、さっきみたいに具体的な話は初めて」
「なら、ご主人様には心境の変化があったんでしょうね」
朱姫がそんなことを言った。
「心境の変化?」
「石化した身体を金角になぶられていたときに、ご主人様は、随分と金角といろいろ喋ったみたいです。銀角がそんなことを話していましたから」
「そうなの?」
石化された宝玄仙は、金角にいたぶられながら、いろいろと喋らされたのだろう。
宝玄仙からすれば、嫌な思い出のことをほじくり返されるのは屈辱だったに違いない。
だが、金角もまた、宝玄仙に無理矢理に語らせながら、自分のことも語ったようだ。
別れる前にそんなことを沙那に金角は言った。
そういう風に語り合ったから、金角は、宝玄仙と“羲姉妹の契り”を受け入れた。
そういうことが、宝玄仙の頑なな秘密主義の殻を破らせるきっかけになったのだろうか。
階段の頂上に到着した。
麓にあった階段の前の看板よりも、遥かに大きな木の看板があり、“宝林”と書かれている。
門は開かれていて、内部は見える。
道館というが、かなりの規模のようだ。
中は広く、数百人は並べるような広場もある。
門から見える範囲でも建物は五棟だ。
まっすぐ正面のひときわ装飾の美しい平屋の建物が祭殿であり、ほかは神官たちが暮らすための建物に違いない。
「これ、おかしいですよ、沙那姉さん」
門の内側に入るなり、朱姫が言った。
「そうね。このまま探ってみましょう、朱姫」
沙那もこの異変に気がついていた。
人がいないのだ。
これだけの巨大な施設にも関わらず、人の気配がない。
だが、争ったような形跡もない。
もぬけの殻の教団施設だ。
「誰も……いないですよね、これ?」
朱姫が、不安な口調で沙那に確認するように言った。
「いないわ」
ふたりで一棟一棟回った。
なにかの罠だったら大変だ。
宝玄仙を入れるわけにはいかない。
だが、誰もいない。
私物品のようなものはなにもない。
すべて外に搬出されているようだ。
逆に簡単に運び出せない大きなものは残っている。
天教の宝物や神具がある中央の祭殿にも行った。
状況は同じだ。
「なにかの理由で、慌ただしく、この寺院は放棄された。ただ、その時間があまりにも短かったため、大きなものは持ち出せず、身の回りのものを含めて大切な物はとりあえず運び出した。そういうことのようね」
沙那は言った。
最後に向かったのは、祭殿の裏にある井戸だ。
この寺院では唯一の井戸のようだが、厳重に蓋がしてある。
それを朱姫とふたりで外して中の水を汲んだ。
朱姫が、釣瓶の桶からとった水を手ですくって、指につけて舌に触れさせている。
毒などがないかどうかを確かめるためだ。
沙那にもある程度わかるが、半妖の朱姫の舌は特別だ。
どんな毒も見破れるし、魔力や霊気を探知する力も宝玄仙並だ。
「どうかした、朱姫?」
沙那は、水を舐めた朱姫が静止していることに気がついた。
硬直しているようにも見える。
「朱姫――?」
もう一度言った。
今度は、怒鳴るような大声だ。
「なんでもありません、沙那姉さん。ご主人様を迎えに行きましょう」
朱姫はにっこりと笑った。
別段、その朱姫に変わった様子はなかった。
*
「まあ、教団の準備してくれる豪華な温食ともいかなかったが、床と屋根があるだけ満足としようかね」
夕食が終わると、宝玄仙は言った。
外はすっかりと夜も更けている。
宝林道院という名の烏鶏国の国都に近い山の廃寺だ。
襲撃して乗っ取ろうと考えた天教教団の施設だったのだが、沙那と朱姫の偵察の結果、廃寺だということがわかった。
それほど昔ではない時期に、突然、ここは放棄されたようだ。
なにがあったのかは、わからない。
お陰で、ここで新鮮な食事にありつけるという目論見は外れて、旅用の保存食ということになったが、寝具の類いは残っていたので、それは使えそうだ。
「さて、じゃあ、わたしは、今夜は休むよ。わたしの寝支度の準備をするのはひとりでいい。残りふたりは、片づけをしてから休むんだ。数日はここで休むつもりだからそのつもりでいておくれ、みんな」
「はい」
三人が返事をした。
そして、沙那と孫空女が、さっと眼を逸らす。
宝玄仙の寝支度をする役に選ばれたくないのだ。
すなわち、宝玄仙の寝支度ということは、その言葉の通りのことを意味しない。
夜の性の相手をするということだ。
宝玄仙の性といえば、嗜虐に決まっているから、それを嫌がっているのだ。
そのわかりやすい反応が嬉しくて、宝玄仙はこのふたりのどちらかからそれを選ぶ気になった。
「ご主人様、あたしが寝所の準備をします」
不意に朱姫が言った。
宝玄仙は驚いた。
「そ、そうなの、朱姫――? だったら、お願い――。ご主人様、わたしは明日の朝早く、近所の村に行ってきます。この寺院になにがあったのか、噂を集めてきます」
すぐに沙那が立ちあがった。
「ご主人様、別の幹部用の宿棟には、ご主人様の好きな湯桶があったよ。今夜は無理だけど、明日の朝には入れるようにしておくよ――」
孫空女もすかさず立つ。
あっという間にふたりは、卓を片づけて消えてしまった。
宝玄仙は苦笑した。
「じゃあ、行こうか、朱姫」
宝玄仙は、朱姫に声をかけた。
「はい。ご主人様」
寝所に選んだのは、数棟あった宿棟のうちの下級神官用の棟の中の入口に近い部屋だ。
幹部用の宿棟もあったが、そこには寝台が残っていなかったのだ。
だから、ここを選ぶことになった。
隣の部屋には、沙那と孫空女が休むはずだが、当然、まだいない。
部屋は、ふたつの寝台に二組の卓と椅子という簡易な部屋だ。
燭台もあり、そこにはすでに明かりが灯っている。
荷は部屋の隅に整然と並べられている。
また、食事の前に、隣の部屋を含めて、宝玄仙の結界に包む準備をしておいた。
宝玄仙は、道術を念じた。
結界が組まれる。
まだ、人の出入りは自由だが、宝玄仙が念じれば、あっという間に何者も通過できない道術の壁が出現する。
宝玄仙が寝台に腰を降ろすと、すぐに朱姫が跪いて、宝玄仙の靴と靴下を脱がせた。
次に朱姫がやるのは、宝玄仙の足の指を一本一本舌で掃除をすることだ。
身体の汚れや脂くらい宝玄仙は、道術を遣えば取り除けるが、供に世話をさせるために敢えて術は遣っていない。
宝玄仙の身体を拭くという行為が前戯となり、激しい性交に移行することになる。
どんな風に責めるかというのは、そのときの気分次第だ。
だが、今夜の朱姫は宝玄仙の足を舐めるということをしなかった。
その代わり、いつの間にか準備していたらしい縄で、宝玄仙の右の足首を縛っている。
反対の足首も別の縄で縛った。
「なにをしているんだい、朱姫?」
宝玄仙は、驚くでもなく、怒るでもなく、ただ、そう言った。
「今夜は、この朱姫が、ご主人様を責めるというのはいかがですか……?」
朱姫はそう言って、また別の縄を取り出して、宝玄仙の腕をとった。
どうやら両手首を束ねて縛りたいらしい。
使っているのは普通の縄で魔縄ではない。
だから、道術では解けない。
「それはいいけど、前にもこんなことがあってね。
宝玄仙は、両腕を朱姫に向かって差し出した。
その両手首を朱姫は縛っている。
確かに、責められてもいい。
そんな気分だ。
屈辱的な責めを長く受けた後は、そんな気持ちになることもある。
宝玄仙の中の被虐の癖がそれを望むのだ。
ひとつの人格の「
宝玄仙の本質の部分にも、嗜虐だけではなく、被虐を悦ぶ性癖がある。
それが疼くのだ。
「聞きました。気を失った後でも苛まれるとわかると、気を失うことさえも怖くなり、快楽を受けることが怖くて仕方がなくなるそうです。二度と嫌だと言っていました」
朱姫の返事には、少し間があった。
「それでも、やるのかい、朱姫?」
「はい」
両手首を縛られた宝玄仙の身体が、寝台の上に仰向けに優しく倒される。
両手首の縄尻が寝台の上側の手摺に固定された。
朱姫は、さらに、左右の足首を結んだ縄を左右に拡げて固定する。
宝玄仙は、服のまま仰向けに寝台に張りつけられた。
朱姫が、宝玄仙の身体の上に立て膝で跨る。
すると、朱姫の右手が、宝玄仙の襟首を握る。
朱姫の眼の色が変わった。
宝玄仙の黒い巫女服が引き裂かれた。
「朱姫?」
宝玄仙は驚いて叫んだ。
朱姫がそんな乱暴をしたことに対してではない。
『獣人』の術によって、妖魔そのものの姿になっていない朱姫に、片手で数枚の衣類を引き破るような力があるわけがないのだ。
朱姫は、宝玄仙に構わず、残った巫女服や内衣を次々に引き裂く。
胸当ても下半身を包む下着もむしり取られた。
あっという間に、宝玄仙は生まれたままの姿になった。
「お、お前、どうかしたのかい、朱姫――?」
どう見てもおかしい。
朱姫ではない。
「久しぶりの女じゃのう」
朱姫がそう叫んだかと思うと、自分の服を荒々しく脱ぎ始めた。
宝玄仙は、寝台に仰向けに固定された姿で、呆気にとられていた。
そして、素裸になった朱姫を見て驚いた。
朱姫の股間には、女の部分のほかに、怒張した男根がそそり勃っていたのだ。
しかも、大きい。
巨根だ。
「お、お前は、誰だい――?」
宝玄仙は叫んだ。
股間に男根を生やすなどという術は、朱姫は遣えないはずだ。
それに、相手の醸し出す雰囲気は、朱姫であって朱姫ではない。
「いいから女。まずは、やらせろ。話はそれからだ――。女など久しぶりだ。この腐れ道館には、女がいなかったからな」
男根を生やした朱姫が迫ってくる。
宝玄仙は、朱姫の身体に道術を送り込んだ。
霊気の出入り口を持っている朱姫には、宝玄仙は簡単に道術を注ぎ込んで自在に苦痛を与えたり、動きを止めたりすることができる。
ましてや、朱姫には『内丹印』を刻んでいる。
「……なにか、しているのか……? そうか、お前は、道術遣いか。余の中に封じ込めている朱姫は暴れ回っておるぞ」
身体の小さな朱姫が、宝玄仙の裸身に跨る。
その手が宝玄仙の乳房に触れた。
そして、荒々しく揉みくだし始めた。
「……い、痛い――。朱姫を封じ込めている? や、やはり、朱姫じゃないのかい、お前は……?」
朱姫の手は、宝玄仙に快感を与えようというよりは、その弾力を確かめているという感じだ。
痛いだけで、気持ちよさの欠片もない。
愛撫のうまい朱姫の手管とは、かけ離れた性技だ。
「なかなかの身体だが、いまはゆっくり味わうよりも先に、とにかく欲しい――。よし、女、少しだけ待ってやるから、早く、ほとを濡らせ。濡らさねば、そのまま突き挿すぞ」
「濡らす? ま、待て―。そんなこと……」
宝玄仙は濡れていない膣にいきなり男根を突き入れるという言葉に焦った。
朱姫に注ぎ込む道術を強める。
とにかく、動きをとめるのに十分すぎる道術を注ぎ込んだ。
だが、宝玄仙の乳房を揉んでいる朱姫の手はとまらない。
宝玄仙の道術が効かないようだ。
「霊気を注ぐのはよいが、余はすでに幽体だから、そんなものは効かんぞ。しかし、この朱姫とかいう半妖の雌の身体は、余の中で眠っておるといっても、存在はしているのだ。苦しそうで不憫だ。やめてやれ、宝玄仙」
「お、お前は幽体? つ、つまり、朱姫の身体を乗っ取っているのかい?」
「それよりも、もう待てん。入れるぞ。二年ぶりなのだ」
朱姫が何者かに身体を乗っ取られているのは、間違いないだろう。
しかも、その相手には、宝玄仙の術が通じない相手のようだ。
幽体と自分で言ったが本当かもしれない。幽体とは、肉体が滅んで魂だけが残っている存在のことだ。
肉体がないのだから、道術など当然通じない。
つまり、朱姫は幽体に身体を乗っ取られているのだ。
「ま、待って。まだ、濡れていない。た、頼む。もう少し待って……」
宝玄仙は、乳房から手を離して、男根を宝玄仙の女陰の入口に当てがったその「相手」の行動に焦った。
そんなことをされてはたまらない。
縛られている縄を揺するがびくともしない。
黙って、普通の縄で縛らせてしまったのを宝玄仙は後悔した。
せめて、『魔縄』にしておけば、宝玄仙の道術で簡単に外せたのだ――。
「いいから……大人しくしろ……。おや?」
朱姫の身体を乗っ取っている幽体が、なにかを探るような表情をした。
そしてにんまりと微笑む。
「ほう、この朱姫の記憶によれば、お前は面白いものを持っているようだな――。あの
宝玄仙から離れて、葛籠に向かった「相手」に、宝玄仙は視線を送っていた。
そして、口を開く。
「お前は、朱姫の記憶が使えるのかい?」
「使える。だから、余は、お前のことを宝玄仙と呼んだろう」
そいつは、そう言いながら、宝玄仙の荷が入っている葛籠を探っていた。
そして、すぐに、右手に短刀。左手に茶色の小瓶を持って戻ってくる。
「な、なにをするつもりだい?」
再び宝玄仙の裸身の上に乗った「相手」に宝玄仙は言った。
朱姫の身体の幽体は、短剣を横に置き、小瓶の蓋を開けた。
その小瓶に入っている粘性の薬品がなにであるかを宝玄仙はもちろん知っている。
『ずいき油』といい、塗った部分に猛烈な痒みと情感を与える薬だ。
それを宝玄仙に塗りつけて、手っ取り早く濡らせたいのだろう。
だが、そんなものを塗られては堪らない。
「わ、わかった。そ、そんなものを使わなくても、濡れせられる。道術を……道術をわたし自身の女陰に注げば、淫液を出せるから……」
「なら、そうしろ。とにかく、これは塗ってやろう」
そう言うと、そいつは、たっぷりと薬剤を手に乗せると、宝玄仙の股間に塗りつけた。
「ひ、ひひゃああ――。そ、そんなにたくさん……。そ、それは、ほんの少しだけ使うものだよ。一度に、そんなに塗るんじゃない……」
宝玄仙は焦った。
『ずいき油』は媚薬だが、強力な掻痒剤でもある。
あんなに大量に使うものではない。
だが、そいつは、どんどん新しくすくっては塗りたくっていく。
あっという間に、宝玄仙の股間は『ずいき油』で覆われた。
「どれ……ここにも塗るか」
また『ずいき油』をのせたそいつの指が、宝玄仙の後ろ側の孔に伸びた。
宝玄仙は愕然となった。
「そ、そこは駄目っ――」
宝玄仙の大声に、手がとまった。
朱姫の顔が妖しく微笑む。
「そんなに嫌か、宝玄仙?」
「嫌だ」
宝玄仙は本気で言った。
「……ふふふ、なら、余に頼んでみよ」
そいつが笑った。
「……
「余は、
「王?」
「話は後だ、宝玄仙。塗るぞ――」
朱姫の姿の雷王の手が、宝玄仙の後の穴に伸びる。
「うわあ――。待ってったら。言うよ――、言う。そこに塗るのはやめておくれ。お願いです、雷王」
「おう、宝玄仙、そんなに嫌か?」
「本当に嫌だ。それよりも、早く、終わらせてくれ。もう、入れていい」
膣はもう濡れている。
濡れていなくても、あれだけの薬剤を塗れば、潤滑油としては十分だ。
「おう、わかった。そんなに嫌なら、残りの全部を塗ってやろう」
雷王は、大量の薬剤を宝玄仙の尻の孔に指で挿入した。
「や、やめろっ」
宝玄仙は仰け反って叫んだ。
だが、容赦なく、雷王は宝玄仙の尻穴の薬剤を追加する。
宝玄仙は、舌打ちをして、自分に霊気を込めようとした。こんなものは、簡単に道術で効果を無効にできる。
しかし、その宝玄仙の首筋に、短剣の刃が向けられた。
「なっ?」
「この朱姫は、霊気の流れを探知できるようだな。お前が、自分の身体に霊気を注いで、道術をかければ、この短剣で喉を掻き斬る――」
宝玄仙はぞっとした。
朱姫の顔の雷王の眼は本気だ。
宝玄仙の命など、なんとも思っていない。
あっという間に、宝玄仙は屍体に変えられるに違いない。
屍体に変えられれば、当然、術など遣いようもない。
「どんなかたちでも術は遣うな。遣えば、お前は殺す。この朱姫も殺す。わかったな、宝玄仙?」
「わ、わかったよ……」
仕方なく宝玄仙は頷いた。
朱姫の能力に探知されずに、道術を遣うのは無理だ。
宝玄仙自身に逃げる機会があったとしても、朱姫は殺されるだろう。
「まずは、挨拶代りの一発だ、宝玄仙」
「挨拶って……おほうっ」
宝玄仙は口を開きかけたが、膣が裂けるかと思うような巨根の苦痛に、言葉を継ぐことができなかった。
だが、それとともに、媚薬で蕩けている肉襞を擦られる快感も走る。
どくどくと波打つような巨根の感触に宝玄仙は、身体を痙攣させた。
「ぐわああ――。朱姫……、いいよ――いいっ――」
宝玄仙は叫んでいた。
「朱姫ではないわ。余は、雷王だ――」
子宮が雷王の巨根で強く抉られる。
宝玄仙は、吐気さえ感じる息のとまるような巨根の暴力から、快感をむしり取り、全身を震わせて吠えた。