※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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95  庇い合う主従

 宝玄仙は、裸身を寝台に仰向けに拘束され、さらに敏感な女芯を糸で吊り上げられて、唇をかみしめて呻いた。

 

「痛いい――。お、お願いだよ、孫空女。もう少し、じっとしていて……」

 

 女芯を限界まで吊りあげている糸は、天井に取り付けた小さな滑車を通して、全裸で立たされている孫空女の束ねた両手首に繋がっている。

 だから、孫空女は、爪先立ちをしてさらに両手を懸命に上に伸ばしてくれているのだが、それでも孫空女が動くので、糸が引かれるのだ。

 糸が引かれるたびに、釣糸で引き絞られた女の芯が疾痛に襲われる。

 

 引き千切られる――。

 吊りあげられるのは、敏感で繊細な女の芯である。

 その苦痛に耐えきれず、宝玄仙は腰をあげようとしているが、両手と両足を寝台に縛りつけられているので、それほど上にあげることができない。

 

「ご、ごめんなさい、ご主人様……。いひいっ――」

 

 孫空女が頑張ってくれているのはわかっている。

 しかし、爪先立ちをして限界まで引き延ばした身体を朱姫によって、くすぐられているのだ。

 孫空女も必死だ。

 

「ほら、宝玄仙が悲鳴をあげているぞ。動くな、動くな」

 

 朱姫の手が笑い声とともに、孫空女の両脇をくすぐる。

 

「や、やめろよ――」

 

 孫空女が悲鳴をあげる。

 身体が揺すられて糸が動く。

 とたんに釣糸が猛烈にくい込む。

 

「ひぎい――。痛い――」

 

 そんなことが何度も繰り返されている。

 その度に宝玄仙は、雌さながらに泣き喚いた。

 

「ご、ごめん――、ご主人様」

 

 無防備の脇を朱姫の指でくすぐられている孫空女が、半泣きで言った。

 『道術封じの首輪』は、まだついたままだ。それを身体につけられると、宝玄仙は術を完全に封じられるのだ。

 道術にかけては、宝玄仙すら上回る能力を持つお蘭の作った霊具であり、忌々しいくらいに完璧に作動し、しかも、流石の宝玄仙にも効果を跳ね返せない。

 つまりは、この首輪をされている限り、宝玄仙は、まったくの無力の存在になってしまうのだ。

 

 昨夜、それをつけられた宝玄仙は、朱姫の身体を乗っ取った雷王により、それこそ半死半生の状態になるまで犯された。

 宝玄仙の弱点が肛門であり、想像以上の弱みであることを知った雷王は、興に乗って潤滑油を塗りたくった宝玄仙の後ろの穴を繰り返し犯した。

 宝玄仙は、何度も気を失い、その度に頬を張られて起こされ、そして、雷王の巨根を受け入れさせられたのだ。

 

 そして、朝、目を覚ますと、いまのような状態で女芯を糸で吊られていたもいうわけだ。

 どうやら、沙那は、朝早く出掛けたらしい。

 残された孫空女は、こうやって、宝玄仙を苦しめる道具にされている。

 

「じゃあ、お前の忠誠心がどの程度か試してみるか、孫空女」

 

 やっと、孫空女から離れた朱姫が言った。

 

「こ、これ以上、なにをするつもりなんだい……」

 

 宝玄仙は恨みを込めて言った。

 

「なに、簡単なことだ。この孫空女の女芯を『振動片』で包む。この朱姫の中の法力で十分に遣えそうだからな。『振動片』は孫空女の女芯を苛み続けるが、気をやりそうになるととまるのだよな。そうやって放っておく、昨日からずっとやりっぱなしで余も疲れた。だから、余は別の部屋で寝るが、その間、孫空女にそうやって我慢させるだけだ」

 

「ふ、ふざけんな、この野郎――」

 

 孫空女が喚いた。

 だが、朱姫はせせら笑いながら、霊具の入った葛籠(つづら)から『振動片』を取り出すと、孫空女の股間に張りつけた。

 たちまちに『振動片』は、孫空女の肌に吸い込まれるように小さくなり、孫空女の女芯を襲い始める。

 

「ひいいっ――」

 

 孫空女が声をあげた。

 

「いぎいいいっ」

 

「あっ、ご、ごめん――。あっ、ああっ」

 

 宝玄仙は、その動きで女芯を強く引っ張られて悲鳴をあげさせられた。

 

「じゃあな、隣の部屋で寝る。ここは、お前たちの悲鳴でうるさいからな」

 

 朱姫はそう言って部屋を出ていった。

 

「が、頑張っておくれよ、孫空女……。あ、後で優しくするから……」

 

 宝玄仙は言った。

 

「わ、わかっているよ……。くうっ――うう」

 

 孫空女は歯を食いしばっている。

 全身を限界まで伸ばして爪先立ちを続ける姿勢だけで苦しいのだ。そのうえに、女芯を『振動片』でいたぶり続けられれば堪らないだろう。

 どのくらい放っておかれるのかわからないが、孫空女に限界が訪れて、身体を崩せば、宝玄仙の女芯は引きちぎられる。

 

「そ、それより、孫空女、よくお聞き……。た、多分、お、お前は、この後で解放される……。そ、そうなるように仕向ける……。あ、あいつの相手は……、わたしが、ひとりでやる……。その間に、お前は雷王が放り投げられたという井戸を探っておいで……。痛っ――」

 

 女芯が引っ張られたのだ。

 

「ご、ごめん……。うっ、うくっ、そ、それでなに……探すのさ?」

 

 孫空女の身体が震えている。

 声に喘ぎ声が混ざってきた。

 

「が、頑張っておくれよ――、あ、お願いだから――。探すのは、雷王の屍体だ……。き、きっとそこにある……。ひ、引きあげて、どこかに隠すんだ……」

 

「し、屍体って……。二年も……前だよ。水の中で腐って……、ほ、骨になっているよ――。あ、ああっ……ああ……あううっ」

 

 孫空女の震えが激しくなった。

 

「そ、孫空女――。あぎいっ――いぎっ――」

 

 女芯を引きちぎる痛みが、二度、三度と加わる。

 だが、限界前に『振動片』はとまるのだ。

 孫空女はかろうじて、倒れ込むのを耐えてくれたみたいだ。

 

「……ご、ご主人様……。これ、もちそうにないよ――」

 

 孫空女が悲痛な表情をこっちに向けた。

 

「じょ、冗談を言うんじゃないよ。お前が倒れたら、わたしのお実(さね)は引き千切られるんだよ。し、死んでも、倒れるんじゃないよ――」

 

「う、うん……。が、頑張るけど……。ああ、また、動き出した……いいっ」

 

 歯を食いしばっている孫空女の口から、嬌声が漏れた。

 

「し、屍体を使って『復活の儀』をする……。や、やったことはないけど、お蘭の術は、わたしの中に入っている……から、や、やれるだろう。もっとも、首輪を外さないと駄目だけど……」

 

「……はあ……。『復活の儀』って、誰の?」

 

 孫空女が喘ぎながら言った。

 

「ら、雷王のだよ。あ、あいつが幽体になっているのは、多分、『賢者の石』……、つまり、『魂の欠片』が関係ある」

 

「け、『魂の欠片』って……。ああっ、ひいっ、あ、あのお蘭の作る……? ああ、また……」

 

 孫空女の身悶えが激しくなった。

 『振動片』の動きが大きくなったのだろう。

 

「あぎいいいい」

 

 肉芽が引っ張られて、宝玄仙は悲鳴をあげた。

 度重なる疼痛に宝玄仙もだんだんと官能の波に包まれる。

 じわじわと濡れてくる自分の股間を自覚してしまう。

 

「あお、孫空女……うぐうっ……」

 

 肉芽が引っ張られる。

 

「が、頑張るよう――。頑張るから……。ああぇっ――」

 

 孫空女の身体が弓なりになった。

 ひと際大きな嬌声をあげた孫空女が、微かに脱力した。

 絶頂できたのではないだろう。

 寸前で止まって、孫空女の身体は再びとろ火の状態に戻されている。

 つらいのは、これからだ。

 とろ火と絶頂寸前の状態を永遠に繰り返すことになる。

 それを孫空女は、爪先立ちで受けるのだ。

 

「そ、孫空女、お聞き―――。お、おそらく、『魂の欠片』と似た効果のあるものを作れる者がいたのだろう……。それで、雷王は、魂を現世に刻まれた……。そ、そして、死んだ……。だが、肝心の『復活の儀』をしていない……。だから、幽体になってこの世に留まっている……」

 

「そ、そんなこと……あ、あいつ……言って……なかったじゃないか……」

 

 また、孫空女の脚が震えだす。

 股間の『振動片』が動きはじめたのだろう。

 

「ほ、本人も……ああっ……知らなかったのだろう……。あるいは……隠している。いずれにしても、『復活の儀』をすれば……。あいつは、幽体でいられない……。朱姫から出ていく」

 

 何度も肉芽を刺激されると、痛みがはっきりとした快感に変わる。

 引っ張られるたびに、痛みが愉悦に変化している。

 

「しゅ、朱姫は助かる……んだね……、ご、ご主人様……」

 

「た、助かる……。も、問題は……肝心の魂の欠片を宿している石が……どこにあるかだよ。それが……わからないと……『復活の儀』は……できない……」

 

 宝玄仙の魂の欠片は、沙那の身体に入れている。

 もしも、宝玄仙が死ねば、おそらく、沙那の身体の中に一時的に復活し、そして、『復活の儀』を行って、なんらかの肉体に憑依させることになる。

 沙那と孫空女の魂の欠片は、お蘭が預かっている。

 二人が死ねば、お蘭のところに戻ることになるだろう。

 そして、お蘭が復活させる。

 

 いずれにしても、魂を復活させるには、復活をさせる身体という土台が必要だ。

 いろいろな条件があるが、一番簡単なのは、元の身体に復活させることだ。

 本来の肉体だから、簡単に術式が完了する。

 損傷した部分は、宝玄仙の術でいくらでも元に戻せる。

 雷王の死体と雷王の魂の欠片が見つかれば、あとは宝玄仙がそれを使って復活できる。

 朱姫も解放される。

 

「そ、その石って……。あ、あ、あ――」

 

「うぐうう、あああっ」

 

 孫空女が声をあげ始める。

 宝玄仙の肉芽もぐいぐいと引っ張られる。

 もはや、それは快感だ。

 痛みでもあり、強く宝玄仙を苛む攻撃だ。

 宝玄仙も嬌声をあげた。

 孫空女と宝玄仙の嬌声が重なる。

 

「くうっ――」

 

 孫空女の震えが少し大人しくなった。

 また、絶頂寸前まで引き上げられて、また気をやる直前で『振動片』とまり、身体の火照りを鎮められているのだろう。

 

「ご、ごめん……、ご、ご主人様……さ、さっきから……」

 

 孫空女がつらそうな表情で言った。

 

「わ、わかってるよ、そ、孫空女……。お、お前は、頑張っている」

 

「う、うん」

 

 孫空女が引きつった笑みを向けた。

 もう、全身が汗びっしょりだ。

 爪先立ちの足の下にも汗が滴り始めている。

 

「あ、あとは……、あ、あいつの魂の宿る……石を……見つけなきゃね……」

 

 宝玄仙は言った。

 

「い、石って……。沙那が持って……いった……白玉の珪(たま)みたいな……?」

 

 何気ない感じで孫空女が言った。

 それではっとした。

 考えてみれば、簡単なことだ。

 

 あれは、代々の王に伝わるものだと雷王は言っていた。

 おそらく、あの白玉の珪には、現王の魂が宿るという性質があるのだろう。

 言わば、お蘭の『魂の欠片』の術の変型判だ。

 お蘭の『魂の欠片』が特定の人間の魂を刻むのに対して、あの白玉の珪は、「烏鶏国の王という役割の人間の魂」を刻むのではないだろうか。

 だが、王の死とともに、王は交替する。

 すると、宿っているものが、次の王の魂に入れ替わるのだ。

 そういった王家の秘宝は、ほかにも例がある。

 

「そ、それだよ……。その白玉の珪に……違いない。お手柄だよ……。そ、孫空女」

 

 宝玄仙は言った。

 すると、苦痛の表情の孫空女が、少し、嬉しそうな顔をした。

 雷王が、魂の欠片のことも、『復活の儀』のことにも言及しなかったのは、白玉の珪の本来の性質は、すでに王家では知識が途絶えているのだろう。

 本当は、次の王が即位する前に、『復活の儀』をすれば、歴代の死んだ王は蘇るのだが、次の王でそれを選択した者はいなかった。そうやっているうちに、王家の知識としてはすたれた……。

 

 だが、雷王の場合は、死んだが白玉の珪が宿る対象の王が偽者で、本来の王ではない。

 だから、雷王の魂は残ってしまったのだ。

 

「あ、あ、ああっ――」

 

 孫空女の喘ぎが大きくなった。

 宝玄仙は、また肉芽に激痛が走るのを覚悟した。

 だが、今度は、それはなかった。

 孫空女は大きな嬌声をあげたまま、身体をほとんど動かさず、そして、荒い呼吸から深い吐息に変化させた。

 今度の波は、宝玄仙の肉芽に繋がった糸を引っ張らないまま、やり過ごしたのだ。

 

「あ、あたし頑張っているよ……。ご、ご主人様……。あ、あたし……頑張っているから……」

 

「ああ、お前は、頑張っている」

 

 宝玄仙は言った。

 

 

 *

 

 

「苦しゅうない。頭をあげよ。ここは、宮廷の中ではない。天下の野っ原の真ん中だ。堅苦しい儀礼も馬鹿馬鹿しいわ」

 

 王太子は言った。

 原野の真ん中に陣幕を張っただけの簡単な王太子の陣所だ。

 その中に沙那はいた。

 四名ほどの護衛が王太子の周りを囲っているが、陣幕の中にいるのは、ほかには王太子と沙那だけだ。

 

「王太子直々のお言葉とは、恐れ多いことでございます」

 

 沙那は両膝をつけた姿勢で、頭を下げたまま言った。

 雷王の言葉の通り、王太子が率いる一隊は、宝林道館(ほうりんどうかん)の下の原野で早朝から狩猟を始めたようだ。

 だが、半日かかっても一匹の獲物も見つからず、がっかりしていたところらしい。

 そこに、大きな鹿を仕留めた沙那が現れた。

 鹿の遺体は、道館にあった荷車に載せてきた。

 すべて、幽体の雷王の喋った通りになった。

 

 沙那は、予定通り、鹿を狩猟にやってきた王太子に献上したいと申し出た。

 すると、それも雷王の言う通り、あっという間に、ここまで連れて来られて、王太子と対面ということになったのだ。

 

「そんなに、頭をさげられると、俺もつまらん。部下の話によると、大層美しい女人ということであった。俺にも顔を見せてはくれぬか、紗希(さき)殿とやら?」

 

 紗希というのは、沙那が咄嗟に思いついた偽名だ。

 教団が手を回していて、この烏鶏(うけい)国でも、宝玄仙をはじめ、沙那たち供も手配の対象となっている可能性が高い。

 それで、偽名を使った。

 いずれにしても、王太子の光というのは、気さくで明るい人物のようだ。あの雷王とは大違いだ。

 

「美しいとは恐れ入ります。ただの旅の女でございます」

 

 沙那は顔をあげた。

 王太子の光は、歳は三十程度であろうか。

 優しく微笑む顔は、気性の穏やかさだけではなく、底知れない心の深さも感じさせる。

 ちょっと見ただけで、引き込まれるような人物だ。

 このような人間もいたのかと、沙那は感心していた。

 

「俺の顔になにかついているか、紗希殿?」

 

 王太子が微笑んだ。

 沙那は、思わずじっと見つめてしまったことについて赤面した。

 

「申し訳ありません。その、つい……」

 

「責めておるのではない。あなたのような綺麗な女性に、じっと見られるのも悪いものではない」

 

 王太子は笑った。

 沙那は、ますます、自分の頬が熱くなるのを感じた。

 いったい、なにをこんなに自分は動揺しているのか――。

 

「それにしても、見事な鹿だった。あれは、どうしたのだ、紗希殿?」

 

「仕留めました。女ですが、些かは武芸の嗜みもございます」

 

 沙那は言った。

 

「確かに見事な腕だった。俺も献上してくれた鹿を見たが、眉間にただの一矢だった。あれほどの腕は、王軍にもおらんだろう。お前に仕官の望みがあれば、すぐにでも将校としてとりたてるが、紗希殿?」

 

「驚きました。素性のわからぬただの女をいきなり、王軍に採用するのですか?」

 

「これでも、人を見る眼はある。もっとも、さすがに正式の王軍にいきなりというわけにはいかん。当面は、俺の私軍の扱いである一隊に所属ということになるだろう。そこでしばらく働いてもらい、功績によって正式に王軍ということになる。どうだ?」

 

 沙那はおかしくなった。

 ここで、承諾すれば、あの変態巫女の供という立場から離れて、この烏鶏国王軍の将校という人生が始まるのだろう。

 この聡明そうな王太子に仕えるのは、あの始終騒動ばかり起こす敵だらけの変態巫女に仕えるよりは、余程に充実した人生だろう。

 

「有難すぎるお話ですが、わたしには分の過ぎる任のようです」

 

「そうか。残念だ。だが、俺は本気だ。気が向いたら、いつでも王太子府を訪ねてくれ、沙那(さな)」

 

 王太子はそう言うと、にやりと笑った。

 沙那は驚いた。

 

「な、なぜ……?」

 

 なぜ、沙那という本名を知っていたのだと言おうとして、うまく言葉が出なかった。

 微笑んだままの王太子がさらに言葉を継ぐ。

 

「すぐにわかった。天教教団からの手配書には、宝玄仙だけではなく、三人の供の人相書きもあるのでな。天教教団から手配されている宝玄仙の供の沙那であろう? もっとも、本物は似顔絵以上の美人であるな。手配書は回っているが、気にも留めていなかった。しかし、美女四人の似顔絵は、嫌でも眼を引く。記憶にはあった」

 

「わたしたちの手配書も?」

 

 名前程度については、手配の可能性は十分に予想していたが、宝玄仙だけではなく、供の自分たちまで似顔絵が出回っているとは予想していなかった。

 天教教団はそこまでやっているのだ。

 

「そう、身構えるな、沙那。ここにいる四人の護衛は、俺の分身も同様だ。それに、俺にもそれなりの情報網はある。あなたらが同情すべき立場でもあるということは知っている。確かに、わが国は天教とはよい関係を持っているが、すべて、天教のいいなりというわけでもないのだ」

 

「……わたしが、教団に手配されている宝玄仙の供であるということを承知で、わたしの目通りを許したのですか?」

 

 沙那は警戒しながら言った。

 それなら、ここで逮捕されてもおかしくはない。

 だが、この王太子には、そのような雰囲気はない。

 感じるのは、大らかな穏やかさだ。

 もっとも、決して油断しているというわけでもない。

 ちょっとした仕草だけで、沙那には、王太子がかなりの武芸の持ち主であることもわかる。

 

「今日ここに、いまの事態を打開してくれる人物が訪れると予言をした者がいる。それが、宝玄仙に関与する者とまでは思わなかった」

 

「いまの事態とは?」

 

 沙那は言った。

 

「詳しい事情は知る必要はない。お前たちにやって欲しいことは、ひどく単純なことだ。だが、その前に、これを装着してもらう」

 

 四人の護衛のうち、もっとも王太子の近くにいた者が、沙那の前に小さな台を置いた。

 その上には、白い金属の輪がある。

 片側が大きく開いているが閉じれば輪になる。

 なんらかの霊具であるのは明白だ。

 

「察しの通り、それは霊具だ。それを自分の首に嵌めてもらう。霊具が使えるあなたにはできるだろう。もっとも、一度、装着をすれば、特殊な解除の言葉を暗唱しなければ外れない。おそらく、宝玄仙にも無理であろう。無理に別の術を込めようとすれば、その首輪の中に充満している火薬が爆発する」

 

「ば、爆発?」

 

「それを嵌めてもらう。それくらいの脅迫をしなければ、俺は安心して話ができない」

 

「嫌だと言ったら?」

 

 沙那は王太子を睨んだ。

 

「ここにいる一隊を宝林道館に差し向ける。さしずめ、宝玄仙は、そこにいるのだろう? ここには、千人ほどの兵がいる。ただの兵ではない。俺が鍛えた精鋭たちだ。並みの軍の一万にも匹敵する」

 

 この王太子の軍が精鋭であることは、この陣幕にやってくるまでにわかった。

 王太子の護衛の立ち振る舞いひとつだけでも違う。

 彼らもまた、かなりの手練れだ。

 

 もっとも、沙那に霊具の首輪を持ってきたひとりだけは違う。

 そいつは、武芸の嗜みはない。その代わりに術遣いだ。沙那には、帯びている霊気を探知する力はないが、おそらく間違いないだろう。

 

「その前に教えてください。これをわたしの首に嵌めて、どうするのです?」

 

 そう言って、沙那は王太子の顔をじっと見る。

 得体の知れない首輪を巻いて、支配されるのはもう御免だ。

 そもそも、あの宝玄仙の供になったきっかけは、『服従の首輪』という支配霊具をうっかりと自分の首に嵌めるのを許したお陰なのだ。

 

「俺は、沙那にある仕事を依頼する。沙那が、こちらの申し出を拒否したり、これから俺が話すことを口外したりしなければ問題はない」

 

 王太子の表情に嘘はない。

 沙那の勘がそう告げた。

 

「もしも、拒否すれば?」

 

「その首輪が爆発する。大した薬量ではないが、あなたの首と胴が離れるには十分な量のはずだ」

 

 沙那は、首輪を手に取った。

 

「その依頼というのは、この首輪をするまでは伝えてもらえないのですね?」

 

「その通りだ。ついでに言えば、仕事に失敗しても、俺は、その首輪を発動させるつもりだ」

 

 沙那は、諦めてその首輪を自分の首に嵌める。

 がちゃりという金属音がした。

 

「それで、なにを依頼するというのですか?」

 

 沙那は言った。

 

「なかなかの度胸だな。やはり、部下になることは考えておいてくれないか? それはさておき、お前たちが、宝林道館に寝泊りしているのはわかっている。昨日の夕方前に、何者かがその山寺に入っていったということの報告を受けている――」

 

「えっ?」

 

「なにを驚いている、沙那? あの教団の施設から神官たちを撤退させたのは俺だ。幽体騒動があったのはちょうどよかった。無人にした寺院でゆっくりと探し物をするつもりだったからだ。だから、人を配置して見張らせていた」

 

「見張りとは……建物内に……?」

 

 見張られてたのは構わないが、かなり恥ずかしい恥態を晒している。

 見られてたとすれば、恥ずかし過ぎる。

 

「いや、外からだ。だが、予言によれば、それでは探し物は見つからんらしい。その予言が告げるには、探し物を手に入れるには、今日、ここにやって来る訪問者に依頼するのが一番いいらしい。それで、俺は探しているものを手に入れることができる。半信半疑だったが、本当に、訪問者はやってきた。それがお前だ、沙那」

 

「なるほど、それでは、わたしたちが手に入れる物というのは、あの宝林道館にあるのですね?」

 

 沙那は言った。

 

「そうだ。探して欲しいのは白玉の珪という王家に伝わる秘宝だ」

 

 王太子は言った。

 沙那はびっくりした。

 その白玉の珪という王家の秘宝は、いま、沙那の服の下に隠している。

 

「どうした、沙那?」

 

 王太子も沙那の動揺を察したようだ。

 

「なんでもありません。それよりも、その白玉の珪という秘宝が、その宝林道館に存在し、あなたはそれを欲しがっているのであれば、なぜ、ご自分でそれをやらないのです、王太子殿下?」

 

「実は、教団に潜り込ませた手の者を使って何度かやらせたが、探し出すことはできなかった。そのうちに、幽霊騒動が起こったものだから、手が出せなくなったのだ。もっとも、その幽霊騒動も役に立った。理由をつけて、神官の連中を追い出すことができた。お前たちは、昨夜、宝林道館に寝泊りしたようだが、幽霊騒ぎはなかったか?」

 

 なかったどころじゃない。

 出現した雷王の幽体は、朱姫に乗り移って、宝玄仙を相手にやりたい放題だ。

 今頃だって、宝玄仙と孫空女は、その雷王にどんな目に遭わされているかわからない。

 

「立ち去った僧侶どもの荷は徹底的に探したがなかった。だから、必ず道館のどこかにある。それで、ゆっくりと探すつもりだったが、俺の使っている予言者が、もっと確かなやり方があるというのでな。見知らぬ者に大事を託すのは不本意ではあるが、それがもっとも確かなやり方だというのだ」

 

「予言……ですか? しかも、わたし……」

 

 予言など信じられないが、そういう魔道もあるのだろう。

 そういえば、お蘭も予言の魔道を持っていた。

 いずれにせよ、予言は当たっている。

 沙那は、いま白玉の佳を持っている。

 

「だが、その王家の秘宝は大事なものなのでな。俺としても、それを赤の他人に託すのは不安すぎて、首輪の爆薬で脅迫くらいしなければ信用はできんのだ。悪く思うな」

 

 沙那は、首輪に手を振れた。

 確かに頑丈な造りだ。

 触ってみる限り、鍵穴のようなものはないから、道術でなければ外れないだろう。

 

 どうやら、王太子は予言ができる者を使っているようだ。

 それで、昨夜の雷王の言葉から思いつくものがあった。

 もともと、雷王を殺して入れ替わった青獅子(あおじし)は、雨乞いをして宮廷に地位を得たと言った。

 だが、宝玄仙は、雨を降らせるような術は存在しないも言った。

 そうだとすれば、合理的な説明はひとつしかない。

 それで、かまをかけてみることにした。

 

「……その予言のできる者というのは、青獅子という妖魔のことですか?」

 

 すると今度は王太子の顔色が変わった。

 

「お前たち三人は幕の外に出よ」

 

 王太子が言った。

 残ったのは、王太子と沙那、そして、術遣いらしい護衛ひとりだ。

 

「お前は、青獅子について、なにを知っている、沙那」

 

 王太子が沙那に近づき、小さな声で言った。

 

「大したことは知りません。三年前の日照りの被害のとき、雨を降らせることができると言って、その妖魔は人間に化けてやってきた。だが、その妖魔は、雨を降らせることができたのではなく、予言の力により、これから雨が降るのを知っていただけだった。それに合わせて、雨乞いの儀式の真似事をしただけ……。そして、うまく国王に近づくことができた青獅子は、宝林道館で本物の王を殺し、王に成りすました……」

 

 王太子の顔が真っ赤になり、その手が腰の剣に触れた。

 その瞬間、沙那は悟った。

 王太子は、その青獅子が本物の王が入れ替わったことを知っているのだ。

 そして、それを隠そうとしている。

 

 ここに来る前に、雷王に言われいたとは大きく異なる。

 雷王は、真実を王太子の光が知れば、偽王を廃して追放するだろうと言っていた。

 そして、本来の王である雷王をしかるべき扱いをするに違いないとも。

 だが、それは違う。

 操られているかどうかまではわからないが、王太子は、あの雷王殺しに加担している。

 

「殺しては、なりませんよ、殿下」

 

 声をかけたのは、ひとりだけ残っていた護衛だ。

 ほかの三人が去り、彼だけ残ったのを考えても、彼が特別な存在であることはわかる。

 

「しかし」

 

 王太子の手は剣に触れたままだ。

 

「なりません。ご忠告申しあげたはずです。彼女たちが、すべてを解決してくれると」

 

「だが、想像以上に知り過ぎている」

 

 王太子はじっと沙那を睨んでいた。

 沙那もじっと睨み返す。

 もう達観していた。

 ここで暴れても、一切が無駄だ。千人の精鋭に囲まれている場所で、王太子が沙那を殺そうと思えば、沙那は逃れようがない。

 

「沙那殿に、なぜ、それを知っているか訊ねるべきです、殿下」

 

 護衛が言った。

 その言葉で、王太子の顔が冷静さを取り戻す。

 そのやり取りで、その護衛と王太子が単純な主従の関係ではないことがわかる。

 

「その前に教えてくれない? あなたはなに者?」

 

 沙那は、護衛に言った。

 

「私のことは、私の質問に沙那殿に答えてもらってから教えます。それよりも、あなたは、いまの王座にいるのが、青獅子という偽者であることをどうして知っているのです、沙那殿?」

 

 護衛が言った。

 

「本人に聞いたからよ、誰かさん」

 

 沙那は言った。

 

「本人?」

 

「雷王陛下よ。幽体になって宝林道館を彷徨っているわ」

 

「陛下が幽体に?」

 

 声をあげたのは、王太子だ。

 

「やはり、そうでしたか。よもやとも思いました。だからこそ、妙な噂が流れる前に宝林道館から人間を急ぎ退館させたのです。幽体の王は、少しずつ力を蓄え、ついに、現世に出現するまでの能力を身に着けることができたのですね」

 

 護衛の声は落ち着き払っている。

 

「雷王陛下の幽体と会ったのか、お前は?」

 

 王太子が沙那に言った。

 

「いまもおられます、殿下。わたしは、その雷王陛下に命じられてきたのです。王太子殿下に、いまの玉座にいるのが、偽王であることを伝えよと」

 

 命じられるとよりは、実際には脅迫だ。

 失敗すれば、憑依している朱姫は殺すと言われている。

 

「そういうことであれば、この沙那殿を殺してもなにもなりません。王は、これからは、他の者にそれを伝えることができます。いずれ、噂は避けられないものになります」

 

 護衛が言った。

 王太子は、椅子に座り直して腕組みをした。

 

「ところで、あなたは誰なの?」

 

 沙那は護衛に言った。

 

「私は青獅子です。妖魔ですが、この王太子の光殿に見出されて、この国の危機を救うために力を貸しています」

 

「青獅子ですって?」

 

 沙那は驚いた。

 雷王の話が真実であれば、青獅子は、偽王となり、雷王の振りをして王座に座っているはずだ。

 

「青獅子、お前は」

 

 王太子が叱咤の声をあげた。

 

「よいのです、殿下。私の千里眼が告げるのです。いまは、この沙那殿に真実を告げて協力を求めることがもっともよい選択だと思います」

 

「お前の千里眼を疑ったことはないがな」

 

 王太子が嘆息した。

 

「そんなはずはないわ。青獅子という妖魔は、玉座にいるはずよ」

 

 沙那は声をあげた。

 

「普段はそうしています。しかし、今日は重要な出会いがあると卦に出ていましたので、こうやって、こっそりとついてきたのです」

 

「ええっ?」

 

「幽体の雷王に会ったのなら、青獅子は変身の名人だと言いませんでしたか、沙那殿?」

 

 青獅子はそう言って、沙那そっくりの姿に変わった。

 あっという間に、眼の前の護衛が自分そっくりの姿になったのを見て、沙那は驚いた。

 そして、次に、その沙那の姿が、ひと際身体の大きな王冠をつけた男に変わる。

 会ったことはないが、それが本来の雷王の姿のだろう。

 また、最初の護衛の姿になる。

 

「自在に、誰にでも、変身をする術と千里眼……。それが、この青獅子の術です。それをお認めになった王太子殿が、妖魔の私を部下にとお求めになったのです」

 

 青獅子は言った。

 沙那は、呆気にとられていた。

 

「ところで、あなたは、もう戻るべきです。私の千里眼によれば、宝玄仙殿は、惨い目に遭っていると出ています」

 

 沙那はびっくりして立ちあがった。

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