「おっ、おっ、おおっ、おおおおおっ」
宝玄仙の股間にあった朱姫の顔が吠えた。
それだけでなく、全身を弓なりにして、がくがくと震えながら、女の股間から愛液を噴き出している。
かなり深い女の絶頂だ。
しかも、いまは男の側からも、精を出させた。
宝玄仙はそれを口で受けとめている。
女として快感を極めるなど、雷王には経験がなかっだろう。
人によって異なるが、女の快感は、男の十倍とも、百倍とも言われている。そこに、男の快感まで重ねてやったのだ。
案の定、気絶してしまったらしく、雷王の憑依した朱姫は、脱力して、寝息をたてだした。
ざまあみろ――。
まあ、宝玄仙の本気の技にかかれば、こんなものだ。
寝台に横になっている朱姫の股間には宝玄仙の顔、宝玄仙の股間には朱姫の顔があり、ふたりで上下を逆にして攻撃し合っているが、一方的に責めているのは宝玄仙ばかりだ。
雷王が乗り移っている朱姫には、雷王のものである男根がそそり勃っているが、朱姫のものである女の部分もある。
宝玄仙の自慢の舌技で、徹底的に女の部分に刺激をしてやった。
ご丁寧にも、男根があっても、朱姫の身体には、ちゃんと肉芽まで残っている。
そこを舌で皮を剥き、何度も焦らしまくって、快感を一気に解放した。
すると、受けたことのない女としての愉悦に雷王である朱姫は悶絶して果てた。
それを三回ほど続けてから、最後は男根からも精液を吸い取った。
男女の快感の同時解放だ。
それで、やっと雷王は意識を手放したようだ。
「ははは、ざ、ざまあみろ………。はあ、はあ……」
宝玄仙は、口の中の大量の精液を処理してから、男根から口を離して呟いた。
そもそも、一回の射精の量が多いんだよ、こいつ──。
もう一度、朱姫を見る。
ちゃんと、気を失っている。
宝玄仙は、とりあえずほっとして、汗まみれで横たわる朱姫の身体から降りた。
次いで、首にある首輪を外そうとした。
元々は、あのお蘭が作ったものであり、宝玄仙の道術を封じる『道術封じの首輪』だ。
だが、やはりどうしても駄目だ。
やっぱり、自分では外れない。
そういう仕掛けになっているのだ。
孫空女なら外せるだろうが、孫空女は、いまは、井戸の中にあるはずの雷王の遺体を探しにいかせている。
取りあえず、このまま戻ってくるのを待つしかないか……。
できるのは、孫空女の仕事が終わるまで、こうやって雷王を見張っていることくらいだ。
宝玄仙は、そっと自分の肉芽を手で触れた。
まだ、しくしくと痛むが、耐えきれない程ではない。
肉芽の根元を糸で結ばれて、爪先立ちで立つ孫空女の両手首に繋がれた時間は二刻(約二時間)ほどだった。
孫空女は見事に耐え抜き、足元に全身から吹き出た汗と股間から滴り落ちた愛液の水溜りを作りながらも、宝玄仙を傷つけまいと体力と気力のすべてを使ってくれた。
そして、やっと戻ってきた雷王に、宝玄仙はしなだれかかり、情愛たっぷりの仕草と声で擦り寄った。
雷王は歓び、宝玄仙を拘束していた縄を解き、孫空女を解放した。
すぐに、孫空女は部屋を立ち去った。
指示した通りだ。
孫空女に指示したのは、この寺院のどこか、おそらく、雷王が落とされて死んだ井戸の中に、雷王の死体があるはずだから、とにかく、それを拾って来いということだ。
雷王の死体があれば、お蘭から伝授されている『魂の欠片』の術式で、あいつを復活できるはずだ。
そのときには、雷王の魂は幽体をやめて、本物の身体に移動する。
すなわち、朱姫の身体から出ていくということだ。
宝玄仙は、孫空女が屍骸の捜索をしているあいだ、雷王を足止めする役目を引き受けた。
そして、やっと性技を駆使して、気絶させることに成功したというわけだ。
今頃は、孫空女は井戸に潜り、雷王の屍体を探しているはずだ。
とにかく、それが捜し終えれば、あとは、沙那が戻るのを待ち、持っていった白玉の
それだけだ。
そのときだった。
いきなり宝玄仙の腕が力強く掴まれた。
「あ、ああ、起きたのかい、雷王……」
もう目が覚めたのか……。
回復の速さは幽体ならではだろう。
宝玄仙は内心で舌打ちした。
「奉仕をするよ。また、精をおくれ」
もう一度、朱姫の股に屈みこみ、力を失ってだらりとなっている朱姫の股間の男根を口に含んだ。
それにしても大きな男根だ。
小さめの宝玄仙の口では、精一杯開けてやっと歯を当てずに頬張ることができるほどだ。
正直に言えば、こんなものを受け入れるのは、口であろうと膣であろうと拷問に感じる。
「おお……。気持ちいいのう……」
すぐに、雷王の巨根が宝玄仙の口の中で男根が元気を取り戻す。
圧迫される喉による嗚咽を耐えながら、宝玄仙は懸命に奉仕する。
「な、なかなかの技だな……。余が玉座に戻った暁には、お前を後宮に入れてやろう……。おっ、おおっ」
幽体になりながらも、まだ王に戻るつもりがあるのかと呆れながら、宝玄仙は、たっぷりと唾液を絡めた舌で亀頭の部分をしゃぶる。
精液の味が濃くなり、先端の震えが大きくなるのを待って、すっと口から離す。
「ほおお……」
朱姫の中の雷王が切なそうな声をあげた。
雷王は、射精ぎりぎりのところで刺激をとめられたはずだ。
宝玄仙は、その唾液とあふれ汁でまみれた男根の先を指でなぞった。
「あうっ……」
また、雷王が震えた声を発する。
その身体に静かに、雷王が入っている朱姫の身体を宝玄仙の体重をかけて横たえた。
また、一物をまさぐっていた指を、今度は朱姫の女の秘所の部分に動かす。
そこは溢れんばかりの淫液でまみれていた。
指で朱姫の淫液で包む。
「あっ、ああっ、あああっ」
雷横が女のような嬌声をあげだす。
やはり、女側の快感は強烈なのだろう。
しばらくすると、朱姫の身体が震えだした。
指で朱姫の淫液を男根にも伸ばしていく。
さらに、朱姫の乳首に口を当てて吸う。
朱姫の身体の震えが大きくなる。
そろそろだろう――。
宝玄仙は、身体を起こして、朱姫の股間から生えている男根に自分の膣を当てた。
ゆっくりと身体を沈めていく。
「んふっ」
雷横の巨根に上から跨りながら、宝玄仙は息を吐いた。
さすがにきついのだ。
それでも股の力を抜いて、その巨根を受け入れていく。
もちろん、宝玄仙の肉襞で刺激するのを忘れない。
そして、上から律動を開始した。
股の力で雷王の男根を搾りあげる。
「くっ、おおっ」
雷横が声を出した。
こいつが達しそうになったのがわかる。
しかし、まだ、ここではいかさない。
そのまま宝玄仙で包んだまま、しばらく待つ。
すると、少し、雷王の息が余裕を取り戻す。
それを待ち、宝玄仙は再び律動を始める。
そもそも、まだ宝玄仙の最奥まで、巨根の先が到達していない。
宝玄仙は、抽送を続けさせながら、だんだんと奥に奥にと、雷王の男根を咥えていく。
「んくっ」
宝玄仙はぶるりと身体を震わせてしまった。
やっと、雷王の亀頭が子宮の先端まで到達したのだ。
少しつらい……。
もう少し淫液を増やして、潤滑を……。
宝玄仙は、自分の子宮の入り口近くにのある気持ちのいい部分に、男根の先端を誘導する。
そこで突く──。
「あああっ、いいっ」
自分が作り出した刺激で宝玄仙は声をあげた。
自分の肉襞が一斉に淫液を迸らせたのがわかる。
巨根を受け入れている膣襞は滑らかさを取り戻し、上下運動が楽になる。
そうなれば宝玄仙の思うままだ。
膣全体で男根に奉仕しながら、朱姫の女の部分にも背中から手を伸ばして愛撫する。
男性の部分と女性の部分を同時に刺激していく。
「おごおおおおっ」
朱姫の口から獣の声が迸る。
一気に射精と絶頂を同時にさせた。
宝玄仙の子宮にも、大量の雷王の精が放たれたのがわかった。
雷横がぴくぴくと痙攣のような反応を示したかと思うと、がっくりと脱力した。
「ふう……」
今度こそ、ぐったりと果てた朱姫の身体の上で、ぐったり宝玄仙は身体を倒れさせた。
そろそろ、宝玄仙の身体自体がつらくなってきた。
孫空女はまだだろうか――。
宝玄仙は深く息を吐いた。
「……さてと、随分と愉しかったが、そろそろ、なにを企んでいるのか話してもらおうかな、宝玄仙」
雷王の声──。
宝玄仙はびくりと身体を震わせてしまった。
ふと気が付くと、朱姫の眼が大きく開いている。
こいつ、どこまで絶倫なんだ……。
宝玄仙は息を呑んだ。
「お前がなにかを隠しているのは、とっくにわかっていた。このまま、奉仕を受け続けてもよいが、次は余の番だな。隠していることを語ってもらうか……。だが、すぐに喋らなくてもいいぞ。拷問というものは、長くやればやるほど愉しいのだ」
宝玄仙の腕が強引に背中に回された。
朱姫の目が暴力的な色を帯びている。
背に冷たい汗を感じた──。
*
「うわあ、気味悪い──」
孫空女は、ずぶ濡れの身体を井戸から這いあがらせると、取りあえず、背中に縄で結わえていた雷王の遺体を本堂の縁の下に隠す。
完全に骨になっていたが、頭蓋骨に残っていた王冠が、紛れもない雷王の骨であることを物語っていた。
とにかく、宝玄仙が時間を稼いでいるあいだに、戻らなければならない。
孫空女は、裸の身体で駆けて、宿棟に向かった。
しかし、途中で立ちすくんだ。
なにかを叩く音。
鞭の音だ。そして、呻き声。
慌てて、音の方向に向かった。
宿棟の裏の庭で、後手に縛られた宝玄仙が乗馬鞭で追い立てられて、悲鳴をあげていいる。
宝玄仙の両腕は背中に回して縛られていて、さらに首に回した縄が膝を束ねた縄で繋がっている。
首と膝を繋げる縄はひどく短いので、宝玄仙は極端な前屈みでお尻を高くあげたような格好で歩かされているのだ。
その尻には無数の傷跡があり、皮が破けて滴る血が宝玄仙の真っ白い肌と地面に散っている。
それだけじゃない。
身体中に殴られたり、蹴られたりしたような痣がある。
顔だって、鼻血で血だらけだし、あちこちが腫れて、凄いことになっていた。
かなりの惨い目に遭ったということがひと目でわかる。
「いぎゃあああ──。も、もうやめておくれ──」
朱姫の持つ鞭が振りおろされ、宝玄仙の前屈みの乳首の先端に当たって、血を吹き出させたのだ。
「とまるからだ──。それに、遅すぎる。余は走れと言っておるのだ。誰がよちよち歩けと言っておる」
朱姫の腕が宝玄仙の顔面に飛んだ。
「ひぎいぃぃいぃ」
宝玄仙が悲鳴をあげながら、ごろごろと横倒しに地面を転がる。
それを雷王が追っていく。
「また、勝手に倒れおって、本当に堪えようのない女だ。立たんかあっ」
朱姫が宝玄仙を蹴りあげ、朱姫の足が宝玄仙の傷だらけの尻に喰い込んだ。
「ぶぎいいっ」
宝玄仙の眼が見開くとともに、鼻と口から同時にまとまった血を噴き出した。
それでも、起きあがろうともがくが、力が入らなくて、できないようだ。
「立て──。立たんか──。立たん限り、いつまでも蹴られるぞ」
その宝玄仙に朱姫の蹴りが二度、三度と加えられる。
朱姫の中の雷王は愉しそうに笑っている。
笑いながら、宝玄仙の顔を蹴っているのだ。
ついには、顔面に加えられた蹴りで、宝玄仙の品のいい鼻が曲がり、そこから、またもや、大量の血が噴き出した。
「ご、ご主人様――」
孫空女は絶叫して走った。
そして、宝玄仙の前に身体を入れる。
「おや? 孫空女じゃないか。この宝玄仙は、お前は逃げたと言ったが?」
朱姫の口がそう言った。
「に、逃げるもんか。ちょっとした、用足しだよ。それよりも、なんてことするんだい」
宝玄仙の顔は涙と鼻水と血と泥でくしょぐしょだ。
蹴りを受けた顔面が変形している。
全身の傷と痣は惨たらしく宝玄仙の裸身を覆っていて、あの美しい宝玄仙とは信じられない無残な姿だ。
「なに、お前を逃がしたと言ったから、罰を与えていたところだ。まあ、確かに、少しやり過ぎたかもしれんな。いずれにしても、こんなにも顔が崩れてしまっては、もう、こいつには興味もなくなった。次は、お前が余の相手をせい、孫空女」
朱姫の中の雷王が言った。
「じょ、冗談じゃない。もう、我慢できない」
孫悟空は、宝玄仙の首の『道術封じの首輪』を外そうとした。
「それに触るな。一瞬で朱姫は死ぬ。逆らってもいいのか、孫空女? 朱姫が死ぬぞ。この半妖の娘が死んでも、余は困らぬ」
朱姫の声がかけられる。
孫空女の手は、宝玄仙の首輪の寸前でとまる。
「くそうっ」
孫空女は、地面に拳を叩きつけた。
「お、お願いだよ、雷王。ご主人様の道術をちょっとだけでいいから解放させてあげてよ。このままじゃ、ご主人様が死んじゃうよう。ご主人様は道術で自分の怪我をすぐに治せる。そうしたら、また首輪をすればいい。それだって、あんたが困ることはないじゃないか──。この通りだよ──」
孫空女は跪いて地面にひれ伏すと、頭を地面に擦りつけた。
全裸土下座だ。
道術さえ遣えれば、『治療術』で宝玄仙は、自分の傷を治せる。
しかし、このまま放っておけば、死んでしまうかもしれない。
多分、顔面の骨が折れている。
宝玄仙の鼻は曲がるだけではなく、その横側に赤黒い腫れが拡がっている。
すると、朱姫の中の雷王が大笑いした。
「主人想いの供だな。よかろう。宝玄仙の縄を解いて、自分を縛れ。そうすれば、宝玄仙の首輪は余が外してやる」
「わ、わかった」
孫空女は、地面に倒れ伏している宝玄仙の後手を解き、次に膝と首を結んでいる縄を取り去った。
使ったのは、『魔縄』と呼ばれる霊具のようだ。
この霊具は、軽く縛るだけで、自分では解くことのできない拘束を完了する。
身体が動かす度に、宝玄仙は苦しそうに呻いたが、その眼も口も開かない。
まずは、自分の両足首を束ねて縛る。
次に両手にぐるぐる巻きに巻きつけた。
一度、手首の間を通して、歯で引っ張る。
この程度でも、この『魔縄』は外れない。
「やったよ」
顔をあげた。
「まだだ。足首と手首を繋げ。できるだろう?」
孫空女は、余った縄を足首を結んでいる縄に結ぶと、そのまま手首にも歯を使ってひと巻き結ぶ。
これで、孫空女は両手と両足を束ねて動けなくなった。
「じゃあ、ご主人様の首輪を外してよ」
地面に倒れたままの孫空女は言った。
「そうだな」
朱姫の顔に残酷な笑みが浮かんだ。
そして、宝玄仙に近寄ると、思い切り曲がっている鼻をぐりぐりと踏みつけた。
「ひぎいいぃっぃぃ」
宝玄仙が喚き声をあげて暴れた。
「や、やめろよ――」
孫空時は束ねた手足を激しく動かして叫んだ。
しかし、自縛とはいえ、『魔縄』の拘束はびくともしない。
「気を失ったふりなどしおって、宝玄仙──。顔の壊れたお前には、もう興味はない。余の役に立ちそうのないお前など、そのまま死ね──」
もう一度、雷王が宝玄仙を蹴る。
宝玄仙がそれを避けようと手で顔を覆った。
その動きは弱々しい。
朱姫の足が無防備になった宝玄仙の下腹部に食い込んだ。
「おげええ」
宝玄仙が嘔吐した。
「汚いのう」
さらに蹴り──。
「やめろおおっ」
孫空女は絶叫した。
今度は、宝玄仙は失禁した。
それでも、宝玄仙は失禁しながら逃げようと、懸命に這い動く。
その背中を朱姫が踏みつけ、さらに、背後から宝玄仙の股間を二度、三度さらに蹴る。
「んげええ──」
今度こそ、宝玄仙は動かなくなった。
「ご主人様あああっ」
孫空女は泣き叫んだ。
「足が汚れたぞ。孫空女、舐めて、きれいにせい」
孫空女の顔の前に、朱姫の履き物が突きつけられた。
孫空女は首を横に振って、それを避けた。
顔面に衝撃が走った。蹴られたのだとわかった。
「ひ、卑怯者――。嘘つき。それでも国王かよ。ご主人様を許すと言ったじゃないかよ」
孫空女は怒鳴った。
蹴られた頬がまだ傷む。
「王という者は、すべてが許されるのだ。不要であり、余の役に立たない者は処分する。ずっと、そうやってきたわ――。それより、舐めろ──。お前も、宝玄仙と同じように顔を壊されたいか?」
また、履物のままの足が突きつけられる。
その足先に、孫空女は力一杯噛みついた。
「い、痛いわ――」
噛んでいる足が振りあげられた。
それでも、離さない。
履物を通して、朱姫の足に孫空女の歯が食い込んでいるのがわかる。
反対側の足で蹴られるのに耐え、それでも口を開かなかった。
最後には、鼻を押さえられて、強引に口を開けさせられた。
「き、き、貴様。こ、殺してやる──」
怒りに震える朱姫の声が降りかかる。
「……ま、待ち……なさい……。わ、わたしを……最初に……殺しな、雷王……」
孫空女は顔をあげた。
いつの間にかそばまで這ってきていた宝玄仙が、朱姫の足首を両手で掴んでいる。
顔面は血だらけだ。
あの綺麗だった宝玄仙の顔が無残な姿になっている。
「おうおう、宝玄仙か。もう、お前は用済みだ。近寄るんじゃない。ここももういらん」
朱姫の片手が宝玄仙の髪を掴んで引き上げた。
そして、膝立ちさせた宝玄仙の股間に、掴んだ土を埋め込んだ。
「ひぎいいっ」
宝玄仙が股間に乱暴に土を詰められる痛みに仰け反る。それを朱姫が投げ捨てた。
「ご主人様――」
孫空女は叫んだ。
それしかできることがないからだ。
こんなやつ、王じゃない。
そう思った。
こんな雷王のような男が王であれば、死んでみんなほっとしているだろう。
いや、実際には、死んだとは思っていないのだろう。青獅子とかいう妖魔がとって代わっているからだ。
だが、いくら妖魔でもこいつよりはましだろう。
こんな男が国王だというのは、それこそ最悪の事態だ。
「お、お前を……ふ、復活させる……。それで、王として……戻れる……」
宝玄仙の弱々しい声が聞こえた。
それで宝玄仙の顔に踏みおろされようとしていた朱姫の足が止まった。
「なんだと?」
「……お前を……復活できる……。こ、このままでは……、青獅子を追い出しても……、お前は、王には戻れない……。ここに縛りつけられた……幽体のままだ。それより、わたしが……儀式を行えば……生身の肉体に……戻れる……」
「嘘じゃないな、宝玄仙。助かりたいから口から出まかせを言っていないな?」
「本当だよ……。う、嘘じゃない。
宝玄仙が言った。
朱姫はとまっている。
身体の中の雷王がじっと考えているのだ。
「帰りました、雷王陛下……。そして、ご主人様……。ところで、これは、どういうことなのですか?」
孫空女は、はっとして顔をあげた。
沙那だ──。
それだけじゃなく、ひとりの身なりのいい男と、その部下らしき兵ともにそこに跪いている。
そして、沙那の顔は、怒りで真っ蒼だ。癇癪を耐えているようだけど、ぶるぶると身体を怒りで震わせている。
目の前の光景に激怒してるのだ。
孫空女にはわかった。
いずれにしても、沙那が戻ってきたのだ。
沙那は宝玄仙に駆け寄ると、宝玄仙を抱きかかえた。
そして、宝玄仙の首輪に手を掛ける。
「待て、沙那──。その首輪に触れるな。余の中に眠っている朱姫を殺す──」
朱姫の怒鳴り声がした。
「でも、このままでは、ご主人様が死んでしまいます。ご主人様が死ねば、朱姫も死ななければならない身体です。同じことです」
沙那は、そう言い放つと、あっさりと首輪を外した。
宝玄仙から、ほっとした声が漏れる。
しばらくすると、孫空女の顔の痛みが引いてきた。
宝玄仙が『治療術』で自分を治療しながら、孫空女の傷も治療してくれているのだと悟った。
「陛下なのですね……。お迎えにあがりました」
沙那と一緒に来た男が言った。
「
朱姫の中の雷王が言う。
光というのは、確か、雷王の言った出来のいい息子の王太子の名だ。
沙那は、ここまで王太子を連れてくることに成功したのだと思った。
「沙那殿に教えられました……。雷王陛下は殺されて、いまの雷王は妖魔の変化の姿なのだと……。それで、すべて合点がいきました。あの王は、真実の王ではございません。沙那殿の言葉は、俺の疑念を納得させるのに十分でした……。重ねて、これまで偽王に気がつかなかったこの光の不孝をお許しください。申し訳ございませんでした」
王太子が跪いたまま言った。
「……まあ、よかろう、光」
「俺の一隊をこの寺院の麓に展開させております。王には、一緒に戻って貰わねばなりません。王が復活し、その旗とともに、雷王がご帰還されれば、青獅子に抑えられている王軍もすぐに馳せ参じることでありましょう。これからの王権の奪回には、陛下のお身体が必要です」
朱姫が頷き、そして、宝玄仙に視線を送る。
「余を復活できると言ったな、宝玄仙?」
「ああ」
宝玄仙は言った。
沙那に抱かれている宝玄仙は、もうかなり血色がよくなった。
まだ顔に、血と泥がこびりついてはいるが、折られた顔の骨も鼻も戻っているようだ。
「では、やってもらおう」
朱姫の中の雷王は、とても浮足立っているように感じた。