※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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97  幽霊王の復活

 宝林道館(ほうりんどうかん)に戻るあいだ、光(こう)王子から、雷王(らいおう)という王は、粗暴を絵に描いたような男だと教えられていたので、沙那は心配はしていた。

 光王子は、実の父親である雷王に、欠片も親としての尊敬も感情に抱いていないようだった。

 それで、青獅子という変身術の得意な妖魔を組んで、雷王を排除した。

 これが、事件の真相だったのだ。

 

 しかし、その雷王が幽体として復活した。

 それは、光王子には計算外だったようだ。

 だから、調査をするために、まずは宝林道館から僧侶たちを退去させ、息のかかった者たちだけで、道館を調査しようと計画を進めていたのだそうだ。

 そこに、沙那たちが道館に入ってしまったというわけだったみたいだ。

 

 いずれにせよ、幽体となってしまった以上、そのままにしておくわけにはいかない。

 光王子は、沙那の案内で道館に一緒に向かってくれることになった。

 また、沙那は宝玄仙であれば、光王子の意に染まる対処が可能であり、幽体となった雷王の処置も可能だと説明した。

 光王子は、宝玄仙の名を知っていて、確かに、宝玄仙ならば、それが可能だろうということに納得した。

 青獅子も同意した。

 宝玄仙の道術については、人間族のみならず、妖魔の世界でもそれなりに鳴り響いているみたいだ。

 そして、道館の到着した。

 王太子は軍隊を下に留め、青獅子を含めた三人で、登ってきた宝林道館に入った。

 

 しかし、その光景は、沙那の想像を遥かに超えていた。

 宿棟の庭に四肢を束ねて全裸で転がっている孫空女──。

 そして、やはり、全裸の宝玄仙が、顔面が血だらけの半死半生の状態で横たわっていいる──。

 

 沙那はすぐに、宝玄仙の首に『道術封じの首輪』が装着されていることに気がついた。

 手酷い怪我をしている宝玄仙に駆け寄り、沙那は最初にそれを外した。

 

 また、王太子と雷王が話をしているあいだ、沙那は宝玄仙と孫空女を連れて、衣服を整えるために宿棟に戻った。

 こちら側のだいたいの事情も説明した。

 宝玄仙からは、幽体を消滅させるために、一度魂の欠片の施術をする必要があると教えられ、その準備を託すために、一度光王子のところに戻って説明をした。

 そして、再び、宝玄仙のところに戻って、いまに至っているというわけだ。

 

「わかったよ、沙那……。じゃあ、わたしのやり方でやらせてもらう」

 

 宝玄仙は言った。

 

「わかりました……。それにしても、孫女も大変だったわね」

 

「朱姫が復活したら、あいつの顔を見るたびに、あたしが頬を張り飛ばしはしないかと心配だよ」

 

「馬鹿ねえ、孫女。朱姫も被害者よ。身体を乗っ取られて、何度も心臓を止められそうになって……」

 

「でもさあ……」

 

「大丈夫だよ。お前たち。このわたしが、きっちりと落とし前はつけさせるから」

 

 宝玄仙が冷酷な笑みを浮かべた。

 沙那はぞっとした。

 

「とにかく、行くよ」

 

 衣装を整えた宝玄仙を先頭に、再び庭に出る。

 庭には、すでに蔡堂が整えられており、施術の準備が整えられていた。

 すなわち、白い布が敷かれて、その上に孫空女が井戸から引き揚げたという雷王の白骨死体が横たわっていた。

 横には、王太子の光とその部下に化けている青獅子、さらに、雷王が支配している朱姫がいる。

 

「始めるよ」

 

 光王子が白玉の珪(たま)を手に取って、屍体の前に跪く。

 狩場における謁見のあと、沙那は白玉の珪を光王子に渡していたのである。

 

「それにしても、この秘宝が実は、歴代の王を復活させるための魂のかけらを封じ込めていたとはのう」

 

 雷王が朱姫の口で言った。

 

「代々の王権の譲渡の中で、その知識が失われていたのでしょうね。そして、復活がで

きるのがわからぬまま、次の王が即位し、刻まれた王の魂は次の魂に入れ替わっていた……」

 

 光王子が呟くように言った。

 

「いくよ……。言っておくけど、この秘宝の魂の復活は一度だけだ。いま、それをやれば、もう、この珠が魂を歴代の王の魂を刻むことはない。ただの飾りになる―――。そういう宝具のようだ。それでも、いいね?」

 

「やってください、宝玄仙様」

 

 王太子の光が言った。

 

 すぐに、白骨死体が眩い光で包まれだした。

 長い時間が流れる。口を開く者は誰もいない。

 やがて、朱姫がふらりと倒れた。

 孫空女がそれを支えて、その身体を横にする。

 

 宝玄仙が深く息をした。

 もう終わったようだ。

 白骨だった眼の前の屍体は、いまや、生身を持った人間の身体になっている。

 雷王は人間として再び蘇ったのだ。

 その肉体の裸身を見て、沙那は苦笑した。

 宝玄仙らしいと思ったのだ。

 

 雷王であるその肉体が起きあがった。

 最初は、肉体を取り戻した悦びを示していたが、それは、一瞬だった。

 自分の身体を見下ろして、愕然としていた。

 信じられないという表情で、何度も自分の身体を触り、そして、険しい表情で宝玄仙を睨んだ。

 

「宝玄仙、どういうことだ、これは?」

 

 雷王が怒鳴った。

 だが、その声は少女の声そのものだ。

 雷王の身体は、朱姫と同じような少女の身体に作りかえられていた。

 その少女の身体が仰け反り、苦悶の悲鳴をあげた。

 

「いつまで、威張っているつもりだい。自分の立場をわきまえな。お前の身体はすでに骨だったんだ。その骨の損傷だって激しく、この宝玄仙だからこそ、復活させられたんだよ。ほとんど、一から肉体を造成するような作業だ。だから、このわたしが、一番恨みに思っている身体にしてやったよ。お前の名は、今日から“鳴智(なち)”だ。わかったかい、雷王」

 

「な、鳴智だと?」

 

 鳴智と呼ばれた雷王が怒りを顔に表した。

 その身体が、また絶叫とともに倒れた。

 

「立場をわきまえろと言っているだろう、鳴智。ついでだから、お前の身体にはわたしの内丹印を刻んでやったよ。それっ―――」

 

 “鳴智”がのたうち回る。

 

「じゃあ、この鳴智は、ご主人様が引き受けると思います、殿下。ご心配なさらずとも、殺すようなことまではしないと思います。仕返しするだけしたら、朱姫の『縛心術』で、雷王のときの記憶を消失させて放逐します」

 

 沙那は、王太子に頭を下げた。

 

「信用するべきです」

 

 すかさず、青獅子が横から言った。

 

「別にそのまま放逐してもらっても、殺してもらっても構いません。この姿では、こいつが王であったなど、誰も信用はせんでしょう。宝玄仙殿、王家を救ってくれて感謝します」

 

 光王子は言った。

 そして、青獅子に頷く。

 沙那の首にあった爆薬の詰まった首輪を青獅子は外した。

 

「王都に立ち寄って貰いたいが、王都には教団の眼も多い。俺が国王に即位しても、護りきれるとは約束できない。却って迷惑がかかる気がする。それほどに、天教の影響力は、この国では強いのだ。だが、数年待ってくれれば、俺は天教教団の影響を排除し、妖魔を受け入れることのできる社会を築くつもりだ。この青獅子の手も借りて」

 

「愉しみにしています、殿下」

 

 沙那は言った。

 

「光って言ったね、お前……」

 

 宝玄仙が光を振り返った。

 

「沙那から、だいたいの事情は聞いたけど、この宝玄仙にただ働きをさせるつもりはないだろうねえ? ここにはあと十日は滞在するよ。それまでに、今回の礼として、これまでの路銀の補填として金粒五袋。それから、新鮮な野菜と肉――。それに、葡萄酒もいるね。新しい服も欲しい。わたしのも、こいつらのもね。それだけ貰うよ」

 

「金粒と衣類は明日中に……。食べ物類は、ここにいるあいだは、毎日届けさせます、宝玄仙殿」

 

 王太子は微笑んだ。

 

「私が間違いなく手配します」

 

 青獅子が付け足した。

 

「ま、待て、どういうことだ、光? お前が王に即位するとか言わなかったか?」

 

 雷王だった鳴智が喚いた。

 こっちに詰め寄ろうとしたが、孫空女に蹴り戻される。

 

「言いましたよ、鳴智。もっと、早く即位の儀をするつもりでしたが、これがなかったので、できなかったのです。それで、仕方なく、青獅子を傀儡として、身代わりの王の役を演じさせていましたが、やっと、王権の印である白玉の珪が手に入りました。さっそく、雷王の死を公表して、即位式を行うつもりです」

 

 王太子は、白玉の珪を握っている。

 

「お、お前がやったことだったのか、すべて?」

 

 鳴智が叫んだ。

 

「鳴智であるあなたにこんなことを説明するつもりはありませんが、もう、お別れですし、どうせ、記憶を消失するのでしょうから言いましょう。そうです。すべては、俺のやったことです。あなたを殺させたのも、偽王を仕立てたのも――。すべて、この俺が権力を握るためです」

 

「そ、それでも、余の子か――? り、理由を言え、光」

 

「理由ですか? それは、あなたが、王として相応しくないからです。あの飢饉のとき、あんなにもお諫めしたのに、あなたは王家の食料庫のなにひとつも開かず、民を救おうとはしなかった。後宮だけではなく、宮廷でもどこでも、見境なく女を貪り、飽きては殺す。部下の扱いは惨く、少しでも逆らえば、有能な人材でも殺してしまう。ましてや、美貌の妻を後宮に入れたくて、その夫に罪を鳴らして処刑させたということもありましたね、雷王よ」

 

「そ、それは、王に許された権利なのだ――。よ、余は、この国の王だぞ」

 

「王とは民草のしもべであるべきです」

 

 王太子は言った。

 

「賢しげに戯言を言いおって。お前に書物を与えていたのは誤りだったわ。い、いや、お前にこんなことを吹き込んだのは、あの学者どもだな。連中の首を斬ってやる」

 

「あなたになにができるのです、鳴智よ。俺の不孝は、死んでから地獄で償いましょう。しかし、現世においては、信じているもののために生きるだけです」

 

 王太子は、まずは、宝玄仙、そして、沙那と孫空女に頭を下げて、麓に降りる階段に向かった。

 

「ちょ、ちょっと待て、光。待つんだ」

 

 雷王、いや、もう鳴智だ。

 鳴智が叫んだ。

 

「小うるさい娘だねえ。孫空女、後ろ手に縛ったら、首輪でもして連れておいで。たっぷりとふたりで調教してやろうじゃないか」

 

 宝玄仙が、鳴智を前にして言った。

 鳴智が文句を言ったが、また、宝玄仙が道術を送ったのか、絶叫して倒れる。

 

「首輪よりも面白いところがあるよ、ご主人様」

 

 鳴智を後ろ手に拘束しながら孫空女が言った。

 

「それはなにさ?」

 

「ご主人様が吊りあげられたところだよ。あたしの手に結んでさあ……。ひどい目にあったじゃないか。同じ目に遭わせてやろうよ……。ちょっとばかり、欲情させてくれれば、すぐに勃起すると思うから、あたしが根元に糸を結んでやる。さっき、戻った時、あの糸を持ってきたんだ」

 

 縛り終えた孫空女が、内袋から頑丈そうな糸をひと房、取り出した。

 

「面白いね。気に入ったよ」

 

 宝玄仙はそう言うと、なにかを口の中で呟いた。

 すると、鳴智がたちまちに官能に身体をくねらせはじめた。

 

 

 *

 

 

「コケコッコオオオ―――」

 

 立木に立姿で縛られた鳴智が叫んでいる。

 もう、数刻もああやって、鶏の声を叫ばされているから、すでに声は枯れている。

 それでも、孫空女は、少しでも声が小さくなれば、鳴智の肉芽の根元に結んだ糸をぐいぐいと引っ張る。

 それで、鳴智は、懸命に鶏の鳴きまねを絶叫している。

 

 その光景を日除けの大きな傘の下に卓と椅子を運ばせて座っている宝玄仙が満悦した表情で眺めている。

 沙那は、その横の椅子だ。

 また、朱姫は、宝玄仙の給仕をさせられていた。

 

「あ、あのう……、ご、ご主人様……」

 

 朱姫が腰をくねらせながら、何度目かの哀願の言葉を吐いた。

 

「動くんじゃないよ、朱姫。せっかくの葡萄酒がこぼれるじゃないか」

 

 朱姫は前に縛られた手で盆を持たされていた。

 盆の上には、宝玄仙が口にしている葡萄酒だ。

 宝玄仙は、それを口にしては、朱姫の持つ盆に戻す。

 盆の上には、水で冷やした果物の載った皿もある。

 葡萄酒の杯を卓の上ではなく、朱姫に持たせた盆に戻すのは、宝玄仙の嫌がらせだ。

 

 鳴智の叫ぶ鶏の声が響く。

 沙那は、横目であの少女の裸身を見る。

 どう見ても、朱姫と同じくらいの年齢の少女だ。

 宝玄仙の好きそうなかなりの美形だ。

 あれは、本当は、この国の元の国王で、幽体になっていたのを宝玄仙が復活させたときに、あの少女の姿にしたのだという。

 本当だろうかとも思ってしまう。

 

 それにしても……。

 沙那は嘆息した。

 

 あの鳴智は縄掛けされた全裸姿だが、朱姫のいまの格好は、むしろ全裸よりも恥ずかしい恰好だ。

 上半身は、王宮で働く侍女たちのようなきちんとした正装で、首には品のいい飾り布まで巻かされている。

 しかし、下半身はまったく剝き出しの全裸なのだ。

 

 そして、前手縛りだ。

 どうして、前手縛りにされたのかは、だんだんとわかってきた。

 つまりは、さっきから始まってきた疼きが朱姫を追いつめている。強要されているお尻の疼きの発作だ。

 しかし、前手に縛られた朱姫には、そこを触ることができない。

 だが、沙那にはわかる。

 宝玄仙の淫情の呪術は強烈だ。

 猛烈な疼きとむず痒さが襲い掛かり、狂うような焦燥に見舞われ続けるのだ。

 あの恐ろしいほどの快感への飢餓感の苦しさは、味わった者でなければわからない。

 

「……で、でも、そ、そろそろ、い、いつもの時間なんです……」

 

 朱姫は絶え絶えに言った。

 口にすると、意識してしまうので、疼きがさらに激しくなってくるのかもしれない。

 そして、自然に身体が震えるから、手に持っている盆が動く。

 だから、杯の葡萄酒の液面が揺れている。

 

「いつもの時間って、なんだい、朱姫?」

 

 宝玄仙が、ひょいと果物を摘まんで口に入れた。

 もちろん、朱姫の持っている盆からだ。

 

「お前もどうだい、沙那?」

 

「い、いいえ、大丈夫です」

 

 沙那は、朱姫が気の毒で首を横に振る。

 今回のことは、朱姫に責任はない。

 切っ掛けとなった井戸の水の毒味だって、沙那が朱姫に指示してやらせたのだ。

 だが、そんなことを口にしようものなら、朱姫の横には、下半身だけを露出した沙那が並ぶことになるだけだ。

 だから、なにも言わないでいるが……。

 

「お、お尻です……。そろそろ、お尻で自慰をする時間なんです。あたしは、まだ、それをさせてもらっていません」

 

 ついに、朱姫は声をあげた。

 朱姫はこの宝玄仙によって日に三度尻で自慰をしなければ、全身が欲情してしまうように呪術を与えられている。

 それを施しているのは、朱姫の首に巻かれている革の首輪だ。

 首輪を外してもらえれば、朱姫もそんな醜態を晒さなくて済むのだが、この巫女は供になってすぐにそれを朱姫に装着して、ただの一度も外さない。

 お陰で、朱姫はどんなときでも一日に三回尻で自慰をしなければ、全身が発情してしまうのだ。

 さらに言えば、沙那だって、いまだに、股間と両乳首の根元に食い込んでいる女淫輪を外してもらえない。

 

「その尻穴をほじくって欲しいかい、朱姫?」

 

「は、はい――。ほ、ほじくってください。朱姫の尻の穴を――。お願いします、ご主人様」

 

「ふん、嫌だね。そのまま、明日まで尻を振ってな、朱姫」

 

 宝玄仙は言った。

 

「そ、そんなあ」

 

「なにが、そんなだよ。お前がこのわたしになにをやったか教えてやったろう。まず、その股間から生やした男根で、この宝玄仙を犯しまくり、次に、糸でわたしのお実を引っ張りあげて放置し、それから全身に鞭を加え、最後にこの宝玄仙の顔を蹴って、鼻ごと顔の骨を砕いたんだ」

 

「だ、だって、あたしの知らないことじゃないですか。何度も説明したように、あたしは、沙那姉さんと、この寺院に偵察に来て、井戸の水を舐めた時から意識がなかったんです。次に気がついたのは、さっきです」

 

 朱姫は泣き声をあげた。

 

「そうそう、裸踊りなんてのも、させられたね。股縄をしてね」

 

 宝玄仙は、顔を鳴智に向けたまま言った。

 また、鳴智の悲痛な鶏の鳴き真似は続いている。

 

「だって、だって、だって」

 

 朱姫は、もう涙が止まらくなったみたいだ。

 確かに、宝玄仙の怒りは当然なのだが、朱姫としても、どうしようもなかったろう。

 だが、この宝玄仙にかかっては、理屈は通用しない。

 沙那にはわかっている。

 

「ね、ねえ、ご、ご主人様……。だ、だったら、わたしに朱姫を責めさせてもらえませんか。たまには、わたしも、朱姫を苛めてみたいんです」

 

 沙那は言った。

 とりあえず、沙那は、それをすることで、朱姫の苦しみを救ってあげれないかと思ったのだ。

 この女法師の気まぐれに、乗せることができたならば、朱姫を助けられる。

 朱姫はが天の声でも聞いたように、ぱっと顔を輝かせた。

 

「黙ってな、沙那。お前の魂胆はわかっているよ」

 

 宝玄仙が、ぴしゃりと言う。

 朱姫はがっかりした表情になる。

 だが、その宝玄仙の頬に、すっと笑みが浮かんだ。

 

「……とはいうものの、朱姫に罪はないというのも事実だしね。じゃあ、沙那に免じて、救いの機会をやろう。いまは、ああやって、孫空女が、鳴智に鶏の鳴きまねをさせて遊んでいるが、あれよりも、面白い責めを考えついたら、沙那がお前の尻穴をほじくるのを許可してやるよ」

 

 朱姫がじっと鳴智を見た。

 沙那も目で追う。

 鳴智は、樹木に立木縛りをされていて、身動きできない状態だ。

 身体には、一糸もまとっていない。

 また、身体に身に着けているのは縄だけ。

 下は地面に直接に素足をつけている。

 朱姫がなにを思いつくのか……。

 

「あ、蟻の好きな液を鳴智の股間に塗って放置するとか……」

 

 朱姫が呟いた。

 宝玄仙の眼が見開かれる。

 どうやら、気に入ったようだ。

 

「さすがは、朱姫さ。それ、面白いよ」

 

 宝玄仙が葡萄酒の入っている杯を手に取る。

 その杯に宝玄仙の強い道術が加わったのが、沙那にもわかった。

 

「これを鳴智にかけといで、朱姫。蟻が好きな匂いの液体に変えておいた。それで、お前の懲らしめは勘弁してやろう」

 

 宝玄仙は、朱姫に道術を込めた葡萄酒の杯を渡すとともに、朱姫が持つ盆を卓の上に置くことを許した。

 朱姫は杯だけ持って、孫空女の責めている鳴智に近寄る。

 

「孫姉さん、交替です。ご主人様に言われました」

 

「ああ、任せるよ」

 

 孫空女が、鳴智の股間に繋がっている糸を離して、朱姫に渡す。

 

「お前のお陰で、酷い目に遭っているわよ、鳴智」

 

 朱姫がそう言いながら、鳴智の股間に杯の液体をかけたのが見えた。

 

「な、なにをする。や、やめんかあ」

 

 鳴智が喚く。

 声は女だが口調は男だ。

 さらに、朱姫はふたつの乳首にもかけている。

 蟻の好きな匂いの液体が鳴智の身体を伝わって、地面にも滴り落ちている。

 

 あっという間に、蟻が集まって、地面に黒い塊を作った。沙那は見ているだけでぞっとした。

 そこから続々と蟻が鳴智の身体を這いあがっていく。

 

「うわあああ、や、やめてくれええ、ひいいいい」

 

 鳴智が絶叫してもがき始めた。

 その鳴智の脚をどんどん大量の蟻が這いあがる。

 鳴智がさらに発狂したような声をあげた。

 もう鳴智の股間が蟻で真っ黒だ。

 朱姫は、鳴智から離れて、こっちに来る。

 

「あ、あの、ご主人様……」

 

 朱姫が卓に杯を戻しながら言った。

 一方で、鳴智の狂ったような悲鳴が辺りに響きわたる。

 

「ああ、いいよ。沙那」

 

 宝玄仙が沙那を見た。

 ほっとした。

 沙那は、朱姫を呼び寄せた。

 

「はい、ご主人様……。さあ、朱姫、こっちにおいで」

 

「ちょっと、待ったああっ」

 

 しかし、その朱姫の肩を孫空女ががっしりと掴んだ。

 沙那は、朱姫のお尻を責めようとした手をとめた。

 

「ねえ、朱姫――。ところで、お前、あたしのこと本当はどう思っている?」

 

「ど、どう思っているって……」

 

 不意にそんなことを言われても、朱姫も戸惑っている。

 沙那も困惑した。

 だから朱姫の肩に加わる孫空女の手の力が大きくなるのがわかった。

 

「強いだけの単純馬鹿だって思ってないかい、朱姫……?」

 

 孫空女が言った。

 朱姫は怪訝な表情になる。

 一方で、沙那はあのことかと思った。

 そう言えば、雷王が朱姫の中に入っているとき、朱姫の心を読んで、朱姫が孫空女をそんな風に評価していると口走ったのだ。

 もしかして、孫空女は、それを根に持っているのだろうか?

 

「そ、そんなことは、孫姉さん……」

 

 朱姫は否定しているが、明らかに顔がひきつっている。

 沙那はふたりの顔を見て苦笑した。

 孫空女も怒ってはないようだが、多少は朱姫に仕返ししたいみたいだ。

 まあ、沙那とは違い、孫空女も宝玄仙同様に、朱姫に入った雷王に散々に痛めつけられた。

 朱姫ではないといっても、理屈じゃないのかもしれない。

 まあ、孫空女なら、宝玄仙の責めよりもましなはずだ。

 沙那は、朱姫から身体を引いた。

 

「ご主人様、沙那……、悪いけど、朱姫を苛める役はあたしがやるよ」

 

 孫空女が言った。

 宝玄仙は笑っている。

 

「おいで、朱姫。尻を出すんだよ」

 

 孫空女が朱姫を前屈みにさせて、お尻を後ろに突き出させる。

 その尻に孫空女の手がかかる。

 

「単純馬鹿だけど、単純なりに、どうやって仕返しをするか考えたんだよ、朱姫」

 

 孫空女の指が朱姫の肛門に突き挿された。

 しかし、小指だ。

 これだと、それなりに快感が走るだろうが、刺激が小さいはずだ。

 むしろ、朱姫はかえって、淫情を拡大させてしまうんじゃないだろうか。

 そして、やはり朱姫が、腰をもじもじも動かしだす。

 

「そ、孫姉さん……、こ、これって……?」

 

 朱姫のお尻は物欲しそうに動いている。

 

「小指だよ。小指。でも、あたしの小指は小さいからね。こんなんじゃあ、朱姫はいけないかもしれないけど、一生懸命、そうやって、お尻を振り続ければ、いつかはいけるかもしれないよ」

 

 孫空女の強い力ががっしりと朱姫を掴んだ。

 

「ああっ……。そ、そんなあ……」

 

 小指は朱姫が求めている刺激としては、遥かに及ばないものしか与えないのだろう。

 朱姫が、なんとかして、そこから快楽をむしり取ろうと、懸命にその小指に臀襞を擦りつけはじめたのがわかった。

 

 

 

 

(第15話『幽霊王の依頼』終わり)






 *


【西遊記:36~39回、青獅子(幽体の王の依頼)】

 烏鶏(うけい)国の国都に近い宝林寺(ほうりんじ)にやって来た玄奘(三蔵法師)一行は、一夜の宿を求めようと考え、まずは玄奘のみが寺院を訪れて宿を乞います。
 しかし、玄奘の貧相な姿を蔑み、寺の者たちは玄奘を門前払いします。
 戻ってきた玄奘から、その顛末を聞いた孫悟空は激怒し、寺院に殴り込みをして制圧し、強引に玄奘を歓待させます。

 その夜、寺院に泊まっている玄奘の前に烏鶏国の国王の雷王(らいおう)と称する幽霊が現れ、国都にいる国王は青獅子という妖魔が化けている偽者であり、自分は青獅子に殺されたのだと語ります。
 そして、自分が本物である証拠として、国王に代々伝わっている「白玉の珪」という宝物を示して、玄奘に渡します。

 翌朝、玄奘は孫悟空に調査を指示するとともに、宝物を手渡します。
 孫悟空は、国都に赴いて王太子の光に会って宝物を見せます。王太子は、孫悟空の話を信じ、王が偽者であることを納得するとともに、孫悟空に助力を乞います。

 一方、寺院では、玄奘の命を受けた猪八戒が、井戸から本物の雷王の遺体を引き揚げることに成功し、さらに国都から戻った孫悟空が、仙薬で雷王を生き返らせることに成功します。

 雷王とともに、国都に戻った孫悟空は、王太子と協力して、国王の偽者である青獅子を退治して、王宮から追い出します。

 しかし、そこに文殊菩薩が現れ、実は一連の騒動は、かつて、貧僧に化けた文殊菩薩を雷王が水責めにした罰だったと教えられます。
 青獅子は、文殊菩薩に引き取られ、雷王も罪を許されることになります。
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