気がつくと、誰かの膝の上に抱かれていた。
まるで遠い昔に、母親の膝にいたときのときのようだと沙那は思った。
沙那の母は、沙那が幼い頃に死んだ。
だが、その母の温もりだけは沙那の記憶にはっきりとあった。
しかし、自分を優しく抱いているのが、宝玄仙だと気がつくと、沙那は驚愕した。
「動くんじゃないよ、沙那……。いま、『治療術』を施している。よくも、こんなに沙那を壊してくれたものだよ…」
「ご、ご主人様……」
「お前も、お前だよ、沙那。このわたしの隠れている場所を白状しろと、ずっと拷問されていたそうじゃないか。そういうときは、さっさと言うんだよ。あんなに可愛い顔が、こんなになるまで頑張るんじゃないよ……。まあ、もうすぐ元に戻るけどね……」
宝玄仙が沙那を抱く力に力が入る。
「……た、助けに来てくれると信じていましたから」
沙那はそれだけを言った。
全身が温かいもので包まれている。
宝玄仙の霊気が沙那の全身を充満しているのだ。
感覚のなかった顔の半分に、気の流れを感じることができる。
ふと見ると、手の先と脚の先も元の白い肌に戻っている。
そして、どうやらここは、まだ牢の中のようだ。
周囲は暗い。
夜なのか……?
だんだんと意識もはっきりしてくる。
「ご主人様、いまどういう状況ですか──?」
沙那は宝玄仙に抱かれたまま声をあげた。
「朱姫が『縛心術』で、一時的にこの牢舎の中の連中を無力化した。ただ、強引に入り込んだので、ここが占拠されていることをもう知られていて、外を兵が囲んでいる状況だ」
宝玄仙が言った。
沙那は、宝玄仙の腕の中で身体を起こした。
「孫女は?」
「外だ──。この牢舎に殺到した兵を孫空女が防いでいるけど、ひとりじゃあ幾らも持たないかもしれないね。『結界術』で飛びたいけど、この牢舎全体に『逆結界』がかかっていて、一度、牢舎の外の営庭まで行かなきゃならないんだ。立てるかい、沙那?」
拷問をされていた取調室のある牢舎は軍の詰所の真ん中にあるのだ。
脱出が遅くなれば、牢舎に兵が雪崩れ込んでしまう。
急がなければ──。
「わたしも戦います、ご主人様」
沙那は完全に身体を起こした。
もう、身体は快復している。
これなら戦える。
「無理はしなくていいよ、沙那。お前はたったいままで死にかけていたんだ」
「平気です――」
沙那は立ちあがって、とにかく牢の外に出ようとした。
そこに朱姫がやって来た。
手に沙那の服と細剣を持っている。
この牢舎の倉庫にでも保管されていたものだろう。
「ああ、沙那姉さん、よかった──。顔も元通りですね。最初はびっくりしました」
朱姫が沙那の服を差し出す。
それを急いで身につけながら、沙那は朱姫を見た。
「朱姫、片目に眼帯をした女はいなかった?」
「片目に眼帯……? ああ、いましたね。あの偉そうな女将校ですよね。ほかの兵と同じように眠らせていますけど」
「連れてきて。一緒に隠れ処に連れていきたいのよ」
沙那は言った。
「連れていってどうするんだい、沙那?」
宝玄仙が微笑みながら口を挟んだ。
「この沙那にも、ご主人様に劣らぬ嗜虐ができるということを皆さんにお見せします」
沙那は言った。
あいつ、ただで済むものか──。
絶対に同じ目……いや、あれ以上の拷問にかけてやる──。
正面の朱姫が驚いた顔になる。
「行きましょう」
とりあえず、沙那は宝玄仙とともに牢を出て、牢舎の出口に向かった。
朱姫は途中で離れた。
沙那の注文通りに、黒夜叉を連れてくるのだろう。
駆けている途中で、ところどころに、廊下で眠っている兵がいた。
すべて、朱姫や宝玄仙の『縛心術』だろう。
牢舎は、囚人の逃亡を防ぐために出入り口が一箇所しかない。
その唯一の出口の外で孫空女が戦っていた。
「孫女──」
沙那は叫んだ。
「沙那、大丈夫かい──」
孫空女が一瞬だけ、こっちを一瞥して、すぐに前を向いて如意棒を振るだす。
相変わらず、孫空女の戦いは凄い。
殺到する兵をひとりひとり打ち倒すんじゃない。
如意棒のひと振りで、五人、十人と一気に吹っ飛ばしている。
それを続けているのだ。
飛んでくる矢だって、如意棒を風車のように回転させて、全部弾き飛ばしている。
また、孫空女の周りには、孫空女の『如意棒』で打たれた兵が山のように転がっていて、孫空女、その倒れた兵を積み重ねて壁のようにして、向かってくる槍や矢を防いでもいる。
沙那は兵の詰所にあった大きな机を両手で担いで、牢舎の外の営庭に押し出した。
そして、それを立てる。
「ご主人様、ここで脱出用の移動術の道術紋を刻めますか?」
沙那は細剣を抜いた。
「大丈夫だよ、沙那。すぐ終わる」
沙那は宝玄仙のその言葉を確認すると、剣を抜いて、孫空女の横に出た。
襲いかかってきた敵兵を次々に倒しまくる。
十人ほど倒すと、敵の兵の波がさがっていく。
ひと息つく。
「沙那、平気?」
孫空女が叫んだ。
いまは、孫空女に向かってくる兵はおらず、遠巻きに囲んでいる状況だ。
「顔半分を壊され、手を足の骨を砕かれて、右腕を焼かれたわ。でも、このとおり、ご主人様の治療術で元通りよ……。ご主人様がいてくれてよかったわ」
沙那は、孫空女の横に並んだ。
「実は、ご主人様がいなければ、こんな苦労もないんだけどね」
「でも、わたしは、ご主人様を守りたいの」
沙那は言った。
本心だった。
すると、孫空女が沙那に顔を向けて微笑んだ。
「お前たち、準備はいいよ」
背後の宝玄仙だ。
振り返ると、朱姫の連れてきた黒夜叉もいる。
黒夜叉の片眼は虚ろだ。
『縛心術』がかかっている状態なのだろう。
朱姫の『縛心術』は、霊気を帯びていない人間にもかけられることはできるが、効果は限定的だ。
だが、黒夜叉のように逆に霊気を帯びる術遣いや妖魔の場合は、却って術をかけやすいらしい。
しかも、一度かかってしまえば、霊気を帯びていない人間にかけるときとは違い、余程のことがなければ呪縛から脱出できないということだ。
ほとんど、術者である朱姫の言いなりの人形になるのだ。
いまの黒夜叉も、意識はあるが、朱姫の術により周りの状況を認識できない状態だろう。
沙那は、孫空女とともに宝玄仙の元に走った。
遠巻きだった兵が、沙那たちの逃亡の兆候に気がついたのか、慌てたように向かってくる。
しかし、もう遅い。
宝玄仙、次いで、朱姫と黒夜叉が、道術紋に入って、『移動術』でどこかに跳んだ。
そして、沙那と孫空女もそこに飛び込んだ。
*
黒夜叉は、眼の前で沙那が、黒夜叉が着ていたものを身に着けるのをただじっと見ていた。
土に埋められた木の柱に直立の姿勢で縛られた黒夜叉の裸身は、一切身動きできず、黒夜叉は、沙那のすることを見守る以外のことができなかった。
「軍服というのはなかなかいいものね、黒夜叉。ありがたく貰っておくわ。衝陽国の紋章と階級章を剥がせば十分に使えるわ。下着もありがたく貰うわね。もっとも、胸当ては少し小さいから雑巾にでも使うわ」
ここは、どこかの洞窟の中のようだ。
洞窟の入り口はずっと遠いらしく、洞窟の外の様子はわからない。
だから、いまが、昼なのか夜なのかも知る手段はない。
灯りは、黒夜叉の背後に照明具が置かれていて、黒夜叉の周りを照らしている。
そういう場所で、黒夜叉は全裸にされて、洞窟の外を見るように、柱を背に後ろ手にされて全身を縛られていた。
「お前のやったことは忘れていないわよ、黒夜叉。ところで、わたしの怪我はご主人様が治してくれたけど、『治療術』はかなりの高度な道術だから、衝陽国には、お前が顔を焼かれても直してくれる術遣いはいないわよね」
沙那は、手に松明を持っている。
黒夜叉は口をつぐんでいた。
沙那の言ったことは本当だ。
『治療術』という道術は、聞いたことはあるが、接したことはない。
もちろん、黒夜叉にも遣えない。
眼の前の沙那は、煮えた油で顔半分を損傷させ、手足の骨を全部砕かせた。
しかし、いまは、その痕跡もなく元通りに動きまわっている。
大した術だ。
「……だから、残酷な仕返しをするというのは、不公平だと思うのよね。だから、ここにしばらく監禁するだけにしてあげるわ。それとも手足の骨を砕いて、顔の半分を焼いてすぐに解放するというのでもいいわ。どちらがいい、黒夜叉?」
黒夜叉は黙っていた。
城郭の中の牢舎の前から『移動術』で転送したときには、この沙那だけではなく、宝玄仙とほかの供ふたりもいた。
ただ、転送が終わると、再び意識を失わされ、気がつくと、この洞窟の中の柱に全裸で拘束されていたのだ。
沙那が黒夜叉の乳首を捩じりあげた。
「ひぎいっ―――。痛いっ」
黒夜叉は、激痛に悲鳴をあげた。
「質問しているのよ。答えなさい。ここに、しばらく監禁されるのと、手足と顔の半分を壊されてすぐに解放するのかどっちがいいの? わたしたちは、しばらく、ここに滞在するわ。どちらでもいいわ」
沙那は、黒夜叉の乳首をつねり続ける。
「痛いっ……痛いっ――。ち、畜生、さっさと手でも足でも、顔でも壊せえっ」
沙那が乳首を離した。
「馬鹿ねえ、黒夜叉……。こんな乳首くらいで、悲鳴をあげていたら、顔を焼かれる痛みはもっとすごいわよ……。じゃあ、ここに監禁にしてあげるわ。一日に二度、水と食べ物を持ってくるわ。わたしか、孫空女か、朱姫という者が持ってくる……。持ってきた者に、なにかを言いなさい。その言葉が適当な言葉だったら、お前を解放するわ」
「なにを言えばいいのよ、沙那」
言葉が適当なら開放する?
意味がわからずに、黒夜叉は思わず問い返した。
「自分で考えなさい、黒夜叉……」
乳首をまたつねって黒夜叉に悲鳴をあげさせると、沙那は洞窟を出ていった。
黒夜叉は、たったひとりで残された。
*
「黒夜叉の様子はどう、朱姫?」
交替で番をしていた朱姫に沙那は声をかけた。
沙那は、黒夜叉のための食事を盆に載せていた。
「昨日までは、洞窟の外に向かって喚いてましたけど、今日は静かです。もう、三日目ですから、かなり弱っているみたいですよ、沙那姉さん」
朱姫がいるところは、黒夜叉を拘束している洞窟のすぐとなりの洞穴だ。
沙那と孫空女と朱姫で、ここで黒夜叉を見張っている。
主要な役目は、拘束している黒夜叉を狙って洞窟に入ってくる猛獣の類いを追い払うことだ。
ここは、衝陽国の城郭都市に近い山中だが、人里離れた場所であるうえに、道から随分を離れているので、偶然にここを人が通る可能性よりも、黒夜叉を餌にしようする動物の方が危ないのだ。
「孫姉さんはどうしています、沙那姉さん?」
「ご主人様の相手をしているわ。今日から数日は、見張りはわたしがやるわ。孫空女のところに行ってあげて、朱姫」
沙那がそう言うと、朱姫は蒼い顔をした。
「あ、あたし、あの黒夜叉の見張りでいいです。ここで十分に寝られますから」
宝玄仙と三人の供が寝泊りをしている洞窟は、ここから少しだけ離れた場所にある。
そこは、かなり広いし、宝玄仙の結界があるので、快適に過ごすことができる。
「わかっているわよ。孫空女も同じことを言っている。でも、ご主人様の相手をする負担は公平でいましょう。また、こっちの見張りに回してあげるから」
宝玄仙の相手と言えば、宝玄仙の被虐趣味の相手に決まっている。
また、この場所に留まって動かないのは、別に黒夜叉をいたぶるためだけが目的ではない。
教団の追及をかわすため、しばらく、ほとぼりを覚めるまで、一時的に旅をやめる必要があったのだ。
沙那が衝陽国で捕えられたことにより、宝玄仙の正確な居場所が教団に知られてしまった。
教団は宝玄仙の行方を捕えようと、多くの情報網をこの付近に集中させるだろう。
だから、このまま進んでは、旅の経路が特定されてしまう。
従って、しばらくは、ここに留まって、教団の目をかわすのが一番いい。
沙那の判断だ。
基本的には、この手の沙那の判断に、ほかの者が異を唱えることはない。
ただ、その代わり、宝玄仙の退屈を紛らわすため、宝玄仙の被虐趣味の相手をしなければならない。
宝玄仙の責めは激しいので、ある意味、拷問と同じだ。
とにかく、しつこいのだ。
また、いくら責めての翌日の旅に影響しないとわかっていれば、責めはさらに過激になる。
宝玄仙のいる洞窟にいれば、当然、そうなるが、黒夜叉の見張役でここにいる者はそれを免れるのだ。
朱姫も、孫空女も、宝玄仙の相手をするよりは、ここで退屈な見張りをすることを熱望した。
「だったら、一日交替にしましょうよ、沙那姉さん。沙那姉さんがここで数日なんて、狡いですよ。一日交替にしましょうよ。どうせ、半月はここに留まるんですよね。お願いですよ」
朱姫が沙那に向かって、手を合わせた。
「だって、あいつに恨みがあるのはわたしなのよ。わたしがけりをつけたいわ」
「沙那姉さんの指示に従います。この二日、言われたとおりに、どんなに黒夜叉が喚いても、放っておきましたよ。あいつの叫んでいたことによれば、半日に一度、食事を与えることになっていたのですか?」
「そうよ、朱姫。いいわ、じゃあ一日交代ね。とにかく、ここで待っていて。少し、黒夜叉の様子を覗いて来るわ」
「はい」
沙那は、食事の入った盆を持って、黒夜叉のいる洞窟に入った。
黒夜叉は、柱に縛られたままぐったりとしていて、死んだようになっていた。
足元には黒夜叉の垂れ流した尿で汚れている。
黒夜叉が死んではいないのは、沙那が入っていくと、顔をあげたことでわかった。
その顔には目隠しをしている。
黒夜叉は片目だが、その片目を使って術を遣うらしい。
目隠しをしている限り、黒夜叉は術を遣えない。
宝玄仙がそう言っていた。
沙那は、腰にぶら下げていた鎖を黒夜叉の足元に投げた。
「だ、誰?」
黒夜叉は叫んだ。
「沙那よ」
そして、最初に黒夜叉の首に鉄の首輪を嵌める。
次にその首輪に鎖を繋いで柱をひと巻きする。宝玄仙に借りた霊具だ。
簡単な拘束だが、これだけで逃亡は不可能になるらしい。
沙那は、柱に縛っていた黒夜叉の縄を解いた。
ただし、後ろ手に縛った縄はそのままだ。
黒夜叉の口に革の水筒を咥えさせると、黒夜叉はむさぼるように中の水を飲んだ。
次に、水筒から口を離した黒夜叉の前に、沙那は皿に載せた食事を置いた。
汁も肉も野菜も飯もごちゃまぜにしたものだ。
後ろ手に縛られた黒夜叉は、犬のように口で食べるしかない。
だが、黒夜叉は、すぐには食事に口をつけようとはせず、沙那にすがるような表情を向けた。
「……あ、あなたを捕えて……拷問して申し訳ありませんでした……。謝罪……します」
黒夜叉は、苦しそうに言った。
三日間も立ったまま縛られていたのだ。
水もほとんど飲ませてなかった。
かなり衰弱が激しい。
体力もほとんど、残っていないだろう。
「なによ、それ?」
沙那は、わざとらしく言った。
「あ、あなたが言ったことよ……。わ。わたしが……適切な言葉を言えば……解放するって」
「覚えているわ、黒夜叉。でも、わたしは、謝罪の言葉なんて、聞きたくないわ」
「じゃ、じゃあ、なにを言えばいいのか……教えて」
「自分で考えるのね」
本当は、別になにを喋っても解放する気はない。
ただ、希望を抱かせているだけだ。
希望を抱かせては、それを潰す。
それを続ければ、最後には、人は屈服する。
黒夜叉の顔が苦痛に歪んだ。
「食べなさい、黒夜叉」
沙那は皿を押しやって、皿の位置を黒夜叉に教えた。
黒夜叉は、皿の中のものに口をつけた。
「……あなたに渡す食事を忘れていたのは、わざとじゃないわ。わたしたちのいる場所は、ここからかなり離れているの。それで交替であなたの世話をすることになっていたんだけど、わたしがちゃんと説明しておかなかったから、食事を渡さなければならないことを朱姫が知らなかったのよ。ごめんなさいね……」
沙那は淡々とした口調で言った。
黒夜叉はひと言も発しない。
一心不乱で犬食いで食事を続けている。
「……もう大丈夫よ。これからは半日ごとに、食事を持ってくるわ。おそらく、また、朱姫になると思う。半日考えて、わたしたちの気に入る言葉を口にすることができれば、解放するわ……。約束する」
沙那は立ちあがった。
そして、壺を丸太の横に置いた。
「これは便壺よ。排便はこれにしてね、黒夜叉。柱の横にあるわ。手探りでも使えるでしょう?」
すると、黒夜叉の顔が皿からあがった。
その顔は蒼い。
「便壺って……。お、お前……わ、わたしを何日、ここに居させる気よ?」
「あなた次第よ。半日後に朱姫が来るわ。それまでに、なにを口にすれば解放されるのか、考えるのよ」
沙那は立ちあがった。
背後から黒夜叉がなにかを叫んでいるが、沙那は振り返らなかった。
朱姫の待っている洞穴に戻った。
「もういいわ、朱姫。孫空女のところに行ってあげて。孫空女も大変よ」
「はい」
朱姫は渋々という感じで立ちあがった。
「沙那さんの分の食事は運んできますね。それから、あの黒夜叉の分はどうします?」
「必要ないわ。次は二日後よ。泣いても喚いても、絶対にわたし以外の者が、あの洞窟に入っては駄目よ。孫女にも言っておいてね」
沙那は言った。
*
「そ、孫女、あ、あいつの様子は……?」
沙那は股間の疼きに耐えられず、食事と水を載せた盆を置いて、孫空女の前にうずくまった。
「なにか、喚いていたね。朱姫の名前呼んでいたけど、食事を朱姫が持っていくことになっていたのかい、沙那? ところで、大丈夫?」
「だ、大丈夫よ。一刻(約一時間)だけ、抜けることを許されたのよ……。お、遅れれば、罰が与えられることになっているの。本当に、もう、あのご主人様ったら……」
沙那は、うずくまったまま呼吸を整えた。
沙那の肉芽には、宝玄仙に被せられた『振動片』が張られていて、ほんの微かな動きを続けている。
宝玄仙の許した時間以内に戻らなければ、その『振動片』が暴走することになっている。
「朱姫は?」
「朱姫は、ご主人様にいたぶられている最中よ。朱姫のお尻の穴を大きくするって、ご主人様は言っている。少しずつ、大きな張形に変えながら、責められ続けているわ。朱姫も、いまは半狂乱よ」
「お尻の穴って大きくなるの?」
孫空女が眉をひそめた。
「なるわよ。わたしも、最初の頃にやられたことあるもの……。あなたが供に加わる少し前よ。かなり大きなものを受け入れられるようになるわよ。たとえば、こんなの……」
沙那は、にやりと孫空女に微笑んでから、拳を握った腕を見せた。
孫空女が引きつっている。
沙那はその顔がおかしかった。
「だ、大丈夫よ……。しばらくすれば、元に戻るわ。開きっぱなしで大きなままにはならないから……。それに、壊れても、ご主人様が治してくれるわよ。朱姫にやっているくらいだから、あんたが戻れば、あんたのお尻にも始め出すんじゃない?」
「い、いいよ。そんなの」
孫空女が蒼くなった。
沙那は、黒夜叉のいる洞窟に入っていった。
拷問側の人間が弱っているところを見せては台無しだ。
沙那は、宝玄仙に責められている途中であることを隠すように努力した。
「……朱姫がまた、食事を忘れたようね。ごめんね。彼女はこういうことにはなれていないのよ」
沙那は、黒夜叉の前に行くと、満水の革袋で水を飲ませながら言った。
黒夜叉は、沙那が口に入れた革袋の水をまたむさぼるように飲む。
「……しゅ、朱姫にちゃんと言っておいてよ、沙那」
水筒から口を離した黒夜叉は言った。
「でも、たった、一食分だけでしょう。こうやって、持ってきたじゃない」
「一食分?」
黒夜叉は不審顔をした。
ここに拘束されている黒夜叉には時間の感覚はわからない。
沙那がやってくる感覚で時間の経過を知るだけだ。本当は二日経っているが、半日しか経っていないと言われれば、それを確かめる手段はない。
「そ、それよりも、あなた方が知りたいと思っていることを言うわ。だ、だから、解放して」
「言ってみれば?」
沙那は言った。
黒夜叉は、自分の知る限りの教団や東方帝国から回ってきた手配書に関する内容を教えた。
黒夜叉の語った話によれば、情報をもたらした人間にも、身柄を差し出した国にも、教団と東方帝国のそれぞれから高額の賞金が支払われることになっているようだ。
そもそも、城郭で沙那が捕えられたのも、沙那の手配書を見た商人の密告によるものだったようだ。
東方帝国と天教教団からの宝玄仙の捕縛命令への対応は、国によりさまざまのようだが、多くの国が、一般市民にも懸賞金付の手配書を回しているらしい。
少なくとも衝陽国ではそうしていたようだ。
「食事は置いていくわ、黒夜叉」
沙那は、二日前に与えて空になっている食事の皿と、便壺を回収した。
便壺には、尿しか入っていなかった。
「ま、待って、沙那。教えてよ。なにを言えばいのよ。もう、なんでも話すから」
沙那が食事の皿を置き、新しい便壺を柱の横に置くと、黒夜叉は焦ったように叫び始めた。
沙那は、洞窟を後にした。
早く戻らなければ、宝玄仙がうるさい。
*
五日ほど、不規則な食事の運搬を続けた。
丸一日開けることもあれば、日に四度運ぶこともある。
黒夜叉はかなり弱ってきた。
排便は下痢状だった。
黒夜叉が肉体だけでなく、精神的にもかなり弱っていることがわかる。
前回から丸一日後にやって来ると、黒夜叉の衰弱が激しいように感じた。
かなり制限した食事しか与えていない。
水も生命を保てるのに必要な最小限度だ。
これ以上体力を削ぐことは、死に至る可能性があり難しい。
そろそろ、次の段階に入ってもいいだろう。
洞窟に燈台を置いた。
黒夜叉は、相変わらず後手に拘束した全裸姿で、鉄の首輪を鎖で柱に繋がれている。
横になって眠っているようだ。
沙那がやって来ても起きなかった。
沙那は悪臭のする便壺を外に出し、新しい便壺を同じ場所に置いた。
そして、目隠しをした状態のままだった黒夜叉の身体を準備していた水と布で拭きはじめた。
黒夜叉はびくりと身体を反応させた。
「……さ、沙那なの……?」
黒夜叉の弱々しい声――。
沙那は黙って、黒夜叉の身体の汚れを拭き続ける。
「沙那なんでしょう? ねえ、違うの?」
黒夜叉の声に悲痛なものが混じっている。
「そうよ、黒夜叉。半日ぶりね」
「半日……」
黒夜叉はほっとした顔をした。
もはや、黒夜叉には、自分で時間を感じる能力は残っていない。
それは、完全に破壊されているはずだ。
沙那が半日といえば、半日であり、三日と言えば、三日と思うだけだろう。
黒夜叉がほっとした顔をしたのは、時間を知ることのできた悦びだ。
「……ねえ、教えて沙那。いまは、昼間なの夜なの?」
「お前がそれを知る必要はないわ。それよりも、これでお別れかもしれないわ」
「お別れ?」
黒夜叉の顔に恐怖が映った。
「ご主人様が、もう出発したがっているわ。あなたのことは放置して捨てていけと言っているのよ。わたしは、そんなことはしたくないと思っているんだけど……」
それは嘘だった。
単に、黒夜叉の不安を増大させようとするために言ったことだ。
だが、この言葉に黒夜叉は劇的に反応した。
「お願い、沙那。捨てていかないで。なんでもするわ。なんでも教える……。そうだ。衝陽国の警備態勢について言うわ。越境して、西の
黒夜叉は、勝手に衝陽国と隣国の大殷国の警備態勢について喋りはじめた。
一応、沙那はそれを頭に刻んだ。
出発は、まだ先のことになるが、これはかなり役に立つ情報だ。
「目隠しをとるわ、黒夜叉。でも、それで、お前の得意の『幻術』を遣ったら終わりよ。お前は、ここに捨てるわ」
「遣わないわ、沙那」
黒夜叉の顔に嘘は混じっていない。
もう、沙那に逆らう気は消え失せたようだ。
沙那は目隠しを取り去った。
黒夜叉が顔をしかめる。
燭台の弱々しい光だが、十日近くも目隠しをしていた黒夜叉には眩しい光なのだろう。
「……あ、熱いわ、身体が、沙那」
身体を拭かれ続ける黒夜叉が甘い息を吐きながら言った。
当然だ。さっきから拭いている水は、宝玄仙に分けてもらった媚薬が溶かされている。
それで身体中を濡らしているのだ。
黒夜叉の身体は火照りきるはずだ。
「ずっと裸のお前の身体が冷え切らないようにしているのよ」
沙那は言った。
「そ、そうなのね……」
黒夜叉が身体をくねらせ始める。
媚薬の効果が出始めたようだ。
沙那が黒夜叉の股間を拭いたときには、腰を激しく震えさせた。
「じっとしてなさい、黒夜叉」
「だって……。これ、おかしいわ。おかしな水でしょう?」
「ただの保温水よ。もしも、これで感じるようなら、お前が悪いのよ、黒夜叉」
「わたしが悪い?」
「そう、この水に感じるのは、お前が悪いの」
「わたしが悪い……」
黒夜叉は呟いた。
身体を拭き終った沙那は、黒夜叉の前に食事を置いた。
空腹のはずだが、黒夜叉は皿の食事に口をつけようとしなかった。
「食べなさい」
すると、黒夜叉は食べ物に食らいついた。
*
半日後、沙那が洞窟に顔を出すと、黒夜叉が破顔した。
「さ、沙那、来てくれて嬉しいわ」
「次は、来られるかどうか、わからないわ」
沙那はそう言った。
黒夜叉の身体は上気しきっていて、全身には大量の汗をかいている。
「まずは、水ね」
沙那は水の革袋を黒夜叉に咥えさせた。
中は水だが、無味無臭の媚薬も入っている。
それを黒夜叉はむさぼるように飲んでいる。
水を与え終ると、沙那は黒夜叉の身体を拭き始めた。
例の水だ。黒夜叉は堪らず悶えはじめた。
「動くんじゃないわよ」
「だって……お願いよ、沙那……」
「なにをお願いしているの……?」
沙那は黒夜叉の乳房を丹念に拭く。
黒夜叉は、悩ましく声を出しながら悶え続ける。
そして、沙那が黒夜叉の股間を拭き始めると、期待を込めた嬌声を出し始めた。
だが、沙那は、機械的に拭くだけの行為しかせず、全身を拭き終ると、食事を黒夜叉の前に置いた。
「食べなさい、黒夜叉」
「ねえ、沙那……」
黒夜叉が、うるうると沙那を見る。
その眼は明らかに欲情しきった雌の眼だ。
「なによ?」
「……あ、愛して」
「愛する?」
「お願いよ。媚薬を使ったのは知っているわ。でも、それは、沙那がわたしを愛してくれようとしているからじゃないの? お願い、わたしの身体を弄って。ぐちゃぐちゃにして」
黒夜叉は叫んだ。
「嫌よ」
沙那は冷たく言った。
「えっ?」
黒夜叉が悲痛な表情になる。
「お前は、わたしになにをしたか忘れたの、黒夜叉? わたしは、お前が嫌いよ――。さあ、食べなさい」
沙那は、食事の入った皿を黒夜叉の前に、さらに押しやった。
*
さらに半日後、沙那は黒夜叉の様子を見にいった。
黒夜叉が期待を込めた表情をした。
「わたしは、お前が嫌いよ。自分がなにをわたしにしたか、思い出しなさい」
それだけを言った。
黒夜叉は、悲痛な表情をした。
*
その半日後、沙那は同じことを繰り返した。
媚薬浸けにされた黒夜叉の眼が常軌を逸しているのはわかった。
*
それから沙那は、丸一日、黒夜叉の入った洞窟には行かなかった。
それどころじゃなかったのだ。
宝玄仙の地獄責めで、半日以上動くこともできなかった。
そして、宝玄仙がやっと嗜虐癖を満足させ、安らかな眠りについても、その相手をしていた沙那は、圧倒的な官能の余韻に浸り、孫空女とともに死んだように横になっていた。
半日ほど休み、やっと気だるさから解放され始めた頃、黒夜叉を見張っていた朱姫が飛び込んできた。
「黒夜叉の様子がおかしいです、沙那姉さん――」
朱姫は言った。
宝玄仙がこっちを見る。
「黒夜叉っていうのは、沙那を拷問した例の女将校かい? そういえば、沙那が監禁して調教していたんだったね」
宝玄仙が口を挟んだ。
「調教ではなく洗脳です、ご主人様……。わたしたちに対する敵対心を完全に消滅させて、逆に、わたしたちに対する奴隷精神を植え付けて解放するつもりです」
「ほう? 道術の縛心術も使わずに、どうやって人の心を変えるんだい、沙那?」
宝玄仙が言った。
「まず、監禁して、食事と水を最小限にして、体力と気力を奪いました。それとともに、外の情報を一切遮断して、時間の感覚を失わせ、そして、外敵刺激に対する飢餓状態にしました。それで、黒夜叉はわたしに対する強い精神的な依存を抱くようになりました。なにしろ、監禁されて与えられる情報も、刺激も、食事も、すべてわたしからしか与えられていないのですから」
「なるほど、それで?」
「同時に解放されるかもしれないという望みを与え、それを潰しました。助けがくるわけがないことは、黒夜叉も最初に悟ったと思いますから、黒夜叉には、なにかを喋れば解放するという条件をちらつかせました。黒夜叉は、さまざまなことを喋りましたが、わたしはすべてを否定しました。黒夜叉は、いまは解放されることを要求しなくなっています」
「面白いねえ。それで、どうなっているんだい、いまは?」
「わたしに対する依存心と好意は、かなり、深くなっています。次は、黒夜叉を全否定をする段階です。黒夜叉の存在価値、そのものを否定し続けます。最終段階には、空っぽになった心に、わたしたちの愛情を注ぎ込むことになります」
「なんか、難しくなってきたねえ……」
宝玄仙が眉をひそめた。
沙那はとりあえず、話を続けた。
「それで、黒夜叉は、わたしたちへの服従心が刻み込まれます。数日後になると思いますが、黒夜叉をここに連れてきて、性の相手をさせるつもりです。愛情を注ぐというやり方にはいろいろありますが、肉欲の要求への対応はもっとも有効な手段で……」
「媚薬は使っているんだったね、沙那?」
宝玄仙が口を挟んで、にやりと笑った。
「使っています」
「会陽で書物をたくさん読んだだけあって、言い回しがくどいけど、手っ取り早く言えば、つまりは、あの片目を色責めにして、心を作りかえようというのだろう、沙那?」
「洗脳です。敵であるわたしたちを心から奉仕する対象に認識をすり替えます。単なる性欲の解放だけではできません」
「どうでもいいよ。とにかく、もう、連れてきな。この宝玄仙が相手をしてやるよ」
宝玄仙が言った。
「それどころじゃありませんよ、沙那姉さん。黒夜叉が大変なんです。とにかく、来てもらえればわかります」
朱姫が言った。
沙那は立ちあがった。
ふと、孫空女を見たが、起きあがる状況ではない。
とりあえず沙那は、宝玄仙とともに、朱姫についていった。
黒夜叉を監禁している洞窟に入る。
沙那は驚いた。
顔の半分を血だらけにした黒夜叉がいた。
そばの丸太が血だらけだ。
自分で丸太に顔を打ちつけたのは明らかだ。
「沙那……。沙那ね」
顔の半分から血を滲ませた黒夜叉が沙那を認めて嬉しそうに微笑んだ。
ふと見ると、手足の向きがおかしい。
手首と足首の骨が折れている。
「黒夜叉、お前、その顔と手足は自分で傷つけたの?」
「そうよ、沙那。あなたにやったのと同じことをわたしもしたのよ。顔も自分でやったのわ。手足も自分で折った。だけど、縛られているわたしには、ここまでしかできない。煮えた油をくれれば、自分でかける。だから、お願い、沙那、わたしを愛して――?」
黒夜叉は言った。
その表情には、狂気の色がある。
全身が媚薬により火照りきっているのは、ひと目でわかる。
その股間からは、哀れなくらいの大量の愛液で溢れ、それが内腿に滴っている。
あれだけ欲情すれば、もう正常な思考はできないだろう。
その淀んだ思考の中で、黒夜叉が考えた結論がこれだったのだ。
「驚いたねえ。お前の洗脳とやらは、思った以上に進行していたようだよ」
宝玄仙は小さな声で言った。
沙那もそう思った。
「……黒夜叉、おいで。ご主人様にお願いして傷を治しましょう」
沙那は言った。
「そ、そんなことは望んでいないのよ、沙那」
黒夜叉は悲痛な声をあげた。
「もちろん、わかっているわ。愛し合いましょう。わたしの仲間をお前に紹介するわ」
沙那がそう言うと、黒夜叉が心から嬉しそうに微笑んだ。
「黒夜叉には、この世のものとは思えない快楽を与えてやるよ、沙那。だけど、その後、黒夜叉がわたしらから離れたくないと駄々をこねたら、お前が責任を持って追っ払うんだよ」
宝玄仙が沙那に囁いた。
黒夜叉がこの旅についてきたがるとは思わなかったが、沙那と愛し合えるという言葉だけで、歓喜に震えた黒夜叉の表情を見ていると、なんだか、本当にそうなりそうな気がして、沙那は心配になった。
「こいつの治療をする。そのあいだに拘束を解きな、沙那」
宝玄仙が言った。
沙那は、黒夜叉に近づいて、拘束している鎖や首輪を外していく。
そのあいだにも、黒夜叉の身体の怪我は消えていく。
拘束が解き終わると、宝玄仙が沙那の肩をぽんと叩いた。
なにかの違和感を覚えて、沙那は自分の
「うわああっ――。うわああっ――うわあ――」
沙那は自分の手に触れたものにびっくりした。
勘違いでなければ、沙那の股間には男性器そのものがぶら下がっている。
「そんなに嫌がらなくてもいいじゃないか、沙那。黒夜叉と愛し合いやすくしてやっただけだよ。十回ほど射精すればなくなるから、黒夜叉に相手してもらいな」
「十回……。死んでしまいます、ご主人様」
沙那は悲鳴あげた。
「死にやあしないよ、沙那――。ほらっ、黒夜叉、お前の愛しい人の服を脱がしてやりな」
宝玄仙は、にやにや笑っている。
「嬉しいです」
黒夜叉が、沙那の下袴にとりついた。
宝玄仙の『治療術』により、すでに自分で傷つけた怪我の治療は完全に終わっているようだ。
沙那は諦めて、黒夜叉のなすがままに身を任せた。
黒夜叉が、沙那の下袴をおろす。
沙那に生えている男根は変な色をしている。
先端が青い。
黒夜叉がその剝き出しにした沙那の股間に生えたものを口に咥えた。
「な、なに、これ……」
股間の男性器が勃起し始める。
沙那は、股間の奇妙な感覚に、思わず悲鳴をあげた。
「さて、沙那、手を後ろに組んで、わたしの眼を見な」
沙那は宝玄仙に言われたとおりにする。
手が背中の後ろで張りついたように動かなくなる。
宝玄仙の『縛心術』だ。
沙那に生えている怒張を黒夜叉が吸い続けている。
なにかが来る。
強い圧迫感が怒張に集中する。
「ひっ」
「黒夜叉、口を離すんだ」
憑かれたような表情の黒夜叉が、沙那の怒張から口を離した。
沙那は、びっくりした。
自分の股間に生やされた男根の先端の色が絵の具で塗ったように赤くなっている。
そして、いまは黄色に変化しつつある。
「な、なにをしたんです、ご主人様?」
「わかりやすくしてやっただけだよ――。黒夜叉、男のものなんて舐めたのは初めてだろう?」
「はい」
黒夜叉は頷いた。
「だから練習用の男根を沙那に生やしてやったよ。萎えているときは青。勃起しているときは黄。さらに興奮すれば赤くなり、射精寸前は黒になる。黒夜叉、色を頼りに、好きなだけ沙那の身体中を舐めてやりな。あっという間に、こいつは狂乱するよ」
「ありがとうございます」
黒夜叉は狂気に染まった眼で沙那の男根を手のひらで触りはじめた。
その手は緩慢で柔らかい。
男根がそそり勃ち、その色が赤くなる。
だが、こんなんじゃいけない。もっと強く……。
「黒夜叉さんの身体は、あたしが癒してあげますね」
朱姫が黒夜叉の背中からその乳房を掴んだ。
媚薬浸けにされていた黒夜叉が吠えるような声をあげた。
後手に拘束されて、黒夜叉に男根をなぶられる沙那……。
その黒夜叉を愛撫する朱姫……。
なんでこんなことになったのか……。
「男根だけじゃなくて、沙那のあちこちを触ってごらん。男根が目印だ。赤が黄になれば刺激が足りない。赤が強調されれば、気持ちがいい。黒くなれば、射精寸前だ。それを目安に沙那を責めてごらん。簡単に嬲り方を憶えられる」
「そんな、わたしはどうなるんですか、ご主人様。そんなんで十回なんて」
沙那は悲鳴をあげた。
「長い一日になりそうだね、沙那。孫空女を叩き起こしてくるよ。お前と同じものをあいつにも生やしてやろう。愉しくなりそうじゃないか」
宝玄仙は嬉しそうに洞窟を出ていった。
もうなるようになれ――。
沙那は捨て鉢になって、覚悟を決めた。
その瞬間、身体が解放されたようになり、沙那の中でなにかが拡がった。
黒夜叉が沙那の怒張を横から舌で舐めあげている。
沙那は、小さく震えながら声をあげていた。
すると黒夜叉が、沙那の男根を舐めていた舌を離した。
「ど、どうして、黒夜叉」
「だって、簡単にいったら、もったいないんだもの」
黒夜叉の眼が妖しく光った気がした。
長い一日で終わればいいが……。
激しい焦燥感とともに、沙那に嫌な予感が拡がる。
長い二日……。あるいは、三日になるのではないか……。
そして、その沙那の予感は、まったく正しいものだった……。
(第16話『拷問奇談』終わり)