※この作品はR-18です。

その女勇者(魔王)、勇者に溺愛されています。   作:白千ロク(玄川ロク)

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(16)その女勇者(魔王)、勇者の帰りを待ちます。【2】

 騎士団に帰るなり、レガルドは自室に足を向かわせる。イルガに帰りを知らせなくともなんら問題もなく、キーエルを起こさないように静かに枕元の明かりを点ければ、広がるぬいぐるみに目を見張った。掛け布団や枕の横に点在するなか、黒いねこだけはしっかりと抱きしめる可愛らしいその姿に笑みを浮かべ、着替えるために個室へと消える。プレゼントで大部分が埋まっているわけだが、着替える分の空間は空けられているのでこちらもさして問題はない。

 さて寝るかとドアを開ければ、冷蔵庫の前に屈むキーエルの姿が飛び込んでくる。冷蔵庫内部の照明に照らされる艶やかな髪に引かれるように腕を伸ばせば、「ひゃっ!?」と肩を竦めた。

 

「なにすんだ!」

「うるさくして起こしたか?」

「違う。勇者に起こされたわけじゃないから。自分で起きたの、自分で。喉が渇いたからな」

 

 振り返ったキーエルを抱き寄せ、「そうか」とふたたび髪を撫でる。とたん、「な……、なんなんだよっ。飲めないだろ」と身じろいで抵抗するが、「飲めなくはないだろ」と囁き返した。「んんっ」と艶かしい声とともにぴくんと躯が跳ねたが、キーエルは「飲めない。無理」と胸を押してくる。「離せってば」と上目遣いもされては「しかたがないな」と離すしかないだろう。渋々であっても。

 口を開けた飲み物を口にしながら寝台の端に腰を下ろしたキーエルは「勇者」と手を招いた。ぽんぽん隣を叩く姿から察するに、隣に座れということらしい。そこに黙って座ればフタを閉め、ボトルを手のなかで遊ばせていた。

 

「言い忘れてたわ。おかえりなさい」

「ああ……、ただいま」

 

 まさかの『おかえりなさい』の言葉に瞠目しつつも、嫌われていないようでほっと胸を撫で下ろす。ボトルに触れて冷たくなった指先にそっと触れれば、キーエルは「そうだった!」と声を上げた。驚きに離してしまった手指が空を切り、そのやるせなさに思わず眉を顰めてしまう。

 

「なんだ、いきなり」

「ひとつ聞くけど、イエバとケンカなんてしてないよな?」

「煽ったのは魔女の方だ」

 

 「もしかしてお前!」と、詰め寄ったために胸が腕に当たり反射的に身を引くが、「泣かせたのか!?」と続けたことからして、キーエルは気がついていないことだろう。この情けなさをどうにかしければならないが、一体どうしたものか。悶々とするレガルドの耳には、「どうなんだっ?」と憤るキーエルの声が届く。たった数秒間の沈黙でも、どうやら悪い方へといったようだ。

 

「あの魔女が泣くわけないだろう。獣人は泣かせたが」

「はあっ!? なにやってんだよ!」

 

 「勇者のバカ」「バカ、バカっ」とボトルごと叩いてくるその勢いに飲まれ、レガルドはベッドに倒れ込んだ。覆い被さるキーエルには退く気がまるでないようで、髪が頬を滑るほどに顔を近づけてきた。眉を吊り上げたままのその顔を。

 

「レディを泣かすなんて最低だ!」

「俺に歯向かうからだ。それよりも、確かめないとな」

「確かめるって、なにを――」

 

 「確かめるんだよ?」と紡がれる前に唇を塞げば、胸を押して勢いよく離れていく。耳まで赤くさせながら。

 

「なにすんだよ! いっ、いまはっ、そういう雰囲気じゃないだろうが!」

「感度はどうだ?」

「はあ? どうって言われても、よく解んねーし――っわ!?」

 

 顔を逸らして唇を拭うキーエルの姿に理性が外れていった。肩を掴んで押し倒せば、やはり寝台が音を上げる。その勢いで手から離れて転がるボトルをそのままに、「な、にっ!?」と目を丸める一瞬にふたたび唇を落として舌を捩じ込んでいく。

 

「ん、むっ!」

 

 押し返そうと必死なキーエルの後頭部を掴んで深く重ねること数分、濡れた音を響かせていた舌を緩ませた。口端から滴る唾液を舐めとれば、躯を竦めて「やだぁ」と緩く頭を振る。

 

「どうだ?」

「ドキドキ、するぅ」

「息が上がっていればそうだろうな。魔女には日常生活に支障がないようにしろと言ったが――」

 

 「素直にものを聞くわけがないか」と横髪を梳く手に「やだっ!」とぴくぴく躯が跳ねさせ、「うー……」と唇を噛む。しかしそれは数秒で終わり、「んぅっ、手、やだぁ……、おかしくなるぅ」とボロボロ涙を溢しながらキーエルは訴える。

 とろんとした顔と耳から首にかけて赤く色づくその姿で、前よりも甘く声を上げていることには気がついていた。濃厚なキスをしてすぐにおかしいと思ったのだ。舌先が触れただけでキーエルは身じろぎ、固く目を閉じたのだから。

 

「ゆしゃ……、ゆーしゃっ……、オレっ、変になるぅっ」

「やはり――あの女は逆に感度を高めたようだ」

 

 徐々に理性を取り戻したレガルドは小さく息を吐き、苦虫を噛み潰したような顔をする。普通に触れた分は心配なさそうだが、性的に満たすことへのハードルがこれまで以上に跳ね上がったわけだ。余計なことをしてくれたものだな、とさらに眉間に皺を刻む。

 

「なんでぇ?」

「理由は簡単だ。俺が嫌いだからだろうよ」

 

 そう淡々と紡ぎながらレガルドはキーエルから退いた。ともすれば「俺は寝るからお前も寝ろ」と布団に入り、背中を向ける。

 浅い呼吸のまま「い、いまので、寝れなくなっただろ!」と返して涙を拭うキーエルだが、レガルドからの返事はない。しかたなしに明かりを消して布団に潜り込めば、「目を閉じたらいい」とぶっきらぼうに吐き捨てられた。

 自身を見ようともしないのは嫌だと思うのはどうしてだろうか。

 こっちを見ろと伸ばしたその腕はレガルドの背中に触れ、とたんに躯を竦めた衝動が指先から伝わってくる。やはり触れるのはダメなようだが、触れたままにしておいた。自分がいることを解らせるために。

 

「オ、オレは……、まだ、レディを泣かせたこと、許してないからな」

「お前に許してもらおうとは思ってない。いいから寝ろ」

「いま……、ぬいぐるみの名前、考えた」

「そうか」

「ルーさんって、いうんだぞ。みんな同じ名前にする。ねこもうさぎもテディベアも、みんな同じ名前だ」

「キーエルのルーか」

「違う。レガルドのルー。勇者がくれたものだから」

「……そうか」

 

 ようやく呼吸が落ち着いてきたキーエルはもぞもぞと手探りで『ねこのルーさん』を探し当て、ぎゅっと抱きしめた。そうして「おやすみなさい」と小さく紡いで、目を閉じる。

 寝息が聞こえてきたらばレガルドは起き上がり、フラフラとした足取りで個室に進んでいく。勢いで布団に入ってしまったが、たった一言でも名前を呼ばれたこの状態で一緒にいるわけにはいかなかった。

 どうにかこうにか内側からカギをかけ、ドアに凭れるようにして躯から力が抜けていく。嬉しさで全身が熱くなり、震えが止まらない。

 ――こんな姿を見られるのだけは願い下げだ。好きな人の前ではかっこよくありたいのだから。

 

 

 

 

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