その女勇者(魔王)、勇者に溺愛されています。 作:白千ロク(玄川ロク)
転移先は聖水の間――の湯槽のなかである。
さきほどの言葉の意味も、他に好きな人がいるというのにこうして触れてくる理由も、問いたいが問えない。
熱い口づけを一身に受けるキーエルだが、引き剥がそうとまた胸を押していた。
「ん……、んっ……、らめ、らって、ゆーしゃ」
「なにがダメなんだ?」
「な、なにってぇ……、ソードホルダー外さないと大変なことになる、だろ……。勇者の剣は、大事なもの、だし……」
「そんなことは気にしなくていい」
ふたたび唇を重ねようとするレガルドから腰を引き、「気になるんだよ!」と腰に携えられた皮製のソードホルダーを見つめる。いつから色が変わっていたのだろうか。レガルドはいったいいつから、濡れそぼっていたのか。
考えつくのは、そうまでして自分を探してくれていたということだ。触れたいと湧き上がる熱に反して、どうしても頭は冷えていく。いくら触れたいと思っても、目の前の男はそうではない。触れるのは、ゴブリンの後付けでしかないのだ。
熱い吐息を奪われる刹那、キーエルはもう一度後退った。引き返せなくなる前に、と。「逃げるな」と怒りが滲む声とともに引き寄せられ、荒々しく唇を塞がれようとも、撥ね付けようと必死だ。すぐに深くなる口づけの合間の「離せ」との懇願は無視をされてしまう。
「オ、オレはぁっ、泥だらけだし……、ほ……、他の男に触られたんだぞっ……、そんなの気持ち悪いだろぉ」
「悪いと言った覚えはないが」
「し、心情的に、受け付けないだろ!」
「それも言った覚えはない」
みたび触れた唇は「キーエル」と名を呼ぶ。蕩ける思考ではそれだけで歓喜してしまい、突っぱねるのももういいかと導いていく。他に好きな人がいても、いまは自分を見てくれているのだから。
「お前がどんなに嫌がろうと、離す気はないぞ。泣き叫んでもな」
「ほ、他の男に、触れられてても、か……?」
「そんなものは些細な問題だ。他の男の感触は忘れさせてやるからな。ただし、いまからはなにをされたか話してもらうぞ、キーエル」
「ゆーしゃぁ」と広い背中に腕を回したキーエルは、四度目となる深い口づけの間にゴブリンになにをされたのかを語り始めた。胸を揉まれたこと。舌を這わされたこと。先端にしゃぶりつかれたこと。下半身にも舌が這わされ、重点的に嬲られたこと。それが代わる代わるだったこと。――袖を噛んでやり過ごそうにも、結局二度ほど果ててしまったこと。
ボロボロな服を脱がす間「ごめんなさい」としゃくり上げるキーエルをレガルドは優しく包んだ。「生理現象だ」と。ゴブリンの感触を消すように濡れ光る肢体に触れられれば、躯の奥底から想いが溢れてくる。この男でないとダメなのだ。触れられるのなら、愛しいこの
「ふぁ……、んっ……、ゆーしゃっ、あのなっ……、あと、ちょっと指、入れられたんだ」
「指か……」
「じ、自分だけ裸は、恥ずかしい……」とゴニョゴニョ言う膝立ち姿のキーエルに団服の上着を脱がされながらも、指先では胸の先端を愛撫していたレガルドは、柔らかな臀部にも手を伸ばし、何度か感触を確かめてから指を差し入れた。そこから巡る熱に対し、「やだぁ……!」とキーエルはとっさに首に腕を回す。ぎゅっと抱きしめるのは、聞かれたくない声を抑えるためだ。こんな甘い声を聞かれるのは恥ずかしいと口づけるが、どうしても声が漏れてしまう。
「っ……ん、あ、あっ……! や、ぁ……、ゆーしゃぁ……」
「指だけでも絡んでくるな。他にはなにをされた?」
「ん……っ、入れられたのは指だけぇ……、よく解んないけどっ……、前戯だけしか……されてない」
「そうか」
「んぁっ……! あっ、ら、めぇっ……、動かしちゃっ、やっ……」
濡れた音を響かせながら「キーエル」と目元に唇を寄せるレガルドは指を引き抜いていく。余韻に震えるキーエルは「ぁ……、オレぇ……、抜くにゃにゃんてぇ、言ってないぃ……」と顔を上げて鼻を啜った。
「お前の声だけで俺がはち切れる。そんな格好悪い姿なんか見せられるか」
「格好悪くても、ゆーしゃだったらいいんだ……。オレだって、変な姿、見せたんだからな……、お互い様だろ。オレは、な……、ゆーしゃに、あげたかったよ。本当は、『初めて』を全部、あげたかった」
ゴブリンは前戯しかしてこなかったが、『前戯の初めて』は奪われてしまったのだ。いくら自分で選んだこととはいえ、悔しさが渦巻く。涙が浮かんだ先、また目元に唇を寄せられた。
「その言葉だけでこの先も生きていけるな」
「ど、どこかに行くのか……? そんなの、嫌だ」
「俺は喩えを言っただけで、どこにも行く気はないぞ」
「ゆーしゃのいじわる……、でも、好き。好きだから……、オレのこと、抱いてください……、お願いします」
そう紡ぎながら、今度は肩口に顔を埋める。全身を赤くさせながら。「俺を見ろ」と上向かせた顔はやはり真っ赤であった。伏せられた目元からはポロポロと涙が溢れ、薄く開いた口からは吐息が漏れている。キーエルはあのときもきっと、こんな顔をしていたのだろう。「嫌いだ」といくら口から吐き出そうとも、密着していたのだから。
「な、なに、笑ってるんだよぉ……」
「可愛いと思ったからだな」
「ゆーしゃのバカ! バカバカ!」
「うー」と唸るキーエルの首筋に顔を寄せ、肌を貪る。「もっと聞かせてくれ」と熱が籠められた瞳に射抜かれていく。
「好き……」
「ああ」
「好きぃ」
「俺もお前が好きだ」と返されたキーエルは
「来て……、ゆーしゃ」と背中を擦った。
ここに来て口づけられたときから昂る陽物に気づいていたが、そのときは『どうにかして離れなければいけない』という考えで動いていたわけだ。いまは早く気持ちよくしてあげなければという想いが大きい。「腰を落とせ」と促されるままそうするのも、レガルドを絶頂に導きたいからだ。
触れられてぬめった先に宛がわれる雄々しい屹立。ぬちゅりと届いた小さな水音に、自分がどれだけ濡れているのかを確認させられる。こんな風になるのはこの
「――ん、んっ……! あ、あっ……、入って、くるぅ……! っ……ふ……、うぅん……、は……ぁ、全部、入ったぁ……」
「上出来だ」と緩む頬に唇が落ちると、また頬が緩んでいった。レガルドの嬉しそうな顔に。
「ずっと我慢、させて悪かった」
「気にするな。俺は我慢強いんだ」
「そんなの嘘だ……。すぐにヤろうとしてたのに」
「それはそれだ。いま考えると性急だったな。反省している。だが、お前に見つめられたら落ちるしかないだろ。どんな声でどんな風に話すのか、どんな瞳の色か、俺は毎日想像していたんだ。この胸に触れながら」
片手でもにゅもにゅ揉まれれば、「んっ!」と躯が跳ねる。すぐに離されたが、甘い痺れが残った。
「ゆーしゃの変態ぃ……、けど、いいよもう……。そのさ、目覚めたオレは、お前の想像とまったく違ってただろ?」
「いや、――想像以上だ。初めから可愛いと思ったよ」
「バカぁ……! ゆーしゃは忘れてるかもしれないけどっ、オレは男だぞ。……それでもいいのか?」
窺うような上目遣いに対し、レガルドは「お前が男だと忘れたことはないぞ」と紡ぐ。もちろん、一度口づけてから。
「言い方は悪いが、男だろうが女だろうが俺はどちらでもいいんだよ。キーエルならな」
「男でも……?」
「俺が男女関係なく経験を積んだのはそういうことだ。どちらでも気持ちよくしてやれるぞ」
「やらしい」
「お前限定でな」
「ゆーしゃ、動いて、いいぞ」
じんわり広がる熱に吐息を吐き出し、唇を塞ぐ。「気持ちよくなってくれ」と、囁いて。
「どこでそんなことを覚えてきたんだ」
「バカ……、どこかで覚えたことはないからな……。ゆーしゃに、気持ちよくなってほしいんだ」
もう一度重ねた唇から漏れるのは甘い声だ。絡まる舌と緩く穿たれる屹立の両方に溶かされていく。
「ふっ! んっ……、んぁ……、ゆーしゃ、しゅきぃ……」
『好きだ』と紡いで胸が温かくなるのも、「キーエル」と名を呼ばれて胸が高鳴るのも、こうして抱かれてもいいと思うのも、すべては『愛しい』から。
「っあ……、ふぁ、あっ……! ゆーしゃぁ!」
口づけを深くすれば、穿たれる速度が速められていく。聞いていられない水音に混じる名を呼ぶ声と「愛している」という囁きに、キーエルは笑みを浮かべる。
いまだけは、自分に向けられるその瞳に溺れていたい。
次に目を覚ますそのときまで――。
「んん――――!」
唇を重ねたまま果てれば、少し遅れてレガルドは屹立を抜いた。あっという間に外に吐き出された熱に、キーエルは密着したまま打ちひしがれてしまう。腹は汚れてしまったが、それは問題ではない。
「どうした?」
「出しても、よかったのに……」
「それはできない」
そのたった一言に、想いが音を立てて崩れていく。立ち直れないほど粉々に。
◆◆◆
レガルドはやはりリーザンが好きなのだ。
落ち着いたあとに躯を洗われても、着替えを終えて寝台まで運ばれても、キーエルは上の空であった。
眠気が襲うまま夢に誘われたあと、隣で寝息を立てる温もりに涙を浮かべる。この気持ちを忘れなければならないのが悲しくてしかたがない。しかし、初めて覚えた『恋心』はなんら役に立たないのだ。
断ち切るためには
シーツに散らばった黒猫のルーさんを抱きしめ、涙を拭った。抱かれた思い出と見つけてくれたルーさんを糧に生きよう。自分にはもうそれしかない。もう一度探されないようにと書き置きを残してドアのノブに手をかければ、「その格好でどこに行く気だ?」と背後から抱きしめられた。
「っ!」
「出かけるのなら一言かけろと、言ったはずだが」
「出かけない……。オレはもう、騎士団には戻らないんだから」
「意味が解らんな」
「イエバのところに行くんだよ! 一応お礼はしておくよ、最後だし。いままでありがとうございました! だから離せ――」
「どこに行くと言った?」
ドアを殴りつける音に躯を竦めるが、負けじと「イエバのところ」と答える。負けたら終わり。溺れたら戻れない。諦めなければならないのに、耳元で紡がれる声に手を伸ばしたくなる。抱きしめて、その温かさに包まれたい。湧き上がる衝動は、荒くなる呼吸と熱くなる目頭になんとか抑えられていた。
「キーエル、お前は魔女のところに行ってなにをする気だ?」
「い、一緒に住もうとっ、思って……っ」
「あの女はやめておけ」と無理矢理上向かせられるキーエルは、震える声を絞り出す。お願いだから離れてくれと懇願するように揺れる瞳は、まっすぐ見据えるレガルドを映していた。眉を吊り上げるその姿を。「泣くな」と動く唇が重なれば、涙が頬に伝い落ちていく。
「騎士団にはオレの居場所はもうないんだ……。イエバのところに行くしか、ないんだよ」
「お前の居場所ならちゃんとここにあるだろ?」
腹に回された腕に力が籠るが、引き剥がそうと指を添えた。しかし、震えた指先では巧く引き剥がせず、その分だけ強く引き寄せられてキスの雨が降る。
「や……だってば! オレには勇者がなにを言ってるのか解らないよ。二股はよくないだろ……? 相手に悪い」
「誰が二股をしているんだ?」
「勇者だよ! いままさにしてるだろ!? 勇者は王子が好きなんだっ!」
「……お前が言う王子は、リーザンのことか?」
小さく頷くキーエルにレガルドは眉を寄せて息を吐いた。そして「お前が俺を拒むのはそういうことか」とひとり納得し、キーエルを抱えあげる。
「勇者っ」
「離せ」と暴れるキーエルを寝台に放り投げれば、邪魔だとでも言いたげにショルダーバッグとソードホルダーを奪い取った。言いつけを守ってきちんと装備する姿に安堵し、「返せよ!」と伸ばされたその手首を取って唇を寄せる。
「やめろよぉっ! 勇者なんか早く王子のところに行けばいいんだ! オレを抱いたのだって、好きだって言ったのだって、ゴブリンの後付けでっ、雰囲気に飲まれたからなんだよ! ちゃんと解ってるんだ、そんなことはっ」
振り払った手で涙を拭うキーエルは「オレの気持ちは届かないんだ……」と溢した。
「どうしてそう思うんだ?」
「押し倒してたから!」
「リーザンを押し倒した覚えなどただの一度もないが、それはいつの話だ?」
「ティーパーティーのとき」
「そのときなら、馬乗りになって一発殴りはしたな。アイツが俺の神経を逆撫でしたから」
「嘘だ! かっ、壁へこんでたけど、それだって、「好きだー」って壁にドーンって押さえ付けて、「好きだー」って押し倒したんだろ!? オレは見たんだからな!」
「お前の想像力は豊かだと感心するが、気色悪い想像はやめてくれ。俺がリーザンを想うわけがないだろ。それに、男でもいいと言ったのはキーエルだからで、あんな空気の読めない男は願い下げだ」
「え……? えっ!?」
「勘違いを妄信するのはいいが、『愛している』と言った言葉は聞いていなかったのか?」
穏やかな顔で紡がれる声にキーエルは固まり、そしてようやく理解する。自分はとんでもない思い違いをしていたと。振り回してしまったであろうレガルドはといえば、頬を染めながら笑んでいた。
「お前を想うこの気持ちは本物だ。偽ることなどできやしない。――俺の想いはまだ届かないか?」
「キーエル」と横髪を撫でた手が滑り、髪の先を掬う。落ちていく毛先が頬に触れたのち、キーエルはぼんと赤面させた顔を両手で覆いながらゴロゴロ転がった。
「ごっ、ごめんなさいぃ! オレ、オレっ……、うわああああ! オレのバカバカバカー!」
「謝罪は必要ないぞ。その勘違いのお蔭で、好意を自覚してくれたわけだしな」
「そうだけどぉ……、そうなんだけど! 恥ずかしいー! うあー!」
「もう逃げるなよ。心臓に悪いからな」と髪を踊らせながら左右にのた打つキーエルを寝台に縫いつけて囁けば、「解らない」と返ってきた。「また変な勘違いをするかもしれないから、断言はできないよ」としおらしく紡いだ唇を塞ぎ、「そのときはそのときだ。何度でも追いかけてやるよ」と口端を上げる。
「なら、何度でも捕まることにする。何度だって勇者に落ちていくと思うからさ、覚悟しろよ?」
「お前は本当に煽るのが巧いな」
「恐ろしいくらいだ」と嘆息しつつも離されたキーエルは、「勇者の方が煽ってるだろ! そんな顔反則だっ」と顔を逸らした。テーブルが視界に入った瞬間、自分がそこになにを置いたのかを思い出し、「そうだった!」と勢いよく起き上がる。
「書き置き捨てないとっ」
「書き置き?」
それはなんだと訴える視線に「ダメー!」と慌てるキーエルだが、行動制限の魔法をかけられて動けなくなってしまった。その間にレガルドはテーブルに歩み寄り、白い紙を手にする。署名の上に書かれた文字を目で追えば、「敵うわけがないか……」と溢した。
『勇者が好きで好きで一緒にいるのは辛いので、騎士団を出ます。
いままでありがとうございました。
元気でやるので探さないでください』
どうやらキーエルは最後の最後に本心を落としていこうとしたらしい。もしいなくなったあとの自分がこれに気づいたらば、探し回るであろう。それこそ死ぬ気で。そして見つけることができなければ、確実に荒れた日々を過ごしていた。部屋をあとにしようとするキーエルに気づいた瞬間を誉めてやりたい。
「これは俺がもらっておこう」
「破り捨てろよー! 勇者のバカー!」
書き置きを手に魔法を解き、寝台の縁に腰を据える。近づく間に折り畳んだ紙をぺちりとキーエルの額に宛がえば、「捨てろってばぁ」と不満そうに紡いだ。その頬を撫でてやれば、可愛らしく擦り寄る。やはり自分には敵いそうにはない。
「それは無理な話だ。俺を拒否したことはこの書き置きで相殺だからな。破り捨てるわけがない」
「だ……だって、一緒にいても辛いだけだって思ったからでっ! いまはもう、その紙いらないだろぉ」
「俺も辛かったよ。お前が誰か他の人間を見る度に嫉妬に狂っていた。特にリーザンに笑いかける姿には発狂寸前だった」
手を伸ばすキーエルを「これはもう俺のものだ」と
「あれは、勇者の昔を知ることができて嬉しかったからで……、王子を想ってるわけじゃないよ」
「つけ加えて言っておくが、俺はリーザンよりも魔女の方が許せない。あの女はお前の昔を知っている! 端的に言えば、生まれたときから傍にいただろうよ。それがどんなに気に入らないか解るか? 何度取って代わりたいと願ったか!」
「あは……、あははっ! 勇者がイエバを気に入らないのは、そういうことだったんだなっ……! なんだよ、イエバと男女の関係はなかったんだ」
それもバカな勘違いだったようだ。苦い顔をするレガルドに、どれだけの好意を寄せられているのかも気づかされた。この男以上に自分に好意を寄せる人物など、いないのかもしれない。
「あははは」と笑い転げるキーエルを向かい合わせるように抱きしめたレガルドは、「魔女と男女の関係など考えたことがない」と呆れた声音で紡いだ。
「どうしてそう変な考えに行き着くんだ?」
「イエバのことに関しては、勇者が言ってくれないからだろー」
「私情で気に入らないなんて解ったら、嫌われると思ったからな。お前に嫌われたら、どうしていいか解らない。生きていくことが難しくなる。俺はな、キーエルに関しては許容範囲が狭いんだ。自分でも呆れるぐらいにな」
「嫌われたら生きていけないなんて、どこの乙女だよ! ――でもオレも同じだ。勇者に嫌われたらへこむしかない」
「だって好きだから」と笑みを浮かべ、触れるだけのキスをする。とたん、レガルドは目を見張りさらに顔を赤くさせた。
「……不意打ちはやめてくれ……」
「真っ赤だ。可愛い」
「可愛いのはお前の方だろ」
前髪を撫でる手を握り、本当に知りたかったことを聞く。そのお蔭で恋心はズタズタにされたのだから。
「中に出してくれなかったのはなんで?」
「そういうことをはっきりと言うな」
「でも中に出してくれなかっただろ?」
「キーエル」
「だって中に出してくれなかったのは――」
「だからそういうことを言うな!」と慌てて口を塞がれ、真っ赤な顔が逸らされた。「お前の口から性に関する言葉を聞くと、理性が落ちそうになるんだ」と。
「そうなのか、悪かったよ。もう言わないから、ちゃんと教えて?」
すぐに手を外したキーエルはからかいすぎたことを反省しつつ、レガルドを見据える。泳がせた視線が止まったのち、観念したように口を開いた。
「お前がいいと言っても、体調の変化があるかもしれないからな。心配にもなるだろうよ。いざとなったら魔法でどうにでもなるが、そもそも抱き足りないんだ」
「だから外に出したのか?」
「悪いか」と返る言葉に「悪くない」と返す。こんなにも想われていたのに、どうして理解しようとしなかったのか。反発していた自分に言ってやりたい。「とてつもなく愛されているんだぞ!」と。
「王子が好きだから、中に出さないと思ってた」
「言っておくが、避妊具がない状態でしたのはキーエルが初めてだぞ。俺の態度が勘違いさせたのなら悪かったが、面倒ごとを避けるために避妊具はつけていたんだよ」
「オレが初めて……?」
「持っていかれそうなのを、どうにか堪えていた。堪えるのでいっぱいいっぱいだったんだ」
ゴニョゴニョ語るレガルドに、溢れる気持ちが止まらない。触れたい。触れてほしい。どうしようもなく。
「なあ勇者。仲直り代わりに、もう一回抱いてくれないか?」
「お前がなにを言っても、避妊具はつけるぞ?」
「いいよ、勇者の好きにしても。だから早く愛してよ」
「――当然だ。嫌と言うほど解らせてやる」
「これからもな」と劣情が滲む瞳を細めたレガルドは、腕のなかの温もりに口づけた。深く深く、情熱的に。