その女勇者(魔王)、勇者に溺愛されています。 作:白千ロク(玄川ロク)
『そうなのか。うまいんだよな、レゴンの実。魔王城の近くの森にも生えて、て……――っ!』
自身の言葉を思い出しながらキーエルは駆けていた。まっすぐな廊下を。すれ違う人がいないのは都合がいい。
『魔王城』という言葉がついつい会話に出てしまった。そして、『魔王城』は魔王の根城だと誰もが知っている。――だから。
解ってしまっただろう。自分が魔王だと。キーエルは人を殺めることはしたことがないが、魔王は勇者に倒される存在だ。先代も先々代魔王も行いは悪くなかったがそうされた。魔族を束ねる長は、いつの時代でも嫌われている。世界はそうしてできているのだ。
「あ、あ……」
魔王だと解ってしまったいま、倒されるしかない。傷口を抉られた痛みが甦り、震えが走る。レガルドは笑っていたのだ。さも面白いとでもいうかのように。あのときのように、もう一度倒されるのだろうか。
「キーエル!」
「や……、嫌、嫌だっ」
肩で緩く息をするレガルドに捕まり、壁に押さえつけられたキーエルは泣きながら頭を振った。何度も何度も。
「殺さないで……、やだ、殺さないで……」
「キーエル」と優しく声もかけても、「嫌だ」「殺さないで」と溢すだけだ。
「殺すわけないだろう。どうしてそうなるんだ」
息を整えながら押さえつけている手を緩め、キーエルの背中に回した。そうして抱きしめると同時に、嗚咽を漏らす口を塞ぐ。
啄むようなキスを繰り返すうちに、いつの間にかキーエルの涙が止まっていた。
「キーエル」
レガルド自身は笑みを浮かべるが、キーエルのその瞳は不安に揺れている。安心させるように横髪を梳いた。そのままもう一度唇を重ねれば、躯を跳ねさせるほどには落ち着いたようだが、まだ恐怖に囚われているらしい。瞳は揺れたままなのだ。
「ここにいる奴は、お前が魔王だと知っている。それでも倒そうとする奴はいない。お前はもう魔王ではないからな。いらん心配をする必要はない」
「……ん」
こくりと頷いたキーエルは涙を拭い、「解った」と消え入りそうな声で放った。恥ずかしさか悔しさからなのかは解らないが耳を赤くさせ、シャツの裾を掴みながら。
こんなに可愛いキーエルに触れたイルガには、もう少しきつい仕置きが必要だったかもしれない。ああと、イルガがしたことを思い出して腹が立ち、我慢ならない。
「来い」
「え、えっ……どこにっ?」
どこに向かっているのだろうか。不安になり「どこに行くんだ」「勇者っ」と何度も声をかけるが、レガルドからの返事はなかった。
やがて着いた先で抱えられ、そのまま無言で進んでいく。広がる光景に風呂場だと理解する間に、浅い湯槽に入れられた。――服を着たまま。
ぬるめで冷たいそこにレガルドも押し入り、キーエルは腰まで
「な、なにをする気だ……?」
「イルガの痕を消す」
「あ、痕を消すって……、なんだよ、それ」
「気に入らないんだよ、俺が」
レガルドは苦々しい顔をしながら柔らかな胸元に手を伸ばす。
「っ……! ん、ん……っ」
軽く揉まれ、びくりと躯を竦めたキーエルは手で口を押さえた。肩に顔を乗せるレガルドが耳を舐めており、声を漏らすまいとしている。しかしそれは、レガルドの機嫌を損ねるだけなのだ。自分には声を聞かせてくれないのかと。
そうして意地悪をするかのように先端を弄り出した手に大きく躯が跳ねてしまい、押さえる手が緩む。
「ふ……ぁ! あ、あ……っ」
「イルガのときも可愛い声を出していたな」
「違っ……!」
「違わない。お前は感じやすい躯だからな」
「あ、ふっ……や、だぁっ……」
「――こうして触るだけでも、すぐに立つ」
「んっ……、ぁ……、ゆしゃぁ……、き、きたいことがっ、あ、るんだけど」
「なんだ?」
「お、おおっ、オレっ、なんで上のっ、肌着、着てないんだ……?」
「それはいま聞くことか?」
「だって……気になる、し……。あ、あと……その……、ち、乳首、立つと、は、恥ずかしい」
湯気が出そうなほど顔も耳も赤くさせ、もじもじするキーエルに動きが止まる。レガルドは大いに後悔した。――魔女の口車に乗ったことに。
仕草がいちいち可愛く、その度に煽られているのだ。自分だけではなく他の者まで落ちるのではないのかと、やきもきする。
「ゆ、勇者、どうしたんだ?」
「なんでもない……。お前が知りたいことだが、女たちに聞いたら、しめつけられて苦しいとの意見があった。俺は大きさにも形にもこだわりはないから、なくてもいいだろうと思っただけだ。だが――」
「ひあっ! やぅっ!」
ぐりぐりと押し潰す動きが再開され、生まれる痺れにキーエルの息は乱れていく。
「っ……ぅ、んぅう……」
「誰かに触れられる危険があるのなら、これからは必要になるな」
「あ、あっ……ゆしゃぁ……あっ、ん……」
「いいか、キーエル。お前は俺以外に靡くなよ」
囁いたレガルドは震えるキーエルの耳朶を噛み、形どるように舌を這わす。キーエルはキーエルで緩く頭を振りながら、与えられる快楽に耐えていた。
「んくぅ……ぅ……」
「解ったらなら返事」
「ゆしゃ、なんかぁ、嫌いぃ」
「ほぉ」と意地悪く笑うレガルドはキーエルの下半身に手を伸ばす。わきわきと手を蠢かせながら。
「まままっ、待って待って待って! そ、そこはぁ、触られてないぃ」
慌てて振り返ったキーエルは、口に添えた手をレガルドの腕に絡みつけた。これ以上下にいかないようにとぎゅっと掴んで、頬も寄せる。
「お、お願い……、オレっ……す、好きな人と、したい……から、やめて……、やめて、くださ、い」
「お前は……っ、どうしてそうなんだ!」
「わっ!?」
掴まれたままでも軽々と腕を動かし、キーエルの躯を反転させる。勢いでするりと解かれた手で胸を隠し、「ゆ、しゃ……?」とキーエルは上目遣いでレガルドを見た。なにをされるのかと、瞳がまた揺れている。
反してレガルドは息を吐いて、キーエルの腕をがしりと掴んだ。胸元を隠していた手は滑り落ち、水を吸って透けたそこが露になる。余韻に震えた躯に涙に濡れる困り顔、そして、柔らかな巨乳とつんと尖る先端――キーエルのいまの姿は情欲を呼び起こすだけだ。理性でギリギリ押さえているが、もう持たない。
「キーエル、お前の『主』は誰だ?」
「……勇者、です」
その言葉は不承不承だろうことが見て取れるが、レガルドは満足そうに口端を上げた。そうして「忘れるなよ」と紡いだ唇が、噛みつくように落ちていく。すぐに絡んだ舌が熱を孕み、離されたときには数分を要していた。
「ぁ……ぅ……」
乱れた息を整える間に、キーエルの腹が鳴った。ふたたび大きく。しかも風呂場なので反響するわけだ。あわわと慌てるキーエルにふっと柔らかな笑みを溢したレガルドは、その額に自身の額を添える。「しかたがない奴だ」と。
「盛大だな、今回も」
「し、しょうがない、だろ。オレ……、まだ腹一杯に、なってないし」
「戻るか」
もごもごと口ごもるキーエルの腕を引き、浴槽から去っていく。そこには揺れる湯だけが残された。
脱衣場で投げられたタオルは触り心地がよく、すぐに一級品だと解る。躯を拭きつつそこにくるまるキーエルは、レガルドの服を掴んだ。
「ゆ、勇者……っ」
「なんだ?」
「どうした」と顔を近づけられ、ぶわりと頬が赤く染まる。キーエルはふたたび口ごもるが、それでも言葉を絞り出していく。
「その……、ありがと……。オレのお願い聞いてくれて」
「ただの気まぐれだ。お前が逃げる気なら解らないぞ」
「逃げない! ……ようにする!」
「そうか」
くしゃりと頭を撫でたその手が背中に回り、キーエルは首を傾げる。
「なにをするんだ?」
「服を乾かす」
一言そう告げたあと、風がふたりを包んだ。温風だが我慢できる熱さで、むしろ心地が好い。ひとつの問題を除いては。
「わ……! スカート捲れるんですが!」
「押さえてろ」
言われた通りスカートを押さえたキーエルだが、レガルドに唇を奪われてしまう。この状況でキスをされた恥ずかしさに震えながら、キーエルはレガルドを睨みつけた。
痛くも痒くもないレガルドは背中に回した手に力を込め、ぎゅっと抱きしめるのだった。