その女勇者(魔王)、勇者に溺愛されています。 作:白千ロク(玄川ロク)
せっせとスプーンを口に運ぶキーエルは、レガルドの足の間に座らされていた。膝の上は勘弁してくれと懇願したキーエルに譲歩した形であるが、これも相当目立っている。注がれる視線が気にかかるが、食欲には勝てなかった。
パンをかじり、スープを飲めば、スプーンからフォークに持ち替え、一口大に切られた赤みかがった黄色い実――レゴンの実を眺める。キラキラと輝くそれを口に含み、キーエルは躯を捩った。持っていたフォークをテーブルに戻し、木皿を手にしながら。交互に食べてはいたが、レゴンの実はいまの一口で空になってしまったのだ。
「おかわり! 早く持ってこい」
「イルガ」
「はいはい」
横に座るイルガに皿を渡したレガルドは、優しくキーエルの髪を撫でる。「やめろ」と手を叩き落とされても。
「逆らう気か?」
「違う。オレは勇者に従うって決めたの。けど」
「こ、こういうのは、恥ずかしいんだよ」とゴニョゴニョ話すキーエルは、腹に回された腕に触れていた。皺になるだろうがそんなことはどうでもいい。見上げるその唇に食らいついたのは道理だろう。
「ん……、むぅ……っ」
びくりと跳ねた肩が視界の端に映るが、お構いなしにそのまま貪る。口内も味わえばレゴンの実の甘さが広がり眉を寄せるが、キーエルが欲しているのならわざわざ「食うな」とは言えない。甘いものは苦手であるが嫌いではないのだ。だから目を瞑り、このまま十分に溶かすことにした。むにゅむにゅと胸を揉みながら。
「――や、ぅ!」
きゅっと服の裾を掴みながらぎゅっと目を閉じるキーエルの髪を梳いて、後頭部に片手を添える。もっと深く唇を重ねる為に。
ねっとりと舌を絡ませて辺りに水音を響かせれば、キーエルの頬に赤みが増した。逆らわないと言った通り、受け入れているその姿は実に可愛い。必死に舌を追いかけ、角度を変える口づけにも誘うように唇を押し当ててくる。
「……ん……」
キーエルは解らないだろうが、漂う色香は淫魔をも凌駕しているのだ。これには誰もが
苛立ちを抑える為に無理矢理手を服の中へ入れてしまった手前、きちんとつけられたか確認の意味も込めてだとレガルドは自分に言い聞かせるが、指先に触れる感触に飲まれていく。肌着の上からでもその胸は触り心地がいい。
代わりにと唇を離してやれば、「あ、ぅ……ん」と甘えた声をあげる。乱れた息のままのそれは、かなりの破壊力を持っていた。
「ん、や……ぁ、ゆ、しゃ……っ」
「ちょっと! 人がいない間になにしてるのよ!」
「お前はうるさい奴だな」
イルガの手により乱暴に置かれた皿の音にキーエルの肩が揺れ、盛られたレゴンの実が一瞬浮く。それを眺めながら舌を打ったレガルドは、柔らかな感触を楽しんでいた手を離し、あっさりと出した。そうしてキーエルを抱き直し、服を直してやるのを忘れない。
「ちゃんとしているな」
「だ、からっ……、ちゃんと着けたって言っただろ!」
――遡ること数十分ほど前になる。脱衣場で服を乾かせばレガルドはどこかに消え、またすぐに戻ってきた。その手に肌着を持ちながら。見るに下と同じ色合いで、どうやらセットのようである。
『着方は解るか?』
『なんとなく』
『そうか』と渡された肌着を服の中で素早く着けたキーエルは、『早く戻ろうぜ』とレガルドの腕を引く。
『ちゃんと着れたのか?』
『着れた。は、恥ずかしいんだからいちいち聞くなよなっ』
『勇者のアホ』と耳を染めるキーエルに負けたレガルドは、これ以上の追及をやめて抱えあげた。『わっ、わっ!? バカバカ、離せ』と暴れだすが、『落とすぞ』と囁けば大人しくなり、食堂まで運ぶのも容易い。
肌着を着けた違和感もいまはなく、キーエルは再度パンを手に口を動かし始めた。髪を弄るレガルドを気にせずに。
隣に腰を下ろしたイルガは、窺うようにキーエルを眺める。
「ねぇ、キーエル」
「なんだよ?」
「さっきの忘れてくれない?」
「さっきのって?」
「おっぱいに悪戯したこと」
「お、おおっ、思い出させるなっ!」
「ごめんなさい。でも水に流してくれないと、私ずっとレガルドに睨まれたままだから……」
「お前がキーエルに手を出したのは事実だろう」
「そうだけどっ! 私はただ、レガルドが嵌まる子がどんな子か気になっただけなのっ」
「余計なお世話だ」
掬った髪に唇を落とすレガルドをイルガは涙目で見ている。ふたりの険悪なムードを気にも止めずに、キーエルはレゴンの実を頬張っていた。
「ん~、うまい。これも甘くて好きだなぁ。で、あれだ。オレは許すよ。だから大丈夫」
「――は?」
キーエルの言葉にレガルドは固まる。ついで、イルガの動きも止まった。
「なに、を言っているの……?」
「キーエル……、お前はコイツになにをされたのか解っているのか?」
「当たり前だろ。けどオレはこれから勇者の傍にいるんだし、皆と仲よくしたいんだ。あ、言っとくけどな、勇者とはそんなに仲よくしたいなんて思ってないからな!」
顔を
我に返ったイルガはイルガでキーエルに抱きつき、柔らかな肌に頬を擦り寄せる。「わ、危なっ」とスプーンを落としそうになるキーエルを意に介さずに。
「ありがとう、キーエル! 私もキーエルと仲よくしたいわぁ」
「ふざけるなよ、イルガ」
レガルドの睨みにこれはマズイと判断したイルガは離れ、「用があるから、またね」とさっさと立ち去ってしまう。
「キーエル」
「うあぃ? 勇者も食うか?」
一言言おうとする前に差し出されたレゴンの実にかじりつき、レガルドは深いため息を吐いた。思い出せば、キーエルは傍にいると言った。怒って怖がらせてしまえば、その言葉も取り消されてしまう可能性がある。それは困ると考え直し、レガルドは軽く咳払いをしてキーエルの髪にふたたび触れた。
「俺の傍にいるな?」
「いるよ。でなきゃお前怒るしさ」
「その言葉を忘れるなよ」
「怒られるのはごめんだし」と放つキーエルの髪を撫で、レガルドは口端を緩ませた。これからのことを思いながら。