※この作品はR-18です。

聖娼館ハルトゥム   作:Anacletus

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第三章十三節★

第三章十三節「娼館序曲」

 

【月兎亭】の大浴場は幅四十畳にもなる巨大な大理石製の浴槽と三十人が同時に身体を洗える洗面台を備え付けた西部でも有数の湯殿とされている。

 

 大量の湯は全て源泉掛け流しで湖面のように張られた光景は壮観だ。

 

 敷地の奥に面しているらしく。

 

 正面玄関からは見えないものの、館の大部分が割かれている空間は全天開放型で円形のドーム状となっている。

 

『こっちこっち~~』

 

 入り口は一つではないようで。

 

 湯気で見えない遠方からは少女達の笑い声が天女の囁きよろしく響いていた。

 

 二人で仲良く入浴。

 

 そっちの方が少年的には性に合っているが、そこは娼館に仕える者の性か。

 

 璃紗はテキパキと何やら壷や透明な液体の入った大きな椀を何処からか取り出して行為(プレイ)の準備をしていた。

 

 懸命に一人前になろうとする少女の努力を無駄にしたくもなかったので何も言わず。

 

 されるがままとなって浴場内部へ手を引かれていった少年はいつの間にか。

 

 薄く石畳(タイル)の上に伸びている柔らかく透明なものに寝かせられている。

 

(これって俗に言う水禍(スライム)ってやつかな?)

 

 その肉体を構成するのは99.04%が水という生物。

 

 残りの約1%が細胞壁と魔力の吸収を行う媒質で出来ているとされる魔術実験によく使う家畜化された存在である。

 

 基本的には無害であり、自己を構成する魔力と水を一定量供給されれば、簡単な魔力運用で形は自由自在というのは大陸標準の魔術知識だ。

 

(水に寝てるような気分て言うのかな?)

 

 今まで感じた事の無い質感の寝具。

 

 珍しい敷物に少年は少しだけ興味深そうな顔をした。

 

 そんな横で準備をしている璃紗は少年の身体を見ないよう視線を伏せがちにしている。

 

 それと言うのも前回はあくまで目隠しをされていて、相手の身体なんてまじまじ見ている暇が無かったからだ。

 

 脱衣所で初めて男の裸というものを真正面から見てしまった璃紗は少年の股間を見て、数秒間固まった後、釘付けになっていた顔を何度も横に振っていた。

 

 見られる事は前回の行為で少し慣れたものの、見る方はまだ慣れず。

 

 それでも恥じらいをグッと堪えて少年と連れ立って浴場へと入った決意は固い。

 

 身体に椀から取った透明な滑りのある液体を塗り込んで、その上から香油を少々伸ばす。

 

 すると、弾けるような瑞々しい肌は一転してテラテラと妖艶な艶を帯びたものとなった。

 

 手が届かない所も簡易の魔術で塗り伸ばしたらしく。

 

 少女は床の上で間抜けに転ばぬよう細心の注意を払いながら、水禍の横にペタンと正坐した。

 

「準備出来ました。イクス様」

 

 クニャリと。

 

 背凭(せもた)れのある椅子のような動きで、透明な部分が少年の上半身を起こす。

 

「そんなに畏まる必要無いから。一緒に遊ぶくらいに考えればいいんじゃない?」

 

「そんなに簡単じゃない……」

 

「そう?」

 

 よく研磨され顔すら映る大理石に己の顔を俯けて。

 

 少し顔が曇っているのにハッとした様子なった璃紗は笑みを浮かべた。

 

「……」

 

 その様子に少年は“簡単じゃない”らしい少女の頬を両側からフニッと両手の指で引き伸ばす。

 

「ふぁ、ふぁにふるほ!?」

 

「え、いや、よく伸びそうだなぁって」

 

「ふぁめへ!?」

 

 伸ばすのを止めた少年が少女の腰を抱き寄せた。

 

「?!!」

 

 胸の前で跳ね乱れる髪が指で梳かれ始める。

 

「僕は君に会いたいと思って此処へ来た。娼婦の奏璃紗じゃなくて、みんなにリーシャって呼ばれてムスッとしてる君の方に……」

 

「此処が娼館なのに?」

 

「まぁ、そうなんだけど」

 

 言われている事は理解して。

 

 しかし、己が進むべき道を厳しく考えながら育ってきた少女はどう返していいかも分からずにいた。

 

 自分のままでは娼婦になれない。

 

 だが、娼婦のままでは少年の要望には答えられない。

 

 ならば、どうするべきだと言うのか。

 

 答えがまだ人生経験も浅い少女に分かるわけもない。

 

 娼婦と客じゃダメなの?

 

 そんな言葉を璃紗は喉の奥へ消した。

 

 菓子に夢中となっていた彼女へ掛けられたベルンの咳払い。

 

 娼婦としての自覚を持てとの忠告。

 

 言われるまでも無く自分が未熟だなんて少女自身が一番よく分かっている。

 

 だが、娼婦としてではなく自分のまま向き合って欲しいと客(しょうねん)は要求するのだ。

 

 これが理不尽でなくて何だと言うのか。

 

「こうしてるだけでも気持ちよくない?」

 

「え?」

 

 割れた虹彩が少年を見つめる。

 

「これだけでも結構嬉しかったりするんだけど」

 

「ぁ……」

 

 自分のへそに当たる熱い感触に少女の顔が赤くなった。

 

「嬉しい、の?」

 

「ここがこうなっちゃうくらいには」

 

「……そうなんだ……」

 

 湯に入ったわけでもないのに上(のぼ)せたような表情で少女がコツンと額を少年の胸へ付ける。

 

「男の人って甘く囁いて体を差し出せばイチコロだって、みんな言ってた……」

 

 確かに娼婦は身体を売ると同時に相手の征服欲、心をも満足させる“仕事”だ。

 

 割り切った無味無臭な囁きを過剰に粉飾するくらいが実は調度いい。

 

 そんな意見は妥当かもしれない。

 

 しかし。

 

「それは間違って無い。でも、別に僕はそういうのが聞きたくて来てるわけじゃないし」

 

「イクス……イクスにとっては……どういうのが、その…“正解”、なの?」

 

「僕は君と仲良くなれたらと思ってる。娼婦と客だとしても、間に嘘が有っても、ね」

 

「ただのお客さんじゃ嫌って事?」

 

「お客さんでも親しいお客さんになりたいって事かな」

 

 考えて。

 

 けれど、答えが出るはずもなく。

 

 自分は今娼婦として客に体を預けているなんて事すら忘れて。

 

 少女は少年の優しい顔を見つめる。

 

「まだ璃紗には難しいかもしれないけど、誰かと親しくなってみたいって本気で思うようになったら分かると思う。大切なのはどうするかじゃない。どうしたいか。そして、どうさせたいかだって」

 

「……何か……イクスって我侭な気がする……」

 

 その呟きに思わず少年は笑ってしまった。

 

 言われるまでも無く。

 

 娼婦に娼婦じゃなくて個人として付き合えと強要する悪い客は正しく自分だった。

 

「うん。ごめん」

 

「謝るくらいなら、そうしなきゃいいのに」

 

「お詫びに今度来る時はまた違うものでもプレゼントするって事で」

 

 悪戯っぽく微笑んで。

 

 額にそっと口付け一つ。

 

「ん…やっぱり、イクスって変…するなら、口だっていい……」

 

「そう?」

 

「ぅん。そう」

 

 もう蕩けた顔で。

 

「だって」

 

 言われるまでもなく妖しく媚びた表情で。

 

「イクスは」

 

 香油に含まれる薄い媚薬に肉体を熱くさせながら。

 

「璃紗のご主人様だから」

 

 少女は自分の身体が疼くのを実感していた。

 

 自らの股間を埋めて脈打つ幹。

 

 全裸で抱き合っているのに色気のある話なんて一つもせずにいた自分達が高ぶるのは薬だけのせいか。

 

 震える胸の内の拍動が、全身に巡る気持ちが、可愛い娼婦ではなく、ただの不機嫌な自分がよいのだと言い切る少年の肌を求めていた。

 

「イクス…璃紗の身体…気持ちいい?」

 

 上目遣いに確認して。

 

「うん」

 

 少年の幹が堅くなるのを感じて。

 

「じゃあ、して…?」

 

「男は狼だから気を付けないとダメだって言われなかった?」

 

「イクスなら、狼でもいい……」

 

 その儚げな笑みが娼婦のものか。

 

 それとも少女のものか。

 

 区別する事に意味など無いと少年はそっと両手で少女の腰を引き寄せた。

 

 愛なんて囁かれはしなかった。

 

 其処にいたのは優しくて傲慢な狼と儚くて眩い笑みを浮かべる小獅子だったのだから。

 

 *

 

「ん、ぁ…ぁ…ッ、イクス…そんなコリコリしちゃ、やぁ♡」

 

 甘い喘ぎを零しながら。

 

 まだ幼くも膨らみ始めた二つの蕾を指で転がされて。

 

 少女の背筋が少し仰け反る。

 

 グチュグチュと音を立てるのはもう透明な先走りを漏らす少年の幹の根元。

 

 すじから零れる蜜は僅かな動きにもいやらしく股間と股間の間に糸を引かせて。

 

 高ぶりを背筋を駆け上がる甘い痺れへと変化させていた。

 

 テラテラと滑(ぬめ)る性器同士はもう湯を被ったように熱くなっている。

 

 指で押し捻り潰される桜色の乳首は本人の羞恥に反応しながらしこり勃っていた。

 

「イクス…気持ちいい? 璃紗のお、ぉまんこ…気持ちいい?」

 

 卑語。

 

 少女の脳裏の何処かで男に言うと喜ぶ単語が、覚えるよう言われていた言葉が浮かんでいく。

 

「ぅん、ちゅ」

 

「ひぁぁ!?」

 

 唇を首筋に押し付けられた少女は甘く甘く自分が融けていくのを止められずにいた。

 

 恥しい事が気持ちいい。

 

 少年の前で少年に触られる事が気持ちいい。

 

 悦ばせたい。

 

 もっと、イヤラシイ言葉で一緒に気持ちよくなりたい。

 

 もはや淫欲となった感情が脳裏を埋め尽くしていく。

 

 娼婦というのは“している時”も頭の何処かが醒めているものだと彼女の先達は少女達へ教えていたが、そんな冷たい部分なんて一欠けらもなく。

 

 少女は只々(ただただ)その身体に蓄積されていく熱を吐き出すように少年へ囁く。

 

「ぁ、ぁ、ぁ?! んッ、はぁぁあぁ♪ イクスぅ♪ ぁ、ぁ、んぁ?! 気持ち、いいよぉ…」

 

 ビクビクと背筋が一際大きく仰け反り、少女の下半身がブルブルと震えた。

 

 まだ、本当にしてもいないのに達してしまった事を彼女自身理解しない。

 

 一つだけ言えるのは天にも昇る心地で熱い幹に自分の性器を押し付け続けたいと願った事だけ。

 

「ッ~~」

 

 真っ白に焼け付いた脳裏からは言葉にならない声。

 

 少年と初めてを終えた翌日。

 

 罰を受けながらも何とか一日を終えた彼女が寝台で初めて自分を慰めた時より、ずっとずっと心地良くて熱く淫らな声。

 

 薬が残っていたとか。

 

 初めてだから忘れられなかったとか。

 

 理由なら幾らでも後から自分で作れた行為。

 

 しかし、一人で自分を擦り上げても、もどかしさと切なさが、優しく笑う少年の顔だけが浮かんできて、達しても達しても苦しいばかりだった。

 

 身体は弛緩しても心の空ろさは消せず。

 

 隣にあるはずの温もりを探して。

 

 思い浮かべる少年の声に導かれるまま。

 

 何度も小さく名前を呼んだのは数日前。

 

 自分が変わってしまったのだと。

 

 変えられてしまったのだと。

 

 自覚して。

 

 少女は言いようの無い隙間を胸の奥へ抱え込んだ。

 

(イクス。また、来てくれた……イクス……イクス……)

 

「リーシャ」

「?!」

 

 ゾクッと背筋を駆け昇る何かが言い知れぬ悦びを少女の脳髄へと運ぶ。

 

 プチュッと股間には少女の蜜が溢れた。

 

 触れて、こすれるよりも熱く。

 

 自分を満たしていくものが、少年への想いなのだと理解も出来ず。

 

 自分が娼婦だなんて事も忘れているのに内側から溢れ始めるのは淫らな欲望ばかりで。

 

「イ、クスぅ」

 

 はしたない牝の顔で熱い吐息を零しながら、少女は自分の股間の奥。

 

 疼きを止める方法を自覚した。

 

「して? り、璃紗にこの間みたいに…して? こ、今度はちゃんとするから、だから…」

 

「うん……」

 

 唾液も垂れ流しで朱い舌で囁く唇を少年が優しく射止めた。

 

「ん♡ んぅ♡ ちゅ、ちゅく、っは、くぅん♡ イクスぅ…くちゅ、イクスぅ♡」

 

 昔から少女達は年上の仕事が上手な先達から多くを伝授される。

 

 それは男の手玉の取り方だったり、男を満足させる方法だったり、相手を不快にさせず申し出を断る話術だったりした。

 

 身体を使った男の満足のさせ方だって並みの娼婦よりずっと豊富な知識を、璃紗を始めとした全員が習得している。

 

 だが、そんな事が何の役に立つのか。

 

 今、目の前にあるものに夢中な少女は、自分が一番欲しかったはずのものを無自覚に貪る少女は、知らない。

 

「ぁ…い、入れちゃうの? り、璃紗の此処…ぉ、おまんこ、するの?」

 

「うん。ゆっくりするから、ね」

 

 コクリと頷いて。

 

 嬉しさが、悦びが、満たされる期待が、砕けてしまいそうな腰の奥にある疼きが、少年の行為を全て許容した。

 

「ん…して? イクスとまたしたい…こ、今度はちゃんとた、種付け、して?」

 

 もう教えられた台詞を喋っているのか、自分の欲望を口にしているのか分からなくなって。

 

 ただ、自らの欲望のままに少女はオネダリした。

 

 その表情に欲情しない男はいないだろう。

 

 まだ二回目だと言うのに早くも開花し始めた女としての奏璃紗は男が娼婦に求めるものを全て無智のままに持っていた。

 

 一つ。

 

 娼婦と彼女の間に差異があるのだとすれば、それは一つの感情に支配されているかどうかだけだ。

 

 腰を両手で掴んだ少年はそそり勃つ自分の幹の先端を少女のもうお漏らしのように蜜を滴らせて赤く色づいている“すじ”の中央へと宛がった。

 

「いくよ」

 

 コクンと頷いて。

 

 ニチュッと先端が一本の線を輪へと押し広げていく。

 

「ッ、は、ぁぁあ!! イ、イクスぅ♡ は、入ってぇ♡ おちんちん入ってるのぉ♡ んゃぁ♡」

 

 毎晩のように自分を慰めていた少女の其処はグズグズに蕩け切っていた。

 

 だが、少年の形を確かめるように太い幹をぴっちりと隙間無く呑み込んでいく。

 

 プリプリとした襞は抽挿に弾力を失うどころか。

 

 少年の方を自分に合わせるよう盛んに擦り上げては逆に圧迫していく。

 

「璃紗…ん、くっ……」

 

 前回とはまるで違う。

 

 受け入れる準備が出来ていた。

 

 そう言って差し支えない少女の膣(なか)は本人のやんちゃな性格と同じく。

 

 生意気なまでに全方位から幹にじゃれ付く。

 

 遊んで遊んでと突撃してくる狗を相手にしているようなものだ。

 

 どんなに征服しようとしても相手を認めるまでは大人しく出来ない。

 

「いぃ? 璃紗のおまんこ、いぃ? イクスぅ♡」

 

「っ、うん…凄く気持ち、良くて…前よりずっと、くっ」

 

 何度も何度も確認しながら。

 

 自分の目の前の少年を“自分の番(つが)い”にしようとする獅子の本能のまま。

 

 少女は前回とは違って、自ら腰を積極的に押し付ける。

 

 全部、自分のものにするのだと。

 

 征服されているのではなく。

 

 征服しているのだと。

 

 無自覚なまま、その瞳の虹彩を朱く変えていく。

 

 グヂュ、グヂュ、ジュブ、ジュボ、ビュヂュ。

 

 卑猥な程に音を響かせて。

 脚をM字に開き。

 少年の背中に爪を立てて。

 

「ん、ぁ♡」

 

 眠っていた本能(もの)が呼び起こされたのか。

 

 口が大きく開いて少年の首筋を甘噛みした。

 

「ッ」

 

 幾ら優しくと言っても激しい行為の最中である。

 

 尖った犬歯は少年の肌に突き刺さり、律動(リズム)を刻む度に細い血を背中に零していく。

 

 それでも少年は動きを止める事無く。

 

 両手で腰を引き寄せて、男を喰らい尽くそうとする膣(なか)の猛獣の方へ槍を突き立てる。

 

【獅子神(レオ・ラーバ)】

 

 嘗て、百獣千獣を従えると言われた旧き異種は他の種族の例に漏れず。

 

 母系社会を形成する一族であったと言われている。

 

 女が全てを支配し、男は種を産む存在として生かされた。

 

 無論、弱き雄に生きる資格は無く。

 

 群れから排除されたとも奏家には伝わっている。

 

「イクスぅ♡ じゅぼじゅぼしてぇ!! 種付けしてぇ!! 璃、璃紗のおまんこに出ひてぇ♡♡♡」

 

 もう自分が少年が害している事すら自覚できない有り様で。

 

 ただただ、本能のままに自分を解放した少女は何度も何度も少年を噛んだ。

 

 血の味がしているのに脳裏へ突き抜けるのは甘美のみ。

 

 少年を自分のものとしている。

 

 今まで飢えていたものを与えてくれる“ご主人様”を、食い殺しそうな勢いで甘える璃紗はその一時“本当に殺してでも自分のものにしたい”とすら思考していた。

 

 娼館という抑圧された世界でずっと自分を押し込めて生きてきた彼女だからこそ。

 

 相手を求める行為は激しい。

 

 寂しい、苦しい、悲しい、怖い。

 

 立派になりたい、相手を思いやろう、自分は娼婦になる。

 

 まだ幼い脳裏に詰め込まれた現実は少女の実際の心の成長に合わせられる事無く、ずっとずっと無かった事にされていた。

 

 それが解放されればどうなるか。

 

 元々が危険な存在故に娼館へと身を落としたはずの奏璃紗は自分をようやく知る事となる。

 

「い、くよっ」

 

「ぅん! うん!! イクス!! イクス!! 璃紗のおまんこに種付けしてぇぇ♡ 全部、全部だひてぇぇぇぇ!!!」

 

 ビュッッッ、ボルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!!!!

 

「~~~~~~~ッ♡♡♡」

 

 子宮口を抉った鈴口は幹を一気に絞り上げる膣(なか)の圧力に射精を寸前で止められて。

 

 後から後から送り出される精液の固まりに無理やり放出を強制された。

 

 十数秒を掛けて少女の腹部が膨れていく。

 

 頑強な異種の血筋を引く少女は子宮を満たしていく初めての精の感触に恍惚の表情で血だらけの舌をだらんと垂らした。

 

(しゅごいぃ…あかひゃんできひゃうよぅ…やぁ♡ イクスぅ♡ しゅきになっちゃうのぉ♡ しょうふらのにぃ…♡…いくすぅ……)

 

 涙も唾液も垂れ流しのはしたない少女の額へ口付けして。

 

 少年はピチャピチャと喉元を舐める唇が大きく食もうとするのを止めなかった。

 

 そうして。

 

 ゴチュッ。

 

 そんな音が、した。

 

 少女は親愛の証として本能的に動脈は避けつつ首筋の肉を己へと同化する。

 

 官能、高揚、肉欲、愛欲、全てが相(あい)まった感情は最終的に“相手を己にする”という一つの感情へと行き着くのだ。

 

 即ち。

 

「イ、クス…………?」

 

 我に返った少女はその先からの記憶を何一つとして保持出来なかった。

 

 *

 

 感情の閾値が振り切れたらしい少女の瞳をそっと閉ざして。

 

 少年は食い千切られた首筋や行為の後始末を誰にさせるでもなく一人で行った。

 

 身体を洗い流した後。

 

 湯殿に回復した体で少女を抱きながら浸かっている様子は何事も無かったかのようだ。

 

 しかし、湯気の中からベルンが姿を現した時点で少年は見られていた事を悟っていた。

 

 血の味を覚えた獣は殺されるのが人間社会の常だと言われる。

 

 だが、亜人は一体どうなのか?

 

 少女に罪が無いとはいえ、かと言って体面というものもある。

 

 白い絹布(けんぷ)を胸元まで巻いた彼女がそっと湯に入って少年の前までやってきた。

 

「……イクス様の思っているような事は無いと最初に伝えておきます」

 

「それなら、出て来なくてもいい気が……」

 

 見て見ぬふりをして秘密を処理するのは裏方の仕事である。

 

 自ら少女達の世話を買って出ている存在が自分の手塩に掛けた者を不幸にするとも思えず。

 

 少年は訝しがった。

 

「イクス様。このベルンは【月兎亭】にサイカ様の御爺様の代からお仕えしている身です」

 

「そうなの?」

 

「はい。差し出がましいとは思いつつも、この館の守護者をずっと気取って参りました」

 

「何となく人間よりは長生きしてそうだなぁって思ってたけど、そんなに?」

 

「ええ、種族の者は長寿で五千年は生きますから……今日はその守護者としての見解をお伝え致したく思い、この場に姿を見せる事としました」

 

「見解って?」

 

「身請けして頂けますか? この子を」

 

 少年が驚かなかったのは此処が娼館で自分が客だったからだ。

 

「璃紗を?」

 

 少女の秘密を見てしまった以上、その口止めくらいされると思ってはいた。

 

 その方法の一つが身請けだとしても驚きには値しない。

 

「……この数百年。この国を、この館を見守ってきました。その勘がイクス様。貴方こそ璃紗を唯一預けられる方だと言っているのです」

 

「断る理由は無いけど、いきなり過ぎない?」

 

「長く生きた分だけ、智慧があるとは申しませんが、元老院の貴族より彼らの内情に詳しい身です。それこそ、この国の亜人でこのベルンを抱かなかった種族は存在しないでしょう。彼らの事情を知るからこそ、貴方に璃紗を頼みたいとの願いは決して、その場の思い付きではありません」

 

「えっと、その……」

 

 少年が半笑いになる。

 

「すみません。ですが、これは事実です。そして、この子の出自の細部までベルンは知っております。その上で申し上げている事をご理解くださいますよう……」

 

「つまり、“食べられた”のが問題って事?」

 

 客を食い殺してはさすがに隠し切れない。

 

 だが、相手は少年である。

 

 別に害されたとは思っていない。

 

 お人よしかもしれないが、少年にだって種の性というのが堪え難いものなのは理解出来る。

 

 不死者として誰かに魔力を分け与えられなければ命を繋ぐのも危うい身なのだ。

 

 もう治った傷の事でとやかく言うつもりなんて毛頭ありはしない。

 

「はい。奏家一族の女性は基本的に子供を儲ける時以外は交合(まぐわい)を禁じられているそうです。その理由はイクス様が体験した通りの事が儘あるからだそうで……」

 

 食い殺される覚悟で子供を作るというのなら、そうそう何回も出来るような行為では確かにない。

 

「一度、男の味を知った奏の女は強い自我か自制心を持たない限りは男を食い物、文字通りの意味で破滅させる性だそうです」

 

「……」

 

「ただ、この子の場合は少し事情が異なります。この子の魔眼が変質したのを途中でお気付きでしたか?」

 

「一応。綺麗な色になってたのは」

 

 少年が頷く。

 

「この子は外見こそ“九十対十”ですが、実際には“九十九(オールナイン)”と呼ばれる先祖返りだと館の専属医が診断しました」

 

「“九十九”?」

 

「はい。人間の部分がほぼ存在しない。あるいは能力的に異種そのものと差が無い者をそう我ら亜人は呼び習わします。亜人国家の暗部。いえ、あまりにも危険な異質の部分と言えばいいでしょうか」

 

「璃紗が危険な存在って見なされてるのは魔眼だけのせいじゃないって事?」

 

「人間に近いと差別を受けるアルヴァスですが、その完全な逆もまた差別を受けます。ですが、それは心理的なものではなく。物理的な被害の例がある為なのです」

 

「物理的……」

 

「この子の魔眼は発動していないので、実際のところ正確な力は未だ分かっていません。ですが、その種別と近似能力だけならもう分かっています。それがたぶん、この子の潜在的な能力によって飛躍的に強くなるだろう事も」

 

「危ないって言うと石化とかの邪眼呼ばわりされる系統って事かな?」

 

 物理的な被害があるとすれば、そういう対象に対して何らかの致命的な変質を引き起こすタイプと考えていいだろう。

 

「はい。この子の祖先【獅子神(レオ・ラーバ)】に顕れる魔眼は一種類のみ。かなり特殊なものですが、完全に発動すれば、要らぬ災厄を招きかねません」

 

「どんな魔眼か訊いても?」

 

「こうしてお話をしている時点で決めていた事ですので。この子の魔眼の種別は【過去視】それも予備の診断結果から【柩眼(スクリニオ・イリス)】に近いものと思われます」

 

「すくりにお・いりす?」

 

「単純に言えば、全てを机の上で見る瞳。あるいは柩(ひつぎ)を引っ繰り返す瞳。そのようなものです。如何なる情報も過去のものならば、視認可能。国家機関が喜びそうな能力と言えば分かりますか?」

 

「……異種にそこまでの能力が宿る例って多かったかな? 魔術講義だと異種でも高次の能力を持つのは一部だって聞いたけど」

 

「お詳しいですね。ええ、そうです。普通そんな能力は異種にだって容易に宿るはずがありません。ですが、この子の家系は本来が東方の地より来る者。何でも祖先である【獅子神(レオ・ラーバ)】は“神の座”を管理していたとの話です」

 

「神の座?」

 

「詳しい事は分かりません。ただ、異種において神を名乗るべき血筋であったと。それを人間に簒奪されて力を失った為に西部へ落ち延びた家柄だと聞いています」

 

「やけに詳しくない?」

 

 少年はさすがにその家系にしか伝わっていないだろう話をするベルンに疑問をぶつける。

 

「寝物語ですから、そういう事を愚痴りたい方は大勢いらっしゃいます」

 

「聞かなかった事に……」

 

 他人の秘事に首を突っ込む程、少年も野暮ではない。

 

「はい。それで話を戻しますが、過去視系列の魔眼は現在の大陸でも百人いないという話です。この子は外見が人間で能力が異種そのものに近いという、言わば二重の差別理由で此処へ捨てられましたが、能力が明らかになれば、更なる不幸が降り掛かるのは必然かと思われます」

 

「此処で守り切れないって事?」

 

「この子の瞳の変化は魔術で隠せても、これから色々と変化した瞳で“見てしまう”事は確実でしょう。そうなれば、この子がどれだけのものを背負い、傷付くか……この館にはこの子が見るには早過ぎるものが多くある。それこそ心の全てを壊しかねない程に……」

 

 少年は自分の傍がベルンの思うほどに見ていいものばかりではないと知る故に沈黙した。

 

 霧の境界が視認出来るようになれば、その影響は人体へ加速度的に広がる。

 

 かと言って、そのまま放置しておいたところで国家全土を覆う霧の真実が館の中で隠せるかと言えば、それにも疑問が残る。

 

 一体、どの部分まで過去が見えるかにも拠るだろう。

 

「自分で言うのも何だけど、僕の傍って此処より危険だと思うよ?」

 

「……此処が元々は貴族達の寄付で成り立っていたというのはサイカ様からお聞きになられましたか?」

 

「え、うん。昔は孤児院だったって話なら」

 

「サイカ様の話には続きがあります。現在もこの施設はアンサルの家が統括していますが、その資金の半分程は元老院が出しています」

 

 アルヴァスの統治組織が直接的に関わっている。

 

 それはつまり“使われる可能性”があるという事だと少年も気付いた。

 

「情け無い事ですが、今も実質我々は管理者であって完全な運営者ではないのです。もし、この件が元老院上層部の耳に入れば、璃紗はたぶん研究施設へと送られるでしょう。今、このアルヴァスに漂う危うい空気を感じれば、どんな事に能力を使わせるかは火を見るより明らか。この提案を出来る限り早めに受けて頂きたいのにはこのような理由もあるのです」

 

 恥を忍んで。

 

 ベルンの姿はそう少年に見えた。

 

「例え、イクス様の傍が今より危うい場所としても実験材料や情報機材と同様の扱いを受ける可能性のある場所で孤独となるよりはずっとマシなはずです」

 

「……この事をサイカは?」

 

「背景は知っていますが、現在の状態はまだご報告しておりません。ですが、察してくださると思います」

 

 独断専行。

 

 しかし、そうでなければ、万一事が露見した時に言い訳が出来ない。

 

 主に仕える者として当然とばかりに泥を被る気でいるベルンに少年は家族という言葉を思い浮かべた。

 

「……断る理由は無い。ただ、アルゥさんと話し合ってからでいいかな?」

 

「勿論です」

 

 深く頭を下げたベルンが湯から立ち上がる。

 

「どうかサイカ様には内密に。この貸しは何れ必ず」

 

 颯爽と動き出した背中は果たして温まったのかどうか。

 

 少女の為だけに身を削って働く姿は少年の瞳には眩く映った。

 

「そろそろ。上がらないと……」

 

 ずっとお湯に入れて上せさせるわけにもいかないとお姫様抱っこで璃紗を少年が抱上げた時だった。

 

『マ~ヲヲ、ヲ、ヲ。マヲヲ~~♪』

 

 鼻歌のような節が付いた黒猫の独特な声が湯殿へ響く。

 

 何処にいるか湯気で定かでは無い。

 

 だが、何故か。

 

 良い湯だな♪とでも言っているように聞こえた。

 

「何処に消えたのかと思えば……」

 

 溜息一つ。

 

『きゃ~猫ちゃんがいるよ~~!!』

 

『マヲ?! マヲ~~~!!』

 

 何やら娼館を勝手に満喫しているらしき鳴き声は黄色い声に呑まれていった。

 

「……やれやれ」

 

 今も気絶したままの少女の寝顔は穏やかで。

 

 大切な者を託された少年は重さをしっかりと受け止めるよう少し強く璃紗を抱き直した。

 

 その夜。

 

 少女を着替えさせるのは自分だと気付いた少年は途中で入ってきた娼婦達に「そういうプレイ?」と冷やかされる事となり、大いに困る事となる。

 

 眠り姫となった本人が目覚めたのは翌日の朝。

 

 いつもの自分の寝台で独り。

 

 奏璃紗は傍に無い温もりを求めて、少しだけ泣いた。

 

 ほんの少しだけ………。

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