第三章二十一節「焼ける夜」
微熱を帯びたように温かな身体。
愛くるしくも甘えた媚態。
少年の腕の中でされるがまま。
黒いドロワーズに手を導いた黒い小獅子は大好きと囁いて少年に微笑みを浮かべた。
スベスベとした柔肌は吸い付くような触り心地で。
少年は指先に感じる少女の中心。
すじの中程に蜜の玉が浮いている事を指で確認する。
そのまま身体を解し慰める事も出来ただろう。
しかし、全てを捧げて娼婦になると宣言した少女の健気さに応えたくもあった。
「リーシャ。僕の此処……口でしてくれる?」
「ぁ……はぃ……」
もう大きく膨れている少年の股間に気付いて。
コクンと少女が羞恥と期待に頷く。
「イクス……」
腕から抜け出して。
そっと上着が脱がれる。
上半身が少年の前に晒された。
白い肌。
背中を覆うように広がる跳ね乱れた長い黒髪。
ほんの僅かだけ先端を膨らませた蕾。
少女の起伏が乏しくも瑞々しい裸体は蒼い光の中では妖しく。
「可愛いよ……」
「ん……」
全て少年に捧げるよう見せ付けながら。
これから奉仕する“ご主人様”へ。
まだ幼い自分がするには背徳的過ぎる行為を璃紗が告げる。
「イクスのおちんちん……リーシャのお口で慰めるから……」
少年の白い下穿きから細い指が優しく一物を取り出した。
「ふぁ……大きぃ……♪」
うっとりと媚びた声で呟いて。
少女が四つん這いで少年の股間へと顔を近付けた。
既に大きくそそり勃っている幹の先端は薄桃色。
これからされる行為を期待してか。
小さく脈動していた。
「優しく、ね?」
「う、ぅん…乱暴にしたりしないの……だって、此処はイクスが璃紗を気持ちよくしてくれたところで…これからも仕える場所だから……ちゅ」
「ん」
先端に震える唇を軽く付けて。
両手の指が幹と睾丸を優しく揉み解し始める。
「これが…イクスの……」
鈴口から早くも零れ始めた少年の蜜で唇を濡らして。
開いた唇の間に掛かるトロリとした糸を可憐な舌が舐め取った。
小さな頃から仕込まれた少女の仕草は百戦錬磨の娼婦顔負け。
それを意識せずに己の一部とする璃紗は初々しくも恍惚とした顔で再び少年の亀頭へと唇を付けた。
「リーシャ……」
「イクス……ちゅ、ちゅく、ぷちゅ、ん、んちゅ」
まるでハーモニカでも吹くように棹の部分に口元を移した少女が指を沿えながらチロチロと舌で舐めしゃぶる。
タラタラと根元に落ちていく唾液と先端から溢れる蜜が少女の唇と喉を濡らしていく。
丁寧に舌先で舐め、唇でしゃぶる姿にドクンと幹が硬く膨れた。
「ちゅ、んちゅ、ちゅく、ぷぁ……イクス…イクスは……何処が好き?」
唾液と蜜を口元に滴らせながら、小さな娼婦が囁く。
少年が頭を優しく撫でて呟くと嬉しげに璃紗は頷いた。
自分の口には大きな亀頭。
それを垂らした舌で裏筋から受け入れて食んだ少女は首を上下させる。
傘の部分が全て口には入らない。
しかし、懸命に舌で裏側をなぞられる感覚に少年は吐息を少し乱れさせた。
それに気を良くしたのか。
積極的に先端を食んだ唇がチュルチュルと先端を吸う。
「ん、ん、ちゅ、ぐちゅ、ちゅ、ぴちゅ、くちゃ、くちゅ…ぅ…ん」
水音を立てながら奉仕する様子は子猫が皿から乳でも飲んでいるようだ。
甘やかな少女の舌と唇が自分の幹を舐めしゃぶる様子に少年は腰の奥が疼くのを感じた。
その必死さが、その息も最小限に相手へと尽す様子が、健気で。
「っ……リーシャ……もう出ちゃいそうだから、少し口…離してくれる?」
「ん…ぁ…ちゅ、はぁ、はぁはぁはぁ…このままお口に出さないの?」
ようやく股間から顔を上げた少女が息も切れ切れに少年へ訊ねる。
「その…僕って結構多いみたいだから、咥えたままだと溺れちゃうかもしれないし、ちょっと口を開けて上を向いてて」
「う、ぅん」
少女が膝立ちになって素直に少年の言う通り口を開ける。
立ち上がった少年は片手で自分の幹を扱きながら、もう片方の手で少女の形の良い顎をそっと上向けさせた。
ヂャク、ヂュク、グチ、グチュ。
今にも湯気を上げそうなくらいに熱い幹。
その先端から蜜が垂れるのをうっとりと璃紗は見つめて。
これから自分の口が穢されるのだと、心の内から震えるような悦びを感じた。
牡の匂いに鼻腔を満たしながら待つのだ。
女として、牝として、娼婦として、こんなに嬉しい事は無いと。
「…っ……璃紗…目を閉じて…舌、出して……」
「はぃ」
その瞬間。
ビクビクと震えた鈴口を少年は少女の舌に押し付けた。
ビュ、ブリュルゥウウウウウウウウウウウ!!!
「―――ッ?!!」
まるで水禍(スライム)のような白濁が迸ったかと思えば、一瞬で璃紗の口から頭、顔、喉、胸、腹。
全てを汚していく。
「か、ふ、ん…ぷ…ぁ…っんく」
口内が白濁のプールと化しながらも、璃紗はそれを飲み込みもせず。
自分の全身を満たしていく匂いに酔いながら、薄らと瞳を開いて少年に見えるよう中を晒した。
「…璃紗…受け止めてくれて、ありがとう」
背筋を焼く震えは少年の牡の匂いと精の熱さだけではないと知っているから。
少女はコクンと頷いて、少年の味と温かさを喉で味わう。
「イク…スぅ」
切なく見上げる少女の上半身はこの上なく淫靡だった。
乳房はテラテラと濡れ、その蕾は朝露のように白濁を滴らせている。
「可愛いよ……僕だけのものにするから、ね?」
「ん♡ 璃紗はイクスのだから…何してもいいの…」
ジンジンと乳首を熱くさせながら、少女は囁いた。
少年以外の誰にも触れて欲しくなんて無かった。
ただ目の前の人だけに触れて欲しかった。
染められた悦びに浸り。
褒められた言葉に打ち震え。
三文小説の捨てられる娼婦みたいに相手へ夢中となりながら。
ああ、それでも、そうなったっていいと。
少年の為ならば、どんな事だってしてやりたいのだと。
璃紗は己の胸の高鳴りのまま。
微笑み掛ける。
「準備…するから…見てて…」
シュルシュルとドロワーズの紐が解かれていく。
すると股間を覆っていた場所がハラリと落ちて別々となった。
残ったのは可憐な白い肌と尻から太腿の上を覆う部分だけ。
最も大事な場所だけが丸見えとなって少年の前に現れる。
背を向けて四つん這いになり。
自分のもう濡れて蜜を垂らしているすじを、尻を高く突き出して。
少女はそっとおねだりする。
「イクス。イクスの…おっきくて熱い…おちんちんで…璃紗の…まだ小さい…お、おまんこに種付けして…いっぱい…いっぱい…びゅーびゅーって、して?」
顔が見えなくて良かったと璃紗が自分の赤い顔を俯ける。
娼婦らしく。
自分らしく。
本来ならもっと卑猥な言葉だって言える。
けれど、少年に言われた末に思ったのだ。
虚ろな言葉ばかりでは嫌だなと。
少年に少女が今の思いで紡げるのはそれで精一杯だった。
「リーシャ」
膝立ちになって少女の尻が掴まれる。
「ひぁゃん♪」
思わず甘い鳴き声を漏らして。
ふるるっと少女は身体を震わせた。
「そんなに可愛いおねだりされたら、我慢出来なくなっちゃうよ?」
熱い先端が自分のすじにチュグッと押し付けられるのを感じながら。
自分の蜜と少年の蜜を交わらせているという事実に達してしまいそうな悦びを感じながら。
「いいの! イクスは我慢したりしなくていいの! おちんちん入れたいだけ入れても……赤ちゃんのお部屋使ってもいいのはイクスだけなんだから…」
璃紗は熱い吐息を漏らして、半ばボゥッと囁いていた。
「リーシャのここ…僕のを離れたくないって吸い付いてきてる…」
「そ、それはイクスが…璃紗におまんこしたからぁ……」
「じゃあ、責任取らなきゃね…」
「ぁ…んぅ♡」
まだ三回目の行為に少女の入り口がミチミチと粘着いた音を立てて広げられていく。
媚肉が中に沈み込んでいく少年の太さに慣れていった。
(イクスのぉ♡ 入って来てる、よぉ……ゆっくりぃ♡ 璃紗のおまんこぉ…広げてぇ♡)
少年に押し入られる感覚。
自分の狭い膣(なか)を遅々として掻き分けて熱く。
襞が潰されて形を覚えていく感覚。
征服されている悦びが少女の胸を満たしていく。
「ぁ…あ…ぁ…っ…イクスぅ…」
「リーシャ。前よりずっと奥まで…」
「璃紗のおまんこぉ…イクスのおちんちん覚えてるの…」
「じゃあ、ちゃんと全部教えるから……」
「ひぅ♡ くぅん」
優しく背後から抱き締められた時。
吐息を耳元に感じた時。
少女の背筋に奔ったのは快楽だけでは無かった。
心地良く。
堕落しながら。
悦楽に身を任せているのに。
溢れていく想いは切なく。
「……っ……すき」
「リーシャ?」
声に混じった涙が少年の動きを止めさせて。
「すき……すき……イクス……すき…」
消え入りそうな囁きに優しく答えを返させた。
「うん。僕も…すき…だよ。璃紗」
「ん、ん……いっぱい、して? 璃紗に教えて? 口付けも、種付けも、赤ちゃん作るのも、イクスがいいの…イクスじゃなきゃダメ、なの……イクスぅ……」
チュム。
「ふ…ぁ…ぁ…イク、スぅ♡」
少女の最奥。
子宮口にようやく先端が押し付けられた。
舌を垂らして。
ポロポロと涙を零して。
幸せだと。
泣いてしまうくらい嬉しいのだと。
少女は無意識に少年の亀頭を奥で甘く食んだ。
蜜を湛えた中の蠢きは最初の頃のやんちゃさとは別物で。
弾力のある襞はじゃれつくというより、貞淑な猫のように大人しく。
ねっとりと少年の太さに蹂躙されるのを良しとした。
本当に覚えているのだ。
ずっと仕える牡の形を。
これからも飽きられたくないと。
傍で子供を産み続ける為に。
それは神とも謳われた者の子孫が持つ本能。
しかし、それ以上に少女の心の底からの願いだった。
「イクス好みの女の子になるからぁ…イクスの赤ちゃん…たくさん孕むからぁ…してぇ…イクスぅ♡」
もう少年に言うべき言葉は無かった。
一言。
耳元で囁いて。
ゆっくりと璃紗の膣(なか)で抽挿が始まる。
引き抜かれていく長い幹の感触に少女の喉から愛らしい悲鳴が漏れた。
「やぁぁ♡ 抜いちゃ…」
今度は再びの挿入。
ヌプリュゥルルル。
「ひぁ゛ぁああぁ♡♡ あ、ひ、んゃぁぁぁ♡♡♡」
たった一回の抜いて押し込まれるだけの行為。
それだけでもう少女は蕩け切っていた。
グズグズの膣(なか)は正に躾けられている悦びに少年を何度も何度も蜜を吐き出し。
行かないで行かないでと出ていこうとする幹に纏わり付いては引き止める。
ヂュ…プ…グチュ…グプ…。
「イクスぅ…っ…イクスぅ…もっとぉ……」
もどかしくて。
しかし、それ以上に少年の形が分かる遅い交合(まぐわい)は今まで以上に濃密な快楽で璃紗の身体を支配していた。
「…ずっとこうしてぇ♡ これすきぃ♡」
少女は甘えた声で尻を少年の犯し易いように上向ける。
チュグ、グプ、ズヂュ、グチュ。
すぐに達してしまうような激しい快楽ではないからこそ、いつまででも続けられる。
少年と夜通し。
いや、終わりも無く繋がっていられたらと夢想して。
「ん、ひぁ…璃紗のおくぅ…悦んでるよぉ♡」
一番奥に亀頭が到達する度に疼き、子種を待ち侘びる子宮口が蓄積されていく熱と快楽に解れていく。
「璃紗…もう僕も…」
ゆっくりと言っても得られる快楽は溜まっていた。
限界が近い吐息を感じて。
少女は膣(なか)を絞り。
ドロリと二人分の蜜がシーツへと大量に零れて池を作っていく。
「イクスの大切な子種…璃紗のおまんこでびゅーってしてぇ…イクスだけの赤ちゃんの部屋いっぱいにしてぇ…」
あくまで激しい動きはせず。
しかし、しっかりと少女の腰を掴んだ少年は少女の緩んでいく子宮口へ鈴口をぴったりと付けて射精を開始した。
びゅ、びゅるる、びゅるうう―――。
「ひぁ~~~~ア~~~ぁ~~~♡」
今まで無理やり子種を子宮に送り込まれていた交合(まぐわい)とは違って。
子宮への道をもう開いている。
通過する今までの比ではない精量に子宮口で少女は達していた。
びゅるるる、びゅ、びゅ―――。
「いくすぅ♡」
それから三分以上。
射精は続いた。
ゆっくりと子宮を膨らませていった少女は本当に妊娠してしまったような膨らみようの腹に驚きもせず。
只管、自分の中に溜まっていく命の種を愛(いと)おしく思う。
その様子は少年の子を孕んだ牝の姿そのものだ。
射精が終わった時ですら、残念そうにしていたのだから。
「こんなに……あかちゃん…できひゃうわ…」
まだ固いままの幹を痙攣する膣(なか)で逃がさぬように引き止めながら。
ちっとも悲壮さの欠片も無く呟いて。
少女は自分の横にある手に自分の手を重ねた。
「っ…璃紗……疲れてない?」
息を整えながら男にとって重労働である射精を終えた少年が囁く。
フルフルと首が横に振られた。
「じゃあ…もう少しだけ…ね?」
「ぁ…」
一物がズルゥゥゥッと引き抜かれ、ぽっかりと開いた穴から膣(なか)に残っていた白濁が零れ落ちる。
少年の腕がコロンと璃紗の身体を仰向けにさせた。
「~~~」
大きくなった腹と精に穢れ切った身体を見られる羞恥と悦びが交じり合ってか。
片手で少女が顔を隠して。
「大っきくなったお腹も可愛いよ。璃紗」
「ッ」
思ってもいなかった言葉に精で濡れた太腿をモヂモヂと擦り合わせて。
少女は再びおねだりをする。
「イクス…また…おまんこしよう?」
我慢なんて出来はしなかった。
少年への想いが今にも胸を裂いてしまいそうな程に膨れ上がったからだ。
両手の人差し指が閉じていたすじを両端からゆっくりと広げる。
コプコプと中心から精が溢れて滴り落ちる様子に少年はただ頷く事しか出来ず。
ゆっくりと牝穴にまだ固い牡槍がめり込んで。
まだまだ長い二人の夜は更けていく。
*
―――高層住宅中層ウル私室。
薄霧が黄金色の雲海と都市を覆う時間。
窓の外を眺めながら開けたベランダの端で銀の髪が世界と同じ色に染まっていた。
風が撫でていく肌は仄か赤い。
いつぶりだろう。
そんな風に風景を美しいと思うのは。
ウル・エイフォン・バーゲルにとって、たった一日を境にして全ての景色は変わった。
部屋の寝台上には白い紙袋。
中には錠剤が数十錠。
病院からは一日一粒を目安に呑むよう処方されている。
(………わたくしは何も見ていなかった……いえ、見ないようにしていたのでしょうか……)
今日一日の事が思い出されて。
彼女の脳裏には沢山の映像が溢れては消えていく。
朝方。
一人で目覚めた彼女はテーブルの上に残っていた置手紙。
病院への通院を勧める一言に従って、症状が落ち着いている内に運び込まれた病院へと戻った。
そこで見たのは顔を泣き腫らした母の寝顔と赤い肌の友人。
聞かされた事は多い。
病院から抜け出した後。
慌てて追おうとする母を止めて。
任せて欲しいと請け負ったらしい。
医者から様々な話を聞かされた母が最後に泣き崩れた理由を聞いた時。
彼女は思わず泣きそうになった。
もうお子さんは戦う事は難しい体だと医者に言われて泣いたのだと。
そんなのあまりじゃないかと。
優秀な子なんだと。
誰よりも努力していたんだと。
自分の事も顧みず家族を守ろうとしてくれる子なんだと。
ずっと、ずっと、戦う事に己を捧げてきた優しい子なんだと。
それなのにもう戦えないだなんて、あんまりじゃないかと。
娘の為なら体なんて惜しくない。
もしあの子を治せるなら、この五体の何処でも使って欲しい。
(お母様………)
医者に言い募る姿がありありと想像出来てしまって。
『ウル。先程まで此処にはお前のお父上の姿もあった』
何よりも衝撃的なエンシェンの言葉だった。
もう娘に愛想を尽かしたはずの父が病院に来る理由があるのだろうかと。
『医術師と魔術師を何人かお連れになっていた』
聞かされたのは父の姿。
親戚中に再び頭を下げて娘の治療へ協力を仰いだらしい。
仕事を受けなかった赤鬼(ラルヴァ)の家にすら頭を下げたとの言葉は正に父の今までの像を打ち壊すようなものだった。
『親父殿は最初、協力する理由は無いと断ったらしい。だが、お前のお父上は……自分の命を差し出したそうだ』
頭を殴られたような驚き。
続けられた言葉はとても信じられなかった。
力も金も誇りも無くした身だと言いながら、それでも命は残っていると。
この命を使い潰したい時に使い潰せばいいと。
持って来たのは誓約書。
例え、七代生まれ変わっても有効な魂に刻む儀式書類。
『契約はしなかったそうだが、親父殿はお父上に条件を出して、お前の治療に協力すると約束した。今後もお前の身体に関してはフォイル家が責任を持って当たる』
(お父様………)
愛されていた。
大切にされていた。
全部、諦めてしまった時。
誰も助けてくれないと思っていた。
父も母も傍にいないと思った。
だが、本当は心を閉ざして、何も見ないようにしていたのは自分では無かったか。
話し合う事もせず。
理解しようともせず。
ただ、己の意見だけを押し通そうとして、相手を間違いだと断じて。
『ウル。お前のお父上を誇れ。あの方は真に家族を思い、本当の矜持を持つ貴族だ』
母にも父にも会わなかった。
ただ、これ以上心配させたくなくて。
涙を何度も何度も押し殺した。
やつれた母に申し訳なくて。
小さいなんて思っていた父の背中に謝りたくて。
「……わたくしには最初から、こんなにも……」
紫雲が世界を渡っていく。
生きていて良かった。
まだ、やり直せるはずだと教えてもらっていなかったら、何も知らず、何も気付かず、一人よがりに潰れてしまっていたかもしれない。
だから、彼女は心の底から一つの名前を胸に刻む。
何度でも何度でも。
「イクス………本当に……ありがとう……」
薬を飲んで高ぶりが押さえられているはずの身体。
その芯から炎が湧き上がって、彩りを取り戻した今を温めていく。
これからも戦えるかどうかは分からない。
それでも戦わずに何かを守れると教えてくれた人にまた会いたいと。
もう一度お礼を言いたいと。
彼女は再び学園に通おうと決意した。
(きっと、必ず……)
まだ胸の内に残る熱さを感じて。
導かれるように彼女は思い起こす。
悦びを知った夜。
何があったかを……。
*
自分を引き裂いて入り込んでくるもの。
ずっと刃以外にそんなものは無いに違いないと思い込んでいた。
蒼い光に包まれて。
下にいる人の姿が見える。
酷く優しい顔をして。
細い指で腰に触れてくれる。
熱い吐息が零れて。
渇いた喉が上げるのは嬌声。
嬉しい。
苦しい。
哀しい。
気持ちいい。
渦巻く混沌の先。
指が絡められて。
自分の膣(なか)で固くなる少年を感じて。
少しは贖罪になっただろうかと。
不安を覚える。
「ウル……」
「―――」
耳朶を打つ響き。
溢れたのは涙で。
胸を焦がしたのは炎。
「イ…くひゅ」
名前を舌に乗せて。
今まで一度も感じた事の無い陶酔が全身を満たす。
小さな頃。
一度だけ聞いた母の恋物語。
思い出されるのは嬉しそうな顔。
特別な人の名は祈りだと。
そう幸せそうに笑った。
これがそうなのか。
あるいはただの錯覚なのか。
どちらだとしても構わなかった。
赤子を育む場所に感じる熱い滾り。
命の温かさ。
涙が出るくらいに嬉しくて。
捧げられた事が嬉しくて。
何度も何度でも注がれたいと震えた。
「ウル」
自分よりもずっと繊細な手が顔に伸びて。
自分が泣いているのだと知る。
その細い指に雫を拭われて、思い起こされるのは後悔ばかり。
『―――喧嘩売ってますの?』
もし言葉が違ったら、愛して欲しいと言えただろうか。
『首を切り落とされたいんですの?』
もし言葉が違ったら、夫婦になってと言えただろうか。
『そのまま何もせず真っ二つになりたいのならよろしくてよ』
何を思ったところで、何もかもが遅過ぎる。
『不躾で礼儀知らずで、ついでに“知る権利”なんてのたまう七教会被れ』
今更、過去は変えられない。
もっと、優しく出来ていたら。
そんな風に考えても、心から溢れる浅ましさは隠せない。
少年の一番にはなれないのだ。
少年の愛しい人にはなれないのだ。
抱いてくれているのも自分が迫ったから。
貴族の矜持と意地なんてもので覆っていた高潔の中身は亜人が蔑む人の悪徳と何も変わらなかった。
強欲で薄汚くて傲慢で。
こんなにも見せたくなくて。
「ウルって泣き虫だよね」
「ぇ……?」
優しい手が頬に触れた。
「少し、羨ましいかな」
「どう、して?」
「だって、ウルにはそれだけ大切なものが一杯あるって事だから」
「―――」
言われて。
自分には何も無いと何処か寂しそうだった顔を思い出す。
「でもね。哀しくて泣いてばかりじゃ、いつか瞳だって曇っちゃうと思うから、嬉しい時も泣くといいよ」
身を起こして。
乳房に埋もれるよう、そんな事を言う。
「そっちの方がずっと綺麗だと思う」
「な!? ぁ、ぅ……」
背中を抱き締めて。
綺麗だなんて。
今、最も場違いな言葉。
けれども。
「ね?」
瞳の奥に映る自分は……頷いていた。
泣いているのに笑っていた。
「っ……」
心地良さに息を乱れさせる顔。
自分の内側で脈動する命。
込み上げてくる愛しさが抑え切れなくて。
腰を揺すった。
「…ウル…そんなにしたら…」
もっと感じて欲しかった。
心地良くなって欲しかった。
何度も少年の肌で押し潰した陰核(クリトリス)。
乳房に掛かる吐息。
最初に感じた違和感なんて無く。
一番奥まで届いて一つになった性器。
(イクス…イクス…わたくしの…わたくしだけの…あなた……)
浅ましくて。
淫らで。
醜くて。
でも、それが自分だった。
そんな自分を綺麗だと言ってくれる人がいる。
笑わせてくれる人がいる。
泣かせてくれる人がいる。
だから、せめて仕えよう。
求められずとも支えよう。
必要ならば身体を差し出して。
獣みたいに乱れてみせよう。
何度でも何度でも心地良い牝穴として。
「っ…ウ…ル…っ…」
大きく膨れた幹を何度も何度も絞り上げる。
揺すった自分の身体で奥に飲み込む。
精に満たされ大きくなった腹部。
いつの間にか手足に絡むもので自分と隙間が無くなるよう一緒に縛られて。
腰を振る。
奥を貫かれる度に名前を呼んだ。
ドロドロに蕩けた膣(なか)も子宮(おく)もプチュプチュと弾ける精に蹂躙される。
自分の奥を飼い慣らしてくれる雄々しい形。
また根元からせり上がってくる熱い子種に打ち震えながら、達した。
「~~~~~~~~ッッッ?!!?」
満たされていた場所に暴力のような本流が注ぎ込まれて。
尻と臍の奥からも白濁が溢れていく。
もう普通とは違ってしまっている身体。
それでも何処までも満たされていく感覚が幸せ過ぎて。
背筋で蠢くものがどちらの穴もゆっくりと指のように広げた。
「……凄くいやらしくて…綺麗だよ…ウル」
「いくひゅぅ……」
もう普通の牝ですら無いのに優しく微笑んでくれた。
母乳を噴出す乳も精を垂れ流す穴もなぞってくれた。
「少しずつ慣れればいい。心も身体も誰だって時の中で変わっていく……でも、君の大切な部分はずっと君のまま………僕はそう思う…」
「……はぃ」
繋がったまま。
薄れていく意識の中。
笑みだけが焼き付いた。
―――濡れてしまった股間を赤くなりながら押さえる。
「イクス…わたくしの…わたくしだけの…」
もう日が落ちる空。
疼く身体は正直に待ち侘びていた。
また少年に会う時を。
まだ自分の中に残る少年の残滓に思う。
子を孕んでしまっただろうかと。
そうなったら、多くの問題を抱えるだろうとは分かっていても、そうだったらいいと思わずにはいられなかった。
勝手な女の我侭だ。
一夜の間違いだと言われたとて、仕方ない身。
それでも繋がりが欲しくて。
少年の指を肌を熱さを忘れたくなくて。
自分を抱き締める。
(甘えているのでしょうね……優しさを愛と勘違いした馬鹿な女……本当に……)
そう自分を罵ってみても、埋み火のように奥底で熱は消えないから。
「イクス……」
寝台に向かう。
今までずっとした事の無かった行為を、する。
自分で自分を慰めるなんて、今までの自分なら卑しいと断じていただろう。
けれども、今は一つの名を何度でも甘く呟いて。
「すき、ですわ…イクス…イクス…っ…イクス…ぁぁ…イクスぅ…」
一人の夜は長く、ゆっくりと更けていく。
朝までに冷静な自分を取り戻せるか自信は……無かった。
*
二人の少女達の夜が過ぎていく頃。
奏美紗は家にも帰らず。
都市北部をウロウロしていた。
エストリアを送り届けた後。
アーギストからジルムスと共に調べ物をして欲しいと頼まれたからだ。
暫定的に“境界”踏破を仕切るようになった魔術師の青年に彼女が協力しているのは境界越えの際の手際を信頼しての事である。
あれ以来、夕暮れ過ぎの見回りにも幾つかのアドバイスを受けて美者は行動していた。
そもそも屍蝋の仮面に乗っ取られて怪物となる原理やその他の霧の副作用。
それを魔術にそう詳しくない彼女が一人で調べるには限界があった。
アーギストが調べている霧と境界の情報。
都市の民達を救うという大義を胸にした者には喉から手が出る程に欲しいものだ。
「此処……?」
重工業地帯横の飲み屋が並ぶ一角。
霧の濃い中でも輝くネオンの煌めきに照らされながら、美紗は固い土瀝青(アスファルト)の道を進んで奥まった場所にある一軒のバーへと入った。
店内は薄暗く。
客も殆どいないのが分かる。
カウンターの奥。
目当ての人物を見つけて彼女が横に座った。
「来たか」
いつもの改造制服のまま。
境界踏破以来となる巨漢。
喧嘩上等のコサージュも健在なジルムスがタンブラーの液体を一気に飲み干す。
「お酒は成人してからが常識ですよ?」
「ウチの一族の成人年齢が分かればな」
最もな言葉で返されて美紗が溜息を吐く。
今や彼女も非合法活動をする身。
捜査権も無いのに国の一大事に首を突っ込んでいるのだ。
他人の非を咎められるような立場でもなくなってしまっている。
それでも律儀に警官気質なのは真面目過ぎると同僚達から言われ続けた彼女の信念故だろう。
「分かりました。でも、酔っていては調査に支障が出ますから、こういう時は控えて下さい」
「残念だが、オレは下戸だ。ほれ」
空のタンブラーが横に滑って美紗の前に置かれた。
酒精(アルコール)の匂いはまったくしなかった。
獣型の亜人ならすぐに分かる。
「これ…紅茶、ですか?」
「水出しのな。此処で一番美味い」
「……すみません」
「謝るこたぁねぇだろ。ただ、オレ達みたいに“見える”連中が夜に酒なんざ呑んで大丈夫なわけねぇのは言わなくても分かるよな?」
「ぅ……」
確かにそうだと美紗が動揺した。
境界で嫌という程に化物の恐ろしさは味わっている。
あれに襲われるかもしれないと分かっていて酔う覚悟があるかと言えば、そんな自信彼女にだって無い。
「いいさ。とりあえず、予定通りに、だ」
「分かりました」
頷いた美紗が立ち上がるとジルムスもコインを数枚置いて立ち上がる。
二人が店を出たのは丁度飲み屋が慌しくなる午後九時。
夜勤以外の労働者達が街へ繰り出す頃合だった。
道端を歩きながら、終始二人は無言。
警戒を怠らない緊張感が周辺に漂う。
「オレは護衛役ってな事で殆ど内容はあの野郎から聞かされてねぇんだが、今日の目的は一体何なんだ?」
「ある情報屋から情報を買う事が目的だそうです」
「情報屋?」
「はい。何でも魔術師専門の業者だそうで。金額か交換情報次第でそれなりのものを持って来るとか来ないとか」
「それで情報を受け取ってあいつのところまで運んだら終わりって事か?」
「そう聞いています」
「まぁ、国が隠してるってな話は頷けるが、オレ達が一番そういうもんを持ってんじゃねぇか?」
「それは間違いないはずです。ですが、霧や境界の研究そのものは……私達には無理でしょう。国家機関並みの研究能力があって初めてどうにかなると彼からは聞いていますし、私もそう思います」
「チマチマした情報を集めなきゃ対策の一つも立てられねぇって事、か……」
「アイウィス内部での情報は私達にとって最大の財産です。これを上手く使って別の情報を取得するという算段は理に叶っている」
「そう願いたいもんだが、あいつがそんなに簡単な仕事をオレ達にさせるか疑問だな」
「それは……信頼の問題だと思います」
「いや、信頼出来る分野の問題だろ」
二人が言い合っている内に指定場所へと付いた。
高層建築の建設現場。
もう明かりが消えた場所は鉄筋の骨組みに青いシートが被せられている。
「此処のはずだが、見えるか?」
「いえ、時間は予定通りのはずですが……」
互いに周辺の気配を探った二人がまだ早かっただろうかと首を傾げる。
そんな時だった。
数十m程先で閃光が一瞬上空へ奔ったのは。
爆発音こそ聞こえてこなかったが、明らかな異常。
互いに顔を見合わせる事も無く。
現場へと二人の足が走り出す。
三十秒程で到着した美紗とジルムスは辺りの惨状に目を見張った。
「こいつぁ……どうなってやがる」
『ぅ…ぁ…』
「まだ生きてます!! こちらへ!!」
狭い路地裏は焼け焦げていて。
何らかの魔術か炎を撒き散らす類の武器が使われたと二人には分かった。
その奥。
僅かに呻く声へ駆け寄った美紗が黒く焦げた誰かを抱上げる。
「大丈夫ですか!!? 今、すぐに治療を!!?」
『こ……れ…を』
発音も擦れさせながら、焦げた手がブスブスと黒煙を上げる外套の中から小さな紙を取り出して、美紗に押し付けた。
『気を…けろ……や……ら……ざ…ぼ…いど』
カクンと首が力を失う。
「くッ!!? 誰が一体こんな事を!!!」
いきなりの死人。
相手が自分達の会うはずだった情報屋だと確信して。
美紗が唇を噛む。
「おい。行くぞ。警邏の連中がそろそろ集ってくる」
「そんな!! この人を置いて行くなんて!!!」
美紗の最もな言葉にジルムスが後味の悪そうな顔になった。
が、彼女と彼も同じく最もな言葉を返す。
「此処で説明して容疑者になって裁判受けて判決出るまで留置場にいるか。此処でこいつが死ななきゃならなかった理由を解明する為に逃げるか。どっちがいい?」
「―――」
公僕なら、今までの奏美紗なら、前者を取っただろう。
しかし、もう容易には引き返せない場所にいる事は彼女だって理解していた。
此処で逃げ出さなければ、彼女の求める答えを得る事は永遠に出来ないのだろう事も。
「分かりました。ただ、出来る限り、周囲の情報を保存します。十秒下さい」
美紗が瞬間的に魔術方陣を展開する。
よく現行犯の事件現場がどういう状況だったのか保存する為に使う観測記録用のものだ。
光学レンズのように円環の周辺を回った小さな光の群れが方陣本体。
美紗の掌に集ると消えた。
「……終わりました。少しだけ待ってください」
美紗が横たわった何の亜人とも知れない黒焦げの誰かに頭を下げる。
「……必ず」
何が必ずなのか。
青年が問うような事はなかった。
二人は足跡を即座に魔術で消して闇に紛れ現場から遠ざかっていく。
それと入れ違いにやってくる警察機構の警邏が周辺の惨状に驚き、さっそく応援要請を入れて現場を封鎖していく。
―――霧は全てを覆い隠して死までも消していった。
翌日。
新聞には何も載らず。
美紗は朝食も食べず家を出た。
その制服の衣嚢(ポケット)には死んだ誰かの残したクシャクシャの紙が一枚。
逃げた前日にアーギストへ報告した内容は三つ。
反七教会組織が本格的にアルヴァスへ集いつつある旨と。
それらの人員が霧に関してのアドバイザーとして呼ばれているらしいとの噂と。
そのアドバイザーがアルヴァス・カレッジに転入してくるという事実。
金色の獅子が向かったのはアルヴァス・カレッジ第四講堂。
少年のクラスに数日前から通達されていた転入生が来たのは彼女が後ろの扉を開け、僅かに中を覗き込んだ時だった。
『エーネ。エーネ・ファサルトスと言います。皆さんよろしくお願いします』
線の細い十を少し越えたくらいだろう人間にしか見えない少女。
儚げな容姿。
縦に割れた瞳。
どれを取っても美紗には紙の内容の相手とは思えなかった。
「美紗、さん?」
講堂外で待っていた女給姿の璃紗の声も届かぬ様子で。
彼女はキロリと自分を見た少女を凝視する。
【聖王同盟(サクラム・フェデレイションズ)】
反七教会組織の最筆頭候補。
ここ五年で悪名を轟かせた現魔王に仕える正体不明の女達。
この世の何処かにあると噂される娼館ハルトゥム。
その住人にして世界の敵と己を言って憚らない邪悪の徒。
彼女達の一人らしき少女は微笑んで頭を下げる。
「………」
奏美紗の抱えた事件(やま)は新たな展開を迎えようとしていた。
解決の糸口も見えないままに。