※この作品はR-18です。

聖娼館ハルトゥム   作:Anacletus

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第三章二十五節★

第三章二十五節「嵐前の静寂」

 

―――前日武芸術部【壷世(ムンディ・オラム)】内部。

 

 今日は黄昏時の空か。

 黄金の鱗雲の下。

 そよ風が丘には吹いていた。

 何処までも続くような気がする世界が作り物とは思えず。

 幻想的ですらあって。

 少年は夕日を背に自分を見つめる相手を素直に美しいと感じた。

 

「………っ」

 

 無理やり作られた異相に引き込んだ張本人。

 

 部長であり、空間の出入りを司るウルが認めなければ、想像された世界から出る事は叶わない。

 

「目を瞑って……」

「え……」

「いいから、目を……瞑りなさい……」

「う、うん…」

 

 すっと銀の髪が仄かに薫る。

 炊き込められているのは爽やかでいて何処か甘い香草の匂い。

 

「ん」

 

 丘の上で少年を押し倒して。

 ウルは舌を少年の唇の奥へ潜り込ませた。

 

「んむ?!」

 

 蕩けるような恍惚。

 本能のまま、口付けで口内が貪られる。

 

「ん、ちゅ、くぅ、ん、ぷぁ、んちゅ、んぅ、ちゅ」

 

 赤い舌が何かを言おうとする舌を絡め取って執拗に嬲る。

 制止も反論も許さず。

 ただ、少年に自分を刻み付けたくて。

 自分の唇をウルは少年に押し付けた。

 

「イクス。ちゅ、ぢゅく、ちゅ、んぅ、イクスっ、イクス」

 

 独占欲の塊となった彼女は半ば、理性を手放していた。

 愛してくれなんて未だ言えない。

 言えるはずも無い。

 けれど、だからと言って諦め切れるような性分でも無いと。

 

「好き、ちゅ、んぐ、すきですわ、んぅ、んく」

 

 唾液と舌を舐め啜りながら、何度も何度も声を出そうとする少年を遮って。

 脳裏で囁く牝の部分に身を委ねれば、やがて身体を支配するのは情熱だけとなる。

 

「ん、ぷぁ…はぁはぁはぁ……」

「ウル……」

 

 声を聞くだけできゅんきゅんと疼き出した卵巣も、熱を帯びていく子宮も、ざわめき出した三つの膣と全ての襞も、全部少年の為にあるのだ。

 

 少年以外に触れても押し入っても欲しくないのだ。

 

 ならば、どうすればいいのか。

 

 愛してくれとも言えない女未満の牝が出来る事なんて決まっている。

 

 だから、彼女は少年に何も言えずに身体を正面から抱き締めた。

 

 大き過ぎる乳房を押し付けて。

 両手で背中を掻き抱いて。

 

「………」

 

 しばらく、少年は為されるがままになっていた。

 しかし、そっと、その手がウルの腰に回る。

 

「!?」

 

 驚き、赤くなった顔に見つめられながら、小さな囁きが零れる。

 

「体操、する?」

 

 悪戯っぽく。

 何処か子供をあやすような笑み。

 情けなくて。

 愛おしくて。

 

 渦巻く感情が彼女に選択させたのは少しだけ離れる事だった。

 

「……その…身体を…揉み解すのは……基本、ですから……その……」

 

 プチプチと巨大な胸を治める制服のボタンが外される。

 

 白いブラウスが露になると中の乳房の輪郭が浮かび上がり、背中から這い出た桜色の触手が解けて引いていくのが少年の目にも分かった。

 

「下着、付けないの?」

 

「こ、これは……合う下着が……特注で……それも凄くた、高くて……で、ですから、仕方なく!!」

 

「そうなんだ…その…触っていい?」

「っ、え、ええ…貴方にはと、特別にゆ、許します……」

「うん」

 

 少年の頭二つでは到底足りない。

 それでいて垂れている様子も見受けられない巨大な乳房。

 ブラウスの下。

 

 もうぷくっと膨らんでいる乳首と乳輪が淫靡なまでに形を強調され、透けて見えていた。

 

 ゆっくり掬い上げるように両手の指が柔らかな桃の如き乳を掴んだ。

 

「ん、ふ……」

 

 短くウルが息を吐き出す。

 ふわりとしながらも重量感のある感触。

 指が何処までも沈み込んでしまいそうな錯覚と悩ましげに歪む眉。

 零れる声は嬌声でこそ無かったが、期待と媚熱を含んでいた。

 

「凄い…大きいなって思ってたけど……」

「そ、そんな事……」

 

 否定したくてでも出来ない。

 恥しさに震えながら、少年の言葉に何処か喜びも感じて。

 ウルはブラウスの上から沈み込む指の感触を受け入れる。

 柔々(やわやわ)と優しげな手付きで揉むというよりは擦るような動き。

 

「ん、ふ、っ、はぁ…っ…く…ぅ…」

 

 薬は効いている。

 

 しかし、それでも溢れ出す劣情に翻弄されるのは相手故か。

 

 少年の両手が直に触れないもどかしさを感じながら、ウルの乳輪はふっくらと浮かび上がり、乳首までも形を勃たせていく。

 

「ぁ、ぁ、んく、イ、クスぅ…イクスぅ…」

 

 悩ましげに眉を八の字にして。

 顔を歪ませる姿は既に乙女ではなく女だった。

 

「大っきくて、柔らかくて……ウルのお乳って良い匂いがする…食べちゃいたいくらい」

 

「なっ、それは…あ、ぅ…」

 

 あまりの羞恥にウルの頬が染まる。

 鼓動が高鳴り、体温が上昇した。

 

「ん、く…わ、わたくしの此処…本当…っ…に?」

「ん」

 

 頷く少年の声にウルはジワリと股間が熱を帯びるのを感じた。

 

「で、では……その……食べても……いいですわ……」

 

 少し身体を浮かせて。

 

 両手で今にもはち切れそうなブラウスのボタンが外された。

 

 ふるんとまろび出た巨大な乳房に少年は思わず感嘆の溜息を漏らす。

 

「……貴方が、揉み解したから…わたくしの此処…こんなに尖って……お、お乳…吸いたいのでしょう? なら、せ、責任を取って…最後までして…イクス…」

 

 まだ素直になれないウルのおねだりに少年は小さく頷いて、片方の肥大化した乳首を口に含んだ。

 

「っ~~~!?」

 

 ゾクリと背筋を駆けた震えがウルの全身を震わせた。

 

 指先が桜色の乳首を弄ぶように摘んで、汗ばんでしこった其処をコリコリと捩り始めた。

 

「ひぁ、っく、あ、あ、こんな強くぅ…」

「ん、ちゅ、ウル……」

 

 チュウチュウとまるで赤子が吸い付くような拙さで。

 唇がウルの乳輪までも食んだ。

 

「ん、ひぃぁ、そんなぁ、あ、赤ちゃんみたいにしてはぁ…」

 

 ビクビクと巨大な乳房を弾ませて。

 

 先端から齎される快楽にウルの唇がだらしなく唾液を垂らす。

 

(んぁ、きひぃ!? わたくしのお乳をこんなに一生懸命にぃ♡ そんな姿見せられたらぁ♡ わたくしぃ♡)

 

 胸を満たしていくもの。

 それはただの愛おしさではなく。

 相手を包み込みたいと。

 もっと癒したいと。

 そう願う、慕情と母情。

 

「ん、ふ、い、いいですわよ…イクスが、したいなら…わ、わたくしのお乳…貴方の好きにしてぇ♡」

 

 少年の頭を抱いて吸い易いように支えながら、もう濡れてしまった下着の感触に愛しい者から辱められるような悦びを感じる。

 

 その様子はもう少年に仕える牝そのものだった。

 

「ウ、ル…んく」

 

 舌先で柔らかくも自己主張する乳首を転がして。

 歯で甘噛みしながらの吸い付き。

 

「イクスぅ♡ イクスぅ♡ お乳そんなに噛んではぁ♡ はぁぁ~~んきゅぅ♪」

 

 ズグンズグンと下腹部で渦巻く熱。

 

 キュンキュンと胸を満たしていく穏やかな母の気持ちと燃え盛る女の気持ち。

 

 溺れそうな程に濃密な牝としての悦びがウルを淫蕩な女神の如く微笑ませる。

 

(あぁ、もぅわたくしぃ♡ 我慢出来なくぅ♡)

 

 片手が少年の下腹部、もう大きく膨らんでいる股間に触れた。

 

 それだけでは飽き足らず。

 

 いつも鞘や柄を握る指が器用に制服のズボンのボタンを外していく。

 

(これが…わたくしを女にしてくれた…男性の…イクスの…お、おちんちん///)

 

 白い下穿きは男の蜜にもう染みを作っていて。

 するりと蒸れた中へウルの手が侵入した。

 

(大きい…雄々しくて…堅くて…これが…わたくしの奥で……っ)

 

 想像しただけで蜜が下着に溢れるのをウルは感じる。

 未だ少年の愛撫は続いていて。

 

 幾度も幾度も絶頂の波が背筋を焼くのに軽く達するだけで深く達する事が出来ない。

 

 その理由なんて牝となった彼女には分かり切っていた。

 

(わたくしの身体…貴方の子種でしか、もぅ……)

 

 化物に弄られた肉体は牡の性器と子種でしか慰められない。

 

 それは初めての夜。

 

 少年に抱かれた時に躾けられた習性にも近いかもしれなかった。

 

 本来、多くの化物を産む為に改造された身体は子種と性器の扱いを心得ている。

 

 種付け射精。

 

 それが最たる悦びになるよう調整されてしまっている。

 

 だから、何度自分で慰めても足りないと喪失感を覚えるのは当たり前なのだ。

 

 剥き出しの陰核(クリトリス)を弄って思うように達する事が出来なかったもどかしさ。

 

 少年の事を深く思えば思う程に心地良くなるのに高ぶるばかりで解消されない気持ち。

 

 今、少年に乳房を食まれてようやく本当の悦びを感じる自分。

 

 混沌として。

 熱に浮かされながら。

 ウルは牡を求める自分を否定出来なかった。

 

「イクスぅ♡ わたくしの此処…貴方の、貴方だけのおまんこ…もぅ…どろどろなのです…貴方に貫かれたくて…穢されたくて…子種で満たされたくて…我慢出来ないの…イクス…イクス…わたくしにどうか…」

 

 ちゅぽんと乳首から唇を離して。

 少年は自分の幹を擦る手の感触に頷く。

 

「いいよ。一緒に気持ちよくなろっか。ウル……」

「ぁ……はい!」

 

 心の何処かで女の自分のはしたなさに幻滅させてしまうのではないかと怯えていた。

 

 そんな事は無いのだと。

 自分を目の前の少年は受け止めてくれるのだと。

 

 また胸に湧き上がる歓びに彼女が胸を少年の上から引いて、身体の何処も余すところなく見えるよう幹に跨った。

 

 もう下半身のスカートは行為の間に脱げている。

 

 蕩けて蜜に濡れた下着は紐を解かれ、ベチャリと丘の横へと脱ぎ捨てられていた。

 

 夕景の中で彼女が淫らな姿を浮かび上がらせる。

 

 既に先端が僅か入っている入り口はチュウチュウと鈴口を食んで。

 

 いつ自らの奥へ少年を受け入れるのかと幹を蜜で照り光らせていた。

 

「ふふ、また上に為られちゃった、かな……」

「え、あぅ…そ、それは…こ、こんな自ら跨る女は嫌?」

「積極的なのには驚いたけど、嫌じゃないよ。ウル」

「―――で、では、た、沢山…奉仕…しますわ…イクス…んっ」

 

 少年より背も高い彼女にとって自分から貫く行為は前よりも容易かった。

 

 前は一瞬で一番奥まで入ってしまったが、今度は少年にも見えるようゆっくりと腰が鎮められていく。

 

 プリュリュリュ。

 

「は、ぁ~~~っ♡♡」

 

 ヂュヂュン。

 

 襞を掻き分けて埋まっていく少年の感触がはしたなく彼女の顔を歪めさせ、恥骨と恥骨、陰核をピッタリと肌で押し潰した時、もう其処に貴族の女はいなくなっていた。

 

「イクスぅ♡ 化物に弄繰り回された此処…おまんこ……ほら、わたくしの牝襞…蠢いていますわ♡ 貴方の牝穴として種付けされた日から……ずっとずっと…貴方のおちんちん…欲しくて…一杯子種刷り込まれたくて…疼いて……今なら、わたくし…前よりずっと上手に種付けしてもらえると思うの…だから、だからぁ♡」

 

 快楽の虜。

 

 牡に奉仕し単なる獣となって、淫猥な行為をねだる牝。

 

 そんな彼女がゆっくりと腰を捏ね始める。

 

「ぁっ♡ あっ♡ あっ♡ ん♡ くぅぅん♡ イクひゅぅ……♡」

 

「ん…い、いよ? ウルの好きなように動いてみて? 沢山、しよう…ね?」

 

「すりゅぅ♡ イクひゅのころ、きもひよくすりゅぅぅ♡♡」

 

 ズヂュン、ズヂュン、ズヂュン。

 

 襞で感じる少年の熱さと堅さにドプドプとお漏らしのように蜜を吐き出しながら、粘着いた糸を無数、股の間に引かせて、彼女は腰を上下に揺する。

 

 咽返るような牝の匂い。

 小さな陰唇が太い幹を飲み込んでは吐き出す光景。

 並みの男なら一度で射精してしまうだろう。

 

「あっ♡ あっ♡ あっ♡ ひぃん♡ いくひゅぅ♡ いくひゅぅ♡ ぁ゛~~~~♡♡♡」

 

 内部に蠢く襞は普通の女のものとは違ってしまっている。

 

 一つ一つが太い神経を持った彼女のそれは自分の意思で蠢かす事すら可能だった。

 

 まるで指のように、舌のようにどんな状況でも肉棒の全てを自在に愛撫する機能。

 

 熟練の淫魔顔負けに牡へ献身し、子種を絞り尽くす蜜壷はウルそのもの。

 

「はっ、はっ、はっ、きもひいいれひゅか? イクひゅぅ♡」

 

 熱い吐息を吐き出して、唾液も垂れ流しのままに彼女が尋ねる。

 

 その顔の下。

 

 ブルンブルンと上下に揺れる巨峰は汗を弾きながら形を崩す事もなく少年を誘惑した。

 

「―――そんなに激しくしたら、すぐ…くッ…」

 

 射精に導かれる悩ましげな顔。

 

 自分が牡に仕えられているという事実がどうしようもなく肥大化したウルの本能を満たしていく。

 

(あぁ、イクひゅ♡ 食べちゃいたい♡ イクひゅ♡ わたくしの、わたくしだけのイクひゅ♡)

 

 ブルブルと背筋を駆け抜けるもの。

 

 肉体の快楽と心を満たす愉悦と牡を食す牝の歓喜。

 

 肉体の奥底まで弄られた彼女の本来あるべき姿。

 

 それが背筋から湧き出した。

 桜色の触手。

 

 まだ医者も彼女自身すら知らない能力を秘めた接触機関。

 

 水精が最後に贄として希望を託した彼女は外神の恩恵すら受けて生まれ変わっている。

 

「イクひゅ♡ イクひゅ♡ ぁぁ、射精しそうなの? 今、たねちゅけさせてあげまひゅわ♪」

 

 プツッ。

 

 生物侵蝕能力をも備えた触手の内の二本が少年の睾丸へと同化するように突き刺さった。

 

「―――?!!」

 

 少年がビキビキと血管の浮き始めた睾丸からの衝撃に身体を硬直させた。

 

「あかひゃん、できやひゅいようにぃ♡ いっぱい、いっぱい、たねちゅけようのこだね……おつくりします♡」

 

「ぁ、ぐ―――」

 

 ズグンズグンズグン。

 

 精巣が第二の心臓になったかのような錯覚を覚えて、少年の視界が明滅する。

 

 触手の刺さった睾丸内部で急激な再生と生殖機能強化、つまりは精子の大増産が瞬きの間に行われる故の熱さが下腹部を燃え上がらせた。

 

「さぁ、イクひゅ♡ あなたのめすあな、あかちゃんはりゃむあな、おつかいになって♡」

 

 完全に理性の光りを無くしたウルの瞳は正しく人ではなく妖しい牝。

 

 次世代の子供を残す事だけを願い。

 その為に命を捨て。

 相手の命すら奪い取る自然界の獣のものだった。

 

 それでも男を子種の為に遣い捨てる何かに変貌している彼女へ。

 

 少年は苦悶の汗も感じさせない程淡く微笑む。

 

「大丈夫だよ。ウル……傍にいるから」

「―――イクひゅぅ♡ すきぃ♡ すきぃ♡ あいひてまひゅわぁ♡」

「ありがとう」

 

 ドジュン。

 

 容赦なく落とされた腰の奥。

 

 下がってきていた子宮口が鈴口を完全に食んで捉え。

 

 ドッボォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ―――。

 

 血中の水分を全て強制的に精へと変換したかのような射精が開始された。

 

「ん゛ぉ゛お゛ぉおおおおおおおおおおおお♡♡♡」

 

 ボッ、ゴキュン。 

 

 初めて射精された時以上に胎内へと精を受け入れて。

 

 見る見る内に膨らんでいく腹部が臨月の妊婦並みとなった。

 

「か、ひゅ―――イクひゅぅ♡ ぁ゛~~~♡♡ はりゃんでぇぇ♡ イクひゅのあちゅいこだねぇぇ♡♡ おひりもおへそもいっぱいらのぉ♡ すごひれすわぁ♡ もっろぉ♡」

 

 ヂュルルルルルルル。

 

 逆巻く膣(なか)の襞が螺旋状に蠕動して更なる射精を促す。

 

「あ―――が――く、ぅ……」

 

 ビュボボボボボボボボボボボ。

 

 痛みどころか。

 

 生殖という男にとっての重労働で過労死を強要されるような射精。

 

 境界の化物達を相手に戦っている時より、余程に肉体が危険な状況となっている事を悟りながら、それでも少年は途中で行為を中断しなかった。

 

 睾丸内部で増産され続けた精子が枯渇するまで体内の水分を精液として放出させられる。

 

 拷問と然して代わらない行為だとしても、自分を愛しいと言う女一人満足させられなくて男は名乗れないと。

 

「―――ん、ぁ…ぅ…ふ…っ…ぁ゛…んぅ♡」

 

 臍と尻穴から少しだけ玉となって精が滴り落ちる。

 

 満足そうな笑みを浮かべて放心したウルが少年に胸を押し付けるようにして倒れ込んだ。

 

 それと同時に睾丸に突き刺さっていた肉紐がシュルシュルと背骨の合間へと戻っていく。

 

「い…く…すぅ…………」

 

 気を失った様子にこれ以上の射精の強制はないかと一息付いて。

 

 胸の谷間に顔を埋もれさせながら少年は囁く。

 

「お疲れ様。ウル……」

 

 次に彼女が目覚めて自分達の“惨状”に気付くのは二時間後。

 

 おやつの時間も過ぎた頃合の事だった。

 

 衣服をドロドロに汚してしまった自分達の行為に顔を真っ赤にした銀の巻き毛が逆立ち、何故か少年のみ怒られたのは理不尽としか言い様が無かっただろう。

 

 部室で待たせたせいか。

 

 すっかり椅子で熟睡していた璃紗を負ぶって早退した後。

 

 ゼオ家に帰って連絡があったのは夕方。

 

 魔術での凍結からエルフの少女が完全に目覚めた。

 

 その報にエス・トリア家へ向かった少年はそこで再び少女と対面する事となった。

 

 *

 

―――???

 

『本当に を救うのは僕じゃ  』

 

 誰かの顔が過ぎる。

 

『此処は いの園って   てたから』

 

 虫食いの光景はそれでも美しく。

 

『“君の願い  う”』

 

 笑みは温かくて優しくて。

 

『少しの間だったけど、君と居られて良かった』

 

 だから、彼女は思ったのだ。

 ずっと、傍に居られたらな、と。

 

「………」

 

 コポコポと音がして。

 

 息苦しさに思わず起き上がった彼女は薄い魔術具の明かりに照らされて。

 

 目を覚ました。

 

「ようやく目醒めたか……」

 

 小さなビーカーを数本指に挟んだローブ姿の青年。

 

 アーギスト・エス・トリアが片手で起き上がったばかりの彼女。

 

 幼いエルフの少女に白布を被せる。

 

「………?」

 

 よく見れば、彼女は全裸で水槽のようなものに入れられていた。

 

 肉体には術符がペタペタと張られ、内部にはドロリとした透明な液体が満たされている。

 

 よろりと縁に手を掛けて。

 彼女は息切れする体を預けた。

 

「言葉が分かるかは知らないが、まだ激しく動かない方がいい。凍結処理が半解凍のまま行動した付けで、しばらくはまともに肉体が連動しないはずだ」

 

「………」

 

 視線がフラフラと定まらないまま。

 彼女は室内を胡乱に見渡す。

 大きな棚と収められている瓶の数々。

 

 蒸気を吹き上げる鋼の箱や用途の分からない無数の実験器具。

 

 一言で言えば、茶色い怪しげな室内だった。

 

「明日の夜までは安静にしているように言っておく。君の治療は彼の自腹だ。当主との話し合いが終わった後、あちらに引き渡す契約になっている。ただ、その額のものに関しての検査でしばらくは数日に一度通ってもらう事になるだろう」

 

 額という言葉に反応して彼女の手が自分の顔を触る。

 

 ツルリとしたものがそこには有った。

 

「……先程連絡しておいた。もうじき彼がやってくる。それまではそこで安静に―――」

 

 青年が言葉を失ったのは彼女が水槽から這い出して壁際の棚に手を掛けて立ち上がろうとしていたからだ。

 

 通常、魔術による生体の凍結はとてもデリケートな作業だ。

 

 同時に解凍もかなりの神経を使う。

 強引な解凍は生体を傷付けかねず。

 

 半解凍で動いたというエルフの話を彼は疑わしいとすら思っていた。

 

 しかし、現実に目の前で少女が立ち上がろうとしている姿は常識的には認め難いが事実。

 

 亜人という類型(カテゴリ)の中でも人間に近い幼体がこんなにも頑強であるというのは彼の知識に無い。

 

「………」

 

 グッと力を入れて立ち上がった彼女はハァハァと息を切らしながら、それでもヨタヨタと歩き始めた。

 

 何処に行こうとしているのか。

 そんなのはアーギストの知るところではない。

 

 しかし、言う事を聞かないはずの肉体を動かす強固な意思に驚きを禁じえなかった。

 

(やはり、あの額の魔術具のせいか? 起動している様子は無いが、永続的な効果を齎すものかもしれないな。魔術結社の連中が霧対策に作ったのだとすれば、この子が半解凍で動いたというのも納得が……)

 

「………っ」

 

 ベシャリと少女が床に倒れ込んだ。

 

 アーギストが溜息を吐いて、傍まで歩いていくと抱き起こす。

 

「悪いが君を治療してくれと言った男が来るまでは安静にしていてくれ」

 

 軽い動魔術を込めた符を自分の二の腕にペタリと張って。

 

 青年が少女を抱上げ、部屋の奥にある椅子へと腰掛けさせた。

 

 その上から渇き切っていない裸体へ小さなローブが被せられる。

 

 コンコン。

 そんな時だった。

 室内にノックの音が響いたのは。

 

 境界踏破組の面々には一々鐘を鳴らして入ってこなくてもいいと言い置いている。

 

 さっそく来たのかと青年はドアの先へ「ああ」としか言わなかった。

 

 ガチャリとドアノブが回る。

 

「ただいま帰りました。兄さん。今日は早く講義が終わっ―――て」

 

「ぁ」

 

 ローブのボタンを掛け様としていたアーギストが固まった。

 

 部屋の内部。

 

 此処数日は訪れていなかった妹が秘密裏に情報収集した結果、連れて来られたエルフの少女の事を知ろうはずもないのは当然として。

 

 濡れた小さな女の子のローブに触れている姿は何やら犯罪者のようにも見えるに違いない、と。

 

(まずいな……)

 

 人間的な常識くらいアーギストにもある。

 

 というか、元々が七教会関係者なのが彼らエス・トリア家だ。

 

 亜人国家であろうとも、貴族階級だろうとも、館の管理に奴隷を雇ったりはしていない。

 

 それは亜人国家なら甲斐性の範囲である愛人や性奴に関しても良い感情が無いという事だ。

 

 母親が常に帰ってこない家とはいえ、二人の兄妹は人間的センスを忘れてはいない。

 

 結論すると。

 

 現状、アーギストが幼いエルフの少女を奴隷として買って来て淫猥な実験に使ったような誤解が生まれた事はほぼ疑いようがなかった。

 

「兄さん……何、してるんですか?」

 

 愕然とした様子でエストリアが訊ねる。

 

「き、聞け!! ハイダル!! まずは兄さんの話を聞いてくれ!!?」

 

 慌てた様子で自制を促したアーギストであるが、自分の狼狽が確実に誤解されるだろうという自覚があった。

 

「兄さんはこういう事しない人だと思ってたのに……まさか、こ、こんな小さなエルフの子を買ってくるだなんて……剰(あまつさ)え……そんなに身体が濡れるような事を……」

 

 顔を伏せた妹の身体が震えている。

 

 それが大地震の始まりにも等しいものだとアーギストは知っていた。

 

「すいません。アーギストさんは居ますか?」

 

 締まり掛けていたドアが再び開いた。

 次にやってきたのは奏美紗だ。

 

 そのまま内部に入ってきた彼女は立ち尽くす妹と何やら必死な顔の兄と横に座る小さなエルフの少女を見つける。

 

「………個人的には法令に触れていないなら、何を咎める事もありません。ただ、女性としては言っておくべきかと思いますから、よく聞いて下さい。アーギストさん」

 

「ご、誤解だ!!? そもそもこの子は―――」

 

「最低です。この幼女性愛者(ロリコン)!!!」

 

「兄さんの変態幼女趣味(ロリコン)!!!」

 

「ぐはッ?!!」

 

 美紗とハイダルの二重打撃が青年の精神を滅多打ちにした。

 

 言葉の暴力にノックアウトされたアーギストが血反吐でも吐いたような姿勢でグッタリと床に手を付く。

 

(い、今まで積み上げて来た兄の威厳が……これも全てあいつのせいだ!!? イクス・ゼオ!!!)

 

 そんな時に三人目の来訪者がドアノブを回した。

 

「あの子の様態はどうですか? アーギストさん」

 

 ようやく来た少年に複雑なものを抱きながらも、冤罪を晴らしてくれるはずの相手の登場に安堵してしてしまう青年だった。

 

 十数分後。

 

 アーギストへの誤解はようやく解けた。

 

 自分の言葉がまったく信じられていないという事を悲しく思ったものの、変態呼ばわりされるよりはいいかと深い諦観に沈んだ青年の話が始まったのは妹にお茶を頼んで部屋から出した後の事である。

 

「結論から言って、この子は何か普通のエルフとは違う」

 

(……話は聞いていましたが、この子が魔術結社から連れてきた……)

 

 未だに沈黙して三人を見つめているエルフの少女がブカブカのローブ姿のまま、足を椅子の上でプラプラとさせていた。

 

「何が普通と違うんですか?」

 

「具体的に言うとエルフの魔術的な資質や肉体への成長過程における種族的な慣習。つまり、この子が何処のエルフかを推定する為の要素(ファクター)が何一つ文献に無い」

 

「文献に無い?」

 

「エルフの習俗は七教会の研究資料に数多い。普通、エルフというのは地域の宇宙樹(ユグドラシル)と魔力的な親和性が高く、それらの地脈型魔力形質の影響を成長過程で受ける。だから、その魔力親和性の傾向を見れば、一発で何処の地域のエルフか特定出来る、はずなんだが、不可能だった」

 

「不可能?」

 

「ああ、何処の地域の何処のエルフか判別出来なかった。分からない以上は手の出しようも無い。となると、本人確認のみでしか相手の素性を知る事は出来ない事になる。だが、見ての通り……話せないらしい」

 

 少年が青年の言葉に椅子で足をプラプラさせているエルフの少女を見つめる。

 

「………」

 

 何も答えず。

 

 自分を見る少年を見上げた少女が目をパチクリとさせた。

 

「じゃあ、とりあえずは家に匿うって事で。話せるように色々試して、それでも分からなかったら……まぁ、ゼオ家の居候仲間に……」

 

 呆れた様子でアーギストが首を竦めた。

 

「その子の額のソレはまだ解析出来ていない。腐っても魔術結社。並みの解析用の器材じゃ歯が立たなかった。専門業者から幾らか安く新しい機器を融通して貰えるよう当たりを付けたが、二か月後だそうだ。それまでは定期的に此処で検査した方がいい」

 

「分かりました」

 

 少年が頷く。

 

 二人のやり取りを見ていた美紗は少女の境遇に何処か沈んだ顔をしていた。

 

(……これが我が国の現実……)

 

 亜人国家の仕組みを否定する事こそ無いが、それでも同じ女として売買されていた少女の扱いを聞いて彼女は憤りを覚える。

 

 奴隷だろうとちゃんと生きる権利を保障されて然るべきなのだ。

 

 それは真面目に官憲として働いてきた美紗が信じる理想でもあった。

 

 実際には闇の底でエルフの少女達と同じような事が沢山あるのだとしても、官憲として、女として、それを許容する事は彼女には出来ない。

 

「イクス・ゼオ」

「何ですか? 先輩」

「その子……私に預からせて貰えませんか?」

「え?」

 

 少年が驚いた顔をする。

 

「そちらの家は今、リーシャさんが来たばかりで何かと入り用。金銭的な負担も考えるなら、他の誰かの家で預かる方が現実的なはずです」

 

「それは……でも、どうして?」

 

「……ただ、この子のような被害者を放ってはおけない。それだけです。家ならば、何の問題もありません。私の裁量内で家の者を動かす事も出来ます。もし、この子の出自が明らかにならなかった場合にはこれから教育も必要でしょう。私は一人の貴族として、この子を放っておけない……」

 

 美紗が立ち上がり、エルフの少女の前でしゃがみ込んだ。

 

「私は奏美紗。美紗。貴女は?」

 

 自分を指して呼び、次は少女を指して問い掛ける獅子少女。

 

「………」

 

 何度か瞬きした後、少女が椅子から降りるとよたよた歩き出して少年の席の後ろへと隠れた。

 

「な……!?」

 

「どちらの家に預けるかはこちらの関知する事じゃない。そこは今後二人で決めてくれ。それまでは家で預かって構わない。それ以前に色々と覚醒後の検査に3日は掛かるからな。数日は此処で身体の様子を見なきゃならないとは言っておく」

 

「そ、そうですか」

 

 何処か悔しそうな顔で美紗が項垂れた。

 

(何が不味かったのでしょうか。そんなに私って……)

 

 出来る限り優しい笑顔を作ったつもりだったのだ。

 

 エルフの少女が少年を見上げて袖を握っている。

 

 その様子に美紗は自分と少年の違いに首を傾げた。

 

「じゃあ、明日も来るから、ね?」

 

 撫でり、撫でり。

 少年の手を頭で受け入れて。

 エルフの少女は瞳を瞑る。

 

『イクスさ~ん。お茶を入れて来ました~』

 

 その時、ようやくエストリアが帰って来た。

 

「では、明日。次の境界踏破に付いてミーティングを行いたい。各自、放課後に来てくれ」

 

 尤もらしい事を言いながらアーギストが話を誤魔化し。

 

 それからお茶を全員で嗜んだ後。

 

 美紗は用事があるとエス・トリア宅を後にして。

 

 少年もまた夜の境界へと繰り出す為、夕飯前には出立した。

 

「また明日、です。イクスさん」

 

 少年に手を振って見送る妹を見つめながら、青年は初めて少年を見送った日のように瞳を細める。

 

(これからどうするべきか……情報が足りない……ゼオ家に付いても調査が必要だな……)

 

 翌日起こる大事件をまだ誰も知る由無く。

 

 全ては霧に薄れていった。

 

 たった一人。

 

 再び水槽の中で眠りに付いた少女以外は。

 

「………」

 

 明日の悪夢に魘されながら。

 

 淫猥な情動に身を蝕まれながら。

 

 小さな少女は犯される夢を見た。

 

 旭も届かないような薄暗がりの中で。

 

 人に終りを運ぶ因果。

 

 人類殲滅を掲げるダークエルフ。

 

 アーフル・ナーシムの血統として。

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