第一章十三節「崩落」
―――大陸南東部ハルファス大森林深奥エイファの袂より。
大陸に住むエルフ総人口の殆どは大森林と呼ばれる広大な森の奥。
大樹の下にある集落で暮らしている。
七教会にとっても貴重な資源である【宇宙樹(ユグドラシル)】は守るべき存在であり、古くから教会とエルフの間には条約が締結され、その巨大な世界樹の監視は目下続けられていた。
時に外へ飛ぶ事がある大樹の種。
それを教会側が監視し、若木となった頃に近くのエルフ達に様子が伝えられる。
それを機にエルフ達が移住して大樹の若木を祀るというのが人間とエルフとの共生関係の発端だった。
それは未だ健在な関係であり、その点では人間側との交流は新たな新天地を求めるエルフ側にも重要なものだった。
そう、だった。
大きな時代の変遷期にはエルフの村を略奪する存在は複数いた。
時の帝國の軍隊。
戦後に出る傭兵団が盗賊になったもの。
エルフ狩りで財を成そうとした商人の私兵。
それらは確かにエルフ側に被害を出した。
だが、一部の集落が焼かれる程度に留まった。
しかし、【近代化(レボリュション)】に至る時代。
人間側の文明が急速に発展する事となり、敵は飛躍的に増えた。
進歩が遅いエルフ側を狩れると思い上がる人間が多くなったのだ。
実際には民間レベルでの戦力の比は殆ど変わらないという現実がある一方、勝てると錯覚してエルフを狩る者が爆発的に増加した。
教会側の対応は常にエルフ側との条約に縛られていた為。
大体は被害が出た後の復興という形でしか行われない。
まだ移住して間もない若いエルフの村が近代化以降多く狙われた。
エルフの中でも取り分け肌の黒いダークエルフは通常のエルフの社会からも距離を取るのが常であり、狙われる際の良い標的として多くの被害を出した。
そんな住処を失ったダークエルフを受け入れているエルフ達は極少数だったが、それも焼き討ちされたダークエルフの人間側への反発から受け入れ難くなった。
このような状況から人間側への報復を主張するエルフは少なからず増え、一種人間の過激派と呼ばれる革命闘士にも似た者達が皮肉にも若いエルフの間では実権を持ちつつあった。
「アーフル!!? これはどういう事だ!!? お前は妹を取り戻しに行ったのではなかったのか!?」
一帯のエルフ達を統括する長老達による会談途中。
エルフ特有の蔦と矢のレリーフがあちこちに刻まれた神聖な部屋へ突如として現われたダークエルフの男に誰もが驚愕していた。
エルフ社会でも外には漏れない類の秘密会議の場だったのだ。
会議の存在を知るものは少ない。
知っていても何処で開かれるのかは極々一部の者以外には教えられない。
「まったく、手間を掛けさせる」
老人ばかりが目立つ会議室の中で鼻を鳴らしたのはアーフル・ナーシム。
精悍な顔を薄暗く歪めたダークエルフの青年だった。
彼は長老達が何を決めようとしていたのかを察した。
「まさか、アレをどうにかするつもりだったのか? 長老方」
「な!?」
言い当てられて、一人が反応した。
他の者が嗜めてももう遅い。
「そうか。新しい世代への受け渡しすら拒絶して、人間を滅ぼす志を棄てたのだな。あなた方は……」
『アーフル!! 弁えろ!!! どうやって舞い戻り、此処まで来たのか分からないが、お前を現時点で無断侵入の罪により投獄する。妹の奪回という話には力を貸しても良かろう。だが、それと人間を滅ぼすかどうかの議論は別だ。何の権限もないお前にはしばらく格子の中で生活してもらうぞ。衛兵!! 衛兵!!』
長老の一人が周辺に控えている近衛を呼ぶ。
「く、くくく、はははは……まさか、この後に及んで身内から裏切られるとは悲劇と笑えばいいのか。喜劇と嘆けばいいのか」
アーフルの言葉に異様なものを感じ取って長老達が臨戦態勢を取る。
如何に若いと言えど、所詮は一人。
危害を加えてくるようならば、痛い目を見るだろう。
そんな抑止の意味も込めて。
「気付かないのですか。長老方。貴方達はもう時代遅れだという事に」
『何だと!?』
反発の声が上がる。
「既に我々エルフ側と人間側は生存競争に晒されている。このままでは遠からずエルフは滅ぶでしょう。【近代化】による発展は若いエルフ達を人間の街へ駆り立てている。闘争という意味でも好奇心という意味でも。それなのにあなた方は未だ危機感も無く身内を危険分子だと言っては投獄するような存在と成り果てた。これでは欲望に忠実な人間に勝てるわけがない」
「戦って勝てるつもりなのか!? アレを使ったところで泥沼になれば、滅ぶのは我々の方なのだぞ!!」
「どうやら教会と親しくし過ぎて長老達は洗脳されているらしい。お前達」
アーフルが呼ぶと外で警備を担当していたはずの衛兵達が入ってきた。
その姿は完全武装している。
『く!? アーフル!!! 貴様、どうやって近衛を抱き込んだ!!』
「抱き込む? 人間のような事などするわけがない。長老達を捕らえ、地下に監禁せよ」
逃れようとした長老達の誰もが衛兵に捕らえられていく。
下手に抵抗しようものならどうなるか分からないと長老達の誰も【要素(エレメント)】を使っての抵抗はしなかった。
『く、こんな事はすぐに知れ渡るぞ!!!』
長老の一人がアーフルに食って掛かった瞬間。
ドンと大きな音と共にその長老の胸にポッカリと穴が開いた。
『なッッ!? 銃だと!!?』
『貴様、血迷ったかアーフル!!?』
倒れ付した長老の身体から紅いものが床に広がっていく。
「これはこれは。血迷った長老方から言われるとは思ってもいませんでした」
クツクツと笑みを浮かべる目の前の男が危険だと悟って。
長老達が【要素(エレメント)】を開放する。
同時に衛兵達が吹き飛んだ。
『残念だ非常に……ダークエルフの旗頭となるべきお前を此処で我らが手で沈める事になろうとは』
如何に年老いたとて長老を張る男達の力は強い。
たかだか一人の若者に負けるわけがない。
温厚な性格のものが多いエルフにとって同族との争いは最後の手段。
その通念を軽々しく破り。
同胞を手に掛けたアーフルに対して長老達の選択は処分以外に残っていない。
「その老体で若者に挑もうとは随分と自惚れている。力を得た者とそうでない者……まるで今の人間とエルフのようだ。だから、我々は未だ人間に勝てないのか。嘆かわしい」
『御託はお終いだ!!!! アーフル!!!』
一斉に使われた【要素】は一人で対処出来る量ではない。
火、光、風、土、金etc。
顕現する【本質】は概念側から取り出された自称を再生産し、決して破れない術となる。
矢は無くとも狭い室内でなら手慣れである長老達の力は外しようもない。
各々の手から魔力が放たれた。
「力を得たと言わなかったか?」
放たれた魔力が【要素】をこの世に現す前に虚空で消え失せる。
『な!? 馬鹿な!!?』
「もう少し大人しくしていれば、生かしてやったものを……」
パチンとアーフルが指を弾いた。
ドウッと長老達が一斉に崩れ落ちる。
『がッッ、ぐぅ!?』
喉を押さえて次々に長老達が顔を青くしていく。
「ああ、ちなみに自分達が秘密を守り切れているなんて幻想は棄てるよう言っておきます。もうあの子がいなくともアレを起動する事がこのオレには出来る。もはや、あの子は不要なのですよ」
長老達がビクビクと酸欠に喘ぐ姿を眺めながら。
笑みを浮かべたアーフルは椅子の一つに座ると息絶えていく長老達を昆虫でも観察するように笑みを張り付けて静かに見つめた。
「エルフ達の未来は任せてください。あなた達が守ろうとしたものは人間の絶滅と共に守られるでしょう。それと御家族についても心配要りません。さぁ、お前達」
「アーフル様ぁぁ!!!」
『?!!』
部屋に複数の女達が入ってきていた。
その姿に長老達の全員が目を見開く。
「あーふるさまぁぁあ!!! 御子種をこの卑しい身に注いでくださいませぇぇぇ」
「アーフル様ぁぁぁあ!!! この子供を産んだ牝穴にお慈悲をぉぉぉぉぉ!!!」
「あーふりゅしゃまぁ♡ はりゃんだおにゃかにぃぃぃもっろぉくらしゃぃい!!!」
長老達が何かを言い掛けて、更に顔を紅くしながら、じたばたと床でもがく。
アーフルを取り囲んだ妖艶な女達の一団。
幼い者、若々しい者、円熟した者。
誰も彼もが長老達の娘や伴侶だった。
一様に乳房を強調した肌着、割れ目を見せるショーツに身を包んだ女達がアーフルの体に絡み付いて、今正に死に行こうとしている長老達を見向きもせずにくねる。
――――――!!!!!?
「どういう事かと不思議そうな顔をなさっていますね。分かるでしょう? 女は強き者を愛す。強き雄を愛するのですよ。オレは力を得た。そして、彼女達はこの力を“理解”した。惚れられてしまうのも道理では?」
目の前で長老達にすら見せた事の無い淫蕩な笑みを浮かべた女達がアーフルの股間から怒張したソレを取り出し、競うように口を群れさせていく。
「アーフル様ぁぁぁ♡ お逞しいですぅぅぅぅ!!!」
「アーフルしゃまぁぁ♡ 赤ひゃんの元一杯くりゃしゃぃいいいい!!」
「アーフル様のおちんちんとてもご立派ですわぁ♡」
「お母様ぁぁ。あーふる様のおいしぃぃよぉ♡」
目の前でアーフルの股間に顔を埋める女達にガクガクと震え、涙を流しながら、それでも長老達は未だ死ぬ事も出来なかった。
「こらこら。お前達の伴侶や父が死ぬのだ。よく見て笑って差し上げろ」
「そんな事よりアーフル様の立派なものをお慰めする方が大事ですよぉ♡」
「アーフル様に逆らおうとするような馬鹿な伴侶には愛想も尽きますもの」
「お父様。この子と一緒にアーフル様へ永遠に御仕えしますから。どうぞ健やかにお死に下さい」
長老達の瞳から止めどなく涙が溢れていく。
その光景に目を閉じる事も出来ず。
何が起こっているのか理解しない長老達へ嘲笑を浮かべて、アーフルは女達に股間を慰められたまま、哀れみの視線を向けた。
「これが力持つ者と力持たざる者の差だ。傅き平伏し、崇める者には永遠の悦楽を。抗い反逆し、祀らぬ者には永遠の死を。分かりやすい。実に分かり易いと……そうは思われませんか?」
口淫に膨れ上がる一物に見惚れ、感嘆の声を上げる女達が、自分達の中で最も幼い子をアーフルの前に手足を持って差し出した。
「どうぞ。アーフル様。どうぞ準備が出来ました。この子の穴をどうぞお使いになってやってください」
空中で固定された幼いエルフの少女が頬を染めて。
アーフルに媚びた視線を向ける。
「アーフル様ぁぁ♡ ピーリヤのおまんこにぃぃ♡ 初めてした時みたいにおちんちんしてくださぁいぃぃ 赤ちゃんのお汁でぇピーリヤをお母様みたいにぃ孕ませてぇぇぇ♡ 」
「ほう? 素直ないい子だ。良いだろう。お前の祖父の前で犯してやろう。どうやってオレに全てを奪われたのか教えてやるがいい」
「はぃぃぃ♡ ピーリヤ頑張りましゅぅぅぅ♡ ひぁああああああ♡♡」
未だ何も入った事が無いかと思われた少女のすじを強引に割り開いて。
恥穴へ幹が奥まで埋め込まれる。
「ひぐぅぅぅぅううううううう?!!! んぁあぁぁあああああああ!!!」
ドチュンとアーフルの怒張を全て埋め込まれた少女は母に微笑まれながら、それだけで達した。
「ほら、どうした? 説明するのだろう?」
「ひぅぎゅぅぅぅぅぅ!! あかひゃのへぁいぎゅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!?」
「困った子だ。では、これでどうかな?」
女達の手を退かして、少女から一物を引き抜いたアーフルが少女を背後から犯し、両足を持ち上げた。
長老達の前に幼い穴が大開になる。
「んぉぉぉお!!!? あーふるひゃまぁぁ♡ あかひゃんあにゃいいれしゅう♡」
「お前の祖父にちゃんと説明出来たら、子種を恵んでやろう」
「ぁぁあ♡ はぃぃぃ♡ おじいちゃぁん♡ いっしゅうかんまえねぇ♡ あーふるさまぁがおかーさんとぴーりやをふたり一緒におかひてくらしゃったんだよぉ♡」
過去の“本当に愚かな自分”について反省しながら、少女はとても愛らしい淫らな顔で自分の祖父である長老の前に連れて行かれる。
ズボズボと剛直に抉られた幼い穴からは蜜が滴り、子宮が降りて受精の準備を始めていた。
「―――――ッッッッ?!!!」
今正に酸欠で死にそうになっている祖父を前にして、だらしなく舌を出しながら、ピーリヤと名乗った少女は蕩けた顔のまま、微笑んだ。
「ひぅぅうん♡ あーふるしゃまぁぁ♡ あかひゃんはりゃむじゅんびぃできまひたぁぁ♡ おかあしゃんにしらみらいにぃぃびゅーっれぇぇ♡ しれくらしゃぃぃいいいい!!!」
「あぁ、アーフル様にあんなに可愛がって頂いて……母としてこれ程嬉しいことはありません」
ピーリヤの母であるエルフがその大きく孕んだ胎を揺らしながら、白濁を溢れさせる乳房を自分で弄りつつ、歓喜に震えた。
「そろそろ。出してやろう。良い子を孕めよ。これからお前達は全てオレの子を孕んで奉仕する為だけの者になるのだから。さぁ、新たな命を授かる瞬間をお前の祖父に見せてやろう」
「はぁい♡ どうぞぴーりやの種付けせんよぉおまんこにぃ♡ あーふるしゃまのおこたねびゅーびゅーしれくらしゃぃぃぃ♡♡」
「受け取れ」
少女の胎に到底入りきる量ではなかった。
びゅぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ。
大量の白濁が少女の胎を一瞬で膨れ上がらせ、獣のように叫ばせる。
「ひぐん゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛♡♡♡」
少女の胎に納まらない大量の精に女達が群がった。
汚れていくピーリヤとアーフルの股間を女達が代わる代わる舐め取っていく。
更に床に零れた大量の精にも慈しむような顔で女達が舌を這わせた。
その残忍で淫靡極まる光景。
それに何人かの長老がその股間を精で濡らしながら、命果てる。
「おやおや。この程度でとは…器が知れる…」
「あーふるしゃまぁぁ♡ じゅしぇぇしまひあぁぁ♡ あーふるしゃまのあかひゃんはりゃんでぇぇ♡ おかーひゃんとおなじになりまひたぁぁ♡」
「親子共々、オレの子を孕み続けろ。その子が女なら、共に孕ませてやろう」
「うれひぃぃれしゅぅううう♡♡」
「ん? お前の祖父はもう逝っているようだな。最後の言葉くらいは掛けてやれ」
「おじいちゃぁぁん♡ ぴーりやはぁ♡ あーふるしゃまのぉ♡ はりゃみべんきとしてぇぇ♡ じゅっとしあわへになりゅかりゃぁ♡ ひぃん♡ だかりゃぁ……んぁぁぁ♡ みまもっれれねぇ♡」
一筋ピーリヤの目元から流れる雫を確認して。
アーフルがその手をその頭に翳す。
「ん、ぁあああああああああああああああ!!!!?」
「気分はどうだ?」
「はぃぃ♡ しゅごくきもひぃぃれふぅぅぅ♡」
「そうか……」
少女の頭部からどのような理屈でか。
一筋光が立ち上って消える。
それを確かめた後、アーフルが長老達の死体を衛兵達に片付けさせた。
「さて、これで掃除は終わった。後は準備をするだけだ」
キロリとアーフルが部屋の床で己の精を舐め取っている女達を見る。
「順調だな……」
ピーリヤが再び精を胎に求め始めた声を聞きながら、地域一帯のエルフを掌握する長老達を潰した男は暗い笑みで少女の膣(なか)を抉る事に戻った。
その日、長老達からのお触れが出され。
外界とエルフの集落との交流は完全に断絶し。
そして、長老達の家族の行方を知る者は悉く、失せた。
*
事実だけを述べれば、ディシグニア国境地帯での騒乱は初期の大混乱が七教会の艦隊の威容が空の彼方に見えた時点で完全に治まった。
とはいえ、朝方からの圧倒的非現実は巨大な樹木に一帯が覆われ、黄金の壁に囚われ、全て消え失せたなんて話は、誰もが目を疑い、更に他者から言われても信じられるようなものでも無かった。
多くの一般人は現実感を喪失して呆然とし、一部の賢しいものはそれを機に一帯から大量の私財を持血出し慌てて逃亡した。
そんな大型馬車の群れの中、混乱している街で買われた一台の荷馬車が馬を宥めつつ進んでいる。
荷物はたった三つだけ。
三人の少女のみ。
その日の明け方から走って、最低限の休息を挟みながらの【乂羅(がいら)】入りは少女達にしても急な事だった。
二人が起きたら全てが終わって混乱が始まった直後だった。
一人起きていたナーリャは少女達が起きるのと同時に何だか眠いとか言い出し、寝台にパッタリ倒れ伏してスヤスヤと眠り始めた。
そうして少女達が混乱の原因を把握しようとしていたところに朝から姿の見えなかった少年がやってきて、出発しようと突然な事を言い出したのだ。
もう既に馬車を調達していた少年は三人の少女を乗せて一目散にその場から馬を駆り立て走らせた。
地域を脱出する馬車が合流しつつあるのを確認して、その中に紛れたのは実際的確な判断だっただろう。
さすがに混乱している一帯を落ち着かせるのに七教会は忙しく。
逃げ出した者にまで配慮していなかった。
それから八時間程の逃避行。
既にディシグニアから離れ乂羅の地を馬車は走っていた。
街道では物珍しそうに旅人達が多くの馬車を見つめている。
【洋服】と呼ばれる大陸中央諸国のスタンダードとは違う【着物】が旅人の着るものの主流となっている。
その光景は馬車に乗る全員に新たな国へ入った事を思わせた。
「そろそろ離れるよ。近くで休める場所を探そう」
多くの馬車から離れて小さな街道へと道を変えた少年が安堵の息を吐く。
少女達は少年の様子にようやく危機を脱したのだと感じて、ホッとしていた。
「なぁ、ティア」
「ん?」
「朝、何処へ行っていたのだ?」
朝から騒がしく、逃亡途中も馬を操る少年に訊きそびれていたイフィミスラが御者台へ声を掛けた。
「えっと、七教会が来るみたいだなぁって思ってたら本当にそうなったから。馬車を買いに」
少年の言葉には理論的破綻は無かった。
しかし、イフィミスラの勘は少年が話していない事柄があると脳裏に囁く。
「ほぅ。そうか」
「う、うん」
「……」
「イフィミスラ?」
「ティア。我ではお前の助けには為れぬのか?」
予想外に気を落とした少女の声に少年が慌てる。
「いや、えっと、そんな事は……」
「教えてくれ。我はお前の本当の事が、知りたい」
後ろを振り向きたい衝動に駆られたものの、少年はそうせず。
朝の事を隠した事を羞じた。
「友達。ううん……昔の仲間と会ってきたよ……」
「昔の仲間?」
「うん。ハティア・ウェスティアリアって言うんだけど」
「―――それはまさか」
「今は聖女様って言われてるけど」
「この大馬鹿者……」
「ごめん……」
責められても仕方ないと少年が全ての罵倒を受け入れようとした時、そっと少年の背後から温かなものが、少年の身体を抱き締めた。
「馬鹿者。馬鹿者……っ……」
温かくなる背中でしゃくり上げる声。
「我、我は……お前に何もしてやれぬ。だが、だがな」
「うん。ゆっくりでいいから……ゆっくり、ね?」
優しく背後に言い聞かせながら。
胸を抉る朝に経験した聖女の攻撃すら通らなかった胸の奥。
痛みを覚えて、少年は自嘲の笑みを浮かべた。
「心配くらい、させて欲しい。お前の痛みもお前の苦しみも感じられぬ身かもしれぬ。剣にも盾にもなれぬ。でも、それでもな……傍にいてはやれる身で、ありたいのだ。我は……」
馬鹿者と最後に一言を呟いて少女が声を押し殺した。
静かに温かくなる背中に。
少年は少女を感じて。
不祥の我が身を恨めしく思う。
「ナーリャも!!」
「ふぁ!? な、ナーリャ!!? こ、これ!!? やめよ!!?」
少年の背で重さが二倍となった。
「ティア。嬉しい? あったかい?」
グリグリと嬉しそうに背中を抱き締め始めるナーリャにイフィミスラがムッとした様子になって目の端を拭った。
「えふぃも……だめ、ですか?」
今まで黙っていたエフィリムが二人の少女の横で羨ましそうな顔をする。
「な!? い、今はわ、我がティアと、その、分かるであろう!!」
「ティア。皆のご主人様」
「てぃあにいさま……だめ、ですか?」
エフィリムの声にダメとも返せるわけが無く。
少年は顔を引き攣らせた。
「出来れば、馬車を走らせ終えた後にしてくれたら、嬉しい……かな」
*
四人が野宿する事となったのは乂羅の端【遺宋(いそう)】の小さな街道沿い。
竹と呼ばれる植物が自生する一角だった。
竹林と呼ばれる其処では獣の姿もなく蟲の声もしない。
不思議と涼やかな空気が流れる林の中は風音以外に沈黙を破るものもない。
そこで小さな火を起こしながら、四人は携行食を食んでいた。
逃走途中、一時馬を休める時、他の逃げ出した馬車から買ったものだ。
まともな食糧を買う暇が無かったことが悔やまれるものの。
乂羅で未だ買い物が出来る街へは辿り着いていない。
「明日になったら近くの街に付くと思うから。それまでは我慢して。水は一応あるから食べ終わったら水浴びしてくるといいよ」
竹藪の中に綺麗な小川が流れていたのは少女達にも有り難かった。
朝から街道沿いの馬車の群れに揉まれていたので身体中が埃っぽくなっている。
「そうか。では、そうさせてもらおう。ナーリャ……エフィリム、でよいか?」
まともに会話もしていなかった自分より幼く。
外見もかなり違う少女にイフィミスラは躊躇いがちに声を掛けた。
「はい。よろしくおねがいいたします。いふぃみすらねぇさま」
「ね、ねぇさま?」
今はフードも被らず角も見えたまま。
エフィリムが仄かに顔を赤くしてコクンと頷く。
「てぃあにいさまのおつれのかた、ですから……えふぃにとっては……その、ねぇさま、です」
「そ、そうか。ねぇさま、か……」
少しだけ沈黙したイフィミスラが不安そうになったエフィリムに顔を上げる。
「うむ。なら、お前は我の妹だ。例え血が繋がらずとも、ティアがお前を連れてきた。我が最も信頼する者がだ。だから、その……昨日の事は済まなかった!」
頭が下げられて、エフィリムが慌てる。
「あ、あの、あたまをあげてくださいませ!?」
「昨日は無礼な態度を取った。だから、これはケジメなのだ。今後はな。その、仲良くしてくれ……」
「ぁ、はい。ねぇさま」
自分の姿を見て、頭を下げる人間なんているとは思わなかったエフィリムにとって、その何処までも誠実なイフィミスラの姿は眩く映った。
「それではいっしょに……みずあび、いいですか?」
「もちろんだ。ナーリャ、ゆくぞ」
「なーりゃねぇさまも、よろしくおねがいいたします」
「ナーリャがお姉さんッ?!!」
一瞬驚いたナーリャが目をキラキラさせて「お姉さん……」と反芻しつつ。
何だか陶酔した様子になり「えへへ」と相好を崩した。
そんな少女達の微笑ましいやり取りに笑みを浮かべながら。
少年は脳裏で今日一日で受けたダメージの確認を行う。
朝から脳裏で幾らか状況は把握していたものの、改めて精査してみると治っても全身には呪いのように随時肉体へ負荷を掛ける術の残滓が滞留していた。
さすがに【宇宙樹(ユグドラシル)】を使ったものだけはあり、効果の残存は一日二日では除去出来ない。
それを考えれば、未だ攻撃されているのと何ら変わらない。
普段から色々と呪われるような事は日常茶飯事であったものの、聖女クラスの人間が膨大な労力を費やした力はさすがに普段から受けているものとは格が違う。
(しばらくは大人しくしてないとダメ、かな)
少年が手をゆっくりと開いて握ってを繰り返していた時、竹林に大声が響いた。
『エ、エフィリム!? は、胎(はら)にこ、ここ、子供がいるのか!!?』
そう言えば、そういう事を何も言っていなかったと少年は少女達が戻ってくるのを待った。
何やら呆然とした様子で水浴びから戻ってきたイフィミスラが何やら考え込んだ後、疑わしそうな視線で少年をジロリと見つめた。
「ティ、ティア。ま、まさか、そなたの子か!?」
「いや、落ち着いて。そんなわけないから。常識的に」
「ま、魔王に常識が通じるものか!!? だ、だって、あれなのだろう!!!」
「あれ?」
イフィミスラが顔を真っ赤にして少年にズイッと詰め寄った。
「し、知っているのだぞ!! う、噂では魔王は一日に千人の女を孕ませて、その子もすぐに大きくなるとか。何度も何度も孕ませた女は……そ、その、魔王の子種無しでは生きられぬ身体に……」
「いや、凄い脚色され過ぎだと思わない?」
「で、でも、その、そ、そなたに触られるとわ、我……はしたなくなって……」
一応、体験談を元に怪しまれていた事にちょっと言い訳出来ず。
でも、それはイフィミスラがはしたないだけなんじゃとも言えず。
魔王としての機能の一部に色々と性に関するものがあるのも事実ではあるので。
少年は灰金の少女から視線を逸らしてエフィリムの顔を覗き込んだ。
「ちょっと、訊くけど。エフィリム」
「は、はい」
「そのお腹の子って【自生者(アウトゲネス)】に成り切れてない子?」
「そう、です。てぃあにいさま。おくわしいんですね。それにいま……いふぃみすらねぇさまがいったこと。その……」
「一応、魔王って言われたりしてるのは本当だけど……怖い?」
ブンブンとエフィリムが首を横に振る。
「そんなことありません。でも、このこが、いもうとが……てぃあにいさまのこと……いろをつけてくれるひとだって……いみがわかりました」
その紫色の手がそっと自分の膨れた腹部を撫でた。
「?」
「あんまりきこえないはず、なんです。でも、てぃあにいさまに……その、していただいたときには……このこよろこんでいました。またしてほしいって……」
「そっか。珍しいとは思ってたけど、淫魔で【自生者(アウトゲネス)】だなんて……数百年ぶりかもしれない……」
「ティ、ティア!! わ、我にも分かるように教えるのだ!! さっぱりだぞ!!」
イフィミスラに横から袖を引かれて「ごめん」と少年が頭を撫でる。
「えっと、イフィミスラは魔族がどうやって生まれるか知ってる?」
「普通の人間と同じようにではないのか?」
「本当は生まれ方に三種類あって。アウトゲネス、自分で生じる者って生まれ方があるんだけど。エフィリムは人間と同じ【血統種(ブラッディ)】……そして、エフィリムの中にいる子は凄く珍しい、半分以上自分の力で生まれてくる【自生者(アウトゲネス)】みたい」
「アウトゲネス……」
イフィミスラがその言葉を呟くと少年が頷いた。
「【血統種(ブラッディ)】は生まれてくる子の数は凄く多くて、能力の優劣が激しい。逆に【自生者(アウトゲネス)】なんかは生まれてくる子の数が極端に少なくて、能力は全員が高位で優秀。そういう特徴がある」
「博学の知識にはないものだな」
「魔族に付いての書物とか。教会が大体焚書してるから」
「そうか。だから、エフィリムは……」
一つ賢くなったイフィミスラはジッとエフィリムの今は服と外套に隠された腹を見つめた。
「~~~」
頬を赤く染めたエフィリムは少し戸惑った様子だったものの。
イフィミスラとは反対側。
少年の右に寄ってくる。
「エフィリム?」
「あ、ぁの、てぃあにいさま……」
「勝手に説明した事、怒ってたら、ごめん」
首が横に振られた。
「そ、そうではなくて……その、おなかあつくて。きっと、いもうとが……てぃあにいさまをほしがってるんだと、おもいます」
少年が汗を浮かべる。
「それって……」
「えふぃもてぃあにいさまのここ……もしよければ……きのうみたいに……」
上気していく頬でエフィリムが少年の股間に手を伸ばした。
「な、ティ、ティア!?」
驚いたイフィミスラが少年を睨む。
「えっと、エフィリム。我慢、出来ない?」
「…ぁ…ふぁ…ん……」
ふるふると身体を震わせながら、既に蕩けてきている視線でエフィリムが股間に伸ばした手とは反対側の手を己の服の中に這わせていく。
「ごめん、なさい。にぃさま……えふぃのここ。もぉ……てぃあにぃさまのここおもいだして……してほしい、です……」
「ティ、ティア」
イフィミスラがエフィリムの状態に顔を真っ赤にして少年を見上げる。
「イフィミスラ。ちょっと馬車に行ってくるから、少し―――」
キュッと少年の袖が、イフィミスラの胸元に手が引き寄せられる。
「……ゃ」
「え?」
「ぃゃ……ティア。わ、我も一緒に……」
「でも、えっと、イフィミスラにはまだ早―――」
「エフィリムはわ、我より幼いのだ。わ、我だって、その……そういうこと。エフィリムにしたみたいに……できる、のだぞ?」
さすがに少年もそれは理解している。
それでもやはり少年は理由が無ければ、イフィミスラとそういう事をする気にはなれなかった。
それでも止まれないのが人間であるというのを承知しながら、それでも。
「それじゃあ。約束が守れるなら」
「約束?」
「まだ、エフィリムにしたみたいにはそれ以外はいいよ。それでイフィミスラがいいなら、ね?」
心の底で残念に思ったのは仕方なかった。
イフィミスラの乙女心にしみれば、自分より幼いエフィリムは良くて、自分はダメなのはどういう理屈なのだと問いかけたい想いが溢れていた。
少年にされたいと望む想いは強く。
自分でも制御出来ない程に膨れ上がっていて。
ジュンと割れ目の奥。
熱くなった其処からの抗い難い欲求に負けて。
少年に触れて欲しくて。
コクンとイフィミスラは少年の提案に頷いていた。
「それじゃ、馬車に行こうか」
「ん、んむ」
「はい。てぃあにぃさま……」
トコトコ三人が幌付きの荷台へと入っていく。
「んにゅぁ。なーりゃ……おねぇ……さん……♪」
難しい話の下りで眠ってしまったナーリャは夢の中でもお姉さんな自分を見て悦に入っていた。
二人の幼き少女を前にして少年が手を伸ばしたのは朝から続く寂しさを埋め合わせる為でもあったかもしれない。
傷付いた少年に寄り添った少女達はまず小鳥の囀りのような接吻から全てを始めるのだった。