第三章四十四節「風清く天晴れて」
パタンと玄関から誰かが出て行くのを感じて。
少年はそこまでお膳立てしなくても、と内心で半笑いだった。
これからどうするのか。
どうなってしまうのか。
朴念仁なんてものとは程遠い少年には何となく理解出来る。
だが、出来るからと言って受け入れるかどうかはまた別の話だ。
何やらいつもとは様子の違う。
何だか妙に浮かれて、それでいて真っ直ぐな少女の好意を含む視線。
それが穴の開く程自分を見つめているのだから、引き気味にもなるだろう。
いつも少年が見ていた少女の笑顔の中にはいつも影があった。
誰にだってそういうものはあるだろうが、それが一際濃いのがハイダル・エス・トリアの特徴でもあったのだ。
それが消え失せて自分を見つめる様子はいっそ新鮮ですらあって。
簡単に言うと少年はかなり気後れしている。
嬉しくないわけではない。
喜ばしい事だとは思っているし、それを祝福だってしよう。
だが、今までのように接するべきなのかどうか。
距離感が掴み難くなったエストリアをすぐ横にして少年は俎板(まないた)の上の鯉に等しい。
「イクスさん?」
寝台の上。
私室に戻ってきてから座るよう言われた場所でちょっと肩身の狭い思いをしながら、柔らかで熱を帯びた声が呟く。
「その……エストリアに聞きたい事があるんだけど」
「はい。何ですか?」
真っ直ぐな受け答え。
基本的に日陰で生きている少年には眩しい笑みが花開いた。
「何か、ちょっと陽気じゃない?」
「え? そうですか」
「うん。物凄く……何か初めて見るんだけど、そういう感じは……」
「その……実は今日、私の誕生日なんです!!」
「え、本当に?」
「はい!!」
「ごめん。全然気付かなくて」
「いえ、誰にも言った事ありませんでしたから。ついさっきまで自分でも忘れてたくらいですし」
「そうなんだ?」
「はい。でも、兄さんが覚えていてくれました……本当はずっとそうだった……」
「そっか……」
少年は詳しい事は何も聞かなかった。
そんなのは聞かずとも理解出来たからだ。
エストリアの表情を見れば、今まで家族の間にあったのだろう蟠りが消えたのは一目瞭然だった。
「何も聞かないんですね」
「そういうのが野暮だって事くらいは分かるし」
「イクスさんて、そういう事が分かる人だったんですか!?」
わざとらしく驚く少女の顔が笑っていなかったので少年はとりあえず謝る事にする。
「ごめん……」
「あ、嘘です。そんな困った顔しないで下さい。今のはちょっとした冗談ですから」
「そ、そう?」
「イクスさんがいっつも私にする事への仕返しです。気にしないで下さい」
「本当にごめん」
さすがに少年が可哀想になったのか。
顔を崩して、少女が微笑む。
「今のはちょっとだけ本気ですけど、怒ったりしてません。ただ、今まで私に勇気が無かった……問題はそういう事なんですよね。きっと……」
何処か自省するように呟いた少女の顔が大人びて見えて。
少年は「ああ」と納得する。
今、目の前にいる少女は今まで少年の前にいた哀しみを隠して笑う女の子ではなく。
自分の足で立って前に進む一人前の女なのだと。
「イクスさん」
今まで10cmは離れていた距離がいきなり0となる。
少年の腕を抱くようにして、少女はとても優しくて少し気弱な顔をしていた。
「……イクスさんは、私以外の女の子で好きな子は……いますか?」
答えに窮する事なく。
さりとて急く事もなく。
少年は静かに男として応える。
「いるよ」
「っ……そう、ですか」
少しだけ歪んだ顔は痛ましくて。
でも、腕は離されない。
「イクスさんは……その子の事が好きですか?」
「うん」
「っ、やっぱり、隠してくれたりはしないんですね……」
心の何処かでは解っていたエストリアが呟く。
「公言する類の事じゃないし、逆に秘する事でも無い。ただ、迷惑を掛けないよう気は使ってる……それだけだから……」
「あ、はは……こんなにあっさり言われちゃったら、聞けなくなっちゃうじゃないですか。ズルイ……」
「エストリア。僕は―――」
ピタリと人差し指を少年の唇に付けて。
少女が首を緩々と横に振る。
「解ってます。だって、ずっと見てました。イクスさんがどんな人で、どんな風に誰と接してたのか。誰にも手を差し伸べる。自分の事なんか構わずに……まるで、何処かの詩人が謳った人みたいにイクスさんは優しい……」
「エストリア……」
何処か残念そうに笑う。
けれど、少年を見る瞳は澄んでいて。
「イクスさんの優しさはきっと誰か一人に向ける為にあるんじゃないんだって、何処かで気付いてました。出会った時からずっと、この人は誰かを本当の意味で特別扱いはしてくれない。誰にも平等な人なんだろうなって」
「聖人とは程遠いよ。僕のそれはきっと」
「でも、そんなイクスさんだから。そんな人だから、皆が皆イクスさんの傍を居心地が良い、そんな風に感じてるんだと思います。知ってますか? イクスさんがいなかったら、傍にいる人達の誰も接点が無いんですよ」
「接点?」
「はい。例えば、私。イクスさんのいる講堂まで足を伸ばそうなんて、イクスさんがいなかったら卒業までずっと思いもしなかったと思います。武芸術部もそう。そんな部活がある事自体知りませんでした。イクスさんがいなかったら、私はリーシャさんともシルルゥさんとも話したりしなかった。いつもいる校舎の屋上で一人寂しく毎日毎日、来る日も来る日も一人昼食を摂って、放課後を市場で過ごしてた」
少女の瞳にあるのは懐かしむような色。
「あの×……美紗さんとだって有名な先輩と学校の後輩以上の関係にはなってなかった。もしかしたら、兄さんとだって、あのまま……こんな風に解り合える日も来ないまま、何も知らず……霧に巻かれてたかもしれない」
全ての出会いが折り重なって今がある。
記憶を落としたままの少年はエストリアの言うIFがとてもリアルに想像出来た。
今とは違う選択肢。
今とは違う仲間達。
いや、独りで何処まで境界を進めたか。
「だから」
誇っていいんです、と微笑みが告げる。
「イクスさんがどんな過去を持っていても、皆絶対に解ってくれます。理解しようとしてくれます。誰を好きでも、誰を選んでも、選ばなくても、きっと納得してくれます。そして、このアルヴァスで起こった事、イクスさんが助けてくれた事、ずっと忘れたりしない。傍にいて欲しいから取り合いにはなっちゃうかもしれませんけど」
笑い半分。
だが、人の想いがそんなに単純であるはずもない。
しかし、少女は両手で少年の頬に触れて。
「独り占めしたいけど、無理なんですよね? 傍にいる人達の為に……ずっと見ていて欲しいけど、出来ないんですよね? 見てあげなきゃいけない人が一杯いるから……そんなのイクスさんを好きになったら、分かります。だって」
「っ」
初めての口付けのはずで。
けれども、場所は唇でなくて。
ちゅっと優しく額へ降る。
「誰にも悲しい顔をさせないって、その顔に書いてありますから」
「エス―――」
「ズルイ人。でも、そんなイクスさんが私は、ハイダル・エス・トリアは、大好きなんです」
胸に顔を抱き寄せて。
切なさに焦がされた胸が脈打つ。
「好きです。今まで見てきた誰より。好きです。誰が何て言おうと。私の言う事はきっとまだ十数年しか生きてない小娘の戯言です。大人や経験が豊富な人が見たら、鼻で笑われちゃうかもしれません。でも、この先に人生が在ろうと無かろうと私は……今、此処にいる私は目の前にいるイクス・ゼオが、イクスさんが好きです。誰よりもなんて言いません。絶対だなんて言えません。そんな風に言ってくれる人がきっとイクスさんには一杯いて、私より強い気持ちでいるかもしれないから。でも、どれだけ考えても……ダメなんです……イクスさんがいなきゃ……私は、エストリアは……だから」
胸に頭を抱いたまま。
トサリと少女が寝台へと倒れ込む。
「勇気を、下さい。どんな場所でも後悔なんてしないように……どんなに傷付いても戦えるように……っ」
ようやく。
少年はようやく。
自分が思い違いをしていたのだと知った。
少女は、このハイダル・エス・トリアという少女は、告白をしているのではないのだ。
好きだと言った。
抱いて欲しいと迫られた。
だが、その内心にあるのは死への恐怖と自分の横に立とうとする強き意思。
そんなものを覚悟させてしまった。
そんな事に大切な瞬間を使わせてしまった。
その罪、咎、如何程だろう。
(何も知らずに微笑んでいられる世界を……そう、約束したのに……僕は……)
誰にしたのかも定かではない約束。
それはどうしてだったのか。
今となっては解らない。
でも、きっと、こんな悲壮な事を言わせたり、思わせたりするのは約束を違える事と同義に違いなかった。
「エストリア」
「は、はぃ……」
「君に僕はそんな勇気を持たせたりしない」
「え?」
「君がどんなに傷付いても戦えるようになんてしない」
少年が胸の中から抜け出して、己から視線を合わせる。
「今の僕は君にそんな悲しい事を覚悟させる程、弱いかもしれない。でも、そんなのは嫌なんだ。君は今まで通りでいいし、何一つ心配なんてしなくていい。変わらなくたって、決意しなくたって、僕が君を後悔なんてさせない。傷つけたりさせない。だから……」
「ん、む?!」
少年の唇が唇を塞いだ。
(ぁ………)
それはたぶん少女にとって何も考えられなくなった瞬間。
いや、どれだけの間、舌を交わらせていたのか。
ようやく唇が離れた時。
もう彼女の中から言葉は蕩け、消えていた。
「そんな風に無理矢理自分を変えないでいい。来年も再来年も君には自分を変えていくだけの時間がある。約束するよ……僕が君を、必ず未来まで連れて行く」
「――――――」
悲壮な決意なんて要らないと。
そんなのはする必要も無いのだと。
色気の欠片もありはしない答に。
(……ぁあ、そうか。私……イクスさんに全部また押し付けようとして……)
少女はようやくまた自分が思い詰めていたのだと知った。
(未来……ダメかもしれないなんて心の何処かで思ってたのに……私って、ゲンキンな子なのかもしれません)
欲しい言葉では無かったかもしれない。
だが、とても少年らしい宣言と誓約。
ただ、己に課した命題。
しかし、誰よりも何よりも誠実で傲慢で真摯な言葉。
「………もぅ」
思わずエストリアは顔を緩ませてしまっていた。
ポロポロと眦から零れるものを今度は少年の胸に押し付けて。
「もぅ! もぅ! もぅ!!」
「エ、エストリア…?」
「人がせっかく真面目な告白をしたのに……イクスさんはまったく。本当にまったくっ」
鼻をグズグズとさせながら。
少女は笑っていた。
「っ……空気読めなさ過ぎです!! オンナノコの敵!! 悪魔!! このアルヴァス・カレッジのハーレム王!!」
「え、えぇっと……その……」
さすがにどう返していいのか解らず。
それでもしっかりと抱き締められながら。
「ごめん……」
「本当に悪いと思ってるなら、や、優しくて下さいッ」
もう自棄だとばかりに言い放って。
「そうしてくれないと」
ようやくハイダル・エス・トリアはいつもの自分のまま。
「許しませんから……」
そう、少年へ囁く事が出来た。
「うん」
そっとハンカチが差し出され、髪がそっと撫でられる。
いつも独りで抱え込みがちな少女の望み通りに。
その想いを慰めるように……。
「大切にするよ。ハイダル」
「~~~///」
灯りがそっと小さなものへと変えられ。
再び、唇が、溶け合った。
*
エストリアが自分から衣服を脱がせて欲しいと言い出したのは口付けが終わった頃。
もう理性の欠片も奪われたような状態から少しだけ脱して、耳元でのお願いだった。
少年は言われるまま。
寝台の上で見守り、シュルシュルと衣擦れの音が室内に響いた。
大陸中央では当たり前に成りつつある女性の胸を覆う下着(ブラジャー)。
まだしなくてもいいような大きさではあったものの、少女は瞳を閉じて、少年へ見せ付けるように上半身の全てを露にした。
まだくすみの一つも無い初々しい肌の質感。
年頃らしい瑞々しさは今や上気した頬と同じ赤みを帯びて薄暗い灯りの中で輝く。
「綺麗だよ。凄く」
「ぁ……」
少年の口付けで殆ど理性を剥ぎ取られてしまったとはいえ。
それでも褒められる事に慣れていない少女の背筋が震えた。
つぅっと少年の指が小さな頤(おとがい)を持ち上げて、スルスルと喉元を降り胸元まで肌をなぞっていく。
「ん……っ」
思わず身を捩じらせて。
僅かな緊張と他人に触れられた事の無い場所に指が這う感触を受け入れて。
いつもの元気な様子からは想像も付かない艶かしさで吐息が漏れる。
二人の間を埋めるように手が滑り込めば、僅か膨らみを主張する少女の蕾が今まで何人もの少女を鳴かせてきた指先の妙を受け入れて、微熱を埋み火へと育てていく。
「ん、ぁ…ふ、ぅ……っく……」
最初から擽ったいだけではなかった。
エストリアにとって初めての少年の指は近頃するようになった行為とはまた別物。
微細な振動を伴っているわけでもなく。
している内に高まるだけでもない。
その温かさが、優しさが、肌を滑る度に感じられて。
何よりも心をホッとさせてくれる。
全てを委ねたくなるような心地になるのだ。
(ぁぁ、私……今、イクスさんに触られてる……道具と全然違うよぉ……っん、く)
やがて、指先が蕾を転がし、捏ね初めて。
甘い吐息を我慢出来なくなっていく身体が押し倒される。
頬に軽い口付け。
そして、唇は喉から鎖骨を通って胸へと続き。
ヌルリと舌が勃ちつつある乳首を滑り、舐め上げ始めた。
「ひぁ…ぁ……っ……イクス、さん……が……私の……ここ……っ」
彼女とて年頃の少女だ。
同じクラスメイトの色事情報に詳しくないわけではない。
あそこを舐められると気持ちいいとか。
逆に舐めてあげるといいらしいとか。
貴族の子女も庶子と変わらず艶のある話くらいする。
だから、男に舐められている最中くらいは少しくらい派手に喘いだ方がいいとか。
喘ぎを抑える真似くらいするべきなのだと思っていたりした。
妄想は今や現実。
けれど、彼女の心に焼き付くのは二つ。
初めてがあまり気持ちよくないなんて嘘であるという事と。
演技なんてしている暇もなく背筋を焼く恍惚は想像より、独りで慰めるより、凄まじかった。
「ぁ……♡」
ビクビクと既に自分が何度か軽く達した事すら理解せず。
目尻に涙を浮かべて。
少女は喘ぐ。
少年から齎される全ての快楽を受けようと淫欲に貪婪(どんらん)となった肉体が、事前準備(という名の自慰)によってある程度開発されていた性感の全てで快楽を飲み込む。
汲めども尽きぬ泉の如く。
次々に両の蕾から指と舌が織り成す愛撫による悦楽が脳裏を満たす。
元々、そういう性質だったのか。
性具を使っていた影響か。
「ん?!! んぐぅ~~っ♡」
背筋を駆け上がった衝撃でブルブルと全身が震えた。
「気持ち良かった?」
指と唇を離して。
優しく頬を手の甲で撫ぜながら、少年が訪ねる。
(い、今、わ、私……イ、イクスさんの手で……~~~///)
一度達した事で僅か戻って来た理性は羞恥のあまり悲鳴を上げる。
それでも、少年にはちゃんと伝えなければと、視線を俯きがちにしてコクリと頷きが返された。
「そっか。良かった……じゃあ、もうそろそろこっちもいいかな?」
「ぁ……」
留めようにも少年の方が早い。
完全に潤み、滑(ぬめ)って透けた白の下着(ショーツ)。
それが指先で触れられて、ジュリュンと股間を擦る。
「ひあぁ?!」
ビクッと痙攣した下半身から齎された悦楽は背筋を昇って脳髄を焼き。
べったりと濡れて露になっているすじからプチュゥッと蜜が玉のように滲んで膨らんでいく。
「……エストリアって」
「い、いわ、言わないで下さぃっ」
本当に真っ赤な顔が両手で隠される。
(うぅ……知られちゃいました……私の秘密……)
性具で自慰をするようになってから気付いた事。
自分が実は普通よりも濡れ易く。
また、ドロドロになるくらい蕩けた蜜を吐き出してしまうという事実。
こんなになるのはおかしいのだろうかと一人で“そういう本”で勉強した彼女は自分がお漏らしをしたように蕩けてしまうなんて、実際知られたくなかった。
「そんなに気にしなくても。あんまり濡れなくて困る子がいるって事ならよくあるらしいし。逆だと思えば、エストリアは凄く恵ま―――」
ビタンと両手で少年の口元を塞いで少女が愛らしく睨み付ける。
「そ、それ以上言ったら、恥しくて死んじゃいますっ?!」
指を退かして分かったと頷いた少年が、そっと耳元で囁く。
「じゃあ、そろそろ見せて貰っていいかな? エストリアの此処」
「ぅ、は、はぃ……ど、どうぞ……わ、私の此処……お、おま、~~~ぅ……性器、見て……下さい」
「うん」
さすがに言うのが恥しかったらしく。
途中でそう何とか言い直した少女の求めに応じて。
指がもう泥濘となってクッキリと下着に浮き出ているすじを一度なぞり上げ、両側から紐を解いた。
ハラリと寝台に落ちた布地と肌の間にニチュァッと蜜で幾つも糸が引く。
ドロドロになった股間から熱気が開放され、蒸れた牝の匂いが部屋中に広がった。
「ぁ……ぅ……」
ついに見せてしまった。
自分の秘部。
薄暗くとも、形は確認で来てしまっただろう。
それに頭が真っ白になった少女は少年の表情だけを見ていた。
「愛らしくて、いやらしくて、可愛いよ。ちゅ」
「あ―――」
さすがに濡れ切った其処に口付けされるとは思っていなかった少女が半ば悲鳴のような制止の声を上げるより先に股間に寄せられた唇がまだ糸が解かれていないすじの中央に触れた。
「~~~~あ、ぅ、ゃぁ……!!?!」
プチュン。
また蜜がすじから膨れて。
しかし、滑り落ちる事無く。
少年の唇を濡らす。
ズ、ヂュ。
「ッ~~~~?!!」
僅かな吸引。
思考というものが少女の中から消え失せる。
自分の蕩けた性器を少年の唇が吸っている。
たった、それだけの行為がもう少女に有無を言わせなかった。
背徳感。
高揚感。
独占欲。
愛欲に塗れた恋する乙女は牝の顔となって、はしたなく顔を崩された。
「へぁ、ぁ゛~~~♡」
キュウッと子宮が蠢き。
蕩けた少女がだらんと舌を垂らす。
熱い吐息を漏らしながら、少年の唇で快楽を貪る行為に夢中となった顔は獣のようだ。
下半身が小刻みに痙攣して、再び達した事を少年に伝える。
ゆっくりと股間から顔を離した少年はもう蕩けた顔となった少女の感じ様に僅か疑問を持って。
「エストリア。その……自分で慰めてたり……」
そう訊ねた。
コクン。
もう少女に恥しさを躊躇するだけの理性が戻る事は無く。
ただ素直に頷きが返され、視線が枕元へ向いた。
其処にあるのは小さな台。
引き出しに注目した少年がそっと開けてみると。
「……えっと、これって」
少年にはそれが何であるか大体予想出来た。
小さな小石程の楕円形の物体。
大きいものや少し形が違うものが数個。
中には魔術具の類なのか。
生体に近い仕様もあって、魔力を通せば生物のように形を変形させるに違いない代物まであった。
「………」
少しだけクスリと微笑んで。
「悪い子、だね? エストリアって」
少年が言えば、ゾクリとまた今までとは違った快楽が少女の下半身に奔る。
「こんなに一杯持ってるなんて。少し持ち過ぎだと思う……けど」
ゆっくりと少年が小さな魔力で動く仕様のものを数個、手に取って少女の股間に近付ける。
(あ、ぁ……い、くすさんに……そん、な……ぁ、くぅん )
ズグンと下半身から正直な気持ちが胸に押し寄せて。
エストリアの胸が高鳴った。
少女に寄り添うように横となって。
耳元で「使ってみる?」と訊ねた少年の微笑みがあまりにも倒錯的だったからか。
少女は反射的に頷いていた。
「じゃあ……」
股間の下。
蜜に塗れた下着の上に並べられたの性具(ローター)は四つ。
まずは桜色のものからと。
指が魔力で糸を生んで内部の機関を稼動させる。
ぶぅぅぅぅぅ。
静かな低音のソレが摘まれて、ゆっくりとすじの中央に宛がわれた。
「んぁぁぁあぁぁ♡」
それだけでもうエストリアははしたなく喘ぎを零した。
「いつもはどうしてるの?」
少年の囁きに脳を焼くような、いつもとはまるで違う快楽に抗えず。
「こ、こにっ、お、まんこにぃ……いっぱいあて、くぅん♡ あててまひたぁ……♡」
恥しい告白も今は単に快楽を増幅する香辛料(スパイス)か。
目尻に涙を溜めながら、唇の端から唾液を垂らしながら、少女がズブズブとすじの中へと潜りこんで行く性具の具合に声を上げる。
「じゃあ、今日は膣(なか)にも入れてみよっか?」
「しょんなぁぁ……っ……しょんなころしたらぁぁ……」
涙を溜めて止めて欲しいと哀願する媚びた視線に少年がちゅっと頬へ口付けする。
「大丈夫。大切なところは傷つけないようにするから、ね?」
その言葉に今よりもっと少年にして貰えると。
安堵と快楽に染まった思考は肯定しか返せなくなる。
「じゃあ、一個目を入れちゃうから」
クッと指ですじの中央にめり込んでいた性具が押し込まれて完全に埋没した。
ぶぅぅうぅぅぅぅ。
「ッ―――?!!?」
少年の指が魔力の糸で繋がるソレを緩々と操作する。
浅い場所を出し入れするだけでも襞は戦慄き、蜜が溢れて指先を滑(ぬめ)らせた。
その上すじを指先で何度もジュリュジュリュと擦られて。
声にならない嬌声を少女が上げる。
(しんひゃう゛♡ ひんじゃいまひゅ♡ やぁ、いくひゅさんのゆびぃ♡ わらひのおまんこ、じゅりゅりゅっへぇ……♡ りょーらぁーちゅかっひゃらめぇぇ……♡)
グズグズに蕩けた思考で淫欲に浸り、牝の幸福を享受した少女は自分の膣(なか)がもう完全に出来上がっているどころか、薬漬けにされるよりも濃密な快楽に侵されているとも知らず。
淫らな微笑みを浮かべた。
「こっちも、ね?」
少年が腕を背中から回して片方の乳首を指先で捏ね潰す。
「?!」
最後に留めとばかりにはしたない顔となった牝の唇を己の舌で奪った。
「ふぐぅ?! ん、ちゅ、ぢゅ、じゅる、ん、ちゅ、んっ、ぁ、いくひゅひゃ、ん゛ぅぅう♡♡」
膣、すじ、乳首、唇、舌。
全てを同時に責められたエストリアの快楽の閾値が振り切れる。
本来、想定以上の情報は身体が脳を守る目的で拒絶するものだが、少年の魔術か。
それとも少女達との経験が技術を向上させたのか。
痺れる事も麻痺する事も無く。
エストリアの肉体が快楽で堕落していく。
(こぇいひょうひたらぁ♡ もろれな、あ、ひぅ、んひぃ♡♡ ゃぁあ♡ らめぇぇ♡ ひぎぃぃん♡ いくひゅひゃんのにぃ……わらひのおまんこぉ♡ ちくびぃ♡ しゅごしゅぎまひゅぅう♡ もぉ、いくひゅひゃんなひじゃ、しんひゃうょぉ♡♡♡)
ぶぅぅぅぅぅうううううう。
「ッッッ~~~?!?」
少女のたっぷりと蜜を湛えた浅い場所をまるで押し潰すように性具が押し付けられ、振動の回数が最高となった。
自慰なんて今少年から教えられている快楽からすれば、無きに等しい。
もう少年無しでは夜も越えられない。
何度自慰をしても、少年の指や少年の唇が無ければ、達する事も出来ない。
そんな未来を恐れるどころか。
少女は甘美に待ち望んで。
指によって最後のダメ押し。
陰核(クリトリス)を押し潰されてしまう刹那を妄想した。
でも、少年の指がクイッと曲がるとジュポッと蜜と共に性具が吐き出される。
(え?)
もう少しで最高の快楽を、少年に肉体を依存しなければ、狂ってしまえるかもしれない未来を、迎えられず。
少女の中で全てへの待望が焦がれる想いへと変わっていく。
背中から手を引いて。
身体を離した後。
あまりの快楽で満足に動けもしない少女の股間側へと回り、膝立ちになった少年がそっと尋ねる。
「そろそろ……その、僕も……エストリア」
衣服の上からも分かった股間の盛り上がった下穿きが脱がれ、制服を横の床に落とされる。
「ぁ……」
反り返る雄々しいソレ。
少年の幹の形に自分が求めているものが何であるか自覚して。
今まで以上に胸の底から、胎の底から沸き上がる希求が彼女の全てとなっていく。
「エストリア。一緒にしよう?」
そんな囁き。
ヒクンと。
これから行われる行為を待ち侘びるように僅か中央を開き、蜜を垂れ流しているすじが戦慄いた。
このまま何も言わずとも、少年はしてくれるだろう。
しかし、少女の唇は先程までとは打って変わって、ただ己の奥底の願望を吐き出していた。
「イクスさんのおちんちん……私の、エストリアのおまんこに下さい♡ イクスさんのおちんちんでおまんこ犯してください♡ 赤ちゃん出来ちゃうくらい、じゅぼじゅぼしてぇぇ……♡」
そんな言葉を吐く自分に驚きもせず。
自らの両の人差し指ですじを中央から開いてみせた少女が牝の顔で懇願した。
「エストリア……うん」
完全に出来上がってしまっている牝の求めに応じて。
牡たる少年が腰を引き寄せ、グッと蜜を零す中心に宛がった。
「いくよ。エストリアの初めて。貰うから」
頷く少女の内部へグプッと明らかに性具(ローター)より大きな亀頭が押し入って。
しかし、まったく引っ掛かりすら覚える事無く。
ズ、ドジュグッッと子宮口まで一気に貫いた。
「んぁあ゛あぁあああぁ゛あぁあ゛ああ゛ああぁぁ゛ぁ゛ぁぁ―――」
甘い悲鳴が上がり。
ようやく。
本当にようやく。
少女は自分が妄想していた以上の衝撃に翻弄されながら、その甘美過ぎる、心地良過ぎる、明らかに普通とは違う快楽を薄い処女膜が破られたばかりの膣襞と子宮口で味わった。
間延びする声。
襞を幹の先端で割り開かれ、押し潰され、征服されていく感触。
自分の子宮口でグヂュィィッと自分の蜜と少年の蜜が交じり合う実感。
男と、牡と、交わり、自分を捧げて、膣(なか)で奉仕するのだという感慨。
元々は教会の信者だった両親から貞淑にと育てられた面もあるエストリアは自分の中で明確に今もある像をもう脳裏に投影していた。
小さな頃。
教会のシスターに言われたのだ。
愛する人は生涯に一人だけ。
だから、その人には沢山の奉仕と感謝を捧げて、一緒に幸せとならなければならない。
(ぁあ、わらひ……いくひゅひゃんなしじゃいきれいけなくなっひゃったんれすね……♡)
悦びは奉仕の心に満ちて。
今も蠢く膣(なか)が完全に蜜壷と化した。
「おまんこにぃ♡ おちんちんあ、りがとうございまひゅ♡ いくひゅひゃん♡ あかひゃんつくっれもいいれひゅからぁ♡ えしゅとりあのおまんこでぇ♡ しゃせいひてくらしゃぃ♪ あなたのえしゅとりあのおまんこれ、びゅーびゅーってひれくだひゃいまひぇぇ♡♡♡」
ただ自分を性具のように使って欲しいと。
自分は貴方のものだからと。
夫に尽す妻となる。
牡の為に牝となる。
ただの男女以上の特別な相手として。
エストリアが淫欲に満ちた艶やかな笑みで誘う。
「ッ―――エストリア」
我慢出来ず。
温かく自分の全てを受け入れて蠢く膣襞を抉るように深く深く抽挿が開始された。
「はぎぃ♡ ひぎぃ♡ んあ゛ぁぁ゛あ゛ぁあ♡♡ いくひゅひゃんッ♡ いくひゅひゃん♡ いくひゅひゃんッッ♡」
ドジュドジュヂュドヂュグドヂュヂュググヂュゴヂュグ。
少年の先端の傘の部分に何度も蜜と共に襞を抉られながら。
一番奥に破瓜の血と共に少年の蜜を塗り込められながら。
少女はもうただ夢中だった。
叫び声は獣染みていて。
でも、その両手は少年背中に届いて。
もう足は太腿に絡んで離すまいと少年の腰使いを手伝う。
しかし、すぐそんな交合に新たな刺激が投入される。
寝台に付かれた少年の指から伸びた魔力の導線が置かれていた性具(ローター)の全てと繋がり、蠢き始めたのである。
二つは両側から乳首に。
そして、一つは尻穴に。
最後の一個、生体に近いソレが少女の陰核(クリトリス)へと接触して変形し、包皮内部の小指程にも肥大した中身を覆うよう密着した。
「!?!」
これからどうなるのか察した少女の喉が叫びの途中にも唾を飲み込む。
壊れてしまうのではないかと。
そう思う程に焦がれる気持ちが高まり、少女の肉体はすぐに自分を襲うだろう最大級の衝撃に備えた。
(いくひゅひゃん♡ いくひゅひゃん♡ いくひゅひゃん♡ いくひゅひゃん♡ あぁああぁぁ゛ああ゛ぁあ゛♡ しれ!! しれくらしゃい♪ いくひゅひゃんのものにしてくらひゃい♡ おまんこもおひりもくりとりひゅも、いくひゅひゃんらけのめしゅあなにひてくらひゃい♡ ちゅうこにしてくらひゃい♡ おちんちんきもちよくしゅるどうぐみたいにしてほひぃよぉ♡)
元々、誰かに依存するような性だった彼女にとって、夫となるべきは自分を使ってくれる人。
否、自分を使ってくれる優しい夫(しょゆうしゃ)でなければならなかった。
ずっとずっと独りでいた彼女の歪さ。
持ち物のように肌身離さず傍へ置いて欲しい。
そんな気持ちは今正に少年に向けられて。
ぶぅううううううううううううううううううううううううううううう。
「んぉぉ゛ぉぉ゛お゛おぉぉ゛ぉぉっっっ♡♡♡」
少女の脳裏が白く染まり、獣のような鳴き声が上がった。
連動する四つの性具(ローター)が少年の意思に応じて乳首を震わせ。
尻穴に潜り込んで排泄の快楽に似て背徳的な甘美を生み。
剥き出しになった陰核(クリトリス)の神経を容赦なく衝撃で刺激し始める。
「ゃぁあぁあああっ♡ らめぇぇ♪ らめれぇぇぇ♡♡ いくひゅひゃぁぁん♡ んぁ゛♡ あぁぁああぁ!? こわれひゃう♪ わらひこわれひゃいまひゅからぁぁぁ♡♡♡」
ポロポロと涙を零して哀願する様子は普通なら嗜虐心をそそるのだろう。
が、少年は自分の幹をヂュルヂュルと食み占めて既に潮と蜜で寝台に水溜りを作りつつある少女の膣(なか)の具合に微笑んで、その仰け反った少女を抱き締めながら唇を塞いだ。
「んくぅ?! んちゅ、ぢゅじゅぐっ!? んぐ!! ぴちゃっ、ぢゅ、んぅうぅ゛うう゛!!?」
少女の唇も舌も哀願して止めてと叫ぶより、少年の唇に吸い付き、舌で舌を向い入れ、唾液を貪る事を選んだ。
まるで自分の身体ではないような忘我に意識を侵蝕されながら。
確かに感じる少年の温もりと与えられる最大級の淫らな快楽に身を任せて。
淫欲の虜となった少女は少年にされる全ての事を受け入れた。
ドヂュ、ドヂュ、ドヂュ、ドヂュ。
牝穴が太い幹で貫かれ、えらで蜜を掻き出される度。
神経をジリジリと焼くような焦燥と温かな快楽が背筋を駆け上っていく。
失神寸前のまま。
性具に強弱を付けて責められた身体は痙攣しっぱなしで少女の意識を微塵に砕くような心地良い終わりへと導いていく。
やがて、膣奥で子宮口が何度も打ち込まれた先端の形を覚えて、ピッタリと納まるよう歪んだ。
「最後まで、する、からね……エストリア」
ようやく唾液の糸に塗れた少年の唇が少女の耳に囁いて。
もう舌をはしたなく垂らして犬のように呼吸しながら快楽を貪るだけの牝となった少女は微かに頷いた。
(くる! くる!! くるっ!? いくひゅひゃんのおくからぁぁ♡ びくびくっれぇ♡ こだねくるぅぅぅ♪ あかひゃんできひゃいまひゅ♡ まらがくしぇいらのにぃ♡ いいよ♡ きもちいいよぉ!! もっろちゅかっれほしぃよぉ♡ いくひゅひゃんのあかひゃん♡ ちゅくっれ……わらひのことちゅかっれほひぃよぉぉハー♡♡ ひぁぁぁぁ♡♡♡)
一際高くプチュァアアアッと潮が股間から吹いた。
それと同時にグッと押し込まれた鈴口が子宮口に密着して煮え滾った精を余すところなく迸らせた。
びゅ、びゅるぅううううううううううううううううう。
「ひ――――――ッッッ♡」
目が裏返りそうな程に脳裏を明滅させて。
少女が自分の奥で爆発した白濁が瞬間的に子宮を満たしたのみならず。
膣(なか)を満たして溢れていくのを感じた。
「んぁああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ♡♡♡」
甘い絶叫。
それでも少女は本能的なのか。
自分の膣(なか)にいる少年を心地良くしたいと、自分を使って欲しいと腰を揺すって射精を促していた。
足を絡めたまま。
牡の性器を納める道具のように少年の身体を包み込もうと抱き締めて。
唾液と涙に塗れた顔で焦点の合っていない瞳を自分の主(しょゆうしゃ)に向ける。
「ん、く……っ……」
溢れ出した精が少女の下半身を汚し、それでも勢いが納まらずに全身に降り掛かっていく。
(ぁたたかぃ……いくひゅひゃんの……きもちぃぃ……)
少しずつ暗くなっていく視界。
朦朧としていく意識。
そんな中で恍惚と快楽に満たされた少女は自分を包む少年の匂いにうっとりとして、その肌に受ける熱さに午睡みつつ、身体の強張りを解く。
だらんと弛緩した少女の上から性具(ローター)が落ちた。
少年は息を整えながら、繋がったまま。
少女の頭を優しく撫でて。
「おやすみ。エストリア」
そう、小さく瞳を閉じた顔に囁いた。
*
寝台を汚し尽くした後。
魔術でエストリアの身体を保温して部屋の空気を入れ替え、風呂に入れ、着替えさせ、諸々の掃除を終えてから柔らかな寝具に押し込めたのが深夜に差し掛かった頃合。
初めてを貰った少年は先程までの乱れようが嘘のように安らかな顔で眠っている少女の傍で座っていた。
「……いる?」
『はい。御用でしょうか? 創造主』
「ちょっと、熾きるまで見ててくれないかな?」
『了解。これより護衛任務に入ります。他の護衛対象者に異常無し』
「そう。じゃあ、頼んだよ?」
『御心のままに』
一度だけ振り返った少年が微笑み。
いそいそと部屋から出て邸宅を後にして少年はゼオ家へと向かう。
付いた時には既に深夜。
しかし、鉄格子の内部。
玄関の前でゼオ家の女当主アルゥ・ゼオが全てを心得たように待っていた。
「お帰りなさい」
ふるんと明らかに頭三つ分より大きな胸が揺れる。
「……少しいいですか?」
「ええ、勿論よ」
チャリッと少年が懐から鍵。
いや、ハンマーのように見えるソレを取り出した。
不可思議な色合いをした銀にも見える光沢。
しかし、実際にはこの世界に何kg存在するかも分からない超稀少貴金属の塊。
【OEDS(エデス)】
そう呼ばれた機構。
「……コレに“使えますよね”?」
僅かアルゥは少年の瞳を覗き込んで。
何もかもを理解したような色を微笑みに乗せた。
「………いいのね?」
「約束したんです。未来まで連れて行くって」
「そう」
頷いて。
ゼオ家の当主は自らの力を貸す事を少年に確約した。
「あの子が熾きる前に帰ってあげて。すぐに終わるわ……」
「ありがとうございます」
「ふふ」
少年は一度たりとも、アルゥに自分が何をしていたのか言った事はない。
そして、アルゥも聞いた事が無い。
それでも少年が何を思い、何を知って、何を自分に求めているのか。
彼女は言葉にしなくても全てを理解していた。
それが何故なのか。
少年は知らない。
だが、心の何処かで知っていた。
いや、理解していたのだ。
全てを見通されている。
何もかも知っている。
アルゥ・ゼオとの関係は自分にとってたぶん特別と言うに値するものを秘めているのだと。
「昔から変わらないのね。貴方は………記憶を無くして、自分を見失っても、何一つ変わらない。いえ、変えられない……でも、だからこそ、貴方は貴方足りえる……貴方の求めていたものは見付かったかしら?」
アルゥ・ゼオの言葉は少年の過去を知っている者の言葉だ。
しかし、少年はアルゥから過去を聞き出そうとも思わなかった。
過去を求めていた事は確かだが、彼が求めていたのは過去だけではない。
そして、アルゥは“貴方の求めていたもの”と言った。
“失われた記憶が見付かったか”とは訊ねなかった。
その意味は何よりも少年が理解している。
「やっぱり、知ってたんですね……」
「ええ、貴方の事だもの」
「そうですか……じゃあ、お答えします。今はまだ見付かってません。でも」
「でも?」
優しく訊ねる女に少年が何処か困ったように微笑む。
「素敵な人達に出会いました。本当に……」
「―――そうね。ずっと、見ていたけれど。昔より良い顔をしてたわ」
ただ、とアルゥが付け加える。
「少しでいい。あの子達にしているようにシルルゥにも優しくしてあげて頂戴。これは母親としてのお願い」
「はい」
頷く少年に彼女は微笑んで少しだけ艶やかに囁く。
「そして、これは女としてのお願い。あの子を愛してやって……きっと、それが出来るのはこの世界で貴方だけに違いないから……」
どういう意味か。
訊ねるまでもない。
女としてと言うからには男として愛して欲しいという事だろう。
しかし、そんな事を願う意図が解らなかった少年が舌に言葉を乗せるより先にピタリと人差し指に口が閉ざされた。
「行きましょう」
頷いて。
少年は魔性の乳房を持つ女と周囲の家々から噂される魔女に続いてゼオ家へと入って行った。
―――それから数時間後。
「………ふぁ」
虚ろな視線で昨日の激しかった少年との交わりも感じさせない様子でエストリアは自室内部で起き。
「……ん」
旭の下、椅子に眠る少年の頬へ手を伸ばした。
目覚めはとても軽やかに。
「ぁ……これって……」
自分が綺麗なシーツで寝ているのを自覚して少女は少しだけ頬を緩める。
「……もぅ……イクスさんたら……」
前日の行為に身悶えるのも、羞恥に慌てふためくのも、今は横に置いて。
ただ、ただ、ハイダル・エス・トリアはこの何処までも律儀で傲慢で清々しい程に女心を弁えていない少年に、惚れた弱み全開で怒る事とした。
「そんな風に女誑しだから、私みたいな変な子に好かれちゃうんですよ? もぅ……」
僅か開いた窓からは明け方の風。
少し冷たく、とても温かいソレが少年に似ていて。
「イクスさん………大好き……です…………♡」
彼女はもう少し、その優しい風に抱かれ、午睡む事とした。