※この作品はR-18です。

聖娼館ハルトゥム   作:Anacletus

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第三章四十五節

第三章四十五節「凶界手引Ⅰ」

 

 ファルティオーナの武芸術には凡そ二つの型があると言われている。

 

 一つは合理の型。

 

 つまり、理論だった智識に基く術の型。

 

 一つは不合理の型。

 

 そもそもが体系化出来ない合理的な知見からは逸脱する術の型。

 

 大陸において常にどちらが優れていたのか。

 

 という事を最後まで突き詰めていくと二つの事実に行き着く。

 

 一つは合理の型を学び扱うのは体力知力気力能力全てにおいて劣る種族が圧倒的に多いという事。

 

 一つは不合理の型を修める者は最終的に魔族や神格のような超越者達に多い事。

 

 この結果から導き出されるところは即ち一つだ。

 

 合理の型は不合理の型に追いつく為に生み出されたものである。

 

 本来、魔術や超常の力は異種達の祖から受け継がれたものだ。

 

 しかし、能力が劣る知的生物が超越者達のような奇蹟を行うのは殆ど不可能だった。

 

 故に不合理の型に馴染まない者達が求めたのが、全てを理論だった智識において構築する合理の型だったのである。

 

 合理の型が極まれば、その時にこそ不合理の型は武芸百般魔術千般とされる術中にて打倒される。

 

 大昔の術を創始した者達が望んだように。

 

 そういう意味で相対する二人は正に真逆。

 

 片や源流を東部に持つアルヴァス古流武術の一つ。

 

 デダル家が継いで来た総合中近接格闘術。

 

【高拳】

 

 片や記憶喪失の癖に不死身な少年の使う剣術。

 

【閃剣】

 

「「………」」

 

 ジルムス・デダルとイクス・ゼオの間合いは約4m。

 

 刹那で勝負が付くのは必至。

 

 そもそも戦ってジルムスは少年に勝てるとも思っていない。

 

 問題はたった一つだ。

 

 彼の強さが何処まで不死者(イモータル)や超越者並みの相手に通じるのかという事。

 

 幼い頃から己の力量を見定め、露払いや防御専門の拳師として訓練してきたところのあるジルムスにとって、少年は正しく打って付けの稽古相手だった。

 

 今までは諸々そういう鍛錬に対して積極的では無かった彼だが、境界踏破が三日後に迫る時期となったからこそ、最後の仕上げとして少年に対し、術理の限りを尽して戦いを挑んでいたのだ。

 

 もしもの時。

 

 急を要する時。

 

 主要な防御と攻撃の役割を二分するだろう自分と少年が相手の手の内を知っていなければ、問題になるだろうとの配慮からである。

 

「理不尽だろ。それは」

 

「そう言われても……」

 

 石壁に囲まれた大きな闘技場の中。

 

 少年が剣を片手に下げて立ち尽くし、苦笑する。

 

 型を取っているようには見えない。

 

 勿論、型を取っているつもりも少年は無い。

 

 しかし、ジルムスには手に取るように自分の未来が見えた。

 

(何しても負けるとか。どうすりゃいいんだか……)

 

 実際の所。

 

 少年の剣の本質は積層魔力による魔力刃。

 

 それを使った奥義、ではない。

 

 確かに大陸でなら珍しくも無い積層魔力を用いた奥義は強力無比な威力だが、剣術の類は奥義よりも極意に重きを置く流派が多い。

 

 そして、その例に漏れず。

 

 少年の剣術も極意にこそ、真髄がある。

 

 改めて相対してみてジルムスが思うのは少年の隙の無さだ。

 

 何処からでも打ち込めて倒せるように見える自然体。

 

 何一つとして準備しているようには見えない体勢。

 

 だが、それこそが彼には何より恐ろしく見えた。

 

 少年は剣を持っている。

 

 そう、相手を殺傷する武器を持っているのにまったく危険には見えないのだ。

 

 それどころか戦っているようにも見えない。

 

 如何にそれが理不尽の塊である事か。

 

 武芸を嗜む人間で無ければ分かるまい。

 

 人に警戒心を抱かせない。

 

 武器を持っていても緊張の欠片も無く微笑ましいくらいに“普通”のまま。

 

 片手で紅茶を嗜んでいても彼を見る者は違和感一つ覚えないだろう。

 

(どんな鍛え方なら、こんな風になるんだ?)

 

 先程まで技の限り、攻撃方法を出し尽くす勢いで術を行使していたジルムスが絶望的な気分となった。

 

 相手の技量が高過ぎる。

 

 常識の範疇に無い存在との戦闘は殆ど致命を負う覚悟で相手の引き出しを開ける行為だ。

 

 その一つ一つに入っている攻撃方法や防御方法を戦闘中に見極めて、致命打にて打倒する。

 

 相手の戦闘中の“間隙”を探す行為こそが肝要。

 

 だが、少年の引き出しはジルムスの階梯(レベル)では到底見えなかった。

 

 何処から攻撃してもたぶん無駄だし、何処から防御しても抜けられるとの自覚が彼にはある。

 

 何より問題なのは出方や攻撃方法が絶対に自分の対処能力を超えると確信出来てしまうところか。

 

 攻撃態勢を取っているのに相手は剣すら向けてこない。

 

 それでも不用意に打撃の一つも入れれば、瞬間に彼は反撃を受けるだろう。

 

 それがどんな形で行われるのか。

 

 今までならジルムスは想像する事が出来た。

 

 所詮、人型。

 

 腕の稼動範囲は限られるし、人体には限界があるはずだが、少年はその例から漏れる。

 

 例えば、相手が剣一本だと思っていたら、銃弾が飛んでくるような。

 

 例えば、相手が普通の斬撃を放っていると感じたのに、その刃が防御不可能なものに置き換わっているような。

 

 想像の外側から少年の攻撃や反撃は飛んで来る。

 

 その前段階こそが“普通の状態”なのだ。

 

 この異様さが認識出来るのは極一部だろう。

 

 戦場に立った事がある者でも、理解し難いに違いない。

 

 結局、イクス・ゼオの戦闘スタイルは“平和な日常の中で常に必死致命の攻撃が放てる状態”なのだ。

 

 油断など無い。

 

 彼にとって精神や肉体の状態というものは何処だろうと変わらないもの。

 

 戦場の最前線で戦う時も平和に茶を嗜む時も違いが無い。

 

 それでも常に最高のパフォーマンスを発揮し、突如として奥義を繰り出せる。

 

(普通、そんなのが常態だったら気が狂うだろ。寝てる時も起きてる時も大差無いんじゃないかコイツ?)

 

 食事していようが、排泄していようが、寝ていようが、笑っていようが、常に自分の命を掛けて一撃を放てるものだろうか?

 

 そんなのが本当に普通の生物に可能だろうか?

 

 少年が不死者だろうとも、知的生命であるならば、気が緩む一瞬くらいあるはずだと思いたかったが、ジルムスには人生の如何なる時、場所で攻撃しても反撃で自分だけ死ぬ未来しか見えなかった。

 

「一つ聞いていいか?」

 

「どうぞ」

 

「奥義ってのはどれくらいあるもんなんだ?」

 

「百個以上あったような。ただ、今の魔力の最大量だと積層化しても使えない物が大半で」

 

「おいおい……」

 

 引き出しが多過ぎる。

 

 たぶん、それも更に発展や展開の仕方によっては千差万別の様相を呈するのだろう事くらい彼にも分かった。

 

「ただ、基本的に戦闘中の不死者としての能力にも魔力が割かれてるらしいので。今使えるのはせいぜいが十個くらいだと思います」

 

「何か? つまり、魔力さえありゃぁ、今の十倍以上の……」

 

「まぁ、そんな感じで。基本的には使える魔力次第だと思ってくれれば」

 

「……外部からの魔力で魔力刃は使えるのか?」

 

「出来ます。それに関してはアーギストさんに一任してあるので心配はしてません」

 

「分かった、じゃあ、今日はこの辺にしとくか」

 

 気を抜いてジルムスが石壁へと向かう。

 

「それと」

 

 立て掛けてあった細長い紫紺の袋が取られ、少年に差し出された。

 

「これは?」

 

「あの事件の時にアーギストのお袋さんが寄越した剣だ。何でも武芸術使うやつなら扱えるだろうって話でアーギストの野郎経由で渡されたんだが、これが必要なのはオレじゃなくお前だろうからな」

 

「見ても?」

 

「構わねぇよ。今日からはお前のもんだ」

 

 巻かれていた紐を解いて少年が蒼い輝石で形作られているような鞘に目を奪われた。

 

「……これって」

 

「ウチに置いといた時は抜き身だったんだが。いつの間にかジジイが鞘に入れててな。何でも良い刀剣には相応の鞘が必要だとか何とか。オレに詳しい事は分からんが、何でも昔、東征冥利ナンタラって名刀を入れる為に作ったんだが、職人が剣だと勘違いしてて、結局作ったはいいがお蔵入りしたものらしい」

 

「(まさか)」

 

 少年がポツリと呟く。

 

「んで、何故かウチの蔵がソレだったわけだ」

 

「……刀の名前ってたぶん、【東征冥利大天将技神ノ太刀】じゃないですか?」

 

「ああ、お前よく知ってんな。何でも当時の魔王を倒した刀とか。歴史書にも無い適当な大法螺をジジイが吹く時に使う名なんだが、何かの昔話の類に載ってんのか? ま、それが本当にしてもそんな大昔の刀剣が残ってるわけねぇし、確かめようもねぇだろ? それで有るかどうかも眉唾だなぁっつってウチの親族連中はよく集まる時には酒の肴にしてんだ。これが何よりの証拠だとか抜かしてジジイがよくコイツを蔵から出して来てなぁ……」

 

 何処か懐かしむような声。

 

 その刀が実は現在まで残っていた事を知る折ってしまった張本人が汗を一筋額に浮かべた。

 

「たぶん、この鞘の材質……【銀金(ミスリル)】の劣化材だと思います」

 

「あん? あのクソ高い金属か?」

 

「【銀金】は高純度のものに錬成する時、大量に不純物が出るんです。それで錬成した物は錬成前の十分の一以下の重量まで減るとか。その時、大半の元素が変換されると、周辺の魔力や色々な条件で色彩が変化すると事典に載ってました」

 

「……高ぇのか?」

 

「それなりに。劣化材でも元々は【銀金】なので劣化の仕方によっては逆に従来の【銀金】より高い事もあるとか何とか」

 

「……やる。ジジイが一度入れた剣に何かの効果を常時付与するとか言ってたからな。今のお前には必要だろ?」

 

「ありがとうございます」

 

 ペコリと頭を下げた少年にジルムスがポリポリと頬を掻いた。

 

「オレはもう上がる。付き合わせて悪かったな」

 

「じゃあ、今日はこれで」

 

「ああ」

 

 少年は石壁の隙間を抜けてデダル家の道場横を通り、外へと出て行く。

 

 その手に持たれた剣が一度も抜かれなかった事にジルムスが気付いたのは夜になってからの事だった。

 

「ふぅ」

 

 朝方の空気を吸いながら、少年はジルムスの自宅からアルヴァス・カレッジへと直行する。

 

 朝早くからの呼び出しだった為、遅刻する事にはなっていない。

 

 いつも付いて来るはずの璃紗にはまだ夜明け前にアルヴァス・カレッジで落ち合おうと伝えていた。

 

 同居状態になっているウルに璃紗やシルルゥを頼んで来ている為、問題も無い。

 

 イソイソと東部の端から歩いて学校へ向かう道すがら。

 

 いつもとは違う道にも関わらず。

 

 モムッと頭に生暖かい感触。

 

「マヲ~~」

 

「もう何も言わないけど、あんまり爪は立てない方向で……」

 

 半笑いで被害の無かった旧い館の群れを抜ければ。

 

 朝露に濡れた石畳に足跡が付く。

 

『創造主に警告。周辺異相に境界反転の猶予現象によるものと思われる微弱な経路拡大を確認。一部領域の境界反転確率93.003%』

 

「―――場所は?」

 

 いきなりの警告。

 

 精霊召喚によって呼び出された紫髪のハウスメイド【最従者(ディアコノス)】が少年の横へ姿を現し浮遊した。

 

『南南西距離25m地点。7m上空』

 

「境界の反転が終わるまでの時間は?」

 

『約二十四秒』

 

 走り出した少年が通りから小道へと抜けてすぐに目的の路地へと走り込んだ。

 

 大きな館と館の間。

 

 日も余り届かない薄暗い世界。

 

 その虚空から霧がゆっくりと漏れ出していくのを少年が確認する。

 

「周辺に人は?」

 

『周囲25m圏内に14人を確認。こちらへと向かってくる者が8名』

 

(このままだとまずいかも……)

 

『周辺異相に余白を設けて侵蝕を誘導する事なら出来ますが、如何しますか?』

 

「それって霧と反転場所をこっちで操作出来るって事?」

 

『限定的に異相側との間に緩衝地帯を儲けるだけの為、反転の起因となる存在の排除までは出来ません』

 

 何を言われているのか理解した少年はそれでいいからやって欲しいと頼む。

 

『了解。余白空間の構築を行います。転移座標入力、空間構築後に転移実行。侵蝕の誘導を開始。転移まで5秒。4、3、2、1、0』

 

「マゥヲ~~っ」

 

 黒猫が鳴いて。

 

 その声を聞いた送迎馬車の操者が狭い路地に目を向けるも。

 

 もう其処には少年も黒猫もメイドも無く。

 

 僅かに残留する朝霧のようなものだけが少し滞留するのみだった。

 

 *

 

 転移のよって異相へと跳んだ少年が降り立ったのは白い壁に囲まれた無機質な空間。

 

 巨大な正方形内部だった。

 

 空気も在れば、呼吸も出来る其処には太陽も無いが真白く明るい。

 

 その最中、虚空に開いた黒い穴のようなものを彼は視認していた。

 

 それこそ霧が漏れ出す境界反転現象の本質。

 

 異相側からの侵蝕が現実へと干渉し、霧を溢れ出させているのだ。

 

「さて、登校前だけど。一仕事手伝ってくれる?」

 

「ママヲ~♪」

 

 気軽に請け負った黒猫が少年の頭の上で尻尾をプラプラ揺らした。

 

 すると、虚空の穴が拡大し、霧が大量に周辺へと溢れ満ちていく。

 

 だが、それよりも彼が目を見張ったのは黒い世界の内側から白い世界へと迫り出してくるモノの気配だった。

 

 少年が片手に持っていた袋から蒼き鞘に収められた剣を取り出して、制服の腰元に元々作られているホルダーに差し込んだ。

 

「結構大きい?」

 

 ヌゥッと腕と足が穴を掴んでドスンとソレが地面へと降り立つ。

 

 通常の人型の三倍近い巨躯。

 

 何時ぞやの鳥居から出てきた相手を彷彿とさせる体躯であるが一つ違うのは相手が筋骨隆々である点か。

 

 大きいだけではない。

 

 その肉体の筋肉が大きな力を秘めていると少年でなくても想像出来るはずだ。

 

「マヲ……」

 

 黒猫が大きいなぁと首を上向けて相手を見る。

 

 その肉体に見合うだけの大きな仮面には未だ文字が浮かんでいない―――かに見えたが、スゥッと文字が緑炎を伴って刻まれていく。

 

 曰く。

 

【外神獣(アウタン)】

 

「外なる神の獣……まさか、眷属クラスの?」

 

 そう呟いた直後。

 

 ゴシャリと少年のいた場所に拳が降り落ちていた。

 

(速い?! 今までとは桁が違うッ)

 

 少年だから対応出来た咄嗟の回避。

 

 今まで速い相手とは散々遣り合ってきた少年だが、巨人【外神獣】の速度は完全に常軌を逸していた。

 

『警告。初速3322m。攻勢防御による回避を誘うか。防御能力を引き上げて下さい』

 

 ディアコノスからのアナウンスに少年は相手の速度が弾丸の数倍以上だと知る。

 

 音速を軽く超える速度よりも脅威なのは単純にその質量だ。

 

 巨大な体躯が慣性で見掛け上の質量を倍化させれば、相手を殴り殺す事など造作も無い。

 

 言わば、相手は十数mの動く超高速の弾丸。

 

 しかも、点ではなく面で迫ってくる類の脅威。

 

 過去、同じような相手を敵にしてきた少年だったが、純粋にその上位互換に近い相手を敵にする危険は今までの比ではない。

 

 となれば、相手の次の一手は少年にも予測出来た。

 

(あの初速で巨躯が無闇に暴れたら、さすがにこの空間じゃ狭過ぎる)

 

 腰の剣に手が掛けられ、鞘が掴まれる。

 

(此処はこの奥義しか……)

 

 もう長い時間単独で戦闘をしていられる身体でも無い。

 

 即座にケリを付けなければ、動けなくなって試合終了。

 

 グチャグチャの肉塊にされて少女達の朝を彩るわけにもいかないと攻撃方法は“居合い”が選ばれた。

 

「放った後の事は頼んでもいいかな?」

 

「マーヲ」

 

 黒猫が頷いて。

 

 ひょいと彼の足元に少し後ろへと降り立つ。

 

「閃剣が奥義の一つ」

 

 少年が剣を抜くのと【外神獣】が動いたのは同時だった。

 

 しかし、人体が生み出せる初速で圧倒的に負ける少年の剣が降り抜かれるよりも先に巨人の巨躯を生かした面攻撃、つまりは肩からのタックルが加速し切る前の剣先に当たる方が速い。

 

 本来、降り抜いた刹那に宿る速度がものを言うのが居合いだ。

 

 女子供が唯一まともに扱える刀術とも囁かれるのは、その美しいまでの人体力学が生み出す技が理に叶っているからである。

 

 技術と正確な肉体の動きさえあれば、居合いの威力は男でも女でも子供でも然して変わらない。

 

 刀師と呼ばれる一部の武芸術者達は実際に子供や女が多いという事実もある。

 

 故に最速の一刀は力任せな剣術の類にも引けを取らない。

 

 だが、それにしても肉体を魔力で強化してすら秒速3000mなんて現実的ではない。

 

 無論、それに迫るだけの速度の武芸術者はいる。

 

 それ以上の秒速数kmという戦闘速度を有する魔族や神格や超越者達もいるにはいる。

 

 しかし、そういう者達の多くは肉体や存在、使う術がかなり独特で特有の性質を秘めるのが殆どだ。

 

 如何に不死者(イモータル)とはいえ。

 

 あくまで死なない、人体の復元に関する能力しか有しない少年がその速度を得るというのには無理がある。

 

 だからこそ、彼が取った一撃必殺の切り札は最速ではなく、“最遅”で放たれた。

 

 ゴガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!

 

 白き床を削るようにして真っ二つになった【外神獣】が霧と化し消滅していく。

 

「辿れ【遡斬(そざん)】」

 

 ヒュンヒュンと彼の横に折れた剣身が落ちてカランと音を立てる。

 

 続いて全身から噴出した血がダラダラと衣服を湿らせていった。

 

「―――ギリギリ、だったかな」

 

【遡斬】

 

 その居合いの技は媒質としての魔力による一種の屈折現象を元にしている。

 

 屈折とは何らかのエネルギーが現在自己が存在する媒質から他の媒質へ移る際に進行方向が変わる現象だ。

 

 彼の居合い術は積層魔力による魔力刃によって運動エネルギーを極端に屈折させる事を可能とするものだった。

 

 魔術方陣が相手の運動エネルギーを吸収するのに似ているかもしれない。

 

 対象に接触した瞬間に刃先からそれに近い事を行うのだ。

 

 対象物の加速(ちから)を接触する刃先から奪って己の刃に乗せるのである。

 

 方陣防御と違うのはエネルギーの制御を術式中核に頼らず直接肉体で行う事。

 

 そして、自らが生み出した速度ではなく対象から得た加速で対象そのものを叩き切る事だ。

 

 この魔力運用は生物が肉体だけで行うには不可能の域。

 

 対象のエネルギーを吸収する接触部分。

 

 エネルギーをよく通す非活性状態部分。

 

 エネルギーを通さない活性状態部分。

 

 全てを対象との初期接触部分の刃先に集約。

 

 刹那以下の超々短時間で対象物からエネルギーを奪い屈折させるのだ。

 

 大魔術師クラスが扱う魔術を肉体と魔力制御能力だけで行うようなものだろう。

 

 相手の力を刃で受けてから、その攻撃より先に相手を切り伏せる最遅の居合い。

 

 完全なる“後の先”を目的とした閃剣の奥義は大陸でも稀な屈折防御斬撃。

 

 必死確実の最速反攻(ゼロカウンター)と言える。

 

「か、ふっ――」

 

 ボタボタと吐血した少年が倒れ臥した。

 

 魔力が一瞬で空になる程の使用。

 

 そもそも相手の攻撃を受け切るだけの魔力が無かった為、刃を通して屈折させられた運動エネルギーが七割にも届いていなかったのである。

 

 そんな状況で無傷なわけもない。

 

 まだ一度も抜いた事の無い刃を使用したのがダメ押しだろう。

 

 その代償は臓器の破裂という大きな現実で支払われた。

 

(さすがに無理だったかも……)

 

 黒猫が近付いてきてテシテシと頬を前足で叩くものの唇を動かす力さえない身体は呼気を漏らすのみ。

 

 少年はとりあえず脳裏でディアコノスに話し掛けようとして―――。

 

『警告。再警戒を要請』

 

 ガッと虚空に開いた穴へ再び同じ形の手が掛かる。

 

(朝からミンチに口付けさせたくはなかったんだけど……なぁ………)

 

 もう意識があるかどうかすら定かでは無い少年は倒れ臥したまま。

 

 再びの敵を迎える。

 

「………マヲ」

 

 黒猫がそっと溜息を吐いて。

 

 新たに出てきた【外神獣】と少年の間に割って入った。

 

「マ、マ、マ、マヲ」

 

 変な泣き声を何事か呟けば。

 

 壮絶な打撃音が白き世界に響き渡った。

 

―――それから1時間45分程が過ぎ去って。

 

 少年は自分が誰にミンチへ口付けさせた事を謝ればいいのだろうかと目を開けた。

 

「?」

 

 視界には白い天井とカーテン。

 

(戻ってこれた。けど)

 

 ゆっくりと身体を起こしてみれば、寝台の横には蒼い鞘に収められた剣が立て掛けられている。

 

「あら? 起きたかしら」

 

 シャッとカーテンが開けられて、彼の前にノシノシとやってきたのは蛇面の白衣を着た女性だった。

 

「あの、此処は?」

 

「アルヴァス・カレッジの保険室よ。覚えてないのかしら?」

 

「はい。倒れたところまでは覚えてるんですけど」

 

「そう。貴方真っ裸で運ばれて来たのよ?」

 

「え……」

 

 さすがに少年の顔が半笑いになる。

 

「その、どういう事ですか?」

 

「それはこっちが聞きたいわ。イクス・ゼオ君」

 

 肩を竦めて蛇面【女禍】とも言われる種族の女が白い戸棚から錠剤の瓶を取り出して何粒か取り出すと彼の手に置いた。

 

「はい。血を増やす薬よ。何で裸で貧血状態のまま運ばれて来たのか知らないけど、自分の精霊に感謝する事ね。あの子がいなかったら、今頃風邪でも引いて警察機構に猥褻物陳列罪で補導されてるわよ」

 

「精霊?」

 

 少年が紫髪のハウスメイドを思い浮かべる。

 

「それにしても凄く珍しい型(タイプ)なのね。貴方の守護精霊は……肉体を持っているだけでも相等なのに浮遊するわフラスコに入ってるわ。錬金術の小人(ホムンクルス)に近いのかしら?」

 

「?」

 

 明らかにハウスメイドではないような会話内容から少年の頭に疑問符が浮かんだ。

 

「あの子は何処かに消えちゃったけど、また戻ってくるような仕草をしてたから、その内に来るでしょう。私は用事があるから、今日もしもまだ具合が悪いようならこのまま帰っていいわよ。此処を出たら、施錠されるようにしておくから、トイレに起きたり、部屋を用事で出たら、此処は使えないと思って。じゃあ、これで」

 

 フシュルルルと声を漏らしながら、舌をチロチロ出して蛇面の女が保健室から退室していった。

 

「……ふぅ」

 

 ぽふんと枕に頭を落として。

 

 少年が今日の敵の事を半数した。

 

 ギリギリどうにかなったのだが、明らかに自分一人では既に境界踏破出来るような状態ではない。

 

 せめて仲間達に一言連絡を入れておくべきだったかと思うものの、緊急性の高かった事態故にそういう暇も無かったのは事実だ。

 

 東部に朝っぱらから今までより強力な屍蝋の仮面が出てくるなんて尋常ではない。

 

 アーギストが言った通り、大きく境界内部の事態は動いていると見て間違いなかった。

 

 壁際を見れば時計は一時限目の途中。

 

 気を失ってから然程経っていない。

 

 このまま講義に出ても良かったが、少年はそれよりも朝貰ったばかりの剣がどうなっているかの方が気になった。

 

 強敵を一撃で下せたのは剣が彼の運用に耐える業物だったからだ。

 

 それにしても本番ぶっつけで使ってしまった為に折れた事を記憶している。

 

 立て掛けられてあった蒼い鞘を握られて、剣が引き抜かれた。

 

「これって……」

 

 半ばからポッキリ折れていると思っていた彼の目の前にあったのは鈍く輝く四つの煌めきが溶け合ったマーブル模様の剣だった。

 

 折れている様子もない。

 

 アーギストの母親から送られた業物とは聞いていた。

 

 しかし、その説明に特殊な能力なんて話は欠片も出てこなかったのだから、剣そのものの能力では無いだろう。

 

 少年が指先で鞘をコンコンと叩く。

 

 すると、僅かな魔力に反応したのか。

 

 仄か蒼い表層に流線型の独特な紋様が浮かび上がる。

 

(一種の魔術方陣に近い。効果が起動すると内部の剣に効果が付与される型(タイプ)みたいだけど)

 

 その鞘のおかげで貰い物を一時間と経たずに失わずに済んだのだと理解して。

 

 少年はジルムスと彼の祖父に感謝しつつ、安堵の息を吐いた。

 

(もう一人じゃ境界にすら入れなくなった。あちらへ赴く前に知れて良かったのかもしれない)

 

 まるで何事も無かったかのような平穏。

 

 カーテン越しに薄く見える青空は霧の欠片もない。

 

 嘗て無い強敵なんて今朝方の夢のようにも思える。

 

 しかし、現実はしっかりと少年の衣服を奪っていて。

 

 今も初使用の剣から伝わって来た死の気配が手に残っている。

 

「後でちゃんとお礼言わないと」

 

 運んでくる途中に血塗れの衣服を処分してくれた相手に。

 

 そして、運んでくれた相手に。

 

 少年は自分の日常への配慮を感じずにはいられなかった。

 

「………」

 

 しばしの沈黙と静養。

 

 薬を飲み干して魔力を使わずに回復に努めていたものの。

 

 そんな時間も長くは続かず。

 

 ガラッと誰かが保険室の扉を開けた。

 

 寝台とカーテンが幾つか隔てている為、相手は見えない。

 

「マヲ~~」

 

「やっぱり助けてくれたのって君?」

 

「マーヲ」

 

 頷く声と足音がペタペタやって来る。

 

「?」

 

 少年が首を傾げた。

 

 黒猫にしては音が重かったのだ。

 

 ザッとカーテンが横にズラされ。

 

 シュバッと黒い襲撃者が少年の上に乗っかる。

 

「え!?」

 

 思わず何事にもあまり動じない少年が固まった。

 

「ママ、ヲヲ~~♪」

 

 お気楽な様子の泣き声はまったく黒猫のものだ。

 

 しかし、彼の上に掛かる重みはまったくいつもとは掛け離れている。

 

 一言で言えば、亜人。

 

 それも見た事も無い海洋性の少女、だった。

 

 海月に食われたような大きな頭部とその端から出ている複数の細い触手器官。

 

 両腕に垂れ下がっている鰭(ひれ)のような翼。

 

 東部の年始に食される餅を引き伸ばしたような丸べったい尻尾。

 

 そして、何よりもその漆黒の肌。

 

 常識的な範囲での亜人には見えない。

 

「マヲヲ~~?」

 

 ペタリと手が少年の顔を触り、顔が覗き込まれた。

 

 顔の造詣が人間の美観的には美しく。

 

 同時に菫色の虹彩はとても鮮やかで。

 

 愛くるしい顔は肌とは対照的に明るい印象。

 

 しばし、少年の状況を繁々と確認した少女がニコリとする。

 

「……君っていつも頭に乗ってたりする?」

 

「マーヲ」

 

 コクンと頷いたのはどう見ても立派に猫とは掛け離れた生物だが、少年は確信していた。

 

 この傍若無人は間違いなく黒猫のものだと。

 

 ただ、そんな衝撃の真実。

 

 黒猫は亜人の変装の類だった(驚愕)よりも問題なのは少女が一切の衣服を身に纏っていない事だろう。

 

 美乳と呼ぶに相応しい造詣の乳房。

 

 慎ましやですらりとした股間。

 

 その中央にあるすじまで丸見えだった。

 

 この状況を端的に説明するなら、朝っぱらから黒い海洋性亜人少女に跨られている、という事になるだろう。

 

「その……出来れば、退いて欲しいんだけど」

 

「マ~ヲ~~♪」

 

 話を聞いた様子も無く。

 

 少年の胸にグリグリと顔を押し付けて。

 

 黒猫だったはずの少女はほんわ~~~と安らいだ顔をした。

 

「安住の地にされても困るというか。さすがに誤解されそうな行為は控えて欲しいと言うか」

 

「マッヲヲ?」

 

 何が問題なのかと尋ねられた気がした少年はそっと少女の肩を持って引き離し、説明する。

 

「服を着てから色々と話すべきじゃないかなぁと。一応、此処って学校だから……」

 

「マゥヲ~~マゥヲ~~~!!!」

 

 駄々っ子全開だった。

 

 嫌だい嫌だいと手足をジタバタした後。

 

 少女がキランと瞳を煌めかせ、ガバッと少年の頭目掛けて襲い掛かる。

 

「さ、すがにその重さで頭の上は止め―――」

 

 助けてくれた相手なので強硬な手段にも出られず。

 

 されど、このままでは首がポッキリ逝ってしまいかねないと少女を両手で押し留めて、寝台上の攻防が続く。

 

 だが、そんな時間は長くなかった。

 

 ガラッ。

 

 保険室内の混沌を更に悪化させる事態は人の気配と共にやってくる。

 

 突入してくる声は四つ。

 

「イクスさん!! 大丈夫ですか!!?」

 

「イクス!! 大丈夫!!」

 

「イクス。貴方、保険室に運ばれたって聞きましたわよ!? 大丈夫なの!?」

 

「イクス。朝からドコ行ってたの?」

 

 唯一来なかったのは真面目な奏美紗(ライオン☆ガール)だけらしい。

 

 上から順にエストリア、璃紗、ウル、シルルゥの声だった。

 

 まずいと少年が思った時にはもう遅い。

 

 シャッと慌てた様子でやってきた彼女達の手がカーテンを開けてしまう。

 

「「「「!!!!?」」」」

 

「せめて、服を着てからでいい、かな?」

 

 これから始まるだろう大騒動を予感した彼もまた黒猫だった亜人少女と同様、真っ裸のままだった。

 

 まだ横の台に置いてある衣服を着ていなかったのは明かなる失態。

 

 大ピンチの現状に困った笑みが浮かぶ。

 

「その……」

 

「「「~~~ッッ」」」

 

 言い訳にしか聞こえないかもしれないが聞いて欲しいとの懇願を口にする前にシルルゥ以外の三人が震え始める。

 

 黒猫もとい、黒い海洋性亜人少女が少年の頭の後ろで股をおっ広(ぴろ)げていた。

 

 少年に肩車のような状態で乗っているのだ。

 

 どんなプレイだ!!?

 

 との野暮なツッコミも入らない沈黙が周囲へ冷たい風を吹かせていく。

 

「イ、イ、イクスさんの」

 

「イクスの」

 

「こ、のッッッ」

 

 シルルゥ以外の三人は異口同音。

 

 馬鹿との言葉とビンタを少年の頬へ食らわせた。

 

 それから五分後。

 

 嵐のような罵詈雑言と普段の不満が濁流となって押し寄せてきた為。

 

 死んだ魚の目で倒れ臥す少年が一人出来上がっていた。

 

「イクスさんは本当にどうしようもない人です!? 知らない女の子を保険室に連れ込んだりして!?」

 

「イクス。あんまりだと思うの。璃紗もエストリアさんもウルさんも凄く心配したのにこれはさすがに」

 

「うぅう……こんな男だとは思っていませんでしたわ……」

 

「イクス。イクス。起きて」

 

 一人だけユサユサと少年を揺するシルルゥ。

 

 他の面々は滔々と少年の日常の悪行を羅列している。

 

 それをずっと横に下ろされてから聞いていた亜人少女が欠伸をした。

 

「マァ~~ヲ~~~」

 

 口元をむにゃむにゃさせる声にようやく三人の少女が気付く。

 

「え? この声っていつもの黒猫さん?」

 

「あ、本当だ。これって猫さんの……」

 

「あら? わたくしも聞いた事が……」

 

「どうしたの?」

 

 シルルゥだけが何をそんなに驚いているのだろうかと首を傾げて。

 

 三人がゼオ家の娘を凝視する。

 

「分かってたんですの?」

 

 ウルの問いに他の二人も異口同音に訊ねる。

 

 コクリと頷いたシルルゥが眠そうな黒い亜人少女の頭をいつものように撫でた。

 

「さっきから、言ってるんだけど、なぁ……」

 

 何とか声を絞り出し、少年が告げる。

 

 三人とも罰の悪そうな顔になったのは言うまでも無かった。

 

 それから数分後。

 

 ウルに璃紗とシルルゥを任せて広い保険室の奥へ行かせた後。

 

 諸々の事態をエストリアに話した少年はようやく物騒な状況を飲み込んだ彼女が驚き謝る姿に安堵していた。

 

「ご、ごめんなさい。そんな大変な事になってたなんて知らなくて……き、傷は大丈夫なんですか?」

 

「うん。それはもう。たぶん、この子が魔力を補給してくれたんだと思う」

 

「マヲ?」

 

 話を振られた少女が黒猫状態の時と同じく。

 

 尻尾を丸めて二つ目の寝台で丸まったまま、二人へ視線を向ける。

 

「まさか、黒猫さんがこんな亜人だったなんて驚きです」

 

「マヲって啼く猫はいないんじゃないかなぁ……」

 

「それでその新しい【外神獣(アウタン)】の事をジルムスさんや兄さんには?」

 

「まだ、報告してない」

 

「済みません。私達が騒いじゃったから……」

 

「僕もまさかこんな事になるとは思ってなかったし、そこは別に謝らなくても。ただ、その子をどうしようかなって今ちょっと悩んでて」

 

「この子、お家とかあるんでしょうか?」

 

「マヲ……」

 

 二人の視線に亜人少女が「?」と首を傾げる。

 

 そんな時だった。

 

「マヲヲ? マヲ?」

 

 ピクッと何やら反応して。

 

 少女が虚空へ視線を向ける。

 

 するといきなり転移方陣が保険室の天井に展開され、巨大なものが降りてきた。

 

「え!? こ、これって!!?」

 

 驚くエストリアの前で透明な液体に満たされた馬鹿でかい実験器具が降臨する。

 

 転移で現われたのは人間一人が丸々入ってしまう程に大きなフラスコだった。

 

 それによっこいしょ、とでも言いたげな仕草で亜人少女が表面を透過して入り込む。

 

『ママヲ、マヲヲ、マーマヲマ?』

 

 何やら転移方陣越しに誰かと話しているらしい。

 

 転移方陣内部から『クヲン様ぁああああああああ』と叫び声まで聞こえ始めた。

 

 やれやれ。

 

 そういわんばかりに肩を竦めて。

 

 少女クヲンが唖然とする保険室内の少年少女達を見つめ、バイバイと手を振りながらフラスコごと転移方陣の中へと消えていく。

 

『あ、何処に行ってらしたんですか!? クヲン様!!? どうして服を着ていらっしゃらないんですか!!? いつものサボりはいいですが、さすがに本体ごと何処か―――』

 

「あ、待ってください!? まだ、聞きたい事が?!」

 

 呆気に取られていたエストリアがようやく此処で返しては何も分からなくなると慌てて引き止めようとするも遅かった。

 

 転移方陣がバチンと小さな放電現象を起こしてから途切れ、声もまた途切れる。

 

「い、今のは何だったの?! イクス!! 説明しなさい!!」

 

「イクス!? 今、おっきな瓶が!? あの子もいない!? 何処かに行っちゃったの?!」

 

「帰っちゃったの? お肉イッショに食べようと思ってたのに……」

 

 慌てて駆け寄ってくる三人に何と言ったらいいのかと思案しながら。

 

 少年がまだ呆然としている横のエストリアへ告げた。

 

「家は在るみたい、かな」

 

「そう、ですね。お家、結構良いところなのかもしれません。様付けされてましたし……」

 

 とりあえず判明した事は二つ。

 

 黒猫の名前がクヲンである事。

 

 そして、何処かに帰る場所があるらしい事。

 

(あ、忘れてた……)

 

 まだ礼も言っていなかったと気付いて。

 

 再び現われたら、煮干しの類でもあげよてみようと。

 

 少年は亜人少女クヲンへの感謝と共に三人の少女達に何をどう話したものか考え始めた。

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