第三章四十七節★
第三章四十七節「綻びた日常」
果ても無く。
無尽の虚は今や血風に染まっていた。
ファルティオーナ。
その世界に一つの大陸よりも広大だろう底無。
七聖女が片手間に創り置いて既に六十年以上が経過している防衛ライン。
組織の表側で功績を挙げた武芸術者。
力の扱い方が巧みな者達が招かれる“際の世界”こそ惑星内の異相最終区域。
俗に“最果ての詰め所”と称される七教会特別防衛部隊の任務地だ。
薄紫の空。
何処までも続く領域。
それが一体何故設置されているのか。
教会関係者で知る者は極僅かだ。
世界の創生という大事がこっそりと何十年も前に行われたのはまだ旧教会派と言われる総主教(パトリアルヒス)一派が実権を握っていた頃とされる。
今では書類上でしか確認されていない殆ど独立部署に近い其処で七教会の英雄とも言われる者達が三人。
旧式の【高格外套(ソーマ・パクシルム・ベルーター)】を着込んで浮遊する石に腰掛けていた。
「おい。これどうすんだ?」
「さぁ、どうすると言われたところで」
「十数年ぶりの実戦にしては上手く動けたのう」
声は上から順に壮年の男、年嵩の女、老人。
彼らは自分達の目の前で今にも息絶えようとしている巨大な物体を見やる。
『ぐっgugぐぐぐうぅugugugggうぐ』
巨大な羽根付きの芋虫。
言葉にするとソレはそういうものになるだろう。
その肉体は辛うじて虚を飛んでいるが、その羽ばたきもそろそろ止まろうとしている。
身体のあちこちから噴出する液体が鎧の装甲表面を融かしている事から、明らかに常識的な生物を逸脱しているのが分かるだろう。
「おい。お前。どうしてまたこんなところに攻めて来たんだ?」
『に、にに、人間……』
「おうおう。人間がどうしたって? 今更、人間狩りが愉しい魔族なんてもんが押し寄せてくる時代かよ」
『主様。も、も、申し訳ありりり、りませ、せん』
「主? まさか、あいつらは……」
女の声が僅かに剣呑なものとなる。
『しょ、しょ、小隊。さ、ささ、さ、三億騎討ち取られま、ました』
「うぬ? 小隊だと? あちら側の師団クラスが来たと思っていたが、桁が違ったか。うむむ」
老人が自分達の感覚とはズレた羽虫の言葉に唸る。
『にに、に、ninininnni人間め。かし、し、しこく、ず、ずる、いににに、人間め。ささ、さらっ、さらっ、ささらら、さら、たもも、ものをど、どどこへやや、やった』
「何? 浚った、だと? 何を言ってるんだコイツ……」
男の声が怪訝そうなものとなる。
『あ、あ、主様。つ、つぎつぎつつつぎ、なるま、まお、まお、う、け、けけて、けっ、ててteeeeiをここ。ここ、こころよりのぞ、のぞんんんん、でおり、おりま、すす』
「次なる魔王ですって? まさか、酷界側から新しい魔王が選出される? これは七聖女様達にご報告しなければならない事案かもしれませんね」
「これからのんびり油を売って暮らしてけるかと思ってたんだが……平和ってのは呆気ないもんだな。こうなると」
「ふむ。【騎師団】が再編制されておると言うし、我らが再び旗を持つ日が来るやもしれんな」
「もういいわ。喋ってもらっておいてなんだけど、ご苦労様」
女の声がした途端。
羽がバキリと根元から折れた芋虫は、全長300m程の図体を遥かな深淵に落下させていった。
「マロウの奴は元気かなぁ」
男が声に女が答える。
「近頃、行方不明だって話だけれど」
「その上、西部と“宙”がキナ臭いと若いもんが言っておったのう」
女と老人の声に男が肩を竦めた。
「此処にいてよくんな情報を仕入れてくるな。あんたら」
「【騎師団】の元団長なんだから、それくらいはねぇ」
「ふぉっふぉっふぉっ。孫達が毎日通信をくれるんじゃよ」
男と女と老人がそろそろ帰ろうと立ち上がった時だった。
遠方から浮遊する艦隊が近付いてくる。
それは宙を渡る七教会の宙域航行艦によく似た造りの十数隻からなるパトロール隊。
無尽の領域を見張る彼ら特別防衛部隊の拠点である。
『大丈夫でしたでしょうか!? 皆様方』
周囲に響く声に男が応えた。
「おう。遅いぞ。今、片付けたところだ」
『やはり戦闘が!? これは一大事!? すぐさま七教会本部に連絡を!!』
「そうしてくれ。それとマディクトのやつに直通で話を通して、オレ達の代わりを三人寄越せって伝えとけ」
『か、代わり!? まさか、お戻りになるつもりですか!? お三方!!?』
「まぁ、久しぶりに現世に戻るのも悪くないでしょう」
女が鎧の表層を今も融かす液体を払って立ち上がる。
「そうじゃのぉ。これからの事をあの禿頭と相談せんといかんからのぉ」
「ジジイ同士、禿た頭を自慢し合うのか?」
男のからかいの言葉に老人が呵呵大笑した。
「貴方もいい加減にいい歳なんだから、もう少し落ち着きなさい」
「けっ、ハイネシアみたいな事を言いやがる。だから、老け―――」
「死にたいの?」
いつの間にか剣が一本男の鎧の首筋にヒタリと付いていた。
「あ~分かった分かった。もう言わないから、仕舞え。普通に首が飛ぶ」
「飛んで死ぬような柄でも無いでしょうに」
剣が手品の如く消え失せて。
男は鎧越しの声の冷たさにげんなりして喉元を擦った。
「とりあえず。戦果報告。酷界からの侵攻対象。約三億の小隊を撃破せり。増援に四人。いや、五人は置いておきたい。こちらからオレらが抜ける穴を埋めるのとは別にな。それとしばらくは付近を艦隊でうろつくな。残党がいた場合、面倒な事になる」
『さ、三億?! しょ、小隊、でありますか?!』
狼狽した声に三人は頷く。
(特別ボーナスで何買おうかしらね)
(孫に最新の玩具を買ってやるかのぉ)
(久しぶりに西部で腐ってる連中と飲むかな)
もう鎧の中で三者三様の算盤を弾いて。
彼らは最果ての地より現世へ帰還後の予定を考えていた。
超人と讃えられる七教会最強と謳われた紛争介入部隊。
魔王戦において編制された複数の【騎師団】。
その中でも三騎将と讃えられる者達が大陸中央のアルヴィッツに帰還したのはその夜。
彼らに待っていたのは休暇でもボーナスでもなく新たなる仕事だった。
再編制された【騎師団】の長としての再就任と隠密出動。
大陸西部のとある国の周辺における監視任務。
霧の出なくなった国に暗雲の如く戦の足音は忍び寄っていく……。
*
―――アルヴァス・カレッジ全学年合同総競技会当日。
校庭で行われている全学年合同の熱戦に不参加の生徒達は釘付けとなっていた。
梅雨にしては珍しい晴れ模様。
絶好の運動日和。
亜人貴族の学生達がゼェゼェ息を切らして第七種目後の空気を吸っていた。
七つ目の課題は速度走。
特定時間内に規定以内の速度を一瞬でも叩き出すという生徒にとっては地獄のような競技だ。
種族的に遅い者はどうしようもないし、空を飛べても足は速く無いという種族もいる。
それでも軍事に携わるなら、走る必要に駆られる事もあるだろう。
そういう根性論が具体化されたような種目と言っていい。
本日最速を魔力無しの生身で叩き出したのは獣人(ベスティア)の二年生。
その脇では死屍累々と倒れ臥す生徒達が使用人達に団扇で扇がれていた。
そろそろ昼時だと計測が終わった者は順次食事の為に校庭を後にしている。
食事も喉を通らないという者も水を求めてフラフラ近くのベンチや教室内で待つ友達や救護班の所へ。
故に校庭から少し離れた木蔭で女性陣との食事を愉しむ輩というのは殆どいない。
いや、唯一。
ただ一人だと言うべきか。
軽く競技をこなして少女達と戯れているのは言うまでも無くアルヴァス・カレッジのハーレム王(仮)とのありがたくない名称を密かに噂されつつある少年イクス・ゼオだった。
「イクス。あーん、して?」
上目遣いに潤んだ瞳で少年の従者たる奏璃紗がフォークに刺さった揚げ鳥のカラメリゼを口元に手を添えて差し出す。
こんがりと揚がった衣の上から更に砂糖と固形ブイヨンその他諸々を塗して炙ったソレは程良く焦げ、噛めば外側のカリッとした触感に内部から溢れ出る肉汁が素晴らしい一品だろう。
一部の亜人達からの執拗な要請。
何だか同族を食べているようでゾッとしないとの悲哀溢れるクレームにも負けず今も学食で出されている人気の品である。
いつも燻製魚のサンドイッチ辺りで手を打つ少年にとっては初めて口にするもの。
学食では素材が入手し難いという理由で一日限定数食しか出ない。
そういう品が彼の口に入る主な理由は従者たる璃紗の献身的な行列への参加。
主の為に最高の昼食を、と。
人間奴隷や従者達の間で一生懸命、足が棒になるまで並んでいた功績故だ。
小さな少女の努力は何となく分かった女性陣。
エストリアを初めとしてウルやシルルゥはその「あ~ん」を黙認する。
獅子少女(ライオン☆ガール)、奏美紗は何とも言えない顔で少年をジロリと睨んでいるが、特段彼女の基準で何か悪い事をしたわけでもないので沈黙していた。
それにしても幼い璃紗に並ばせるなんて、何て主人だと言い出しそうではあるが。
「イタダキマス」
生温い少女達の視線に晒されながらモグモグと一口。
「どう? 美味しい?」
ゴクリと揚げ鳥を飲み込んで。
少年が璃紗の頭を撫でて頷いた。
「えへへ」
いいなぁ……食べたいなぁ、と毎日のように学食で名を馳せている大食い少女シルルゥは自分でも未だ食べた事の無い肉に釘付けの様子で唾を飲み込んだ。
それに気付いた璃紗が今度はシルルゥにあーんして下さいと微笑む。
二人の微笑ましい姿を見やりながら、少年はサンドイッチを一口。
他の面々も麗らかな陽気の下で食事に勤しむ。
「それにしても意外でしたわね。貴方があまり目立たないなんて」
「能力を使わずに魔力も無しでやったら、こんなものじゃないかなぁと」
ウルの言葉に少年がそう返した。
午前中ずっと少年は注目の的だった。
と、言うのも武芸術の大会で優勝した本人なのだから、当たり前の話だろう。
学生クラスが相手とはいえ、それでも殆ど大人と代わらない軍人並みの者達を千切っては投げ、千切っては投げしていた当人なのだから、さぞかし優秀な成績を出すに違いないと思われていたのだ。
しかし、魔力無しとの事で競技結果の蓋を開けてみれば、悪くは無いが平凡なものばかり。
魔力や魔術の類が強いのかと内心で納得したらしき学生達の視線は少しずつ離れ、午前の部が終了する時間帯になったら零となっていた。
「まったく情けない。私にすら負けるとは」
微妙に半眼な美紗がチクリと少年を刺した。
自分では到底敵わない領域にある少年。
少なくとも実力を認めていた相手が他者からこの程度かとの視線を受けるというのは彼女の中ではあまり許容出来るような事ではないらしい。
「自分の身体を全部使うのはこういう場だとちょっと。それに肉体能力以上の事は出来ないし、破損ギリギリの事をすると能力が発動しちゃうから、色々と問題が……」
少年の強さの否決は幾つかあるが、その中でも人体の完全制御はかなり生物として不自然な技能だ。
殆ど細胞レベルでの自己統制。
自律神経のやる仕事を全部意識下で完全に掌握し、脳の限界も取り払う。
このようにして常人としての肉体の100%の能力を運用するのである。
普通以上に見えるが、実際には一個人に眠る能力の完全な開放がその能力の本来の姿だ。
それに不死者としての能力を加味する事で自己の破損を気にせず全開以上の行動を常に選択する。
それが今まで境界踏破の過程では神掛かった戦果を上げてきた秘訣。
しかし、今や不死者としての能力は常時発動するものでなくなってしまったし、競技会で人体の完全操作なんて事をやって注目の的になる事も少年は望んでいない。
となれば、普通にやって普通の成績になるのは至極当たり前だと言える。
境界踏破の際に前より肉体の融通が利かなくなった旨は話されているので【境界踏征(オーバー・フラタニティー)】の面々や少年を看病していたシルルゥや美紗、周囲の人間はその事をそれなりに理解している
だが、それでも歯痒いというのが美紗の本当のところだ。
「美紗さん、でしたか。今のイクスの身体の事を考えれば、あまり無茶をさせるような事はお勧め出来ませんわ」
ウルが少年を庇うように呟くと静かに紅茶のカップを傾ける。
「そ、それは分かっているつもりですが……」
思わぬところから来た反論に美紗が僅か狼狽した。
「イクス。無理させちゃ、ダメ」
シルルゥが何故かピトッと少年の腕にしな垂れ掛かって呟く。
「イクスはまだ病人なんだから、もっと自分を労わらないとダメなんだから」
反対側の腕に今度は璃紗が寄り添う。
「イ、イクスさん!? こ、此処は健全な学校の敷地内なんですから、そ、そういうのはいけないと思います!!」
反射的に反応したエストリアがズイッと少年の正面から迫り。
「イクス。痛いところがあったら、言いなさい。 つ、次の競技の事もあるし、わたくしが直々に凝りがあれば解してあげますから」
イソイソと少年の後ろに来て、ウルがその豊満過ぎる胸を僅か背中に付けて囁く。
「………っ」
普通に食事をしていただけなのに独りぼっちな奏美紗が顔を赤くしつつ、やっぱりいつか公序良俗に反する罪で少年を逮捕しようと固く誓った。
「あはは……はは…は……」
―――少年の顔が困ったものになって桜色の昼時が過ぎ、午後の部へ。
諸々三時までには終わるようにセッティングされていた競技会は予定よりも順調に進んで。
最後の一種目が約十分後の開始を控えていた。
最終種目の名は戦闘実技。
言うまでも無い。
戦って戦って最後まで残れという単なる戦技の見せ場だ。
普通の大会などと違うのは学生達が疲労困憊の有様で戦う事か。
これは大きな戦争を想定しているもので、長期戦でも戦力の低下を最小限に抑えるという趣旨で行われる。
故に今までの競技で全力を出し尽したような輩は此処でリタイア。
本当の意味で十種競技を完遂した事にはならない。
心技体は勿論。
競技中のペース配分。
疲労の抜き方から、体力の残し方まで、全てを理解して初めて競技会は終えられるのだ。
最後の競技が迫る中。
少年は璃紗と共に生徒達に貸し与えられる休憩スペースにいた。
「ん、ちゅ、ぐちゅ、ん、んむ、んぁ、いくふゅ、ひぃ?」
「うん……」
講堂を廊下以外簡易の衝立で仕切り、魔術で防音。
乱戦形式で行われる最後の競技に備えた準備を行うのである。
使用可能な武器は学園側から貸し出される物のみ。
魔力使用可。
防護用の魔術方陣を破壊されるか。
または意識を失うか。
戦意を喪失したと判定者に見なされた者から脱落。
最低限のマナーとして頭部及び急所である心臓への意図的な攻撃以外は全て許可が下りる。
下手に怪我をするような輩がこの段に至って残っているわけもなく。
また、自信の無いものが戦闘実技に出るわけもない。
そういう意味では紳士的なルールが設けられている。
しかし、此処はアルヴァス・カレッジ。
貴族社会の次期主力となる若者を育成する場である。
勿論のように乱戦と言いながら同族の団体や利害関係の一致した団体が一致団結して最後まで残ろうと画策するのは常だ。
そんなわけで、戦手控え室というよりは密談の場として狭い衝立の敷居は立てられているのである。
しかし、そんな貴族社会の話と無縁な少年は璃紗と共にゆったりと過ごしていた。
「ありがとう。璃紗……」
「良かった」
パァッと顔を明るくした少女の口元はベトベトに濡れている。
衝立は基本的に長椅子とテーブルに合せて設けられ、一室のドアの部分は灰色の魔術方陣で封鎖されている為、外からは見えない。
少年はいつも講義を聞くように座っていたが、その足元の空間で璃紗は主の為にと魔力を補給していた。
「イクスのこうして見るとやっぱりおっきい……ん、ちゅ♡」
ふにゅっと少女のまだ無垢とも思える手が優しく二つの睾丸を揉み解す。
股間から反り返る幹はもう片方の手で優しく横へ向きを変えられ、桜色の亀頭を少女の口元へと誘導する。
潤う唇から覗く舌がチロチロと鈴口の下。
裏のすじを舐め、傘の部分を刺激した。
竿を握る手がやわやわと扱いて、鈴口から僅かに零れ始めた蜜を舌が全体で受け止める。
「ん、ぁ……ん♪」
染まった頬。
潤んだ瞳。
軽く汗ばんだ肌は濡れ。
愛おしそうに少年の幹を見つめる視線は歳に似合わず淫らだった。
ネトネトと輝く糸を引かせながら、舌先が踊る。
チュ、ヂュル、ヂュルゥゥ。
夢中で鈴口から溢れる蜜を舌で舐め取り、まるで極上の甘露だと言わんばかりにしゃぶり、先端を唇に含む媚態は子犬が乳をねだるようでもあった。
その愛らしい奉仕に少年が優しく頭を撫で、耳や頤(おとがい)に触れながら応えると。
少女は益々嬉しそうに目を細める。
室内に響く水音はいやらしく。
聞く者がいれば、股間を熱くさせるだろう。
まるで犬をあやすような少年の仕草と少女の奉仕に主と従僕を思うかもしれない。
それは理想的な貴族と奴隷の関係にも見えるだろう。
だから、そんな二人の秘め事を思わず見てしまった奏美紗は頬を染めてモヂモヂと股間を擦り合わせながら、見てはいけないと思いつつも、釘付けになっていた。
(あ、あんな……ほ、本当なら大事な競技前に破廉恥な事をって怒らないといけないのに///)
魔術具による通信。
アーギストから与えられている虚空に互いの映像を投影するグリップ状のソレを使ってしまったのには理由がある。
食事の後。
少年が早々と自分の割り当てられた講堂の一室へと消えて彼女は気付いたのだ。
昼休みに奴隷や従者達がそう言えば競技時刻の変更を告げられていたな、と。
学校側は時間管理の細々とした部分を生徒達の下僕に任せる事がある。
それは主たる生徒が貴族としてちゃんと下々を管理出来ているのか。
そういう面を見る機会でもあるのだ。
良い従者の主はよい生徒である。
そんな考えの下、秘書のような事を従者達にさせるのは至極当たり前。
彼らの質をも学校側は実際測っていたりする。
「イクスのおちんちん、いつもより大きいよ? 学校だから?」
クスリと。
いつもの天真爛漫な様子とは違って、娼婦の顔となった少女が舌先でチロチロと先端を擽りながら、悪戯っぽく微笑んだ。
(リ、リーシャさんが、あんなに淫らな顔を……)
境界踏破の用事に使う通信用の魔術具だ。
音が鳴るようなものではない。
相手側を呼び出す時も配慮の為に相手の耳にだけ音声が入るようになっている。
映像を映し出す時も基本的に相手側ではなく自分側から映像が入り、相手側は通信主に応じて送受信出来るようになる為、こんな手違いが起きたのだ。
自分の一室で少年にちゃんと時刻を伝えようとした彼女が一瞬で入ってくる映像に固まったのは言うまでも無い。
(は、反則です。せ、性器をリーシャさんに舐めさせてる癖に……ぅう)
とても優しい顔で自分の股間を舐める子犬のような少女を撫でる少年は穏やかだった。
少し見惚れてしまうくらい、美紗にとっては意外だった。
いつもへらへらして、困った笑顔ばかりだから。
戦う時も何かを語る時も、そんな顔をされた事が無かったから。
(知らなかった……イクス・ゼオ……貴方がこんなに温かい顔で微笑むなんて……)
映像の中で睦み合う二人の表情。
心が通じ合った姿が、亜人貴族として。
いや、一人の女として美紗は羨ましいと感じる自分を否定出来なかった。
競技前だと言うのに熱くなった股間に我慢出来ず。
その指が己の割れ目へと伸びていく。
「璃紗のお口で一杯気持ちよくなって……璃紗の此処(おくち)はイクスのおちんちんをおしゃぶりして、喉はおまんこみたいに使うところなんだよ? イクス♡」
「ッ―――璃紗」
少年が我慢出来なくなった様子で少女の小さな口にその大きな先端を潜り込ませるとゆっくり頭を抱えて、股間に引き寄せ始めた。
「んぁお♪ ん、ぁ―――」
普通なら嘔吐(えづ)いてしまってもおかしくない行為。
でも、少女が明らかに苦しそうな表情をしながらも、何処か恍惚として少年の太い幹を大きく口を開けて受け入れる姿は悦びに満ちていた。
瞳の端に涙を溜めて。
自分を使ってくれる少年に感謝すらするように、映像でも分かる程に喉を膨らませながら、根元まで加えた少女は首を前後に振って、少年のインマラチオを恍惚とした顔で助け始めた。
普通なら顎が外れてしまわないか心配になるだろう。
酸欠になるのではと美紗も思った。
しかし、何かしらの魔術で呼吸を補っているのか。
そんな様子もない。
「んぐ、んぐ、ぢゅる、ぢゅるるぅ、んはっ、ん♡」
少女は舌を出したまま、熱心に何度も何度も自分の口を占領する幹を愛撫し、先端を喉で締め付けていた。
「ん、く……」
少年の顔が僅かに甘く歪む。
璃紗の献身的な態度と娼館で磨かれた智識と技は常識以上の快楽をその“使用者”に与えていた。
娼館の客は千差万別。
どんなプレイにも応えられるだけの娼婦を育成する月兎亭の性技に対する教育は大陸水準の並みの娼婦がされるものを遥かに凌駕する。
高級娼婦というのがどんな国にもいるものだが、彼(か)の館で働く娼婦は全身を使い、自らの心を尽して主に奉仕する最高級の女に違いなかった。
幼い時から酒の注ぎ方、仕草のような基本的な水商売に欠かせない智識を仕込まれ、歴史や文学に至るまで大陸でも知識層と呼ばれる人々が受けるに値するだけの高等教育をされた彼女達は金貨数千枚以上の価値をその身に宿している。
璃紗もその例に漏れず。
技も智識もまだ全て修め切っていないとはいえ、立派な月兎亭の娼婦には違いなかった。
その未熟な心と身体も相まって、璃紗はまだ何かも拙い。
だが、それを補って余りある少年への想いが、少女の行為を淫らさ以上の“献身”というものを美紗へ思わせた。
「ん、くふぅ……」
グチュグチュと映像の先で愛し合う二人の様子にいつの間にか彼女の指はすじに潜り込んでいた。
自慰。
美紗にとってはあまりした事の無い行為。
いつもいつも仕事と家と学業の事ばかりだった彼女にとって、それは恥しくて情けない自分の弱さだった。
いつかは伴侶を娶り、男を知らなければならないと母からは伝えられていたが、それにしてもまだ自分には仕事があると“そういう花嫁修業”はボイコットしてきたのだ。
やり方は本能が教えてくれたが、耳に入ってくる以上の事をした事なんて無い。
それも下着の上から指で擦って軽く達するだけが殆どだった。
けれども、今は……。
(ん、ぁ、くふぅっ♡ こ、んなぁ……だめ、なのにぃ……他人の情事を覗いて自分を慰めるてぇ……こんな、はしたない事……っ)
ゾクゾクッと背筋に走った快楽に美紗は今、本来の自分なら絶対に恥じただろう行為を止められなくなった事を知った。
獣人(ベスティア)というのは元来、性欲が強い亜人だ。
ある程度の性的な成熟が為されると発情期というのが普通に発現し毎年やってくる。
多くの場合、性衝動が高まる時期が獣人は他の亜人達より早い。
時には幼等部に上がる頃。
歳が二桁に入ってからは爆発的にその割合も増える。
しかし、昔から自己規律を第一とし。
父のような国の“武”に属する仕事へ就きたいと願って鍛錬、特化してきた彼女はそういった衝動の始まりを未だに迎えていなかった。
友人や周囲から漏れ聞こえてくる猥談。
性に対する情報を知って、時にムズムズとした好奇心から自慰をした事はあるが、深く達する事も無く。
興味も然程出なかったのだ。
それが今は少年と璃紗の行為の様子に発情してしまっていた。
本人も気付かないまま。
衝動に駆られて、美紗の指が速くなる。
(んっ、んっ、ふくっ、んぅぅ!? あ、ひぅ、んぁ♡ こ、んなぁ……イケナイのにぃ……)
ジュクジュクと股間から溢れる蜜で下着がじんわりと濡れていくのも止められず。
まるで狗のように舌を出して唾液を零しながら、背筋を焼く甘い背徳感と悦楽に美紗の顔が歪んだ。
その姿はもうライオンというよりは愛らしい牝犬だ。
鬣のような髪の横。
ペッタリと耳が萎れている。
上気した頬。
喘ぐ舌。
座席でいつの間にか股を大きく開いて指で股間を弄る姿は快楽に溺れた獣そのものだ。
「ん、く、んぅ ん、ん、ん、ぢゅ、ぢゅぅ、ぢゅる」
何度も何度も映像の中で少年の幹を唾液に塗れさせながら、出し入れしていた璃紗が少年の射精を感じ取って何度も吸いながら喉の奥でゴシュゴシュと亀頭を擦った。
さすがに我慢の限界か。
「もう、出す、よ……璃紗」
「ん♡」
目を細めて。
幸せそうに璃紗がグッと自分の喉の一番奥に少年を迎え入れた。
ビュ、ビュルォオオオオオオオオ!!!!!
まるで水禍(スライム)のような粘性の白濁が少女の食道を通って胃へと落ちていく。
「ッ~~~~!!?」
涙を零しながら、ビクビクと痙攣する亀頭が少女の喉を膨らませる様子すら映っている。
自分の見知った相手の秘事を覗き見ながら自慰を行う背徳感が頭を真っ白にして。
美紗はブルブルと太腿を震わせながら達してしまっていた。
背筋を何度も何度も張り詰めさせて。
舌を出したまま唾液を零して。
いつも規律と法に五月蝿い獅子少女は恍惚と忘我の果てでポツリと想ってしまっていた。
あそこにいるのが自分だったらいいのにと。
抗えない肉欲。
それは美紗にとって初めての体験だった。
しかし、相手が誰でもいいなんて事は無い。
牝としての本能が選んだのは少年。
いつもいつも苦言を呈してきた相手。
なのに不思議な程、その牝の思考に抵抗感を覚えず。
彼女の脳裏にはすんなり自分と少年の睦み合う姿が想像出来ていた。
「~~~♪」
最後の一滴まで自分の胃に子種を落として。
喉と舌と唇で射精を何度も促して。
ようやく終わった少年の射精を確認した璃紗がズルゥゥゥゥッと唇から幹を引き出した。
最後に桜色の亀頭がちゅぽんと唇から離れると、子種に濡れた唇が艶やかに笑んで。
舌がペロリと精を舐めた。
その仕草、表情、どれも牡に支配された牝そのものだ。
「イクスぅ♡ イクスの赤ちゃんの種でお腹一杯になっちゃった……璃紗のおくちね♡ イクスのおちんちん穴になっちゃったんだよ? イクスのおちんちんが気持ちよくなるように、イクスのおちんちんの形になっちゃったの……♡」
卑猥な言葉を呟いた唇が唾液と蜜と精に塗れた幹を何度も舐めて清めていく。
「ちゅ、イクス……璃紗のおくちおまんこ、気持ちよかった?」
「うん。凄く……また、したくなっちゃうくらい……気持ちよかったよ。璃紗……」
まだそそり立った幹も固くしたまま。
少年が少女の頭を撫でて優しく囁く。
それにこれ以上無い程、嬉しそうな蕩けた顔で璃紗は頷いて。
そっと、感謝の口付けを幹に何度もした。
(うぅ……もぅ、まともにリーシャさんの顔が見れないかもしれない。わ、私……こんな、他人の大切な行為を覗いて……///)
心の底から恥しく。
自己嫌悪に陥りながら、それでも今から名乗り出る勇気も無く。
彼女が通信を切ろうとした時だった。
璃紗が心から呟きを漏らす。
「イクス。璃紗は……【奏璃紗(かなで・りしゃ)】はこれからもずっと、イクスの、イクスだけの娼婦だから、ね?」
「うん……」
二人の中睦まじい様子に本来ならもう止めようと全ての映像を途切れさせるはずだった美紗が固まった。
「本当はもっとしたいけど、もう時間みたいだから、イクス。頑張って来て。璃紗、一杯応援するから」
「程々に頑張ってきますって事で」
「もぅ。イクスったら♪」
温かな空気が流れ初めて。
璃紗は少年と自分の身嗜みを整え初めた。
それから数分後、プツンと美紗が通信を切る。
その瞳は伏せられ、前髪に隠されていた。
「奏、璃紗……リーシャ・ハーモニア……私の……妹?」
自分達がどんな波紋を投げ掛けたのか。
この時、少年と少女は知らず。
その日、最終競技で無敗無傷を達成した少年とは裏腹に奏美紗は乱戦の中で負傷、敗退する事となった。