※この作品はR-18です。

聖娼館ハルトゥム   作:Anacletus

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第三章~西部「逢魔顕現編」~
第三章五十一節★


第三章五十一節「幕開け」

 

―――亡郷都市アイウィス【鍵穴】前。

 

「では、行くぞ」

 

 そっと地面にある屍蝋の面に小さな子鍵が落とされた。

 

 スルンと水面に呑み込まれるような滑らかさで表面が波打ち。

 

 ガゴンッッッ。

 

『!?』

 

 全員がビク付く程の速度で両側に面が割れて開かれる。

 

「お、驚かさないで下さい!! 兄さん!?」

 

「いや、これは明らかに僕のせいじゃないだろう。妹よ」

 

 月明りの廃墟。

 

 巨大な穴となった深淵を臨む場所で【境界踏征(オーバー・フラタニティー)】の一向はようやく次の

階層へと進む事となっていた。

 

「で、どうすんだ?」

 

 ヌッと白い外套の巨躯が青年の横に立って内部を覗き込む。

 

「今、魔術中核を投下した。問題ない。空間は下層域に続いてる。このまま入っても大丈夫そうだ」

 

「じゃあ、全員で行くのがいいか」

 

「ああ、そうしよう」

 

 二人が頷くと後ろから褐色の外套を纏った黄金の鬣がひょっこりと彼らの横から下を覗く。

 

「先行する必要はありませんか?」

 

 奏美紗。

 

 数日前、少年に助けられて一時崩壊した学園の校庭から帰還し、仮面をリーシャ・ハーモニアに除去された獅子女は常の落ち着いた様子のまま、アーギストに尋ねる。

 

「此処で寸断される方が厄介。となれば、前衛も後衛も一緒に動くべき。僕はそう考える。前衛が大幅に弱体化した以上は今までのような先行偵察は控える方向で進めたい」

 

「出過ぎた真似をしたようです」

 

 スゴスゴと美紗が引き下がる。

 

「兄さん!! そういう言い方は―――」

 

 眉を怒らせて兄の言い分が途中で止まる。

 

「まぁ、事実だから」

 

 黒い外套の少年がエストリアをまぁまぁと宥めていた。

 

「そうは言うが、今までよりも戦力が下がったのは事実。状況を冷静に認識せずに戦闘は行えない。今までのような少し離れての偵察が出来ない分、魔術による周囲の索敵や情報収集は密にせざるを得ないんだ。その負担は少なくない」

 

 少年がアーギストに頷いた。

 

 数日前、屍蝋の仮面達に異相内部で群がられ。

 

 救助が来るまでの間に肉体の七割を損傷していた面影はもう無い。

 

 あまりの惨(むご)さ、傷の深さから、アーギストは妹にその姿を見せるのも躊躇った。

 

 しかし、起き上がったばかりの美紗、璃紗、シルルゥ、エストリア、ウル。

 

 その全員が襤褸屑のような姿の少年に躊躇い無く口付けするところを見て。

 

 アーギストは自分が思っていたより、女というものは強い生き物なのだと再確認させられた。

 

(まったく……愛というやつは度し難い……)

 

 妹が目の前で少年に口付けするのは二度目。

 

 それも酷く損傷した死体そのものに唇を寄せたのだ。

 

 男親のように見守って来た青年にとっては見るに耐えなかった。

 

(だが、だからこそ、強くもなれる……か)

 

 何とか肉体が元通りに復元された少年を五人は抱き締めて離さず。

 

 そんな彼女達の様子に自分では妹に与えられなかったものを少年が与えたのだと彼は実感した。

 

(これが娘を嫁に取られる父親の気持ちってやつなのかもな)

 

 今は何事もなく普通にしている少年を見て思い出されるのは少女達に抱き締められてからの事。

 

 肉体を復元されて数分は大丈夫そうにしていたが、すぐ彼の前でイクス・ゼオは意識を失った。

 

 様態を見て、ゼオ家に連絡を入れて搬送。

 

 心配する女性陣全員が当主アルゥ・ゼオから伝えられた面会謝絶との話を受け入れ、その日は館の居間に泊まり込んで夜を明かした。

 

 翌日、眠り続ける少年の傍らに全員を集めた彼女は少年の肉体は今まで以上に丁寧に扱わなければ、すぐ活動不能になるだろうと語り。

 

 一時間置きに魔力を供給しなければならないなんて言葉に少女達は……悲壮な顔すらしなかった。

 

 全員が頷いたのだ。

 

 自分達が少年を守るから大丈夫だからと。

 

 呆れるよりも先にこれ程慕われている少年の人望にアーギストは肩を竦めた。

 

 それから朝、夜、夕方、深夜。

 

 五人の女性陣による代わる代わるの魔力供給が行なわれてきた。

 

 夜ともなれば、口付け以上の事もしているらしく。

 

 同居している璃紗やウルは毎朝ツヤツヤしているなんて笑い話かもしれない。

 

「行こう」

 

 少年の声に青年を筆頭に全員が頷いた。

 

 何処かパーティー内で浮きがちだった美紗も少しずつ積極性が出て来たか。

 

 さり気無く少年の横へ付き、気を配っている。

 

 全員が固まって、その身を地の底へ続く暗い空間へと躍らせた。

 

 虚無というには聊か黒く蠢くような隧道(トンネル)を潜って落下する事十五秒。

 

「大丈夫ですか?」

 

 全員が無事に着地した時。

 

 真っ先にそう声を掛けたのは美紗だ。

 

「ああ」

 

「問題ねぇ」

 

「はい」

 

「うん」

 

 其々の声にホッとしたらしい獅子少女の耳がペッタリと伏せられる。

 

「無事なのはいいんだがよ。何も変わった様子が無いな。アーギスト」

 

 ジルムスが周囲を見渡して青年に声を掛けた。

 

 それは全員が思っていた事だろう。

 

 上空の穴から落ちてきたはずなのに彼らの周囲にあるのは上層にあった廃墟と変わらない街並み。

 

 夜の月が照らし出す亡びた建築群と街の中央を抉る巨大な穴だけだった。

 

「今解析してる……ふむ。そういう事か」

 

「兄さん?」

 

「どうやら、僕らは数層程降りたらしい」

 

「どういう事ですか?」

 

 美紗の問いにアーギストが虚空に三次元の地図を映し出した。

 

「僕らが今までいたのは第一層。最も上の街だった。しかし、今現在の位置は此処。六層か七層辺りだ」

 

「つまり、本来通るべき場所をショートカットした?」

 

 美紗の言葉に青年が頷く。

 

「ああ、そう見て間違いないだろう。それに何も変わっていないようで細部が違う。間違い探しの類に近いが、今までよりも街の中心街が僅かに見えていないか?」

 

「え? それって……?……まさか、穴が小さくなってるんですか。これ」

 

 エストリアが言い当て。

 

 ジルムスも美紗も言われてみればと深淵の半径が縮小している事に気付いた。

 

「どうやら孔の構造は上に行けば行く程に大きく。下に行けば行く程に小さく。そういう事になってるらしい」

 

「じゃ、じゃあ、下層に行けば街の中央に行けるかもしれませんね」

 

 見えなかったものが見えてくる。

 

 ならば、その先に何かがあると考えるのが自然。

 

「……この先に何かが」

 

 エストリアが今はまだ深淵でしかない穴の先に朧げな希望を見るのも仕方ないだろう。

 

 その言葉を実際アーギストは否定しなかった。

 

 行ったところで何があるか分かりはしない。

 

 それでも手探りで進んでいる以上。

 

 常に目標は必要だった。

 

「周辺のマッピングが終わった。また周囲を見て回ろう。街の内部もだが、街の外側の方へも足を伸ばしてみたい」

 

「遠出しても大丈夫なのか?」

 

 ジルムスの最もな問いに青年が頷く。

 

「この領域内部で問題になるのは広さじゃなくて深さだ。同じ層ならば、何処からでも基本的には送還の手間は変わらない。無論、空間の歪みや領域内部に何かしらの阻害要因が含まれている場合は別だがな」

 

「行きましょう。まだ先は長いですから」

 

 全員の先等に立つようにして美紗が全員に声を掛けた。

 

「あんまり気負わない方が。美紗だって一応病み上がりなんだから」

 

「え、あ、その……別に大丈夫、です……」

 

 少年の声に思わず狼狽した様子でオドオドした後。

 

 美紗が今までとは打って変わって少し顔を俯けた。

 

「……もぅ」

 

 しょうがないと諦めた様子になり、二人のやり取りを見守っていたエストリアが口を尖らせる。

 

 あの水の宮殿が異相の崩壊で瓦解した日を境にして美紗の少年への態度は軟化する一方だ。

 

 またライバルが増えてしまった事が彼女にとっては目下の悩みでもあった。

 

(イクスさんだから仕方ないとは思いますけど……)

 

 自分の方が先に少年と結ばれたのだと優先権を主張するような事態にならないのはそんな事をすれば、先に少年との間に交わりを結んでいるだろう相手(たぶん一人ではない)に対して自分が圧倒的不利であるからだ。

 

 少年を独占するという乙女的には当たり前ですらあるかもしれない欲求も今は心に仕舞って。

 

 ハイダル・エス・トリアは内心思うだけに留める。

 

 露骨な焼き餅は仲間内の和を乱しかねない。

 

 今、自分が何処にいるのかを理解していればこそ、そんな愚は犯さなかった。

 

 言われるまでも無く。

 

 彼女もまた美紗が救われた事をあの日、心から喜んでいたのだから……。

 

「しばらくは探索に専念しよう。同じような事があるのか。それともまた別の仕掛けや敵と遭遇するのか。どちらにしてもまずは前進あるのみだ」

 

 アーギストの号令と共に再び数時間の遠征が始まる。

 

 彼らはしばし散発的な既知の雑魚敵との遭遇戦を行ないながら、着実に街の内部を調査していった。

 

 何も成果が無くとも緊張感を途切れさせない為に定期的な帰投は必須。

 

 その日、目ぼしいものは見付からなかったが、何処か少年頼りだった感のある【境界踏征】の面々は一人一人己の役目を全うし、今まで以上のチームワークを発揮して帰路へと付いた。

 

 *

 

 転移方陣の光りに導かれ。

 

 少年がゼオ家の玄関先へと降り立つ。

 

 四倍弱の速さで進むアイウィス内部で数時間経っても、まだ時刻は明日に届いていない。

 

 一度エス・トリア家の邸宅に戻った全員がアーギストの転移で自宅の前に飛ばされたのだ。

 

 蒼き天蓋の星から降る光りに照らされて。

 

 少年は玄関を潜った。

 

 するとパタパタとスリッパの音が響いて館の使用人がやってくる。

 

「イクス。お帰りなさい」

 

 笑顔で出迎えたのは未だ女給姿のまま待っていたのだろう璃紗だった。

 

 その髪は既に風呂の後なのか。

 

 しっとりと濡れて跳ね乱れ、束ねられている様子も無い。

 

「ただいま。璃紗」

 

 少しふらついた少年に慌てて駆け寄った少女が体重を僅か受け取る。

 

「大丈夫? すぐに魔力補給する?」

 

「じゃあ、ちょっとだけ。後、今日は汚れたりはしなかったから、このまま部屋で寝たいんだけど、大丈夫かな?」

 

「うん」

 

「ありがとう」

 

 笑む少年に少しだけ背伸びをして。

 

 璃紗がちゅっと軽い口付けをした。

 

「これでお部屋で寝るまでは持つ?」

 

「うん」

 

 二人がもう寝静まっている館の廊下を静々と歩く。

 

 階段を昇り、屋根裏へと往く最中。

 

 少年が訊ねた。

 

「ウルは?」

 

「ウルさんはさっきまで起きてたけど、疲れて帰ってくるだろうからって気を使ってくれて」

 

「そう……」

 

 屋根裏へと続く蓋を開いて。

 

 少年を先にして璃紗が後へ続く。

 

 室内に入ると小さな手が外套を脱がし、近くの釘で出来た突起へと掛けた。

 

 制服の上着も同じ。

 

 ワイシャツとズボンを脱いで白い絹製の上着と下穿き姿となる。

 

 璃紗が脱がれた着衣を回収、折り畳んで小さな陶製の籠へと納めた。

 

「ふぅ」

 

 少しだけ息を吐いて寝台に座り込んだ少年の横へ。

 

 彼女が座り込んで顔を覗き込む。

 

「疲れてる? イクス」

 

「ちょっとだけ」

 

「……うん。じゃあ、少し待ってて」

 

 小さな少女が頷くと衣装を脱ぎ始める。

 

 ある程度大雑把に纏め、床に置いたのは少年を少しでも早く休ませる為。

 

 下着も躊躇無く足から抜かれて着衣の横へ丸められた。

 

「ごめん。いつも」

 

「そういうのは言わなくていいの。いつも言ってるように璃紗はイクスの、イクスだけの娼婦なんだから。ね?」

 

「……ありがとう」

 

 少年が床に入り、背中を設えられたクッションの山に凭(もた)れさせる。

 

 アルゥの言い付けで上半身を幾分か起こしたまま睡眠を取る為だ。

 

 それは同時に他者の圧力を背後のクッションで拡散する為でもある。

 

 幼くも真白い姿態。

 

 いや、何度も抱かれ、今や少年の視線や指、唇や肌に触れるだけで発情する媚態が艶を帯びた黒髪に彩られていた。

 

 蒼光の下。

 

 浮かび上がる細い身体は二つの桜色の蕾も慎ましやかな股間のすじもクッキリと魅せている。

 

「お脱がし致します。ご主人様」

 

 少年の前にしゃがみ込み、白い上着と下穿きの紐を解き脱がして。

 

 少女が薄く笑みを浮かべた。

 

 何処にも傷が無いまっさらな身体。

 

 その中性的で均整の取れた裸体にこれからする事を思って璃紗の頬が薄く染まる。

 

「イクス。するから、ね?」

 

 まだそそり立ってはいない一物を跨ぎ越して。

 

 璃紗がピッタリと少年に密着し、抱き付いた。

 

「ん……♡」

 

 部屋の中は予め魔術で暖められている為、肌寒いという事は無い。

 

「イクスの事。感じるよ? ドクンドクンって……」

 

 上気して潤んだ瞳が少年を見上げて呟く。

 

 吸い付くように少年の手の中に納まった少女は肌と肌が触れ合っているというのに興奮よりも歓びを覚えていた。

 

 少年に抱かれる事は彼女にとって嬉しい事だ。

 

 しかし、少年の役に立ち、傍で支えるのはそれ以上のものがある。

 

「アルゥ様に感謝しないとね。イクスと一緒に眠ったままでも魔力が渡せるようになった事」

 

「そうじゃなかったら、璃紗を一時間で毎回起こしちゃう事になってただろうし……アルゥさんにはこれからもずっと頭が上がらない気がする」

 

 密着した少女の裸体の帯びる微熱に胸の底まで温かくなった気がして。

 

 少年は優しく薄い掛布(ブランケット)を背中に被せて、指で髪を梳いた。

 

「んゅ♪」

 

 まるで甘える子猫のように少年に頭を擦り付け、大人しく抱かれる少女の顔は安らかだった。

 

「……イクス。疲れてなかったら、明日はウルさんとしてあげてね」

 

「璃紗はいいの?」

 

 何をするかなんて聞くまでも無い。

 

 だが、自分の事よりも年上のウルを気遣う少女の健気さに少年は思わず訊いていた。

 

「だって、ウルさんはこうやってイクスの事を独り占め出来ないから……」

 

 璃紗の言っている事は本当だ。

 

 地肌同士の接触で魔力を受け渡す方法はウルには不向きだとして、アルゥは璃紗だけにその方法を教えていた。

 

 それと言うのもウルの肉体が常人である少年の上に一晩中乗り続けるのは負担だからだ。

 

 それならばウルに抱かれる恰好になればいいとの発想もあるだろうが、何分胸部の大きさが少年の頭を埋もれさせて首を折るか窒息させるかというボリュームになっていたのが仇となった。

 

 結局のところ。

 

 夜、少年に魔力を渡して眠るのは専ら璃紗の役目となったのだ。

 

 無論、疲れていない時に限れば、交合(まぐわい)で魔力を受け渡す事は良いとされていたが、日常的な睡眠時は基本的に璃紗の領分。

 

「それと……」

 

「それと?」

 

「エストリアさんとも仲良くしてあげて……イクスにきっとそうされたいって思ってるから」

 

 まだウルにも璃紗にもハイダル・エス・トリアとの事を少年は告げていなかった。

 

 しかし、そんなのは一緒に身体を重ねて共にいる少女達には筒抜けなのだろう。

 

 公言こそしていなかったが、今や外部から言われているハーレムというものが半ば現実になりつつある事を踏まえれば、彼はとても悪い男に違いない。

 

 頷きを返すのみに留めて。

 

「おやすみなさい。イクス」

 

 少年は温もりを感じたまま、ゆっくり午睡みへと落ちていった。

 

 *

 

―――エストリア私室

 

 夜闇に獣の遠吠えが響く頃合。

 

 明かりの消された室内に水音と愛らしい嬌声が控えめに響いている。

 

 開け放たれた窓から降る蒼き天蓋の光り。

 

 照らされたのは発育が良いとは言えないものの、瑞々しく仄かに赤みの差した肉体。

 

 控えめに膨らんだ乳房の形は良く。

 

 楕円形の眉は悩ましげに八の字となっていた。

 

 切なさに歪み、染まる頬。

 

 唾液を零した口元は喘ぐ度にチロチロと舌が踊る。

 

 しなやかな指先に持たれた薄桃色の性具(ローター)は細い糸(コード)を通して、寝台横に置かれていたキーホルダー状の物体【OEDS(エデス)】に繋がれていた。

 

 2cm程の小石のような震えるソレを蜜を垂れ流しているすじに押し当てて。

 

「ひぅ、んくっ、ぁ、っふ♪ んくぅ……♡」

 

 背筋を昇る快楽がエストリアの裸体を震わせ身を捩らせていた。

 

「イクスさん……イクスさん……っ……イクスさん……」

 

 名前を呼びながら、ブゥゥゥゥゥと振動するソレを股間で上下させて。

 

 少女は今日の事を思い出す。

 

 少年に触れられた場所。

 

 少年に触れた場所。

 

 たったそれだけの部分に触れ、弄るだけで呼び起こされる感情。

 

 甘く咽返るような牡の匂いを思い起こしながら、彼女は自慰に耽る。

 

(イクスさんに触られた指で、私……こんなに……っ♡)

 

 少年の事を思い返して、特別になった指でイケナイ行為に浸る背徳感。

 

 触れた場所を淫らな牝の本能で弄り、快楽を貪る恍惚感。

 

 抱かれてからというもの。

 

 エストリアの肉体は日に日に少年を渇望し、微熱を帯びるようになった

 

「ぁ、ぁあ、くっ、ん、くぅぅぅん♡」

 

 プチュッと大量の蜜がすじから零れて。

 

 はしたなく呆けた顔で彼女は今日も少年を夢想する。

 

「ん、ちゅ、ちゅく、ぢゅ、ぢゅるる、ちゅぱ」

 

 開いているもう片方の人差し指と中指を舌で何度も何度も丹念に舐めしゃぶりながら、少年の大きな幹を思い浮かべて、少女は恍惚の表情となった。

 

(イクスさんのおちんちん……おっきくて、太くて……良い匂いのする……赤ちゃんを種付けするところ……欲しい……ほしぃ……一杯、舐めてあげたい……そうしたら褒めて……撫で撫でしてくれますよね……私の赤ちゃんのお部屋に一杯……あの熱くて濃くて流し込んでくれますよね……イクスさん……っ♡)

 

 一度抱かれた切り。

 

 まだ再びの逢瀬は無い。

 

 アイウィス内で唇を重ねる時、溢れ出しそうになる想いを堪えて、何度も何度も自分を犯して欲しいとの懇願を喉の内に飲み込んだ。

 

 自分でも思っていなかった程、強まった性欲は底無しに湧き上がって来て。

 

 少年の近くにいると澱のように心の底へと溜まっていく。

 

 何度も何度も本当は誘おうとした。

 

 けれど、此処数日は肉体の弱体化で誰もが注目していた為、そういう機会に恵まれなかった。

 

 もう少し自分は自制の効く方だと思っていた彼女にしてみれば、正に青天の霹靂。

 

 未だ沢山の力添えが必要な少年に劣情を抱いて、一人慰めているなんて……恥しくて打ち明けられるはずもない。

 

(イクスさんのおちんちんでもっと子宮(ここ)に種付けして貰いたい、です……その為なら何だって出来ます……だから、イクスさんのおちんちん……おちんちん欲しい……欲しぃのにぃ……)

 

 ドロドロと股間を滴り落ちる蜜の粘度は高くなるばかり。

 

 その恍惚に少女は我慢し切れず。

 

 指先の性具(ローター)をすじの中央からゆっくりと押し込んでいく。

 

「んひぁぁ♡ ぁ、ぁあ、っ、くぅぅぅん♡」

 

 ゾクゾクゾクッと背筋が悦楽に焼け爛れていく。

 

 震える桜色の小さな卵はヌリュッと蜜に濡れてテラテラと照り映える割れ目を両側に圧し広げ、ドゥルンと膣(なか)へと飲み込まれた。

 

「イクスさぁん……私ぃ……一人でおまんこに悪戯しちゃいましたぁ……♡」

 

 少女が自分の股間に繋がる糸(コード)と膣内の浅い襞を蹂躙する振動を感じながら悶える。

 

(気持ちいい……っ……こ、このままイクスさんに触ってもらえたら、きっともっと……っっ♡♡)

 

 一瞬、今までに無い妄想(こうけい)が脳裏に焼き付いて。

 

 エストリアは開いた股の先に脱ぎ捨てられている下着を見つける。

 

 ダメ、と心の何処かで理性が囁いたが、それも一瞬。

 

(ぁあ…っ……ひぅ……あくぅっ……私、私ぃ……♡)

 

 その指が薄らと自分の股間に円環を用いた方陣を描いていく。

 

 魔術を使える女なら誰でも知っているだろう基礎的な効果のものだ。

 

 月のものを零さないよう膣道と陰唇を魔力で封じるという男には馴染みの無い術である。

 

 基本的には液体を通さない為、時に受胎の手助けとして使う者もいる。

 

 しかし、それも今は蜜を膣内に溜め込む効果しか果たさず。

 

「んっ……」

 

 少女はゆっくりと傍らの薄紙で股間を拭いた後、下着を―――穿いた。

 

「~~~~~っ♡♡」

 

 今までに無い背徳感が彼女の脳裏を犯していく。

 

(このまま……イクスさんにされたら、私……おかしくなっちゃいます……)

 

 性具(ローター)を入れたまま。

 

 汚れないからと指が膨れていた陰核(クリトリス)を優しく捏ね潰した。

 

「ぁあ、ごめんなさい。イクスさん。ごめんなさい。私、イクスさんの事考えながらぁ、イクスさんにおちんちん種付けされたくてぇ♡ いけない事してます。はぁはぁ、ぁ、ぁ、ぁ、達しっ、ちゃいます……っ」

 

 エストリアの背中が弓なりに反り返った。

 

「ぁ゛~~~~~っ♡♡♡」

 

 虚ろで甘い牡に媚びた声が室内に上がる。

 

 まるで発情期の牝猫が出すような。

 

 しかし、それでも無関係に膣内で震え続ける性具(ローター)が幾度も幾度も腰を浮き上がらせた。

 

「気持ちいいですぅ。イクスさんのぉ、欲しくなっちゃぅよぉ……イクスさぁん♡ イクスさぁん♡」

 

 自分が待ち望む牡を夢見て。

 

「―――ぁっ。あ、ぁ……っ、ぁっ♡」

 

 連続で絶頂を迎えた少女の瞳の端から涙が零れる。

 

 あまりの行為に失神する寸前。

 

 彼女は明日の予定を決めていた。

 

 少年に抱いてもらうという日程を……。

 

 *

 

―――???

 

 長い夢。

 

 天星(あまぼし)すら遠き軌道を描く遥かなる空。

 

 渦巻く嵐を遠く見て。

 

 彼女は傍らの影に視線を向ける。

 

 朧な形。

 

 まだ業で多くを固められていない无たるモノ。

 

 それは世の果てより先から来たりしモノ。

 

 しかし、契約によりて縛られた誰か。

 

 たった一つの願いを果たす為。

 

 始原の者より託された願い。

 

 何億という年月を経ても血筋続く限り、約束を果たす翳り。

 

 終わりを運び、罰を受け続けるモノ。

 

 もしかしたら、それが全てを見届ける事は愚かな選択なのかもしれない。

 

 けれども、愚者は愚者のままでこそ、先へ進む。

 

 人は人のままでこそ、価値がある。

 

 无に飲み込まれて尚、“来るべき日”は遠く遠く、星霜の彼方。

 

 それでも、やがて現われるだろう最後の天を思い、彼女は岩山の頂きに一人。

 

 小さな羽根先で己の血を使い、樹皮に全てを書き記す。

 

「此処に居られましたか」

 

 男が一人。

 

 背に声を掛けて。

 

「あの天との契約がようやくという時にどうしてこんな場所へ?」

 

 彼女は微笑み。

 

 愛しい男に全てを託す事にした。

 

「これは……」

 

 諳(そら)んじて長に謳えば。

 

 男は涙一粒。

 

「必ず。貴女の願い。叶えましょう。例え、我が身が亡びても、必ずや全てを言い伝え、全う致しましょう」

 

 男と女。

 

 人が産み出した呪いの言葉を口にすれば、他に何が必要なはずもない。

 

 だが、今や人は人に近しい者達とすら分かり合えない。

 

 種族が違ったのだ。

 

 そう父が言うならば、それもまた正しい事なのだろう。

 

 結ばれる事無くとも。

 

 男の心はきっと共にある。

 

 そう知っているから、彼女は振り向かなかった。

 

「これから何百何千。いえ、何万、何億の年月を重ねようと貴女の種族は滅ばない。そして、きっと我ら人も必ず傍らにあり、前へ進む。この荒地に神々の植えた苗木が天高く聳える日まで。どうか、健やかなる時を」

 

 去っていく足音が小さな雨音に消されていく。

 

 きっと、嵐が何もかもを消してくれると信じて。

 

 彼女は男にも伝えなかった朧を連れて焦土と化した大地の先。

 

 横たわる魔族達の城へと足を向ける。

 

【罪過(メギド)】

 

 神々を贄に、この世を无から救った救世の神器。

 

 人を天使たらしめる為に与えられたものと同じ。

 

 有(せかい)を有(あり)のままに固定する為の装置。

 

 大陸に数個置かれたソレは古の時代。

 

 旧代の異種と魔族達が産み出した“果てからの侵食”を食い止める最後の砦。

 

 今も朧な影達を現世に封じる要石。

 

 それが再び日の目を見た時、最後の天と共に終わりの始まりが回り出すのだ。

 

 来るべき日へ向けて……。

 

「行きましょう。貴方達の寝所に」

 

 彼女はそう言って。

 

 嫋(たお)やかに微笑み、進んだ。

 

 己の血統がこれからも守り伝えていく事になるだろう居場所へ。

 

 女の名はマリア。

 

 男の名はマヌエル。

 

 片や魔族の血を引く黒きエルフの娘。

 

 片や天と縁を結び教えを広める長の息子。

 

 始まりは遠く遠く。

 

 そんな一つの恋と運命から始まった。

 

 祝福せし、第三位。

 

 歯車たる座天使(ガルガリン)の軍勢引く戦車が眩き者を乗せて空に上がっていく。

 

 時に五千年続く事となる教会の発足した日。

 

 世界に遍く命は一つの神託を聞いた。

 

 それは唯一神―――異種達を祝福してきた最も旧き神の心変わり。

 

 異種(ヒト)ではなく人間(イシュ)を守護するという一つの時代の終わりと始まりの宣言であった。

 

―――しばらくはこの詰まらん昔話でも眺めてろ……契約通り、代価は徴収させてもらう。

 

 ニィィッと唇の端を歪めた青年が歴史の1頁(ページ)を前に座っている少年の肩を叩いて。

 

 背後にある古びれた扉へ手を掛ける。

 

―――さぁ、久々の娑婆だ……一暴れさせてもらおうか。

 

 軋む隔たりの先へ一歩。

 

 青年が足を踏み出す。

 

「くくく、ははははっ、はははははははははははは!!!!」

 

 その朝、イクス・ゼオの人格は跡形も無く消失した。

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