※この作品はR-18です。

聖娼館ハルトゥム   作:Anacletus

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第三章五十二節

第三章五十二節「閑話休題者達Ⅰ」

 

 時は新月の昇る夜。

 

 平原には一千機の全身鎧(フルプレート)が蠢いていた。

 

 隊列方陣による多重防御と多重援護を軸に大規模魔術の乱発で空は既に花火を無造作に放ったような極彩色の魔力と事象の斑模様となっている。

 

 戦場西方では巨大な複数の竜巻の下。

 

 数mはあるだろう灰色の巨人が地から足を離して巻き上げられていた。

 

 豪奢な黄金の鎧に煌く攻撃魔術の連打。

 

 一発一発が純粋に相手の殺傷する為の代物。

 

 真空の刃。

 

 獄炎の矢。

 

 空気を割る雷撃。

 

 地を奔る衝撃波。

 

 しかし、どれもこれも人間や亜人、下位の異種なら一撃で屠るだけの力を持ちながら、鎧に傷の一つも付けられてはいない。

 

 巨人の鎧に重ねられた複数の魔力と重力、概念魔術式の三種結界が其々の攻撃を代わる代わる無効化しているからだ。

 

 魔力式の物は事象に転換される前の魔力と術式中核のみの攻撃を一定範囲で霧散させ、重力結界はあらゆる事象を任意の方向へと受け流し、概念魔術式は自己の強度以下の魔力で発動する全魔術事象に対しての不干渉を確立する。

 

 そんな巨人の軍勢が左辺に三千。

 

 如何な人の智と暴力を持ってしても貫けない、はずだった。

 

 だが、閃光が遥か空の彼方から地上に一筋、巻き上げられた巨人達を穿つ。

 

 それに続き“雨”が戦場の一角に殺到した。

 

 地表より600km地点。

 

 浮かべられている巨大な鋼の塊が数百機。

 

 外部に露出している広角レンズの中に捉えた“対象”に向かって約一万度強にも達する温度の砲撃が備え付けられている8m弱の灰色のクリスタルで形作られたノズルから放たれている。

 

 光線(レーザー)や純粋魔力の類ではない。

 

 最新の魔術理論で圧縮された88cm程の稀少鉱石製の砲弾が莫大な重力を発生させる高度魔術方陣によって加速されているのだ。

 

 惑星の自転や引力に対する姿勢制御やその他の雑多な計算を戦場より数千km離れている施設の一角で諸々計算し、リアルタイムで鋼の塊―――多目的衛星に反映させているのである。

 

 幾ら巨人達が物理的にも魔術的にも概念的にも一個の城砦並みの防御力を誇ると言っても、それは一撃で都市を壊滅させるに足る砲撃に対して優位である、という事ではない。

 

 全衛星から放たれた一発目の砲弾が三種結界の内魔力式と重力式のものに絶大な負荷を掛け破損させた後、二発目が巨人達を無防備な状態で竜巻渦巻く地表へ激突させた。

 

 今まで地を這うように巨躯が生かし難い乱戦へ持ち込んでいた全身鎧―――【高格外套(ソーマ・パクシルム・ベルーター)】達が共有される視界の領域(レイヤー)内で相手の隙を確認。

 

 一糸乱れぬ統制を見せて、その鉄剣に必殺の概念魔術を奔らせる。

 

 積層化された純粋波動魔力と加護を大量に消費した鎧が発動したのは中位魔術師が一日掛けて編み上げる大魔術。

 

【解錠(ゴルディアス)】

 

 指定した刃(りょういき)と別領域の接触時、相手側の概念魔術の内容を写し取る一撃だ。

 

 概念防御はそも多くの場合、外部からの事象を拒絶する事で成り立つ場合が多い。

 

 しかし、【解錠(ゴルディアス)】を掛けられた領域は相手の概念防御の領域と自己を相似化する為に敵側からの拒絶を受けないのである。

 

 相手の防御領域に自分の剣が含まれている為、事象そのものを否定されないというわけだ。

 

 一握りの魔力形質を持つ者にしか発動出来ないソレを鎧達は瞬時に実現してみせた。

 

 僅かに光りへと転化された余剰魔力の導線が曲線状の紋様として剣の芯に浮き出る。

 

 鬨の声も上げず。

 

 まるで機械の如き正確さで背部の魔力推進機関、輝きを吐き出す蟲の翅のようなソレが唸った。

 

 竜巻内部に突入した百数十人の男達が地表を剣で切り裂きながら、仲間達に激突する事無く蜂の如き精確さで軌道を描き、地上に灰色の血で紋様を描いていく。

 

 解体された巨人達は誂えたように首と両腕を切断されていた。

 

 鎧内部から見る外部映像は全て竜巻の巻き上げる砂塵で塗り潰されている。

 

 しかし、外套達は己の位置も役割も全て理解して、一瞬で全ての行動を終えたのだ。

 

 竜巻の外部へ放射状に脱出する鎧の持つ剣から血が背後へと置き去りにされていく。

 

 相手の排除を終えた彼らは強敵を一瞥もせず。

 

 主戦場となっている中央部へと向かった。

 

 続いて。

 

 場面は東方の炎獄に移る。

 

 灼熱の溶鉱炉と化した右辺は通常の生物には生き地獄と然して変わらない。

 

 二万度を超え、尚温度が上がり続けている一角には粒子線が飛び交っている。

 

 複雑な細胞構成で出来ている生物が3秒もいれば、全身を遺伝子レベルでズタズタに切り裂かれ、蛋白質の汚泥になるだろう。

 

 まぁ、その前に焼滅は必死である為、そんな事を考えて戦っているものがいるか定かではない。

 

 こんな環境でも争うものがあるとすれば、それは確かに人智に類するモノではないはずだ。

 

 だが、人智と合理の塊、人の知恵の精粋たる鎧は例外か。

 

 内部の人間にせいぜい自分の汗によるサウナを強制するのみで、戦闘は行われていた。

 

 相手は生物―――ではない。

 

 精霊だ。

 

 それも邪精の類である。

 

 巨大なドロリとした粘性の火柱が幾つも幾つも上空200m近くまで吹き上がる。

 

 基本的に精霊というのは魂魄の希薄なものが多いというのが相場だ。

 

 しかし、その場所に点在するたった二十数柱は神霊にも近い格と核を持つ。

 

 人の不の想念を吸収する概念魔力形質を保有したソレはもはや生きた災害に等しい。

 

 巨大な火柱の根元。

 

 炎の玉というよりは眩い輝きに黒い筆で乱雑に瞳を描いたような。

 

 そんな姿で邪霊達が顕現する。

 

 だが、それもまた鎧達の敵とはならぬものか。

 

 近付いただけで熱量を際限なく増加させられて蒸発するはずの外装は表面を火脹れさせられるのみで溶解するまでには至っていなかった。

 

 邪霊達の高位の能力。

 

 純粋に周辺物質の熱量を物理的な出力や入力も無しに無限増加させる超常の力。

 

【熱法制御(オーバー・トロープ)】

 

 一部分とはいえ。

 

 世界を書き換えるに等しい行為を息の如き生態として行っている邪霊達は相手の頑強極まる耐久力に驚くよりも先に剣先に宿った定理改編型の魔術によって断ち割られた。

 

 物理法則の書き換えは高位の魔術師にとっては能力の高さを表す一種のステータスだ。

 

 如何に相手が神格に近しい存在と言っても、存在している以上は何らかの定理を内包している。

 

 自己を保存している媒質や構造そのものが一定の特殊な法則性に縛られている存在を直接、法則の改編に伴う自損へと誘う一撃。

 

【破定拒法(インテルノ・ネガティオ)】

 

 剣の周囲に放出される黒い雷の如き文字列の群れが高位存在たる邪霊が実態を構成する特殊な巨大分子の連なりを破壊した。

 

 光を受ける事で起る分子の結合現象である光重合(ひかりじゅうごう)を利用し、光波と周辺分子さえあれば、無限に自己を保存する特殊分子の生成を繰り返す不死身の邪霊が分子の発生そのものを封じられ崩壊していく。

 

 早くも両翼が瓦解した化物の群列で残るは中央のみ。

 

 救援に掛け付ける左右からの援軍が今も苦戦する味方を援護するべく。

 

 挟撃を仕掛ける。

 

 が、巨大な嵐の如き荷電粒子を軸に伸びた空間を歪める程の質量に薙ぎ払われた。

 

 爆裂はその巨大質量、薄く長大な黒色の魔力刃が振られた中心地から周囲360度に渡って時計回りに三度、凡そ二千回に渡って鎧達を粉々にしようと連撃を加えていく。

 

 正に破壊の嵐。

 

 周辺の地形が一瞬で大規模な爆撃を受けたように無数の窪地(クレーター)へ変わっていく。

 

 その中心で今振り終えたばかりの黒い魔力刃を手の中に消したのは少年。

 

 イクス・ゼオだった。

 

「おいおい。この程度で半壊とはだらしないんじゃないか?」

 

 いつもの優しげな声ではない。

 

 失望したと言わんばかりの口調も常の少年のものではない。

 

 だが、それもそのはず。

 

 中肉中背の学生服姿は変わらずとも、その背中にはいつもと違うものが生えていた。

 

 硬質な金属にも見える枯れ枝の如き翅。

 

 もし、相手をしっかりと見やるものがいるならば、誰もが同じ感想を抱いただろう。

 

 魔族。

 

 今や大陸では見る事も殆ど無くなり、存在するのは子孫くらいだろうと言われる種族。

 

 様々な国で迫害を受け、情報が焚書されてしまった経緯から、現代の大陸に住まう人間達にはピンと来ない存在だ。

 

 俗に悪魔。

 

 破壊の化身。

 

 疫病の運び手。

 

 等々のありがたくない二つ名で呼ばれている。

 

 五年前、西部ディミトリア公国を彼らが襲撃したという事件は多くの現人類にとっては真新しい脅威であった。

 

 それ程に人間社会では古い存在となってしまっている。

 

 が、それも七教会の出動で事なきを得たと言われ、大陸基準の世間話では魔族が如何程のものか。

 

 そう……本質的な脅威には成り得ないという言論が出来上がりつつあった。

 

「仮にも貴様等は大陸最強の軍事力と言われているわけだ。此処でオレのような過去の遺物に負けたとあっては恥というものだろうに」

 

 相対する鎧の大半が倒れ付している。

 

 一撃一撃なら対処のしようもあったのだろうが、戦列が維持していた防御方陣やサポート用の各種援護では到底賄い切れない高威力斬撃が威力を防御低減吸収反射されて尚鎧を破損させたのだ。

 

「ったくよぉ。帰ってきて初っ端からこれかよ」

 

 愚痴ったのは男の声。

 

「思っていた以上に強い……過去の情報から推定されていた階梯の数倍はあるわね……」

 

 女の声が溜息を吐く。

 

「ふぅむ。魔王の役柄から見ると不自然な程に強いのぉ……」

 

 老人の声が訝しんだ。

 

「お前らだけか。付いてこれたのは……まぁ、言わんとしている事は解る。だが、当たり前の話だ。大陸に送り込まれていた連中はオレを除いて文官だったからな」

 

「ああん? 魔王が文官? おいおいロクでもねぇ事実だな」

 

「まさか、大陸に名を刻んで来た魔族が文系だったなんてね。歴史の教科書に載せてみたい事実かもしれないわ」

 

「んむ。我らと同等程度が派遣されてきた中で最大の武官という事は中位から上位の中間程度まではやれるかのぉ」

 

 三体の旧式高格外套。

 

 騎師団の長たる三騎将。

 

 彼らの会話に少年の形をした魔族が肩を竦めた。

 

「言っておくが、オレ程度に手こずっているような連中が本格的な“軍”を前にしたら、その体たらくなら十秒持たん」

 

 三人が苦笑した。

 

「ああ、その通りだろうな」

 

「まぁ、そうね」

 

「うむ。違いない」

 

 魔族がそのリアクションに意外そうな顔をする。

 

「しかし、オレ達以外の連中は都市の警備員だ。“此処”に引きずり込まれる寸前に部下連中は退避させて“見”へ徹してもらった」

 

 三体の内の一体。

 

 男の高格外套が肩に担いでいた鉄剣を鞘に戻し、抜刀するべく構えた。

 

「道理で歯応えが無いわけだ……だが、随分と“ただの人間”が強くなった……」

 

「そうね。装備さえあれば、低位の魔族を狩る程度は普通の人間にも可能でしょう。でも、私達みたいな者も少なからず軍事力として戦力化されているわ。早々、侵略されないわよ?」

 

 女の高格外套が腰にマウントされていた槍を魔族に向ける。

 

「侵略、か。随分と賢しらな事を言うようになったようだ。面白くはあるが、認識は甘いな」

 

「お主(ぬし)はよく見るにかなり近しい時代の者と見受けるが、何故このような場へ我らを誘った」

 

 老人が武具の一つも構えずに問う。

 

「ふ……目覚めてみたら、随分と剣呑な連中が近くをうろついていたから、遊んでみただけだ」

 

 硬質の翅がまるで空間を捻じ切るように周囲の景色を歪めていく。

 

「お前達程度の者にならば、いいだろう。敵軍の将とはいえ、今は非常時だ。これは悪い悪い魔族からの褒美だと思え」

 

 少年の唇が微笑む。

 

「次の侵攻はたぶん“侵略”だ。そして、本当の意味での戦争となる。貴様等人間がもしも大陸で平穏を貪りたいのならば……“こいつ”には手を出すな。少なくとも、あちら側が“あのお方”に静められるまではな」

 

 人間達を一瞥してフワリと宙に浮いた。

 

「随分と貴重な情報をありがとう。でも、どうして私達にそんな事を? 貴方はあちら側でしょうに……」

 

 女の声に魔族はポリポリと頬を掻く。

 

「ただのお節介だ。オレや“オレ達”は人間というものを少なくとも必要とし、その任へ付いた。だが、これから来るだろう連中はそうじゃない。オレ達がやってきた事を全部無かった事にされるのも癪なんでな……今風に言い換えるなら、オレ達は……魔王って連中は、博愛主義者なんだろう」

 

 鎧の中で三人の将達が目を丸くする。

 

 まさか、大陸を混沌へと叩き込んで来た本人の一人なのだろう男から、そんな話をされるとは思ってもいなかったからだ。

 

「まぁ、黙って見ておけ。この舞台に幕が下りるまでは貴様らの出番なんてない」

 

 翅が歪めていく世界がやがてあらゆる景色を捻じ曲げて―――儚い夢は一瞬で砕け散った。

 

 取り込まれた人間達の背中に冷や汗だけを残して。

 

 *

 

―――アルヴァス首都ハガス東部ゼオ家ウル私室。

 

「ん……っ……んぅ♡」

 

 艶かしい声がチュンチュンと小鳥の鳴く明け方に室内で上がった。

 

 ゼオ家に居候しているウルの部屋での事である。

 

 飴色をした木製の壁。

 

 古風(アンティーク)を地で行く天蓋付きの寝台。

 

 クローゼットが二つに鏡台が一つ。

 

 衣装部屋こそ無かったが、凡そ亜人貴族が好みそうな要素だけを最低限詰め込んだ室内。

 

 亜麻色のカーテンから差し込む優しい光りに薄らと瞼を開いて。

 

 彼女、ウル・エイフォン・バーゲルは自分の胸に端を発する甘美な衝動に何者かの温もりを感じ、安らかな心地を覚えていた。

 

 モソモソと掛け布の下で何かが蠢く。

 

 それが自分の背中から生えた触手ではないと思考が明確になってきた辺りで。

 

「!?」

 

 我に返った彼女はバッと布を捲った。

 

「イ、イクス?! あ、え? あ、貴方でしたの……!?」

 

 思わず驚きの声が上がったのも無理はない。

 

 少年が彼女の部屋へ夜這い。

 

 いや、朝方の朝這いに来るなんて今までになかった事だったからだ。

 

 モニュリと少年が片手で乳房に指を食い込ませながら、片方へ顔を寄せて下着の上から食む。

 

「んぁ!? こ、こんな朝から、ダ、ダメですわ……ダ、ダメ、ですわよ……イクスぅ」

 

 もう蕩けた声で、本来ならすぐにでも少年を寝台から放り出せるはずの彼女は、口で拒否しながらも行為を受け入れていた。

 

「むぅ。この時代の女も中々侮れない……さすが未来……」

 

「イ、イクス? どうかしましたの?」

 

 何やらブツブツ言っている少年の顔をよく見ようとウルが身を起こした時、少年の背後にあるモノが目に入った。

 

「―――!?」

 

 その手が自分を突き飛ばすよりも先に少年がザッと飛び上がり、フワフワと浮遊して後退すると床に降り立つ。

 

 背中にある硬質な鋼の如き光沢を放つ枯木。

 

 いや、翅(はね)が僅かな紅の燐光を周囲に散らした。

 

「あ、貴方は誰!!?」

 

「ほほぅ? さすが選ばれただけの事はある。もう看破されたか」

 

 いつも浮かべる笑みとは違う。

 

 にやりとした笑みに彼女がザッと身体へ掛け布を纏い、背後から飛び出した触手で壁際に立て掛けてあった刀を掴み取って引き抜く。

 

「やっぱりイクスではないようですわね!? でも、同じ感じが……貴方は何者ですの!! それとイクスはどうしたの!! 答えなさい!!!」

 

 想い人の姿をして乳房を弄ばれた彼女の瞳は険しい。

 

 少年が肩を竦めた。

 

「まぁ、オレが君の想い人ではない事は確かだ」

 

 そのまったく少年とは結び付かない仕草。

 

 やれやれとでも言いたげな表情にウルが抜刀の構えを取る。

 

「おっと、不用意な事はしない方がいい。少なくとも、この身体は君の知ってる男のものだ」

 

「くッ!? その身体から出て行きなさい!! どんな悪霊の類かは知りませんが、その身体は貴方のような者が使っていい代物ではありませんわよ!!」

 

「悪霊と来たか。確かに然程の違いは無いが、このオレが悪霊……未来の女ってのは変わってるな。やはり」

 

 何やら溜息一つ。

 

 少年の形をした誰かがげんなりした様子となる。

 

「まぁ、いい。今日は楽しくやらせてもらうつもりだからな。久しぶりに堪能させてもらった事だし、一つイイ事を教えよう」

 

 気を取り直した“彼”の佇まいにウルの頬から汗が一滴落ちる。

 

 今まで気付かなかったが、彼女の目の前にいる存在から発される空気はよくよく感じてみれば、恐ろしく大きかった。

 

「そう固くなるな。お腹の子に障る」

 

「?!!」

 

「……気付いて無かったのか?」

 

「な、なな、何を―――」

 

「気にする余裕があるなら、後で自分で調べるなり、医者へ行くなりするんだな。それで本題だが」

 

 “彼”が窓際に置かれていた椅子に腰掛ける。

 

「この男をもしも本気で愛しているなら、その身体の全てを使って奉仕する事だ。それだけで随分と違う結果になるだろう」

 

「あ、貴方は……一体」

 

 皮肉げな微笑。

 

 しかし、敵意らしいものはない。

 

 それにようやく気が付いて、刀に掛かった手が力みを失う。

 

「さてと。そろそろお暇させて貰おう。それから、その乳、中々だったぞ」

 

「―――?!」

 

 思わず余計なお世話だと喚き掛けた彼女の意識がプツリと途切れ、崩れ落ちそうになる背中がいつの間にか背後へ移動していた手で支えられて、静かに寝台へ下ろされる。

 

「さて、次へ行くか」

 

 ニヤリ。

 

 正しく男はハンターの如き眼光で次の獲物を求めて部屋を後にした。

 

 寝台の上で掛け布に包まったウルが目を覚ましたのはそれから数時間後。

 

 正午過ぎの事だった。

 

―――ウル私室での一件から三分後。

 

「あふ……んぅゅ……?」

 

 明け方。

 

 いつもよりも何故か遅い時間に目が覚めた璃紗は全裸のまま。

 

 まだ傍にいるはずの温もりが無いという事実を知って。

 

 ガバッと反射的に跳ね起きた。

 

「イクス?!」

 

 キョロキョロと周囲を見渡すも、誰一人居ない。

 

 途中で厠(トイレ)にでも行ったのだろうかと思った彼女だったが、何やら胸騒ぎのする内心にいても立ってもいられなくなった。

 

 すぐさま常備してある新しい下着と女給服を身に纏い、簡易の魔術で洗面器に出した水で顔を洗って、跳ね乱れた長髪を紐で結わえた。

 

(何処に行ったんだろう?)

 

 ソソクサと屋根裏部屋から階段へと降り立ち。

 

 行動を開始した彼女が最初に見掛けたのはシルルゥだった。

 

 ヨロヨロと朝方が弱い少女が半分寝惚け眼で洗面所へ向かう道すがら、挨拶した璃紗がイクスを見なかったかと訊ねる。

 

 すると、何やら要領を得ない回答が返った。

 

 曰く。

 

『イクスみたいな……イクスじゃない……ん~~~外にイクって……ふぁ……あふぅ……』

 

 イクスみたいな。

 

 イクスじゃない。

 

 普通ならば何を言われたのか理解出来ないだろう言葉。

 

 しかし、璃紗はその言葉に何か得たいの知れないざわめきを背筋に感じ、慌てて玄関先へと向かった。

 

「……ゴハン。食べていけば良かったのに……」

 

 璃紗が廊下から消えた後。

 

 顔を熱めのお湯で洗いながら、シルルゥは自然と呟いていた。

 

 見知らぬ相手だったが、見知った顔で、“同じだった”彼の事を彼女は何一つとして知らなくとも、受け入れていたのである。

 

 そんな事を呟かれているとは露知らず。

 

 途中、頭を撫でてシルルゥをやり過ごした“彼”は玄関先の道で自分が見付かった事を理解する。

 

『あ、あぁああ―――――っ!!!』

 

 思わず耳を塞ごうかという声量。

 

 振り返れば、璃紗が自分を指差して驚いていた。

 

『し、し、“師匠”!!!』

 

(思い出したようだな。普通に……)

 

 少女の瞳が正常に機能している事を確認して、彼が静かに笑む。

 

『な、何で師匠がイクスの身体にいるの!!』

 

 思わず駆け出してくる璃紗も一応は獣人(ベスティア)であり、運動能力は同年代の人間に比べて高い。

 

 此処で体力を消費する追い駆けっこに興じるつもりがなかった彼、師匠と呼ばれる璃紗の精神世界での話し相手である魔族の青年はヒラヒラと手を振った後。

 

 ふわりと背中の翼から紅の燐光を散らして飛び立った。

 

『ど、何処に行く気!!? イクスはどうしたの!? 師匠!!』

 

「おう。弟子一号。今日は久方振りの現実、未来旅行に洒落込もうって趣旨だ。大変有意義な時間になる予定を立てた。帰って来るまで諸々後は任せるぞ」

 

『ぇえ!? な、何考えてるの!? イクスの身体で勝手に外に出ちゃダメなんだから!!?』

 

「ふ、前に言っただろう? オレは悪い魔族だからな。いざ、自由の空へ羽ばたかん!!」

 

『ちょ、ちょっとぉ!!? 師匠!!? 師匠~~~~ッッ!!?』

 

 少女の叫びを置き去りにして。

 

 魔族の青年“師匠”はそうして世に解き放たれた。

 

 *

 

―――アルヴァス西部国境域。

 

『はい。通っていいよ』

 

 ガラガラと馬車が街道沿いの税関を抜けて。

 

 運送業の男達から不満の声が漏れた。

 

 縦列する馬車の群れは商用から公用、使用のものまで数百にも及ぶ。

 

『おい!!? まだかよッ!! いい加減五時間も並んでんだぞぉッ!!!!』

 

 何処からか血の気の多い声がして、そうだそうだの大合唱が起きる。

 

『責任者出せコラぁぁあああああああ!!!』

 

 関所には城が用いられており、通行はその下を通って行われる。

 

 故に野太い男達の怒号は城内に響き渡っていた。

 

 無論、それが初めての事ではない。

 

 数週間前の大事件で一時国境の警備と税関の検査が厳格化されたからだ。

 

 幾ら西部でも指折りの国家とはいえ。

 

 未だ外部との交流の主な手段は馬車だ。

 

 それ以外の手段は魔術での転移と一部の運輸業者の使う小型飛竜の類が在るかどうか。

 

 国土の隅々にまで路が整備されているとはいえ。

 

 それも多くの場合は大動脈たる都市間の重要通路に限られ、どんなに小さな村にも通ってはいるものの、国外の遠く先にまでは伸びていない。

 

 そもそも地瀝青(アスファルト)の路が専用の車輪や蹄鉄を要求する為、基本的にアルヴァス国内に入ると税関のある国境域の街で馬車を代える事は必須となる。

 

 首都と同様に税関のある都市は大きな利益を上げる一方。

 

 まだまだ重工業政策の恩恵を効率的に受けられる体質には為っていなかった。

 

 ハガスなら効率化された道の運用で渋滞なんて事はまず起こらない。

 

 その点で税関のある城下町も田舎と言えるだろう。

 

 しかし、西部先進国の地方税関都市を国の首都を思って疑わない途上国からの御昇りさんもいたりする。

 

 七教会の【近代化】著しい国からすれば、野蛮人呼ばわりされてもおかしくない最貧国は数多い。

 

 人権だとか福祉だとか。

 

 そういう考え自体が浸透していない国家における人の命程に軽いものはなく。

 

 未だ大陸中央諸国の人間が見たなら思わず引いてしまいそうな酷い生活環境で生きる人々は沢山いる。

 

 彼らにしてみれば、アルヴァスというのは正に百年先を行く先進国で大陸中央諸国なんていうのは正しく別世界や未来、教会の謳ってきた天の国と大差無い。

 

 歴史上、繁栄を極めたと言われる旧い国家も今や相対的には中進国呼ばわりの憂き目にあうご時勢。

 

 大陸中央諸国と地方諸国の力の差は歴然であり、アルヴァスの重工業政策は遅れながらも中央に付いて行っているだけで十分他国からは羨望の的となっている。

 

『はい。次の方』

 

 城門の下。

 

 粗末な二頭立ての馬車の順番となった。

 

 腐っているのではないかと疑いたくなる色をした板には錆びた釘。

 

 御者はフード付きの衣を纏っていて顔は見えない。

 

 幌の中には五人の人影がひっそり座っていた。

 

「え~証明書は……人間奴隷が五人ですか。他には?」

 

「はい。食料と水の樽が二つ。後は無いですわ」

 

「検めさせて貰っても?」

 

「どうぞ」

 

 獣人の兵達が二人。

 

 荷台に上がり込んで樽を検査したが何も無し。

 

 その様子を見ていた人影の内の二人がピクピクと亜人達に反応して震えていた。

 

「いいぞ」

 

 関税官が兵達の声に頷いて証明書たる巻物(スクロール)を返した。

 

 何事も無くカポカポと馬が動き出そうとして。

 

「あ、一ついいでしょうか?」

 

「はい。何でしょう?」

 

「どちらの出荷場にお持ちですか?」

 

「え、ああっと、荷主さんに確認してみないとちょっと解らないですね。近くの街で馬車を代える時に会う事となってまして」

 

「あ~そうですか。ま、いいでしょう。では、良い旅を」

 

 関税官の爬虫類顔が言うとカポカポと馬車は走り出した。

 

 しばらくして、城を抜けて城下町に入ると馬車の車輪が石畳の道へと入り揺れた。

 

「エラく簡単に入れたな。笊過ぎだろ。これがあの西部の強国アルヴァスかよ」

 

 人間奴隷と紹介された貫頭衣姿の五人の一人がフードを脱いだ。

 

 下から出てきたのは白い髭もじゃの大男。

 

 あからさまに厳ついが、よくよく見れば顔の造りはそう悪くなく。

 

 歳の頃は四十代後半程か。

 

 もしも海の男と紹介されれば、苦も無く頷ける豪放磊落さが港の酒場なら人気となるに違いない。

 

「アルヴァートさん。そう言わないで下さい。時代が違います。時代が」

 

「時代ねぇ……」

 

 更にフードを取って髭もじゃをアルヴァートと呼んだのは二十代の青年だった。

 

 白髪なのだが、それが地毛なのか。

 

 睫や眉毛までも白い。

 

 その目元には大きな瓶底の眼鏡が掛けられていて、瞳は見えない。

 

 ただ、その細い手が蔓を押し上げる仕草は深い知性を感じさせる。

 

 もし評する者があれば、青年を百人中百人が若い学者の卵だと言うだろう。

 

「エムントが言うと本当にそんな感じがするから面白いじゃないか。いやいや、さすが最古参」

 

 陽気な声が上がる。

 

 フードを取った三人目も男だった。

 

 学者の卵をエムントと呼んだ彼もまた四十代程。

 

 前の二人と同じく体毛が白い。

 

 ただ、その容貌は最初のアルヴァートとは違い、柔和なオジサンと言ったところか。

 

 何処にでもいそうな草臥(くたび)れた風体と入念に撫で付けられた七三分けの髪型から役人のようにも見える。

 

「フラウツ。テメェは黙ってろ。お前に言われなくたってなぁ。このアルヴァート様にゃ、んな事くらい解ってんだよ」

 

「まぁまぁ、そう熱(いき)らないでくださいよ。アルヴァートさん。何処か少し浮かれていたのは皆同じです。ね?」

 

 残る二人にそうエムントが問い掛ける。

 

 すると、フードがパサリと落ち、同じ顔が同じ表情を浮かべた。

 

 即ち。

 

「「アルヴァート怖い……」」

 

 幼い双子の少女だった。

 

 他の三人と同じく体毛が白いのだが、肌は南部人や武帝、西部にも多い褐色とは違い。

 

 まるで滑らかな天鵞絨(びろーど)の如き暗褐色。

 

 あまりお目に掛かる事は無い珍しい暗さは奴隷としての価値に換算すれば、かなりの金額になるだろう。

 

「そ、そんな顔すんなよ。わ、悪かったよ……ほら、飴やるから」

 

 泣く子には勝てぬとばかりにたじろいだアルヴァートが厳つい顔に似合わず愛想笑いで誤魔化し、懐から小さな棒付きの麦飴を取り出した。

 

「「飴だ♪」」

 

 ご機嫌を取られた双子がペロペロと嬉しそうに飴を舐め始めるのを見てホッとした様子になったアルヴァートを役人男フラウツが微笑ましそうに見る。

 

「泣く子も黙るアルヴァートも双子には勝てないか。はは」

 

「いい加減にしねぇとブツぞ?」

 

「おぉっとそれは勘弁だ。ああ、黙るよ。黙る。君に殴られたくはないさ」

 

 静かなアルヴァートの声にフラウツがお手上げとばかりに両手を挙げて降参の意を示す。

 

「けっ」

 

 視線を外に向けたアルヴァートに飴を舐めていた双子が微笑んだ。

 

「見えてきたわよ」

 

 御者台で今まで黙って馬を繰っていた声が告げる。

 

 税関から数km程道を往けば、もう大きな宿場町が見えていた。

 

 昔ながらの風情ある街並みだが、工業力が五年で飛躍的に上がった成果か。

 

 薄汚れた感は無く。

 

 綺麗に磨き上げられた宿屋街には活気が満ちている。

 

「あら? 馬糞の匂いもしないなんて、随分ちゃんとしてるのね……」

 

 感心した様子で呟いたのは白い髪の女。

 

 何歳かも解らない年齢不詳のキツメの美貌が二重瞼をパチクリとさせて、双子と同じ暗褐色の人差し指を口元に当てた。

 

「ふむふむ。どうやら、アレが噂の機関らしいですね」

 

 宿屋に併設される馬小屋の幾つか横に大きな蒸気を噴出す鋼鉄製の箱が備え付けられている。

 

「ソル何たらってやつかい? いやぁ、初めて実物を見るね。こんなに大きいものなのか」

 

 フラウツの言葉にエムントが苦笑した。

 

「いえ、あれはたぶん【崩燼機関(ソルヴァス・エンジン)】を使って馬糞を処理する機械だと思います」

 

「何か、大した事なさそうに見えるが」

 

「いや、これは民生用でしょう。何でも軍用の機関は高位魔術師の術すら再現出来るとか。そうそうお目に掛かれるものじゃないとの話です。何でもこの間の一件で機関の取り扱いが厳格化されたらしいとの噂です」

 

「この間の一件てなぁ、何だ?」

 

 アルヴァートの問いに『それは宿屋に付いてから話しましょう』とエムントが話しを打ち切る。

 

「さぁ、降りて頂戴」

 

 馬車が止まり、五人がゾロゾロ降りると学者の卵が先頭に立って宿屋の中に入っていった。

 

 車体を所定の位置に置き、馬を小屋に繋いだ女が宿屋の勝手口の方から内部に入ると中では宿屋の従業員と思われる男女が数人バタバタと倒れて寝息を立てている。

 

 作り掛けの食材から麺麭(パン)と燻腿(ハム)を頂戴した女が音のする二階の部屋へと向かうと一室が開いていて、中には全員が揃っていた。

 

「「お母さん」」

 

「ほら、今日はご馳走よ。まずは貴女達から食べなさい。私達はお仕事の話を他の部屋でしてくるから」

 

「「うん」」

 

 双子の前にナイフと食材を置いて他の三人を連れた女は最も奥の部屋へと入った。

 

 鍵が掛かっていたはずだが、彼女がノブを回す時には既に開いていて。

 

 侵入に時間は掛からず。

 

「良い部屋ね……」

 

 思わず呟き。

 

 白い壁紙に硝子製の窓。

 

 大きな大陸中央諸国製の寝台はフカフカで正しく上等な部屋を体現した如き内装。

 

 寝台や床、椅子に腰掛けた三人の男達を前に女が立ったまま告げる。

 

「で、よ」

 

「「「?」」」

 

 三人の男達が女の言葉に疑問符を浮かべる。

 

「此処まで来たからにはもう後戻りは出来ない。いえ、する意味も無いわ。でも、これが本当に最後の旅になるのなら、意見くらいは聞いておくべきでしょう。貴方達の意思は揺らがないのか。いえ、揺らがないとしても最後まで立ち向かえるのか」

 

「おいおい。今更、何言ってんだよ。水臭いぜ。姉御」

 

 アルヴァートがニヤリと笑う。

 

「そうですよ。僕達はもはや一蓮托生。それにそろそろ長旅も飽きてきたところです。これが最後の神託だと言うのなら、掛けてみましょう。それが復讐者たる僕らの選択なのですから」

 

 エムントが不敵に唇を曲げた。

 

「そうだなぁ。このまま余生を過ごしても、死ぬ間際にやらなかった事を後悔するんじゃ台無しじゃないかと思うんだよ。だから、フェシリア。君は僕達に終わった後の事を聞くべきだ。何たって、僕らの集大成が近付いているんだからさ。未来が見えないと人間やる気なんて出ないだろ?」

 

 ウィンク一つ。

 

 フラウツがのほほんと応える。

 

「貴方達……」

 

 何処か哀しそうに。

 

 しかし、微笑みを湛えて。

 

 フェシリアと呼ばれた女がニコリとする。

 

「馬鹿ばっかりね。まだ地獄が見たいだなんて」

 

「言ってくれるね。地獄は当の昔に置いてきた。今の僕らがいるのは何も無い荒野の最果てさ」

 

 肩を竦めるフラウツにアルヴァートが珍しく同意する。

 

「地獄なんぞ今更だな。見慣れた光景の先をオレぁ望んでるんだ。姉御」

 

 エムントが二人の様子を見て、逆に女へ問い掛ける。

 

「フェシリア。フェシリア・ヴァール。貴女こそ、いいのですか? 先に進めば、あの時【乂羅】で失ったようにもう一度失う事になるのですよ?」

 

「何もいいわけないわ。でも、決めてしまったんですもの。誰が死のうと、何が起きようと、私は復讐者……その代償が例え如何なるものだろうと、誰を犠牲にしようと、最後の機会は必ずものにするわ」

 

 女の微笑に在るのは諦めではなく燃え盛るような憎悪。

 

 だから、男達は何一つ、何一つとして案ずる事無く。

 

 そっと、彼女の前で絵本の騎士のように膝を折って、頭を下げた。

 

「「「我らが命。貴女に預けまする。フェシリア・ヴァール・ラグナロク。偉大なる国父ニェハエルの末にして、失われし血統を継ぎし方」」」

 

 女は頷いた。

 

「【三戎士(トロス・ニグリス)】よ。我が命に従うならば、その命、唯(ただ)一令(いちれい)の為に使い果たせ」

 

「「「喜んで」」」

 

 ズダンと何処からか取り出されたナイフが一枚の篆刻写真を壁に張り付けとした。

 

「私達のこの数十年。きっちりと精算しましょう。復讐するは我にあり。狙うはあの男唯一人」

 

 視線の先に憎悪を向けて。

 

 唇を歪めた女。

 

 フェシリア・ヴァール・ラグナロクが微笑む。

 

「シンア・ザ・クリティカルアンラッカー……待っていなさい……」

 

 次の日。

 

 税関都市近くの宿場街で昏睡強盗が発生。

 

 食料と金品が盗まれたが、杳(よう)として犯人の行方は知れず。

 

 また、その捜索も遅々として捗る事は無かった。

 

 そうして、三夜限りの幕間劇(インテルメディオ)が始まる。

 

 主役の交代を知る者は未だ無く。

 

 亜人国家の行く末と何ら関係ない話が、動き出した。

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