第三章七十六節「奇妙な凶旅Ⅵ」
―――祭楼館ロイヤルスイートルーム第三寝室。
深夜。
満足な食事時を一頻り堪能した武芸術部ご一行様はグッスリな様子で床に付いていた。
二人部屋の第一寝室には少年とジルムスの二人が寝泊りし、第二寝室の五人部屋にはウルとエストリアと璃紗とユアルとシルルゥが、第三寝室の二人部屋には美紗と一応黒猫の分の寝台が確保されている。
ちゃんと寝床まで確保された黒い物体は昼過ぎから午後に掛けては水遊びに興じていたのだが、その後フラリと消えてしまった為、食事時に参加していなかった。
きっと、食事があんなにも豪華だった事を教えれば、ジタバタして悔しがるに違いないと仲間内では笑い話になったが、心優しい少女達が夜食を一人前ルームサービスで頼んでいたので真夜中に猫がやって来ても、嫉妬の鳴き声で起こされる事はたぶん無いだろう。
まぁ、真夜中にもっきゅもっきゅと料理を頬張った黒い水性系亜人が全裸待機していたら、それは完全にホラーだろうが。
(璃紗も今日は愉しんでくれたようですし、私も随分と愉しみました……本当に来て良かった……)
ちなみにどうして二人部屋二つに五人部屋一つという括りで寝台が完備されているのかと言えば、雑魚寝する普通の寝室と“男女の営み用”の部屋が別れているからだ。
男性が二人以上止まった場合にも両者の番の方とご利用になれます(ニッコリ)というのが途中で彼らにルームサービスを持ってきた仲居さんからの殺し文句である。
まぁ、そもそもこの時期に男女混合で止まる時点でそういう事を店側が考えていたとしても、まるで不思議は無い。
実際きっと昼頃にはそういう事になっていたに違いないのは水遊びをしていた時に美紗もウルの姿に確認していた。
唇の跡が付いた首筋や腕、脚、どんな風に愛し合ったのか。
彼女にとってはもう妄想が大爆発である。
数日前に抱かれた生々しさや熱さ、悦びが未だ肉体に残留しているのだから、それを想像するなという方が難しい。
少年との交合(まぐわい)はとても、とても嬉しくて温かくて、それでいて炎に抱かれているように燃え盛った。
その事実が今も美紗には昨日の事のように思い出せる。
―――少年はとても優しかった。
何度も何度も優しく頭を撫でられて。
幹を綺麗にしゃぶる度、胎が疼いて。
美紗は恍惚となる自分を感じた。
初めての行為なのにまるでずっとそうしてきたかのように上手く出来た。
口淫なんてクラスメイト達が話しているのを聞いた事があるだけで、ずっと自分には縁遠い話だと思っていたのに今はそうしてあげたい人がいる。
美紗にとって、それが一番の驚きだったのは間違いない。
舌でいつもなら汚らわしいと思うのだろう男の性を慰め、清める。
それを神聖な行為だと感じて。
少年の両手が頭を撫で、耳を触り、何度も髪を梳く度に身体が熱くなる。
「イクス……綺麗にしました。ん……ちゅ……」
口元を唾液と精で濡らして、まるで子供心に試験が上手く出来たような、そんな童心を感じさせる笑みを零した美紗を少年がそっと立たせて寝台に引き寄せる。
「ありがとう」
優しく前から抱き締められて、じんわりと少年の体温に何処までも気持ちが舞い上がるような高揚感を感じながら、そっと呟きが零された。
「イクス……わ、私はもう大丈夫ですから、その……して、くれませんか?」
「どんな風がいい? 美紗がしたいように言って」
「ぁ……そ、その……」
「?」
小さな子供に聞くような少年の問いに少女は自分の奥から湧き上がった衝動。
心の何処かでこうだったらいいなと思っていた形を口にしていた。
「手を、握って顔が見えるように……///」
「じゃあ、そうしよっか?」
「は、はぃ……」
少年がゆっくりと美紗の身体を寝台に横たえて正面から近付いた。
そうすれば、生まれた姿のまま、少女が見える。
鬣の如きフサフサの髪も頭部の獣耳も、いつもは凛々しい顔が羞恥と安堵に甘く歪む顔も、鍛えられている為に均整の取れた体付きも、もう蜜でツヤツヤと照りかえる下半身も、真珠色の淫核(クリトリス)も、少年に食まれて女の喜びを知った乳首と乳輪も、全てだ。
少年が顔を近付けて、美紗の耳元にそっと告げる。
優しくするから、と。
「~~~」
本当にこれからしてしまうのだと胸の高鳴りに何度も少女は全身を微細に震わせて。
自分を見つめる視線にようやく受け入れようとしなければ、少年が入ってこれないのだと気付き。
自らゆっくりと脚を左右に開いて、股を少年の前に差し出した。
天井の染みを数えていればいいなんて、笑い話だった。
どうして、こんなにも甘美な時間に相手を感じずに終れるだろう。
薄らと朧揺らぐ洋光(ランプ)の灯り。
ゾクゾクと背筋を這い上がっていく肉欲は耐え難い疼きとなって、何処までも身体に熱を滾らせていく。
腰が砕けてしまったような心地。
もう一歩も歩けない。
少年に触れられて、食まれて、持つ彼女の中の獣は甘えてしまっている。
自分で大きくなるようしゃぶった幹が雄々しく陰影を刻み、反り返る様子に唾を呑み込んで。
これから、女にされるのだと。
妹と同じ人を愛するのだと、愛されるのだと。
零れてしまいそうな心が溢れ出して。
「イクス……私の此処に……ち、膣と子宮に……どうぞ、貴方の性器を……その……」
こんな時にどうして言えないんだと。
妹ならきっと喜ばせたくて、卑語なんて言えているのだろうにと。
情けなくなりながら、何とか美紗は言い切る。
「入れて……気持ちよくなって、下さい……」
「美紗」
「っ」
女としてまだ未熟だと思われただろうか。
そんな思いが脳裏を過ぎって。
「可愛いよ」
「~~~っ?!」
頬が染まる。
大きな耳が震える。
ずるいと。
こんな時だけ、自分は初心者で、少年みたいな余裕が無くて、これでは今までとあべこべだと。
少女は小さく震えた。
いつも言葉だけは男にも劣らないようにと思っていたのが今や自分は借りてきた猫。
余裕なんてありはしない。
「イクス……っ」
名前を呼べば、赤子へ触れるように手が優しく太腿を触って。
大きくそそり勃った幹の先端がクチュッとすじに宛がわれる。
「ゆっくりするから、痛かったら言って……」
「はい……」
喉が干上がるような緊張。
しかし、そんなものは少年の前にはすぐに消えた。
何故なら、触られた太腿や臀部の快感にクニャリと身体が蕩けてしまったから。
「ん……」
蜜で濡れた場所に当っているだけで何か薬でも使われているのではないかと疑ってしまうくらい熱く心地良いものが背筋に押し寄せて、押し込まれると背筋が震えた。
(ぁ……っ!? ん、っく、こ、んなぁ……♡ 凄い……一つになってぇ……熱くて脈打ってるのが分かって……押し入られてる……っ♡)
まだ先端が入っただけなのに今まで感じた事もない肉と肉が直接擦れ合う快楽に腰が痺れて思うようにならなくなっていた。
割り開かれていく自分の膣(なか)にいるものは異物ではないのだと身体が知っている。
だからなのか。
串刺しにされていく事に違和感がまるでなかった。
ズ、ズヂュ、ル、ヂュグルル。
「いく、すぅ……わ、たしぃっ、っ、っ……」
舌を垂らして喘ぎを零しながら、一番奥まで少年を受け入れた美紗はすっかりと牝の顔となっていた。
その瞳は余すところなく。
自分が男に征服された瞬間を見届け。
唇も舌も吐息と嬌声とおねだり以外の言葉を零さない。
ピッチリと根元まで幹を咥え込んで。
そっと両手が絡み合って。
少年の顔を見ながら、一つのまま少女は笑みを零した。
「気持ちいいよ。美紗……痛くなかった?」
「は、ぃ……♡ あ、じんは……しょ、じょまくが、ないものもいます、から……」
ようやく自分が一人前の牝として牡を迎え入れた慶びに浸りながら、美紗が薄らと笑む。
「そうなんだ?」
「はい。いしゅ、や……っ、けものには、ほとんどないものっ、です、からっ……」
少年に教えながら、はしたない、亜人の公の秘密を口にしながら、蕩けた膣内(なか)にみっちりと埋まる少年の鼓動を感じながら、ようやく痺れが取れてきた太腿がそっと少年の腰に回された。
きゅっと絡まるとグヂュッと幹の先端が子宮口へと深く嵌っていく。
「ふ、ぁ、ぁっ、ぁ、くぅん♡ い、くすぅ わたしのなかでぇ♡」
今も湧き出す蜜が上向きになった膣内で溜まって、ねっとりと幹と接触していない部分を満たしていく。
「口付けしながら、しよう? 美紗……」
「ぁ……はぃ。いくす♡ ん、ぇ……♡」
もう羞恥は快楽と少年の提案の前に霞んでしまっていた。
クチュァッと唾液を溜めながら、舌を獣のように出して、近付いてくる少年の唇に蹂躙される事を願い、ちろちろと躍らせれば。
「美紗。ちゅ、く、ぢゅ、じゅ、ヂュル、ズヂュルルル」
「んぅ♡ いく、ぢゅっ♡ いく、じゅる、ヂュルル、んぁ、しゅきれしゅっ♡ いくしゅぅ♡ んぅ゛♡」
もう何も考える必要も無かった。
奏美紗は其処にいない。
いるのは何度も何度も舌を絡めながら、唾液を交わらせて、啜って、腰を深く小刻みに動かされながら、犯されている牝なのだ。
(ぁあ、わたし、おかされて……っ♡ いくすのものに♡ した、あつくて、やけどしちゃうくらいにきもちよくて♡ おまんこでおとこのひとのおちんちんを……♡ こんなこうびしってしまったら、わたしぃ……♡♡)
グヂュッ。
「ひぁぁぁ……♡ わたしのぉ♡ あかちゃんのおへやぁ♡ そんなにつよくしたら、こわれちゃっ、くぅぅん♡」
「美紗……美紗……」
(そんなによんでぇ……わ、わたしぃ こ、んなっ♡ こうびぃ♡ こづくりこうびになって♡)
ヂュボヂュボと音を立てて、二人の繋がった間からは蜜がコポコポと泡立ちながら、シーツに滴る。
「はぁぁあぁぁぁ♡ いくすぅ♡ わ、たしぃ~~♡」
身体をゾクゾクと快楽が絶え間なく襲い。
滴る汗に鬣も大きな耳もしっとりと濡れていた。
唇の端から零れた唾液が顎を伝って、首筋から滴る。
滑らかな肌は赤く染まり、顔はもう堕落して、少年の前で快楽漬けだ。
いつもの凛々しい少女は何処にも無く。
甘い悦びに牡へ更なる交尾をねだる獣と化して。
いつの間にか。
黄金の毛並みも躍動していた。
少女の腰が自ら少年の幹に押し付けられる。
グヂュグヂュと擦り合わせた恥骨の間で陰核(クリトリス)が完全に剥けて、捏ね潰される度……理性も無く本能だけで美紗は強い自らの伴侶に自分の身体を擦り付けた。
何を遠慮する事も無い。
自分だけの牡だと汗で蜜で唾液でマーキングしているのである。
「いくす♡ いくす♡ いくすぅ~~~~っっっ♡♡♡」
そうして、少年が達するよりも先に美紗の膣内(なか)が一際大きくうねり、幹を絞り上げた。
「ッ」
「んぁあぁあああああああああぁっっ!!? おおおおおおおおおおおおおお―――」
獣の声が響く。
プチュァアアアアアアアアア。
黄金色の小水と潮が同時に少年の股間を濡らした。
弓なりに反った背筋がブルブルと震えて、
顕になった喉下を少年が舌で舐めた。
「~~~っ」
舌が完全に口の端から垂れて。
しこった乳首が少年の胸の間で潰されて、更に達した美紗の身体がビクビクと震えた。
何度も絞られた幹が急激に高まった射精感に耐え切れず。
ビュグルウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ。
ダメ押しとばかりにまだまっさらな子宮を子種がドプドプと満たしていく。
「っく」
少年は息を吐き出しつつ、もう意識の無い少女がパタリと身体を寝台に横たえた時点で今日はもう終わりである事を悟った。
初めての緊張で感じ過ぎていたのか。
それとも単に身体の相性が良かったのか。
あるいは美紗の血統の特性なのか。
どれにしても、初めてで失禁、失神する程、激しくなってしまったのだ。
それに奏家の女にまつわる性質は璃紗の時に経験している。
そのまま続けるわけにもいかなかった。
少年は身体の強化が行われてから、そういった性的な面でもかなり強化されている。
体力だけなら、まだ数回全力で射精しても十分に余裕があった。
しかし、美紗の事を考えれば、此処で止めておくのが良いと頬に口付け一つ。
「また、しよう……ね? 美紗……」
まだ離してくれない足に絡め取られたまま。
少年は美紗の膣内(なか)に入ったまま。
自然に幹が抜けるのを待つ事とする。
真っ白に染まった意識の底から彼女が自分を浮上させるのはそれから数分後。
「………?………ッッッ?!!!?」
妙にスッキリした下腹部と汗と蜜と小水の入り混じる匂いに死にたい程の羞恥を感じて、横で自分の頭を撫でる少年の笑みに泣き出してしまった美紗は―――思わず、少年の首を少し強く甘噛みしたのだった。
―――うぅ、私は馬鹿ですか。
思い出しただけ顔から火が出そうな失態。
でも、何よりも心地良かった。
初めてだからと身体を労わってくれて。
大丈夫だよと。
交尾による脱力から抜け出せない自分を清め、寝台の掃除までさせてしまった。
本来ならば、そういう後始末は女がすべき事だとアルヴァスの亜人は何となく母から教わるものだ。
なのに、身体の隅々まで動けないまま布で拭かれてしまった。
シーツを代えられ、部屋を換気され、温かいスープまで入れられて。
最後には優しく腕の中でゆったりとした時間を過ごした。
到らなくて。
情けなくて。
でも、今度はきっと自分がこんな風にしようと、してあげたいのだと、決意して。
それから……夜は毎日必ず少年の温もりを思い出しながら眠る。
自分で慰めたい衝動に駆られながら、それでもこの身体は少年のものだからと疼く身体をきゅっと自分で抱き締め、股間を捩じらせながらだ。
瞳を閉じていれば、淫欲と眠気が少年の笑みを交じり合って、最後に白く解けていく。
後、少年と何度する時間があるだろう。
もっとすればと後悔するかもしれない。
もっとしてあげたい事があったと後悔するかもしれない。
そんな恐怖が今も心の奥にあるのは否定出来ない。
それでも、彼女は思うのだ。
少年の望む事をしようと。
自分から押し付けてばかりではダメだと。
次に欲された時、今度はきっと、前よりもずっと、少年を愛して、素晴らしい今にしていこうと。
「イクス……」
時間を気にして、気負い過ぎた自分で迫るよりも、傍にいて共に最高の時間を感じられる間柄になりたい。
それがもう十ヶ月しか持たないと。
愛しい人の寿命を告げられた奏美紗の答えだった。
「……お休みなさい」
小さな呟きがブランケットの中に消えて。
静かに寝息が天蓋の光の下で零れ始める。
旅は未だ途中。
先はまだまだ長そうだった。
*
―――旅程二日目。
「イクスさ~~ん」
武芸術部合宿旅行。
その行き先には幾つかの観光ポイントが組み込まれている。
それらの一つとしてイクス・ゼオ一行は観光地としては聊か険しい山岳の頂上。
山小屋兼食事処のロフト上展望台にいた。
一面魔術で強化された硝子張りの内側では観光客達が高山での食事と周囲数十kmを見渡せる大パノラマを堪能している。
彼らがいたのは外だ。
晴れ模様となった本日は空気が澄んでいる。
魔術式の固定望遠鏡は数百kmから二千km近くまで見える優れもので今は遥か遠方。
砂漠地帯の方角に向けられている。
「凄いですよ!! ほら!! 見てください!! おっきい屋根があるんです!!」
興奮した様子で少年に望遠鏡を勧めるエストリアが見ていたのは西部でも指折りの観光地。
アルディジャラン。
その巨石建造物。
神の座す大神殿。
他国の観光資源を取るんじゃないと怒られそうではあるが、西部でも周辺国からは天気さえ良ければ見える神の家は大体隣国の山岳地帯にある展望台なら、何処からでも見える。
素晴らしく巨大な人工物。
否、神工物(じんこうぶつ)は西部旅行者の思い出ベスト10に入る名物であり、アルディジャランの無償宣伝にもなるので国の神官達はケチを付ける事もないのだと言う。
「イクス! おっきい!! スゴイ!!」
シルルゥが少年に興奮気味に伝える横でウルや美紗、ユアルはお土産の袋をジルムスに預け、店内で買ってきた温かい紅茶や麺麭を少年に勧めていた。
ガヤガヤといつもならば、観光客で賑わっている店内は本日ヒソヒソとの声が多数。
“九十対十”の現地人や人間の旅行者達は目立ちに目立つイクス・ゼオ御一行様の女性陣の華やかさに釘付けだった。
成人男性は華のあるウルや美紗にチラチラと視線が行っているし、子供や学生くらいの歳の男達は仲良く笑い会っているエストリアや璃紗、シルルゥに可愛い子だなぁ……と、ちょっとお近付きになりたそうである。
女性客からはワイルド極まるジルムスの二枚目な横顔が受けているらしく。
好奇の視線がビシビシと背中に集中している。
年頃の少女達から視線を集めているのはユアルだ。
キリッと凛々しいシャンと背筋を伸ばしている姿は麗人の如く。
今にも百合の花が咲きそうな溜息がポツポツと吐かれている。
全員での名所巡り。
武芸術の稽古は何処にいったのかと言われそうだが、彼らの日程にはしっかりとそういう修行の項目も存在する。
まだ来て二日目だ。
一日目から諸々少年は大変な目にあったわけだが、だからと言ってそんな様子は微塵も見せてはいない。
前日の夜の事はアーギストへ既に報告している。
化物の発生と撤退。
浮遊する飛船体での天使達の分離作業。
全て終わったのが明け方に近い頃合。
レアに頭を下げられ、祭楼館に戻り、こっそりと寝室へ帰って三時間程睡眠を取って起床。
元々夜が遅い生活をしていた少年にしてみれば、然程無理な日程でも無い。
(朝から璃紗とシルルゥが寝惚けて潜り込んで来たのは驚いたけど……)
起床寸前。
少年の寝床へゴソゴソと侵入者が二人。
お手洗いに起きた少女達はまったく無防備に掛け布の中へとやってきた。
イクス~~むにゃむにゃと半ば意識の飛んだ状態で抱き付かれて、起こすのも可哀想だと左右の手で撫でながら眠ったのは束の間。
今日はせっかくの旅行なのだからと早く起きてきたエストリアが少年の寝台の膨らみを発見し、朝っぱらから大変な事になった。
『な、なな、一体何をしてるんですか!? イクスさんはぁああぁぁあ!!?!』
昨日、ウルと少年の間にゴニョゴニョがあったのは仲間達から既に見抜かれていた。
そして、その日の夜から今度はまた二人の少女とゴニョゴニョしたのかと誤解されたわけである。
さっそく朝が早いウルが起きてきて、エストリアと三人の姿を見つけ、参戦したのは言うまでも無い。
曰く。
『あ、あ、朝から!? わ、わたくしと昨日したのにどうしてそう貴方は節操が無いんですか!!? それに今度はシルルゥさんとも!?!』
そんな騒がしい寝室にはジルムスもいたわけだが、唯一少年の味方になってくれそうな青年はソッと彼らの騒動に背を向けて何処からか取り出した耳栓をしてから眠ってしまった。
そんなわけで朝から諸々騒がしい一向はワイワイとやりつつ、身支度を整え、朝食に向かい、食べ終えた後に一服をしてから、観光名所巡りへ繰り出したのだ。
「イクス。そろそろお昼を過ぎましたから、旅程通り。次の場所に向かいましょう」
一応、旅行の進行役であるウルが間食を終えた少年に告げる。
「えっと、確か此処を見たら、現地の軍学校に行くんだっけ?」
「はい。アルヴァス・カレッジは首都の軍事と政治と研究の次代中枢を担う人員を育成する学校ですから、少し特殊ですけれど。基本的に我が国は通常の義務教育を施す学校と軍の運営する軍学校があります。わたくし達はその中でも軍事の精鋭、あの大会で肩書きとしてはそういう事になりました……故に地方の軍学校を訪問して親善試合をして来るのは義務……そういう事ですわ」
「何だか、政治に使われてない?」
「ええ、本来なら大会の運営委員会は自国が優勝するなら【崩燼機関】を使った部が望ましいと思っていたはずですから。委員会のお偉方の何割かは【崩燼貴族】だったとか。だから、武芸術部も今回の大会に参加出来たとエンシェンが言ってましたわ。彼らは自分達の権威の底上げを狙ったのでしょう」
少年は鬼女から緑炎テロの後に諸々の裏事情を聞いていた。
緑炎テロの当時、【崩燼貴族】の一部が自分達の復権の為に革命を起こそうとしていた事。
それが事件で頓挫し、革命の内実もバレた上、更に権威が失墜して、保守系の古い貴族達の管理下に置かれたとの話は驚くには値した。
それらを総合すれば、正に彼らの行いは【崩燼貴族】達にダメ押ししたようなものだろう。
自分達の子供がベスト4にも残れず。
エンシェンやウルを筆頭に旧い貴族達の家の者が優勝したのだから。
「じゃあ、行こっか」
「ええ」
全員が集められ、元来た設置型の転移方陣を潜って街へ戻ったのが昼過ぎ。
部員以外が行くのは問題になる可能性が高いという事でジルムスと美紗に保護者役を任せて、ウルと少年とユアルの三人は地元の軍学校へ徒歩で向かう。
それから十分。
施設は街の一番下。
坂の終わりに建っていた。
ウルが校舎裏の事務室に到達を届け出ると軍学校の武芸担当だと名乗る黒い獣人が一人、中央諸国式の礼服(スーツ)姿でやってきて、校舎裏に設営された白亜の舞台へと三人を誘導する。
もう六十代程になるという。
元々軍務に付いていた叩上げの軍人らしく。
国内の武芸術の大会で一時期、賞を総なめにしたウルの事を知っているようで、道中は気さくに話し掛けていた。
「いや、それにしても先日の武芸述部の試合は見事でしたな。若者の才能というものには驚かされる。時代が過ぎ、よく学徒が軟弱になったと言う輩がいますが、確実に我々が子供だった時よりも子供達は前を進んでいる」
「いえ、まだ至らぬ身ですから」
余所行きの笑顔でウルが応える。
余裕が無かった昔の彼女なら、そうするだけの理由も無かっただろう。
しかし、今浮かべられる柔らかな笑みには少年と出会う前には無かった大らかさと落ち着いた雰囲気がある。
「昔、お見掛けした時より随分とお強くなられたようだ。次代に善き子を儲けられるよう願っています」
「え? あ、ぇえと……」
皺が刻まれた顔がフフフと笑んだ。
お腹に新たな命がいる事を見抜かれて、ウルが僅かに顔を伏せ赤くなる。
「此処が我等の武闘場です。部員達は既に控えていますので、すぐにでも始められます」
先導する男の前には白い円盤状の場所が広がっていた。
「これって、この間の大会で使ったのと似てる……」
少年の呟きに男が頷く。
「はい。軍学校は基本的に軍の運営ですので。同じ材質で訓練場を誂えておるのです。アルヴァス・カレッジではこのような場所は無いのですかな?」
「わたくし達の部は魔術具で場所を作っていますので」
「おお、さすが首都の最高学府ですな」
男が快活に笑ってから、パンパンと手を叩くと白い舞台の端に整列して待っていた部員達が駆け足で寄ってきて、ザッと一糸乱れぬ統率を見せて手を後ろに組んだ。
『エゼ・デシェ公立軍学校武芸術部であります!! 皆様、ようこそお越し下さいました!! 我等一同、心より歓迎いたします!!!』
唱和した声にウルが軽く頭を下げ、少年とユアルも倣う。
「では、さっそく始めましょうか」
男が部員達を振り向く。
「ええ、よろしくお願いいたしますわ」
ウルがそう応え。
そうして、修行(くんれん)が始まる。
遣り方は任せる言われた武芸述部一同は近接格闘術のみの勝ち抜き戦を相手側へと提案。
主に少年がウルを慮って主張したのだが、それが採用された。
「では、初め」
白いフィールド上には青い木の葉が散っている。
(……相手には悪いけど、早めに終わらせよう……)
少年は後ろのウルとユアルをチラリと見て思う。
その脇見を見逃さずに敵が一足で10mの距離を詰めた。
大陸中央から輸入採用されている紺のジャージ姿をした白い獣人の青年。
彼は勢いのまま接触し、ポンと後ろへ勢いのままに投げられて、一瞬思考を停止させた。
『―――?!』
呆気に取られた様子だった相手がハッとした様子になると空中で体勢を立て直し、何とか脚から床に着地する。
「お、おぉおおおおッッ!!」
それだけで相手との差が分かった青年だったが、敵の力量を恐れず。
再度の突撃を掛けた。
「フッッッ!!!」
互いに得物は持っていない。
故に近付かなければ攻撃も出来ない。
ならば、どれだけ相手が強くとも最速の突撃あるのみという話だ。
基本的に獣人はアルヴァスの主要構成員の六割を占める強靭な種族である。
その肉体の強度や脚力、腕力、反射速度は平均して普通の人類の四倍近い。
まだ一歩も動いていない相手の腹部に右腕が弓なりに引かれて、猛烈なストレートが叩き込まれる。
怪我をさせないよう鋭い爪は内側に握り込まれているが、それを差し引いても強烈なブロー。
棒立ちの少年が吹き飛ぶかと思われたが、不可思議な事に青年の方が真上に吹き飛ぶ。
『!?』
舞台の横でエゼ・デシェ側が驚いていた。
舞い上がった本人が一番目を見張っていたが、下から床を蹴って跳んだ少年の拳が腹部に突き刺さり、吹き飛んだ衝撃で落着、ワンバウンドしてからゴロゴロと転がり舞台から落ちる。
慌てて駆け寄った部員達に受け止められるも失神しているのは誰の目にも明らかだ。
「凄いですな。彼……拳を受け止める際に捻り上げて、力を上に誘導したように見えますが」
「武芸術部の期待の新人ですわ」
エゼ・デシェ側顧問である男からの賞賛にウルが笑みを零した。
「ゼオは凄い奴ですから」
武芸術部の活動で時折、一緒に訓練するユアンがウンウンと頷く。
青年が上に舞い上がったのは拳が片手で受け止められ、その勢いを殺さずに捻られて、身体がグルンと回転した直後だ。
ストレートの拳が手に取られた直後、自分で身体を回転させて、その勢いのまま跳ね上がったように見えるから、摩訶不思議である。
どういう類の手品なのかとエゼ・デシェ側の部員達は狐に摘まれたような顔をしていた。
「大陸東部の武芸には相手の力を利用する体術があると言いますが、そういうものに見えましたな。先程のは」
「やはり、ゼオは凄い」
得意げにウンウン頷くユアルだったが、その横でウルは少年の顔をずっと見つめていた。
それから二時間程。
少年に対してエゼ・デシェ側は一人も勝つ事が出来なかった。
途中からは一対多数での戦闘となったが、それにしてもポンポン投げられるのだ。
何処から攻撃しても大抵同じ。
最後には長い舌をハァハァさせながら、倒れ付す部員達の山が出来上がったのだから、アルヴァス・カレッジ側の完勝と言っていいだろう。
「申し訳ない。どうやら、此処までのようです」
顧問の獣人がそう言うと山となった部員達に白い舞台から降りるよう促し、最後に己がと少年の前に立った。
「では、最後にお相手をお願いしたい。お前達、よく見ておくように」
生徒達に言い聞かせて。
壮年の男はニコリとして頭を下げた。
少年もそれに倣う。
そうして、これで最後だと二人が互いに向けて歩き出した。
「一つお聞きしていいですかな」
「はい。何でしょうか」
何だろうかと定位置に付いた少年がひっそりと訊いてくる顧問に応える。
「何かご病気でも?」
「―――ちょっと、色々と」
驚いたものの。
本当の実力者には丸分かりなのだろうと少年が言葉を濁した。
「確かに“その戦い方しか無い”とは思いますが、予測の反映と肉体の反射だけでは何かと無理もあるでしょう。少し、お節介かと思いますが、弱点を突かせて貰っても構いませんか?」
「……ええ、どうぞ。よろしくお願いします」
二人が3m程の距離を取って、リングの外でウルが手を振り下ろすと同時に行動を開始した。
速攻を仕掛けたのは顧問の男だ。
生徒達に比べれば、もう肉体の盛りを過ぎている。
一速跳びに踏込んで抉り込むような拳を放ったとしても、少年には敵わない。
誰もがそう思っていた。
しかし。
「ッ」
少年が今まで受けていた打撃を半身を引いて回避した。
拳を打ち込んだ体勢は一見して無防備。
しかし、その身体が揺らいで後ろへと倒れ込む。
そうして、遅れて少年のカウンターが男の真上を通過し、右の肘で床に接地した男が体を捻り上げ、一瞬にして肉体を倒立、両足で未だ引き戻されていない腕を絡め取った。
『!!?』
一瞬の出来事に武芸術部の面々が驚いている間にも、少年の腕からボキリと音がして、組み付こうとする寸前に顧問の足が離される。
「シッ」
続いて数mの距離を肘の力だけで跳んだ後。
男は自らの足にガンッと拳を叩き付けるとすぐ行動を再開する。
両手の指を第二関節まで曲げて、拳は握らず。
再び踏込んだ。
「―――」
少年が大きく後ろへ下がる。
「ゼオ!?」
思わずユアルが声を上げる。
しかし、それには応えず。
少年は自分を打撃しようとして握られなかった指間(たなまた)に脅威を感じて、瞳を細めた。
「あれは……」
今まで一連の戦闘を見ていたウルが驚いた様子になる。
「どうして、ゼオは今までのように受けて投げないんだ……それにあの指……あれでは威力が出せない」
「いえ、受けられないし、威力もありますわ」
「部長?」
ユアルにウルが対峙する二人を見つめつつ、解説を入れる。
「拳を握らず。鉤爪のように引き裂くものでもない。けれど、あの指の形には見覚えがあります。あれは古流の近接格闘術です。どちらかと言えば、流派というより、戦者の辿り着く境地の一つですわ」
「境地?」
「拳を握らず。鉤爪にもせず。第二関節までを曲げて指を開く。まるで何か丸いものでも掴んでいるようには見えませんか?」
「そう言えば……」
「魔術師。それも格闘に特化した者が己の魔力を握って戦い始めたのが源流の一つだと言われています。それを見た者が戦場で真似るようになり、やがては大陸全土で見られるようになった」
「でも、それだけであそこまで? ゼオは身体も丈夫になったと言っていた。あんなにもあっさりと腕を折られるなんて……信じられない」
ユアルの言う事は最もだ。
実際、少年の肉体は意識するまでもなく。
銃弾や通常なら致命傷程度の攻撃魔術では傷一つ付かない強度となっている。
肉体を意識して人体の完全制御を行なえば、それこそ超高位の魔術師が放つ魔術の直撃にだって耐えられるはずだと病院での検査では驚きの数値を示した。
それが一介の地方の軍学校の教師に遅れを取るなんて、本来ならば在り得ない。
「アレは肉体と肉体の間、例えば指の間などに積層魔力を極小規模で生む原始的な闘法ですわ。でも、その極小の規模の攻撃でも十分に生物は殺せる。まぁ、どちらかと言えば、攻撃手段というより最後の足掻きとして使われていた代物ですけれど」
「最後の足掻き?」
ユアルが訊いている間にも少年が次々に乱打される拳を大げさなくらいに距離を取りながら避け続ける。
「魔力形質によっては方陣防御を抜いて密着状態から相手を一撃で屠る事も可能だった為、持たざる者の鎌と言われていました」
「持たざる者の……」
「正式名称はありませんわ。ただ、この国では【窮極肢(エゲヌム・プグナセス)】と言います」
「えげ……ええと」
ユアルが発音出来ずに口をもごもごさせた。
「困窮する者の拳。その真髄は限界を超えた肉体でも使用が可能な事。いえ、そのような状況でなければ、使えない事、でしょうか」
「それはどういう?」
「端的に言えば、極度に消耗していて始めて出せる技という事です。とても微弱な積層魔力刃を刹那以下の時間で拳の間から放つ為にはそういう肉体の状況でなければならないとか。極めた者ならば、肉体と肉体の間に発生させる事も出来るそうですけど、あの方はその域にあるようですわね」
「ゼオも同じ事が出来るのではないか? 部長」
ふるふるとウルが首を横に振った。
「肉体が通常の状態では魔力が多過ぎて、微細な調整を極短時間が行なえないと思われます。魔力刃が感知されるより先に発生から収束までを終えてこそ、あの技は致命の一撃と成り得る」
「じゃあ、どうして、あの人は……」
「もう、然程長くないのでしょう。たぶん……」
「え?」
ユアルが目を丸くして壮年の男を見る。
「でなければ、使えはしません。今、気付きましたが……アレはもう……」
途中、男がいきなり手で少年を制した。
「済まない。そろそろ限界のようだ」
『先生!!』
少し息を吐いて立ち止まった自分達の師に生徒達が駆け寄る。
「一矢報いたのは嬉しい誤算だったが、さすがにもうガタが来ているな。済みませんな。お客人」
「いえ……よく自分の弱点がハッキリしました。感謝します」
頭を下げた少年に微笑んで、男が首を緩々と振った。
「あの一瞬に仕掛けて腕が折れたのは殆ど奇蹟だった。こちらに配慮して筋肉を緩めてくれていたおかげで、こちらの足はイカレずに済んだ……はは、完敗です」
少年が折れた腕を押さえつつ、頭を下げた。
そうして部員達に付き添われながら、男が今日はこれまでとの号令を出し、武芸術部の旅程の一つは消化されたのだった。
学校を離れる際。
今一度深く頭を下げた一向に最後まで顧問の男は柔和な笑みを浮かべていた。
まるで我が子を見守る好々爺のように。
*
「イクス」
ジルムス達との合流予定地点に赴く傍ら。
ウルは訊ねずにはいられなかった。
もう少年の腕は回復用の魔術で綺麗に治っている。
「あの腕を折られた時、どうして避けなかったの?」
男との会話は他に訊かれないよう小声でしていた。
常に少女達へ迷惑や心配を掛けまいとしている少年にしてみれば、当然の事だったが、違和感を持たれたのは致し方ない。
不自然とまではいかないが、避けられたはずだとの感想は抱かれるだろうと少年も予想はしていた。
「……言わないとダメ?」
「言いたくない事なのかしら?」
「あんまり、教えたくは無いかな」
「……じゃあ、訊かない事にしますわ」
溜息一つ。
その代わりにギュッと少年の頭が柔らかな感触に包まれる。
「あの、どうして、頭を?」
「教えて欲しいの?」
上から掛かる声は『なら、自分も言えばいい』との暗に示している。
「いえ、イイです……はい」
「……イクス。わたくしは……ずっと、貴方の傍にいますわ……ですから、言いたくなったら、言って……ずっと、待ってますから……」
「ウル……」
柔らかなものに頭部を包まれながら、少年が少し後ろを向く。
「わたくしは弱い。でも、貴方の傍で必ず見て、聞いて、共に在る。忘れないで……」
「うん……ありがとう」
「ならば、私もそうしよう。私も武芸術部の部員だからな。ゼオ」
二人の空間が出来上がったかと思われたが、サラッとユアルが割って入った。
思わず良い雰囲気だったのにとウルが恨めしそうな顔をしたが、ユアルは無邪気にウンウンと何やら自分で頷いていた。
「ゼオも負ける事がある。いや、あれは引き分けだったが、それでも完全ではない。ならば、武芸術部もまたお前が出来ない事が出来るようにならなければ。そうだろう?」
「え、あ、うん……あ、ありがとう。ユアル」
「気にするな。これでも私はゼオと交わる事には自信があるんだ」
「ま、交わる!?」
ギロリとウルの瞳が自分の乳の狭間にある頭を凝視する。
「この間も、互いの弱点を何一つ言わずとも分かっていて、攻め合った仲だからな。部長程ではないにしろ。もっと、こう、何と言うか。具合がよくなるよう、頑張らねば」
「え、え~っと。ウル? どうかし―――」
「また……またなんですの? イクス……」
「またって、その、何が?」
「わたくしは、わたくしは……璃紗さんの事も、エストリアさんの事も、み、美紗さんの事も、か、寛容な気持ちで許容していますけれど、そ、それにだって、げ、限度というものが」
「今のはユアルと戦った事であって、彼女にも他意は無―――」
「ゼオ。今度は夕暮れ時に夜戦といこう。目が見えずとも、耳が聞こえずとも、互いの息遣いと感触だけで高め合えるのだと分かれば、きっと心地良い時間になるだろう」
うっとり、剣と剣を交える想像をしているユアルの内心を理解した少年だったが、ウルはもはや涙目だった。
「あ、イクスさ~~ん。どうしたんですか? あれ、ウルさんどうして……」
「イクス。ウルさんに何を……」
「イクス?! ウルさんを泣かせるような事したの?!」
「イクス!! アイス食べよう!!」
騒がしい仲間達の合流と共で少年は針の筵に座らされる予感をヒシヒシと感じ、何とか取り繕おうとしたが。
「せめて、話を……」
肩にポンポンとジルムスの手が置かれた。
『やめとけ。言い訳すると面倒だ』
声は出していないが、ハッキリとそう言われた気がして。
周囲の状況を見回し。
ガックリと逃げ場の無いハーレム王は頭(こうべ)を垂れた。
結局、最後には責められる運命か。
少女達のある意味冷たくて、ある意味熱い視線を受ける事となったイクス・ゼオは夕方まで女性とのお付合いの何たるかを延々諭される事になるのだった。