第三章八十一節「祭忌禁交Ⅲ」
遥か古の時代より、人と人を結び付ける儀式は数多く存在した。
それが他者を喰らう事ではなく。
肉体の交わりと精神の交わりを持って結び付く事だと人が定義した時。
それを司るモノを祀の識者。
司祭と呼び。
認めるモノを人は一柱の神として奉った。
【番神(デミス)】
大陸においては主神でこそないが、たぶん人間にとって最も旧き神に属する神格。
契約というものが広く人の中に新たな概念を得てからは誓約神、規律神と呼ばれるも、その本質は生じた最初期の頃から今まで変わってはいない。
男女の結合。
分かち難きもの。
それこそを認め、祝福し、見つめる者。
大陸はもとより酷界、天界、異相、自らの力届く全ての領域において男女の全てを見守り続けてきた神はある意味、究極の観察者。
人を理解する最も詳しい神と言っても過言では無い。
故に世界の運命を左右する男女の結び付きに付いて。
権能の顕現のみならず。
神格そのものまで現れるというのは大陸において極々稀にではあるが、起り得る出来事だった。
英雄の誕生を預言し、新たなる時代を告げる。
それと同じ事が今、ゼオ家の地下室において起こっていた。
本邸を管理する魔術方陣は現在、家の娘と居候となった少年の契りを結ぶ為に床から浮き上がり、三次元式の緻密な球体となって三人の前で励起されている。
「「「………」」」
アルゥとエフィリム、エーネが球体内部に現れた耀く黄金の光明に顔を見合わせた。
正しく。
それは神の顕れた姿。
その力を知る者在らば、頭を下げるのが道理だろう。
まぁ、その“神格すら上回る”彼女達にとっては単なる突然の来訪者にしか過ぎなかったが。
―――灰火の魔と天秤たる姉妹に告ぐ。
「これはこれは……随分珍しい事があるものね。神格がこうして顕現するなんて……」
「このこえは?」
「神の?」
アルゥが僅かに警戒し、二人はどうして神格そのものが出てきたのかと驚く。
―――この契約は我が手に余るもの……“来るべき日”の後にあるべきもの……。
「来るべき日? 中位神格が何を言っているのか分からないけれど、力は貸せないと言うの?」
アルゥの瞳が細められる。
―――真名を失いしものを結び付ける事能わず……彼の者は自らの手において全てを行なうと我が誓約において自らに契った……惑なる天、翼たる天、大いなる母、三者により承認されし誓約は不破の約定也。
「何ですって?! あのお方と大いなる母、それに翼たる天!!? 一体どういう事!!」
顔色を変えたアルゥが黄金の揺らめきに食って掛かる。
―――彼の者は名を棄て、自らの意思と行いによって己の契りを果たすもの……須らく、我が権能の範疇に無し……何人も彼の者の意思に反して約する事叶わず。
フッと全てを言い終えたとでも言うように黄金の煌めきが方陣の中から失せた。
「………そういう事」
アルゥが険しい顔で俯く。
「どういう」
「事ですか?」
二人にアルゥが顔を向ける。
「彼はたぶん自分の真名を消して、強制的な契約が出来ないように予め神格と契約していた。これ自体は昔から呪いの対策なんかでよくある方法よ。ただ……その契約はたぶんどんな事をして解除出来ないわ」
「どうして」
「でしょうか?」
「ある意味、主神よりも厄介な方達がその契約の承認を行なった……今の貴方達の立場と同じよ」
「それでは」
「契約は……」
アルゥが頷く。
「また、彼にだけ押し付けてしまう事になるわね……いつも、そう……本当に我侭な人……」
瞳を閉じて。
アルゥがこれからの難事を思った。
「……きっと」
「大丈夫です」
二人が大きな乳房を見上げるようにして口にした。
「信じているのね……」
「ええ」
「はい」
姉妹達の頷く姿に自分もまたそうだろうと彼女は思い直す。
「出会った時から、そうだったわ。どんな事があっても、自分の口にした事は曲げない。誰の為でもなく。己の為に他者へ全霊を尽す。驚く程に我侭で傲慢で……寂しいくらいに一人で立っていた。でも」
「「?」」
「出来る限りの事をしましょう……彼がいつもそうしてくれたように……ね?」
「「はい」」
時は進む。
新たなる道に向かって。
それは破滅への足音で父娘(おやこ)が邂逅する出会いの瞬間。
辿り着くべき未来は未だ彼女達の目にも見えていなかった。
*
―――ゼオ家本邸二階シルルゥの部屋。
時折、浅く呼吸を繰り返す少女の頬を少年がそっと指の背で撫でていた。
夜通し看病していた璃紗には数時間の仮眠を言い渡している為、今頃は隣室で眠りこけているだろう。
「……早く起きないとお祭りが終っちゃうよ。シルルゥ」
笑みながら、少年は容態に変化の無い事を確認して。
一冊の本を傍らにある台から持ち上げて、片手で開き読み聞かせ始める。
幼い頃によくアルゥから夜の寝物語にと御伽噺をしてもらっていたらしい。
まだ熾きずとも。
聞いていなくとも。
退屈に眠りこけるよりは……と。
少年の目が字を追い始める。
「木漏れ日の丘」
そう大した厚さでもない小さな本の物語。
それは一つの丘から始まる。
著者には近頃有名な劇作家の名があって。
今の作風とは偉く違った寓話が収められている。
「とある村に小さな奴隷がおりました」
主人公は村の小さな男の子。
毎日働かせられる一人ぼっちの奴隷。
腐った野菜の切れ端を食べ。
錆びた首輪と粗末な襤褸だけを纏う。
そんな、幸せな少年の話。
ずっと、ただ生きていた彼にある時、友達が出来た。
教会に越してきた司祭の娘。
同い年の彼に話し掛けて、いつの間にか奴隷から開放してくれた掛け替えの無い人。
やがて、大きくなった彼と共に村の外へと旅に出て、苦難を共にしてくれた。
すると、今度は仲間が出来た。
四人で旅をしていたやはり同い年の少女達。
沢山の事を教わりながら、六人の旅は続く。
その内に今度は二人の赤子を拾った少年は育てる事にした。
双子の姉妹はよく彼に懐き、今度は八人で旅をする。
そうして時間が過ぎていき。
全員が一つの国に住まう事となった。
だが、其々の生活が出来て、誰もが散り散りになってしまう。
けれど、必ず一年に一度だけは集まろうと彼らは小高い丘の上でパーティーを開いた。
毎年毎年、毎年毎年、歳を取っても、誰が欠けても、必ず共に笑い合い、泣き在った。
最後には少年だけが残って。
それでも満足して彼は木漏れ日の下、暮れる世界の中で旅立つ。
人生は良いものだと。
仲間達と出会えて良かったと。
ああ、素晴らしい人生だったと。
笑いながら、幸せそうに、死ぬのだ。
「彼はもう立ち上がりませんでした。けれど、彼に連なる多くの人が、彼女達が生んだ人々が、世界の中心で篝火を焚きます。こうして……少年は、奴隷の子は、幸せに―――」
少年がふと違和感を感じて己の顔に手を伸ばし。
「幸せじゃない」
「え……」
いつの間にか。
本当にいつの間にか。
少女が、シルルゥ・ゼオが目を開いていた。
「良かった。目が醒めて」
「幸せじゃない……」
「どうか、した?」
不思議そうな顔をした少年に何故か。
泣きそうな顔をして。
シルルゥが呟く。
「幸せじゃないよ……シルルゥは知ってる……イクスは自分が幸せだって言い聞かせてるだけ」
「シル、ルゥ?」
思わず驚いた少年の胸に身体が飛び込んだ。
「ずっと、ずっと、死にながら、笑って、笑って……それでも幸せだって言い張ってただけ」
「あ、えと……」
その真剣な瞳が、あまりにも悲しそうだったから、何も言えず。
「知ってるよ。本当はいつも泣いてた……でも、泣いたら、誰も守れないから、泣かなかっただけ」
「―――」
「笑顔は嘘じゃなかったかもしれない。でも、本当でも無かった」
何を言われているのか。
どうして心へこれ程までに突き刺さるのか。
何も理解せず。
ただ、一つだけは感じて。
「全部、シルルゥが消してあげる。イクスが、パーパが、トトサマが、ティアが、ずっとずっと泣かなくていいように。苦しい事を苦しいって言えるように。悲しい時にはちゃんと泣けるように。シルルゥが、ううん……シルメイアが、全部消してあげる」
その瞳は真剣だった。
何処までも真摯だった。
「シルルゥ。それじゃ、ダメなんだ」
「どうして!! 皆、傷つけてばっかり!! あんなに頑張ったのに!! あんなに優しくしたのに!! あんなに傍で守ったのに!! 皆、最後には……」
少年は苦笑して、知らない自分を語る少女の言葉が己の過去なのだろうと理解する。
「今、僕は昔の自分もあんまり思い出せないけど」
いつかのように。
記憶の欠片も満足に思い出せないのに。
それなのに過去と同じく。
少年は微笑む。
それは他が為の笑み。
「自分がやりたかった事だけは覚えてるんだ」
「……やりたかった事?」
「きっと、今も昔も然程変わらないよ。記憶が在ろうと無かろうと僕は変わらない。あの日、あの時、あの場所で、誰かと過ごした日々の中で、きっと思い続けてた。僕は―――」
そっと、シルルゥの耳元にヒソヒソと呟きが零される。
「………本当にそれでいいの?」
真っ直ぐな視線だった。
「うん」
何もかもを射抜く瞳だった。
「本当にそれでイクスはいいの?」
笑みも仮面も突き抜けて。
「うん」
ただ、真実と想いに届く言葉だった。
「そんなの……」
「泣かないで。シルルゥ……」
優しく額に口付けて。
頭を撫でる手にされるがまま。
少女は唇を噛む。
「シルルゥは……そんなの嫌……」
「そっか」
「皆、消しちゃえばいい……そうしたら、二人でこれから沢山赤ちゃん作るの……」
「それが、シルルゥのしたい事?」
コクンと頷く少女があまりにも心の底から自分に想いを向けてくれるから、少年はそっと頭を抱き締める。
「本当の家族なら、きっと誰も裏切らない……皆、家族になったら……」
「血が繋がっていればって事?」
「だって、シルルゥは……シルメイアはそうだから……」
「じゃあ、そうしたら、僕にとって……この世界はきっと悲しい事だらけになるかな」
「家族だけじゃダメなの? ずっと裏切らない、絶対に傷つけたりしないよ? この世界の事なんて忘れちゃえばいい!!」
「忘れられないよ。だって、此処にはシルルゥがいる。シルルゥと一緒に色んな事をした街がある。人がいる。思い出は……誰にも消せない。それがシルルゥだとしても」
「ッ、それでこれからも傷付くの!? 一杯、酷い事になるとしても!?」
「逆に聞くけど、それじゃダメかな?」
「え……」
「別に傷付いてもいいんだ。酷い事なんて幾らでも世界には転がってる。でも、それを一つずつどうにかしていったら、いつか誰とも笑い合っていられる気がする……僕はアルヴァスで目覚めてから今までそうしてきた。今もそう思ってる……」
「このままじゃ……後悔するよ?」
「うん」
「苦しい事も悲しい事も無くならないよ?」
「知ってる」
「それでも?」
腕を解いて。
少年は少女に瞳を合せ笑った。
「でも、そうじゃなかったら、シルルゥや他の皆とも会えなかった。僕の過去が魔王じゃなかったら、シルルゥと出会ってなかったかもしれない。そんなのは嫌だと思うから。どんなに冷たかった日も今に繋がってる。ようやく辿り着いた場所にまた出会いがある。だから、何もかも超えていけるよ。例え、此処にいるのがただの偶然や奇蹟なんだとしても、時間が限られてるんだとしても、今此処にる僕はシルルゥが、このアルヴァスで出会った皆が、好きだから……この掛け替えの無い今を無かった事には出来ない」
「――――――馬鹿」
「ごめん」
「馬鹿、馬鹿、馬鹿!! イクスなんて嫌い!?」
「ごめん」
「馬鹿……馬鹿…………」
ポカポカと胸を叩いて。
頭を預け、じんわりと想い人の胸を熱く染めて。
彼女は言う。
「もうイクスの赤ちゃん作ってあげない……」
「そうなの?」
少年が髪を梳いて訊ねる。
「……誘惑してあげない……」
穏やかな顔で少年は少女の耳を優しく食んだ。
「じゃあ、自分から誘惑しないと、ダメかな?」
「あ……」
少女がそっと寝台に倒されて。
唇が頬に寄せられる。
「……イクス。本当はシルルゥのパーパだよ?」
頬を染めて。
強気の瞳で。
頑固な相手にそれでもいいの?と唇を尖らせて。
訊いてくる“娘”に“父”はたぶん生まれて初めて、自分の哲学のようなものを教えた。
「好きな人とどんな関係でもいいんじゃない?」
「“へんたい”はダメってクラスの子が言ってた……」
その正しい知識にもう苦笑しかなく。
「じゃあ、クラスメイトの子達には秘密って事で……ね? シルルゥ」
「シルルゥ、じゃないよ。シルメイア、だよ?」
「……シルメイア。こっちを向いて」
顔を逸らしていた少女の顎を人差し指で上向かせて。
少年はそっと唇に親愛の情を注いだ。
「ん……ふぁ……」
思わず甘い声が出た少女が意地になっているのが嘘のように身体を緩ませて。
潤み疼くすじの奥。
もう胎の奥底から発情している事を自覚せずにはいられなかった。
「沢山心配してくれた良い子には……ご褒美を上げないと、ね?」
「ぁ……んぅ、っく」
グズグズに蕩け切った股間の上がゆっくりと服の上から擦られる。
「ぁ、ぁ、ん……っ♡」
悩ましく。
魔の性として快楽を求める欲求に抗えず。
そわそわと股間を捩らせながら、彼女はまるでお預けされている犬ように少年の言葉を待っている自分に気付いた。
「シルメイア……おねだりしてみせて……」
少年の要求に抗えない。
その衝動にこそ、少女は赤くなる。
これでは牡に尻尾を振る牝の獣(けだもの)みたいだと。
それでも身体はとても自然に動いて。
「ん♡」
掛け布を剥いで。
股を大きく見せ付けて。
膨らみを帯びた子供っぽいドロワーズの秘部を隠す部分。
薄らと沁みが出来たクロッチにピッと指先の爪で中心から割れ目を入れる。
「イ、イクス……」
乳の匂いがする幼いすじに両手を添えて開き、小指の先くらいの淫核(クリトリス)を勃たせながら、少女は桜色のまだ襞も見えない性器を曝け出した。
「ま、まだ……赤ちゃんみたいなシルメイアのおまんこに……いけない……いたずら……して」
恥しさと従う事への愉悦、自分の全てを見せている恍惚感、背徳に震える背筋、もう自分は少年の女なのだと……夢にまで見た、見続けた魔王の娘として、父に抱かれるのだと、高鳴る鼓動を胸に少女は願望(おねだり)を口にする。
「……おもちゃにして……おちんちん遊びしてくださいませ……パーパ」
その誘惑する顔は羞恥に染まりながらも期待しているのか。
薄らと昂揚して。
魔族の性そのままに少女はもう全ての蟠りを棄てて、愛しい者に媚びる。
「可愛いよ。シルメイア」
少年もそれに応え、寝台に乗ると。
ゆっくり少女の股間へと顔を埋めていった。
*
ピチャピチャと子犬が小皿から乳を舐めるような音がする度。
「ぁ……ん パーパの舌……シルメイアの中にぐりゅって……っ」
舌先がまだ何も入った事の無い膣穴へと押し込まれ、蜜を絡ませながら出し入れされる。
唇は陰唇を食み、尿道や淫核も優しく捏ね、その度に少女は今まで感じた事の無い、想像していたよりもずっと甘美な肉欲に身体を震わせた。
「っ、っ、パーパぁ……もっとぉ♡」
今まで自分のすじを開いていた両手が少年の頭に添えられる。
薄桃色の粘膜が膣奥から溢れてきた蜜と少年の唾液で卑猥に塗らされ、優しく抉られ、穏やかに啜られる度、我慢出来ない甘やかな喘ぎがシルメイアの喉から零れ落ちる。
「~~っ♡ っっ、パーパぁ……シルメイアのおまんこのあな広げてぇ♡ パーパの舌でもっといたずらしてぇ……♡」
「うん。シルメイア。ちゅ、ん」
「ひぃぁああ♡♡ パーパぁ♡ パーパぁ♡ っ、いいよぉ……♡ パーパのグチュグチュでシルメイアのおまんこオトナにしてぇ……」
もう快楽に染まり切った蕩けた笑みで少女がおねだりする。
愛しい人の、自分と血の繋がった本当の家族の、唯一抱かれたい異性の、その舌でまだ慰めた事も無い場所を舌で蹂躙される悦び。
恥しくて。
でも、視線は少年の舌が自分を舐めしゃぶり、抉るところを甘く歪んだ顔で見つめていた。
(ぁあ、いいのぉ……ぱーぱのぐちゅぐちゅでぇ♡ シルメイアのおまんこぉ……パーパのたねつけようのこうびあなになってるよぉ♡)
少年の事を思うだけで胎が耐え難く疼き。
背筋を昇る衝動が少女から思考を奪っていく。
まだ繋がってもいないのに。
切なく歪んだ顔はようやく甘える事の出来た少年の温もりと感触に蕩け切っていた。
グヂュ、グヂュ、ヂュル、グリュリュ―――。
「もぉ、だめぇ……っ♡ ぱーぱのお口でぇ……おまんこ遊びでぇ♡ あ♡ あ♡ ぁ♡ シルメイアおかしくなりゅぅぅ♡♡」
その舌使い。
優しくすじを蹂躙される悦びに比べれば、今までしてきたスキンシップなんて霞んでしまう。
「んゃぁぁぁぁぁああ♡♡♡」
プチュ、プチュァア!!
蜜が溢れ、それに続いて潮が僅かに吹いた。
背筋をピンと逸らして、何度もガクガクと震わせながら、両手で少年の頭を股間に引き寄せ、少女は生まれて初めて絶頂していた。
涙がポロポロと目の端から零れ、舌が喘ぎながら唾液を零す。
ドロワーズの股間部分はもうグチャグチャに滑(ぬめ)り、蜜でお漏らしのように濡れていた。
「ん……ちゅ、シルメイア。おめでとう……初めて最後まで気持ちよくなった感想はどう?」
口元を濡らしながら、少年が淫核に軽く口付けして、微笑みながら問い掛ける。
「せつないのぉ♡ ぱーぱぁ♡ ぱーぱのおっきくなってるおちんちんでぇ♡ シルメイアのおまんことおよめさんごっこしてぇ♡」
「いけない子だね。シルメイアは……可愛いよ。ん」
「ふぁ……♡」
蜜が溢れて濃密な匂いで牡を誘うすじに少年が口付けする。
「ごめんなさぃ♡ いい子になるからぁ♡」
「じゃあ、今度はシルメイアのここが全部見えるようにして、四つん這いでおねだりしてごらん……」
「は、はぃ……///」
潤んだ瞳で頷いて、震える指先が切れ目の入ったドロワーズの股間をスッとなぞる。
すると、股間の部分が最初からそんな形だったかのように大きく切り開かれ、布地が落ちた。
子供用の下着が今は大人びた媚びる視線の下で男女の営みに使われるべきものとなり、少女はその尻穴まで顕になった下着で少年に全てを見せつけるよう獣の如く両手両足を付いた。
無意識なのか。
フリフリと揺れる尻が少年を誘う。
蜜がネットリと糸を引きながら股間の下に伝っていく。
「全部、綺麗だよ……シルメイア」
「~~~♡ ぱーぱに見てもらえて……シルメイア嬉しい」
フルフルと背筋が震えたかと思うと。
少女は告白した先から感じてしまったのか。
糸を引く蜜の量を増やしていた。
「いやらしくて……いい子だね」
頭を撫でる代わりに少年の指がまだ布に覆われている尻を擦るように揉みしだく。
「ひぅ?! ぱーぱぁ♡」
驚きながらもすぐ恥しげに嬉しげに媚びた声で少女が啼く。
「シルメイアのおまんこでぇ♡ ぱーぱのおちんちん気持ちよくなってください……♡」
「うん。シルメイアを僕の女(もの)にするから、ね?」
少年の言葉にぱぁぁっと明るく顔がはにかむ。
「はぃ……シルメイアはぱーぱの娘でぇ♡ ぱーぱのものでぇ♡ ぱーぱのたねつけこうびようのおよめさんになるのぉ♡ ぱーぱがおまんこ使いたい時にぃ♡ いくらでも使っていい子なのぉ♡♡」
ゆっくりと太くそそり勃った幹が下穿きの下から出され、その傘の張った桜色の亀頭がピトリとすじに吸い付いた。
少年もまた先端から興奮で蜜を零していて、シーツに二人分の沁みが広がっていく。
「~~~ちゅってしたぁ♡ ぱーぱぁ♡ ぱーぱぁ♡」
先端が触れただけだというのにもう腰の奥から絶頂に近い甘い疼きを得て。
シルメイアが尻を高く掲げて幹を入れ易いように少年の前へ突き出す。
その両手はもう自分の尻を鷲掴みにしてすじを己で開いていた。
グプッ。
「っ~~~~♡♡」
ニュグ、リュリュリュリュ!!!
「ぁ゛♡ あ゛♡ あ゛♡ あぁ゛~~~♡」
ジュグルウウウウウウ、ジュドッ。
「ッッッ~~~~♡♡♡」
シルメイアが少年と一つになる多幸感と幹が押し入ってくる肉欲と父とようやく牝にして貰えた悦びで深く達していた。
「ッッ、ごめん。シルメイア……もぅ、出す、からっ」
「―――っっっ!!?」
その証拠に少女の膣内(なか)は亀頭に深く犯されるのを待っていたかの如く。
幹を奥へ奥へと引き込み。
一番深い子宮口に鈴口が接触する頃には少年の形を忠実に覚えて、傘と幹を動かし辛い程に絡まる襞と熱い蜜と犯すものを満足させるに足る狭さと弾力で根元まで何もかもを呑み込んでいた。
その具合の良さは海神に身体を弄られたウルと良い勝負で、小さな尻を歪めて押し込んで繋がった先から、すぐに子種を吸い上げ始めた。
「んぉ゛ぉぉ゛おおおぉぉ゛ぉおおぉっっっ♡♡♡」
少年よりも先にシルメイアが全身を震わせて、涙を零しながら、達した。
ビュブルルルルルルルゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!
枕を唾液で濡らしながら、完全に歪み蕩けた顔で少女が微笑む。
「ぱ~ぱぁ♡ ぱ~~ぱぁ♡ しゅきぃぃ……♡ もっろひてぇぇ……♡ ぱ~ぱのびゅ~びゅ~られぇ、しるめいあ、らめになっひゃっらぁ♪ なっひゃっらよぉ♡」
「っく、シル、メイアっ」
娘との具合の良過ぎる交合(まぐわい)に少年が息を切らす。
それは血が繋がっているからなのか。
はたまた少女の思い故なのか。
それとも血筋であるのか。
しっかりと実の父親からの種付けを受け入れたシルメイアの膣内(なか)は今まで少年が抱いてきた誰よりも相性という点で勝っていた。
(ぱーぱのおまんこになれたのぉ♪ ぱーぱのあかひゃんあなにぃ……めしゅあなにぃ……こうびあなにされてぇ……しるめいあぁ♡ しあわせになっひゃってるよぉ♡♡)
初めての種付けで深く繋がり、牝としての悦びを知ってしまった少女は無意識にか。
膨れていく胎を喜ばしく思いながら、今も射精してくれる強い牡にして自分の父にして伴侶へうっとりとした表情となった。
「ぱーぱぁ♡ おなからけひゃなくぅ♡ ぜんぶぅ♡ しるめいあをぱーぱのものにひてぇ♡」
「ん……そう、するから」
少年がゆっくりと娘の引き抜いてはイヤイヤと抵抗する甘美な媚肉穴から幹を引き抜き、未だ続く射精をぶちまけた。
勢いよく反り返る幹の先端から白濁が噴水のように飛び散り、尻を腰を背中を髪を、全てを染めるように子種が降り掛かっていく。
「ん……ぁ♡ くぅん……ぱーぱのあったかいのぉ……♡」
胎の中だけではなく。
自分の背中全体を穢した子種の熱さと重さにフルフルと背筋が震えて、再び軽く少女は達した。
その震えの最中。
まだ少しだけ開いていたすじの中央からこぽぉっと精がシーツに垂れる。
傍目には酷い有様だったが、それは同時に男の征服欲を満足させるに足る光景で、シルメイアはまたすぐに込み上げてくる肉欲に負けて、ドロドロになったドロワーズのまま、尻を振った。
「ぱーぱぁ……もっとしよう? ぱーぱぁ♡ ぱーぱぁ♡」
「……っ」
少年がまだ萎えない幹を震わせて、娘の願いに応えようとした時、少女の周囲を透明な銀色の魔力が包み込む。
「ぁ♡ んぅ♪」
甘い声。
その最中、繭のように魔力がシルメイアを隠すと瞬間的に崩壊した。
「―――シルメイア」
驚きに目を見張る父にようやく自分が本来の姿を取り戻した事を理解した少女が微笑む。
あのもう一人の己だと思っていた自分と邂逅した時、創造した姿。
今よりも幼くて、今よりも可愛がられて、今よりも沢山の寵愛を、征服する快楽を、牝としての牡に与えられる形。
少年の傍にいる少女達よりもとの想いの具現はシルメイアの外見を大胆に変えていた。
「その姿が……本当の?」
角や翼、魔族として力の象徴である器官は今現在顕現されていなかったが、其処にいるのは確かにシルメイア・ゼオストス本来の正体だった。
全身より長い真珠色に煌めく髪も、今までよりも圧倒的に幼く細く子造り出来る年齢には到底見えない瑞々しい肢体も、その膝立ちで振り返った妖艶で整い過ぎた感のある無垢な笑みも、全ては少年の為のもの。
クスクスクス。
好色と淫欲と父への甘い期待に塗れた視線で、もう着る服も無く。
スススッと少年に全裸で擦り寄ったシルメイアが何事かを胸元で呟く。
すると、二人の間を阻んでいた衣服が全て消え失せた。
転移なのか。
分解したのか。
少年の服はもう無く。
上目遣いの瞳が好ましそうに牡へ媚びて、そのまだ少しだけ出る幼子らしい腹が未だ硬いままの幹に押し付け揺すられる。
グチュグチュと音をさせて、蜜と精で塗れていく腹の間でビクビクと震える愛しい人の分身をそのスベスベの肌で愛撫しつつ、少女が呟く。
「パーパ……これがシルメイアだよ? パーパに貰った子種全部使っちゃったみたい……でも、ね……きっと、パーパをもっと、も~~っと気持ちよく出来るよ。だから……もっと、しよう? パーパの赤ちゃん作ろう? リーシャよりも小っちゃいお胎(なか)も、おまんこも、お尻も、おっぱいも、お口も全部パーパが犯して一番気持ちよくなれるように創ってあるんだよ♪ ほら、パーパも……もぅ、我慢出来ないよ、ね?」
少年の瞳を覗き込む少女の瞳。
その瞳孔は母とは違い一つの眼球に三つも無かったが、よくよく見れば、まるで重なるようにして七重の円環を形成していた。
「シルメイア―――」
魔術ですらない。
見る牡を興奮させ、快楽の虜にする人型魔族の中でも淫魔に属する生態が働けば、その肌や汗、体液は芳しい極上の媚薬となり、その声は理性を狂わせる人魚も真っ青の歌声であり、その肉体は如何なる牡の魔羅も受け止めるどんな玉石も敵わない至宝となる。
「ぁ♪」
嬉しそうな声を上げ、今まで大人しかった過去とは打って変わって、幼子は部屋のドアの先にいる相手に“お願い”した。
「リーシャも一緒にしよう。“来て”」
『~~~っ』
いつの間にか。
少年とシルメイアの交合を見ていたらしい。
跳ね乱れた黒髪の一部がひょっこりドアの先から見えていた。
顔を真っ赤にしながら、おずおずと入ってきたのは璃紗。
その瞳は薄らと光っており、能力が発動しているのが少年にも分かった。
「もう全部、見られちゃったよね? リーシャ♪」
「ぅう。シルルゥがイクスの娘、なんだよね……」
父と娘が交わるという禁断の行為。
そして、少女が少年と及んだ交尾の内容。
全てを見てしまった。
いや、今回に関しては見せられてしまった璃紗が、もう沁みになっている股間の下着を意識しながら、コクンと頷いた。
「これからは毎日リーシャも仲良くおよめさんとして、朝も学校の間もお家でもするんだから、慣れないと、ね?」
「~~~?!??!」
真っ赤になった璃紗の脳裏にはもう己の魔眼にシルメイアの魔眼から送り付けられて来た“する”内容が映し出されている。
(うぅ。こんなにしたら、お猿さんて言われちゃうかも……)
少年が何もかもを守って進むならば、世界を滅ぼせない娘は毎日毎日今まで甘えられなかった分、周囲を巻き込んで淫靡でインモラルな日々を送るつもり満々であるらしかった。
「パーパも、もう我慢出来なくなってるから、一緒にしよう? 男の人のおちんちんを気持ちよくする道具みたいに毎日毎日使ってもらうの♪ いいよね? パーパもリーシャのお胎(なか)の中にびゅーびゅーしたいって」
「イ、イクス……っ」
一際甘く背筋を震わせて、じゅわりと下着の沁みを大きくして。
シルメイアの肉欲に触発されて、発情させられたリーシャが、恥しそうにしながらも、衣服を自分で脱ぎ捨てていく。
「ぁ♪ 大っきくなった……パーパ、今すぐに入れさせてあげるからね♡」
ニュチュニュチュと今もシルクのような肌で蜜を零す幹を優しくあやしながら、シルメイアが妖しい笑みで自分よりも外見的に三歳か四歳は年上になってしまったリーシャを寝台の上に迎え入れた。
「パーパ 始めよう? さっきより小っちゃくて、きっと気持ち良いよ……ね? リーシャ」
「シ、シルルゥ……///」
全裸になった璃紗がその僅か膨らんだ胸先の果実を固くして。
寝台の上に上がると。
今までに無い昂揚と背徳感、少年の高ぶりを感じながら、そのもう蜜を零しているすじを少年の太腿に寄り添わせて、左側にぴっとりと身体を押し付けた。
「イ、イクス……璃紗とも…その……おまんこ、して?」
「うん。一緒に気持ちよくなろう。リーシャ」
「っ……はぃ♡」
璃紗もまた慶びに浸りながら、少年の熱い脈動を感じて、その片手をそっと自分の胸先へと導いた。
「パーパ♡」
シルメイアが僅かに身体を浮遊させると今まで肌を擦り付けていた蜜を零す鈴口の上に同じように蜜を零して発情し切ったすじを宛がう。
「シルメイアのおまんこも可愛がって……♡ パーパのおちんちんがお腹の一番上まで入るんだよ……身体はちっちゃいけど、根元まで入れられるから……」
「いくよ……シルメイア」
「ぅん♡」
グチュ。
「ん♡」
先程入れた時よりも小さく幼いすじが拉げて、傍目からも分かるくらいに不相応な大きさの亀頭に押し広げられていく。
「~~~♡♡」
ゾクゾクゾクっと背筋から這い上がる快楽にシルメイアが顔を甘く歪めて、舌を出した。
少年の片手が添えられた腰から感じる温かさ。
璃紗より余程に小さい自分の身体が牡の牝を蹂躙する器官によって埋められていく感覚。
もう、その脳裏には父との種付け交尾の事しか無くなっていた。
「っ」
少年はめり込んでいく先端の先から感じる感触に吐息を漏らす。
受け入れようとする蜜と襞の壁を押し込む度に襲ってくる抵抗感。
それは幹を潰してしまうのではないかという圧迫感を与えてくるが、痛みなんて微塵も感じさせず。
ただただ、奥へ奥へと不思議な程に少年を誘う。
肉と肉が蜜に絡まりながら一つのように繋がっていく。
そうして。
「ぁ♡ ん、く……♡ 入った、よ?」
今度は入れただけで達してしまう事も無く。
しかし、それなってしまいそうな程に互いの高ぶりを感じながら、父娘は膝立ちで一つに繋がった。
シルメイアは両足で少年の太腿を抱え込むようにしてしがみ付き。
少年は背中を片手で支えて、優しく娘へ口付けした。
「パーパ……もう、離れないから……」
目元に光る雫の色が少女の全てを物語っているのかもしれなかった。
世間の一般的な常識とはかなり異なるかもしれないが、それは間違いなく何十年と離れていた父娘(おやこ)の親愛の“交し方”だった。
*
―――ゼオ家本邸外縁塀の上。
恙(つつが)無く。
全て順調なのを確認して。
黒猫がイソイソとゼオ家に背を向けて後にする。
その肉体の所々の毛がチリチリに焦げている様子は竈にでも落ちたのかという有様。
しかし、よく見れば、彼女の体に刻まれた跡が魔術方陣だと分かるだろう。
今日こそ少年の頭ですばらしき快眠を貪ろうとやってきたのだが、生憎と相手はお取り込み中。
家主が困った様子だったので地下の三人の話を盗み聞きしつつ、彼女はひっそり少年(ちち)と少女(むすめ)の交わりに独自の契約を施した。
どうやら少年が自ら施した契約に対する立会人が強力だったせいか。
儀式中に術式が暴発。
あまりにも強い反動が本体へ影響を及ぼすかと思われた際の傷が化身(アバター)に残ったチリチリヘアーの正体である。
契約破りの法則編纂は既に魔王イーギルフィストとの件で実験済み。
例え、それが自分より遥か格上の存在が施した誓約であろうとも、この世の真理の全てを使っているわけではないわけで、一部とはいえ、膨大な諸法則を編纂するクヲンならば、それが如何なる不破の誓約だろうと破り切れた。
まぁ……そんな事せずに良い雰囲気の少年と少女の間に割って入って、誓約を同意させれば良かったじゃないかとの意見もあろうが、馬に蹴られて地獄に落ちたくは無い黒猫は空気を読む。
お気に入りだった毛並みがチリチリになる程度で全てが丸く収まったなら、安いものだろう。
館の外から測ったシルメイアの力と資質はまだ幼いにも関わらず超高位魔族に等しいと彼女はすぐに理解した。
それこそ惑星を一つ粉々にするくらい造作も無い階梯。
危うい力が暴発したら、さすがに超越者達に睨みを利かせる【聖杯委員会(ペルスヴァル)】を筆頭に多数の組織がやってきかねないので、ご機嫌をそこそこ取るのは平穏の為の手間である。
少年はクヲンの事に気付いていなかったが、シルメイアは気配だけ察していただろう。
今、大事なところなんだから、邪魔するな。
そんな風に思っていた事は想像に堅くない。
「マゥ……」
テクテクと街を歩みながら、黒猫は今回の契約で少年が手に入れるだろう力の大きさにしばらくはまた何かしらの事件が起こっても大丈夫だろうと思案する。
まだまだイクス・ゼオには力が必要だ。
それを誰よりも実感するのは本人ばかり。
ハガスで起りつつある世界の終りに立ち向かうならば、支援は幾らあっても足りない。
自分の周りに入る誰かが死や災厄を押し付けられぬようにと過去の少年はきっと名前を棄てた。
誰かを巻き込まない為にもそれは正しい判断だったかもしれない。
だが、今はそれだけではない。
少年の為に自らを捧げようとする少女達がいる。
お節介だと言われようと、クヲンはそんな彼女達の想いが力となる事を願った。
傍にいる者が無力でないならば、一人で問題を抱え込む必要など無いのだ。
今はまだ小さく儚い光だとしても、少年の傍の彼女達が努力したならば、何もかもを覆す耀きとなるに違いない。
それを誰よりも信じられるのは……ずっと傍で少年の頭に張り付いていた彼女だからこそである。
毎日のように誰かの為に気を配り、誰かの為に行動し、誰かの為に戦い、自らの為だと笑い続けて。
その強さ、姉が惚れてしまうのも無理からぬ事だとクヲンは思う。
「マヲゥ……」
そろそろ祭りの幕が開く。
不穏な気配と懼れを奉る者共。
蠢く異相からは霧が緩やかに溢れ出し、夜は一転して虚(うろ)と化し、世界を侵し始めるだろう。
超越者にして観察者。
見守る者は須らく舞台の外へ自らを置く。
が、今回くらいはいいかと。
そう彼女は自らの楽しみの為に本気を出してみる気で唇を歪めた。
「マ・マ・マ・マ・ヲ」
祀(まつ)り、祭(まつ)られ、奉(たてまつ)る。
本日は無礼講。
遊ぶ縁日何処の彼方と消え去れば、彼女の心は涙目で、どうしようもなく、影が落ちるのだ。
黒猫もまたアルヴァスに集う異種達と同じ。
愉しみを失うまいとする人の、人が生み出す物語の虜の一人だった
「マ~~~~ヲ~~~~~~~~~~!!!!」
色褪せる事なく。
心に焼き付く光景を楽しむ為に……クヲン・クラウゼン・イストリア・ニェハエルは本体を顕現させる。
黒猫は夕闇の街の影へ沈んで同化し、その巨大な写し身を方陣と化さしめ、人型を召喚した。
余程の事態でなければ、本邸から動かさない肉体。
姉と比べれば、活動時間に恐ろしく制限を受ける身体は薬液から離れて一日も経てば、命の危険がある脆さ。
それでも、己の全力を振るうならば、化身では心許無い。
姉と大喧嘩した日以来の全力。
久しぶりに暴れてこようと彼女は自らの姿を変える。
その頭部は鮫の鼻面のように。
その腕の柔らかな皮膚は切れる鰭の如く。
海月の足は消えて。
代わりに姉すら備えない漆黒の翼が、骨格だけを何百本も張り合わせたような三対六枚の大翼が、30m以上の全体を衣装のように開いた。
もはや魔や異種とも呼べまい。
それは神の如き何か。
そうとしか呼べない力を纏って、煌めく菫色の魔力が骨の間を巡り、翅となっていく。
もしも、其処に旧き時代。
【基幹異種(バルバロス)】達の世界を見た者がいたならば、驚いただろう。
ハガスに顕現したモノの姿があまりにも“とある存在”に似ていたから。
大いなる母より生まれし始祖。
異種達の頂点に立っていた個体。
【真位祖種(アマルティアーズ)】
主神すら超える力を持った源初知的生命達。
命とは旧き御世、全て彼らの事を指した。
天と呼ばれるモノと同時期に生まれた彼らは人間との闘争において敗北した【基幹異種】達と共に消え失せたが、死んだのかどうかは“如何なる記録”にも記載が無い。
強大な異種達すら、その存在に気付かず。
彼女は張ったばかりの自己の能力を封印しながら展開される知覚封鎖結界。
肉体と翼に浮き出た方陣ごと、無人の一角、地面へと沈み込んでいく。
黒き虚無。
異相に広がる无の海。
アイウィスのある世界にはもう霧が溢れていた。
さて、敵は如何なる者であろうかと胸躍らせて。
祭りの前夜に彼女は奔る。
そう、今正に戦いは開始された。
屋台と祭囃子と出し物とその他諸々を彼女が楽しむ為に。
「マゥヲ~~」
人に悪意を知らせるモノ。
霧の海に漂う災厄もまた知るだろう。
自分よりも余程に恐ろしいモノがこの世には存在するのだと。
「マゥ~~ゥ~~♪」
最古の知的生命が持っていたとされる能力はたった一つ。
“相手を己にする”という唯一の力のみ。
それは他者を喰らい、取り込む。
命持つ者の宿命とさえ言える行為の究極系。
時に魔王の精神防壁すら瞬時に喰らい尽す絶対無双の食事時(イタダキマス)。
【貪喰巍々(グラトニクス)】
―――キシャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!
者々。
暗き乱杭歯。
煌めく鋭牙。
世を喰らい尽くして余りある化物の軍勢。
そのお出迎え。
命ですらない。
殺戮と屈服と服従を強いるだけのモノがざっと周囲にいるだけで十四億匹程。
無限の空白を埋め尽くす勢いで増えていた。
屍蝋の仮面は今までのような意志は持たず。
今回は首輪や轡などの人型を縛り、苦しめ、辱める形をした生きる拷問器具として顕現していた。
だが、それは結果的に良かったのかもしれない。
意思が無いという事は怖さも何も感じはしないという事だ。
その存在を前にしては如何な者とて戦慄せずにいるのは難しい。
「あーむ」
彼女が開いた口を閉ざした。
ガギン。
味も素っ気も無い屍蝋の仮面。
無限とも思える地平を埋め尽くした化物達が、はたと気付く。
モッシャ、モッシャ、ゴクリ。
彼らは……既に体積が半分となっていた。
その仮面の残り粕には歯型が付いている。
何時だと問う必要も無いだろう。
彼女をもう彼らは観測してしまっている。
生きる為に原初の命が欲したのは時間も空間も超越した捕食活動。
生物が抱える飢餓という概念の克服。
何でも食べられるようでありたい。
何処でも食べられるようでありたい。
その強き意思が可能とするのは魔力と存在が永続する限り、“知覚する限りの事象を自己と同質とする”質量やエネルギー保存の法則すら無視した超常的生態。
通常の生命が行なうエネルギーの補完目的にすらなっていない。
“全てが彼女になる行為”を能力は指すのだ。
無論、“何も増えない”のは道理だ。
一つになるのではなく。
一方的に自己と=にする力なのだから。
だが、これ程に旧き存在達にとって有用な力も無かった。
何故なら、永遠の命に飽きた知的生命にとって、至高の存在と同質になれるという事は一種の救いだったのである。
超越者御用達の自殺機関、もとい存在の消失機構は世界から旧き種を駆逐し、バランスを保つ恒常性の一つであり、嘗ては世の真理の一つとさえ言われていた。
「マゥヲゥ~」
自分が霧になった事にすら気付かないまま。
化物達は恐怖も血も流さないままに齧り尽されていく。
まだ数口しか齧っていないのに綺麗サッパリ霧と化した目標にこれで終わりかと首を傾げた彼女が白い球体となったアイウィスの方を見やると……何やら雲霞の如きモノがいた。
「マヲ~?」
現在、亡郷都市は膨張を続けている。
そのスケールは無限に続くとも思える異相を圧迫し、最後には現実までも侵食する速度だ。
如何なる体積を抱えているのか。
彼女にも詳しいところは分からなかったが、一つだけ確かな事がある。
少なくとも彼女が住む大陸の何十倍、何百倍以上あるだろうアイウィスを埋め尽くす敵ならば、まぁまぁ……食べ応えのある“量”には違いない。
現在、アイウィスの直径は833万km。
常識的な居住可能惑星の規模を遥かに上回る。
「マゥヲゥ~~」
自分の知覚を擦り抜ける“食べ残し”が出ないよう彼女は食事時のマナーもそこそこに丁寧に事を開始した。
【ひひひ♪ ナーリヤ、ごちそうする♪ ごちそうする♪】
何処で嬉しそうな声が嗤って。
拷問器具に張り付く仮面全てに一つの文字が緑炎により焦がし刻まれていく。
曰く。
【憤怒(イラ)】
しかし、名付けられた先から歯型が付けられ、仮面達は無へと還って。
【ひひひひ♪】
「マゥヲ~~♪」
終わりも見えぬ災厄の御持て成しと最高の捕食者が彩るディナー会場は……人知れず凄絶な霧の爆風によって包まれていった。