※この作品はR-18です。

聖娼館ハルトゥム   作:Anacletus

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第三章八十二節★

第三章八十二節「祭忌禁交Ⅳ」

 

 演者にとって、演じるというものはそれ自体になる事を意味する場合がある。

 

 古の頃より、神々に奉納されてきた舞踏や劇は彼らを顕す儀式でありながら、同時に人が高みへと近付き、真(まこと)へ迫る力でもあった。

 

 だから、ハガスの劇場が祭り期間限定で行なっている興行も魔術的には相似という状態を表す。

 

 神の力を借り受ける象形【意匠】がそうであるように、真似る事は“それそのものになる”一歩なのだ。

 

『僕が、僕が守るよ』

 

 南部の赤線街に程近い公園には声が響き、人集りが出来ていた。

 

 何でも近頃流行りの脚本を書いている作家が無料で提供した台本を使っているのだとか。

 

 立ち見が多く出た劇はもう中盤を過ぎている。

 

 中央に拵えられた木製の舞台には七人の少女と一人の少年がいた。

 

 劇団新人達の演目であり、後のスターを見定める為の一夜は劇場へ足繁く通う者達にとっては新しい原石を発掘する場だ。

 

『馬鹿。僕がじゃない。私達が、だ』

 

 少年に剣を教えた少女が背中合わせになりながら、仲間達を逃がす為に化物達と戦っていた。

 

 殿役は半ば捨駒。

 

 だが、二人は仲間達を守れるならと進んで残った。

 

 他の全員は安全に脱出出来ただろうかと気にする彼らの前には小型の魔に汚染された竜の群れ。

 

 斬り捨てる度に鈍っていく剣が終に刃毀れし、もはやこれまでかと狭い岩場の影に身を隠して、時を過ごす事となったものの。

 

 いつ見付かるかもしれない絶体絶命の状況の中、やはり背中合わせで彼らは座っていた。

 

『後悔、していないのか?』

 

 少女が尋ね。

 

『どうして?』

 

 少年がひっそりと笑う。

 

 もう助からないと分かっていながら、それでも時間は静かに過ぎていく。

 

『私が剣を教えなければ、お前は間違いなく後衛だった。こんな無謀な事に付き合う必要なんて無かったんだ』

 

『無謀じゃないよ。だって、僕等は精一杯にやった。出来る事を尽した。だから、悔いはあるけど、悲しくは無い』

 

『……お前みたいな奴は戦う術なんて、習わなければ良かったんだ。こうして傍にいたら、守れないじゃないか』

 

 少女の言葉は悔しさが滲んでいた。

 

 それでも少年は背中合わせに言うのだ。

 

『でも、君を一秒でも長く守れた』

 

『―――馬鹿』

 

『ごめん』

 

『最後まで抗うぞ。一秒でも長く……』

 

『君が教えてくれた剣が僕を今まで生かしてくれた。心を強くしてくれた……だから、怖くないよ』

 

 竜達の啼き声が上がり、見付かった二人が最後の瞬間まで戦い続けようと拳を握って戦闘態勢を取る。

 

 それでも状況は絶望的。

 

 その竜達の鋭い爪と牙と刺々しい長い尾が二人を八つ裂きにしようとして―――。

 

 思わず子供達から悲鳴が上がる。

 

 しかし。

 

『助けに来たよぅ♪』

 

 空から声。

 

 飛竜に乗った仲間達が二人を間一髪で掴み上げ、大空へと舞い上がる。

 

『あんたらねぇ。無茶にも程があるでしょ?』

 

『そうですよ!! 凄く心配したんですから!!』

 

『やれやれね』

 

『良かった。無事で』

 

『大丈夫!! 心配したんだから!!』

 

 竜の上に乗って、二人は思わず顔を見合わせ、笑い合い。

 

 そうして、八人の旅は何処までも続く。

 

 最後に言葉を発するのは少年だ。

 

 その心の声は舞台に見入る誰の耳にも響いた。

 

『―――そうだ。僕には仲間達がいる。大切なものがある。彼女達がいる限り、きっとどんな試練も運命も超えていける……幸せは此処にあるんだ。きっと……』

 

 舞台から退場する役者達。

 

 八人の旅人の話。

 

 その終わりには遠く故郷を思わせる笛の音が全てを彩って。

 

 人々は万雷の拍手を持って彼らへと報いた。

 

 司会役がキャストを呼んで舞台の上に敵も味方も全てが上がれば、大団円。

 

 遠目に見物していたウルとエストリア、そしてアーギストは公園を離れて縁日の屋台が並ぶ一角へと向かう。

 

 子供達や大人達がはしゃぎ行き交う道の中。

 

 異種も亜人も人間も一緒くたとなった大通りを歩きながら、劇を大いに気に入った少女が一人。

 

 興奮冷めやらぬ様子でニコニコしていた。

 

「良かったですね。最後に皆ちゃんと助かって……」

 

 エストリアの言葉に兄が苦笑する。

 

「もう少し苦い結末でも良かったが……」

 

「もう!! 兄さんは分かってません!? ああいう劇は明るく最後まで楽しめるのが一番なんです!! 悲しい物語ばっかりが評価されるわけじゃないんですから!!」

 

「とは言ってもな。ご都合主義は口に合わないんだ。魔術師の性だと思って諦めてくれ」

 

 膨れた妹からの「兄さんはもう少し明るくなるべきです!!」との反論に苦笑して、アーギストはまだ劇が終って一言も発していないウルを見つめた。

 

「どうかしたかな? ウル嬢」

 

「いえ、何だか……イクスを思い出してしまって」

 

「イクスさんを?」

 

 エストリアの言葉に頷いた彼女の巨大な乳房が揺れる。

 

「きっと、少し主人公が似ていたからですわ」

 

「そう、かもしれませんね。確かに少しだけ似てました。何となく言葉遣いとか。気持ちの強さとかが……」

 

 今まで少年の事を忘れて愉しませようと画策していたアーギストだったが、恋する乙女達の前には自分の浅はかな計画なんて意味が無いと悟って、道ならぬ二人の通じ合う姿にポリポリと頬を掻いた。

 

「二人とも。これは提案なんだが……」

 

「兄さん?」

 

「アーギストさん?」

 

 二人が唐突に切り出した彼に何事かと視線を向けた。

 

「今日は多少早めに切り上げよう」

 

 驚いた顔にアーギストが告げる。

 

「見物の話と出店の料理を手土産にするというのはどうだろう? 送るのは一瞬だ。だから、移動時間は考えなくていい」

 

「兄さん……」

 

 自分達の為に骨を折ってくれると言い出した兄に笑みを咲かせて。

 

 久方振りにギュッとエストリアがその身体に抱き付いた。

 

「ありがとうございます!!」

 

「……いいのですか?」

 

「ええ、祭りの愉しみ方なんて人其々でしょう。気が散って愉しめないよりは時間が短くても、目一杯に楽しめる一瞬を選ぶ方が賢い」

 

「分かりました。そのご厚意、受けさせて頂きますわ」

 

 提案が終った途端に二人の顔に本来の笑みが戻ったのを確認して。

 

 彼は兄として妬けてしまう複雑な内心に苦笑しつつ、二人の後を付いていった。

 

 宵闇が迫り、薄ぼんやりとした明かりが暮れていく世界を包んで、花火が上がるより先に二人の凸凹コンビが互いに屋台を回り、今も床に伏せる少女と看病している少年達の為にとお土産の袋をアーギストに持たせていく。

 

 体力の無い彼は無論、魔術による浮遊で荷物を持っているのだが、それにしても量が多い。

 

(ま、これくらいはいいさ……今は僕も愉しもう。思い出は多いに越した事はない……)

 

 笛や管弦の音色が響き、宴に多種多様な外灯の彩りが添えられて、夕暮は揺らり朧と深けていく。

 

 今はこれからやってくる困難も忘れようと。

 

 兄は妹が歳相応の笑みではしゃぐ様子をずっと見つめていた。

 

 *

 

―――ハガス東部赤鬼宗家本邸。

 

 アルヴァスにおける最高位の貴族階級と言えば、王家を筆頭に過去幾多の戦役において指導力を発揮した各分野のトップに君臨する亜人達の血筋だ。

 

 赤鬼宗家はその中でも興国の頃から共同体の屋台骨を支える一際太い支柱であった。

 

 今もそれは変わらず。

 

 去年から今年に掛けて続く社会不安を治める為に非凡な才を遺憾なく発揮し、彼らは国家の統率力を露程も低下させていない。

 

 それどころか。

 

 今や危険と隣り合わせながらも、軍事的な躍進や政治的なカードを揃えながら、五年前から続く隣国とのパワーゲームに完勝しつつある。

 

 新しい技術や智識、社会資本や工業力、旧い国には中々揃えられないものを数年の短期間で用意出来たのは嘗て【悪魔(ラルヴァ)】と呼ばれていた赤鬼宗家の力無しには無理難題であっただろう。

 

 資産という面で民間の富豪や企業にも劣る亜人貴族は多いが、それが無くとも国を動かす一族の代表例として、必ず挙げられるのは間違いなく彼らだ。

 

 資本や智識、技術は無くとも、亜人としての能力や資質の高さ、高潔な精神性と高度な政治的判断が可能な知性さえあれば、世間的には“持たざる者”であろうとも“持つ者”を越えられる。

 

 要は財産とは人であるという事を如実に赤い肌の一族は顕してきたのだ。

 

 無論、それも持っている内に入ると言う輩はいるが、だからと言って“量”が重宝されるご時勢に“質”が重要であると身を持って示すのは並大抵ではない。

 

 裸一貫から貴族に成り上がる事すら可能な亜人貴族主義はそういう意味では亜人達にとって“夢”の具現であるとも言える。

 

 富というものが還流する事で維持される“状態”だと金融知識は明示するが、同時にそれは人の状態をも言い当てる。

 

 国が栄えるという事は人がある程度自由に浮動して健全な成長を遂げるという事。

 

 “流れ”が無いものはそれが政治だろうと軍事だろうと経済だろうと淀んで衰退の道を辿る。

 

 少なからず。

 

 アルヴァス亜人国は急激でこそないが、人も物も固定化を避ける機構が亜人貴族主義によって構築されており、健全性と持続性を担保している。

 

 優秀な者は成り上がり、続けていく力がある内は維持され、それが無くなれば衰退する。

 

 必要以上に権利や権威、地位、資本が一極集中される事が無い。

 

 赤鬼宗家はその機構の中で未だ身を指導者層に置き続ける手練手管と持ち合わせており、人の質は亜人国内で随一。

 

 基本的に荒っぽく。

 

 財産も叡智もあまり持ち合わせない彼らが上に立ち続けている現状はアルヴァス亜人国と亜人貴族主義が如何に優れているかの証左であり、象徴なのである。

 

 民間では“赤鬼立つ内は統治揺るがず”なんて言葉が数百年前から延々言われ続けているし、それを体言してきた彼らにケチを付ける輩は国内には皆無だ。

 

 故に。

 

 彼女は幼い頃から荒っぽいが優しい親類達の下。

 

 希代の女傑として大成するよう。

 

 英才教育という程ではないにしろ……過酷で楽しい毎日を過ごしてきた。

 

 亜人の道。

 

 倫理、道徳を身に付け。

 

 人の愚かさに流されぬようにと自らを律する強さを育てられ。

 

 大いに期待されて、大いに成果を残してきた。

 

 学び舎で競えば、どんな科目も成績は必ず五位以内。

 

 闘争心を煽る競技ならば、他の種族のトップと必ず競う立場となる。

 

 同時に豪放磊落でありながら理知的な性格は憎まれるよりも好敵手を増やした。

 

 順風満帆。

 

 将来有望。

 

 亜人貴族として十分な資質在り。

 

 彼女に足らないのは見合うに十分な伴侶のみと嘯かれ、事実赤鬼宗家では婿探しが難航した。

 

 まぁ、本人は二十代が終るまで仕事をしながら人生遊び倒す気満々だったし、王家に輿入れするだけの素養はあったので、王の伴侶か後宮にという話が無かったわけでもない。

 

 彼女だって昔から友好のある相手に嫁ぐなら、政略結婚でも別に構いはしなかった。

 

 いや、そもそも次代の王を産む立場となれるなら、それはそれで国と一族に貢献し、幸せな人生になると、まだ見ぬ未来の算段すらしていた。

 

 国が滅びるしかない災厄の最中。

 

 初めて自分の傍に置きたいと思う者と出会うなんて、露程も考えていなかった。

 

 今まで女としての自分を冷静にただ俯瞰出来ていたはずの鬼が、いつの間にか女の自分を醒めた視線で見られなくなっていた。

 

 清々しいくらいに初恋だった。

 

 打算も妥協も思惑も絡まない。

 

 徹頭徹尾。

 

 単なる好意だった。

 

 “好い中”に為りたくなったのは生まれて初めての事で、どうしていいのか分からなかった。

 

 母から聞いていた恋というのは政略結婚の略であり、一緒にいる内に良さが分かるようになり、いつの間にか半身になっている、なんて……古めかしいけれど憧れるような亜人貴族の子女にとっての理想で……身を焦がすような激情が内心に燻るなど知りもしなかった。

 

 こんな事もあるのかと。

 

 本屋で見かけるような、自由恋愛なんて言葉が天災の如く降って湧いたのは偶然としか言いようが無い。

 

 まったく、人生はこれだから面白い。

 

 そして、残酷なくらいに優しくない。

 

 自分の好意なんて、その男には必要無かった。

 

 そもそも好かれた相手も好いている相手も男には多かった。

 

 身分は吊り合っても、特殊なものには違いないし。

 

 そもそも自分を女としては見ていない。

 

 それどころか。

 

 戦列を共に隊伍を組んで戦うくらいしか想像してはくれなさそうという有様。

 

 背中を預けて、命を救われて、共に災厄へ立ち向かう事はあっても、閨で睦み合い、共に身体を凭れ合わせて手を握るなんて、彼女でも空想には時間を要する。

 

 そう、要するだけであって、不可能ではない……。

 

 よく眠ると傍で微笑み合っている。

 

 木蔭で背中を預けながら手を握り合っている。

 

 自分はこんな乙女(おとめ)乙女(おとめ)しい女(めす)だっただろうかと首を傾げるくらいに夢は穏やかで。

 

 忙しい日々の癒しとなった。

 

 国を救う為に奔走している間は忘れられた事。

 

 押し込めていれば、別にバレる事も無さそうな想い。

 

 己を今まで律してきた彼女にとって、その感情は封じてしまえる類のものでしかない。

 

 諦めだって当の昔に付いているのだ。

 

 だって、自分よりも可愛く、女性的で、小さく、肉体機能的に申し分なく、面倒な地位的柵も殆どない、そういう少女達が傍で献身的な態度で侍(はべ)っている。

 

 必死に追い付こうとしたところで生まれ持った資質や積み上げてきた今までは変えられない。

 

 感情のままに動く事も出来ず。

 

 まるで自分に与えられた役を自分で演じる役者のように……彼女は己を偽った。

 

 きっと、想い人ならば、そういう反応を想像するはずだと。

 

 己はそうあるべきだと何処か自分を自分で演じた。

 

(お前が消えてしまうと知った時……本当は……本当は悲しい顔をしてやりたかった……)

 

 お前が大事なんだと言ってやりたかった。

 

 傍にいていいかと訊きたかった。

 

 抱き締めて、涙したかった。

 

 けれど、それは“彼女”ではない。

 

 そういうのは今まで傍にいて女として支えてきた者達の特権だ。

 

 赤の他人とは言わないが、傍で戦った事があるだけの相手がやるような事ではない。

 

 そもそも、親しくはあるが、それは女として親しいわけではない。

 

 女として見られていないのに戸惑わせるような事をしたくはなかった。

 

 いや、戸惑う姿を見てしまうのが怖いのだ。

 

 自分がどういう風に思われているのか知るのが、どうしようもなく恐ろしいのだ。

 

(まるで初等の子だな。これでは……)

 

 自分が思ってもいなかった程に幼く。

 

 また、傷付くのを恐れるような部分が残っていた事に羞恥と少しの安堵を感じながら、彼女はいつの間にか匿った王様もいない自室、自身の周囲を取り巻く霧に気付いた。

 

【ひひひひ♪】

 

 きっと、身を任せてしまえば楽になれるのだろう。

 

 苦も無く他人の心臓を刳り貫けてしまえるのだろう。

 

 迷惑を掛けて、想い人の死期を早めてしまうのだろう。

 

 全ての責任を他人に押し付けたい誘惑。

 

 そう、こんなにも醜く、自分を棄ててしまえる業。

 

 これに身を委ねない者は生物ではないのかもしれない。

 

 何故なら、湧き上がってくる感情は紛れも無く自分のものなのだから。

 

 それを誇張されているだけに過ぎない。

 

 弱さを抱えない生命でもなければ、抗う事は不可能。

 

 だが。

 

「残念だったな……生憎ともう被った後だ」

 

【?】

 

 声が元凶である事を疑わず。

 

 されど、湧き上がる屍蝋の面を己の顔から引き剥がして、砕き。

 

 彼女は瞳から滴る血と感情の下、独白する。

 

「この間、随分あいつに似た不審者に貰ったものだ。消える前の餞別だとな」

 

 屍蝋ではない。

 

 彼女の貌(かんばせ)を別のものが覆っていた。

 

 夜叉面。

 

 東部において鬼女を示す怒りと哀しみを湛えた鬼面だった。

 

 その角は彼女の角と同化し、揺らめく炎を燈している。

 

「【ザヴォイド】……我が仮面……」

 

 ペキペキと彼女を白い仮面と同じ質感の硬質な布が包み込んでいく。

 

「これが、私か……」

 

 立ち上がった時。

 

 其処にいるのは鬼女だった。

 

 髪も肌も角も纏う東部風の着物すら純白の化身。

 

 ただ、その仮面の奥に揺らぐ瞳だけが赤光(しゃっこう)に耀いて。

 

 ボッと片腕が横に突き出され、霧の中にいる何かの腹部を貫いた。

 

【ひひ?】

 

 バチュンと一瞬で弾け跳んで、ソレが霧に溶け。

 

【鬼さんこちら♪ 手の鳴る方へ♪】

 

 遠ざかっていく。

 

「このエンシェンの想いを弄んだ事……必ず後悔させるぞ。化物」

 

 仮面の下。

 

 顎から伝う血が一滴、床に落ちて。

 

 霧は何処へともなく消え去って行く。

 

 喚起された気持ちは既に無い。

 

 何故なら、彼女は“自身が望んだエンシェン・イル・フォイル”そのものだからだ。

 

 彼女が願った、今まで続けてきた、己を極め果てた末にいる未来の自分。

 

 魔族として酷界より放逐された一族。

 

 神にすら届く階梯に達し得る者達の末。

 

 国が興って千年。

 

 血筋が一度神に達して万年過ぎた血統にようやく顕れた歳若い鬼神(きじん)。

 

 身を打ち据えられて尚戦いを欲した者達の姿は酷界においては恐怖の象徴だった。

 

 打撃される事によって力を獲得する魔力形質も、その頃に魔族達の畏怖の念が織り成され、血筋に刻まれて発現したものだ。

 

 その武勇と戦いを只管に求めながら堕する事の無い高潔なる魂に畏敬を込めて、彼らの頂点に君臨する者は時にこう呼ばれた。

 

 “御弐”なる者。

 

 あのお方に続く二つ目の懼(おそ)れと。

 

 青、赤、黒。

 

 少しずつ階梯を昇りゆく血統の終極は白であり、それは同時に人を已める事を意味する。

 

「待っていろ……お前の心を……我が力にて貰い受ける」

 

 今、神は言う。

 

 如何なる意味でも己の全てを掛けるに値する者へ。

 

 頼む事など出来ない。

 

 願う事などもっての他だ。

 

 優し過ぎる少年の厚意を受けて、その“心”を幸せそうな笑みを向けられながら受け取る事など、彼女は死んでも御免だ。

 

 だから、憎まれても、戦っても、殺し合うとしても、自分の力で勝ち取らねば、彼女は自分を許せない。

 

 己の心を捧げて、ようやく対等。

 

 不器用で哀しくて、想い人に報いる術を、鬼女はそれしか知らなかった。

 

「イクス―――」

 

 部屋の外。

 

 廊下の壁に背を凭れさせて佇む赤い猫耳の青年だけが彼女の全てを把握して。

 

 静かに瞳を閉じ。

 

「お前が望むままに行け……我が最愛の臣下よ……」

 

 最後になるかもしれない幼馴染の姿も見ずに呟きを漏らした。

 

 全てを諦観しているような、全てを知っているような、常の臆病風に吹かれた姿とは違うその苦い笑み。

 

 神となった女にも聞き取れなかった声は虚空に解け、消える。

 

 其処に屍蝋よりも教会よりも外なる神々よりも、少年にとって難題だろう“敵”が一人生まれた。

 

 *

 

 一人の女がその身を変じさせている頃。

 

 少年は窓辺から射す斜陽の中で二人の少女を交わり続けていた。

 

「ん……これで、全部、だよ?」

 

 幼い腰が切なげに震えて、胎の奥に感じる太く張り詰めた幹の感触に僅かくねっていた。

 

 白い肌には珠の汗が耀き、その七色に煌めく真珠の髪は微かにシャラシャラと音を立てて、窓辺からの光の中で小さな姿態を飾り立てている。

 

 もう蕩けた牝の顔で甘く牡を蟲惑する姿は正に淫魔と呼ぶに相応しい。

 

「パーパのおちんちんでぇ♡」

 

 自然と身体を浮遊させながらも、自らの体重で子宮口にミッチリと押し込まれた亀頭の感覚に舌を出して。

 

「シルメイアの小っちゃいおまんこぉ♡」

 

 熱い吐息を零しながら。

 

「いっぱい、だよ?」

 

 足だけで腰を挟み込んで、少女は背中を後ろに倒し、自分の身体を交わる相手によく見えるよう両手で根元まで繋がって押し広げられた性器(おまんこ)の端を広げて見せた。

 

「シルメイア―――」

 

 本来なら、足だけでは力が足りずに幹が抜けてしまうのだろうが、浮遊している少女にそんな心配はない。

 

 クスクス。

 

 上目遣いで微笑み、媚びる瞳は七重の瞳孔が煌めく。

 

【淫魔(サキュア)】が使う魅了の魔眼。

 

【鋼魔(フェロー)】が使う賦活の魔眼。

 

【幼魔(インファヌス)】が使う操心の魔眼。

 

【弄魔(ラズール)】が使う幻惑の魔眼。

 

【斬魔(ラセラ)】が使う透視の魔眼。

 

【覇魔(ベクタム)】が使う練達の魔眼。

 

【死魔(ドルミ)】が使う想起の魔眼。

 

 幾多の魔が伝え続けて来た力が少年を射抜いた。

 

 どのような酷界の血筋とて、同時に持つ瞳の力は精々が四つまでが限界だ。

 

 それを一つの瞳で発現させるとなれば、きっと頂点に君臨する者達くらいだろう。

 

 しかし、少女の瞳は違う。

 

 その全てを同時に使う事が出来る。

 

 魅了の魔眼は心底に発情させ、賦活の魔眼は如何なる状況でも肉体より疲れを取り除き、操心の魔眼は相手に己の欲求を満たさせ、幻惑の魔眼は華美なる装飾で行為を更なる高みへと昇らせ、透視の魔眼は相手の全てを見抜き、練達の魔眼はあらゆる行為を効率化し、想起の魔眼はどのような想いをも呼び起こす。

 

「パーパのおちんちん 太くなった、ね?」

 

 その誘惑する笑みを向けられれば、如何なる存在だろうと抗えず。

 

 少女を犯すだろう。

 

 その思うがまま、まだ幼い肉体を貪るだろう。

 

 死人も神も例外ではない。

 

 本来、片目に宿る事の多い多重の魔眼は両目に発現した場合、その能力の強さを乗算する。

 

 七重の魔眼が二つとなれば……その力の強さは計り知れない。

 

「今度はもっと、気持ちよくしてあげる 」

 

 七重の瞳孔が僅かに収縮した。

 

 途端、少年の睾丸が熱く燃えるように脈打ち始める。

 

――――――!?

 

 魔眼の力の一つが変わったのだ。

 

 本来、瞳に宿る能力は固定化されているものだが、シルメイアの二つの瞳に宿った十四の瞳孔はそもそもたった一つの力しか宿さない。

 

「ふふ、一杯、一杯、種付け交尾でおまんこしようね♡ んぅ♡」

 

 クチュゥッと膣が甘く絞られて、ビクビクと幹が震えた。

 

 少年の睾丸は常人よりも大きく数倍は重いものだったが、新しい【業魔(グラビエ)】が使う七罪の魔眼の効果によって、姦淫の罪を犯すに適し、更に鉛玉のようにズッシリと内部で精が増えていく。

 

「もう、びゅーびゅーしていいんだよ? ぁぅん♪ びくびくってしてる♡」

 

【此世源瞳(バルムクエ・イリス)】

 

 その瞳で見た全ての魔眼になる眼球。

 

 極大の資質を持って産まれたシルメイアが唯一持つ能力。

 

「っ~~~♡」

 

 瞳の力に当てられて、少年の片腕の中で璃紗は身体を震わせ、言葉も出ない様子で何度も軽く絶頂していた。

 

 彼女の瞳が全ての魔眼の始祖であるならば、シルメイアの瞳は現代に現れた最新鋭にして奇蹟の瞳だ。

 

「パーパ♡ ほら、しよう? さっきみたいに赤ちゃんのお部屋に種付けして♡」

 

 少年は言われるがまま。

 

 ゆっくりと腰を揺すり始めた。

 

 グヂュルルルルゥウウウ。

 

「あ♡ ぁ~~~♡ パーパのおちんちん、ぐちゅぐちゅしてるよぉ……♡」

 

「く……」

 

 背筋を反らせながら、緩く自分を浮遊したまま空中に固定したシルメイアが甘い鳴き声を上げる。

 

 とても少年の太く雄々しいものが入るとは思えない膣肉が押し広げられている光景は淫靡で甘美で冒涜的だった。

 

 内部の襞が蜜を吐き出しながら、膨れた傘の部分でグリュグリュと押し潰され、常人の数百倍以上張り巡らされた快楽神経の通った牝穴をグズグズに蕩けさせていく。

 

 弾力があって広げられてはいるものの、その本来の穴の小ささは璃紗以下だ。

 

 それでも魔族の血と少年に犯される為に変化した肉体は苦もなく少年を飲み込む。

 

 汗と蜜に塗れて繋がっている媚肉は幹と一体になり、ヌラヌラと照り返っては日差しの中で同じ色に塗り込められていた。

 

 グヂュ、グヂュ、グヂュ、グヂュ、グヂュ―――。

 

「ん♡ んぅ♡ パーパ♡ パーパ♡ すぐ覚えるから♡ シルメイアのおまんこにおちんちんの形教えて♡ お嫁さんの穴にしてぇ♡」

 

「うん」

 

「~~~♡」

 

 膝立ちで腰を前後に揺すりながら、片手を今も達し続ける璃紗の腰に回し、もう片方を浮いて自分の前で全てを曝け出す娘の腰に添えて、少年は何度も狭い穴の襞を傘で上下左右に抉り続ける。

 

 その度に唾液を零し、恍惚とした牝の表情でシルメイアは父の牡の形を受け止め、汗と交わる二人の蜜を股間から零しながら、舌舐めずりした。

 

(ぱーぱの子種ぇ……美味しいよぉ……初めて気持ちよくなった日みたい……)

 

 その脳裏には彼女の一番初めの記憶が甦る。

 

 魂が宿った日。

 

 自分を包んだ白濁。

 

 その精気を取り込めば甘く。

 

 もっともっと欲しいと願った。

 

 大きくなれば出してくれるだろうかと。

 

 自分にも与えてくれるだろうかと。

 

 まだ本当には見えない世界の中に少年を感じて、母親の胎の中で嬉しく思った。

 

(ようやく叶った……パーパと一緒……ずっとずっと……)

 

「シルメイア……もう……っ」

 

 ゾクゾクゾクッと少女の背筋に言い知れぬ快楽が奔り、顔が切なく歪んだ。

 

 熱い吐息を零して、自分の中で恍惚としながら、種付けしてくれる少年の顔。

 

 これが悦び。

 

 女としての、娘としての、牝としての、番となるべき者を包む心地良さ。

 

(こんなの知ったら、パーパじゃなきゃ気持ちよくなれなくなっちゃう♡ 自分じゃ出来なくなっちゃうよぉ……♡)

 

 汗と蜜の匂いに都市から吹き込む熱い風と暮れゆく斜陽が渾然一体となっていく。

 

「ん♡」

 

 背を起こして、少年の胸にしがみ付いて。

 

 今度は下から突き上げられながら、少女は汗を散らせて上目遣いに見上げる。

 

 子宮口を抉りながら存在を主張する幹が何度も何度も襞を蹂躙して、その度に背筋が快楽に焼けて、押し込まれる動きに合せて膣内が蠢き。

 

「なっちゃったぁ……♡ パーパのおちんちん覚えたよぉ♡ 褒めてぇ♡ ぱーぱぁ♡」

 

 ようやく彼女は自分がたった一人の父であり運命の相手であり、想い人である者に征服され、専用の牝穴と化した事を知った。

 

 意識せずとも、心地良く出来るのだ。

 

 眠っていてすら、それは変わらないだろう。

 

 これからずっと奉仕して、心地良く蹂躙されながら、娘として牝として女として、出来るならば母として生きられる。

 

 倫理、道徳、そんなものとは程遠い獣欲に満ちた温かい日々を想像し。

 

 プチャァアア。

 

 シルメイアは身体が、心が、高みへと昇っていくのを感じた。

 

「っ……!!!?」

 

 潮が少年の下半身を濡らして、それと同時に少年の腰の奥でドグンと大きく心臓のように血管が脈打った。

 

 ビュグルォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

 

「んゃぁあぁあぁああああぁぁぁぁぁあ♡♡♡」

 

 ゴポン。

 

 一瞬で胎が白濁に満たされて膨れ上がり、シルメイアの腹部がポッコリと妊娠したように大きくなる。

 

 二人の間に膣内に入り切らなかった精がゴポゴポと零れ落ち、咽るような匂いが部屋を満たしていく。

 

「ぁぁ♡ ぁあぁぁ♡ ぱーぱぁ♡ そのまましへぇ♡ びゅーびゅーしながらぁ♡♡ シルメイアのおまんこ可愛がってぇ……♡」

 

 身体を擦り付けながら、絶頂し、甘えた声で媚びる娘の姿に少年がその通り、奥に突き込んでいた亀頭を引き抜いて、痛い程に尿道を通り続ける精の勢いもそのまま更なる抽挿に入る。

 

 ビュブゥウウウウウウウウウウ―――。

 

 魔眼によってほぼ無制限とも言える体力に精力を手にした少年の射精は未だ衰えない。

 

 水禍(スライム)のようなゼリー状の白濁と少女の潮が混ざった淫蜜は動き難い程の粘性で幹を束縛し、ジュボォジュボォとまるで空気が混ざる度に泡立ち弾けて、二人の全身を染めた。

 

「いくひゅぅ♡」

 

 牡と牝の交尾。

 

 今も続く卑猥で淫猥で羨まし過ぎる行為に璃紗は自身のすじと淫核(クリトリス)を律動する少年の太腿に擦り付けながら見守る。

 

 早く自分の番になって欲しい。

 

 そうは思っても、まだその時は来ていない。

 

 軽く達し続けながら、少年の肌と情交の熱さに自慰をしているも同然で彼女は心の底から二人の結ばれた事を祝福していた。

 

「またぁ♡ また気持ちよくなっちゃうよぉ♡ ぁ、ぁ、んゃぁあああぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁ♡♡♡」

 

 射精の途中。

 

 何度も何度も射精しながら幹を打ち込まれる快楽に、幹を絞り、襞をジュルジュルと絡める交尾の具合の良さに再び深くシルメイアは絶頂した。

 

 プチュァア、プチュァアアアア―――。

 

 精と同じように今度は更に大きく潮が股間から吹き上がる。

 

 本来、人間にしてもそれ程の量は出ない。

 

 しかし、もはや魔窟と化した部屋の中ではそれも自然な事のように璃紗は思った。

 

(ほしぃ♡ ほしぃのぉ♡ いくしゅのおちんちん♡ おちんちん♡ たねつけぇ♡♡)

 

 子宮の疼きはもはや炎のように内側を欲望で焦がし、もう少女をただの牝犬にしていた。

 

 ビュ、ビュル、ビュルルル……。

 

 ようやく勢いの治まってきた射精の勢いをもう少し子宮口で感じていたいと恍惚とした表情で思っていたシルメイアだったが、隣で発情したまま本当に達せていない友達の事を思い、少年に甘えた声で幹を抜いて欲しいとおねだりした。

 

 グヂュ、ッポォ。

 

 ゆっくりと膣内(なか)から引き抜かれた亀頭が卑猥な音を立てて、まだ出し切っていない精を本格的にシルメイアの胎と胸に掛けていく。

 

「ん……っく」

 

 少年にしても、それ程に長い射精は初めてだった為、一息吐いたものの。

 

 未だ幹には弛緩する様子も無かった。

 

 身体を精と蜜と潮の湖にグチュウと座り込ませて、シルメイアが物欲しそうに少年に抱き付いている璃紗の手を引く。

 

「しるめいあ……?」

 

 限界まで発情して意識も胡乱な友達の身体を引き寄せて、ヒソヒソと少女が耳元に囁く。

 

 そして、二人が互いに少年の方へ向き合うと淫らな笑みで白濁の泉を両手で掬い上げ、舌を出して、よく相手へ見えるようにコクコクと飲み始めた。

 

 掌から零れた淫猥な液体が二人の腕や喉を伝って体や髪を濡らしていく。

 

 あまりにも卑しい行為にも関わらず。

 

 無垢で幼い身体と蕩けた微笑は昂揚して、紅の陽光の下、芸術の如く耀いた。

 

 喉を愛らしく鳴らして白濁を飲み干した後。

 

 そのあどけない喉で二人が互いに声を零す。

 

 とっても美味しかったよ、と。

 

 そう言われて熱り勃たない男はいないだろう。

 

 未だ固い幹が更に雄々しく血を巡らせるのを見て、二人はクスクスと笑い合った後。

 

 もう一度掬った精を互いの身体に塗り込め始めた。

 

 ものの二十秒程で少年の前には自分の子種に塗れた幼くも美しい牝が二匹現れ。

 

「二人とも……凄く、可愛いよ……」

 

 声は僅かに興奮で震えていた。

 

「パーパ……今度はお尻で、して? リーシャ」

 

「うん……///」

 

 璃紗が今まで掬っていた精の泉に頭を付けて、少年の幹を下から見上げる恰好となる。

 

 その上にシルメイアが子種で満たされた大きな胎を乗せるような形で跨り、腰を上向けて突き出した。

 

「今度は三人で、しよう?」

 

 喉が鳴った少年は頷いて、再びの交合に向かう。

 

「シルメイアのお尻はね……もう、パーパのおちんちんを気持ちよくするだけの穴なんだよ? 赤ちゃんも作らないで二人で気持ちよくなる為のところなの……リーシャも一緒に気持ちよくなろうよ……♡」

 

「なるぅ……璃紗もイクスとするのぉ♡ イクスぅ♡」

 

 今度は三人で。

 

 その言葉に誘われるがまま。

 

 少年は己の幹を握り締めて突き出された尻へと向かっていく。

 

――――――っっっっ?!!!?

 

――――――ッッッッ!!!!!?

 

 三人のいる部屋の前で息を飲む音。

 

 シルメイア以外は知らないだろう。

 

 早めに前夜祭を切り上げてきた二人の淑女があまりの事に棒立ちになり、唾を飲み鳴らし、股間を濡れさせて、乳首を勃起させ、震えて扉の先から三人を覗き込んでいる、なんて。

 

 クスクスと。

 

 小悪魔の微笑みでシルメイアは二人にも見えるよう高く尻を掲げて、その時を待ち侘びたのだった。

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