※この作品はR-18です。

聖娼館ハルトゥム   作:Anacletus

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第三章八十五節★

第三章八十五節「祭忌禁交Ⅶ」

 

 社会的な不協和というやつは凡そ情報格差によって生じる事が多い。

 

 政治経済軍事全ての分野において風雲急の時に個々人の資質が重要視され、率いる者として抜擢されるのはその必要とされる彼らの持つ情報が適切に運用される事が望ましいからである。

 

 何かしらの制度は原始的には往々にして人々の感情を満たす為のものとして構築される。

 

 が、そういったものを設計する玄人(スペシャリスト)達が出てくる高度化された社会においては人々の意を汲み取って仕事に反映させる事は少ない。

 

 それは設計する当人達にとって人々が然程合理的ではない事の方が多いからである。

 

 何が言いたいのかと言えば、人々の感情と情報を多く持つ者達の間には不協和がある。

 

 つまり、認知や情報を受け取る際に差が生じているせいで一つの方向を互いが向く事は少ない。

 

 ぶっちゃけると必ずしも人々は公民ではなく、賢い選択が出来ないという事である。

 

 特に合理性とは別のところで政治や法は動かされる面があるので、それらを具体案にする役人や知識層は“世迷言”や“不合理な民意”に迷惑を被っている事も多々ある。

 

 これを公に言うと中々にして権力者や制度設計者、社会の中核を形成する人材が排斥されがちであるが、未だ嘗て愚民のいない国など何処にも存在した事はない。

 

 性善説や民は善良であるという規定そのものがまやかしである事はどんな時代の為政者にとっても頭の痛い話であるだろう。

 

 社会的不協和。

 

 それは理想と現実の乖離であり、他者と自己の理解力の差であり、確かにある資質の差であり、触れ得る情報の格差であり、認知の限界に起因する。

 

 彼は貴方ではなく。

 

 己が知っている事も知らず。

 

 然程、話していても楽しくない。

 

 そういう事もあると知ってさえいれば、随分と人は他者へ寛容になれるはずだ。

 

 理解を求める事が葛藤に繋がるのならば、それ自体に一定の制限を掛ければ良い。

 

 諦める事程に重要な不協和の解決方法は無いという先人の知恵である。

 

 これを単純な言い方にすると“住む世界が違う”という事になるだろうか。

 

 だから、下々は上流階級に憧れるし、扱き下ろすし、“あいつは間違っているという間違ったレッテル”を自らを率いる者達へ張りもするのだ。

 

 無論、何もかもがそう言った不協和の最中にあるわけではないだろう。

 

 だが、いつの世もそういった限界や差はある。

 

 だから、アルヴァスという国を興した者は最初にまず制度よりも先に人々の感情を統制し、諦めさせる為の方便を考えた。

 

 それが亜人貴族主義である。

 

 人の愚かを学ばざるが亜人。

 

 そう、人類の善きところは真似、悪きところは排斥する。

 

 故に、この考えへ賛同する者は人よりも上位に位置する事が出来る。

 

 一見して綺麗事満載に見えるが、その内実は他者への諦め。

 

 この場合は人間に対する諦観を暗に推奨する教えだ。

 

 人類は愚かであり、そうならない為にはこの考えを支持せざるを得ない。

 

 亜人達に対し、そう教え込む事でアルヴァスにおける社会的不協和。

 

 つまり、人間に対するコンプレックスと差を埋めようとする事で発生する様々な制度や感情の葛藤、政治的判断や経済的損失、軍事的な誤認を軽減したのである。

 

 もしも、この考えが国民に浸透していなかったならば、今よりもアルヴァスは人類社会に対して敵対的な行動を行ない、嫌悪感を顕にする“人の敵”として周辺諸国との膨大な軋轢や摩擦に晒されていた事だろう。

 

 自分達を一段高い位置に置く行為は選民思想に通じるものだが、それもまた“人の愚かを学ぶな”と合理性のある戒めで傲慢さや非合理的な行為を誡めている為、過度な差別意識を助長しない。

 

 余裕のある生活をしている者程に穏やかであるのは人社会でも当たり前の話であるが、精神的な優越と余裕を亜人貴族主義が国に芽生えさせ、その方向性を穏健にしたのは論を待たない。

 

 これは興国者たる魔王ゼオストス最大の功労であり、限界でもあった。

 

 冷静な目で見れば、人間というものを理解し、後々に生まれ来る国民の生活を考え抜いた末の妙案と言っていいが、過度の期待や善性に立った理想というものとは無縁であり、ある意味では亜人に高いものを求めていなかったという事でもあるからだ。

 

 今や彼の事を知る者はアルヴァスにたった二人。

 

 一人は妹であるアルメイア・ゼオストス。

 

 そして、もう一人は。

 

「皆さん。手が休んでいますよ。あやすならば、我が子よりも親身にならなければ」

 

 首筋の鰓を薄らと開かせながら、新米の乳母達に今年連れて来られたばかりの娼婦として育てられる事になる貴族の赤子達をあやさせていた。

 

 西部最高峰の会員制娼館。

 

 月兎亭。

 

 其処に棄てられた幼年者達に寮長と恐れられる彼女。

 

 ベルン。

 

 五千年を生きる長命なる血統。

 

 人魚と俗に人々から言われる彼女は現在、魔王イーギルフィストの連れて来た人間奴隷。

 

 まだ十代の少女達を監督し、任された通りに子守が出来るよう教育していた。

 

 広い学習用の室内には黒板が有り、その上には石灰棒(チョーク)で様々な子供に対する智識が書き込まれ、その周囲では布で巻かれた様々な種族の赤子達が彼女達の手で抱かれている。

 

 その様子は穏やかだ。

 

 緩やかに腕を揺らして、自分達とは違う種族とはいえ、亜人の子を寝かし付けている様子はベルンがしっかりと教育してきた成果と言える。

 

 元々、人の社会において虐げられ、奴隷として売買されていた彼女達にとって、人間も亜人も然程変わりはしない。

 

 どちらも自分達を売り買いする相手であり、人に運ばれていた時より亜人達の方が扱いは良心的だった。

 

 ならば、買われた先の此処で生きていこう。

 

 そう思ったのは不自然な話でも無いだろう。

 

 それに娼館とはいえ。

 

 伸び伸びと生活する娼婦達は彼女達よりも幼い年からそろそろお迎えが来そうな老婆まで誰もが支え合って生きている。

 

 その様子は少し憬れてしまうくらいに穏やかで心地良いものだった。

 

 男に身体を売る娼婦と言えば、人の世界では売女と蔑まれる運命。

 

 高級娼婦なんてものは全体の1%もおらず。

 

 殆どは疾病、性病、老いと共に朽ちていくのが定めだ。

 

 しかし、月兎亭に来る人間も亜人も誰もが優しい。

 

 更に老婆ですらも昔馴染みの客を取って、体こそ売らないがお茶をしているのだ。

 

 其処には確かに女達の幸せがある。

 

 人の世界で提唱され、大陸に浸透しつつあると言われる人権なんてものよりも、ずっと確かなものがある。

 

 身体を売ろうと気高く在り。

 

 笑い声の絶えない館は彼女達にとっての別世界。

 

 確かに楽園だったのだ。

 

「本日はこれでお終いにしましょう。では、皆さん。この子達を寝室に。引継ぎの子達にしっかりと状態を伝えてください。確認が終ったら……お祭りに行きましょう」

 

 やった、とか。

 

 ほんと、とか。

 

 生徒のような彼女達の声が華やかにはしゃぐ。

 

「静かに……起きてしまいますよ」

 

 思わず口を閉じて頷いた誰もがそっと眠った赤子達を優しく抱きながら、部屋の外へと向かった。

 

 それを見送った後。

 

 少し熱の入った指導も終った事だし。

 

 そう、一息付こうと周囲に幾つかあるテーブルの横。

 

 椅子に腰掛けて。

 

 ベルンは窓の外を見上げる。

 

 そろそろ夕暮れ時もお終い。

 

 となれば、前夜祭は騒がしく過ぎていくに違いない。

 

(主様……貴方の興した国は今も健やかに……歩みを止めずにいます……どうか、見守っていて下さい)

 

 千年程前。

 

 アルヴァスという名すら無かった荒野に魔王は亜人も人も異種も神も魔もあらゆる種族達を受け入れる楽園を造った。

 

 当時、ファルティオーナにやってきた男は人の世を数年見聞して、まだ未熟な人類や亜人が多くの種族達と共に成熟していく世界を夢見たのである。

 

 口は悪いし、その想いを公言する事も無かったが、近くで見ていた誰にも、それは分かっていた。

 

 どうして、そんな事を思い付いたのか。

 

 昔、訊ねた彼女に主である男は、魔王ゼオストスはこう言った。

 

 妹が夢見た未来に自分も賭けてみたくなったのだと。

 

 後に殺されるまで。

 

 男は人々の為に多くの試みを行なった。

 

 その大半は失敗してしまったらしく。

 

 詳しい事も分からないが、彼女によく男はこう愚痴っていた。

 

 誰の為の未来でもないのに誰かを犠牲にして決める今など、クソ喰らえだと。

 

 人間や亜人なんてロクなもんじゃないと酒の席で常々言っていた相手だ。

 

 いつか自分の造ったソレが己へ牙を向く事とて、感じ取れていただろう。

 

 しかし、それでも逃げなかったのは彼が自らの命の使い道を決めていたからだ。

 

 やがて自らを殺すだろう種族を栄えさせる。

 

 傍目から見たら馬鹿げた情熱を持ち続けられた彼を、彼女は愛していた。

 

 その傍にいた誰もが同じだ。

 

 故に誰一人としてゼオストスは自らを殺しに来た者を殺さなかった。

 

 その血統は今もアルヴァスに生きている。

 

 鬼、狐、獅子、蟲、兎。

 

 騒がしい面々と笑い合ったのはずっと昔。

 

 そういった興国者の最後の一人として。

 

 祖国を見守り続けてきた事は彼女の誇りだ。

 

 数百年前、戦乱や様々な理由から朽ちていく子供達を放っておけなくなった頃からは孤児院の経営者であるアンサルの家を助け、娼館になってからは偉大なる先人として己が知る限りの女、牝としての叡智を娼婦達に授け続けてきたが、それも我が子のように国と民を思えばこそである。

 

 時折、娼館にやってくる将来的に芽がありそうな者へ適切な助言や支援を行うのは主が生んだ奇蹟のような国を、主が信じた人々の行く末を信じたいからなのだ。

 

(人事は既に尽しました。後は天命を待つのみ……)

 

 現在、国を包もうとする終末の霧と化物達の跳梁。

 

 それを薄らと感じた彼女は使命の一つである門の伝承を最も信頼のおける血筋の若き才媛に預けた。

 

 アルヴァス・カレッジの創設にも間接的に関わった彼女だからこそ、国を唯一救える可能性を未来在る若者へと託したのは正しい判断だったはずだ。

 

 エンシェン・イル・フォイル。

 

 彼女を抱いた男達の中でも本当に素晴らしいと思える男の娘。

 

 若い時節、娼婦として閨を共にした男達をそれとなく導いてきたが、国家という柵に囚われる故に大きな動きとなるのは稀だ。

 

 だからこそ、まだ歳若くも未来を見据える才媛と名高かったエンシェンに今まで守ってきた秘密を送ったのだ。

 

 ヴァルトレードと名乗った男がその情報を携えて訊ねて来た事もベルンにとって驚きではなかった。

 

 アルヴァス・カレッジの裏山にある門に付いて調査し、ようやく彼女まで辿り着いた彼の質問に伝えられる限りを教えたのは本格的な終末の気配を近頃は実感するようになったからだ。

 

 アルヴァスは独り立ちした子供のようなものだが、彼女はその国民の一人として生きている。

 

 子供が死に掛けているのに何もしないわけにはいくまい。

 

 最後の秘密を開示して、後は娼館の女として娘のような女達を守り日々を暮す事を選択した彼女は……ようやく肩の荷を降ろして、今まで千年以上も張り詰めていたものが切れた事を感じていた。

 

(祭りは続く。けれど、終りも来る。この国の奇蹟のような日々にも必ず最後が……でも、それはまだずっと先の事であって欲しいと望むのは……母親面をしている私の我侭なのかもしれません)

 

 夜の空には蒼き天蓋の星。

 

 明るく世を照らし出す蒼光に彼女は永らえてきた長い時を幻視する。

 

「あの……」

 

「?」

 

 窓の外から視線を後ろに向けると年頃の少女達が人も亜人も関係なく彼女を見つめていて、騒がしい。

 

「もう、準備が終ったので……その……」

 

 少女の一人が言って。

 

 ああ、と。

 

 彼女は自分が物思いに耽り過ぎていたのだと理解した。

 

「そうですか。では、そろそろ行きましょう。五分程待っているように」

 

「は、はい。失礼しました」

 

 パタンと扉が閉まり、少女達の顔がドアの外へ消えた。

 

「久しぶりに着飾ってみましょうか……」

 

 常に仕える者として振舞ってきたが、これからもそう生活出来る保障はない。

 

 どうなるにしろ。

 

 賽は投げられたのだ。

 

 決定的な何かが変わる前触れを感じている。

 

 だから、少しは感傷的にもなろう。

 

 寂寥とて感じよう。

 

 ならば、久方振りに着飾って軽い化粧でもして気分を変えてもいいだろうと、本当に閨を共にしたい男の為に時間を掛ける事に比べれば、瑣末な時間だと。

 

 そんな軽さで彼女は再び顔を街の明かりが漏れる市街地の方へと視線を向けた。

 

「……願わくば……全ての子らに等しく未来が在らん事を……」

 

 化粧は薄く、装いは控えめに、随分と昔誂えたものに袖を通して。

 

 彼女は数分で自らを整え、部屋を出たのだった。

 

―――その祭りの前夜祭。

 

 とある通りではまるでパレードを見守るように人垣が割れて、少女達の一団の姿に息を呑んだと言う。

 

 控えめな衣装に慎ましやかな立ち振る舞い。

 

 このご時勢に賢明な婦人を彷彿とさせる完成された歩き方。

 

 しかし、気配が違う。

 

 人を惹き付けるに足る何かが有る。

 

 一際目を引く少女達の先頭を歩く彼女の名をとある大貴族の男は連れていた息子達にこう呟いた。

 

 アレは十年に一度客を取るかどうかの女性(にょしょう)。

 

 本当に良い男だけへ裾を上げる閨の女神。

 

 お前達もあの婦人に認められるだけの男になりなさい、と。

 

 確かに子供だろうと大人だろうと全ての男達が見入っていただろう。

 

 其処にいるのは祖国の最も旧き由緒ある娼館において、戦乱や動乱の中で傷付く男達を癒し続けた伝説の娼婦だったのだから。

 

 その唇を吸えば、死人すらも一時起き上がり、交われば齢百を超え、血を授けられれば、その寿命は神仙にも劣らなくなるとされた旧き言い伝えの一族。

 

 彼女に世話となった者はそれなりにいる。

 

「お? まさか、お前さんが祭りに出てくるとは……その子達の引率か? 随分と久しい」

 

 通りの出店の看板を変えようと出ていた老人。

 

 アイクロソス・デダルがやってくるベルンの姿に驚いた様子になった後、微笑む。

 

 シャランと東部の簪一本。

 

 質素な蒼に染められた街娘風の愛らしい衣装で近付いた彼女は知己の姿に少しだけ苦笑した。

 

 彼女の知る男は戦乱の只中を駆け抜けていく猛者。

 

 こんなところで屋台のオヤジをしているのは当時を見た人間からすると目を丸くするような光景だ。

 

「お変わりないようですね」

 

「おうとも。お前さんに命を救われてこの方、病気の一つもしておらん」

 

 上半身裸で捻り鉢巻の老人にベルンは指を四つ立てた。

 

「出して頂けますか? この子達に」

 

「ははは、ちゃっかりしたところは変わらんか。ああ、このデダル印の屋台が三分で用意しよう」

 

 ガンッと出店の横の看板を裏返して開店させた後。

 

 老人は鉄板に火を入れて、仕込み終った肉を次々にその上へ放り投げ、目にも止まらぬ高速のフライ返しで躍らせながら焼き始めた。

 

 通常ならば一瞬で肉が焦げ付くような大火力。

 

 しかし、鉄板の上に香るのは香草と香ばしい火に炙られた肉の匂いのみで消し炭になる様子はまるでない。

 

 さっそく人が集まってくるも、老人の声に承知した売り子達が焼き立ての麺麭を後ろの釜から取り出して、ベルンの後ろに付いて驚いている少女達へ次々に渡し始めた。

 

 そして、空中で串に刺された香味焼きが全員に配られ。

 

 最後に自分の手でベルンへ最高の焼き加減となった肉を差出し。

 

 老人が一言。

 

「近頃、孫が相手にしてくれず、寂しくてのう……行っていいか?」

 

「奥方様の方はよろしいのですか?」

 

「此処数ヶ月、大陸中央諸国への漫遊で顔も見せんからな」

 

「……お茶にならば、幾らでも」

 

「かかかっ、その時は菓子折りでも持っていこう」

 

「ええ」

 

 すんなりと会話を終えた二人がまるで最初からそうであったように擦れ違い。

 

 少女達の祭り見物が再び始まる。

 

 まだまだ色気よりも食い気な幼い娼婦達の様子にその正体を知っている者も、知らぬ者も等しく。

 

 微笑ましいと薄ら顔を緩めたのだった。

 

 *

 

―――ゼオ家二階第三寝室。

 

 今や少女達の熱気は開け放たれた扉や窓から漏れてしまう程に思えた。

 

 汗に湿った部屋。

 

 精と蜜の匂いに抱かれて。

 

 誰もが上がる花火といつの間にか灯った洋光(ランプ)の明かりに陰影を刻まれている。

 

 身体を直接に飾る性具に身を固めたウルが少年の上で絶頂し、妊娠したように胎を子種で満たされ、幸せそうに虚空へと持ち上げられるエストリアを見た。

 

「エストリアさん。ありがとう……パーパを気持ちよくしてくれて」

 

 少女の身体を持ち上げ、そっと少年から少し離れた寝台の上に寝かせたのは幼い少女。

 

 彼の娘であるシルメイアだ。

 

 その瞳は今薄く重ねられた七重の瞳孔を耀かせ、その場にいる少女達の何もかもを調整している。

 

 一際淫猥に乱れて達したエストリアは薄目を開けているものの。

 

 ぼんやりとした様子でピクピクと未だ余韻に浸っている。

 

 その下半身は本来子種に塗れ、股間からは白濁が垂れ流されているはずだったが、そうはならない。

 

 まるで最初から何も無かったように子種は肌から吸収され、性魔術の技により生気として彼女の肉体を廻っていた。

 

 開いていたすじも今はピッタリと閉じられ、蜜を零しているが、胎や膣に注がれたものを一滴も零す様子がない。

 

「ふふ……赤ちゃん出来るといいね」

 

 少年の凭れるクッションの横でニコニコとシルメイアが囁く。

 

 彼女の力が妊娠の確率を上げる為に年上の少女の身体を調整した結果が現状だった。

 

「エストリアさん。幸せそう……」

 

 もう我慢出来ない様子で股間を両手で押さえながら、璃紗が羨ましげに呟く。

 

 その身体は部屋に置かれていた性具の一つによって、鎧われていた。

 

 閨の甲冑。

 

 まるで冗談の類だろうが、小さな甲殻(パーツ)が肌に直接吸い付いている為、実際に鎧の役割は果たしていない。

 

 腹部には胃のある中央と子宮、卵巣の上に鈍色の薄らと湾曲した菱型が蓋い。

 

 尾てい骨から背中を通って項(うなじ)まで同じ色合いのしなやかな装甲が張り付いている。

 

 【鋼蟲(フェロース)】

 

 それは実際には鎧ではなく。

 

【禁断蟲(エクソティシス)】の一種として産み出された生きた性具だ。

 

 内側には微細な疣(いぼ)状の粘液を滲ませる肉色の襞が有り、肌に直接吸い付いている。

 

 その効用は使用者の身体を外側から魔力や分泌物、自己生成する薬品によって強化する事。

 

 そして、最大の特徴が少年の前で顕にされる。

 

「いいよ……」

 

 璃紗の僅かに恥しげな呟きに鎧のような甲殻が波打って震え、蠢きながら形を変えて肌を伝い自在に一着の下着のように身体を縛っていく。

 

「ん、ぁぅ……♡」

 

 撥ね乱れた髪がフルフルと揺れて。

 

 その下で肌が蹂躙される快楽に甘く声が上がる。

 

 其処には鎧というよりは緊縛された裸体があった。

 

 細いベルト状となって幼い姿態に食い込む甲冑。

 

 太腿を這い、尻を強調するように食い込ませ、すじやなだらかな無毛の丘を際立たせ、薄らと膨れた胸を細い縄状の螺旋で飾り、背中のものと結合しながら首輪を形作り、肌を露出させながらも性器以外の性感帯を常に最高の状態に保つ。

 

 本来、人型の高位魔族用に用意されていた品は人間に使ったならば、あまりの快楽にその状態となっただけで連続した絶頂に見舞われ続け、衰弱してしまうだろう。

 

 だが、仮にも高位の亜人であり、原初の魔眼の所有者であり、魔王に認められ、その娘に慕われている小獅子は……少年に対する想いを抑え切れなくなりそうな興奮に包まれる程度で済んでいた。

 

 疼きっぱなしの性器が鎧われていないのは相手にしてもらう為。

 

 彼女が望めば、拘束の仕方も自在であり、轡や目隠しも出来る。

 

 シュルシュルと彼女の首から伸びた鋼の縄が少年の手下に触れた。

 

 それは自分を飼ってという意思表示。

 

 獣人達の間ならば、首輪を持たせるというのは夫や相当に心を許した相手にしか許さないプレイだ。

 

 少年が細長いソレを持てば、ゾクゾクと璃紗の背筋を服従する快楽が昇って震わせていく。

 

「じゃあ、パーパのおちんちんを胸でしてあげて? ウルさん……」

 

 シルメイアが呟く。

 

 少年の指で達し、今にも交わりたいと願っていた彼女の胸が高鳴り、コクンと素直な頷きが返される。

 

「イクス……失礼しますわ」

 

 少年の指から離れる事を惜しく思いながらも、その巨大な胸を震わせて。

 

 股間の方に移動したウルは射精したばかりだと言うのに未だそそり勃っている幹に近付き、その金輪が嵌った胸の先端を隠すように両手で持ち上げ、ゆっくりと間に導いた。

 

 ムニュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ。

 

「ん―――っ」

 

 少年が胸の谷間の感触に声を漏らす。

 

(そう言えば……わたくしはいつも吸って貰ってばかりで……こうしてあげた事もありませんでしたわね……イクス、今日は沢山わたくしの此処で心地良くなって……///)

 

 その胸に溢れてくる慈愛とも母性とも付かない温かな想いに比例するよう、しっとりと汗で濡れた乳の間で蜜を零した幹は柔らかな感触を圧迫感に震えていた。

 

 グチュ、グチュ、グチュ。

 

 胸が上下に揺れる度、普通の女の膣とは比べ物にならないだろう快楽が少年を襲う。

 

 ウルの肌と巨大な乳房だからこそのものだろう。

 

 女の武器であるおっぱいの大きさという一点でその場にいる他の誰も敵わない彼女は自分の胸の間で脈打ち、熱くなっていく少年自身を恍惚として感じていた。

 

 少年にしても、巨大な胸が自分の下半身を蓋うようにして動くダイナミズムに圧倒され、睾丸の熱さはエストリアと交わっていた時と勝るとも劣らない。

 

「イクスぅ」

 

 四つん這いで少年の傍に身を寄せた璃紗がウルの胸の弾む様子に圧倒されていた己を振り払って、イソイソと少年に媚び甘える。

 

「こっちも……」

 

 少年の気を引こうと胸に指を這わせ、縄を持つ手を股間に導き、その胸を少年の前へ差し出した。

 

 その大きさは下と上では歴然。

 

 だが、少年の唇は甘えた小獅子の僅かに膨らんだ蕾に吸い付いた。

 

「ひぁぁあん♡」

 

 愛らしい鳴き声で璃紗はチュルチュルと舌と唇で乳を吸い出そうとするような少年の愛撫に軽く達した。

 

「んっ♡ んっ♡ んくっ♡ そんなにされたらぁ♡ お乳出るようになっちゃうよぉ……♡」

 

 そうして欲しい。

 

 そうなるようにしてもらいたい。

 

 そんな響き。

 

 少年の唇と下の間でコリコリとした桜色の乳首が転がされ、その度に天にも昇る心地で璃紗は自分の股間の丘を撫でる指にウズウズとしたものを感じた。

 

 まだ、入れてくれない。

 

 けれど、焦らされているのも心地良い。

 

 何よりもこうして交わらずに少年と触れ合うだけで幸せな思いに満たされているのが分かる。

 

 その甘い行為はまるで恋人。

 

 愛おしさが溢れて、吸われた胸の奥。

 

 トクントクンと高鳴るものが全身を優しさで包んでいく。

 

「パーパ。こっちも……ね?」

 

 少年が顔を璃紗の胸から離せば、ふわりとシルメイアが虚空に浮遊していた。

 

 顔の前にあるのは何も付けていない真っ新な股間。

 

 両足を持って大きく広げられた場所は尻穴まで丸見えとなっている。

 

 既に蜜をポタポタと滴らせ、胸に染みを作り始めた場所は剥き出しの小さな淫核(クリトリス)も愛らしく。

 

 唇を誘っていた。

 

 何を言わずとも、少年が今度は自分の前に持ってこられた幼くも淫靡なすじに舌を伸ばした。

 

 ヌチュ、クプリュリュリュ。

 

「ひぁぅ♡ ぁっ♡ ぁっ♡ ぱーぱぁ♡」

 

 少年の舌が先にすじの中央に挿入され、零れる蜜を絡ませて奥へと進み、唇が吸い付く。

 

「気持ちイイよぉ♡ おまんこぉ♡ もっと、おしゃぶりしてぇ♡ シルメイアにぃ♡ もっと、いけない遊び教えてぇ♡♡」

 

 チュコ、チュゴ、チュゴ、ヂュルル、グプ。

 

「んっ、ん゛っ、ぱーぱぁ♡ ぱーぱぁ♡ おいしい? しるめいあのおまんこぉ♡ ぱーぱせんようのこうびあなぁ♡ すきなだけおしゃぶりしてぇ♡ ぁ゛♡ ぁ♡ ぁぉ゛~~~~♡♡♡」

 

 グズグズに蕩けた膣を少年の舌で抉られ、蜜を飲まれながら、幼い身体は父に蜜を求められる背徳に媚びていた。

 

 舌を零して、はしたなく堕落した牝の顔。

 

 高位魔族にしてみれば、まだ赤子にも等しい少女。

 

 しかし、獣の交わりで得られる悦びを知った彼女は自らに相応しい牡に服従する女の性を甘受していた。

 

「ぱーぱのしたがぁ♪ ぐりゅってぇ♡ きもちいいとこぐちゅぐちゅしてりゅのぉ♡」

 

 少年の腕が引かれる。

 

「イクスぅ」

 

 自分にもして、と。

 

 璃紗の潤んだ瞳が切なげに訴えていた。

 

「♡」

 

 シルメイアが瞳を細めると。

 

 ふわり浮き上がった璃紗の身体がシルメイアの上に重なっていく。

 

 少年の前には双つの蜜を零したすじが露となった。

 

「ぁ、んっ♡」

 

「んぅ♡」

 

 淫核が重なり合ってジンジンと灼熱していく二人の裸体が今までよりも汗を滴らせていく。

 

「しよう? 二人で……」

 

 シルメイアが誘い。

 

 璃紗が頷く。

 

 二人の声がまるで一つに融け合うように少年の耳に響いた。

 

「イクスぅ♡」

 

「ぱーぱぁ♡」

 

「「してぇ……」」

 

「っ」

 

 少年の幹が大きく膨れ上がり、ウルが胸の間で今にも射精してしまいそうな亀頭に優しく口付けした。

 

 にゅる、くちゅ、ちゅぐ、ちゅぐ、ちゅぐ。

 

(イクス……)

 

 桜色の先端に舌を這わせ。

 

 膨れた傘を舌先で裏からなぞり。

 

 膨れた睾丸を押し潰すように胸を上下させ。

 

 零れる蜜を舐め取りながら、その時を待つ。

 

 それはウルにとって、歓びに溢れる行為だ。

 

 初めての時から何度かは少年にされてばかりだった。

 

 ようやくしてあげられるようになったのは体が弱くなってから。

 

 それも優しく交合(まぐわい)をする程度。

 

 愛撫や奉仕というよりは看病と言った方がいい。

 

 だから、少年にそうして自分の一番恥しく自信のある場所(むね)で慰める事が出来たのは彼女にとって、本当に喜びだった。

 

(わたくしの救世主様……なんて……どれだけ貴方に負担を強いていたのでしょうか……)

 

 自分よりも背が低くて。

 

 身体だって決して鍛えられているわけではない。

 

 その細い少女のような身体も、優しげに撫でてくれる腕も彼女より小さいのだ。

 

 なのに、自分よりも強いからと彼女は寄り掛かってばかりだった。

 

 知らぬ間に戦いへと赴き、帰ってきては寝込むようになった頃。

 

 そんな自分の弱さが悔しくて不甲斐無くて、何かしてあげたいと、何かを返したいと、そう思うようになって。

 

 けれども、出来る事は然程無く。

 

 だから、少年に見合う女として伴侶として牝として、彼女はよく女性誌なんてものを買うようになった。

 

 男性に尽す術。

 

 嬉しく思って貰える振舞い方。

 

 昔の自分ならば、男に媚びるなんて考え方すら無かっただろうに。

 

 真剣に学ぶようになった。

 

 卑猥な言葉だって覚えたし、男を満足させる性技だって練習した。

 

 少年がいない時は璃紗に娼婦の手管や交わり方だってこっそり訊ねた。

 

 妊娠を知ってから、あれこれと思い悩んでいた為、それを実践する事は遅れていたが、それも今日でお終い。

 

(イクス、わたくしの良人となるべき方……♡)

 

 何度も何度も熱を入れて。

 

 しかし、疎かにならないように。

 

 唇と舌が、胸を持つ両手が、少年の幹を心地良くする為だけに使われる。

 

 二人の少女の蜜を同時に舐め取りながら、両手で少年はウルの手越しにその巨大な胸を堪能していた。

 

 乳の圧力が何度も何度も寄せては返す波のように柔らかくも確かな快楽を刻み。

 

 熱心な口淫が睾丸をせり上がらせ。

 

 舌先のふたつのすじの奥。

 

 襞を味わう興奮に精が根元の奥で膨れるように溜まっていく。

 

「んっ、く……もぅ」

 

「イクスぅ♡」

 

「ぱーぱぁ♡」

 

「イクスっ♡」

 

 高まった想いがシルメイアと璃紗の魔眼に共鳴され、全員が同時に絶頂を迎えていた。

 

 グプ、ボビュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルッッッ!!!!!

 

「―――っ、んく、んぐんぐんぐ、ぷぁ♡」

 

「んやぁぁぁぁっっ♡♡」

 

「ぱーぱぁ~~♡♡」

 

 胸の間から吹き上がる子種を最初こそ呑み干そうとしていたウルだったが、あまりの量に何度か喉を鳴らした後に口を離してしまい、その白濁がビチャビチャと顔と胸を穢していく。

 

 それだけではない。

 

 あまりの勢いにシルメイアの髪と背中もドロドロに塗らされてしまっていた。

 

「あったかいよぉ♡ きもちいい……♡」

 

「イク、スぅ……♡」

 

 互いの身体を僅かに動かし、淫核を共に捏ね潰しながら、璃紗とシルメイアもまた恍惚として唇の端から唾液を滴らせていた。

 

「まだ、足りないよね?」

 

 胸の谷間の白濁と汚れた幹を舐め啜り始めたウルの横にシルメイアが降り立つ。

 

 璃紗が左、シルメイアが右。

 

 シーツの精液黙りに腰を下ろして、嬉しげに股間を疼かせる二人は少年の交尾を待てなくなっていた。

 

「一人ずつじゃ、シルメイアも璃紗も待ってるだけで壊れちゃうから、だから、ね……」

 

 父に妖艶な笑みを浮かべた娘が瞳を細めると同時。

 

 恍惚として夢中で少年の白濁を舌で味わい、清めていたウルがビクッと腹部に感じる熱さで固まった。

 

「んっっ、こ、これシルメイアなの?」

 

 璃紗が自分の腹部に浮き出てきた熱さの正体。

 

 小さな紅の単純な紋様。

 

 四つの線が筆で子宮の中心に向かうようなソレに身を捩った。

 

「これでみんなで一緒に気持ちよくなれるよ………」

 

 同じ形を腹部に浮かび上がらせながら、少女達がようやく待っていた交わりの時間が来た事を知る。

 

 未だ萎える様子もなく大きく屹立する少年の幹は精を噴出し終えてもビクビクと期待に蜜を零していた。

 

「ウルさん……」

 

 シルメイアの声に頷いて。

 

 胸が退かされ、膝立ちになり、股が開かれる。

 

「イクス……わたくしと交わって……また、この子達と一緒に可愛がって?」

 

 幼い少女達もウルに倣い。

 

 同じようにダラダラと蜜で糸を引かせる股間を少年の前に晒した。

 

 そうして、三人を相手に少年は頷き。

 

 夜は更けていくのだった。

 

 *

 

―――ハガス南部赤線街中央通り。

 

 アーギストは早足に現場へと向かっていた。

 

 妹達をゼオ家に運んで数十分。

 

 本来ならばとっとと家に引き篭もっているはずが、突如として空間の収縮現象が起きて、そのまま帰る事も出来なくなったのだ。

 

 都市は何処も祭りの前夜祭一色でごった返している。

 

 本番前に十分の一とはいえ花火も打ち上がるとあって観光客達の顔は頭上に向いていた。

 

 だが、彼の目は専ら地面に視線を注いでいる。

 

(この手際……間違いなく貴方の仕業だ……一体、何を……)

 

 見えざる変化は既にハガス全域へ及んでいる。

 

 もっとも重要なのは首都周辺と荒野。

 

 その内外に歪が生まれている事だ。

 

 まるで都市規模を覆う大結界の如き様相を呈する現象は一言で言えば、遅延だ。

 

 空間が伸ばされて、とある一点に向かって引き込まれた時。

 

 引き攣れを興した都市内部と外では時空間の上で相対的な差が出来た。

 

 外部よりも時間の流れが遅くなっているという事はどういう事か?

 

 単純に言えば、アイウィスと通常の世界の時間差現象がハガスとハガス以外の領域で逆転して起っているようなものだ。

 

(外との時間の差が広がっている……待て……この結果どうなる? 現在のハガスとそれ以外の場所に差が出来ると何が変わる? よく考えろ……)

 

 アーギストの明晰な頭脳がアルヴァスの現状と時間の遅延で起こる複数の事実を思い浮かべていく。

 

(……外が早く、中が遅い……外部から見れば、止まっている。内部から見れば早まっている。観測時には詳細な分析が外部から出来る。内部から外部に向けては……)

 

 そこでようやく彼は何故ハガスだけがそうされたのか思い至る。

 

「何か起こるのか。外からの支援が受けられるように……これは―――時間稼ぎ?!」

 

 ぞわりと背筋に嫌な悪寒を感じて。

 

 アーギストが天を見上げる。

 

 美しい花火が上がっていた。

 

 だが、予告される惨劇を遅らせる結界の中にあっては感動している場合ではない。

 

(まずい。あの男が予防線を張るような自体。この国だけで済まない可能性があるのか……まだアイウィスの拡大は途中……なら、訪れるのは今までで最大の―――)

 

 彼が敵の到来に気付いた時、ガラーンと何処かから鐘の音が響いた。

 

「………ジルムスの奴も戻ってきているようだし、労う意味で幾つか買って行ってやるか」

 

 アーギストはふと一瞬前に何を考えていたのかも忘れて、イソイソと周囲の出店から友人の好きそうな品をチョイスしながら、温め酒精を抜いた香料入り葡萄酒を買って帰路に付いた。

 

 本日は“異常無し”。

 

 しかし、気は抜けないと抜け目無く周辺のハガス異相の変化に気を配りながら。

 

 認識しているはずの異常も数値にも特に感想を抱かず。

 

 ただただ思いだけを強めていく。

 

 そうして夜は更けていった。

 

 何も問題は無さそうに。

 

 夜が明けない事すら、都市内部の誰の頭からも綺麗さっぱり抜け落ちていた。

 

 そうして、一日目の宵(あさ)がやってくる。

 

 終らぬ祭りは最高潮。

 

 初日を迎えて、熱気は湿り気を帯び始めていた。

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