第一章二十節「問答」
夜気に混じる遠吠えは悲しく。
月が紅く染まる。
広大な庭で立ち働く下人達の姿も既にもう無い。
豪勢と言っていいだろう夕食を少女と二人で食し、膳も下げられた後。
裏手の庭にある小さな池へ流れ込む清水の音と穏やかな涼風に当りながら、縁側で少年(ティア)は隣の少女を見つめていた。
蝋燭の明かりはない。
今日は満月。
風流には蒼い月が良いと言うものの。
紅い月もまた冴え冴えと世界を照らし出す。
御簾の奥でやる事もなく過ごすよりは庭の景色でも見ていたい。
そういう事なのかもしれなかった。
事実、何をしに来たとの少年の問いに子を孕みにと応えた長い髪の少女は蟲壷で己の穴を解す以外に夜の過ごし方を知らないという。
その口から語られた日常を文字にするなら至って単純だ。
起床し、朝食を取り、知識を詰め込まれ、食事を取り、知識を詰め込まれ、身を清められ、夜の勤めを果たし、眠る。
女性だけしか見た事の無かった箱入り具合といい。
男性という生物を知識としてしか理解していない事といい。
歪んだ常識で育てられた少女は今も清楚で可憐で無垢で悲しいくらいに自分というものが希薄だった。
それでも世界を見たいと願ったのはどうしてだろう。
誰が教えたわけでもない。
誰が伝えたわけでもない。
お屋敷を出て世界を見たいとの願いを果たして。
他に何かしたいことは無いのかと少年が問えば。
ただ今日の夜が楽しみですと答える。
明日には帰るだろう天御門分家の長である紅亜の子を孕む以外の使命もなく。
無為を伴として生きてきた少女は澄んでいて。
「御伽噺は好き?」
「え…」
突如の事に驚いただろう。
それでも少年は少女に世界にある多くのものに興味を持って欲しいと思った。
「こうしてぼんやりするのもいいけど、ずっとこのままっていうのも飽きるかと思って」
「ぁ、絵巻はとても好き、です」
「どんなのが?」
烙南が恥ずかしそうに少年を上目遣いに見上げる。
「そ、その……笑わないでくださいますか?」
「笑わないよ」
「はい。鶴の話が……」
「鶴?」
コクンと少女が頷く。
「鶴が青年に助けられて、恩返しにやってきて、やがて青年と別れる……そういう話です」
「聞いた事あるかな。昔、仲間が教えてくれて。確か、綺麗な子になって助けた人に嫁ぐって」
「はい。絵巻では恋をしたのだと描かれていて、それで……」
「恋……烙南もそういうのが好きなの?」
慌てて少女が首を横に振る。
「いえ、お付きの者が恋はいけない事だと教えてくれましたから。人は決められた方と貴人と結ばれるのが最上だと。それに、その……それがどういうものかよく分からなくて……好きなものとか。そういうものと同じものだと思うのですが、絵巻では恋としか書かれていなくて……」
恋が何か。
年頃の少女達ならば、誰でも知っている事。
しかし、男性と出会わずソレが何かを知らず。
ただ言葉としてだけ知識に留めた。
その徹底的な思想管理は自分の現状に疑問を抱かせない為のものだと少年にも分かった。
恋をすると人は変わる。
変化という意味では若い者にとってそれ以上の事はないかもしれない。
「あの……兄様は恋がどういうものか知っていますか?」
「昔、三回くらいはしたことがあるかな……」
「さ、三度?! 兄様は恋の経験が豊富なのですね! そ、その、恋とは何なのか教えてくださいますか?」
「はは、さすがに何かって言われたら困っちゃうけど。僕の考えでいいなら」
憧れを込めた瞳で聞かれて少年は苦笑した。
「恋は好きって事とは少し違うかな」
「やっぱり、違うのですか?」
「うん。烙南は人を好きだと思った事ある?」
「ぁ……その、お付きの者達には感謝しています。でも、好きというのとは違う気がしていて……」
基本的な好悪の感情すら育てられていない。
人間あって当然の感情が一部未熟というのは単に幼いというだけではない。
人を好悪で見れば、やがて嫁ぎ子を孕む事になる相手を拒絶するかもしれない。
それを畏れての処置か。
話す度にその内面の育っていない様子が見て取れて、少年は気を付けて話そうと心掛ける。
「好きって呟いてみて。烙南」
「あ、兄様?」
思わず顔を真っ赤にした少女の頭をそっと少年が撫でる。
「何も考えなくていいから。ただ言葉だけ。好きって」
「は、はい…好き…好き…好き…好き……」
「どう?」
「な、何がですか?」
「好きって言ったら此処が温かくならない?」
胸元を差されて、少女が自分の其処を見つめる。
「……よく、分かりません。すみません。兄様(あにさま)……」
決まり悪そうに謝る少女へ少年は首を横に振った。
「謝らなくても。もし、恋が何か知りたかったら、色んなものを思い浮かべながら好きって呟いてみればいいよ。それで思い浮かべたもので一番此処が温かくなったものが、今の烙南の一番。それがもしも人の顔ならその人に合う時は笑顔を浮かべて、優しくしてあげると尚いいかな」
「はい…好き…好き…好き……」
呟きながら、月を見上げて、少女は脳裏に多くを思い浮かべた。
お付きもの者。
絵巻。
天御門の家。
長である紅亜。
今日見かけた少女達。
月
食事。
己の髪。
星。
鏡で見た自分の顔。
蟲壷。
太陽。
勉学。
神門。
兄様。
「っ」
一瞬、燃えるような熱さが胸を過ぎ去って。
少女は首を傾げる。
「どうかした?」
「い、いえ、何でも、何でもありません……」
そっと脳裏に思い浮かんだ事を反芻する。
兄様。
夜。
穴解し。
「っ」
胸を過ぎ去る熱に再び少女は不思議そうに胸元を見つめて。
「ぁ、ぁの……兄様?」
「何?」
「今、その……兄様と穴を解す事を考えたら。その、胸が……温かくなりました」
「えっと、それは何て言うか。ごめん」
苦笑いで応える少年の顔を見て、内心好きと呟いて、再び胸に灯る温かさ。
その心地良さに少女は身動ぎした。
「兄様。もう夜です。わたくしの穴。解してもよい刻限……です」
かぁっと今までとは違うものが脳裏を巡って、袖で少女が顔を隠す。
「うん。そういえばごめん。壷壊しちゃって」
「いえ、兄様が……壷の代わりをしてくださるの。う、嬉しく思いますから」
「ありがとう。烙南……じゃあ、布団のあるところまで行こっか?」
少年が立ち上がり、手を差し伸べた。
手を取って立ち上がった少女は引かれるまま、寝所へと向う。
襖の奥の奥。
魔術具、乂羅では陰陽器(おんみょうき)とも呼ばれる超常の力を込めた小さな西灯(ランプ)が壁際にぶら下がっていた。
天御門の主との交合(まぐわい)を考えて設計されたのだろう。
部屋は全体的に紅色で大陸中央風の小物や家具が多数据え付けられている。
窓の無い薄暗がりで隠されていたものの、部屋の壁全体に掛かった幾つかの術は性交の快楽を高め、同時に内部の者を癒すように出来ている。
部屋の中央。
畳みの上に置かれているのは部屋の多くを占領している巨大な寝台。
天蓋付きの大陸中央製のものだ。
よく弾む敷布(マット)に軋まない骨組み。
これにもよく魔術が使われているのは明らかで幾ら上で飛ぼうが跳ねようが壊れないだけの強度が一目で少年には見て取れた。
同じような部屋は大国の王宮や後宮でもよくある。
それを屋敷の中に再現したという時点で無理があるのかもしれなかった。
そもそもが乂羅では秘事は大っぴらに出来ぬ事であり、だからこそ寝所もそれ程は大きくしない。
これが大陸の別地方なら広大な寝所となっていた事だろう。
「兄様」
「あ、うん……」
少女に促されて寝台の上に少女を追って上がった少年は大きな絹と羽毛製の枕を抱き締めながら自分を見上げる少女が緊張しているのだとすぐ見て取った。
「いつも寝る時はどうしてるの?」
「お付きの者が髪を解いてくれて、服を脱がした後に蟲壷を……」
「じゃあ、まずは髪を解くところから始める?」
「はい。その、昨日からは一人でするようにと言われていたので。少し上手くいかなくて……」
「これだけ長い髪だと確かにそうかも」
「い、いえ。髪はその、飾りの玉石が近くにあれば痛まぬようにしてくれて、それで髪の手入れや編むのは簪がしてくれるので……」
そっと細く白い手が己の髪に刺さった簪を引き抜いていく。
するとシュルシュルと勝手に髪が生きているように解けて絡まぬように寝台の下へと流れていく。
「便利だね」
「そうなのですが、髪を解くと着物を脱ぐのが……」
少女を着飾る衣装は基本こそ着物であるものの、確かに脱がせ方は複雑であるように少年には見えた。
ただ帯びを解いて胸元から開けば全て見えるというものでもないらしい。
「手順を教えてくれる?」
「ぁ、はい。兄様」
少女の指示に従って少年は服の紐を解き、脱がせていく。
数分もした頃。
ようやく着物らしく帯びや他の装飾が外れた衣装は少女の身体を中心からゆっくりと見せていく。
「見せてもらうから。烙南……」
「どうぞ。兄様……」
はにかんで。
少女は自らの衣装を後ろに脱ぎ捨てた。
パサリと落ちた服が勝手に寝台の下へと落ちて畳まれてゆく。
一人でも滞りなく自分の使命を全うできるようにとの配慮か。
そこまでして魔術的に自動化された儀式はしかし蟲壷という中心を欠いて既に瓦解している。
それを知っているのは少年ばかり。
「綺麗だよ」
「兄様(あにさま)に褒められました。わたくし……」
肌を晒す羞恥よりも己に掛かった賞賛を素直に喜んだ少女の頭を今日幾度撫でたかも分からない手が幾度目かも分からないまま触れる。
「ん……」
「これからは蟲壷の代わりに僕がするから。だから、少しずつ慣れて、ね?」
「はい……兄様……」
そうして指と肌が交わった。
*
――――――七教会遺宋支部特別礼拝堂。
乂羅において教会の権威は比較的低い。
その理由は諸説あるものの、最終的な多数の見解によれば教会による教化や技術指導、道徳教育等が必要とされていない現状が最大の要因であると言われている。
大陸に跋扈する悪徳を絶つと言って憚(はばか)らない教会の者は多い。
実際、劣悪な環境に苦しむ民は多く。
差別や身分制度に怨嗟の声を上げる者は更に多い。
その結果、七教会による多くの支援は人々にとっての福音と成っている。
事実、教会を弾圧する国家程に貧しくなるという統計すら存在する以上、それは誰の目にも明らかなものだった。
しかし、極東の乂羅においてはその教会の経験則が当て嵌まらない。
それはつまり国家が安定して民が豊かであるという証左に他ならず。
未だ神門による帝政は人々から支持されている。
だが、それでも他の国と変わらず権力闘争に明け暮れている者はいる。
天御門と土御門。
嘗て開祖たる神門から別たれた二つの家。
今やそのどちらかが神門を輩出するかで権力の趨勢は決まるようになった。
片方の家が神門を出せば、次の神門が出るまで片方の影響は低下する。
その間に没落した家は再び力を蓄え。
次代の神門を生み出す為に全力を傾注する。
二家の競争による機構は千年を超えて健在であり、乂羅の安定にも寄与する事となっていた。
裏でどれだけ薄汚い行為に手を染めていようと多くの人間から望まれた結果として、未だ二つの家には乂羅の権力が大きく集中している。
議会制民主主義をあざ笑うかのように。
「ぁあ、嘆かわしい。貴き御神を信じず。未だ神門等という下劣なる機構に頼り、権力闘争を飽きることなく続ける。罪深い。大いに罪深い。皆さん……このような事をもう許してはいけないのです。こんな事を続けていてはやがて来るべき救いの日に我々は救われない。人々の英知たる技術を持って豊かさを、人々の願いの粋たる民主主義を、この世に根付かせずして人は前へは進めないのです。ですから、どうか……我々に力を…貴方達の力をお貸しください」
地下50m。
嘗ての教会勢力が弾圧された時に産み落とされた深い闇の聖堂があった。
「ああ、お助け下さい!! お助けください!!! 教主様!!!」
今日も乂羅という国から弾き出された者が一人、蝋燭が数本だけの礼拝堂の中、多くの者が顔を隠し、身分を隠し、奇跡へと縋る場へとやってくる。
「お願いでございます。お願いでございます」
教会奥。
壇の上で説教を行っていた美しい黒髪の女が闇に木霊する声に応える。
「おお、迷える子羊が今日も。皆さん。どうか道を」
言われるまでも無く。
既に真っ直ぐ人垣は割れていた。
その間をヨタヨタと五十代程だろう煤けた顔の女が何かを抱いてやってくる。
「こ、この子をお助け下さい!! き、昨日から熱を出して!! で、でも、この子は!!」
「ああ、分かりました。言わなくても良いのですよ。間引きから助けた子なのですね?」
何度も何度もボロボロの外套に身をやつした女が涙ながらに頷く。
「命は全て貴いものです。確かに多くの欠陥を持って生まれてくる子もありましょう。ですが、それもまた救われるべき命なのです。それに見た所……この子は何の異常もない身体をしている。それなのに。ああ、それなのに間引く等と……乂羅において望まれない子は生かしてはならない。そう、男の意に沿わぬ子は……神門を産む二家の慣例に習う男達。ああ、許してはいけません。許してはなりません……」
「お助け下さい!! お助け下さい!!」
「勿論ですとも。さぁ、少しその子に触れさせて頂けますか?」
女の手が、美しい女の木乃伊のように皺枯れた手が、襤褸にくるまれた子に優しく触れた。
「もう大丈夫。この子が健やかに育つよう祈っていますよ」
赤子の状況を確認した母親が、その顔に生気が戻った事を確認して。
滂沱の涙を流す。
「ありがとうございます!! ありがとうございます!!! このご恩は一生忘れません!!!」
「良いのです。良いのです。誰も彼もが罪深き身。此処にある身もまた同じ。さぁ、気付かれる前に家にお戻りなさい」
「必ず!! このご恩は必ず!!!」
「ふふ、神のご加護を……」
再び信者達の中に紛れ消えていく女を見送って、再び枯れた手を修道服の中に戻した女が声を張り上げていく。
「今の子もまた現代における乂羅の病に侵されていた。無知という大人たちが掛かる病にです。これでは……そう、これでは救われない。救われるはずがない。皆さん。多くを失い、人々から蔑まれ、何もかもを失い、全てを嘆き、多くを憎んだ。そんな皆さん。あなた達の意思は、あなた達と同じ運命を辿る子は、未だ、この乂羅に幾多います。ですから、どうか、どうか、この無力な身に力を……多くは成せなくとも、乂羅の病を治す為、どうかその手をお貸しください……」
教主と呼ばれた女の声の終りと共に聖堂が揺れた。
暴音。
そう呼んでよいかもしれなかった。
恐ろしい程の絶声。
世の理不尽に怒る者、嘆く者、悲喜交々に全ての声は教主の意見に賛同を協賛を吐き出す。
教主が手を上げると同時にその声はすぐに静まり返った。
「ありがとう。ありがとう。皆さん。では、私も皆さんの声に応えねばならないと思います。昨日、この遺宋にある天御門の分家筋に土御門の者が入りました。また、また神門を拵(こしら)える為の生贄を二つの家が出し合ったのです。また、神門による長き支配に多くの者が虐げられる、その始まりを作ろうとしているのです」
ガヤガヤと憤りの声が上がる。
「ですから、どうか。皆さんにお願いがあります。もうあの家に住まう天御門の者も土御門の者も解放して差し上げましょう。この地に住まう者ならば知っていましょう。あの仲の良い兄妹の事を……それに土御門の者も可愛らしい女の子だとか。そのようなまだ若い無垢なる子達が両家の贄にされてはなりません。御神は贄より人の子を救うのを喜ぶのです。ですから、あの家を打ち壊し、あの家からあの子達を救うのです!! 最初はきっと嫌がるかもしれません。ですが、それも家の教育故。まだ若い子達ならば、きっと…我々の想いを分かって頂ける事でしょう。刻限は明後日の深夜……もし無垢なる子達を救いたいと願う方がいれば、どうぞ、お力をお貸しください……」
深く頭を下げて、教主が壇上の後ろ、緞帳の中へと消えていく。
それに祝福の声が幾多上がった。
教会の者達が今日は終わりですと告げながら聖堂から人を吐き出させていく。
遥か地上。
偽装された幾つもの出入り口に向けて人がばらけて昇っていく。
やがて、聖堂から人がいなくなった。
緞帳より先、細い石の通路が続く闇の奥。
大きな天蓋付の寝台が置かれた部屋に足音が帰る。
主の足音に複数の眼球が出入り口であるドアを見つめた。
「ただいま。我が子達。我が愛し子達……お前達の母が帰りましたよ」
「お母様ぁああ♡」
「ははうえぇぇ♡」
「かあしゃまぁ♡」
「ママァアアァ♡」
幾人も幾人もそこには少年達がいた。
人とは違う外見をする者ばかり。
獣の耳や尻尾を持つ者。
鱗の肌を持つ者。
人間よりは獣や魔族に近いかもしれない外見。
そんな幼く見える子ばかりがわらわらと教主の女に群がった。
「おお、良い子、良い子です。母の事を考えて、もうこんなにしていたの? ふふ、これはまた躾けてあげなければなりませんね」
「躾けてくださいませ♡ かあさまぁ♡」
「兄様みたいにおっきくしてくださいませ。ははしゃま♡」
「ぁあ、ママのお手てぇいいよぉ♡」
少年の達の誰一人として服は着ていない。
それどころか教主の女の衣服を言われずともゆっくりと脱がしていく。
「ふふ、今日は皆さんにお願いをしてきたのよ。どうか、お力をお貸しくださいって。これで【幽国の士】の活動も大きく前進します。そうなれば、お前達を日の光に当ててやれるからね?」
「お母様ぁぁ♡」
「あらあら、そんなに大きくしてこすり付けて…いいでしょう。さぁ、いらっしゃい…」
教主はそっと寝台の中央に横たわった。
その乳房に両側から獣の子が二人ずつ吸い付き。
その手には魔族の血が入った子の幼い肉棒が握られる。
残った二つの穴には肉棒を二つ持つ鱗を持つ子が跨り。
眼球が縦に割れた人の姿を持つ子が顔の上から己の竿を教主の口元に垂らした。
一斉に始まる行為に教主の瞳が濡れ始める。
優しげにそれでも男の欲望のまま乳房が舌で扱かれつつ吸われ。
皺枯れた両手を労わるように肉棒が肌を摩り。
下の二つの穴を鱗付きのイボも大きい幹が抉る。
「ん゛お゛お゛お゛♡ 良い子!! 良い子ですよ!! お前達!! 我が愛し子達!!!」
口元にある大きくなってもまだ指二つ程の竿を口に含みながら、教主は悦楽に浸った。
そうして、少しずつ、少しずつ、その皺枯れた手が瑞々しさを取り戻していく。
性行による魔術行使は神世の時代から続く最も古き超常の技能の一つ。
世界最古の職が巫女、女が身体を売る事であると同じに。
その古い古い魔術体系の一つを治めた女の手はやがて若々しく瑞々しいものへと生まれ変わった。
「かあしゃまぁぁ♡♡ いいのぉぉぉ♡ おちんちんすごいよぉおお♡♡」
「白いのでます♡ ママのお腹にびゅーってぇぇ♡♡」
「ははしゃまぁぁ♡ お手て汚してぇごめんなさぃぃぃ♡♡」
「良いのです!! 良いのですよ!! お前達!! 我が愛し子達!! さぁ、達しなさい♡ 母が躾けてあげます♡ お前達のはしたないおちんちんはみんな母に捧げるのです♡」
少年達の野生の雄叫びが木霊する。
数人分の精が幾度となく教主を染め上げた。
ブビュ、ビュブ、ビュボ、ビチュ、ビュチュ。
精に白く全身を化粧されながら、ふらりと倒れていく息子達を愛おしそうに抱き締めながら、教主は虚空を見つめる。
蝋燭に照らされた薄暗い部屋の虚空。
教主の視線の先。
黒い棺が一つ浮かんでいた。
少年達は気付かなかった。
しかし、教主には最初から見えていた。
それは嘗てディシグニア国境地帯でダークエルフの青年を捉えた棺。
「ふふふ。あぁ、御神よ。全てはあなたの御心のままに……この子達を救う力をお授けになった事、忘れません。ええ、忘れません。御子様は今も故郷でお忙しいご様子……その間はわたくしめが……あなた様の御心をご代弁いたします……」
棺の蓋が僅かに開く。
そして、その奥からゆっくりと黒いものが少年達を包んだ。
「ああ、御神よ♡ 我が子等を祝福して下さるのですね!!? 何という慈愛!!! 何という慈悲!!! ああ、全員こんなに逞しくなって♡♡♡」
教主は唾液を垂らしながら、ゆっくりと立ち上がる我が子達を見つめた。
「かあしゃまぁ♡ おちんちんあついのぉ♡」
「ははしゃまぁ♡ おまんこ使いたいよぉ♡」
「お母様を孕ませたいよぉぉぉぉぉぉぉぉ♡」
少年達の雄槍は見事に成長していた。
大の大人も超す大きさに教主が蕩けた笑み浮かべる。
「いいですよ♡ さぁ、この御神が与えてくださった御ちんちんで母の子宮に子種をびゅーびゅーしなさい♡ 種付けてちゃんと孕ませるのですよ♡♡」
『母様ぁあああ♡♡♡』
強引に二人分の幹が膣(なか)に押し込まれた。
それと同時に乳房の中央にも一本ずつ牝穴のように腰が叩き込まれる。
膨れ上がった乳房の奥は既に蜜で溢れていた。
口にも巨大な一物が喉の奥まで撃ち込まれ、そのまま射精を開始する。
眼球を裏返しそうになりながら、教主は幾度となく絶頂していた。
しかし、それも子宮を独り占めした子が射精するまでだった。
「いく!! いく!!! いくぅぅぅっ♡♡♡ おかあしゃまぁああああああああ♡♡♡」
それはもう射精というよりは砲精というべき行為だった。
子宮口がガッポリと開き切り、その奥へと精を全て吸い込んでいく。
「ん゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ♡♡♡♡♡♡」
背筋を何度も何度も逸らせながら、教主は牝として子供達に服従させられていく子宮の感触に絶大な悦びを感じた。
「お前達ぃぃぃぃ♡♡ 母の子宮を征服するのです♡♡ そして、一杯種付けして牝を知りなさい♡♡ 孕んだ子が生まれたら仲良くするのですよ♡♡」
素直で可愛らしい返事が幾度となく返る。
そして、膨らんだ胎を見て、少年達は次に母を受精させる者を視線だけを交わして決めた。
「母様ぁぁ♡ ぼくの赤ちゃんも孕んでよぉ♡ 一杯一生懸命種付け射精するからぁ♡♡ 母様の卵一杯犯すからぁ♡♡」
「良いですよ♡ さ、さぁ、母の子宮、牝の味を知って立派になりなさい♡ 立派になって、お前達の子も娘なら犯してあげるのですよ♡ それが優しさというものです♡」
「うん♡ 母様ぁあああ♡♡」
「ん゛へ゛ぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ッッ♡♡♡」
既に教主の神々しさも威厳もなく。
雄の種付けに喜ぶ牝と成り果てた女は自分の子宮の奥。
卵巣から排卵された無数の卵が息子達の精にプチュプチュと刺され、犯されているのを感じながら、その受胎の悦びに顔を歪ませ、舌をだらしなく出して狗のように叫んだ。
轟々と人のものとは思えない獣達の宴に黒の棺はゆっくりと蓋を閉じ。
再び闇の奥底へと消えていく。
教会に集まっていた人々。
その大多数が天御門分家を襲撃したのはそれから二日後の事だった。
*
魔の森での湧魔掃討を終えた憲兵学徒隊は全て予定通り。
次の日の昼には帰る為の準備を着々と消化していた。
朝、装備の片付けと幕屋の撤収作業などやる事は多い。
しかし、その最中で学徒達の一部は作業も漫ろに会話に花を咲かせている。
『何か足りないと思いませんか?』
『何がだよ?』
『うん。足りないとオレも思います』
『だから、お前ら何が足りないんだ?』
『お前……分かるだろ?』
『何が、だよ?』
『鈍い奴め。そんなんだから、三条通りのカフェの子取られたんだよ』
『決闘するか?』
『や、やめなよ。二人とも!!』
『それで何が足りない話だったんだ?』
『ああ、ほら、昨日可愛い子達がいたじゃないか。青嵐上級曹長が紹介してくれた』
『あ、ああ、お客様で少し自分達の事を見せてやりたいってアレか』
『そうそう。あの子達可愛かったなぁ……』
『顔が緩んでるぞ。腕立て百回とか曹長にされたくなかったら引き締めとけ』
『はっ、う、うん。危ないとこだった』
『どうしてあの子達の姿が見えないのかって事か。つまり』
『そうそう。誰かあの子達何処に行ったか知ってる?』
『いや、知らないな』
『あ、オレ知ってるかも』
『ほう、話を聞こうじゃないか』
『何だか朝早くに「やはり気になる……」とか真面目な顔で呟いてて、それで魔術具を借りてた』
『何借りてたんだ?』
『確か、あれは短距離転移のやつだったような』
『おいおい。よくあんな高価な道具が貸し出されたな』
『まぁ、そこは天御門分隊長のお客様だからな』
『へぇ、一体何が気になったんだろうなぁ』
『そういや、あのダークエルフの子も何だか昨日はそわそわしてたな』
『ああ、あの凄く綺麗な小さい子も“にぃさま”とか呟いてた』
『『『『……』』』』
『にいさまってあの何だかナヨナヨした奴だよな?』
『ああ、間違いない』
『でも、似てなかったよな?』
『ああ、確かにそうだな』
『きっと、血とか繋がってないよな』
『そんな気がする……』
『男は筋肉!!! 筋肉がない男なんて男じゃない!!!』
『ちくしょう。世の中、理不尽だぜ……』
『これがオレ達みたいな体育会系が出会う人生デッドリーモードって奴か』
『く、大陸中央の諧謔(かいぎゃく)をオレも身に着けてダンデーなフレーバーを漂わすぜ!!!』
『皆さん。何をしているんでしょうか?』
『『『『?!!』』』』
『お仕事頑張ってますか?』
『『『『勿論であります!!! 青嵐上級曹長殿!!!!』』』』
『あ、でも、とってもまだ余裕があるようなので残り、片付けておいてください。では』
男子学徒達が横を見る。
青嵐の言った“残り”の山に絶望しながら、彼らは誓った。
優男は絶対に許さない。
ナヨナヨ坊やなんて言語道断。
優男に死の洗礼を、と。
『ティアさん。また、女の敵になってるんですか……』
溜息を吐きながら、青嵐は都の方角を見つめた。
揃って“やっぱり心配だから早めに屋敷に戻りたい”と頭を下げた少女達。
そんな風に思われる少年は今何をしているのだろうかと。
青嵐の予測通り。
天御門家には主にイフィミスラを主原因とする感情の嵐が吹き荒れていた。
*
何度もこけそうになりながら走って走って。
少女はイフィミスラは自分がどうしてこんなにも走っているのか分からず。
それでも何だか胸騒ぎがして道を急いでいた。
いや、美しい白い少女と少年の姿に胸の奥がもやもやしていたからという無意識下での不安はあったかもしれない。
それに続くナーリャはエフィリムを小脇に抱えている。
朝の都。
その通りを走り抜けていく少女達の姿は物珍しいものではあったものの、すぐ雑踏に紛れた。
やがて、少女達が大きな門へと到達する。
「か、帰ってきた、な……」
「疲れた。ナーリャ眠い……」
「なーりゃおねぇさま。おつかれさまでした。えふぃはもうだいじょうぶですから、おろしてくださってもかまいません」
「ん……」
疲れたと言いながらもお姉様発言に嬉しそうな顔をしたナーリャはエフィリムの頭を撫で撫でした。
「ゆくぞ。今日はちゃんと手伝わせなければな」
三人が小門を叩き、下人達が頭を下げて閂(かんぬき)を外した。
庭ではさすがに走らなかった三人は一端少年が寝ているはずの離れに向かったものの、其処に姿が無いと気付いて本邸へと向かった。
「一体、何処にいるのだ」
本邸の奥。
土御門の姫がいるだろう部屋へと向かったイフィミスラは襖を開けては部屋を確認していく。
やがて、他とは違う煌びやかな意匠が施された襖。
それが幾枚にも渡って視線を遮る部屋へと辿り着いた。
「此処か。まったく何をしているのだ。ティアは……」
襖をスパーンとイフィミスラが開け放つ。
「ティア!! どうして離れにいな―――」
「ティア。寝てる」
「てぃあにぃさま。あぅ///」
ナーリャは何とも無さそうに、エフィリムは顔を赤くして、イフィミスラは顔を引き攣らせて、三人同時に沈黙した。
巨大な天蓋付きの寝台。
その上から部屋の床に流れている白く長い髪。
肌まで白い土御門烙南の姿態は見る者に美しさ以外を感じさせない。
今は寝乱れた幾つかの髪がその身体に絡まっていた。
その横、烙南が顔を埋めている身体が一つ。
少年は少女の乱れた髪に包まれながらスヤスヤと寝ていた。
それだけではない。
烙南の股間の下のシーツには大きな沁みが広がっている。
「……ぅ」
「?」
少年がそっと目を開けて、明け方の闖入者(ちんにゅうしゃ)達に気付いた。
「あ、イフィミスラ…おは……」
「ふく、く…ぅ…ぁ…ぅぅ」
ポロポロと零れていく涙に少年は言葉を失う。
二人の少女達が心配そうにイフィミスラに寄り添った。
「えっと、ごめん……」
さすがに空気を呼んだ少年の声に全てを感じ取って、イフィミスラは怒りよりも悲しさよりも先に立つ不安を押し殺すように寝台の少年の胸に飛び込んだ。
一連の騒動にようやく目を覚ました部屋の主である烙南がぼんやりした視線を少年と少女の姿に向けて、驚きに目を丸くしたと思った時には気を失って倒れ伏した。
横の手でそれを抱き留め、またそれを見てイフィミスラが泣き、少年は二人の少女達を見る。
「泣かせた。ティア……」
「てぃあにぃさま。いふぃみすらねぇさまがかわいそうです」
四面楚歌に陥った少年が事情を話せるようになったのはイフィミスラと烙南が落ち着いた後。
その少年と少女達の駆け引きが恋の一端であると未だ烙南は知らない。
結局。
少年は密やかな烙南との睦み事を三人の少女達に聞かせるはめとなった。