第三章百十九節「无儚餐爾Ⅷ」
深く深く潜り続けて。
ようやく少女は最後の扉へと行き着く。
【理想器(イデアライザー)】
嘗て、そう呼ばれていたお守り。
その最終セーフティーの奥。
裏コードに等しい走り書きの画像が表示される。
見れば、それが父親の筆跡だと分かって、エストリアは……その感情を今は封じ込める。
少年を救う為、全てを掛けて方法を見付ける。
彼女がそれを為すならば、それは己の力たる【OEDS】の内部にしかない。
そもそもハイダル・エス・トリアは凡人だ。
父や母、兄の影響で機械には詳しく理数系であるという以外に何か取り立てて能が無い。
自分の恋人が魔王とか。
殺さなければ、世界が終わるとか。
そういうのは物語の中だけで良い人種だ。
偶々、自分が好きになった人が魔王と呼ばれていて。
偶々、自分の家族が世界を救うかもしれない力を造った。
それにどんな因果があるのだろうと。
彼女にとって、それは然して特別な事には思えない。
少年と結ばれた時より。
少年と笑い合った日常より。
重いはずもない。
だから、その自分を特別な場所まで連れてきたお守りに恋人を護る方法を探すのは当然だった。
自分の頭の出来でどうにかなる事でないのなら、天才と謳われていた兄を、研究を人々の役に立てようと研究し続けた両親を、信じる。
それだけが彼女に出来る事だった。
思った通り。
超越解釈領土機構(オーバー・エグゼゲシス・ドミニオン・システム)。
その複雑精緻のプログラム。
システム・カーネルの最奥でソレは見付かった。
蒼き地平線の彼方に浮かぶ文字列。
幾つものコードを見てきた彼女にもその意味は判らない。
ただ、辞書で牽けば、それは天と記されている。
瞳の端から涙の如く顎までも伝う耀きが零れる。
今は白く白く白熱している。
全ての処理能力を限界まで使っている【視宝泉(ジェミス)】の終わりは近い。
焼き切れないよう騙し騙し使ってはいたが、それも脳機能に直結されている関係上、長い間使えば、大きな代償を払う事になるだろう。
「コードを入力……」
何も無い暗闇の中。
脳内に構築した仮想空間内部にゆっくりと鋼の螺旋と鋲が溢れ出し、大きな門を形成する。
躊躇い無く開けば、その先には―――美しい景色があった。
牽かれて彼女が内部へと歩を進める。
其処には夕景に包まれた山岳を見渡す高原。
その日差しを見据えて座る背中が一つ。
紅葉に色付き。
黄昏に色付いた。
テーブルに腰掛けるのは白髪に白い長髭を蓄えた。
温和な笑みを浮かべる老人だった。
手がそっと向かいの椅子に促せば。
彼女は座らざるを得ない。
「あなたは?」
「君のお父上に救済の茶番を吹き込んだ男。その成れの果て……あの魔術師の祖も君の父上も知らない……この機構、最後のセーフティーだ」
「教会……もしかして……前代の総主教ですか?」
「そう呼ばれていた。しかし、今は魂と情報の塊に過ぎない。本人そのものと言うには……変わり過ぎてしまった……」
老人はテーブルの上にツイっと指を奔らせ、小さな映像をその上に映し出す。
其処には少年の姿があった。
何処か自分の知るイクス・ゼオとは違う笑みを浮かべる同じ顔。
それが過去、魔王と呼ばれていた時の愛しい人の姿だと気付いて、彼女は瞠目する。
映像の数がゆっくりと増えていく。
その全ての中、彼は戦い続けていた。
壮絶、凄絶、この世の地獄、全ての悪と謗られ、神も魔も人も七人の聖女達を前にしても退かない……あまりにも見るに耐えない日々。
「これがイクスさんの過去?」
「ああ、君が愛した男の真実だ」
涙は流れなかった。
流さなかった。
彼女は知っていた。
少年はいつだとて、憐れまれる事なんて望んでいない。
そんな哀しい顔をされるより、傍にいてくれる方が嬉しいと言うに違いないと分かっていた。
「どうして、私のお父さんとお母さんにこんなものを創らせたんですか? そんなにしてまで救済とやらはしなきゃいけない事だったんですか? イクスさんは……昔の魔王はそれを望まなかった……それじゃ、ダメだったんですか?」
少女の表情は複雑過ぎて形容も難しかった。
怒り、悲しみ、憎しみ、痛み、切なさ、どれもこれもが混じり合う貌《かんばせ》。
どの感情も本当で真実に彼女の思いだ。
「総主教の日誌。あれには書かれていない幾つもの真実がある」
「真実?」
「天が七つを超えし時、大母の願いは果たされん」
老人は溜息を一つ。
そして、黄昏時の空に視線を向ける。
「なれど……黒の棺、目覚めし時は七つを天に還さん」
「それは?」
「大いなる母。この星に発生した全ての知的生命の母。根源たるもの。彼女は君達が戦った外なる神々と本質的に同列でありながら、君達と同じように寂しさを感じる生き物だった。そんな存在が遺したとされる一節だ」
「その大母とやらが全ての元凶だと?」
「いいや、事はもっと複雑だ。この事実を私が知ったのは死後、この機構に己を部品として組み込んだ際の話だ」
「死んだ後……」
「ああ、教えてくれた者がいた。彼、彼女……いや、魔族の世界において“あの方”と称されるもう一つの“天”……イクス・ゼオの兄弟に当たる者からの情報だ」
「イクスさんの兄弟……」
「その存在曰く。全ての始まりは確かにシンア・ザ・クリティカル・アンラッカーの母親……大母の願いから始まった。だが、それはあくまで始まりにしか過ぎない」
「……母親がイクスさんに、魔王にあんな運命を背負わせたんですか……魔王として戦って戦って戦って、最後に人類を救済させる……そんなのってッ……哀し過ぎますッ……酷過ぎますッ……イクスさんは沢山沢山傷付いて……なのにッッ……」
思わず激昂した彼女の顔は泣きそうだった。
もしも、今のが真実だとすれば、全てが遣り切れなかった。
戦い続ける少年が襤褸布のように千切れていく姿。
劫火に焼かれていく姿。
幾度、凄惨な死を迎えたのか。
映像は未だ示し続けている。
それが実の母親のせいなのだとすれば、其処に絶望を感じない子供がいるだろうか。
「それは我々人間の尺度なのだ……エストリア嬢」
「ッ」
睨み付けられても、老人が静かに話を続ける。
「元々、主神すらも凌ぐ高位の存在は確認されていた。教会の主神であり、天界を生み出した“翼の天”……魔族の住まう酷界を生み出したと言われる“惑なる天”……そして、【異種(バルバロス)】の原種と異相を生み出し、十数年前の大戦期前後に消失した天……彼らは全てイクス・ゼオの兄弟であり、姉妹であり、同時に運命そのものだった」
「運命ってッッ!? どうしてイクスさんが悲しい目に合わなきゃならないんですか!?」
「この宇宙の理には根源的に破滅が含まれている。生きていれば、死ぬ。それと同義の事を彼女は……大いなる者達の母は許せなかった」
「意味が分かりません!?」
「彼女は死なない。天と呼ばれる存在は須らく永遠だ。だが、彼女は自分の息子達、娘達……つまり、自分から派生した全知的生命達に永遠を与えたいと願った。種族の繁栄と永劫の物語を持って……無限の孤独から救われようとしたんだ……」
「そんなッ、そんな事の為にッッ、イクスさんはそんな身勝手な願いの為にッッ、戦い続けてきたって言うんですかッッ!!?」
少女が強く強く白くなった拳でテーブルを叩く。
「元々、天は世界を創(う)む者として世に生を受ける。だが……最後の天は違った。そう、彼は……“業なる天”……シンア・ザ・クリティカル・アンラッカー、ティア、イクス・ゼオ、そう呼ばれてきた彼だけは……新世界の創造を否定し、今が続く世界を求めた」
老人は少女に見るよう促す。
映像の中。
少年はいつだとて笑っていた。
戦う時、彼の後ろにあるのは常にこの世界だった。
いや、それよりも小さい命や街や国だった。
人ではない事もあった。
物である事すらあった。
事であったのもザラだ。
でも、いつもいつも戦う理由は守る為だった。
小さな娼婦の願いの為に軍隊を退けもすれば、大きな国の王に背中から撃たれると知りながらも力を貸した。
大小など関係無く。
今、其処で苦しむ誰かを助けたい。
そんな彼の背中側で救われた誰かが確かに存在していた。
「イクス、さん……」
少女は泣かない。
そうする時は少年を助けて、一緒に皆で帰る時と決めていたから。
「五千年前、総主教の日誌を書いた最初の聖女マリアもきっと最も可能性の高い未来、その救世主がどうなるか知っていたはずだ。それでも彼女は人類の永続を、自分の愛した男の種族と沢山の命の為に……不完全な預言を書き残した……今の私にならば、分かる……信じていたはずだ……それでなくて、どうして未来が破壊され、運命が消えたはずの世界の先まで予見していたかのように教会を導ける……」
「どういう事ですか?」
「十数年前、世界の全てと魔王が戦った黄昏の悠久戦争は魔王の勝利で幕を閉じた。それはつまりイクス・ゼオの兄に当たる翼の天……教会の唯一神の消失によって、今までこの世界を護ってきた運命が消えるという事だ」
「運命が、消える……」
「そうだ。この世界の保険……安全を担保していた破滅への防波堤……世界そのものたる天の消滅はつまり同時に予定調和の救いが無い事を意味する」
「予定調和……この世界は最初から滅ばない事が決まっていた? でも、破滅から救われる為にイクスさんが戦わせられてたんじゃないんですか?」
「その通りだ。エストリア嬢。君は高位存在の想像する救いがどのようなものであるかを知っているかね?」
「……分かりません」
「超越者と人類が括る連中の言う救いは大抵、人の思うソレとは規模が違う」
「規模……」
「運命という概念は人が生み出したモノだが、人類発生以前から運命というものは漠然と存在した。それは確定している事象から差し引かれた過程を言う」
「確定している? それって……」
「そうだな……分かり易く言えば、誰かが決めたものに沿って動く状態を運命と彼らは呼んでいた。世界の破滅という事象が起ころうとして、誰かがそれを止めようとする。その時、Aという人間が失敗しても、超越者達は何ら気にする必要は無いと思っている。何故なら、運命はそれが0.1秒後の破滅だろうとも、Bという救済者を事前に用意しているからだ。因果律導線。運命糸(リネア・フェイティ)……原因と過程と結果の輪舞を握る“天”は全ての事象を可能としていたんだ」
「イクスさんは天……でも、それなら教会の天や他の天だけでいいはずですよね?」
「ああ、そうだ。運命が操作出来るのにどうして業なる天が必要とされたのか。その理由が君達の戦っていた存在だよ」
「外なる神々……彼らは運命じゃ制御出来ないって事ですか?」
「ああ、彼らは常に絶えず宇宙の侵食へと動いている。だから、人類の消滅は遠い未来には現実のものとなっていただろう。故に五千年前の大侵攻後に最後の天が生まれるという事実は確定した……今までの天は宇宙内部に別の宇宙とも呼べる空間を生んだが、宇宙の外からの攻撃には無防備な世界だった。だが」
「イクスさんの生み出す世界は他とは違うものになる予定だった?」
老人が頷く。
「イクス・ゼオが創り出す世界は外なる神すらも干渉不能の代物……大母はそのように彼を産み……彼は教会の唯一神の操る運命によって、外なる神すらも退ける七つの力を得て後、今の世界の全てを己の中に封じ込め……外なる神々と同等となる事で世界の守護者、世界そのものとして最誕する手筈になっていた」
「世界の救済……宇宙の最誕……宇宙そのものにイクスさんが、なる……それが救済の真相」
規模の大きさ。
人類の創造を遥かに超える大いなる者達の思惑にもはやエストリアの想像力は追い付かなくなっていた。
「人類の因子と情報の全ては新しい宇宙の中で保存され、蘇る。これが救済の真実だ」
「蘇る……一度、死ぬって事ですか!? そんな勝手な!?」
「無論、高位の超越者や人類の枠に収まらない力ある存在は新宇宙の誕生まで生き延びるだろう。そうなれば、新世界の知的生命は無限に膨張し続け、冷える事すらない終わり無き世界の中心で永劫の繁栄を手に入れる。だが、彼女は……マリアはそんな世界を望まなかった」
ようやくエストリアの中で点が線となっていく。
ようやく、ようやく少年がどういう生き方を強制されていたのかが、明らかになっていく。
「総主教の日誌は……イクスさんを……」
老人が頷く。
「ああ、残酷だが、それしかなかったのだろう……イクス・ゼオは、魔王は、この世界の生けとし生ける者全ての命を守る為に……二つの運命(レール)の上を走らされていた」
少女は呟く。
「一つは新しい宇宙で全てを救済しようとする者達の運命」
老人が頷き。
そして、もう一つの真実を告げる。
「もう一つは今生きる全ての者達が生きて破滅に立ち向かう運命」
何もかもが仕組まれていたとしても、少年は笑って、ただ剣を執るだろう。
そう知っていたから。
少女は、ハイダル・エス・トリアはそのどちらにもふざけるなと……そのどちらにも彼を巻き込むなと……叫びたかった。
「私は……この機構に組み込まれて、全てを知り……そして、ようやく……彼だけは間違っていなかったと……分かったよ……」
「イクスさんと話した事があるんですか?」
「ああ、彼と大戦直前に一度話した。当時、私が知る全ての真実を告げた。しかし、彼は怒らなかった……それどころか……」
「笑ってましたか?」
「ああ、私は……自分の愚かさを知った……彼は救世主として世界を救わなかった……けれど、確かに一人の人間として選択し、この世界を身勝手な存在達から独り立ちさせてくれた……」
エストリアがようやく最後になるのだろう少年の映像に見入る。
全ては仕組まれていた事だった。
運命は犠牲を要求した。
凄惨を味わい。
殺し続けられ。
仲間達との出会いと別れに涙を捨てた。
けれども、それでも、確かに少年は―――。
『 』
―――困った笑みで何かに立ち向かっていた。
決して立ち止まってはいなかった。
絶望し続けて尚、誰かの為の刃を己の為と傲慢に振るい続けた。
その果てに人間としての自分が擦り切れていく事を知りながら、きっと……躊躇いなんてなく……その死ぬよりも、殺されるよりも、泣き続けて絶望するよりも辛い日々に幸せだと強く強く抗(わら)っていた。
「マリアは世界を高位存在達から取り上げ、魔王が救世主ではなく。一人の人間として愛してくれるよう、運命の中で沢山の出会いを用意した。運命そのものたる唯一神は全ての出会いを天を鍛える為の試練と為し、多くの困難を与え、七つの力を用意した」
もうエストリアにも分かっている。
その七つの力というのが何なのか。
七は少年を象徴する数字だ。
そして、その数は彼が出会った少女達の数でもある。
「七聖女」
「ああ、彼女達は贄だ。七罪の化身が持つ七業……淫欲(ルクスリア)、暴食(グラ)、傲慢(スペルビア)、怠惰(アセディア)、憤怒(イラ)、嫉妬(インヴィディア)、強欲(アヴァリティア)……人が生み出した概念より紡がれる奇跡は意思の力。彼はその全てを戮(りく)す事で人類の持つ不の概念魔力の総計を牽き出し、儀式を完成させるはずだった」
「でも、イクスさんはそれを選ばなかった」
「そうだ」
「イクスさんは……七聖女、彼女達を助けたかったんですね」
老人がそっと頷いた。
「運命が砕かれた日から先を特別な能力で見ても、全ての因果が魔王に引き込まれる事しか分からない。翼の天が堕ち、異種達の天が放逐され、惑なる天が傍観を決め込んでいる以上、運命というのは魔王に全てがいつか飲み込まれる以上の事実では無くなったのだ。彼女達は未来を可能性だと信じている。だから、より良い未来を“自分達で必ずしも選択しなくてもいい”という事実を受け入れられない」
「イクスさんが未来を奪ったと思ってるって事ですか?」
「確かに魔王がいる限り、因果律の中心となった魔王に全ての原因と過程と結果は引き込まれ、未来の分岐は存在しない状態となっている。可能性を選択したようで実際には一つの道を歩いている世界を人々は生きるしかない。だが、自分で掴んだ幸せが宇宙の法則に等しいモノの上にあるからと言って、それを嫌悪するのは……お門違いではないかと、私は思うのだよ」
老人は黄昏時がようやく終わり始めた空の果てに遠い視線を投げる。
「嘗ての支配者達は人間や自分達よりも低位の知的生命に何も説明しなかった。自分達の都合を押し付けていただけだ。でも、彼が生み出した今は違う。人類は運命から抜け出して迷っている最中(さなか)だ。導いていく者が必要な時期を歩いている。彼は悪い選択肢を選ばせたいわけではない。せめて、誰もが幸せになれる道をと願い……志向しているだけだ」
「それは……分かります……イクスさんは誰かに不幸となって欲しくない。ただ、そういう理由だけで戦えてしまう人ですから……」
「違いない……例え、未来が一つしかなくても、彼と志を同じくする者達が増えていけば、未来を歩むのはただ共に同じ方向へ進んでいるという事実に置き換わるのではないか。そう私は彼と出会って以降思っていたが、その考えは君達によって実証されていると言えるだろう」
「あなたは……イクスさんをどうしたいんですか?」
「そうだな。せめて人類と彼と私の傍にいてくれた人々が幸せであればと願うよ」
「じゃあ、どうしてこの秘儀の箱を作らせたんですか!! これは生命の命を崩した粒子でしか力を得られない禁じられた技術の産物です!!」
「……教会という組織は外なる神々に対抗する為に生まれ、人類をマリアが望んだ“来るべき日”へ向わせる為に存続してきた。沢山の犠牲を払い、沢山の人々の意思を糧にして唯一神と自らの業(エゴ)に操られる人形だ。この事実はどんな綺麗事や個人の意思を前にしても変わらない。だから、この箱は……今まで教会に全てを捧げてきた人々に対して総主教として私が報いる為に創った最後の可能性だった」
「可能性?」
「個人的にもう救済というのはあの大戦において既に終わっている事だ。しかし、真実を知らない者が私の言葉だけで納得出来るものではない。真実を知ってすら、それがどうしたと涙する者はいただろう。犠牲者の為に犠牲を出しても、私はその納得出来ない子羊達に道を示さなければならなかった」
「その為に一つの国が滅びたとしても?」
「私は罪人だ。少なくとも善人のつもりで生きて来たが、救った数より殺してしまった数の方が多くなってしまった。しかし、それで立ち止まっていられなかった。悩んでいられなかった。私には時間が無かったからだ……何も知らない彼らに道を示すには……強引な手段しか残されていなかった」
「犠牲者を出しても未来を掴もうなんて!! それじゃ、イクスさんが遠ざけた運命と同じじゃないですか!!?」
「ああ、それは自覚している。だから、この箱には君が使った機能が付いている。これは私にとって悪を為した上での良心と唯一言える代物だ」
「それって、まさか?!」
エストリアが【OEDS】が内包する何の力の事を言っているのか悟って顔色を変える。
「この箱は究極的にこの一連の件に関わった全ての犠牲者を復活させる事が出来る………君も使ったな。あのコードを……あれは元々がこの箱の完成の為に犠牲とした者達を蘇らせる為に組み込んだものだ」
「?!!」
空に大きなコードの文字列が浮かび上がった。
鈍色の燐光に周囲から吸収しながら肥大化するソレは彼女が使った死者蘇生のコード。
いや、たぶんは隠されていたその完全版だった。
「全ての物質は一本の紐で説明出来るとする考えがある。この箱は粒子を増やす時、原理的には紐を完全に複製する。だが、それに加え、複製した紐に対して因果律操作が可能な術式を埋め込める機能が付いている……余白空間(サブ・クッション)の極大化。宇宙終焉シナリオの実行可能機能。紐の複製と複製物への因果律掌握。救世主は何の能力を持っていたのか? この全ての情報を知った君には【救世主創造計画(ザ・セイバー・クリエイト)】の真実が分かるはずだ。ハイダル・エス・トリア」
「―――そんな事が可能だって言うんですか?!」
少女は老人が何を持って救世主創造という単語を計画に冠したのか理解する。
「ああ、そうだ。可能性を見せると言っても、今の奇跡的なバランスの上にある世界を崩してしまうような事は避けたかった。また、現実的に彼や聖女達が失敗してしまった場合の事も考えておかなければならなかった。それが政治であり、私の総主教としての仕事であり、大人として自分の手の届く場所にいる子供達に残してやれる可能性だったのだ」
「………宇宙の複製……いえ、オリジナルの完全なコピー……でも、それは因果律の全てを掌握する【理想器(イデアライザー)】という新たな絶対神を創り出すに等しい行為で……何よりも……それで救えるのは救えなかった当人じゃありません」
老人は立ち上がり、丘の上で両手を広げた。
「分かっている。だが、私に描けた絵はそこまでだった。まだ、語り切れぬ事は多くあるが、もう君の処理能力が限界のようだ。今までこの世界から君達の事を見守ってきた。だが、それも終わりが近い。これは諦めずに抗い続けてきた若者達への贈り物だと思って欲しい。君へ最後の選択肢を提示しよう」
「?!」
二つの文字列(コード)を左右の手に乗せて、老人が少女の前に差し出す。
テーブルはもう消えていた。
黄昏時は暗くなり続けている。
紫雲が棚引く世界の周辺の果てに少女はたった二つの可能性を見た。
「パーツが揃わぬ今の状態でもどちらかは可能だ。秘儀の箱はリソースの殆どを使い果たし、崩壊。君本人は術式の過負荷に耐え切れず死ぬ前提で考えてくれ」
「!!?」
躊躇無く。
老人は少女に問う。
救いたければ、捧げるしかないのだと。
それでも可能性を求めるべきなのかと。
其処には確かに救いがあった。
無償なんて都合の良いものではない。
己の命と力の全てを天秤に掛けて、初めて届く奇跡。
その二つを前にして彼女はやはり……泣かなかった。
―――魔王を根幹から完全に複製して掌握し、オリジナルを見捨てるか。
―――自分を秘儀の箱と共に複数複製し、数(コピー)の処理能力(ぼうりょく)を得るか。
それは本物(オリジナル)と複写(コピー)。
どちらにしても死が積み重なる究極の選択。
自らの自己同一性を手放し、自分という宇宙に一つの奇跡を放棄する献身。
少女は何一つ躊躇無く。
老人へ自分の選択を―――確かに告げた。
*
アイウィスの構造の最中を進み続けていた艦隊は今、砕け散ろうとしていた。
全てを砕き、進み続けた彼らを出迎えたのは外なる神々の欠片達。
直視した者は発狂して尚、盾となり。
艦隊の先方を務めていた艦の大半は侵食と膨大な魔力の圧力に砕けながら罅割れた麦畑へと落着した。
足を止めるわけには行かないと進もうとしてもそれを防ぐかのように未だ欠片達が数匹が立ちはだかっている。
燃え上がる艤装。
融け落ちる手足。
侵食され勝手に味方を攻撃しようとする己を空間毎凍結していく仲間達。
艦隊の前で戦い続けているのは二つの光。
一人は一つの身体に二つの魂を宿した少女。
エフィリム・エーネ。
一人は異種の天使を宿し、復活を遂げた聖征者(クルセイダー)。
ネハシム・セラーフィーム。
霧という媒質に乗った極大の侵食を受け止めているのは彼らの張った魔術方陣だった。
艦隊の頭上で数万kmを超える距離を光に近しい速度で機動しながら、彼らは自分達よりも速いかもしれない敵の触手や絡め取ろうとする乱杭歯の網の隙間を縫うように飛んでいた。
常人には黄昏時の世界に光の線が乱舞するだけに見えるだろう。
瞬き以下の世界に繰り広げられる絶戦。
彼らから放たれる光弾の一発一発が都市を破壊するに足る出力。
太陽を真直で現出させるような熱量と衝撃が象や蛸にも似た欠片達の体表を僅かに焼いては全てのエネルギーを吸収されていく。
一秒で数万合の打ち合い。
彼らが持った魔術と冶金技術の集大成たる業物は三秒と待たずに崩壊し、また別の得物が手に持たれる。
最初は槍、次は短剣、弓、銃、何が有効なのかと試される武具は無数。
艦隊の誰もが一秒毎に無数の色が飛び交い移り変わっていく空を見上げて、手も出せずに唇を噛んでいた。
足止めを喰らっている場合ではない。
だが、白い外套は今や破れ煤け、血の滲む身体には次から次へと周囲に降ってくる攻撃の余波が降り掛かっている。
艦の防護用魔術方陣が防ぎ止めた後の残滓に過ぎないというのに摂氏千度を超える熱波や一撃で人間が血の染みとなるに十分な衝撃は外で艦の護衛に付く兵隊達の体力と気力をジリジリと削ぎつつあった。
階梯が違い過ぎる。
まるで異次元の戦闘に付いていける猛者はその場にいない。
超高位存在同士の争いの中。
それを観戦出来るというだけでも男達は七教会の正規部隊に勝るとも劣らないのは確かだったが、今や彼らに出来るのは拳を握って戦況の行方を何とか把握しながら、機会を伺う事だけだった。
焦げていく誰の視線の先でも吹き曝しの満月が罅割れていく。
剥げた空間の先にはまた同じ世界。
上下左右前後に存在し続けるアイウィスが空間の崩落と同時にあちこちから見え始める。
ヴォルヴァドル級の艦橋。
その艦長席でドゥーズ・スィール・フォイルは歯噛みするしかなかった。
今、動けば……艦隊の陣形が崩れ、余波を防いでいる方陣の崩れる可能性が高い。
それは同時に外の兵を見捨てるという事だ。
彼らを収容すればいいという判断もあるだろう。
だが、アイウィスのあちこちから漏れ出した霧に紛れ、外なる神々の侵食によって仮面化した器物の化け物達が押し寄せ始めていた。
それらは直撃する攻撃の余波を直接浴びて崩壊しているが、そのどれもが数十m級の大きさのものばかりだ。
もしも彼らの船に近付いて攻撃を仕掛けてくれば、均衡を崩れるかもしれない。
艦の殆どが防御に出力を捻出している今、外で兵達が対処する以外にどうしようもなかった。
(このままでは艦隊を釘付けにされる……く……次善策としてアイウィスの中心部で艦隊の自爆も計画されていたが、これでは……)
『ドゥーズ閣下』
それが魚の如き船に今も搭乗する現総主教レア・アルトス・エールの声だと気付いて、彼が判断を下す前に顔を上げた。
『我々が中枢に向います』
『君達をそこまで信用していない』
『分かっています。ですが、この状況では単独での艦の対応能力がモノを言うはずです。船体の能力こそ低いでしょうが、こちらには私を含めて貴方達よりも優秀な人材が多数いる。そして、事態を治められる可能性も此処にある』
レアが未だドゥーズの下にいるエス・トリア博士に渡していない【崩燼源動機関(ソルヴァス・オリジナル)】の鍵である赤く錆びれた短剣を取り出す。
『博士から聞いているが、それをハイダル嬢の崩燼機関と合わせれば、とんでもない力が手に入るという事でいいのか?』
『ええ、これは……言わば、世界複製の鍵ですから』
『世界の複製―――』
ドゥーズが旧教会派の“計画”の一端。
いや、最後の真実なのだろう言葉に目を細める。
『総主教が司ってきた秘密“来るべき日”は本来、救世主が現れ、我々人類を救うというものだった。けれど、それは叶わぬ願いとなり、私達旧教会派は手持ちのカードを全て、たった一つの力の創造に注いだ。五年前、いえ……もう六年前ですか。あの時期に聖女、魔王、その複製企画の情報を用いたコレは世界複製の要、救世主の杖となるべく完成した』
「“来るべき日”の内実は君の言う世界の複製とやらなのか?」
『はい。本来は救世主……つまり、魔王の複製によってコレは運用される事が想定されていた。生贄となる聖女の複製も含めて三つの要素が揃った時、この世界の物質的全ての要素は……失われるものを素粒子レベルから複製置換する事によって不滅を得る事が可能となる』
「不滅……」
『そして、最終的に置換の範囲が極大化した時、世界そのものが杖の影響下に置かれ。もし、外なる神々を筆頭にした破滅がこの世界を終わらせようとも、宇宙そのものすらもコレは復元するようになる』
「それが来るべき日の真実……か」
『ええ、“計画”とは“来るべき日”の再来……【再誕(バース・デイ)】を意味します。天の国が来るのです。人類と全ての種族はこれによって永劫の繁栄と安息を約束される……』
「陳腐だな」
『そう思いますか?』
ドゥーズが苦笑していた。
それも心底に。
レアはそれを見て、予想の範疇だと肩を竦めて、笑みを浮かべる。
「その複製とやらは本人なのか?」
『完全なコピーです。【崩燼源動機関(ソルヴァス・オリジナル)】は魂すらも複製する。【源理粒子(イデアル)】の複製源理の極大化なのですから、当然です。ですが、哲学的に言えば、少しずつの置換と完全な複製の違いは大きいでしょう。置換は血肉が代謝で変わっていくようなものであり、本人の自己同一性を担保しますが、完全な複製は同じ記憶や魂や性質を持った当人とは別の人間を0から創造(フルスクラッチ)するのと大差ありません』
ドゥーズがレアを見つめた。
「今の君はその力をどう使いたい? いや、どう使うべきだと思う?」
『……私はこの国を見続けてきました。亜人の国は人間の国々よりも素晴らしい道徳と誇り高い民族性を兼ね備えた稀有な人々が住んでいる。彼らはこの一年の間に起こった事件を経験して尚、この土地を離れず、この国を支え続けた。彼らは救われるべきです。ですが、それは……私達の手によってではなく、己によってが相応しい』
「だが、今世界が滅び掛けている。君達は完全な複製とやらで世界を幸福に導きたいのだろう?」
『はい。それが私達の待ち望んだ来るべき日を唯一迎える方法です……』
レアが少しだけ、ほんの少しだけ、悲しそうな顔をする。
『ですが、そもそも私達にはこの力を使える人間がいない。ハイダル・エス・トリア……博士のお嬢さんの事は貴方もご存知でしょう。彼イクス・ゼオと共に在った彼女の選択がどうあるのか。部外者の私には分かりませんが、少なくとも……私達の祈りを彼女が受け入れる道理は何一つ無い。だから、任せようと思います』
「それを信じろと?」
『………見たのです』
「何を?」
『天使達の記憶を。彼らが魔王の欠片の中で見付けた日常を……』
「日常?」
『私達の“来るべき日”は傲慢だった。傲慢でも良かった。けれど、この破滅を目の前にして、自分達の救いを相手に押し付ける時、彼らはきっと抗うでしょう。彼らの日常は我々の尊かった祈りを霞ませてしまうくらいに眩かった……この期を逃せば、今まで全てを捧げてくれた人々と共に救いを分かち合う事はきっと出来なくなる。でも、数の論理で正義を振りかざせる程に我々はもう多くなくなっていた』
レアが自嘲気味にドゥーズへ泣き出しそうな顔を向けた。
『運命が消えた世界に……それでも人は笑い続ける。それでも人は戦い続ける。それでも人は愛し続ける事が出来る……自らを助く者をこそ神は助く……そろそろ私達も“自分達で”来るべき日を語らねばならない。そう思えました』
錆びれた短剣がそっと両手で握り締められる。
『だから、今は身を引きましょう。今度は私達が来るべき日を後世に語り継ぎ、新たな御世を救う為に……今度は犠牲ではなく、共に助け合い、共に肩を並べて歩き、共に救い合えるように……それが彼らを見て、彼らが歩き続けた道を見て……人を救うというのがどういう事なのかを思い出した……ようやく思い出せた……我々からの“譲歩”です』
「譲歩、か。どうやら、我輩は貴女を見縊っていたようだ」
『?』
「貴女に我が家に遺された言葉を送りましょう」
ドゥーズが今も艦外で続く絶戦を見上げて声を張る。
「汝、我救うなかれ」
『それは?』
「……この国を興した者が最後に仲間達へ呟いた言葉です」
『?!』
それが誰なのか。
聡明なレアが知らないはずも無かった。
「彼は国の為に己の命を散らしてまでも悪を被った。けれど、救いは求めていなかった。いや、彼にとって仲間達に送ったこの言葉こそが救いだったのでしょう。彼は彼の戦いを遣り切った。それを彼らが台無しにしない事こそが、彼にとっては何よりの助けだった」
ドゥーズがレアに微笑む。
「祖国に集う者達を思えばこそ、彼は己の死を選んだ。その献身の姿勢は確かに実を結び、我々はこうして幸せな日々を暮らしている。人の歴史も亜人の歴史も尊いものはいつも形在る救いではなく、他者の為に身を削る姿勢にこそ宿っている。綺麗事結構。柵の精算を他者に求めない貴女にならば、我々の使命を任せられる」
『ドゥーズ閣下……』
「我輩達もまた魔王の複製だからと、魔族だからと、他者を犠牲にしてきた。その報いは必ず受ける時が来る。それが今此処なのか。それとも未来のいつかなのか。それはまだ分からない。だから……」
ドゥーズが手元に浮かび上がる複数の魔術方陣へ音声通信の開始を入力した。
『全艦に告げる。これより我々は旧教会派所属艦をアイウィス中心域へと送り出す。またアイウィスのアルヴァスへの衝突回避の為、崩燼機関の全出力を開放しての最大火力、自爆の引導火力を叩き込む第二目標地点への転移も行う……喜べ……我々にはまだ“手段”がある!!』
―――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!
外で周囲を警戒していた兵達が片腕を上げて鬨の声を上げる。
『全艦!! 撃って出る!! 主砲正射用意!!! 目標地点は今から指示する!! 中心部への穴を開けるぞ!! 全隊員は艦内へ退避!! 装甲の被害には構うな!! 最終的には動力中枢さえ護り切れればいい!!』
兵達が次々に艦内へと戻り、それと同時に防御方陣の外でも外なる神々の欠片と二人の戦いが激しさを増していく。
その最中にも主砲を上空の一地点に向けた艦隊の数隻が外装を進入し始めた屍蝋の仮面達によって破壊され、爆炎と煙を上げ始める。
しかし、それにも構わず。
ドゥーズは中心域へ続く道を作らんとヴォルヴァドル級の全主砲、副砲に連動するトリガーを引き絞った。
『全砲門一斉正射!!! 貫けぇええええええ!!!!!』
艦隊から吹き伸びる熱量と光と衝撃を伴った光芒が空にぶち当たり、罅割れさせ、突き抜け、遠く遠く何処までも超大規模構造を貫いて空間を抉り、中心域へと道を築いていく。
艦隊の中から離脱し、方陣の前で待っていた魚の如き飛船体が長い射撃が途切れ、防御方陣が一部明滅して消えた途端。
全速力で魚の船が空に融け崩れるようにして赤熱し開いた大穴へと突入していった。
『また必ず!!!』
『ああ、成功を祈る!!!』
彼らの短い遣り取りが終わった時。
外なる神々の欠片が足を留められて、ギチギチと身体を軋ませていた。
「いってください」
エフィリムの声が巨大な六対十二翼の翅の影から聞こえる。
神々を押さえ込んでいるのは彼女の巨大な背中から生えたソレだ。
しかし、侵食がジワジワと広がっているのが誰の目にも見えた。
今まで共に戦っていた【聖征者(クルセイダー)】が、拳を握り、一瞬の逡巡の後、頷き。
主を追い掛けて、穴の奥へと消えていく。
「どうぞ。今の内に転移の準備を……3分は確実に持たせます」
爆炎の上がる艦内から防御方陣を超えてきた屍蝋の仮面に攻撃を仕掛けていた隊員達がその巨大な翅の主の捨て身の姿に歯を食い縛った。
自分達よりも随分と幼く見える相手がくれた時間。
それを前にして何一つ返せない己達の不甲斐なさ。
それが彼らに絶対の成功を約束させる。
幾多、声が上がった。
例え、それが聞こえずともいい。
それでも思いは一緒だと。
彼らはその魔族の少女の後ろ姿に叫び続けた。
『彼女の稼いだ時間を無駄にするな!!! 転移座標算出急げ!!!』
彼らが転移の準備を完了し、一斉転移を実行した次の瞬間。
エフィリム・エーネ。
二人で一人の姉妹は翼の根元まで己のものではなくなった事を感じ、その部位を自切。
血の噴出すのも構わず。
屍蝋がゆっくりと顔の穴から染み出すのも構わず。
ただ、両手で頬をぶっ叩き、気合を入れるのみでその己(よわさ)を弾き飛ばして。
「これでたおせるとはおもわないことです」
「私達はエフィリム・エーネ」
「にぃさまの」
「魔王の」
「しょうかんにつどうもの」
一対二翼。
黒と紫の入り混じり合う蝙蝠のような硬質の翅が数百mに渡って背中から濁流の如く湧き出し。
彼女達は両手の爪を太く太く武器の如く鋼色の武具と化して。
「「二人(ふたり)で一人(ひとり)の姉妹(しまい)です」」
そう再び、最初の翼に絡め取られていた神々へと突撃していく。
そうして、彼らからたった24000km四方の領域が衝撃と熱波に蒸発しながら吹き飛んでいった。
戦いの趨勢は未だ決する気配も無く。
終わりへと只管に誰もが近付いていく世界に人々が求める救いとやらは杳として行方知れずであった。