第三章百二十二節「取り戻した日常Ⅱ」
小気味良い鼓の音が響く。
黄金色の太陽の下。
空を進む飛龍。
手足も小さく胴体が長い。
そう蛇の化身とも東部では言われる種族。
仙師譚(せんしたん)と呼ばれる太古の鍛錬の後に超越者となった者達。
よく彼らの乗り物として描かれるソレは今現実。
蒼い空の風の道を曲りくねりながら進む姿は空蛇か。
初めて、その傷付いたソレを見つけたのはユアン・クオ。
未熟な手付きで仲間達の手伝いの下、一緒に介抱した。
お礼だと人の言葉を解する異種は彼らを乗せて飛ぶ。
『気持ちいいな!!』
いつになく。
目を耀かせて。
星を見るより世界の果ての先へ手を伸ばして。
落ちそうな彼女の手をそっと近頃剣胼胝が出来た少年の手が掴む。
『落ちちゃうよ?』
『ふふ、そうしたらお前に助けてもらおう』
『ユアンがまるで別人なんだけど』
東部風の鼓の音色を小さな丸いスピーカーから響かせて、発明品の調整を行っていた眼鏡姿のツナギ風の外套を羽織った少女が呆れた声を上げる。
『いいじゃないですか。ちょっと安心しました。ユアンにもこんな風に夢中となれるものがあったんですね』
金髪を靡かせて、美しい蕾が花開く前の儚さを漂わせた少女が微笑む。
『あの星を追い掛けて、栄光の先に見果てぬ夢を持ち、彼の者は旅立つってとこ?』
前日、泊まった宿の吟遊詩人の唄を口ずさんで。
赤褐色の外套を着た銀の髪を短髪にした女が肩を竦める。
『ユアンは結構有名みたいだから、英雄譚の主人公みたいでもいいと思うけど』
『ば、馬鹿!? 一体、何を言い出すんだ。お前は……まったく、それでは……』
『?』
『それではお前の師なんて出来なくなるだろう!!』
『そうなの?』
『あ、ああ!! だから、私は今のままでいい!! 今が私はきっと一番……幸せだ』
少しだけ恥ずかしそうにニカリと少しだけ悪戯っぽく、冗談のように言うユアンが年上である事を忘れてしまいそうな程、少年は胸が高鳴って……僅かに片手を当てる。
『どうした?』
『何でもない。うん……いつまでもこうしていられたらいいと思ったんだ。それだけ……』
刃を使わせれば当代随一。
そんな彼女が旅の目的の一つ。
少年の故郷や家族を見つけるという目標とは矛盾する言葉に何一つ割り切れぬまま。
その鈍い己の胸の痛みに……いつか、別れが来るのだろうかという痛みに……近付いてくる夜明けを待つような……静けさの中で希望を眺めているような……不可思議な気持ちとなった。
『そうすればいい』
『え?』
『例え、地平線の向こう側まで掛かろうと。漆黒の闇の先まで続こうと。お前は……お前と一緒なら……永遠に飛び続けたとしても……きっと、私に悔いはない』
『ユアン……』
二人の合間に流れる空気はすぐにでも空の何処かへ流れ去っていくはずだったが、確かに温かなものが辺りを包む。
そして。
『え~ごほんごほん。あの~僕達がいるって事を忘れてるんじゃないかなぁと僕は思うわけなんだけれど。そこんとこどうなの?』
ハッとした様子でユアンが少年を手から身を引いた。
『まったくチョロ過ぎだよぅ。これから本の女主人公がチョロかったら、チョロインと名付けてみようかなぁ』
『ば、だ、誰がチョロいだと!? わ、私は!!?』
『ふふ、ユアンもシンアと仲良しですね♪』
『いや、お前なぁ!? 少しは危機感を持て!!』
『?』
『あ~~これはなぁんにも分かってない顔よぉ。まったく、やれやれね。お子ちゃま達を冷静に見られるのはアタシだけじゃない』
『あ、そろそろ目的地みたい。みんな降りる準備してねぇ♪』
ガヤガヤと喧しい仲間達。
その最中、彼女は思う。
ああ、いいな……と。
こんな日がいつまでも続けばいい。
こんな日々が何処までも長ければいい。
そうすれば、例えどんな夜が来ても、きっと震えずに済む。
両親を失ってから放浪した暗い世の色さえ。
この耀きの前には掻き消えるに違いないと確信しながら。
『シンア。いつまでだって、私はお前の味方だ。だから、何かあったら……必ず助けてやる』
『あ、あの……ユアン? どうかしたの?』
『……私を助けてくれたお前への感謝の気持ちだ』
『何だかよく分からないけど……うん。きっと、その時はユアンに頼むから』
その日、少しだけ剣術の稽古は、たぶん甘かった。
――――――。
(胸に掲げた誓いさえ……私は護れずに何をしていた……戦うだけで崇められ、人の上に立って導けるからと自分は幸せだと言い聞かせて……私は……あの両親を失った頃から進歩していたのか? 師に導かれ、仲間達に救われ、あいつに……約束した事さえ忘れ去って……)
矛盾した正しさ。
それがどちらも正しいのならば、彼女はどちらも取れるべきだった。
だが、現実は残酷に漆黒に砕けた過去の記憶を何度でも見せ付ける。
串刺しにした感触が消えない。
刃を握って初めて震えた日から、本当は刃を握る事が怖かった。
強欲に過ぎた己の罪が紅蓮となって身を責め苛むなら、それは自業自得。
耳にこびり付いて離れない少年の吐息。
末期の優しげな手が刃に触れる感触。
それがサクリと何かを両断した時―――。
「ッ」
ハッと顔を上げて、彼女ユアン・クオは自分がいる場所にようやく意識を向けた。
其処は白い空間。
何も無い。
いや、何一つ置く事が出来ない無重力地帯。
聖女には食事も排泄も何一つとして人間らしい生活が必要無い。
だからこそ、成立する牢獄。
そこに入ってから数ヶ月は経つだろうか。
七教会の探索から逃れる為に自ら探知不能の施設に来た。
だから、何一つ不満など無い。
それは自分への罰……いや、戒めにもならない誓いのつもりでもあった。
聖女を幽閉する為にハルトゥム内に儲けられていた其処は確かに彼女を閉じ込めるには最適な座敷牢のようなものに違いない。
しかし、彼女は今日も汗を浮かべて、扉が浮かび上がるはずの場所を見た。
フッと飴色をした木製の扉が現れて、ドアノブが回される。
開いた先に彼女は夢見ていた相手を見付けて、僅かな躊躇を覚えながらも、何とか声を上げる。
「また、来たのか?」
「メルフはさっき見てきたけど、まだ寝てるみたいで」
「そうか……」
「じゃあ、行こう」
「………」
「ユアン?」
「いいのか? 今までずっとお前を殺し続けてきた女だぞ。私は……」
「ずっと、言い難そうにしてたのはそれ?」
「お見通しか………」
少年はユアンの傍まで浮遊してくると。
ただ、手を取った。
あの飛龍に乗っていた時のように。
何の躊躇も無く。
危険に向う彼女を引き止めるように。
「前から言おうと思ってた事なんだけど」
「……何だ?」
「ユアンて、面倒臭い性格してるよね」
「?!」
思わず驚きに固まって、凄い顔で見上げてくる聖女に魔王。
いや、少年はそっと、その手で顔へ触れた。
「気にしてると思う?」
「気にしてないとでも言うつもりか」
「気にしてる事は今一つだけだよ」
「私は全てを知った。知ってしまった……私の奇跡は……お前を、お前とあいつらの過去を……」
「今を造ればいい。過去はいつか失われてしまうとしても、僕は前に向う。そうする事でしか、また一緒に笑い合えないなら、この大切な記憶を捧げたって構わない……君達がいてくれるなら、この世界で、この時間で、僕の手の届く場所にいてくれるなら……不可能なんて無いと思えるから……」
ああ、と。
聖女は。
ユアン・クオは。
いつか刃を手にしても心は強くなれないと知った少女は。
ポロリと一筋だけ涙を零した。
「シンア。お前はどうやら私よりずっと強くなっていた……私は師匠失格だな……お前の何も見てはいなかったようだ……」
指先がそっと涙を拭い。
繋がれた手が牽かれた。
少年に導かれて、白い部屋が彼女から遠ざかっていく。
「今日はようやく部屋を用意出来たから迎えに来たんだよ」
「……ぁあ、分かった」
「それと」
「何だ?」
「お誕生日おめでとう。ユアン……ずっと祝えなくて……ごめんね」
「――――――ッ」
不意打ちだった。
仲間達にすら告げた事の無い少年と自分だけの秘密。
(ああ、そうだった……そうだったな……お前は……)
彼女はようやく知る。
少年はきっと彼女に不満なんてなかった。
恨み言なんてなかった。
この部屋に篭っている自分に何かを言いたそうにしていた。
そう、自分と同じように何かを伝えようとしていた。
それに悩んでいたのはきっと無駄に過ぎて。
言葉は……きっと、あの頃から変わらず。
自分が悪くもないのに相手の為に謝る悪い癖。
止め処なく溢れてくる雫を、口元を手で押さえて、彼女はきっと人生で初めて号泣した。
何も言わず。
師匠の面子を考えたのだろう少年は握った手の力を強め、声が治まるまでただ背を向けて知らないフリをし続けた。
『………』
今日も定期的に聖女の監視を行っていたイフィミスラ・ハージェット・テトス・エルデナンドが全てを少し不満そうにしながらも嬉しそうな……複雑な表情で見ているとも知らずに。
やがて、雨は上がる。
其処にもう蟠りは無かった。
*
「ユアン。此処なんだけど。どうかな?」
「日当たりの良い部屋にしてくれたのか?」
「え、あ、えっと、作ってくれたのはディアコノス。たぶん紫影の従者って言った方が分かり易いかな? あの子なんだけど」
「そうか……」
「でも、一応小物とかインテリアは意見を出したから東部風になってる。これで良かったかな?」
ハルトゥムの館には幾つも棟がある。
その一つ。
東に面した二階の一室にユアンの部屋は設えられていた。
東部風の屏風やら畳みやら障子戸などで窓際が仕切られており、寝台はマットレスの上に東部式の布団が置かれるというチグハグなものだったが、生活空間としては十分だろう。
既に空は暮れており、僅か地平に陽光の残滓が残るのみとなっている。
フッと自動で灯された明かりは寝台の四方にある灯篭から零れており、その使われている黄昏色の紙を反映して温かくも何処か仄暗い。
「あ、ありがとう……」
他人に感謝を告げるなんて、いつぶりだろう。
聖女の間でそういう遣り取りをする事は時折あるが……それにしてもハティア以外に彼女がそうした事は殆ど無い。
「気に入ってくれたなら嬉しいかな」
「……シンア」
「何?」
「少し話しをしないか?」
「いいよ。じゃあ、椅子を……あ、無いみたいだから、後で持って―――」
寝台に座って、何処か不安げに自分の袖を引いた相手へ少年が沈黙して、横に座る。
「大丈夫? 疲れちゃった?」
「………」
「ユアン?」
彼女は僅かに逡巡してから、そっと顔を少年に向けた。
「お前に本当は聞かなければならなかった……ようやく思い出したんだ……お前が私に頼んだ……あの時の真意を……」
僅かに瞳を伏せて。
少年は小さく頷く。
「みんなが大変だったのは分かってた……当時、七教会の状況は調べてたから……だから、みんなには辛い思いはして欲しくなかった……あのままじゃ、きっと誰もがまいっちゃうと思ったから……」
「―――そうか……はは……私達は最初から心配をされていたのか……」
全てを奪う奇跡。
少年が仲間だった頃からたぶんは唯一知っていたユアン・クオの能力。
思い付くのはきっと簡単だったのだろうと彼女は力なく項垂れた。
「こう言うと怒られちゃうかもしないけど。みんなの事は僕が一番良く分かってると今も思う……七教会の中で僕の事をずっと抱えながら戦えたりしないだろうなって……そう思ったから……」
「だから、私に頼んだのか。お前とあいつらの……私の……過去を削れと……私はお前と決別して初めて戦った日からずっと……お前との約束を守っていたのだな……」
「ユアンはあの時、きっと頷いてくれるだろうなって思ってた。これがきっと僕達が本気で戦う為に必要な行為だろうって考えるはずだから……」
「……お前は私より賢かったようだ……私が全てを忘れれば……私はお前とあいつらが戦う度に、悩む度に、重荷となる度に、お前との過去を削っていく……そうだろう?」
ユアンの言葉に少年は何も返さなかった。
ただ。
「ごめん……」
その謝罪がどんな事に対してのものか。
分かり過ぎる程に分かって、聖女だった女は静かに吐息を吐き出した。
「全部、もう過ぎた事だ。私はお前を奪い続けた。お前は全てを知っていて尚戦い続けた。互いにきっと謝りたい事も言えない事もあるだろう。だが、私は……私のケジメを付けるまではと……そう決めた。だから……」
寝台の上にある自分よりも小さな手に彼女は己の指先を触れさせる。
「私の全てが解決するまで……その時までは……お前の傍にいる……シンア」
「ユアン……」
顔を上げて。
少年は横の師を、初めて自分に戦う術を教えてくれた掛け替えの無い相手を、真っ直ぐに見つめた。
「この数ヶ月……ずっと、お前が来てくれる度に……何を話していいのか分からなかった。お前に連れられるまま……何も言わずにきた……だが、もう……整理は付いた、と思う」
「そっか。それなら、うん……良かった……」
僅かに微笑んだ相手に今も胸が痛む。
自分がしてきた事は消えない。
自分が聖女である事も消えない。
だが、それでも少年の師である事を、少年と共に過ごした仲間だった事を、また思い出せた。
それだけでまた自分も前に進めると。
ユアンは震えそうになる手で少年の手を握った。
「私の事が、怖くないか?」
「みんながいなくなっちゃう事の方が僕には怖かったよ……」
「そう、か」
「今の僕が怖いのは……きっとこんな風にしていられる今が夢なんじゃないかって……そっちの方がきっと……怖いから……」
少年の手が僅かに震えているのにようやく気付いて。
相手もまた自分と同じように緊張していたのだと。
渦巻く内心の感情に耐えているのだと分かって。
ユアンがその衝動に堪らなく少年を己の胸に抱く。
「きっと、悪かったなんて……そんな言葉では何も解決しないんだろう……だから、こうしていてくれ……こう、させてくれ……シンア……ッ」
「……うん」
重なった影。
朧に水平線からの光が途切れて。
僅かに仄かに照らす灯かりの下。
互いの感情が静まるまで二人はそうしていた。
やがて、落ち着いて……互いの息遣いにどちらも恥ずかしさを覚えた頃。
モゾモゾと少年が離れようとして、彼女がそれを押し留める。
「その、ユアン?」
「……思い出したんだ………」
「?」
僅かに顔を上げて、その仄明かりの最中に浮かび上がる師の表情を少年が見た。
「……私が……私がお前の初めてだったのだな……」
「あ……えっと、その……うん………」
嘗て、少年に初めて女を教えた時の記憶。
魔族の呪いのせいだとすら言い訳も出来ず。
己の奇跡に奪われた記憶。
今も少年だけが知る事実が、治まった彼女の胸の内の痛みを僅かに鈍く呼び起こす。
「私はダメな師だ……お前を導かなければならなかったのに……全部、お前だけに背負わせて……お前に誓った事や約束した事が……沢山有ったのにな……」
それが後悔なのだとすれば、きっとそれは七聖女ではなく。
ユアン・クオという一人の女としてのもの。
ずっと、親友と接していた時すら、己ではなく。
聖女だった彼女は自分もまた女なのだと今更に思い出して。
ずっと、ずっと、何も言わずに自分を見守ってきたのだろう相手に謝る。
「ごめんな……こんな私のような相手が始めてで……本当なら、お前はハティ―――」
それ以上言わせず。
少年はきゅっとユアンを抱き締め返す。
「そういうのは無粋って言うんじゃない? それに僕はユアンが始めてで嬉しかったし……後悔した事なんて無いよ?」
「ッ、まだ、そう言ってくれるのか……私はずっとお前とした事すら……忘れていたのに……」
微笑みは確かにあの時のまま。
彼女が共に旅していた頃のまま。
確かにそれは胸を打つ程に純真でただ眩かった。
「今日、今、僕の願いが一つ叶った。叶わないはずの願いが……あの時から、いつか思い出してくれたらって思ってた願いが……それって奇跡だと思う……謝る必要なんてないよ。ユアンは僕の大切な初めての人で……誰にでも誇れる凄い師匠で……ずっと、憧れの人のままなんだから………」
「――――――ッ」
胸の奥で灯る感情。
思い出したソレは確かに聖女の時には少しだって感じた事の無かった激情。
色の付いた生身の人間だけが持つ衝動。
「ッ」
感情に身を任せて。
一人の女の唇が押し付けられる。
「んっ?! んっ、ゆぁ、んちゅ、んく……っ」
しばらく。
水音だけがピチュピチュと室内には響いていた。
少年はされるがまま。
自分の内側へと少女のように可憐で一途な紅の舌を導き、優しく絡める。
互いの唇が離れた時。
もう唇から零れた唾液が二人の口元から顎に伝わっていた。
「っ、あ、す、済まない……ッ」
我に返ったユアンが慌てて口元を片手で押さえ、恥ずかしさに頬を染めた。
「……気持ち良かったよ……その……いきなりで少しびっくりしたけど」
「こ、こういう事をするつもりではなかったんだ?! ただ、私はお前を……ッ」
言い訳しようとして。
それでも全て遅いとしょげそうなユアンの胸に少年の顔が寄せられる。
「ふぁ?!」
フニュリと抱き締められていた時とは違う感触に思わず愛らしい声を零して、彼女が自分の胸に顔を埋める少年を思わず見やる。
「……その……誰か今そういう人っている?」
「そ、そんなのいるわけがないだろう!? わ、私は聖女だったんだぞ?!」
「そういうのは調べたりしても分からなかったから……そうなんだ……じゃあ、まだ好きな人はいないって事でいいのかな?」
「あ、ああ、そう……だ……私が身体を許したのは……お前、だけだ……シンア……」
その呟きに少年が照れくさそうに頬を掻いた。
「―――ッ、シンア……まだ、私はお前にとって……女の……ままか?」
答えの代わりに彼女の手が取られて、そっと股間に触れさせられた。
「そ、そう、か……私はまだ聖女としての仕事を残してる……だが、今は一人の無頼としてお前に……」
「いいの?」
「それこそ、私の言葉だろう……お前を貫いた手だ……お前を睨んだ目だ……お前を殺し続ける技を編んだ身体だ……それでも……もし、それでもまだ……私を女だと思ってくれるなら……」
償いにもならないだろうと。
それでも彼女は自分の身を、相手に委ねようと最後の呟きを零そうとして。
「ユアンは僕の憧れだって、さっき言ったよね? だから、これは……悪い魔王が、捕らえた聖女をどうにかしちゃう……そういう本みたいな……僕の我侭なんだと思う。きっと……」
「ぁ……」
少年の指が着物スルリと肌蹴させる。
「今日は他にもその……予定があって……だから、僕からしてあげるだけになっちゃうんだけど……」
「そう、か。そうだな……お前は魔王だもの、な……私がどうこう言う事は無い……お前の好きにしてくれ……シンア」
「可愛いよ。ユアン。ちゅ……」
「っ」
まろび出た乳房はウルやオーレム、エンシェン程ではないにしても、十分に大きいと言えるだろう。
まだ少女のように儚げに震える白い肌はあの初めての日から変わらず。
しかし、ただ、劣情よりも羞恥と申し訳なさと互いに交わした感情の余韻に切なく。
体温を欲して、僅かにひやりとしていた。
少年に触れられてから僅かに弾力を増していた桜色の乳首や薄い色の乳輪が色を濃くして。
今か今かとその時を待ちわびている。
「お互い色々と変わっちゃったかもしれないけど、僕は……ユアンの事、好きだよ……」
その言葉に彼女が何を感じるよりも先に指先が片胸に這わせられ、唇が乳首を甘く食んだ。
「ひゃぁぅっ?! ッッッ?!」
全身に奔った甘美な震えに普段の姿からは想像出来ないような愛らしい声が上がった。
「今度は僕がユアンの事……気持ち良くしてあげるから、ね?」
「~~~ッ」
もうあの時のように何も知らなかった少年ではない。
彼女もまたあの時のように感情を抑えられなかった獣ではない。
でも、確かにあの時と同じまま。
成長した彼と恥ずかしさに小さくなった彼女は逢瀬を交し始めた。
それがきっと世の中とやらには許されない類の代物だとしても。
“それそのもの”を守ってきた彼らに否と言える輩はきっと真実、世界の何処を見回しても居はしない。
そうして、彼女と少年の影はその東部風の室内で寄り添うように一つとなったのだった。
*
「んっ、くっ、ぁ、ぁあ、んっ、シン、ア……ッ、こん、な……っ」
粘着いた水音。
クチャクチャと大きな乳房の先端を唇で食みながら、少年の指が巧みにもう片方の胸のを揉みしだく。
乳首を柔々と捏ね潰しながら、甘い声を上げさせる技巧はこの数十年で培われたもの。
沢山の女性と関係を持ち。
相手に教えられ、自ら考え、性魔術すらも治めてきた少年の奉仕は正しく現在大陸に存在する殆どの男娼を上回るものに違いなかった。
努めて平静を保とうとした聖女の顔も今は甘く歪んで形無し。
その感度も大きさも白さも弾力も申し分無い胸は全ての感覚を少年の熱されたような熱い手と滑った唇と舌、それから甘噛みする歯から齎される快楽に集中させ、汗を滴らせていた。
「ちゅ、ちゅ、ん、あむ、んく」
「ぁ、ぅ、そんなに吸っては……んっ、くっ?! そ、そんなにいやらしい食み方をされては……っ、胸がっ、んっ、ふくぅんぅ♡」
月下美人と称される聖女の痴態。
まだ胸を責められているだけだと言うのに背筋を何度も何度も甘美な衝撃が伝わって、背筋を高揚させ、女だけの器官を、その胎から下までもを痺れさせ、熱くさせていく。
それを証明するようにもうすじからは蜜が滴っており、下着である襦袢を濡らしていた。
身を捩る度にグチュグチュと膣内の襞が擦れ合い。
ユアンの下腹部は際限の無い衝動と熱量に苛まれて、疼く胎内は戦慄いている。
「シンアっ、シンアっ、んく、ぅぅ……も、もぅ、駄目だ……っ♡ それ以上しては……っ♡」
それでも少年は優しく熱を帯びた乳房に顔を埋めて。
何度もそのふっくりと輪郭を確かにしていく母性の象徴を唇で愛撫する。
舌が先端を嘗め捏ね。
クチャクチャと白い肌を唇が蹂躙する。
その度に聖女と謳われてきた彼女の表情は甘く蕩け崩れ。
牝の媚びた声が唇から零れた。
「ユアン……ユアンのお乳……柔らかくて……温かくて……美味しいよ……ちゅ」
「ッ~~~」
一際強く疼いた胸と胎の奥。
ジワジワと迫り上がってきていた高揚が高ぶりのままに背筋を満たしていく。
「ぁっ、あっ、っふく、んぅ んぅぅぅぅうっっ?!!?」
ゾクゾクゾクッと戦慄いた背筋が彼女の内心を露にして、身体の隅々にまで瘧(おこり)のような緊張が奔っていく。
その急かされるような自分をただの牝に戻していく快楽と目の前の少年への溢れるような気持ちに支配されたまま。
「ッ♡ ッ♡ ッ~~~~♡♡」
ユアンは襦袢の下。
何度も何度も軽く擦れる膣内(なか)の襞と襞の蠢きだけで達してしまっていた。
プクッと粘着いた透明な蜜がすじからは零れ落ち。
ボタボタと襦袢に甘い香りを広げて染みを作っていく。
「ユアンって……こんなに可愛いかったんだ……」
「なっ?! ~~~ッ?!!」
身体を浮かされるような熱量に身を浸しながら、押し殺していた心地よさが羞恥と同時に押し寄せ、不意打ちの衝動が膣内(なか)を甘く痺れさせた。
プチュァッと潮をすじが零して、ダラダラと股間を濡らしていく。
少年は唇を離して優しい手付きで帯を解くと。
全てが空気に曝され、湯気を上げるユアンの襦袢の惨状に微笑む。
「ぁ……こ、これは……っ」
あまりの恥ずかしさに言い訳しようとした彼女はしかし、自分の身体を全て少年の前に露とする心地よさに抗えず。
顔を歪めながらも襦袢を自らの手で開いて少年へ身体を少しだけ突き出すようにして見せた。
「お漏らしした姿もいやらしくて……綺麗だよ……ふふ」
「~~~ッ」
その少年の吐息、言葉が自分の股間のすぐ傍で呟かれているというだけで、また彼女の股間は戦慄き、達しそうになる。
「ユアンのおまんこ……今から、気持ちよくするから……ん」
「ふぁぁ♡ やぁっ♡ シンアぁ……♡」
股間に顔を埋めて舌先を伸ばす想い人の顔に自分の匂いを嗅がれて、味を確かめられる。
その背徳的に過ぎる悦びを知ってしまえば、もう後戻りは出来ない。
牝の幸せに怯えながら、それでもユアンの身体は期待と興奮の最中、自然と股を開き、蜜を再びすじから零し始めていた。
―――ちゅ、ジュル、んちゅ、えぁむ、んく、ぐぢゅ、ぐりゅ。
「ぁ、ぁ~~~~ッッッ♡♡♡」
少年の顔が股間にピッタリと寄り添い。
まるで処女のように可憐な濡れて朧な灯かりに照り映えるすじに舌先を潜り込ませた。
襞は今まで待ちわびていた少年の舌が内部に入ってくるだけで歓喜に蠢き。
その媚肉と蜜を戯れさせる。
両手で少年の頭を自分の股間に引き寄せて。
完全に股を開いたユアンが唾液を口の端から零しながら、何度も何度も尻と腰を震わせ、少年の唇がすじに吸い付くのを受け入れる。
「シンアぁ♡ シンアぁ♡ っ~~~♡」
名前を呼ぶ唇は媚び。
少年に向ける視線は媚び。
戦慄いては舌先を受け入れる膣は媚び。
グヂュグヂュと舌に嘗め回される襞は媚びながら屈する快楽に軽く達し続け、溜め込まれていく痺れの先にある予感で堕落する。
「ぁっ、あぁっ♡ シンアぁ♡ っっ?!!? シンアぁぁ……っ♡」
頬を染めて、快楽に顔を歪めて、媚びた視線で、少年に牝として愛される悦びに浸りながら、聖女だった女は、ただの少女のように、強くて優しい……自分を一番気持ちよくしてくれる雄に……ずっと、心の奥から消えなかった少年に……甘えた。
「私をここ……おまんこを……お前のものにしてくれ……シンアぁ……♡」
少年の唇が蜜を吸い上げながら僅かに膨れた淫核(クリトリス)を押し潰し、舌を奥まで押し込んでズボズボと出し入れした。
それは本格的に男女が一つになるよりもずっと浅い抽挿。
しかし、それだけで絶頂に達したユアンの背筋が反り、腰がガクガクと震えて、両手が少年の頭を一際強く自分の股間に押し付ける。
ブチュアァアアァァッ。
潮が今まで以上の勢いで吹き上がり、少年の口元を濡らして、もうただの牝の顔で、甘く蕩けた表情で、聖女は何も考えずに快楽の果てに上り詰めて身を任せた。
ジュルジュルとそれを飲み干す少年の献身にもう完全に理性を無くした彼女が達した後の気だるい身体を自ら後ろに退かせて、両手の人差し指で火照ったすじを両側から開いて見せ付けた。
「シンアぁぁ♡ 私にぃ♡ 私のおまんこにぃ♡ もっとぉ……してくれぇぇ……♡」
そんな痴態に笑みを零した少年がその完全に勃って少年を待ち侘びる淫核を優しく指で押さえながら、胸に唇を寄せて呟く。
「今日は此処までだよ……ユアンが我慢してくれたら、今度はもっと気持ちよくしてあげるから……ね?」
「ふぁ……ぁ♡ ぁっ♡ シンアぁぁ……♡♡」
完全に燃え上がった身体に鬱積していく快楽の要求衝動。
それに切なげな顔で全身を震わせた彼女に少年は甘く囁く。
「じゃあ、ちょっとだけ、ね? これで我慢して……ユアン」
今まで淫核に上から触れて優しく捏ねていた指がグヂュッと音を立てて、蜜穴に入り込み。
ジュボジュボと音を立てて抜き差しされた。
「あぁぁあぁぁぁあぁああぁ♡♡」
前後不覚で舌をはしたなく垂らしたユアンが悦びに染まった声で獣のように叫びを上げる。
「じゃあ、達していいよ。ユアン……」
襞の絡んだ指が優しく膣内(なか)を?き回しながら、最後の仕上げのように淫核を一際強く捏ね潰した。
「~~~~~ッッッ♡♡♡」
声も無く何度目になるかも覚えていない衝撃で意識を飛ばして。
ユアンはただ自分を優しく抱いて唇を重ねられる温もりに幸せそうに笑みを零した。
「また、しよう……ね?」
その日の夕食は少し遅く。
まだ髪の乾いていない少年が湯上りの様子で席に着くのを……食事の用意をした女性達の誰もがちょっとジト目で見ていた。
ただ一人。
全てを見ていたイフィミスラ・ハージェット・テトス・エルデナンドは、灰金の髪の少女は……嫉妬した様子になりながらも、少年の耳を食み。
「我にもちゃんと……するのだぞ? ティア」
そう、誰にも聞こえぬよう身体を少年に寄せて囁いたのだった。
こうして、一人の聖女の受難は続いていく。
それは堕落の日々か。
それとも償いという名の快楽の調べか。
何が分からずとも……今、その時、一人の女として、ユアン・クオが幸せな眠りに付いている事だけは確かな事実に違いなかった。