第三章幕間「月夜の晩に」
―――浮遊大陸ハルトゥム魔王の館。
聖女に呼び出された少年は幾らかの話をした後。
待たせている三人の下へ戻ろうと廊下を急いでいた。
まだ宴は続いている。
しかし、ふと魔力の灯かりが切れている一角に差し掛かる。
「?」
館の整備は此処の管理者である紫影の従者、ディアコノスが行っている為、そういう不備というのは無いはずなのだが、今日に限って光の無い通路は奥へ奥へと続いていた。
「………」
興味を引かれたわけではないが、何かおかしいとすれば、それを解決するのは持ち主である自分の役目だろうと通路の先へと進む少年は不意に自分の歩いてきた通路が“別のモノ”に置き換わっていると知る。
一度、後ろを振り返ったが、其処には薄暗い通路があるだけで、ちゃんと灯かりがあったはずの場所には何もなかった。
とりあえず。
前に進み数分。
延々と伸びる月下の窓際は果ても見えない。
だが、ようやく一室から紫光が漏れているという変化に出会う。
数m先。
僅かに開いたドアの隙間からの耀きは魔力の転化したものではない。
そっと近寄って中を覗き込んだ少年は内部が所謂【|主人の部屋(マスタールーム)】であると理解した。
扉の内側へと入れば、その妖艶な室内の誂えに目を奪われるだろう。
天蓋とレース付きの薄紫色の寝台。
薄紅のシーツに高く積まれたクッション。
横の台座には純金の香炉。
灯かりを放つのは部屋の隅にある天井からぶら提げられた鳥篭のような洋光(ランプ)だ。
室内には僅かに甘いが刺激の穏やかな煙が薄く漂っており、壁際の金銀の調度品に纏わり付いていた。
壁紙から紅の絨毯まで全てが一級品。
奥の棚には本がギッシリと詰め込まれており、知性を主張する。
サイドテーブルと椅子が一組。
紅茶のポットとカップが一組。
誰かが使っているような気配は見受けられないが、この場所を作った主人は少なくとも旧き時代の様式をしっかりと室内に織り込めている。
微細な文様が家具の細工やあちこちに鏤められ、主張する事なく重厚さを増させているのは間違いなく魔術師の仕事だろう。
不意に後ろから気配を感じて少年が振り向くと。
困惑したような表情の白い少女。
土御門烙南がいつもよりも軽やかな少し膝丈が出た着物姿でいるのを発見した。
「兄様?」
「烙南も此処に迷い込んじゃったの?」
「え、あ、はい。いきなり……通路がおかしくなって、歩いていたら此処に」
「そっか。じゃあ、しばらく此処にいた方がいいよ」
「え?」
少年が手招きして、少女をそっと椅子に座らせる。
「たぶん、此処の元の持ち主の隠し部屋みたいな処なんだと思う」
「隠し部屋?」
「昔から屋敷そのものに隠し部屋を作るのはお金持ちの嗜みみたいなところがあるんだけど。魔術に精通してると……こういう特定の時間なんかじゃないと外部から認識出来ない場所とか作りたがるんだよ。みんな何でか」
「兄様は物知りですね」
ポンポンと烙南の頭を撫でて寝台に座り込んだ少年が少し目を閉じる。
「……とりあえず、月が少し傾いたら出られるんじゃないかな」
「そう、ですか……」
「?」
椅子からそっと立ち上がって、烙南が自らの頭から簪を引き抜いた。
その自分の背丈よりも長い髪がサラリと零れて、フワリと浮遊する。
少年の横に来て、少女が少し恥ずかしげにピタリと寄り添った。
「二人切りになるのは……凄く久しぶりな気がします。兄様と出会った頃以来かもしれません」
「そうだった、かな?」
「はぃ……」
後ろから手を回して、髪を少年が梳くと。
はにかんだ笑みが零される。
大陸でも珍しい白変化(アルビノ)はどちらかと言えば、不遇な体験をする事の方が多い。
その容姿があらゆる意味で珍重されるからだ。
少女はそれ以前の問題として東部における家の道具だった。
ハルトゥムに暮らすようになって、状態が落ち着いてきたのはいいが……少年を助ける為に無理をして、アルヴァスでの一件では奇跡に囚われ世界から消えていた。
その後遺症らしきものは見受けられないものの。
誰も返ってきた事の無い奇跡の奥に仕舞い込まれていた時間は決して短くない。
こうして横に微笑んでいるだけでも本当に信じられないくらいの幸運だろう。
そう知ればこそ、少年もまた常に気を配っていたのだが、昔とは違って、無知でも無ければ、人を気遣う余裕すらある少女は……努めて心配を掛けまいと弱音を零してくれるような事は無かった。
「じゃあ、ちょっと今日はいつもより可愛がる方向で」
「ぇ?」
少年が少女の腰を両手でヒョイと掴んで自分の膝の上に乗せ。
後ろから頭を撫でる。
少女の膝の上で手に手を重ねながら。
「ぁ……ぅ……嬉しい、です。兄様」
頬を染めながら小さな声で呟いて。
烙南が背中を少年に預けた。
「助けに来てくれた時の事。まだ、お礼言ってなかったけど……ありがとう。凄く嬉しかったよ……」
「っ、烙南は……烙南はそれだけで報われます」
蕩けた表情で瞳の端に涙を浮かべて、こくりと頷く愛らしい人形のような少女は自分の我侭だと知りながらも、胸の奥から響く声のまま。
後ろを振り向き。
上を見上げて。
瞳を閉じた。
「ん……」
僅かに軽い音。
ちゅ、と。
常に他の少女達と共に交されていた口付けが今日は一人だけに降る。
「ふ……ぁっ……あに、さまぁ……」
僅かに震えた舌が開いた口唇の内部に見える。
「あんまり時間は無いかもしれないけど、少しだけ……いい?」
「はぃ……あにさまのらくなに……好きなだけ……いたずらしてください……」
しゅるしゅると。
少女の着ていた着物の帯が解け。
はらりと肌の上の全てが寝台横に落ちていく。
外部に出て行く時は魔術で外見を年齢相応に見せている身体は今も出会った頃から変わらず。
真白く。
未だ膨らみも僅か垣間見えるか妖しく。
幼くも瑞々しい。
僅かに膨らむ桜色の蕾。
未だぴったりと閉じたすじの上には小指の先より小さな真珠が顔を覗かせる。
魔王たる少年に抱かれた少女達の誰もが身体の変化を経験するが、その彼女達にとって共通するのは大切な場所が剥き出しになるということだろう。
何時でも、何処でも、求められれば、応じられるように。
そんな肉体の変わりようを受け入れた誰もが少年に触れられれば、疼きを覚えずにはいられない。
服越しでも直にでも触れられる悦びに蕩ければ、もう自分が発情しているという事を誰も隠せない。
それを真っ先に見られてしまう恥ずかしさと喜びは等価に身体を火照らせ。
もう烙南に熱い吐息を零させていた。
「じゃあ、此処からね」
少年の指が桜色の蕾の片方を指先で最初は突くようにして。
「ぁ……んっ、くぅん……っ♡」
次は優しく弄るように。
「ひぁ……っ♡ っ……っ」
最後には押し潰しながら摘み捻る。
「あにっ、さまぁぁ……♡」
それだけで蕩けた牝の顔となって。
烙南が唾液を零しながら、指先から与えられる悦びに切なそうに眉を八の字とした。
「柔らかくて、触れてるだけで気持ちいいよ。烙南の此処……ちゅ」
頬に口付けして、指先が今度は胸を離れて臍の方へと向かっていく。
肌をなぞられる快楽に背筋を期待で震わせて。
少女は僅かに股間をモヂモヂと擦り合わせた。
指先がそっと未だ何も生えない恥丘を撫ぜ降りて、すじの頂点にある剥き出しの真珠を軽く通り過ぎる。
「っ~~~」
それだけで背筋を何度か震わせて。
その後、まだ膣に潜り込んで来ない指のもどかしさに胸をときめかせて。
少年に甘い声が呟かれる。
「あにさまぁ♡ あにさまぁ……っ」
少女が何を望んでいるのか。
分からないわけもない。
しかし、指はまだ潤み、蕩けた蜜を零すだけの場所を表面からなぞるだけだった。
「ぁ、ぁっ、っ~~~♡」
高まる背筋の震え。
抗えない指先から与えられる甘美な衝動。
(ひ、ぁ……ぁ……っ……あにさまのゆびぃ……はやくぅ♡ らくなのここに……ほとにぃ……♡)
それを更に味わいたいと。
もどかしい指の動きに少女は懇願するように上目遣いで少年を見上げた。
「あにさまぁ……もっとぉ……もっと、らくなのここにぃ……♡」
そのオネダリにまた唇へ口付けを降らせて。
今度は舌と舌を絡めながら、少年は指をゆっくりと膣内(なか)へと潜り込ませた。
「ぇぁん、んちゅ、んちゅる♡ ちゅるぅぅ、ぇぅ、んくんく♡ あにひゃまぁぁ……っ♡」
舌と舌で交わる幸せに唾液を零しながら蕩け切った烙南はすじに飲み込んだ指をしゃぶるように襞を蠢かせる。
(ぁぁ、あにさまのゆびぃ♡ こんなにぃ♡)
中指はまだ狭く。
しかし、情熱的に求めてくる膣内の感触を楽しみながら、中程の腹側をこりこりと指の腹で掻いた。
「っ~~~♡」
想い人の指で己の弱い処を内側から撫でられた感触に薄く達して。
へにゃっと少女の身体から更に力が抜ける。
それと同時に蜜が溢れ出した膣内(なか)は更に潤み。
グチュグチュと指の根元で音を立てる。
腹側を掻き終えた指が今度は浅い部分を滑るようにしてなぞる。
今度は腰を僅かに跳ねさせて、烙南の顔がだらしなく舌を零す程に甘く歪んだ。
「あにひゃ、まぁ……ぁっ♡ ぁっ♡ ぁ゛~~~っ♡♡」
「いい子いい子……烙南……ちゅ」
「んぁ、んちゅ、んく、んちゅ、ちゅる、ちゅず、ちゅるぅぅ……っ」
舌と指で甘やかされながら、もう蕩け切った少女は必死に少年の舌を吸うだけしか出来なくなっていた。
もっと悦ばせたいと思っていたのに。
これでは反対だと想う反面。
抗えない少年の愛撫をねだる牝としての本能が少女を小さな獣にしていく。
昔とは違う。
これがどういう行為なのか知っている。
分かっている。
そして、それをして欲しい人にして貰っているという悦びが……どれ程に幸せな事なのか。
この数年で精神的に成長して尚。
まだ、あの頃の続きを望んでいた自分の事を知っているように優しく甘やかしてくれる少年の優しさが烙南には何よりも嬉しく。
胸が満たされた。
「僕が代わりにしてあげるって言っておきながら、ずっといなかったんだから。これくらいはしてあげないとって思ってたんだ……」
スッと少年が指をすじから引き抜こうとする。
ヌルリと蜜が絡み付き。
襞に引き止められたものの。
チュポリと濡れ光りながら、糸を引いて自分から離れる少年に少女は今にも切なさから泣き出してしまいそうな顔で、どうして抜いてしまうのかと悦びを取り上げられた牝の顔で、媚びた眼差しを送る。
「今度は烙南の身体。見せて欲しいな……」
僅かに魔術で浮遊して身体が寝台へ横たえられる。
そして、寝台の端から投げ出された足が正面に回った少年によって掴まれ。
そっと広げられた。
「~~~っっっ」
これから何をしてくれるのか。
分かってしまった少女の顔は恥じらいと快楽への期待と耐えがたい疼きによって歪んだ微笑となる。
指が引き抜かれてからまた閉じてしまった弾力のあるすじ。
蜜を滴らせている場所の中心にゆっくりと顔が近付けられ、舌先が押し込まれた。
ヌリュリと襞が舌によって掻き分けられる感触にビクビクと腰を跳ねさせて。
烙南が遠退く意識の最中。
自分が達してしまったのを知った。
「ぁ゛~~っ♡ っっ♡ あにひゃまぁぁ……♡」
それに声ではなく。
舌先と唇で答えた少年は口唇で幼いすじを覆うように口付けし、上唇で淫核(クリトリス)を優しく押し潰しつつ、僅かに潮吹いた少女の膣内(なか)から蜜を吸った。
ヂュルヂュルと音は粘着いて。
その甘い香りが室内を満たしていく。
声無き絶頂。
一番、背筋を奮わせる場所を唇でされる背徳感と舌で直接繋がり、求められる恍惚感と下半身を支配する甘い快楽が何重にも背筋を焼く波となって、少女の脳裏を白く染めた。
其処にあるのは少年との思い出だ。
出会ってから僅かな間の時間。
再び探し出した時の喜び。
そして、ようやく戻ってきてからの日々。
まだきっと一年にも満たない。
それでも、大切な大切な記憶。
ようやく傍にいられるようになっても、他の少女達の輪の中に入っていけない自分の押しの弱さが恨めしくなったりもした。
けれど、今は全てがそれで良かったのかもしれないと。
そう、少女には……土御門烙南には思える。
「~~~~~~ッ♡」
容赦無き、優しき愛撫の先で。
ようやく身体を弛緩させた烙南は自分が思わず失禁していた事にほっとするような温かな感触と共に気付いた。
だが、それが一向に着物を濡らす様子が無い事でようやく少年が何をしているのか知って、思わず顔を真っ赤にしながら力の入らない身体を起こして己の股間を見た。
其処では少年が嫌そうな素振りもなく。
優しく尿道をなぞりながら、コクコクと少女の粗相を喉の奥に飲み込んでいた。
「ぁ……ぁ……あにさまっ?!!?」
もう心は子供ではないと思っていたのに自分のしてしまった事に恥ずかしさで死にそうになりながら、それでも股間から伝わってくる優しい舌の愛撫に蜜を再び零しながら、少女は思わず涙目になった。
「ちゅ……お漏らししてる姿も可愛いよ。烙南……」
「~~~っっ?!!?」
思わず顔を両手で覆った少女は自分の乱れようを少しだけ冷静になって振り返ってしまい……更なる羞恥で声すら出せなかった。
「……烙南も、もう大人なんだね」
「い、今のは……あ、赤子のようで恥ずかしい、ですっ……」
「そうやって恥ずかしがる烙南は出会った頃と違うんじゃない」
「っ」
言われて。
たぶん、そうだろうと。
きっと、昔の自分なら少年にもっともっとと恥ずかしくなりながら無知なままにおねだりしていたかもしれないと、そう分かって。
少年が優しく額で額をコツンと付けた時、その笑みにあるのが自分の成長への喜びなのだと知って。
烙南はようやく自分がまだ取り繕って、少年に対し素直になれていなかったのだと理解した。
「兄様……」
「何?」
「兄様は……昔と違う烙南でも……いいですか?」
そのおずおずとした。
無垢とは違う。
確かに自分を確かに持った少女の声に頷きは返る。
「烙南がどんなに変わっても、僕にとっては変わらない。恥ずかしいところも見せたくないところも……僕のものにしていいかな?」
「―――はぃ。兄様のものに……烙南はこれからもずっと兄様だけのものです……」
「うん。頑張るから……」
唇が優しく重ねられて。
今度はただ重ねただけで。
それだけで胸が満たされる想いに溢れ出しそうな幸せを感じながら。
神門の後継者だった少女はこの六年の全てが報われた事を感じた。
二人が互いに見つめ合った時。
不意に……もうさすがに無いだろうと思っていた第三の来訪者が扉を開く。
「「ここ?」」
ギィッと音を立てて部屋の内部を覗き込んだのは黒いダークエルフの少女達。
それに見覚えがあった少年はああと思い出す。
ゼオ家の近所に引っ越してきたお隣さんの少女達だ。
仮面絶神戦争の最終局面。
アルヴァス全土の概念結界がアイウィスの衝突で破れそうになった時。
駆け付けた双子はかなりの魔力資質を持っていたらしく。
ハルトゥムの少女達と共に国の瓦解を食い止める為、尽力してくれたのである。
後に母親と親族達がハルトゥムの役所に移住を持ち掛けられ承諾。
現在は館の近くの住宅街に居住していて、時折友達な璃紗やシルメイアの下へ遊びに来ている。
今日も確か来ていたのは知っていたが、それにしても間が悪かった。
思わず烙南が固まって恥ずかしそうに両手で身体を隠した。
「「ぁ……」」
同時に少年達の様子を見て、目をパチパチとさせた双子達が頬を染め……僅かに何かを呟く。
それはどうやら声を相手に届ける魔術だったらしく。
烙南の耳には『お幸せに……』と聞こえていた。
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
はにかんだ恥ずかしそうな笑顔でスススッと双子達が扉の先へと消えていく。
家族同然のハルトゥムの一員ではなく。
一応は外のお客さんという立ち位置である彼女達に情事を見られた烙南が思わず一杯一杯になって、コテンと寝台の横に知恵熱でも出したように頭から湯気を上げながら倒れ、意識を失った。
少年はそんな様子に「あはは……」と頬を掻きながら、不憫そうな視線を向け。
とりあえず、起きるまでに身嗜みを整えておこうと。
淫猥な蜜と汗に塗れた身体を洗うべく。
ひょいとお姫様だっこで幼い少女を運ぶのだった。