第二十三節「肖像」
誰もがその時を覚えている。
それが夢だとしても、随分と懐かしい。
だから、全員が覗き見た。
天の雲の隙間から。
世の儚さは常に彼らの上にあった。
小さな王宮の一室で。
閉ざされた迷宮の行き止まりで。
雨に曝された中庭の中心で。
燃え盛る村を見下ろす丘で。
「これは……」
灰金の髪をした少女は一人。
緑銀の髪の少年が天を仰いで夜雨に濡れるのを見た。
「王宮……この様式は北部の?」
辮髪の男は一人。
寝台からもう起き上がる事無き母を前に縋る子を見た。
「これって……先生の?」
桃色髪の少女は一人。
何かを背負い泥に塗れた探索者を見た。
「燃えてる……?」
緑銀の髪の少年は一人。
粗末な家々が焼けて、その中に絶えていく影を見た。
泣き声が響く。
誰の前でも。
夢にしか過ぎないはずの朧げな世界に。
王宮の一室で母を失った子は泣き。
迷宮の行き止まりで仲間の亡骸を背負った青年は泣き。
両親を失い明かりの消えた家で家族を待つ子は泣き。
炎に焼べられた村を見つめる者は泣き。
不意に彼らを見る。
その瞳にあるのは何か。
それを誰もが恐れた。
遠ざかっていく意識。
間延びする時間。
小さく翳る顔がまた泣き始める。
失われたモノは返らず。
蒼い天の明かりに全ては照らされていた。
*
鈍く撃鉄を起こした音。
冷たい感触に目を覚ませば。
四人の誰もが傍に何者かを認める。
高格外套(ソーマ・パクシルム・ベルーター)。
世界最強と名高き対魔王汎用兵装。
如何なる種族の頂上存在すらもこの鎧で武装済みの兵一千にて平らげるというのは比喩でも何でもなく大抵の場合は事実だ。
人に渾名す邪神、悪神、魔神、禍神、その他諸々を処分してきた七教会のベストセラー。
鈍色の全身鎧はバージョンアップを繰り返す毎に強化され。
今では機械的なスーツにも似る。
が、その最も突出した力は兵器の威力でも長期間、長時間の連続稼動、連続運用に耐える持久力でもない。
『四人を確保。これより転移方陣敷設後、帰還する』
「「「「!!?」」」」
同時に起き上がる事も出来ずに全身を硬直させたイルトと愉快な仲間達の誰もが気付いた。
詰んでいる。
そうだ。
リュオやイルト達は大陸中央においていつも思っていたはずだ。
この何でも出来る鎧が犯罪や災害の前に立ち向かった時の頼もしさ。
七教会の象徴とも言うべき力の出来る事の広範囲さ。
汎用性。
それこそが如何なる局面でも七教会の武力を誇示してきた。
深海の底で、天空の上で、真空の中で、星の中核で……実証されてきた活動範囲とやれる事の多さは万能とも囁かれる。
だから、彼らが逃れられる可能性など最初から詰んでいる。
敵の拘束、精神の凍結、肉体の固定、魔力の呪縛。
何から何まで制限中。
指先どころか。
魔力の一欠けら。
精神の抵抗すらも殆ど不可能。
(く……弛んでいたか。微動だにッ!?)
イフィー・ファサルトスにとって、正しく今の状況こそが最悪。
ああ、仲間達が居てくれるという気の緩みが何よりも彼女を弱くしていた。
寝る時の準備は万全だったが、気を張り巡らせていたならば、防げた襲撃。
こちらの事は完全に見切られていたかと思う暇も無く。
彼らは簡易の転移方陣でベースキャンプとしていた家の前に送られ。
同時にその周囲を固めていた5機からなる高格外套の魔導方陣の中央で空間凍結処理された。
時間は止まっていないが、実質封印された当人達は物質的な静止によってカチンコチン。
後は長距離転移方陣が起動するのを待つばかり。
それでも存在の階梯からして人間から踏み外しているイフィーだけが辛うじて思考するものの。
凍結中の空間内部は外からの光が入ってこない。
(追撃部隊、ではない。先程の撃鉄の音……七教会は剣に重火器の機能を持たせて運用していたはず……ならば、何かしらの特化型の専用武装……我を見つけ、警戒ラインを易々と突破して方陣の起動すらも予期させなかった手際。何も起きていないかの如き魔導の静謐さ。こいつら……ハティア・ウェスティアリアの―――)
気付いたところでもう遅い。
今出来る事は無いのだと次の機会……あるかどうかも妖しい未来に希望を持つ事しか彼女に出来る事は無く。
しかし、不意に全ての封印が途切れた。
(今だ!!)
灰金の少女の瞳が耀く。
光の速度で解凍された術式が眼球内部で奔ったのだ。
瞬時の転移が彼ら全員を空の上に500m程運ぶ。
同時に最大展開された魔術方陣が多重展開。
防壁を形成したが、少女が見たのは自分の周囲へ追撃しようとする全身鎧達ではなく。
倒れた鎧の傍らで佇む偽聖女の姿だった。
ユアン・クオ。
本物ではないが、それに極めて近しい存在。
それが己の部下ではないとはいえ。
同じ七教会の高格外套達を下していたのだ。
倒れた誰もが装備毎、転移方陣に沈んで消えていく。
「え? ど、どぁあああああああああああああ!!!? 何だコレぇええええええええええ!!?」
ようやく気付いたイルトが落ちながら叫びを上げ。
「ふぁ!? 落ちてますうううううううううう!!? ピアリ、落ちちゃってますよぅ!!? 夢?」
惚けた様子で桃色髪の少女が小首を傾げ。
「ぶ、無事ですか!? イルト君!! ピアリ君!!」
ようやく動けるようになったリュオが軽く呪を呟いて他の二人を減速させる。
それに合わせたイフィーが溜息を吐いた。
(助けられたと言っていいのかどうか)
呆れた様子の瞳が彼女を地表から見ていた。
たぶん階層に挑戦中は邪魔者を排除するというルールなのだ。
フッと偽ユアンの姿が消えた。
全員が地表にゆっくりと降りた頃にはまるで最初から何も無かったかのように島は静まり返っており、同じように陽光が降り注ぐ浜辺が波打ち際を晒していた。
「はぁはぁはぁ……た、助かったぜ。つーか、さっきの高格外套、だったよな?」
イルトがいきなりの拘束と空中ダイブの衝撃から脂汗を顔に浮かべて、心臓に悪いと言わんばかりに砂浜で胸を撫で下ろす。
「吃驚しました!! イルトさん!! 大丈夫ですか?」
「あ、ああ、ピアリも無事か?」
「はい。こう見えてもピアリ。とっても頑丈なので!!」
「そ、そうか」
驚いた割りには平然とした様子でイルトを気遣うピアリがその背中を撫でる。
「ふぅ。完全に油断してましたね……情けない事この上ないですが、何とか助かったようだ」
リュオが埃を払ってから弟子の傍で何か後遺症が無いかと己と二人の身体を確認していた。
「師匠。今のって」
「ええ、七教会からの襲撃です。どうやら全員あの偽聖女にこの場から排除されたようですが」
「此処、全然安全じゃなかったな……つーか、どうやってオレ達を見付けたんだ? 今の絶対、危機一髪だったって」
「もしかしたら、元材を造ってる時の反応を検知したのかもしれませんね。一応、入念に隠蔽してたはずなんですが、何とも手が早い。これは考えている時間が無いかもしれません」
「次の層に向かわないとマズイ、か……」
「ええ」
子弟の会話は最もだった。
この場に留まるのはもはや危険。
となれば、さっさと偽聖女から出されたお題をクリアーするしかない。
「……リュオ先生。工程を繰り上げる。今、思い付いた」
「ッ、そうですか。具体案は?」
「「?」」
リュオとイフィーの遣り取りに?を浮かべた弟子と弟子二号は小首を傾げた。
「忘れていたのだがな。ユアン・クオ……あの女には幾つかの通り名がある。今回の事で色々と確信した。短時間で抜けられる可能性を模索するとしたら、其処が突破口だろう」
「分かりました。さっそく取り掛かりましょう」
やはり、二人を置いてけぼりにしたまま。
聖女を突破する為の方策が詰められ始めた。
*
グゲゴッゴォオオオオ。
鶏にしてはやけに野太い声。
鳥の化け物みたいなコカトリスが家畜小屋で叫ぶ朝の最中。
ようやくパーティー地獄から開放された聖女ハティア・ウェスティアリア御一行様と彼女の貴下に入る専属師団は“明星の檻”に辿り着いていた。
七教会が天蓋蒼星に秘匿する専用の連絡通路から直に降りてきたのだ。
真夏の太陽が燦々と降り注ぐ海と砂浜の階層。
真空を行く【宙域航行艦(スペティウム・アパラトス)】の一隻が封鎖された一角の空に開く穴の下。
地表へと着陸していた。
全長で200m程の流線型の船だ。
砲塔らしきものは一切見えず。
継ぎ目らしいものも無い。
本当にこれが船かと怪訝に思う者もあるだろうが、その横腹から船体の表層に波紋を投げ掛けながら、内部より全身鎧達が出てきて次々に整列していく光景を見れば、それが常識的な船の範疇に入る代物ではないと理解出来るだろう。
グニャリと一際大きく船体を歪めて穴が開けば。
左右に護衛を付けた彼女ハティア・ウェスティアリアが降りてくる。
七教会が天蓋蒼星の各層に置く支部の中でも僻地と言える場所。
その職員の大半が緊張した面持ちになりながら、一斉に道の前で敬礼して出迎えた。
白と黒を基調とする【軽殻装(コート)】姿の職員達にとって、聖女を出迎えるというのは一大事。
何と言っても七聖女中最も人気で最も可愛いと評判な絶世の美少女兼聖母である。
100人程の列に並ぶ歳若いエリート達の性別♂は仄かに胸を時めかせて頬を染め。
性別♀はヒリヒリするような聖女の若さ、美貌、愛らしさ、肌と髪の色艶に戦慄しつつ……ちょっと妹に欲しいとか不遜な思考が頭の横をチラリと掠めた。
支部の偉いオッサン連中にしても年甲斐も無い胸の高鳴りは若者と連動しており。
緊張しているのを覆い隠せたのはそろそろ老年に入りそうな壮年達のみ。
「本日のご来訪“明星の檻”第4支部総員にて歓迎致します!!」
口髭を蓄えた五十代の支部長が最敬礼で己の前までやってきた聖女を出迎えた。
「ありがとうございます。此処には数日滞在するかと思いますけど、よろしくお願いしますね」
「これが我々の任務であります!! どうぞ、ご存分にお働きを」
「ふふ、はい」
手を差し出されて。
支部長が汗が滲みそうな手袋で握手する。
それにいいなぁという感想を持った者が複数。
「部屋は用意させてあります。護衛の方々の宿舎も200人までならご利用頂けますが、どう致しますか?」
「じゃあ、皆さん」
ハティアがそう後を振り返ると。
今まで性別も分からなかった鎧達が一斉に鎧の兜を脱いだ。
中から出てきたのは歳も性別もバラバラな老若男女。
全員が自分の主にペコリと頭を下げるとバラバラに散開して何処かへと散っていく。
支部の女性陣や男性陣の中でも若者達は自分達と同年代くらいな相手にイケメンや美少女を見付けて思わず視線で追ってしまい。
横の同僚から軽く肘で注意されたりもしていた。
「支部の中を案内してもらってもいいですか?」
「え、ええ!! 勿論です!!」
どうぞどうぞとハティアが支部のお偉方に連れられていく。
そうして聖女の姿が見えなくなると。
ようやく場には弛緩した空気が流れた。
支部の若者達は美男美女がかなり混じっていた聖女のお付師団の話題で持ち切り。
今からナンパしに行こうかと冗談を言うくらいだった。
現在は殆どの人員が最低現の任務でローテーションしている為、彼らは午前中半休のような状態。
支部で予め練られていた予定を消化するならば、全身鎧のエリート達との親睦を深めるという名の合コンまでが一連の流れである。
そんな彼らが浮き足立ちながらも朝食へ赴こうとした時。
ふと、支部女性陣の一部が金髪で顔の彫りも深い高身長の極めて兵隊らしい体脂肪率1%もあるか怪しい美丈夫を見付けた。
支部の周辺でウロウロしている。
道にでも迷ったのか。
これはチャンス。
玉の輿。
ついでにお近付きに。
そんな晩婚化の波が押し寄せる大陸中央ならば普通な反応を示した現在28歳前後の一団がスゥゥゥッと暗殺者もかくやという足捌きで男の横へと近付く。
「どうかなされましたか?」
ニコヤカに彼へ話し掛けたのは現在29歳独身。
仮称マリアさんである。
「ああ、いえ、ちょっと仲間達の帰りが遅いもので気になって」
「何かの任務で?」
「はい。いや、ちょっと偵察に出たんですが、連絡が無くて」
「それは心配ですね。でも、外よりは中で落ち着いて待っていらした方が良いかもしれませんよ?」
「そ、そうですね。お気遣いありがとうございます」
美丈夫はガタイに似合わず。
ペコリと女性陣に頭を下げて、笑みを浮かべる。
これにちょっと好感度が上がった誰もが任務中な仲間達の方々には悪いが少し遅くなって欲しいという願望込み込みで笑みを返し。
さぁさぁこちらへと支部の内部へと案内する。
エントランス横のカフェに案内された美丈夫だったが、控えめながらもズシズシと会話を差し込んで来る女性陣の応対に少しアワアワしていた。
その何とも初々しい様子に支部で男に餓えていた彼女達は誰もがジュルリと涎を垂らしそうな内心をグッと堪える。
「はぁ、そうなんですか。大変ですねぇ」
「まぁ、若いのに凄いですわ」
「ええ、ええ、本当に……」
世間話から巧みにその場から離れ辛い話題へと誘導しながら、彼女達は射程圏内に捕らえた獲物に対して近接戦を仕掛ける。
「では、恋している暇も無いんじゃありませんか?」
一人がそう糸口を開こうとそう彼に話し掛けた。
「恋、ですか?」
「ええ、七教会でも晩婚化に対して二十代での結婚を推進していますけど、中々難しいとそういう政策をやってる局に勤めている同僚が言ってましたわ」
「いえいえ、自分等はまだ若輩の身で……オイソレと色恋には走れませんから。ですが、恋というのならば、もうしているかもしれません」
女性陣の内心に僅かな動揺が走る。
もう先に相手がいるのかと。
此処は重要なところだろう。
「お相手が?」
「あはは。いえ、昔も今も初恋の人に片思いですよ」
美丈夫が制服のボタンを外し始める。
それに思わず何をするのだろうと。
ゴクリッと唾が呑み込まれた。
緊張した彼女達は彼がバッと制服の内側の筋肉美と同時に見せ付けたモノに衝撃を受ける事になる。
「ハティア様が居る限り、伴侶が出来るかどうか」
彼がニコニコとした様子で制服の裏地の全てを女性陣に曝した。
其処には……ハティア・ウェスティアリア。
世界一可憐な美少女のブロマイドがまるで……鱗のように……本当にそういう防御用の結界を発生させる護符なのではないかと思える程の量でビッシリと……隙間無く張られていた。
「「「「「―――」」」」」
「左から右に。年代順と日付順とベストショット順に並べてあるんですよ。生ハティア様を前にして不遜だとは思うのですが、やはりブロマイドや生写真は一味違う魅力がありますよね。ああ、それとこの制服ハティア様に加護を掛けて頂いて。ありがたくて、それから一週間は寝られませんでした。ちゃんとブロマイドは観賞用、布教用、実用の三種類を常に常備しているので、もしよろしかったらどうぞ」
そっと男が善意なのだろう様子でポケットからゴソッと普通の札束よりも分厚いかもしれないクリアケースに入れたハティアのブロマイドを女性陣に其々渡した。
「毎日、ハティア様のお声を聞ける職場は天職ではあるんですが、何故か女性の方にはモテないんですよ。どうしてなのかサッパリなんですが、今はそれでもいいと思えるようになりました。とりあえず、自分の結婚よりはハティア様の身辺警護の方が私にとっては重大事なので。皆さんのようなうら若い女性と話したなんて言ったら、同僚に羨ましがられるかもしれません。ははは」
「「「「「―――」」」」」
彼女達が硬直していると。
彼らに背後から声が掛かる。
「おう。そんなところでどうした? まだ、チームの連中は帰ってないのか?」
彼女達が目にしたのは美丈夫と同じ程の身長でありながらも痩身で黒髪を腰まで伸ばした二枚目な男だった。
何処かの優男というよりは東方の耽美な貴族のようにも見える。
「ああ、実はそれがまだ連絡が無くて」
「そうか。後で探しに行ってやろう。で、何してるんだ?」
「ああ、いや、ハティア様談義で少し盛り上がっちゃってさ」
「お、そうなのか。じゃあ、オレもちょっと自慢するか」
「御婦人方の前だぞ? 自重しろよ」
「ははは、ハティア様愛には国境も性別も関係ないさ。ご婦人方、こいつなんてまだまだですよ。オレも上の方々程ではないんですが、信者としては熱心な方なんです」
バッと男が彼女達に背中を向けて、バサッと制服を脱ぐ。
どうやらその下にはシャツすら身に付けていないらしく。
肉体美が露となったが、彼女達は衝撃に頭が揺れたような気がした。
「「「「「―――ッッッ!!?」」」」」
その白くも引き絞られた背筋と筋肉の板。
しかし、この真っ白なキャンバスには精密無比な聖母像が一枚。
赤子を抱いて教会のステンドグラスの前で微笑む少女が今にも動き出しそうなくらいの躍動を持って描き込まれている。
「こいつはハティア様を背負うなんて到底出来ないって、それで入れてないんですよ。覚悟が足りないんだ。覚悟が」
「オイオイ。あんまりやると不敬罪になるぞ? いや、ハティア様愛は無限だが、夜中もハティア様を下にして眠るなんて到底自分には出来ないよ」
二人のやり取りはまったく以て常識的な範疇のような笑みと会話に満ち満ちているが、やっている事はブロマイド自慢と上半身裸で刺青ハティア様(限定聖母バージョン)の披露である。
「は? お前、そんなわけないだろ。オレはいつでもうつ伏せで寝てるぞ」
「その手があったか?!!」
劇画タッチで美丈夫が固まり。
フムム……それならばと思案する。
「ブロマイドだけじゃ、ハティア様を身近に感じられないだろ? せめて腹筋くらいには入れたらどうだ?」
耽美系東方貴族が美丈夫に告げると。
「……心臓に入れようかな。それくらいなら自前でも出来るから」
「あ、内蔵系は止めとけ。先輩方が言ってたぞ。重症負って外科手術が必要になったら、医者がハティア様信者だと切ってくれないらしい」
「そうなのか?」
「ああ、前にそれで死に掛けた方がいたとか」
「迷惑は掛けられないからな。しょうがない」
二人の遣り取りに何やらダラダラと汗を流しつつ沈黙していた彼女達が男二人に用事があるのでこれでと言い置いて逃げ出したのは「ハティア様の顔をどの位置に入れるか」という会話が聞こえた辺り。
その日、支部の女性達が開こうとした合コンは結局お流れになり。
七教会の独身者が多い事で有名なハティア専属の護衛達はまた出会いを逃す若者ばかりとなり、一部の常識を弁えた別師団の友人者達から引き攣った笑みを浮かべられる事となる。
世界一晩婚化に拍車を掛ける聖女という二つ名が広まるのもそう遠い未来の話ではないだろう。
ハティア様命を自称する男達の下に先遣隊全滅、生還の報が届くのはそれから二日後の事だった。