※この作品はR-18です。

聖娼館ハルトゥム   作:Anacletus

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第三章エピローグ2
第二十七節


第二十七節「新たなる仲間:中編」

 

 魚が泳ぐ姿に憧れた。

 

 鳥が飛ぶ姿に憧れた。

 

 夢のように鋼のように。

 

 形為すものはこの手の中。

 

 息吹を溶かし込めば、須らく鉄は鳥に、銀は魚に、銅は竜へと。

 

 願いは叶った。

 

 だから、この世は天の獄より地の獄までも作り物めいて響く。

 

 誰かが創ったものならば、何一つとて……真に一つとて、器は倣えぬ事無し。

 

 音色を聞けば、理解する事なんて容易く。

 

 己の手はそれを顕す。

 

 そう知れてこそ、蒼き天蓋の星が未知足り得た。

 

 世界として完全にして不完全。

 

 何処までも美しく。

 

 また、醜い程に業を放つ。

 

 惹かれて赴く事に躊躇いなんて在ろうはずもなく。

 

『模して尚、高みを目指す者よ』

 

『丈低き者達の力に満つる人よ』

 

『彼方は夢、鋼は力、汝は鎚』

 

『祖はそなたを確かに創造の申子と擬(なぞら)えたり』

 

『だが、道程は悠久の此方より遠く』

 

『生涯を捧げて尚足りず』

 

『往く手には紅蓮の茨と銀針の筵が延びる』

 

 そう多くの遺された者達は呟き。

 

 しかし、それでも……諦める事なんて……露程も喉には昇らず。

 

「心配性だなぁ、みんなってば。僕は死にに行くんじゃないんだから。もっと、盛大に送り出してくれてもいいんだよ?」

 

『……ならば、往け』

 

『その血潮の一滴枯れる日まで』

 

『猛る輩に門出の祝いを』

 

『旧き縁の終幕に飛天の唄を』

 

『名に負う者へ匆々(そうそう)の詩を』

 

『汝は鎚、汝は鋼、汝は人、汝は夢、汝は―――』

 

 答えは当に知っている。

 

「我が名はクルジェンカ・アクトフォクル・イオ・クナスカ」

 

 それは小人と妖精の国にたった一人生まれたどちらでもない人の姿持つ種族。

 

 古の昔、小人が人であった頃、妖精が人に慈しまれていた頃。

 

 まだ、夜の詩吟が暗く深く残酷を謳っていた頃。

 

 姿を消した最後の鎚振るう異種。

 

 彼の者達はたった一つの名で呼ばれていた。

 

 世界で始めて銀金(ミスリル)を鍛造した者の末も今は唯人。

 

 だから、世を習い権利とやらも主張するのだ。

 

「行っくよ~~~!!!」

 

 船出の日。

 

 確かに天蓋の星は蒼く。

 

 いつまででも見ていたい輝きに包まれていた。

 

 狂おしい程に……。

 

 *

 

「やぁやぁ、遠からん者は音に聞け!! 傍に寄っては目にも見よ!! 吾(われ)こそはドズマボルにその人在りと謳われた技巧技顕の皇家鍛冶!! 旅の輩、舟一つ!! 碧き最鋭、旭の如く!! 戯曲の種にと詠われた!! 西部一の創造者!! クルジェンカ・アクトフォクル・イオ・クナスカとは僕の事だ!!」

 

 ドドンッ!!!

 

 そんな大見得を切ったのは髪を肩まで伸ばし、白と金の派手でゆったりした外套を着込んだ赤褐色の微妙にダブ付いたネクタイ無しのダブルに身を包む僕っ娘だった。

 

 見た目的には中性的と言うべきだろうか。

 

 背は160以上と高く。

 

 細身ではある。

 

 ついでに器量も良い。

 

 西部美人に多い切れ長の瞳と細く長い眉、愛嬌と好奇心に爛々と耀く顔。

 

 猫みたいに「にゃは~」と笑みを浮かべる鼻梁や唇の端から覗くヤンチャそうな犬歯は乙女というよりは小奇麗な少年のようだ。

 

 此処が開けた明るい場所であったなら、それなりに様となったのだろうが、生憎と彼らマウロと愉快な仲間達が乗っているのは商船の船底で明かりは舟板の隙間から漏れる陽光のみ。

 

 ついでに格好付けた彼女は横向きで縄でグルグル巻きの有様である。

 

 跳ねっ気のある赤銅色の髪は揺るふわ系。

 

 だが、木造船特有のジトッとした船底で微妙に萎びていた。

 

「あんた幾つ?」

 

「え? あ、今年で十七だよ」

 

「可愛い顔して発明とか好きなの?」

 

「そりゃあもう!! 僕、これでも大金持ちだし!!」

 

「へぇ~」

 

 適当にエリザにあしらわれながらポロポロと身の上を垂れ流しにするクルジェンカと名乗った彼女を前にエーレインはまるで興味も為さそうに目を閉じているし、マルートは煩そうに寝返りを打って、船底の寒さに毛布を引っ被ぶる。

 

 一応、話を聞いているエリザの後でマウロは起きていたが、それも仮面の下が見えないのでそう気配で分かる程度でしかなかった。

 

「で、どうしてあんな馬鹿デカイ船に乗ってたの?」

 

「アレ、僕の船なんだよ。でも、あいつらがいきなり乗り込んできて、船の動力を勝手に……」

 

 クルジェンカが溜息を吐いた。

 

「へぇ、よく死ななかったわね」

 

「元々、アレで宙を渡って来たんだ。大きく見えるけど、一人乗り分の食料しか積んでなかったし、乗組員役は全部、僕の血で造った簡易の使い魔がやってた。それを誰彼構わずあいつらが斬っちゃったから、航行不能になって、それで……」

 

「凄いわね。七教会の船で来るのが普通でしょうに自作だったの? あの船」

 

 それに嬉しそうにクルジェンカが頷く。

 

「うん!! これでも【半無限機関(レモン・マグナ)】くらいは創れるんだよ」

 

「本当の発明家ってわけね……で、慌てててあたし達にいきなり攻撃を仕掛けてきたと」

 

「う……その節は本当にご迷惑をお掛けました」

 

 決まり悪げに頭が下げられる。

 

「はぁ、いいわ。別に被害があったわけじゃないし」

 

「ありがとう。それで君達は星潜者なの?」

 

「ええ、そうよ。全員で下を目指してるの」

 

「僕は此処で素材集めしてたんだ。密碑は超高額な魔術や錬金術の触媒とか材料とか産み出せるって話だからさ。さすがに一人じゃ使い魔がいても第四層には降りられない感じだったから、船を何処かに預けようと思ってた矢先の出来事だったんだよ……うぅ、僕の船……」

 

 未練はあるらしく。

 

 ガックリと頭が項垂れた。

 

「……ねぇ、クルジェンカ。もしくはクナスカさんでいいかしら?」

 

「あ、クルジェでいいよ」

 

「そう。じゃあ、クルジェ。あなた結構な力を持ってそうだけど、高深度階層へ付いてくる気無い? 密碑集めしたいなら、途中で仲間はどうしても必要になるでしょ?」

 

「へ? 君達に?」

 

「密碑で買い込むのと自前で色々創るのではかなりの差額になるし、こっちはそういう人材が確保出来ればなって思ってたのよ。あなたは高額密碑の取り分と引き換えにあたし達の望むモノを創る。あたし達は高深度階層まで少ない蜜碑で潜る。途中で別れても十分に利がある取引だと思うけど、どう?」

 

「それは願ったり叶ったりだけど、いいの? 君達を攻撃しちゃったのは事実だし」

 

「いいわよ。別に誰か怪我したわけでもないし。取り分は密碑で創るもの以外の四割でどうかしら?」

 

「そ、そんなに貰っていいの?」

 

「あたし達は高深度階層に用があるだけで密碑自体を求めてるわけじゃないのよ。ま、その代わりに色々と七教会とは反目する事になるけど」

 

「どういう事?」

 

「反七教会系の人間って事よ。あたし達が」

 

「ああ、そういう。なら、問題ないよ。僕の国も七教会とは折り合い悪いし」

 

「そう……じゃあ、交渉成立って事で。いいわよね? 全員」

 

 後を振り返るエリザにエーレインは瞳を薄っすら明けて「勝手にしろ」という瞳をして、マルートは肩を竦めるだけに留めた。

 

 マウロは僅かに頷く。

 

「あ、そう言えば、鎧の人に聞きたい事があったんだ。えっと」

 

「マウロと呼んで下さい」

 

 エリザがクルジェの縄を解くと。

 

 すばしっこい猫のようにササッとその場から抜け出した彼女がマウロの横へと身を寄せて目をキラキラさせる。

 

「じゃあ、マウロって呼ぶね!! マウロ!! 君って神殺しの超常の力か、それが出来る武装を持ってない?!」

 

「神殺し?」

 

「うん!! だって、僕の攻撃を無効化したでしょ? あの【神笛(シュリンクス)】の角笛は星神(プラネター)って神様の力が宿ってたんだよ」

 

「そうですか。神と戦った事はありませんが、それと同じような存在とは争った事があります。その経験が生きたのかもしれませんね」

 

「そ、そんな大雑把な……神の力を斬るって相当なものだよ? もし良ければ、剣とか見せてくれない?」

 

「構いませんが」

 

 厚かましいと言うか。

 

 図々しいと言うか。

 

 さっそく仲間となったばかりの騎士の剣に目移りしていた発明家は渡された大陸標準の長剣を受け取って、僅かに刃を抜き出して目を丸くする。

 

「(これって……神の力を斬ったのに全然痛んでない? でも、創りは普通の……鉄剣にしか見えないし、うん……特別なものは何もないよね? じゃあ、腕だけでって事に……)」

 

 ブツブツと一人剣を眺めて呟いていたクルジェにマウロが首を傾げる。

 

「どうかしましたか?」

 

「君って凄い剣士なんじゃない? マウロ」

 

「そうですか? 普通だと思いますが」

 

「ううん。絶対、凄いよ。僕、初めてかもしれない。こんなに驚いたの……君みたいな手慣れの装備を創れるなんて鍛冶師冥利に尽きる話だよ。さっそく密碑が用意出来たら、全員分の装備を整えるから、次の街に言ったら採寸していいかな?」

 

「ええ、分かりました。よろしくお願いします」

 

「こちらこそ♪ あ、そう言えば、全員の名前聞いてなかったよね」

 

 入ってきた新入りがグイグイと金蔓達の間に押し入っていく様子にマルートがチラリと視線をやって、どうしたものかと再び背を向けて毛布に包まる。

 

 彼が自分よりも若くて見目麗しく確実に有能そうな相手の参入を快く思わないなんてのは当たり前の話だったが、それにしても自分の能力が要らなくなりそうな事態は避けねばならない。

 

 出来る限り、買い物上手アピールをしなければと。

 

 今のところ出来そうな対策を脳裏に思い浮かべながら、それからの数時間をマルートは過ごした。

 

 彼らが大きな街に着いたのはそれから三日後。

 

 人懐っこく話し掛けるクルジェンカがマルート以外の全員とある程度打ち解け、馴染むまでそう時間は掛からなかった。

 

 *

 

 声が流れている。

 

 広い広い純白の壁に囲まれた室内にはプレゼン用の資料が今もスライドし続けている。

 

 どうやら始ったばかりらしく。

 

 説明は静かな女性の声で行われた。

 

「―――では、これより皆様方を夢の国へと連れて行く前提となるお話をさせて頂きます」

 

 虚空にいきなり魔術で惑星が一つ浮かび上がる。

 

 蒼き大海洋に一つ切りの大陸。

 

 祖国ならぬ祖星。

 

 ファルティオーナ。

 

 これが世界と同義として語られていたのは数十年前までの話。

 

 だが、近代化の波が押し寄せて以降。

 

 大陸の知識層に言わせれば、世界とは人の社会という括り以外でならば、イコールで宇宙となった。

 

 この今まで自分達を抱いて回り続けていた星は宇宙の中の小さな小さな一部に過ぎないと彼らが知った時、始るのは星の彼方、未知の探求だ。

 

 正しく七教会が探求し深め、一般化した科学技術は世界の解明を求める者達にとっての大きな船であったと言える。

 

「我々【トゥース・レリア】は最初期、【近代化(レボリュション)】の波に乗って大陸中央諸国で成功した中小の新規工業地帯における保険業務によって資本を蓄積し、規模を拡大する新興企業体でした。大抵の投資先は七教会の【近代化】が齎された後進国での脱農業化と工業化時に見込みのありそうな事業に出資するという形を取りましたが、これが大当たりした」

 

 後進国での工業化時、元手を貸し付けていた子会社の業績が右肩上がりに伸び続ける状況がグラフとして周囲に複数表示される。

 

「現在、我々の総資産額は大陸中央の金融業で3番手までにも食い込み。市場取引額は過去最高を記録し、今も躍進を続けている。これが我が社の近年までの社歴となります」

 

 そこで不意に今まで情報を展開していた小窓からの光が小さくなり。

 

 その全てに黒の馬車に重なる黄金の剣というエンブレムが浮かび上がった。

 

「さて、それでは我々の裏の顔と言うものに付いてご説明致しましょう」

 

 4人程の60代の男女。

 

 男二人に女二人が仕立ての良いスーツ姿で笑みを浮かべて全ての小窓を占領する。

 

「我々の祖たる共同体は所謂【邪神信仰】の一角を担う者達でした。ただ、それは極めて多種多様な“邪悪”に付いての探求を魔術師達の結社の一部が行っていたに過ぎません。無論、それで神の座に着く者や邪神の眷属というものになった者達もおりましたが、実質的には一つの神を信仰するような類のものではなく。あくまで学術的、魔術的、学問的な深奥、知識を得るのが目的の節操の無い集団、と言えたでしょう」

 

 同時に言葉を吐く男女は一人のように呟き。

 

 周囲に発生する防諜の為の防壁。

 

 結界のせいか周囲の薄暗さが更に色濃くなっていく。

 

「ですが、統率は取れていた。七教会の影響力が及ぶ【近代化】地域以外でしか非合法活動をしていなかった事が現在の組織拡大に伴って増大するはずの摘発リスクを低減し、師父達の代の同業と呼べる者達が殆ど消え去った大陸中央諸国で我々はその筋の寡占化を推し進めた」

 

 結果として。

 

 そう全員がプレゼン相手に微笑む。

 

「我々は所謂、大陸中央に唯一残った邪教というものになったのです。現在、第三世界。地方諸国における我々の影響力は犯罪ギルドどころか。経済、政治、軍事、その全てにおいて一定のシェア。そういった未練たらしく燻る有象無象の“悪い組織”達の“寄る辺”として機能しております。このような地位に付いて長くやってこれた秘訣というものを申すなら、それはまず何よりも誰も敵としないという所に尽きるでしょう」

 

 現在、大陸で影響力のある国々や組織、共同体、諸々のリストが一枚の地図の上に多重に色分けされて映し出される。

 

「七教会も、国家も、同業他社も、我々の敵ではない。競争相手ではあっても。故に我々はある意味で社会というもののに一部となれた。社会福祉に邁進し、政治家達を支援し、軍人達を懐柔し、住民達を励まし、影響力のある国家の法を換え、大陸中央なら犯罪でも、彼の国ならば合法。そのような我々が存在する余地ある環境すらも作り上げた。今、もしも我々が地方諸国内で経営している孤児院の運営を止めれば、今日死なずとも極貧で路頭に迷う孤児達が沢山いましょう。明日、会社を引き上げれば、社会が混乱する国家が幾多ありましょう。七教会は経済と軍事、政治において万能のように振る舞いはしますが、その底力が目視出来てしまった現在。我々の精一杯の強がりは決して戯言ではなく現実の一部となりました」

 

 謙虚な男女は不気味な程に表情に浮かぶ感情も全て同じだった。

 

 即ち、憧憬にも似た空を見上げる瞳。

 

「そのような我々、邪神信仰結社【トゥース・レリア】が次なる活躍の場と定めたのは深宇宙。新たな邪神の発見、発掘。祭祀の開発に強大な力の確保という分かり易い目標を立てました。また、そのような邪神の制御や“新規製造”も視野に入ります。我々の資本、資源、資産の全てを傾けた一大プロジェクトの発足は当結社だけでは到底賄えるものではないでしょう。故に此処で皆様方には是非とも出資して頂きたい。そのプロジェクトの第一弾として我が結社は天蓋蒼星という人類に対して“非常に優しい初めての異世界”にして“資源惑星”を“外宇宙探査”の手始めとして開拓します。また次の居住型惑星内での規模拡大。結社の星間規模化、星間国家化を推し進める為の試金石としたい。無論、出資者の方々にはこのような遠大な目標よりも今現在、七教会統治化では手に入らないような分かり易い成果をお渡しします。これは我が結社が現在本星より遠方の星系内支部で開発を進めた叡智や物資です」

 

 パッと小窓の中に複数の物品が次々に陳列されていく。

 

「では、まず当結社が新規の投資家、結社への入信者に自信を持って与えられる三点セットのご紹介から始めましょう」

 

 まるで通販番組のような事を言い始めた声の主達に連動してか。

 

 物品の一つの情報がクローズアップされた。

 

「まず、多くの方が望むのは何よりも命というやつです。人間は脆弱性を抱えますし、殆どの場合寿命も病も追ってきます。怪我もそうでしょう。故に秘薬は如何でしょうか? 現在の寿命をまず1000年確実に。また現在の本星の通常環境化でならば無病を確約。そして、外傷に関しても脳以外の欠損は大抵治るという代物です。所謂、不老不死ではありませんが、それに人間としては近しくなる程度の代物としては十分な長寿の薬剤でしょう」

 

 小さな白い小瓶。

 

 その製造過程の情報には複数の透明で柔らかなパックの中に密封された人体の如きものが複数存在していた。

 

 上から伸びる管から液体が投入され、そのピッタリと入れ込まれたモノの下から液体が管を通って製造ラインらしき機械の奥へと消えていく。

 

「命が確保出来たなら、今度は人間、大抵は人間を侍らせたいと思うものです。ですが、大陸では今や奴隷は稀少な商品。ならば、作りましょう!! 人間をそのまま創っては七教会やその他の面倒な連中に目を付けられるかもしれませんが、人間みたいなモドキならその限りではないでしょう?」

 

 物品の二つ目の映像。

 

 映し出された巨大な試験管のようなものの液体中にソレは現われる。

 

「男、女、老人、子供、老若男女須らく。ホムンクルスではありません。また、既存の生命でもありません。内蔵器官は全て非人間、遺伝構造も然り。ですが、知性としては完全無欠に人間水準を確約致します。一個体の値段は新規の小銃一つ分くらいとお見積もりを。基本仕様はどのような用途にも耐えるように構成してありますので、使い方は皆様次第でしょう。ああ、無論ですが、安全装置の類は遺伝情報内に書き込んであり、特定の術式と薬剤を初期投与、認証させれば、後はもう絶対に逆らう事はありません。完全新規の奴隷資源としてはデザインが出来るので優秀です。外見は人間ですが、中身は人間に在らず。知性は人間水準ですし、反応もそのままですが、大抵の国でなら出回っても“法的に問題ない”よう造ってあります。増やすのは男女が居れば、原始的な方法でも構いませんし、新規製造をこちらに委託して頂いても買いません。まずはダース単位でご注文下さい」

 

 未だ目を覚まさぬ人間にしか見えない男女数対の何かは毛の一つも生やさず。

 

 胎児のように丸まり、上下から伸びる太いチューブ状の肉紐に臍と脊椎を繋がれている。

 

「寿命も任意で確定でき、容姿から年齢、内蔵器官の強弱や生理的な仕様まで自由自在。愛人から労働資源まで幅広くご利用可能です。こちらの運用は前提として七教会の倫理規定や国際条約などで国家内規制がなされるまでなら幾らでも製造出来ますので、能力や仕様は是非ご相談を。通常人体以上の機能を要求されない限り、年齢、容姿、内蔵器官などの調整は無料です。繁殖による個体数の増加や掛け合わせによる性質の受け継がせ方、扱い方の指南もアドバイザーが手厚く行いますのでご心配なく」

 

 まるでセールスマンのようなトークは軽快。

 

 だが、その内容は大陸中央諸国内の常識でなら、正しく邪悪と断じられる事だろう。

 

 しかし、残念な事にその言葉もその“物品”も規制がされていない国家においては単なる合法な代物でしかなかった。

 

【近代化】が著しく遅れている国家内でなら、そのような“高度な技術や知識的な悪事”に対する複雑な法規制など在り得るわけもないのだ。

 

 まったく話してすら罰する理由はない。

 

 邪神を信仰しても問題無い国家というのが実際大陸には存在するし、今も運営されている。

 

 それどころか。

 

 人間奴隷が合法。

 

 奴隷を生死は所有者の自由。

 

 人間以外には何をしても無罪。

 

 というのは地方諸国では“普通”どころか言う必要も無い“常識”であったりする場所もある。

 

 近年は様々な国際条約を受け入れて、国際貿易で稼ぐ傍ら、七教会の法規制の網を受け入れたりする国が大半であるものの、国内からの反発から絶対に守られる一線は多い。

 

 倫理的な自国の常識の堅持や絶対規制しない分野を規定する国々も多々在る。

 

 あの手この手で七教会が如何に変えさせようとしても、非合理にして不合理な旧世界の常識は強固にその国々では今も当たり前に人々を支配していたりするのだ。

 

 未だ同じ人間間ですらそうだと言うのに……人間並みの知性があるまったく1から創られた人間に見える人間ではない生物、なんてものに同情する心理をその場に招待される者が持ち合わせているかどうかは実に妖しい。

 

「最後に我が結社が皆様方に勧めますのはコレです」

 

 映像に映し出されたのは一枚のメダルだった。

 

 硬貨のような形をしているが、その濃い黒紫色のソレは透き通っており、まるで石英のような筋が全体にくまなく放射状に奔っている。

 

「これこそ近年の魔導技術の発展において開放された叡智を集積した簡易の儀式場、祭壇と言ってもいいでしょう。我々が自信を持って提示出来る力の一つです。嘗て、祭神を祀るには大きな物資的な準備が欠かせませんでした。しかし、これらは幾多の邪神を納得させるだけの儀式を縮小化して、この内部で全て完結するよう祀る事の出来る代物なのです」

 

 筋が複雑な幾何学模様を刻んでいるのは拡大すれば分かるだろう。

 

「規模の小ささは逆に強大な邪神の力を制御するには丁度良いと割り切りましょう。我々は人間。神へ無謀にも近付くのは得策とは言えない。しかし、このような極小規模の儀式術と祭壇を七聖女が説いた回路技術によって再現するならば、邪神もまた我々人間にとって身近な存在と為り得る。汝が隣人を愛せよと旧き教会は解きますが、汝の隣神、邪であろうと崇めよというのが我々のスタンスです」

 

 複数種類の邪神像がメダルの横に映像として映し出されていく。

 

「魔術の使える方ならば、容易に運用が可能であり、【意匠】を組み込んだ魔術方陣を単独で起動するまでもなく。己の生命力や寿命、または別に幾らかの生贄用の供物さえ用意出来るなら、これは極めて短時間に邪神よりの加護と力を引き出す門となる。崇めるモノによって力は千差万別。己の鎧とするもいいし、魔術の強化も出来るでしょう。咄嗟の障壁、落下時の滞空、加護を受け、その身を簡易の眷属とするも十分に容易。身を滅ぼす確率を減らし。高みへゆっくりと昇ろうという精進にも打って付けと言える」

 

 四人の男女は一人の如く。

 

 同じ笑みで映像に復帰すると高らかに両手を広げた。

 

「我々を狂人と呼ぶ人々もいるでしょう。ですが、そう邪険にして欲しくは無い。我々はただの人間!! そう、驕りもすれば傲慢にもなる!! 業に塗れ、世を蹂躙する人類種!! 種族そのものが他の生命より危険と見なされる弱者!! であればこそ、叡智と力を求めるのもまた人の性!! 神を尊び!! 業を満たし!! 人間社会において排除され得ぬ“徳”にならんと欲すれば、それは実現出来ましょう!! 悪と呼ばれる我々が正義にして常識となる時代を築くのです!! 我々の行為が悪と呼ばれぬ世界ならば、其処にあるのは単なる主義主張の一角にしか過ぎない!!」

 

 男女は唱和する。

 

「奴隷を犯そうが殺そうが好き放題だった世界が変わったからとそれが前進であると説く事こそ傲慢でしょう!! 人は人を救うように殺すし、労わるように虐げるのです!! その形態の一つを選んだに過ぎない自分達が先進的であるなんて自負するのは正しく苦笑するしかない!!」

 

 部屋に声が響く。

 

「我々は人権に配慮し!! 人ではないモノを生み出し、管理し、虐げ、弄び、自由にする!!」

 

「我々は法規を規定し!! 大いなるモノを我が手中にせんと邪神賛歌を唱え、無限の命を得る!!」

 

「我々は人類として性を満たし!! 自らが正しい世界を構築しようと情熱的に邁進する!!」

 

「我々は社会に貢献し!! 我々が認められるよう努力と忍耐によって正義を勝ち取る!!」

 

―――我々は邪神すらも超え!!

 

―――傲慢に強欲に矮小で非力なる弱者の全力で持って自らの為にこそ戦うのです!!

 

 正しく邪悪なるプロバガンダ。

 

 それが室内を満たして………ピチョン、ポチョンと何かが滴る音が水を差す。

 

 床一面の紅が時間と共に冷めて色褪せていく。

 

「では、これより皆様方を夢の国へと連れて行く前提となるお話―――」

 

 リピート再生される映像はまた初めからやり直し。

 

 だが、それとは違う音もまたペチャリと響く。

 

 夢の国と称されたモノの資料が赤黒く粘性の高い染みに侵食されながら、床で滲んでいく。

 

 曰く。

 

 天蓋蒼星における外宇宙コロニーの建造計画。

 

 曰く。

 

 新領土の宇宙開拓による新国家樹立。

 

 曰く。

 

 試金石となる無国籍資本によるプレ・コロニー製造。

 

 曰く。

 

 第三層に建造した無重力化運用前提のkm単位構造体。

 

 曰く。

 

 国籍離脱による移民化と新宇宙国家構想。

 

 曰く。

 

 新奴隷生物の機能向上と戦力化プラン。

 

「………」

 

 黒紫色のメダルが下げられた銀鎖のペンダントがチャリチャリと鳴る。

 

 それとほぼ同時にガラガラと部屋の四方の隅から黒いシャッターが降り始めた。

 

【―――エマージェンシーコール。特異生物災害が発生いたしました。特異生物災害が発生いたしました。本支部は外部からの観測を避ける為、ただちに崩壊機能を作動させます。全職員は速やかに転移による退避を行って下さい。封鎖まで残り32秒】

 

 ペンダントを首筋に掛けた主が走り出す。

 

 素足だ。

 

 シャッターが閉まり切る前に部屋の外に出たはいいが。

 

 床に姿が反射する程に磨き上げられた廊下の上は紅の足跡を残す脚では上手く走れない。

 

 通路もまた上からのシャッターが数mずつ降り始めていて。

 

 このままでは施設の自爆機能。

 

 原子崩壊する大規模魔導方陣に巻き込まれてしまうだろう。

 

「………」

 

 それでもペンダントの主は走った。

 

 三度ギリギリでシャッターを潜ったが、四度目に失敗。

 

 外壁まで残り4枚のシャッターを残して止まるも、すぐにその何も見に付けていない手がペンダントを首筋から毟り取ると口元に持っていき。

 

 ガギンッと。

 

 真白い歯が明らかに金属質なメダルを齧り砕いた。

 

 途端。

 

 シャッターとシャッターの間に風が吹き上がる。

 

 いや、それは風というよりは生物の残骸。

 

 乾いた死体の塵が何とか生前の姿を立体的に取ろうとしたようにも見えた。

 

 一瞬、人型のようにも思えただろうが違う。

 

 すぐにソレが長方形型の黒い棺桶のように収束する。

 

 ギギギッとソレの蓋が僅か開いて。

 

 しかし、漏れ出した瘴気のようなものはメダルを破壊した主を侵食する事もなく。

 

 砕かれて零れた石英のような欠片へと群がり、吸収されるように凝結すると一繋がりの鋼の固まりへと変貌する。

 

 それは七教会下では個人所有するのが難しい武器。

 

 拳銃となっていた。

 

 だが、それをそう呼ぶのは少し無理があるかもしれない。

 

 グリップは成人男性の手が握るには丁度いいくらいの大きさだろうが、そのメダルと同じ黒紫色の全体像は拳銃というには聊か大き過ぎて長過ぎた。

 

 その上、無駄にゴテゴテと流線型の翅のような数十cmにも及ぶ装飾が左右の銃身の横から背後へ流れるように施されており、狭いところでは撃ち難いどころか。

 

 向きを変えようとするだけで突っかえてしまうかもしれない。

 

 が、それを気にする事もなく。

 

 それを手にした主はオートマチックだろう銃をゆっくりと壁際に向けた。

 

 銃弾は入っていない。

 

 弾倉は空だ。

 

 だが、撃鉄は付いており。

 

 それを親指が起こした瞬間。

 

 背後のシャッターからガタガタと音がしたかと思うと。

 

 即座に赤黒い液体が四方から染み出して弾倉の下で次々と銃弾の形に収束し、透過するように内部へと装填されていく。

 

 そう、それは人間の血液で間違いない。

 

 ついでに先程まで生きていた誰かのモノでもある。

 

 しかし、今は拳銃を持つ者の使う生贄であった。

 

 膨大な血液の凝集から本来なら銃弾一発に治まらない程の重量。

 

 一発でたぶんは数十kg。

 

 人間一人分の絞り尽したエキスの塊がチャンバーに一人手に装填され。

 

 銃身内部で煌々と黒く紅く耀き出した。

 

 引き金に指が掛かった刹那。

 

 チリチリと銃身の周囲が赤熱し、内部の銃弾が浮かび上がる。

 

 ついでに酷く高い音。

 

 高周波だろうか。

 

 壁が微細に震える程の波動が全方位に広がり。

 

 引き金が引かれた刹那。

 

 何もかもが無音の静寂に沈んだ。

 

 弾丸が耀きながら火花を散らしつつ銃口に辿り着くまでに音速を遥かに超えて加速。

 

 ついでのように散った火花そのものが銃身内部に魔術方陣を数十枚展開。

 

 燃料たる銃弾が一枚一枚通過する度に威力と効果を重ねられて。

 

 空気を引き裂いた時。

 

 銃口から先の通路が銃弾の色と同じになり、フッと消失した。

 

「………」

 

 残ったのは何も無い空間のみ。

 

 銃口から先の地面がまるで正方形の見えない何かに抉り取られたかのように……その建造物の4分の1が消滅して断面を曝していた。

 

 拳銃の主の後でカタカタと黒い棺が一人手に閉じると虚空に消えていく。

 

 それとほぼ同時に建物が砂のように崩れた。

 

 魔導方陣が半壊した事で内部の物体を消去する力は働かなかったのだ。

 

 まるで滑り台を落ちるように建材の粉山を滑り落ちて。

 

 その未だ素足が赤黒い何者かは見知らぬ樹林にキョロキョロとした。

 

 だが、そんな行動もすぐに治まる。

 

 何故ならば、その足元が一瞬で割れたからだ。

 

 そう正しくパカッという擬音がしてきそうなくらいスッパリと。

 

 虚空を墜ちていく最中。

 

 拳銃が分解したかと思うと首元に集積され、メダル付きな銀鎖のペンダントへと戻った。

 

 それ以外は何も起こらず。

 

 浮き島一つを破壊した事件は誰にも見咎められる事なく。

 

 それを引き起こした犯人の墜落と共に消え去っていく。

 

 何処かで【ひひひ】と声がしていた。

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