第三章番外編「千年娼婦:前編」
仮面絶神戦争より二ヶ月弱。
復興に向けた取り組みが現在の続く最中。
その渦中の当事者達達が何をしているかと言えば……殆ど何もしていなかった。
いや、それは語弊があるとしても、戦後復興的な中で彼らに何が出来るのかと言えば、精々が真面目に学校を再建しようとする人々の雑務を手伝うくらい。
勿論、矢面に立って表彰された赤鬼宗家の長女や当時の異相での空間状況を把握していた魔術師の青年などはあちこちから声を掛けられ、政府民間問わずに事実を知る一部の関係者から仕事の山を押し付けられてはいたが……それにしても戦っていた境界踏征(オーバー・フラタニティー)の面々は学校の再建後も授業がまともに出来ない日や休校が相次ぐ中で急かされるような事も無かった。
と、そのような状況の中で人間ハーレムな彼女達が何をしていたかと言えば、その大半が子育てだったのは正しく淫魔王呼ばわりな少年の面目躍如か。
ハルトゥム組からジト目で見られる事となった実際ハーレム系魔王様と化した少年の日々は少しずつお腹が目立ち始めた少女達との蜜月である。
毎日毎日、首都とハルトゥムの館を行ったり来たり。
少女達が出掛けると言えば、荷物持ちを買って出て。
必要なものをせっせと買い集めたり、配ったり、病院の手配をしたり。
毎日その両手が開く事は無かった。
その上、そんな風に学生組を構うものだから、ハルトゥム組からの嫉妬の視線をバシバシ背中に受けるわけである。
それこそ両手どころか。
移動していない時は大抵前後左右を少女達に囲まれた状態だ。
普通の男なら気が滅入るような声の洪水に常時曝されていて、常に笑顔を絶やさない姿勢は世の男性に女性が求める姿の一つだろう。
という事で今日も休校なのを幸いに何故か大変込み合っている首都の立て直されたばかりの国立病院産婦人科の通路で少年は左右を璃紗とシルメイアに固められていた。
「♪~~~」
実の父にして自分のお腹の子の父でもある少年との検診デート(璃紗命名)にご満悦なユニコーン(偽)な魔族少女はスリスリと頬を腕に寄せて抱き締めており。
隣では妊婦用の雑誌を見て、我が子に着せる服の愛らしさに目をキラキラさせながら女給姿の跳ねた黒髪を束ねた璃紗が腕を自然と絡めつつ、ニコニコしている。
「イクス!! イクスはどういうのを着せてあげたい?」
「え? 女の子だったら、桜色のを着せてあげて、男の子だったら、蒼い色のを着せてあげたらいいんじゃない、かな?」
「うん。璃紗もそう思ったわ!! えへへ~」
幸せの絶頂とはこの事か。
意見の合致に常より100%増しで年頃っぽい笑みが零される。
「あ、イクスさん。終わりましたよ」
中から出てきたはふんわりとした腰元のラインが出ないワンピースタイプの肩を紐で止めるタイプのドレス姿で戻ってきたエストリアだった。
「どうだった?」
「はい。問題ないって先生からの太鼓判です」
「そっか。良かった……じゃあ、そろそろ行こっか?」
「そうですね。行きましょう。ふふ……」
こちらも上機嫌でエストリアが少年前に来てニコリとする。
三人の少女を横に通路から病院のエントランスへと向かう少年はようやくこの空間から解放されると微妙にホッとしていた。
というのも、周囲には妊婦×30人くらいが奇異の視線で少年を見ていたからだ。
一部からはヒソヒソと常人ならば聞こえない程度の声で「あの歳で三人!? それもあの子なんてまだ……」とか「しッ、あの子達料金すら払わずに帰るから、きっと貴族のご子息や令嬢よ……それにしても凄いわね……堂々と三人の父親としてこんなところまで来るなんて……」とか「でも、あの子また別の子と来てたのを見たわよ……」とか「え、それって……貴族ってすごいのね……ウチの旦那には見習わせたくないけど」とか「でも、此処まで連れ添ってくれるなんて優しいじゃない。相続と家族関係はこれからドロドロだろうけどね」等々の声が聞こえていた。
その上、妙にそういうところで間の抜けているシルメイアが制服姿なものだから、風聞に聞いたのだろう人間ハーレムの主という事実を指摘する声もあり。
とてもではないが、少年も落ち着いて座っていられなかったのだ。
ハーレムの主は愛人を全員孕ませました、という事実がザックリ学園でも噂されているし、これで堂々と世間の注目の的となるのは正直、少年としては勘弁願いたかったので、あまり人が集まる場所に長居はしたくないわけである。
「今日はこれで予定も終りですけど、帰りに何処か寄っていきませんか?」
霧の異相にある迷宮に潜り続けた日々から解放された事もあってか。
近頃は少女達の顔もいつも以上に明るい。
病院の込み合うエントランスの端でそう提案してくるエストリアに頷いて、少年が何処にしようかと微妙に悩んだ。
そんな時、クイクイとシルメイアが袖を引っ張る。
「何処か行きたいところでもあるの?」
「うん。此処に行こう? ハハサマがヒイキにしてるんだって言ってた」
何やら制服の胸ポケットから取り出された一枚の紙が差し出される。
それを受け取って中身を確認した少年の顔が引き攣ったのもしょうがない。
そこには紫色のルージュで書かれたような書体でランジェリー&化粧品の文字。
どうやらブティックのようだ。
「あ、いいですね。イクスさん!! 今日は此処に寄っていきましょう」
「イクスがいいなら、今日の夜に使う分買っていい?」
エストリアが大賛成という顔で頷き。
璃紗が少年の顔を覗き込んでから、少しだけ悪戯っぽく微笑む。
そんな三人の少女達を前にしてNOと言えない魔王様であるところの少年は仕方なく頷いた。
男には辛い場所であるが、誰の笑顔にも逆らえないのは惚れた弱みか。
そのまま病院内の青少年達の視線を釘付けにした全員が外へと向かう。
密かに院内で「孕ませ王」と噂される謎の少年とご一行の背中には「う、羨ましい」とか「あれがあの歳で20人妾を雇ってるっていう貴族のボンボンか」とか「出会い!! 出会いが圧倒的に足りない!? は!? そうだよ!!? 看護婦さんに声掛ければいいんだよ!!?」とか……悲喜交々な視線と声が突き刺さるのだった。
*
―――本日は営業を終了しました。
そんな看板が門の前に下げられた後。
行き着けとなって久しい娼館の飴色の扉を潜れば、今日も少女達の御出迎えがあった。
ようこそお越し下さいました。
との声の後、璃紗の元に次々と少女達が駆け寄って来る。
それに応対している跳ねた黒髪の小獅子は嘗てよりもシッカリしているかもしれない。
それもそのはず。
近頃はお腹の子供の為にと音頭を取って手編みの産着をハーレムの面々と縫っていたりするのだ。
女は強し、されど母は更に強し。
これが大陸に古くから伝わる格言であるが、それは事実か。
歳の割りに娼館での教育で諸々の知識がある璃紗が館の主で出産も経験したアルメイア・ゼオストスの次に頼りとなるのだから、世の中分からない。
仲間達との交流に水を差さぬよう。
今日はしばらく話してていいよと頭を撫でた少年は嬉しそうに頷く従者から離れて、いつも使わせて貰っている部屋へと向かった。
横に付いているのはシルメイアとエストリアだ。
先導するのは常のように人魚なる彼女ベルンだ。
「イクス様。今日はどのように?」
「えっと、今日はみんなが着替えてからって話なので……しばらく準備に時間が掛かりそうなら、一人で待ってようかと」
「分かりました。その間は御相手致します。エストリア様。シルメイア様。いつもの衣装部屋の方はお使いになれますので存分に時間を掛けて下さい。手伝いは今用意しますので」
「あ、はい。いつもありがとうございます。ベルンさん」
エストリアが少年から受け取った紙袋を手にニコリとする。
「いえ、仕事ですから」
「パーパ!! 楽しみにしてて、ネ?」
「うん」
撫で撫でと娘の頭を撫でた少年の手の先で擽ったそうに身を揺すった幼い少女は頬を染めた。
これから着飾った自分と父との交尾を思ってか。
その膨れている腹部に浮かぶ性魔術の方陣たる刻印が疼く。
「ん……」
それに同調してその場の同じ印を持つエストリアも微かに頬を染めて、少年に少しだけ艶やかで色っぽい視線を送った。
「今日は一杯してもらいますから。イクスさんは逃がしません」
「そんな魚じゃないんだから逃げないって」
「はい♪」
一頻り、少年と手を絡めてイチャイチャした二人が分かれ道で衣装部屋へと向かい。
一度振り返って手を振ってから少しだけウキウキした様子でキャイキャイと乙女な話に華を咲かせて消えていく。
それを見送ってベルンに続いた少年はいつものソファーとテーブルがある一室へと入る。
十人程が談笑出来る場所の背後には大きな天蓋付きの軋まない寝台。
桜色の壁紙に年代物の洋光(ランプ)が付いた薄ら明るい部屋の内部は中庭に面する窓から降る夕暮れ時を終えそうな僅かな明かりの中、怪しくも温かな気配を醸し出す。
少年がソファーに座ると。
すぐにベルンが既に用意されていた紅茶のポットからお茶を入れて、少年の前にカップを置いた。
「どうぞ……」
「ありがとう」
「いえ、仕事ですから」
紅茶は程好い温かさで。
今日一日少女達の荷物持ちをした少年の喉奥へと消えていく。
一息吐いた瞳が静かに伏せられた。
「御疲れですか?」
「うん……近頃、疲れ易くなっちゃって。みんなから活力を貰い過ぎるのもお腹の子の手前、気が引けてて……」
「ですが、性魔術は単に生気を受け渡す術ではありませんから、単純に活力を分けて頂く事で否定的な影響は出ないのでは?」
「そうんんだけど……その……どうしても大事にしてあげたいなって……そういう気持ちが先に……」
苦笑する少年の傍に座って、ベルンが微笑む。
「その気持ちは少しだけ分かります」
「そう、なの?」
「はい。此処では避妊の術はありますが、お客様次第では子供を儲ける事がありますから……愛した子の娘や息子がちゃんと生まれてくるのかと大半の方はヤキモキしていました。それは私も例外ではございません」
「何か意外かも……人魚は多産でそういう海洋系亜人の産婆として貴重な存在だって聞いた事があるから……それにいつも肝っ玉母さんみたいな感じがするし。ベルンは……」
「ふふ、冗談が御上手ですね。そして、博識でいらっしゃいます。さすがは魔王様、と茶化すべきでしょうか。確かに人魚は多産で大抵の女は産婆役に慣れています。でも、私は……この国を興した方に初めて妊娠する前にお仕えしたので……実はそういう経験はないんです」
「そうなんだ?」
「はい。良い男の方はこの千年幾らも居ましたが、人魚は多種族間での交配では妊娠の確率が低い事も相俟ってお客を取っていた頃も子供が出来ませんでした。避妊という概念が出来たのはつい最近の事ですし、それ以降は殆ど此処の子達の教育と御世話ばかりでしたので……」
「初めて身の上を聞いた気がする……」
「ええ、あの方以外ではこんな話、初めて致しました」
「寂しくない?」
「家族がいますから」
「そっか……」
「はい。でも、少しだけ思う事もあります。自分に子供が出来ていたらと……その時はきっと娼婦にはしませんが、自分の全てを伝えてあげたい……そう思います……璃紗にはそういう気持ちもあるかもしれませんね……」
「あの子の将来をもう少しだけ決めないであげたかった、って言うのは今更なのかもしれないけど、僕が思ってたより皆強いと思うんだ近頃。子育てと勉強とそれに将来の事も一緒に何かしたいって全員言ってて……」
「それは良い事です。一人ならば無理かもしれませんが、今の世の中はそれを肯定するでしょう。そして、それを応援する人と支援する方がいる。理解のある旦那様までいたら、最強ですね」
「本当は……結婚式くらいは挙げて上げたいんだ……でも、それはきっとまだ先になる」
「きっと、お待ちしてますよ。誰もが……貴方様が望むのなら、永劫であったとしてもいいと思って」
その核心を突く言葉に少年がいつの間にか俯けていた顔を上げる。
「さすがにそれは……自分でもダメだと思うけど」
「でも、それくらいの気持ちがあの子達にはあります。それは男性であるイクス様より女である私の方がよく分かりますから……」
「後悔してない?」
「後悔はします。しますとも……今、良い人がいても、私はきっとあの方の事を忘れられないでしょう。戦場の男達に抱かれてきた身分ですから、貞操という言葉や永遠の愛なんて言葉からも縁遠い。でも、だからこそ、言えます……永遠なるものはきっと人が作り出した……そして、それは今もこの大陸に沢山息衝いている」
「ベルン……」
「湿っぽい話になってしましましたね。御茶のお変わりを……」
立ち上がろうとした少女の手が取られて、僅かに曳かれる。
それに抗えぬ引力のようなものを感じてよろめいた彼女が少年の胸元に収まり、そっと抱き締められた。
「イクス様?」
「……近頃、僕が一つに為り切れない事が多いんだ。だから、少しだけ僕だった人が混じったりして……ごめん……」
「―――それは……」
「一応、僕も“彼”だから」
「……あぁ、そう言えば、そうでしたね。魔王は今までの全ての魔王の魂を受け継ぐ、なんて話をいつだったか……でも、やはり貴方はイクス様です」
「うん……」
「でも、でもッ、こんなにあの方の、あの人の優しい抱き方で……」
僅かポタリと水滴が少年の胸に落ちる。
「ごめん」
「謝らないで下さい。これは、この涙は……嬉しいからです」
「……ごめん」
「ふふ、あの人もそうでした。ああ、悪い。悪いな。悪かった。機嫌を直してくれ。そう言って……貴方様もなのですね……」
涙を拭う指は途中で止められて。
その手が自分の目元を拭い。
少女はそっと少年に唇を寄せた。
「ちゅ……しばらく、璃紗に謝らねばならないかもしれません」
「ベルン?」
「貴方様に、イクス・ゼオ様に、この館の娼婦として、御情けを頂きとうございます。恋でも愛でもなく……感謝の印として……そう、この気持ちを受け取って頂けませんか?」
「いいの?」
「ふふ、それはこちらが気に掛けねばならない事ですよ。不肖の身なれど、恋敵だけは作るまいと決めた人生でした……今はもうそれすらも遠い過去だと思っていた……でも、また人を愛してみたくなりました……今度は本気で……その初めの御相手になって頂けませんか?」
「君が望むなら」
その言葉に少女は再び少年へ口付けた。
「そのあの子達に向ける優しさが時に罪ではないとお教え致します……やや子が出来てしまっても構いませんから……どうか、この卑小な魚をお慰め下さい……一時、我が主となって……イクス様……」
「ベルン……」
少年が優しく潤んだ瞳の人魚に口付ける。
それが過去、自分が使えていた相手のものと瓜二つである事が嬉しくて。
それが今は自分のものではない事が寂しくて。
でも、それが今は自分の娘のものである事に温かなものを感じて。
彼女は少年の前でよく見えるように立ち上がり、衣服を落として。
そのいつでも娼婦としての勤めを行えるよう着ていた過激な黒紫の下着の中。
指で開けば丸見えのすじを片手の指で広げて、大きく盛り上がったズボンを前に怪しく微笑むのだった。
*
今まで少年と交わってきた誰もが其々に魅力を持って閨事に励んできた。
近頃は道具を使ったり、性魔術を使ったりする事も多い。
天性の素質があれば、魔族も淫魔の形質を持つ。
だが、それともまた違う。
そう……ベルンと名乗る彼女は本当に娼婦らしい娼婦だった。
それも極めて旧く。
古の時代の神殿娼婦と呼ばれた人々にも近しく。
行為は作法として身に付け。
その上で長年に渡る男達との百戦錬磨な行為の先で未だ奉仕の精神を忘れず。
それでいて男を誘い、男を惑わし、男を満たし、男を歓ばせる術を修めていた。
性魔術は言うに及ばず。
この千年、“良い男達”を相手にしてきた手練手管は下手な淫魔よりも極めて多彩で深い。
高位魔族の口唇が触れるだけで男の幹を達させる魔性のものなら、ベルンの口淫は心技体の揃った芸術と言うべきだろう。
丁寧にあやすように睾丸から舌を這わせ。
生娘のように恥じらいながら。
淫らな牝のように一時も放さぬよう粋ながら優しく吸い舐る。
しっかりと少年のズボンを脱がして、男の最もデリケートな場所を咥えられるようにして其々テラテラとした紅の舌で柔く捏ねられ、唾液で一部の隙もなく包み込まれて、嬉しくない男もいないだろう。
「ん……っ、ぇ……ぅ……ちゅ」
太くなった幹を愛おしそうに下から舐め上げ。
唇を優しく当てて顔を横にし、笛を食むように舌を滑らせながら、やがて到達する亀頭の裏に口付けして……そっと吸いながら何度か往復する。
反応が大きくなってきたら、そのまま最後に亀頭が咥えられた。
先端が口内において吸われ、張った傘の部分の裏が幾度も舌先でなぞられた。
「ベルン……ッ」
常に少女達との交わりの中、口淫は日常的に受けている少年ですら、腰が僅かに動いてしまいそうな丁寧な行為。
普通なら物足りないと思う者もいるかもしれない。
しかし、懸命に奉仕し、妖しくも淫らで甘い表情で上目遣いに男を見上げる少女は少しずつ咥え方を深くしながら視線で少年に媚びる。
早く自分の頭を掴んでしっかりと気持ちよくしてはどうですか?と。
受け入れる準備が整った口内の奥へとこれで男が自分を押し込みたくならないわけもない。
「気持ちいいよ……ありがとう……」
その言葉に嬉しげに頬を僅か染めて。
見上げてる期待した潤んだ瞳に誘われ。
少年がゆっくりと頭を撫ぜてから両側から優しく手を添えて掴み。
奥へと幹を押し込み始める。
「っ、ぇ……ぅ……ン……っ……ぢゅ……♡」
それだけで恍惚と少女は自分の喉の奥を自分の意思で窄めて、普通の人間とも違った繊毛のような襞のうねる食道へと亀頭が誘い込まれていく。
グヂュルルルルルルル。
鰓で息をすれば、口で吐息を吐く必要もなく。
少年の太い幹を頬張りながら根元まで舌を出しながら飲み込み。
喉をその形に蠢かせながらも相手の思うがままになる道具のようにその時を待ち。
「ベルン……動かすから、ね?」
「♡」
その短い言葉に胸を高鳴らせながら、千年を磨いた閨の技と奉仕の心に従うまま。
彼女は今自分の主となっている相手の愛しい幹に専心する牝となる。
頭部を相手に持ち易いように、表情が見えるように上向かせ。
まるでじゃれる子犬のように心地良くしてくれるのを疑いもせず。
任せるがまま。
緩やかに少年の腕が動かすに合わせて。
ジュグジュグと鳴る喉で少年の亀頭が抽挿の度に普通の膣内で感じるにも遜色無い心地良さに全方位から襲われる。
緩急を付いて喉を絞めて、緩めて。
相手が満足するまで喉を犯される事に悦びを覚えて。
僅か、片瞳の端に雫が浮かぶ。
「っ……っ……」
娼婦とは過酷な人生と相場は決まっている。
誰もがというわけではないにしても、奴隷とは違うと言われながらも、侮られ、軽蔑されるのが常だ。
しかし、そんな中でも境遇を受け入れ。
いや、男に奉仕を利益とは違うところで気に入った相手に授けるのもまた古から続く娼婦の在り様であった。
戦場に赴く男へ必勝の願掛けを。
また、子を遺して欲しいと願われ。
ただ、愛し、慰める為だけに。
少なくとも相手を自由に選べる娼婦はそのような特権を得ていた。
千年。
幾多、男達の過ぎ去り行く日々に奉仕し続けた彼女は終に一時以外で誰かのモノとなった事は無かった。
それは今もそうだろう。
しかし、それでも愛した男の生まれ変わりを前に彼女の底の底。
灯火のように埋み火が大きくなっていく。
人に希望を持ち。
人に世界を与えた男。
その成果。
黄金の果実の上に暮らしても忘れ掛けていた気持ち。
(イクス様)
絶望を前に奇跡を起こして見せた彼を前に高ぶる胸はあの日……魔王が建国宣言を出した……よく晴れた日のように……二筋の雫が頬を伝う。
性愛、愛欲、法悦。
そのどれでもありながら、今その身に舞い降りた無垢だった頃には感じていた慕情。
思い出すのも苦労してしまうくらいに昔の記憶にしか無かったソレがまだ自分の中にあったのだとしたら、嬉しくて、泣いてしまうくらいに嬉しくて、魔王に付き従った者達の最後の一人として……感慨と慶びがその胸を満たしていく。
「可愛いよ……淑女(レディ)……」
「(ああ、私はこの日の為にきっと今までこの生を―――)」
孤独は当に置いてきた。
記憶は当に置いてきた。
夢は当に置いてきた。
願いは当に置いてきた。
でも、まだ自分の中に残ったソレに少女は感謝する。
そうしながら、少年を受け入れる。
震える幹の雄々しさはあの時よりもハッキリと。
今にも泣き出してしまいそうに我慢した顔は愛らしく。
あの人で別人な今の主に彼女は己の全てを曝け出すように自らの意思で飲み込み、愛撫し、幾度も幾度も速度を上げながら奉仕する。
「っ……ベルン……もぅ……っ」
「♡」
積極的に自分を求める情熱的な少女の深い口淫に抗し切れず。
膨れ上がった睾丸の奥底から昇り詰めた精を少年は二人の共同作業のように速度を合わせて何度も腰を使って得られた快楽の分だけ、彼女の中に解き放った。
ビュ、ブルウウウウウウウウウウウウウウウッッ!!!
粘着いた大量の白濁は喉の最も奥。
一際太くなった幹の先。
鈴口から溢れたと同時に胃まで落ちて行く時間すら遅くなるような粘度で流し込まれる。
「っ♡ っ♡ っ~~~♡」
プチャァッと僅かにすじから潮を噴出させながら、背筋を焼く熱量に何度も何度も口淫だけで達しながら、爆発したかと思うように暴れる愛おしい幹を自分の唇と舌と喉に全て収めながら、牝としての悦びで蜜をドロリと股の下に垂らしながら、彼女は少年の腰元まで口付けするようにずっとずっと顔を押し付け続けた。
喉が鳴る度に少年の射精は促され、何処までも奥から白濁が絞り出される。
最後の一滴が余さず出し切られた後。
それでも少年はまるで疲弊した様子が無い自分の体に相手の心遣いを思う。
汗を滴らせ。
ゆっくりと幹を己の口から引き出し、最後には唾液と精の糸を複数引かせながらも惜しそうに離した少女の全身はしっとりと汗ばんでいた。
相手を思いやりながら、性魔術を行使しながら、ベルンは大量の生気を分け与えたのだ。
腰が砕けてしまいそうな程の心地で放精しても、未だ漲る幹は太く雄々しく。
「イクス様……とても素敵でした……本当に……感謝致します……」
娼婦が己を抱く相手に感謝するという一見おかしな光景。
しかし、その意味が胸に去来する自分の中にいる誰かの感情に感じられて。
少年は立ち上がった少女をそっと自分に引き寄せるようにして抱き締めた。
「次はこちらで致しましょう……愛しの魔王様」
少しだけ悪戯っぽく。
今まで璃紗などには見せた事も無い何処か無垢な表情で千年待った女は少年をそう遊びを持ち掛ける淫魔よりも淫靡に……互いの指を絡めて自分のすじへと優しく押し込み、交わりへ誘うのだった。