第二章一節★
第二章一節「誘導」
み~くまりの~~め~がぁみいが~~。
ゆ~きすぎて~~も~どりきたる~~。
半ば酔っ払いの巣窟と化している酒場には男達の陽気な歌が響いていた。
東部ではあまり見ない獣皮や蟲翼を多用する衣服の装飾が彼らを南部の荒くれだと教えている。
話題は近頃起きた世間の関心事ばかりだ。
締結された奴隷関税条約がようやく発効するだとか。
“我らの麗しき皇帝陛下”の芸術(アート)は相変わらず絶不調であるとか。
【武帝(ぶてい)】を挟んで対峙する【乂羅(がいら)】において教会勢力が本格的に統治へ介入し始めたとか。
それによって我が祖国【イグニシア・クルシス】がようやく目の上のたんこぶから開放されるだとか。
話の種は尽きない。
『そういや近頃は囁かれなくなったが、教会が追ってた魔王残党。おっと、力も失った魔王だったか。あの話さっぱり聞かなくなったよなぁ。一時期は“我らの麗しき皇帝陛下”も教会に情報を求めてたって聞いたが』
『そうだなぁ。あの幻みたいに消えちまった馬鹿でかい樹はどうやら魔王を倒す為に聖女様が御作りになったってな話だったが、それ以来さっぱり情報が入ってこねぇのも確かだ』
『ま、噂じゃ重症を負ったとか。乂羅であったらしい光槍事件で死んだとか。色々噂はあらーな』
『オレにはどうにも信じられないんだがよ。本当に国の上を貫く程でかい光なんてあったのか?』
『武帝に友人がいるんだが、さっぱり見えなかったって話だぜ?』
『ま、あそこじゃ神門(みかど)が全てだからな。嵐や雨や雷が相手側の陣にだけ落ちるとかの話にゃ事欠かなかったお国柄だ。何かあっても隠蔽ぐらい簡単なんだろうさ』
『それより聞いてくれよぉ。家の女房がさぁ』
『あん?』
『子供にそろそろ奴隷付けたいって話してたんだが、奴隷が値上がりするってんで、こっちに愚痴ってくるんだよぉ』
『家の女房も愚痴ってたぜ。幾ら国庫に当てるからって奴隷税なんて【我が麗しき皇帝陛下】は何考えてるんだろうってな』
『ん~~あ~家の母親もだわ。金儲けの為に他の国にも奴隷関税条約とかさぁ。あれじゃ奴隷商も商売上がったり。最初は高騰するかもしれんが、その後は奴隷が無くなるかもしれんって話だぜ』
『ああん? どういう事だよ』
『おめーら、頭悪りぃなぁ。よぉぉぉく考えてみろよ。国の間を奴隷が行き交うだけで金取られるんだぞ? 遠くからの奴隷はそれだけ高くなる。そして、奴隷関税の内容には奴隷の商品価値を守る為の項目も入ってるんだと。その内容がまた……奴隷なんぞ使わない方がマシみたいな内容らしいぜ』
『何だソレ。初耳なんだが』
『その話なら知ってる。一般には奴隷が高くなるって話が出回ってるが、友達に奴隷商の下で働いてる奴がいて。そいつの話によると条約内部に“商品の殺傷や管理の不行き届きには罰金を課す”ってな条文があるらしい』
『んと。つまり?』
『奴隷の利点は何だ? 一度買えば今までは好きなように出来てただろ? だが、これからは商品を好き勝手するなって事だ』
『何だそりゃ!? それって一度買ったのでもか!?』
『ああ。理由は“国の税として取り立てる対象が無闇に失われる事があってはならない”からだとさ。これで奴隷商はかなり困ってるらしい。国から国に移動するだけで値段を上げなきゃならない。それじゃ売れない。だが、管理を疎かにしたら官憲から罰金、罰金、罰金の嵐。さぁ、これで奴隷をいつまでも持ってるとどうなる?』
『ん、ああ、そうか。そうなりゃ、別の商売するんじゃないか?』
『その通り。奴隷を解放して別の商売をした方がずっといいって事になる。それで、だ』
『まだ、何かあるのかよ?』
『ああ、“我が麗しき皇帝陛下”はよぉぉく考えてらっしゃるのさ。これじゃ、各地の奴隷商組合から文句が出る。だから、奴隷から搾り取れるだけ絞りつつ、奴隷商にも文句が付け難いよう条文にはこうあるらしい。我が国に連れてきた場合に限り、その奴隷を国が適正価格の十分の一で買い取る。その間の旅中は税を免除する、だと』
『……おいおい。それって』
『ぼろ儲けする気でいなさるのさ。あの“恐ろしき皇帝陛下”は』
『どんだけ奴隷来るのか分かりゃしねぇな。ぜってぇ凄い数になるだろ。それだけの奴隷どうする気なんだよ? あの方は』
『さぁ、一部じゃ北東部のゴウラン傍で作ってた入植前の都で働かせるんじゃないかってな話だ。国有奴隷となりゃ、一生陛下の下僕として生かされるのかもな』
『いやぁ。さすが陛下。金儲けの天才だな。芸術(あっち)の方はまったくなのによ。はは』
男の一人が皮肉げに嗤った。
ドカン。
そんな音がして。
『!!!!!!!!!!?』
酒場の開け放たれていたバネ仕掛けの扉が蝶番ごと吹き飛んだ。
『な、なんだぁ!!?』
客達がざわめき始める。
酌をしていた女給の女達が一斉に逃げ出してカウンターへと引っ込んだ。
その様子に酒で胡乱になっていた男達の一部は気付いてしまう。
一体何が酒場に乱入してきたのか。
「帝都守護職!!! 警邏隊ヴァルガンノースである!!!! 皇帝陛下への不敬な発言を聞き参上した!!!! 帝意である!!!! ただちに今発言した者を出せ!!! 出さぬ場合はこの店の全員に対し、この場で二十日の禁固刑を言い渡す!!!!」
複数の洋光(ランプ)に照らされた店内。
カウンターや他のテーブルにも多くの人間がいる。
荒くれ者だけではない。
まだ夜も早い時間という事もあって近くの独り者や家族連れ、他にも夜遊びしている若者や旅人らしき者も数人いた。
傭兵やフードを被った旅人達がテーブルの上の食事もそのままに少し驚いた様子で事態を静観する。
「さぁ!!!!」
『『『『『『『『『『『『『『『さぁ!!!!』』』』』』』』』』』』』』』
多くの声が復唱した。
ヴァルガンノースと名乗った女と背後の集団は同じ制服を身に纏っている。
獣皮なんて一切使っていない絹製の衣装。
紅を基調とした制服は南部らしく薄い素材で出来ていて。
腕や肩を剥き出しにして通気性を確保している。
背中の意匠は十字架に止まった大鷲。
国章は正しく人々の畏敬の視線を受ける。
胸が苦しいのか。
制服のボタンを二つ開けた隊長格の女は烈火のような視線で辺りをグルリと睥睨した。
その美しき相貌と燃えるような色の髪に気付いた帝都の者達はヒソヒソと噂し合う。
あれがヴァルガンノースの懐刀。
皇帝陛下直属の近衛兵団から遣わされた者かと。
帝国最南部出身に多い赤毛。
嘗て最後に帝国へ吸収された南部最貧地域アルバストレ。
刻が刻なら、その王女と呼ばれていたはずの女かと。
「さぁ、どうした!!!!!」
今や帝都守護職の狗と成り果てて人々から畏怖されている女がその場の全員を恫喝する。
吊り上がった眦(まなじり)も南部には多い褐色の肌も全てが気品に溢れていた。
キッと引き結ばれた口元は不機嫌。
その女にがなり立てられて降参しない男はいないだろう。
「ああ、すみません!!! すみません!!! ちょっと退いて!!!」
カウンターの奥から店主らしき小太りの男が顔を出して、すぐに女の下へ駆け付けた。
「これはこれは帝都守護職の皆様。今日はいつにも増して麗しいお姿で。それで何の御用でしょうか?」
「お前がこの店の主か?」
「はい。そうでございます」
「今すぐ、先程皇帝陛下を侮辱した者を差し出せ。不敬な発言を見逃すわけにいかない。もし、それが出来ぬのならば、この店の許可は取り消しとなるだろう」
「はッ!? わ、分かりました!!? い、今すぐに!!! おい!!! 誰だ!!!」
カウンターの内部で息を潜めていた女給達に男が聞く。
すると彼女達が一斉にその方角を差した。
そこにはカチャカチャと木製の刃で鳥の腿肉の煮込みを切り分け口に運んでいた者が一人。
「?」
「お、おい!? 何かまずい状況になっているのではないか?!」
「ごはん。美味しい。ナーリャ幸せ……」
「てぃあにいさま」
旅人の四人組。
フードを被った三人に一人フードを外している少年が首を傾げ、そして入ってきた警邏隊の方を振り向いた時には女隊長が目の前まで来ていた。
「おい。貴様が皇帝陛下への侮辱を行ったのか?」
「何の事ですか?」
少年がさっぱり分からない様子で三人の少女達を見る。
「何やら誤解されているらしい。というか、どうしてそなたはこういう時に限って平静というか平静過ぎるというか。はぁ」
呆れた様子で三人の一人がフードを取った。
『!?』
店内で息を飲んで見守っていた者達が思わず驚きに目を見張った。
「……貴女はどうやら尊い血筋の方のようだ。この状況を説明して頂きたい」
女の声に少し頭を振って頭の埃を落とした少女が立ち上がる。
美しい。
それだけは店内の誰にも分かった。
細い首筋。
愛らしい相貌。
少なくとも一般人というには高貴過ぎる顔だった。
「さっき、そこの男が女給の袖に何かを差し込んだのは見たな。我らは旅人で、この国の為政者に関して何か悪口を言えるような知識はないのだ。そもそも我らの中にあんな訛声(だみごえ)を出す輩はいない」
「そうでしたか。一応、確認の為にフードを取ってもらえますか?」
女に少女が、イフィミスラ・ハージェット・テトス・エルデナンドが頷く。
「エフィリム。ナーリャ」
『!!?』
何を言われたのか気付いた様子で残りの二人もフードを取る。
店内がざわついた。
一人は美しいダークエルフの娘だった。
もう一人は儚い気配を漂わせる人形のように美しい幼子。
どちらも最初にフードを脱いだ少女に勝るとも劣らない美を有する少女達。
「大変失礼しました!!!! どうぞ、帝国での安全な旅程をお楽しみ下さい!!!」
ビシッと敬礼した女隊長がギロリと後ろを振り返り、イフィミスラが指差したテーブルを見つめる。
『ひぃ!!?』
ガクガクと震えながら後ろに下がろうとした男達がドンと背後の隊員達にぶつかって絶望した表情を浮かべた。
「指した女給も引っ立てろ!!!!」
「いゃあああああ!!!?」
逃げ出そうとした男達と女給達が男女半々ずつのヴァルガンノースの隊員達に取り押さえられていく。
「帰るぞ!!!」
整然として隊員達が捕縛した全員を縄で縛り上げて店内から去っていく。
「……この国ってこんなに荒れてたかな?」
嵐の去った店内でポツリと呟いた少年は三人の少女達と顔を見合わせた。
「我が知るわけないだろう」
イフィミスラの溜息が店内の床に吐き出された。
*
帝政国家【イグニシア・クルシス】は大陸十分の一を統べる大帝国である。
南部の大多数を支配するのは【皇帝(インペレータ)】と呼ばれる大血統の一族。
【大皇(ディヴス・プリンシプス)】と呼ばれる嘗ての大陸に覇を唱えた存在に最も近しい一家は今もその権力を欲しい侭としていて、魔王との大戦においても教会に対して強い影響力を発揮した。
七教会が進める大陸【近代化】最大の障害であり、同時に最大の布教活動地帯。
それこそがイグニシア・クルシスだ。
肥沃な穀倉地帯を持ち、強大な軍事力を持ち、無駄な争いをせず、己に仇成す者あらば併合する。
貫かれたスタンスはあまりにも明確であり、その所領はこの百年で三倍近くまで増えた。
多くの戦乱に出会いながらも巨大化してきた大陸の歴史上稀に見る大帝国は大陸制覇という未だ誰も成し遂げていない所業に極めて近い存在である。
故に七教会本山がある大陸中部や遠く北部の国々にまで影響力は計り知れない。
皇帝がくしゃみをすれば、小国が吹き飛ぶと言われるのは伊達ではない。
事実、穀倉地帯からの食糧供給が止まれば干上がる国が多数に上る。
他国に対して切れるカードの豊富さからも帝国に対して面と向かって批判的な国は今のところ存在していない。
嘗てのそういった国家が辿った運命は全て併合であり、飛び地の国土すら複数有する帝国に頭を抑えられている国は多かった。
そんな帝国の中枢である帝都。
【アウテーナム・レクレス】は四方40kmに及ぶ。
大陸中央の建築様式が幅を利かせる宮殿域から少しずつ建造物はグレードを落としていき、レンガ造り、石造り、木造と人々の住宅は地の果てまで続いている。
帝都に住まう者は約1200万人とされているが、実際には帝国以外からの人間が流入しているせいでその1.5倍以上の人間が確実に存在している。
その人口に比例したように大小数百の教会があるのだが、その中でも取り分け貧困層の住まう最辺境地区には幾つも教会の支部が立っていて、人々に祈りの場を提供する。
旅費の少ない旅人に格安で宿を提供していたりもしていて、帝都参り、お上(のぼ)りさんと呼ばれるような地方からの出向者や旅行者は大体その教会の宿泊施設に泊まる事が日常である。
乂羅での一件から一か月が経っていた。
少年と三人の少女達は新しく手に入れた馬車を使って再び旅をしている。
神門を魔王が撃破したという話は一部の薄暗がりでは極々少数囁かれるものの、事実は闇の中に隠蔽されていた。
ハルトゥムの館で療養する事となった烙南や紅亜はオーレムと共に共同生活を営んでいる。
少年は少女達の治療の為、数日に一度は転移によって館へと赴き、そこで少女達に会っていた。
一日で戻ってくる少年から三人の様子を聞くのが近頃イフィミスラ達の楽しみの一つだ。
「じゃあ、行ってくるから」
教会の宿泊施設。
その最奥に部屋を取った四人は寝台が四つある部屋で木の盥に水を貰い足や腕を洗っていた。
先に洗い終わった少年が少女達の頭を一人ずつ撫でた。
「うむ。三人によろしく言っておいてくれ」
「うん」
「その……お二人の容体は安定してきているのか?」
「大丈夫。心配しなくてもあそこはいるだけでも治療の効果があるし、毎日報告は受けてる」
「そう、なのか」
「あの子がちゃんと容体の管理もしてくれてるから」
「あの子とは紫髪の子の事か? そう言えば、まったく聞いていなかったのだが、オーレムやあの子は何故あの館にいるのだ?」
「言ってなかったっけ?」
「聞いた覚えはないぞ。色々と近頃大変だったから訊くのを忘れていた我も悪いが、そなたには隠し事が多過ぎるぞ。ティア」
ちょっと頬を膨らませたイフィミスラに同意するようにナーリャとエフィリムがコクコクと頷く。
「まぁ、世の中色々あるんだよ。たぶん」
「また、はぐらかす気か?」
「オーレムも治療しなきゃいけないような状態で、あの子は僕が作った従者…えっと、使い魔って言った方が分かり易い?」
「そうだったのか。我はてっきり……」
「てっきり?」
「さぁ、さっさと行って来い!! 今日は疲れたから我はもう寝る!!!」
内心、愛人とそれに仕えているメイドだと思っていたとは言えず。
イフィミスラが寝台に横となって背を向けた。
「イフィミスラとエフィリムの事。頼んだよ。ナーリャ」
「ナーリャ。お姉さん。頼もしい?」
「もちろん。いつも感謝してる」
ナーリャが少年に再度撫で撫でされてご満悦の様子になる。
エフィリムが少し羨ましそうにしているのを見て。
少年がもう片方の手を頭に伸ばした。
「エフィリムも。二人が危なくなったら頼むよ?」
「ぁ…はい。てぃあにいさま!!」
撫でられる心地良さに微笑みながら。
エフィリムがもう元に戻った魔族の姿で頷いた。
最初の頃は控えめな感情表現しか普段しなかった少女が少しずつ年相応な顔を見せつつある事に少年はこれも同年代の少女達がいればこそなのだろうと内心思わずにはいられなかった。
「イフィミスラ。おやすみ」
「ん……」
振り返らない頭越しに微笑んで、少年がノブに付いた錠へ懐から取り出した鍵を差し込んだ。
「明日の昼には帰るから。それじゃ」
扉が開く。
そこには宿の廊下ではなくて闇が広がっていた。
一歩踏み出した少年が埋没し、暗がりに呑み込まれた直後。
バタンと扉が閉まる。
「行ってらっしゃい。ご主人様」
「おきをつけて」
ナーリャとエフィリム。
二人の声が少年に届く事は無かった。
「帰ってくるのだぞ」
無論、その寂しそうな呟きも……。
*
ずっと待っていたのか。
それとも紫髪の従者に教えられていたのか。
玄関を開けた少年を館の住人と化した三人が出迎えた。
「兄様!」
「ようやく来たか。遅いぞ。だ…ごほん、ティア」
「ティア様!!」
「ただいま」
少年がたぶんその場所で言う事も無いと思っていた言葉で三人に応えた。
黒い制服にツインテール姿の紅亜がイソイソとお茶を入れに奥の部屋へと。
その間にも烙南、白い少女が常の着物姿で折り畳まれた長い髪を揺らして少年の手を引いた。
若草色の衣装に身を包んだオーレムが少年の腕を胸に埋もれさせるように組んでソファーまで歩く。
紅亜がお茶を入れてやってくると恒例となっている報告会が始まった。
三人の少女達との旅の様子。
それからハルトゥムで暮らす三人の生活の様子。
報告を楽しみにしていた三人にすれば、語られる話はお伽噺よりも聞いていて楽しいものだった。
「そうか。イグニシアは二年前から皇帝が変わったと聞くが、そんな事が……」
政治に関わる家の出身である紅亜は帝都の酒場での話を興味深そうに聴く。
「まぁ、それだけでどうこう論じる気はないけど、何だか国民から呆れられてるような感じがして…昔からあそこ近辺は我の強い人間のよく出る場所だから、よっぽど変人なのかなぁって」
「お前が言えた事なのかソレは?」
半眼で紅亜が呟く。
「兄様は少し、変わっておられますから」
烙南が微笑む。
「ティア様は大きいです」
オーレムがポロリと文脈を無視しつつ、笑みを浮かべる。
変というところが未だ完全には回復していない意識に波紋を投げ掛けたのか。
エルフの特徴的な尖った耳が赤く染まる。
漂い始めたオーレムの女の気配に発情しているのだと気付いた少年は「あはは」と困ったように笑いながら立ち上がった。
「烙南。紅亜。そろそろ二人とも自分の部屋で待っててくれる?」
「そ、そうか。もう、する…のか。まだ朝も早いのに…この助平(すけべい)///」
罵倒しながらも少年の言葉にこれから何をするのか悟った紅亜が股間をもぞもぞとさせて立ち上がる。
「ぁ、兄様。その…それではお部屋で…お待ちしています」
紅亜とのやり取りに頬を染めて、烙南も立ち上がる。
「それじゃ。オーレム」
少年が促すともう眼の中まで♡マークにして。
「ティア様ぁ♡」
オーレムが甘い声を出して頷いた。
少年とエルフが廊下へと消えていく。
それを見つめた二人が顔を赤くしつつも、いそいそとその場を片づけ始めた。
少女達の容体を安定させ、回復させる治療は主に一つの方法で行われている。
それが最も確実で今の自分に出来る精一杯である。
と、少年は少女達にもう話していた。
いつの時代も身体と心を司る術において最大の効果を発揮するのは性魔術に類する術法。
傷を負い、教会の追跡から逃れながらも少女達を治療する少年に出来る精一杯は少女達にとっては歓迎する以外ない……甘く熱い睦(むつ)み事だった。
*
【変鋼筒(コンヴァージョネム・フェロー)】
円筒形の形をした鋼。
それは本来魔力形質の変換を行い、敵の対魔力防御の術や能力を無効化する際に用いられる純然たる戦闘用兵装の一つだ。
魔力の蓄積や置換が可能な特殊鋼材を用いて生成されるソレを治療用に改変し、人に打ち込むのは聖女ハティア・ウェスティアリアの生み出した【魔導技術(ハイ・クラフト)】の進展によって得られた技術であり、今もそう多く大陸で行われている療法ではない。
その【変鋼筒(コンヴァージョネム・フェロー)】の特大サイズを肉体に埋め込んで己の魔力を変質させ、治療用の魔力や生気を用意するなんて事はかなりの無茶である。
そもそも魔力の置換や変質を体内で行った場合の副作用は絶大であり、場合によっては命すら落としかねない。
そんな危険を冒しても死なないから大丈夫というわけでもない。
毎回毎回肉体に筒を打ち込む作業は常人なら拷問されているのと変わらない激痛を少年に与えていたし、同時に体内への異物侵入と魔力の強制置換が少年の肉体に拒絶反応を齎していた。
死なないという事は死ねないという事。
肉体への激痛と精神の変調。
更に魂魄への負荷は少年でなければ廃人になっていてもおかしくない。
だが、少年はそんな事を知らせもせず。
心配すらさせず。
いつもの笑顔で寝台の上のエルフの女に触れていた。
「ティア様ぁ♡ きょ、今日は♡」
受け答えがしっかりしてきているオーレムは以前のようにただ快楽のみを追求するような事はなく。
少年との行為に従順なまでに馴染もうとする生娘のような笑顔を浮かべていた。
もう全裸になっていたオーレムの巨大な胸は垂れる事もなくツンと先端を上向かせている。
乳首は乳輪と共に勃っていて、プクッとその先端に乳蜜を膨らませていた。
もし、少年がその大きなマシュマロ程もあるだろう乳首を指で扱くか、舌で舐め上げれば、それだけでオーレムは達し、射精のように激しく乳を噴出すだろう。
「オーレム。今日は胸じゃなくて、此処でさせて欲しい…」
少年が優しく指で大豆程もあるだろう膨れた陰核(クリトリス)に触れた。
「ひぅうううううん♡♡ ティアさまぁぁ♡♡♡」
「君の胸から上はもう治療がかなり終わった。けど、下半身はまだ手を付けてない。このままだとまた残留魔力の浸食が中和した場所に及ぶかもしれない」
「ど、どうぞぉ♡ わたしのおまんこぉ♡ た、種付けぇ♡ し、しして、してくだささいぃぃぃですすぅぅぅ♡♡♡」
日常生活ではボロが出ないとはいえ、未だに魔に改造された肉体はオーレムの精神、魂魄にまで影響を及ぼしている。
性欲が高まれば言語が不確かになるくらいには未だオーレムの治療は進んでいなかった。
「だから……」
それ以上謝る傲慢は胸に閉って。
少年がそっとオーレムの頬に口付けする。
「ふぁぁ♡ てぃあ様ぁ♡」
まるで初めて口付けされた乙女のように初々しい恥じらいともっとして欲しいという牝の欲求の狭間でオーレムは微笑んだ。
「魔に奪われていたとしても君が正気に戻ったら大切にしてるはずのものを僕は君から奪う。もし、その時が来たら好きなだけ罵って憎んでいいよ。死んではあげられないけど……」
「?」
不確かな意識でオーレムは快楽に支配されたまま、目の前で呟かれた言葉が理解出来ず、意味を見い出せず、それでも何処か落ち込んだ雰囲気の少年をそのままにしておく事も出来なくて。
腕が少年の頭をその胸の間に包み込む。
「オーレム?」
「だい…じょうぶ…れす。だいじょ…ぶ…ティア様」
言葉は途切れ途切れで。
今も瞳は悦楽への期待に高まって濡れていて。
胸からも股間からも蜜が流れていて。
それでもオーレムの笑顔は確かに母性と呼べるものに溢れていた。
「……ありがとう」
「は、はぃぃ♡」
再び頬に口付け。
少年も既に全裸となっていた為、乳が胸板で潰れた。
「んぁぁぁ♡♡♡」
潰された乳頭から噴出す乳蜜が少年の胸から下を濡らした。
少年が寝台の上にオーレムを寝かせ、ゆっくりともういきり勃っている怒張を中央を開かせているすじに擦り付ける。
「はぁあああああ♡ てぃあさまぁぁ♡ おまんこぉぉ♡♡ ずりゅずりゅしゅるのいいのぉおぉ♡♡♡」
「もういくよ。開いてる中央から、使わせてもらうからね?」
「は、はぃぃぃい♡ た、たねちゅけよぉのおーりぇむのおまんこでぇ♡ い、いっぱいきもちよくなってくださいぃぃぃぃッッッ♡♡♡」
「うん」
ツプッと少年の先端がすじの中央へと埋没する。
「くぅぅぅぅん♡」
魔に改造された膣(なか)は少年の意識を持っていきそうな程に亀頭を離さないよう喰い絞めていた。
「ゆっくり深くしていくから」
少年がジュボジュボと浅い場所を先端で擦り上げられて、オーレムが少年の身体に腕を絡める。
「ティアしゃまぁ♡ やらぁ♡ おまんこぉ♡ じゅっとおくがいいれすぅぅ♡♡」
少年の腰に足が絡まる。
「オーレム。そんな風に絡めたらっ」
ズニュゥゥゥゥゥッッ。
少年の幹が一気にオーレムの奥へと招き入れられる。
「ん゛ぁ゛ァ゛あ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッッッ♡♡♡♡」
初めての挿入。
魔ではなく人間との交合(まぐわい)。
それもいつも自分を気持ち良くしてくれる少年の怒張を受け入れるという状況。
オーレムにはそれだけで十分だった。
足を絡め、少年の太い幹を全て自分の奥に呑み込みたい欲求が爆発する。
魔に改造された普通の人間やエルフの女ですら敵わない極上の穴と化したオーレムの膣(なか)。
襞の一枚一枚が並の牝の数十倍の感度を誇る蜜壺を少年が掻き分けていく感触。
得られる快楽はもう普通の種がする性行の域を超えている。
全身を震わせて、少年を抱き締めて、足で腰を引き寄せて、大好きな少年の幹を全て絶頂の中で埋め切った時には……オーレムの意識は半ば飛んでいた。
それでも脳髄が快楽に破壊され、焼切れる事なく。
牝奴隷としての悦びに魂が震える。
「ひ゛ぅ゛♡ てぃあしゃまぁぁ♡ てぃあしゃまぁ♡ てぃあしゃまぁ♡ ん♡ ちゅっ♡ くちゅ♡ んちゅ♡ てぃあしゃまぁ♡♡」
胸板に乳房を潰しながら、ピッタリと腰を隙間無く合せながら、唇を奪って。
エルフの女はもう完全に牝の顔で少年を慈しんだ。
「オーレム……ん……」
並みの男なら淫魔に操られた時のように死ぬまで射精が止まらなかったかもしれない。
それ程に極上の蜜壺は内部で少年の幹を絶えず愛撫していた。
絶頂を迎え続けているのか。
絡み付き、吸い付き、扱き上げ、蜜を吐き出し、それに終わりが無い。
無限に快楽を供給する道具。
そう完成されたエルフの身体は更に男の征服欲を満たさせる為、子宮口を下ろし、亀頭を包み込み、鈴口に合わせるよう子宮を開いた。
これから少年の精を一滴残らず受精する為の行為。
もう少年が射精するまでは引き抜く事も儘ならない程深く深く二人は奥底で繋がっていた。
「たねちゅけぇしてぇくだしゃいましぇぇ♡♡ わらひのあかちゃんのへやぁちゅかってぇぇ♡♡ あかちゃんちゅくってくださいましぇぇぇ♡♡ おーりぇむはぁぁ♡♡ てぃあしゃまのあかちゃんはりゃみましゅぅぅぅ♡♡♡ はりゃみどりぇぇになりましゅぅぅぅぅ♡♡♡」
おねだりしながら、少年の腰を動かせないよう足で固定しながら、そのまま自分の膣(なか)の動きだけで少年を射精へと導いていくオーレムが再び何かを言おうとした少年の唇を奪う。
「~~~♡」
少年は無理やり引き剥がす事も出来ず。
舌と舌を絡み合わせながら少年は蜜壺の具合の良さに一度も腰を動かす事すらなく追い詰められていく。
(あぁあ♡♡ てぃあしゃまのぉ♡ おちんちん♡ ふくりぇてぇ♡ くる♡ くる♡ あかちゃんのこだねぇ♡ こづくりたねちゅけしゃせぇ♡ おまんこにおりてくりゅぅ♡ はぁぁ♡ じゅせぇ♡ おまんこぉ♡ じゅせぇ♡ ぷりゅぷりゅのあちゅいぃのれぇ♡ わらひぃぃ♡♡ しあわせになりましゅぅぅ♡♡ “あーふるぅうううううう”♡♡♡)
ボコンと少年の幹が送り込まれた大量の精液で根元から膨れ上がり、そのまま、精が駆け上がった。
「オーレム。もう、出すよッ」
ボブンッッッ!!!!
衝撃は精を待ち構えていた膣(なか)と子宮口を直撃した。
「――――――ッ?!!」
鈴口が裂けるのではないかという大量の精が弾け。
完全にオーレムの意識が飛んだ。
ビュボオオオオオオオオオオオオオオオ。
もはや送り出す脈動ではなかった。
まるで流水を流し込むような行為。
弾力すら持ち合わせる濃密な牡のゼリー状の熱い精が子宮口を焼き、一瞬で子宮に溢れ返り、ミチミチと音を立てながら腹を大きく膨らませていく。
本来なら在り得ない程の受容量。
しかし、魔に侵された身体は少年の本気の射精を一滴も逃すまいと子宮を大きく広げた。
卵管も卵巣も精に完全に征服された悦びに命の卵を吐き出して受精を求める。
意識が無くとも膨れていく胎の中で牝として最大の悦びである受胎を確信したオーレムは少年の腰から足を離す事なく。
「――――――てぃあしゃまぁぁぁ♡」
涙も唾液も垂れ流し、舌もだらんとだらしくなく出したまま。
少年に口付けする。
「オーレム…こんな…ぅ…くっ」
止まらない射精に自分の下で膨れていく胎の様子に少年は気付きながらも射精を止められなかった。
まるで誰かが仕組んだかのように。
幹を引き抜く事すら出来なかった。
オーレムの膣(なか)は少年の動きを拒絶し、中にいてくれるなら何度でも良くするから行かないでと、そんな風に少年に甘く甘く甘く精をおねだりをして、子宮から溢れてくる精に襞を絡ませ、味わう。
「てぃあしゃまぁぁ♡ わらひぃじゅせぇしまひらぁ♡ こぢゅくりしまひたぁ♡ ちゃんろぉはりゃみまひたぁ♡ じゅっろぉ♡ おしょばれぇ♡ おまんこあにゃとしれぇ♡ ちゅかってくりゃひゃいぃましゅか♡ あかひゃんうんれぇ♡ てぃあしゃまのこをうんれぇ♡ いいれしゅかぁ♡」
魔に侵されていた時よりも数段上の快楽。
牝としての幸せに浸りながら、自分の征服者であり、自分を孕ませる牡であり、自分に優しくしてくれる優しい少年へ、オーレムが甘えながら膣(なか)で仕(つか)えた。
射精後の牡槍が痛みを覚えないようあやしながら、少年の精を全て吐き出させるように腰を揺すりながら、快楽よりも少年の事を考えたように襞の動きが優しく控えめなものに変わる。
「ん♡」
正しく子を愛する母のように、少年のものである恋人のように、少年の奴隷である牝のように、オーレムが許し請う。
「いいよ。君が…いつか正気に戻って、それでも僕の傍にいられたら……」
「はい♡」
乳蜜が垂れ流され照り光る乳房の間に少年が顔を埋めて、今までで一番の消耗に回復まではとそのまま意識を肉体の復元に向けていく。
「ティアさま♡」
少年の身体から立ち昇る輝きが部屋を染めた。
怪我をしていたわけではない。
しかし、少年にとってオーレムとの交合(まぐわい)は肉体が極度に消耗するような射精を行い、魔力の中和、生気を注入するものだった。
たった一度でも普通の人間なら寿命が縮むか命がけ。
それ程の行為は少年にとっても初めてに違いなかった。
少年は明確にはまだ気付いていない。
魔族の中でも極大の力を持つ男女(オカマ)の仕掛けに。
スヤスヤと眠っているように見える少年の頭を撫でながら、オーレムは膨れ上がった胎の中の精が弾けていく感触にまた股間をざわめかせた。
もう少年しか見えない瞳を優しく細めながら。
嘗て人間を滅ぼしてエルフの楽土を築こうとしていた女の姿はもう何処にも無かった。