第五十二節「お伽噺の始まり」
―――第四層モノクロームベルト。
近年、発展しつつある機械の氾濫は凡そ七教会が大陸において、その先駆けとなって様々な代物を戦闘や日常的な業務に使っている事から喚起されている。
フルー・バレッサの生み出した技術によって魔術が再現可能という事実が、魔術全般の価値を低減しつつ、これらの技術によって魔術用の法則を使ったり、同じような事象を才能などに拠らずとも引き起こせるようになったのだ。
これは思想面で大抵“一般人”と目されていた人々の働きが極めて社会的に重要となる局面が到来した事を告げる。
簡単に言うと……魔術師がしなければならなかった仕事が一般人に開放された事で社会での働き手が万倍に増えた。
機械の汎用性と利便性の面での革新が起こったというだけではないのだ。
それらに支えられた人々が今までなら一部の者しか出来なかった事をするようになったのだから、当然のように競争が起き、それに伴った進歩が目覚ましくなるわけである。
文明の利器。
今や大陸中央諸国では魔術の代わりに魔導。
魔導に疎いならば、誰でも使える機械。
という具合に生活の中で無くてはならないものとしてあらゆる機器が稼働中だ。
そんな人々にとってみれば、機械製品が無い生活なんてのは原始的な代物だろう。
大陸中央から離れると未だにレンガ積みの竈を使ったり、地下倉庫に食料を保存している国が大半と知れば、自分達の恵まれている環境と地方の状況格差に思わずドン引きだったりする。
中央諸国の人間にとって、生活を下支えする基幹技術が普及していない大抵の大陸地方諸国は未開の地と言えるのである。
「………無い」
第四層は主にそういった発展した技術の産物が持ち込み禁止となった世界だ。
七教会などは軍隊式でサバイバル技術に長けた実践豊富な兵を用いる事から、そう困る事は無い。
地方諸国にとってみれば、無いものねだりな技術のいる機械関係の品は殆ど使いもしないのでそもそも関係が無い。
だが、大陸中央から出て来た星潜者や地方中央問わずの軍隊関係者などは中央から流れ出た製品を便利使いしながら合理化を推し進める傾向が強く。
そういう利器に頼り切りだったりする面が少なからずある。
という事は……まぁ、言わずもがな。
彼らは第四層において大そう困るわけだ。
「………紙が、無い」
主に高度な機械やそれらに近しいメカニカルな兵器が持ち込めないだけと思われがちな第四層だったが、実際にはその機械で生成された物品にまで幅広く制限が掛かる事が近年明らかとなった。
結果として、大陸中央諸国式な生活雑貨にまで影響が及ぶというのだから、正しく彼らにとってそこは地獄かもしれない。
「どう、すれば……ハッ?!!」
尻を清める約束された柔らかロールなど以ての外。
という状況に至れば、常識人や一般人が絶望するのも無理からぬ事である。
彼ら星潜者の中でも第四層に再突入するようなベテランが持ち込む荷物の3分の1が実は自分で作った生活雑貨……特に食事と排泄に関する代物で、ついでに必要となりそうなあらゆる物の作り方を載せた辞典である。
第四層の恐怖を味わった者にしか準備のしようもない品だろう。
「く……背に腹は……」
幸いにして此処は森林地帯。
周囲に葉っぱならば、落ちている。
愛用の二重巻きなペーパーが何故か転移後消えている事実に気付いた彼リュオ・クルミナスは針葉樹林の葉っぱを揉み解す事から始めた。
こんなところで痛いミスであるが、しょうがない。
しかし、尻を拭き終えた彼はふと気付く。
世界の様相が再び変わっている事に。
急いで支度を整え。
元の場所まで戻ろうと歩き出したところで自分の身体に以上が無いか。
自己診断しようと顔を触った時、ジョリジョリという音ではない。
フサッとした感触を知り、その背筋が急激に冷えた。
グラリと次の刹那には眩暈から倒れそうになり、咄嗟に懐から出した水と食料を口にしてロクに噛まず呑み込む。
肉体が僅かに軽くなったのも束の間。
今度は腹痛と尿意。
限りなく現在の自分の状況が最悪であると推測出来たはよいものの。
それから逃れる術も無く。
再び茂みで排泄。
自分に降り掛かる事態に食料を食べ続けながら、即座対応してみせたのはさすが探索者としての経験が物を言ったが、それでも仲間の下への帰還が最優先。
もう魔力量の事を気にしている暇も無いと魔術で全身を清めて拭いた後。
ボロボロと垢が零れるのを感じながら、水分を補給しつつ全力で移動を始める。
動魔術と飛行を同時に行えば、然して離れていない場所。
20m先の仲間達と出会えるはずだ。
との思いはしかし裏切られる。
理由は単純だ。
浮遊して移動しようとした瞬間、魔力が枯渇したからだ。
それが時間間隔の麻痺と変動のせいだと理解はしていても、自分ではどうにもならない類の事実だと分かれば、もはや徒歩しかない。
走るようにして躰を動かそうとし、今度は足が動かない事にリュオが気付く。
時間を掛け過ぎたのだ。
その足の筋肉が衰え切っている様子にさすがの歴戦の男も顔が引き攣る。
恐らくは飛んだ事が拙かった。
瞬間、瞬間の判断で脚が付かない状態での滞空時間……つまりは足を使わずに暮らしていた時間が“長過ぎた”のだ。
這うようにして匍匐で進む。
まだ、仲間達の場所を見失ってはいない。
そうして、次々に経過する時間の中で肉体の不具合と戦いながら、魔術や行動で反復して問題を解決しながら、進む事10m。
『師匠!!?』
もう耳も遠くなった彼の下に掛けて来る足音が聞こえ。
リュオは意識を手放した。
怠惰……それは衰えをも呼ぶ。
第四層の恐ろしさ。
その片鱗は彼の心身に深く刻まれる事になったのだった。
*
―――浮遊大陸ハルトゥム魔王の館-屋根上-。
「あの時は別人かと思うような恰好の先生に目を丸くしたな。我が思っていた以上に時間間隔の麻痺と絶対時間の変化は深刻だったのだ」
館の傾斜した屋根に腰を下ろしながら、展望台のように併設された場所に肴を置きつつ、天蓋青星に付いて語っていた灰金の髪の少女は後ろの気配に気付いてチラリと振り返った。
すると、いつの間にか少年がやってくるところで。
他の二人。
女王様に皇帝陛下もまたようやく戻って来た相手に視線を向ける。
何気ない足取りで戻って来て三人の横に座った少年はジト目な少女達を見て、半笑いになる。
「あの……どうかした?」
「……女の匂いがする……誰としてきたのだ?」
「え? えぇと……ちょっと、館に閉じ込められた場所でちょっと……」
ジト目は半眼になり、だが……溜息に取って代われた。
「まぁ、余の魔王様も男という事であるな」
「ぅ……」
エトが酒杯を傾けつつ、そう評した。
「しょうがありません。淫魔王ですから」
「セイリまで……いや、反省してるよ。うん……」
藩落を統べる女王は鼈甲色の髪を後ろに掻き上げた後。
やはり、酒杯を傾けながら、溜息を吐いた。
「魔王が浮気性であるというのは世間的には普通だが、我らを待たせるとはいい度胸だと言っておこう。ティア」
イフィミスラは呆れた様子ながらも杯を傾け。
しかし、その後、体を寄せると少年を屋根に押し倒した。
「イ、イフィミスラ?」
「……我々を待たせた罰だ。今日は我らがお前を独占するのだからな?」
よくよく少年が観察してみれば、三人が三人とも赤い頬で目が潤んでいた。
明らかに酔っている。
ただ、普通の酒で酔う程にエトとイフィミスラは弱かっただろうかと首を傾げたが……彼女達の傍に置かれた空の酒杯からの香りに気付いた。
(今日開ける樽は千年何たらって言ってたけど……確か超越者御用達の千年紀仕込みな酒があったような……昔からソィラがさせてた匂いに似てるし……)
「今、他の女の事を考えていただろう?」
「―――えっと、その……」
ノシッと押し倒された少年の左右にススッと他の少女達も寄って来て、屋根へ押さえ付けるように密着する。
「余達を前に良い度胸であるな」
「ええ、まったく。君は変わりませんね。その微妙に女心の分からないところとかが……」
何かしら口に昇らせようとした時。
その未だ甘やかな香りのするイフィミスラの唇が少年の唇を捉えた。
「んっ」
触れさせただけだが、少し強めの接触。
背筋や胸を熱するのは互いの心か。
「ん……ふぅ。余計な事を言おうとする口はこうだ」
少しだけ蕩けた表情で勝ち誇るように少女が顔を離して微笑む。
「イフィミスラ……よ、余にも」
「うむ」
我慢出来なくなった様子のエトが横に相手が退いた瞬間には再び少年の口元にその唇を押し付けていた。
僅かに長い沈黙。
押し付けられたのではなく。
触れ合ったというような感触。
10秒にも満たない行為の後。
すぐに身を引いた皇帝の顔は酔っていたとはいえ、大胆に奪った自分の行動からか。
少し気恥ずかしそうだった。
「次は私です」
順番待ちをしていたセイリが後ろに髪を掻き上げて、横合いから唇を重ねる。
全員が全員、唇を啄む事すらない口付け。
しかし、その表情は満足げだった。
離れたセイリが周囲の二人の顔を見て、クスリと笑む。
他の少女達も同様に笑い始めた。
きっと、自分と同じように思っているのだろう互いの気持ちが分かってしまって、自分達はお人よしだなと、そうおかしくなったのだ。
自分だけのものにしたい。
惚れた男なればこそ。
それは普通の感覚なのかもしれない。
だが、それと同時に世界一悪い男に捕まってしまった彼女達は……互いに結ばれている様子に満たされた心地にもなる。
これを異常と断じるならば、そうした張本人を責めるべきだと彼女達の意見は言わずとも一致したのだ。
「ティア。我はもう……したい」
始めに恥ずかしげながらも着ていた下履きの紐を解いたのはイフィミスラだった。
その瞳はもはや潤み切っていて、その晒された下半身。
下着もまた同じように蕩けた様子を見せている。
「ティア。余を愉しませるのも夫の務めである。心して見よ……」
淫靡に誘う視線がシュルシュルと解けた下半身の衣装の裾を開き。
横に持ち上げられた布の切れ間に何も穿いていないすじが滲む輝きを零しながら顕わとなった。
「ティア。君が悪いんですからね?」
セイリが少年の手を引いて、自分の民族衣装の腰回りにある布地の切れ間へと誘い。
その中心へと指を触れさせて押し付ける。
「んっ……これが私の気持ちです。ティア……」
クチュリと熱く滑るそこは蕩け切って指の感触に震えていた。
すべすべとした柔肌。
押し返す事なく指を飲み込む奥は早く早くと待ち侘びるように蠢いていて。
「みんな……その……寝室に、行く?」
答えは少年と彼女達の姿が次に刹那には館の湯殿にある寝室にあるという時点で答えたようなものだろう。
その銀狐な超乳美女が使っている寝台が背中側から起こされ、病人のように寝かされた少年の唇は魔王の従者の者に。
そして、下履きを押し上げている大きな幹は皇帝と女王のものになるのが誰が言わずとも決まった。
衣服を脱ぎ掛け。
それすらもどかしくなった少女達は半裸になったまま。
少年を貪り始めたのだった。
*
―――仮面絶神戦争より??月後-天蓋蒼星第?層-。
世界が次なる局面を迎える最中。
その蒼き天蓋の星も、小さいな転換へと向かっていた。
具体的には単純な話だ。
入領した後に簡易ながらも七教会が保証する国籍に準ずる権利が制定されたのだ。
それは天蓋蒼星内において生まれた子供に開放され、七教会が提供する天蓋蒼星内での大陸中央諸国に近しいサーヴィスへのアクセス権限とされた。
これによって、七教会が事実上の移民国家を手に入れた、という事実はしかし大半の人々からはその本質を見逃され、多くの難民や貧者、星潜者達には歓迎されている。
居住区は何処と制限されないが、七教会の実働部隊が自由に動ける範囲内での話の為、その全ては3層以内の深度に限られているが、それでも十分だろう。
また、それに関連して住民登録が始まった事から、各層では七教会の支部は大賑わいの様相を呈していた。
星潜者として自立してねと訓練施設に入れられた後、最低限の実力を強制的に身に付けさせられた一般人達は列を為して各支部での登記を行っている。
そんな、最中。
七教会のとある支部のカウンターには大きな角を持つ幼女が一人。
テコテコと白塗りの床を歩いて来ていた。
明らかに人型だが、亜人系列。
そう珍しくも無いのだが、七教会の人員の目を引いたのは彼女の後ろにエルフが大勢連なっていたからだ。
今の今までエルフ入領お断りだったわけで、七教会も違法に入って来ているのは把握していたが、それにしても彼女の後ろには簡易の薄布を来たほぼ全裸的エルフが100人近くという人数いる。
さすがに担当者らしき女性が先頭の星潜者スタイルな幼女に慌てて別の場所へと向かうようやってきて説明し、一時体育館のような広さの倉庫に案内された。
よくよく星潜者や一般人達が見てみれば、エルフの団体は殆どが若年層。
それも幼い者が多く。
ついでに幼いながらも、お腹の大きな少女達が半数以上という異様さに気付くだろう。
それは担当者の女性も分かっていたが、自分では判断し切れないかと支部長が直々にその小奇麗な倉庫内へと入って来る。
床に座ったエルフの子供達。
辺りをキョロキョロと見回している様子を見れば、正しく無垢な子供。
しかし、恐ろしい怪物と関連しているエルフが存在しているという事実を一部の現場当局者達はそれとなくは知っていた。
また、その化け物に襲われた者も多数に昇っている。
この事からエルフに関しての取り扱いは慎重に……そういう通達が一部関係者達の間では常識的な事として共通認識になっているのだ。
これを知る支部長もまた面倒な厄介事がやってきた事を角幼女が率いる若年層エルフ達の様子から感じ取っていた。
今年で64歳と定年もすぐという彼は口髭を蓄えた少しひょろ長な慎重の人物だ。
物腰も丁寧な役人と言った風情の制服姿。
窓口担当者として座っていても違和感が無いだろう。
そんな、彼はまずエルフを率いていると思われる角幼女に話し掛けた。
「七協会支部にようこそ。私は此処の支部長を務める者です。エルフの団体での登記は前例が無かったもので少し詳しい話を聞かせて頂けませんか?」
「シャーイ!!」
「しゃい?」
その奇妙な鳴き声、いや言語らしき発音に首を傾げる男が小首を傾げる。
すると、幼女の後ろでそれよりは大きいだろう13歳前後くらいだろうエルフの少女がそっと隠れるようにして男に話し掛けた。
「シャイ様はシャーイと発音しますけれど、一応言葉は分かっているので……ご容赦下さいませ」
「君は?」
「名前はありません……近頃、生まれたばかりなので」
「近頃生まれ……それはどういう? 君は10代前後に見えるが……」
「シャーイ!!」
「通訳致します。『この子達は七教会が警戒するエルフだシャーイ』と仰っています」
「ぅ~ん。シャーイの一言にそんなにも大量の情報が……」
「……怖がらないのですか?」
薄幸の美少女。
大抵、エルフの幼年者はカワイソウな恰好をするとそんな感じに人間達は見るわけだが、そのシャイの後ろにいる少女もそれに該当する。
種族特有の耽美な美貌、容姿は正しく儚げだ。
「ははは、七教会は邪神すら討伐する組織だよ。今更、警戒しているからと会話出来る相手を前に怖がったりしないさ。本当に怖いものと対峙した事があるなら、尚更だ」
支部長が気持ちよい笑みで後ろのエルフに返した。
「……その、本当に怖いものが目の前に大勢存在するとしても?」
「善意と良心において、七教会は人々の盾ならんとするんだ。君達が如何なる存在であろうとも邪悪ではないと判断出来るなら、問題は相手との会話や協力によって解決されるべきだと教会の大半の人間は言うだろう」
「シャーいっ」
「『物凄く全うな人だシャーい』と言っています」
「ありがたい評価だね。さて、では、此処に来た理由と君達の事情を話してもらえないかな? リーダーの君……」
「しゃーい!!」
「『任せろしゃーい』と仰っています」
頷くシャイが何やら自分の懐をゴソゴソすると何やら分厚い紙束が取り出され、支部長に手渡される。
「ふむ……」
受け取った紙束には絵が描かれていた。
まるで、それは子供の落書きだ。
だが、その落書きの題名は大陸標準言語にて、こう書かれていた。
『来るべき日来たらず。なれど、為すべき時、為さしめん』
何か黒く長い箱のようなものの傍で大量の赤い背景を背に角のある人型が片手に銃を持っている。
二枚目以降はその銃を持つ人型の物語らしく。
絵のみが全てを物語っていた。
パラパラと捲られる絵が次々に何があったのかを綴っていく。
そうして、大半を見終えるまで20分。
ずっと、静かに見ていた支部長は最後の頁を捲り終わった後。
目の前の角幼女シャイに視線を向ける。
「……君はこれからどうするのかな?」
「しゃーい!! シャイシャイ!!」
「『取り敢えず、この子達をお願いするしゃーい。後は七教会に任せるしゃーい』と仰っています」
「君はどうやら七聖女様方の敵らしい。だが、同時にまたこの世界にとって極めて重要な人物のようだ。本来ならば、戦力を以て拘束する方策も考えねばならないが、生憎と今此処に君を拘束出来る戦力は無いし、有ったとしても……人々が余波で傷付く可能性を見過ごす事も出来ない」
「しゃいしゃい」
「『物分かりがよい人だしゃい。エルフの方は半分くらい任せるしゃい』と仰っています」
「いいだろう。この子達の性質やこの子達の処遇についてはしっかりと対応させてもらおう。此処は天蓋蒼星……本星と違うルールがあってもいい場所だ。支部長の私が言うのは問題だろうが……私の護るべき人々にこの子達も加えさせて欲しい」
今まで通訳していたエルフ少女が男を少しだけ驚いた表情で見上げる。
「この情報は然るべき刻に然るべき状況で然るべき方々へ上げよう。その上でどうなるかは確約出来ないが、私の支部においては“不公平ながらも平等な方策”を取りたい」
男の真剣な表情にニコリとシャイが笑った。
「しゃーい、しゃーい」
「『おじさんは良い人だしゃい。じゃあ、次の子達が来たらよろしくしゃい』と仰っています」
「そうか。では、見送りくらいはさせてもらおう。この子達の事は我々が責任を持って面倒を見させて貰いたい」
シャイが後ろのエルフ少女に何かを耳打ちした後、テコテコと歩き出す。
少女は頭を下げてから、自分を導いて来た幼女を前に祈るような形で見送る。
そして、倉庫の外に出れば、彼女と同じような衣服を身に纏った若く体格や年齢も様々なエルフの男女が数人。
横列で片膝を折ってシャイを出迎えた。
「君達は……」
驚きに目を見張る男を前に立ち上がった者達は一目で戦闘に精通していると支部長には分かった。
経験はまだ浅いのかもしれないが、それにしてもその肉体と気配から察される能力は七教会の正規隊員でも超越者級に近いだろうくらいに思えたのだ。
「しゃーい」
出発だとでも言ったのか。
フワリと浮かび上がったシャイの後ろに付き従うように男女もまた浮かび上がった。
そして、手をブンブンと振った幼女と彼らが流星のように空の彼方へあっという間に遠ざかっていくのを支部長は見送る。
「狭間で生きる事を選ぶ、か……」
支部長の手にはこの星で紡がれた物語の絵本が一冊残るのみ。
そして、それこそが次なる世界を暗示する黙示録であろうと彼は再び、中程の頁を開いた。
エルフにとっての天国と地獄。
そして、彼女にとっての“使命”が其処では克明に描き出されている。
それは邪神に産み落とされた一つの命が自らの道を歩み始めた話。
小さな人造生物の冒険譚。
世界は醜く。
しかし、美しいと言えるだけの輝きを放っていたという寓話。
男は一時、その物語を読み返す。
恐らくは真実なのだろうこの星を救った者達の真実を………。