※この作品はR-18です。

聖娼館ハルトゥム   作:Anacletus

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エロはある程度安定したらという事で……では、次回。


第五十七節「遠い道標」

 

―――第四層ガルガント周辺。

 

 祝無一文。

 

 いや、無一文という程ではないが、98%以上の集めた資材や資金が消えた。

 

 船内部へと貯め込んでいた大量の物資や資材を被害を受けた人々を受け入れる療養所施設として第三層に置き去りにし、七教会ではない民間の福祉系職の人々に引き継いだのが数日前。

 

 これには色々と異論が出たものの。

 

 マウロが七教会だけでは手が足りないだろうと物資的な面で民間の七教会が好きではない層に支援として全部投げ打ったのだ。

 

 クルジェは涙涙でようやく自分の船に成って来たのにと肩を落とし、マルート・マルは酒が勿体ねぇなぁと思いつつも付いていく事とし、彼らマウロと愉快な仲間達は第四層内部の試練先で……普通に旅をしていた。

 

「旦那~~周囲に剣獣の影ありやせん」

 

「エーレイン!! いつまで剣に話し掛けてるのよ?!」

 

「まぁ、待て。今、こいつとちょっと会話をな?」

 

「エーレインさんの剣……本当に生きてるみたいですね」

 

「10分程休憩とします」

 

 時間がルーズなデストラップだらけのダンジョンは七つある扉の先に広大な密林地帯を抱えている。

 

 恐らくは第四層内部にあると言われているが定かではなく。

 

 転移で門を潜った瞬間に彼らは殆ど別々の場所に飛ばされ、帰るにはまた開かれた入り口を探すしかないとされる。

 

 気付いた時にはゲームオーバーな場所であるが、今のところ彼らにはまったく影響が及んでいなかった。

 

 というのも、空間すらも曖昧な事が多い領域内部のセーフティーゾーンに突如として入る事が出来たからだ。

 

 第四層に来るまでに凄く準備した装備は大半持って来れなかったが、それでも色々と原始的な旅に必要な装具類も見繕って、マウロ、エーレイン、エリザ、マルート、クルジェの五人は順調に一番安全な地域の森林地帯を抜けていた。

 

 途中で死に掛けた連中を見付ける度に彼らの大将。

 

 マウロが助けていたものの、遅れは出ていない。

 

 実際に組まれていた予定を二回り以上速いペースで進んでいた為、余裕は溢れているくらいだ。

 

 現在は第四層の森林都市ガルガント周囲400km圏内。

 

 其処は時間がルーズ過ぎる世界で文明の利器が無くてもある程度の生活が出来るようにと初めて到達した星潜者達が作った都市だ。

 

 レンガ造りの家々。

 

 脆そうな市街地を蔽う石垣と土壁。

 

 昔ながらの治水土木工事で生み出された古都かという城塞。

 

 正しく地方諸国の貧乏なところならば、未だにやっているような旧い様式であらゆるモノを揃え、あらゆる生活用の物資を生産する拠点。

 

 人口は1000人足らずだが、その殆どが第四層以降に潜る為に此処へ居を構えている人々である。

 

 第五層は未だ名前が付いていない。

 

 いや、正確には行っても戻って来た人間が殆ど有益な情報を持ち帰れていない為、未(・)開(・)地(・)である。

 

 その際たる理由は彼らが行った最の五層の状況がまったく全て異なっているからとされている。

 

 誰が巨大な火山や大海の大海原や第四層と大差ない密林や広獏とした荒野が同じ階層だと思うだろうか?

 

 それもこれも第五層の守護者が大陸や大海洋のあちこちにある極限環境を保存しているからだったりするが、それは未だ第六層に向かえる程の実力者も与り知らぬ話である。

 

 とにかく、第四層はその入り口がまったくランダムに生成される事が確認されており、扉を潜つた後は正しく地獄のサバイバルをするのがお決まりであった。

 だが、そんな中にも逞しい者はいて、大魔術師や魔導師が時空間を出来る限り安定化させる魔術具やら古い時代の無限機関の類を持ち込む事で何とか安定化させたのがガルガントとその周囲の領域なのである。

 

 第四層にはこうした都市が各地に点在しており、第三層に戻る手段は死に戻るか……もしくはランダム生成される第三層への入り口を見付ける事のみだ。

 

 このランダム生成というのが都市を明確に運用する際の利点でもある。

 

 簡単に言えば、ランダムなので一定空間の領域を安定化させて地道に待つという戦法が取られるようになったのだ。

 

 運任せと言えば、それまでだが、この数年で数百回は戻る入り口は出来ているし、第五層への入り口も確認されている。

 

 剣獣の強さもかなりのものになっている為、第五層から戻って第三層に帰るまで延々と密碑稼ぎをしている輩も多い。

 

 マウロ達は密林の最中をそうして巡回ルートと呼ばれるランダム生成される入り口が確認出来る一番平坦な領域を地道に歩いていた。

 

 それでも死に掛けに出くわすのは単純に第四層に来ても力が足りない連中や剣獣のヤバイのに出くわしたりする確率が高いからだ。

 

 集団行動がこの先では必須になり、安定していてすら時間の進み方が不安定な第四層の構造上……排泄中ですらも周囲に仲間達がいなければ、安心していられるものではないというのが現実であった。

 

 そういうのを気にしないエーレインはともかく。

 

 他の女性陣には不評。

 

 マルートとマウロはそういう時も耳を閉じて周辺警戒させられるという罰ゲームを毎日熟す事になっていた。

 

「旦那ぁ!! 言われてた目印発見しやしたぁ」

 

「え? マジ?」

 

 エリザが休憩中のマルートの言葉にどこどこと代わり映えしない密林地帯に出来た道の先に目を細める。

 

「あっちの二時方向でさぁ」

 

 マルートが指差した先。

 

 彼ら全員が気付く。

 

 時間にルーズな空間に立ち昇る虹色の噴水のような輝き。

 

 それが数回噴出してから途絶える。

 

「専用の術式で視覚を強化してなけりゃ見えないって話だったけど、それ以前に発見確立殆ど無かったのよね。大きさから言って……」

 

 エリザがこれは行幸だったとマルートの肩を叩き良くやったと頷く。

 

 切り株に腰を下ろしていたエーレインが刃を鞘に戻してから訛りそうな身体をコキコキと鳴らして立ったまま警戒していたマウロの横に立った。

 

「これも陛下の恩寵有ったればこそ。というわけで此処からは最速で突っ切る事になる。先日から体力の回復は?」

 

「もう万全です」

 

 兜の下でマウロが頷く。

 

「なら、二人はそちらで抱えてくれ。こちらが先鋒を務める」

 

「分かりました。行けますか?」

 

「可能だ。ああ、陛下……この身をお守り下さい」

 

 恍惚と空にお祈りしたエーレインがキリッとした顔に戻ると剣に手を掛けながら歩き出す。

 

「二人とも此処からはこちらで抱えます。もし痛かったら言って下さい」

 

「ふぇ?」

 

「だ、旦那ぁ……荷物扱いはちょっと……」

 

 今まで息を整えていたクルジェとマルートが有無を言わさず鎧の両肩に担がれたが、当たる部分を魔力で浮かせた為、痛いという事は無かった。

 

「全員、離れんじゃないわよ!!」

 

 エリザの号令と共に全員が走り出す。

 

 目指すは虹の噴出の真下だ。

 

 ソレは第四層以降の深層で本隊であるイフィー側が残しておくとした目印。

 

 辿れば、それまでの諸々の事が分かるよう旅程の記録も一緒というもの。

 

 それを手に入れれば、現状が分かる。

 

 エーレインを前にしてマルートとクルジェを担いだマウロ、最後尾にエリザが付いて付かず離れずの距離で数kmを走破すると。

 

 其処に辿り着く。

 

 密林内部にしては開けた場所。

 

 それも一軒家が立っており、横には果樹園らしきものがある。

 

 数人暮らすには十分だろう。

 

 水が出る井戸やらも傍にはあって、この数日で樹木からの樹液以外の水分を口にしていなかった全員がセーフティーゾーンに安堵した様子となる。

 

「もう先に向かったようですね。火を熾した跡がありますが、もう数か月は経っています」

 

 家を建てる前に野営したと思われる焚火の後をマウロがすぐに発見する。

 

 この領域内では数日前という事も考えられるが、人気が消えてそれなりに時間が経っている事は誰の目にも明らかだろう。

 

「旦那ぁ。もう降ろしてくれてもいいんですぜぇ……」

 

「済みません」

 

「密碑で出したのかな? この家……へぇ~~~井戸も本格的みたい」

 

 クルジェがフムフムと周囲を見回して調べ始める。

 

「エーレイン。アンタ、何してんの?」

 

「ん? 陛下の御料地に良さそうな立地なのだから、帝国の紋を刻―――」

 

「隠密行動中よ。アンタもアタシも」

 

 呆れて半眼になったエリザが家の前に木の枝で何か書こうとしていたエーレインに溜息を吐く。

 

「そうだった。く、済みません陛下!! この脳髄に場所だけでも!!」

 

「はぁ、まぁいいけど。もう夕暮れになるし、今日は此処で一泊ね。後は第五層への入り口を見付けるだけ……記録はこっちで回収しておくわ。マルートは水汲みと料理の準備。クルジェ、使えそうな調理器具を見繕ってから井戸の水質検査して周囲にマウロと一緒に剣獣用の探査術式施して来て」

 

「はい。アネさん」

 

「はーい」

 

「分かりました」

 

 テキパキと隊を掌握したエリザが記録を残しているだろう場所に当たりを付けて二階へと上がっていく。

 

 それなりに長い旅をしてきた中で仕切り屋の才能を開花させた皇帝陛下の懐刀は今や戦闘時以外の探索では全員の信頼を得るリーダーとして十全に任務を全うしていた。

 

「これかしらね」

 

 さっそく寝室らしい場所で暗号化された術式を方陣として刻んだらしきものが壁にあるのを発見したエリザがソレを予め渡されていた術式の鍵で解凍する。

 

 魔力で刻まれた円環が薄く透明な輝きを放ち始めると彼女の脳裏に映像が流れ込み始めた。

 

「これは……」

 

 それは数年近い月日を過ごした彼らの記録。

 

 しかし、普通の時間ならば一月二月くらいの出来事なのかもしれない。

 

 そんな長いのか短いのか分からない日々の記録だった。

 

 *

 

 ―――第六層【???】

 

 世界に爆弾が降り注ぐ。

 

 巨大な火の玉が無数に振って来る。

 

 猛烈な熱波で地表を焼き尽くしていく。

 

 青白い炎で人が影となって地べたに焼き付く。

 

 銃弾が人を撃ち倒し、炎が人を焼き尽くし、人が人を殴り殺し、骨肉相争う人々は屍を晒して激突していた。

 

 戦場。

 

 そうだ。

 

 彼らの前に有ったのは戦場であった。

 

 次々に投入される兵隊達が無為に屍を積み上げる塹壕地帯。

 

 機関銃と火砲が唸りを上げて敵群を蹂躙し、突撃していく歩兵達は打ち倒されるが、相手を打ち倒しもする。

 

 何処までも続く大平原。

 

 耕された世界にはためく旗は幾つか。

 

 それに見覚えがあるというのはまったく悪夢かもしれない。

 

「ガイラ、アレは帝国か? それに中央諸国の……連合軍? 何だ? 何なのだ!? この戦場は!?」

 

 イフィーが呆然とするのも無理はない。

 

 彼らの前で次々に銃撃で人々が打ち倒されていく。

 

 それは現実感を持っており、絶対に幻ではないと魔術的にも断言出来る。

 

 今、其処で確かに人が死んでいるのだ。

 

 しかし、彼女達に誰も気付く事は無い。

 

 いや、銃弾すら彼女達に当たる様子が無い。

 

 瞬間的に彼らが護ろうとした周囲の人々は砲撃で粉微塵になり、肉片と血飛沫が彼女達の衣服を臓物と共に濡らした。

 

 そう……絶対に現実でありながら、ソレに彼女達が干渉している様子が無い。

 

 そのあまりの不自然さにイルトは田舎娘の目を咄嗟に布地で目隠しする事になり、イフィーはシャイを背負い袋に抱えながら、上空へと全員で退避していく。

 

 だが、それもまた新たな戦場を見る羽目になった。

 

 次々に航空機。

 

 そう、七教会が用いる巨大な空飛ぶ戦艦から小型の飛行機械が出て来たかと思えば、周囲に爆撃を開始し、逆に地表からも応戦するかのように巨大な砲弾がバカスカと戦艦に向けて放たれ。

 

 数隻の艦艇が一部に被弾した様子で後方へと退き。

 

 一部の艦艇は更に奥地へと爆撃を続行しながら敵群を殲滅していく。

 

 次々に蹂躙された兵達の軍団は散り散りになりながらも巨大な魔術方陣らしきもので自軍陣地の一部を蔽いながら進軍し、敵先鋒と激突しながら呑み込み。

 

 乱戦へと持って行って空からの攻撃を止めさせることに成功する。

 

 航空機も地表からの砲撃の一部に被弾した機体が爆散。

 

 破片が落ちて敵群の砲陣地を爆破炎上させている。

 

「イフィー!! あ、あれ!?」

 

「な?! アレは―――大戦期の要塞か?! 空を牛耳っていた騎師団の所有のはずだが、戦後は封印されたはずだぞ!?」

 

 数kmにも及ぶ巨大な戦艦。

 

 いや、陸地が空を飛んでゆっくりと北上してきていた。

 

 彼らの前でソレの表面装甲付近で次々に方陣が無限の如く輝き。

 

 カッと光ったかと思った刹那。

 

 敵陣地の三割強が一撃で消し飛ぶ。

 

 文字通り、地表は消し飛んで威力のあまりにも融解し、その空白へと浸透する航空機が更に後方へと押し広げた穴から突入。

 

 次々に後方から敵陣地を空爆し始めた。

 

 巨大な鋼。

 

 怖ろしき島。

 

 七聖女フルー・バレッサが作った兵器類で公表されているものの中で最大級と目される戦(・)艦(・)は現在の七教会が用いている艦船とは違い。

 

 敵を殲滅する為の兵(・)器(・)として製造されている。

 

 七教会が黄昏の悠久戦争時に投入した莫大な兵員と巨大な兵器群の数々は正しく時代遅れな程に今の七教会の武装のような洗練されたものではなく。

 

 威力と単純な能力の極振りで出来ていたとされる。

 

 要は汎用性が乏しい。

 

 だが、その中でも兵員の輸送と同時に療養させる病院機能や戦艦としての装甲や武装の威力を限界まで詰め込むんだものがソレだ。

 

 汎用性というよりは基地機能と戦艦に絞って能力を極振りされたソレを人々の殆どは見る事も無かったが……戦後に公表されたカタログスペックは未だに小国なら瞬時に消し飛ぶ威力。

 

 ついでに敢て縮尺を乗せずに外観だけを公表した為、多くの人々は存在すらも疑ったとされる。

 

 当時、大陸中央北部を大砂漠と化した際、その周辺地域を制圧していたのはコレであって、その威容を知る軍関係者は未だに夢に見る事もあるとの話。

 

 空飛ぶ空中都市とも言われたソレは嘗て大陸中央で暴れ回っていた飛行戦力を有する海賊の類が用いていた飛行要塞をモチーフにして造れらた為、ソレを上空から見れば、戦艦ではあるが竜の形にも見える、らしい。

 

「に、逃げるか?」

 

「逃げる前にまずはこの世界に干渉出来ないという事実を確かめる。方陣をあのデカブツの前に!!」

 

 彼女が瞬時に数km先に悠々とやってきた要塞の下部に魔術方陣を発生させたが、ソレは恐らく常に発動しているはずの防御方陣とは干渉しなかった。

 

「やはり、干渉出来ない? だが、この血は本物だ……まずは安全圏に退避するぞ!! ピアリは大丈夫だな!?」

 

「ああ、耳も塞いどいた」

 

「あぅ~~イルトさん酷いです~~何も聞こえないし、見えませ~ん!?」

 

「しゃーい」

 

「あのデカブツに乗り込むぞ!! この状況を見極める!!」

 

「あ、ああ!!」

 

 こうして四人が干渉されないのを良い事に魔術で飛行しながら要塞内部へと突入していく。

 

 入口はさすがに何処かへあるだろうと彼らが装甲表面に取り付いた後も天地を引っ繰り返した玩具箱のような戦場の有様は続いており、大陸中央諸国の国旗を幾つもパッチワークしたような国旗を持つ軍隊は敵軍を蹂躙して堅実に相手の軍を撃滅していくのだった。

 

 *

 

「一体、此処は何なのだ? 血は付くのに魔術が干渉しない……それに我々の事を誰も見えていないようだった……」

 

「イフィー。さっきの中央諸国の旗、だったよな?」

 

「ああ、間違いない。陸軍はガリオスやアルヴィッツ、他にも陸軍国の幾つかが見えたぞ。アンデリットも有ったな?」

 

「あ、ああ……一体どうなってんだ……」

 

 彼らが装甲の一部。

 

 外部ハッチを見付けて何とか潜り込んだのは数分後の出来事であった。

 未だに要塞各地でバカスカと砲弾が装甲表面の防御方陣に当たって砕ける音が響いている。

 

「対抗していたのは帝国や他の地域での大国ばかりのようだったな。三国合わせた旗も見た。恐らく北部三国ではないかと思う」

 

「つまり、東部と北部と南部の連合軍が大陸中央の連合軍と戦争してる?」

 

「どうだかな。少なくとも単なる現実ではない。だが、幻でもない。先程の奇跡による同化というのはまだ理解出来る。だが、この天蓋蒼星内に地表の国々が参加した大戦争中の地域がある、なんてのは明らかにおかしな話だ。恐らく七聖女の奇跡の類で生み出された領域、そう考えるのが妥当だろう」

 

 彼らは鋼色の通路の人気の無い部屋を見付けて入り込み。

 

 そこがリネン室であった事もあり、何とか一息吐いていた。

 

 灯はスイッチ一つで付くようだ。

 

 今はピアリも目と耳を解放されており、シャイを抱っこして纏められた毛布の上に座り、何やら難しい話をしている二人を見て会話している。

 

「しゃーい。しゃいしゃい」

 

「は、つまり、イルトさんは女の人の目や耳を塞ぐのが趣味?」

 

「しゃーい」

 

 コクリと頷くシャイにピアリはそんな!!?という顔をした。

 

「いや、無いだろ!? ちょっと、刺激的な光景を大人の事情でカットしただけだ!?」

 

「しゃーい!!」

 

「イルトさんは皮被り? 何の話でしょうか?」

 

「しゃいしゃい♪」

 

「何の話してんだよ?!!」

 

「はぁ……取り敢えず、我が一端情報を集めて来る。お前達は此処で待っていてくれ」

 

 緊張感のない仲間達に灰金の少女が溜息を吐いた。

 

「いいのか? オレも何かした方が……」

 

「そちらはそちらで此処でしてもらう事もある。今はリュオ先生もいないのだ。お前が頼りだ。イルト」

 

「……分かった。気を付けろよ」

 

「ああ、誰にモノを言っている。我は聖女を超える女だぞ?」

 

「ああ、分かってるさ」

 

 二人が話し合う事数分。

 

 イルト達を残して少女は要塞内部を用心深く進む事とした。

 

「……戦争中だと言うのに静かなものだな」

 

 艦内は音こそ伝わってくるものの。

 

 外部からは隔絶されている様子であり、殆ど戦争中の外の様子は分からない。

 

 通路は何処もちゃんと灯りは付いているのだが、人気は無く。

 

 要塞の中央付近から潜り込んだイフィーは自らの勘を頼りに格納庫や艦の中枢を見付けるべく通路を歩き回っていた。

 

 途中、艦内地図と現在地を見付けたものの。

 

 何処に何があるのかという表記は無く。

 

 乗り込まれた際の対策の一つなのだろうと納得して、まずは一番人がいて忙しいだろう倉庫内と目星を付けた場所へと向かった。

 

 通路は何処も見た目は殆ど代わり映えしないのだが、歩き続ける内に艦内の騒音が近付いて来て、通路の先にある開かれた扉から人が飛び出してくる様子を見付けた事で少女はようやく事情が分かりそうな場所に辿り着いた。

 

「此処か」

 

 艦内倉庫と書かれているプレートの先へと出れば、大きな空間に出て内部には航空機やら高格外套が急ピッチで用意されている様子が見て取れた。

 

 それだけではない。

 

 整備士達の傍ではいつでも出られるようにか。

 

 待機状態の騎師らしき男達が屯しており、一列で艦内壁面の座席に座って音楽を聴くやら固形糧食を摂るやら七教会製の端末で戦況を見つめていた。

 

 その一つを後ろからヒョイと覗いた少女は思わず固まる。

 

『遂に戦端が開かれました!! お伝えします!! 遂に戦端が開かれました!! 大陸中央諸国連合は東部北部南部西部の魔王大連合との戦争に突入した模様です!! 現在、120個師団以上が戦域に投入され、防衛活動に従事しており、宣戦布告後24時間以内の講和プロセスを開始するとアルヴィッツの首席報道官は―――』

 

『本日はコメンテーターとして軍事評論家の高位宗弟魔導師アラフ・アリブさんにお越し頂きました』

 

『初めましてアラフです。早速ですが、今回の戦争開始までのあらましを解説していきたいと思います』

 

『お願いします。アラフさん』

 

『はい。承りました。今回の戦争は皆さんも知っての通り、七教会崩壊後の世界におけるパワーゲームを決する決戦(グレート・ウォー)であります。旧七教会勢力を結集する事に成功した大陸中央諸国連合及び各地の教会派と東西南北の大国であるイグニシア・クルシス、ガイラ、アルヴァス、北部三国及びヴィーリアの大連合の激突であり、これが実質的には人類最後の戦争となるでしょう』

 

「何だと……人類最後の戦争?」

 

『事の興りを遡るならば、やはり南部の大帝国イグニシア・クルシスが魔王領として再出発を宣言し、七教会と敵対していた各地の大国との安全保障条約を締結した例の一件が契機と言えるでしょう』

 

「ッ、これは未来? 未来の姿だと言うのか!?」

 

『武帝の部族達が帝国に流れて以降、勃興したエルフの大樹周辺領域を所領とする新興国家。また、エルフ・モドキと一部で呼ばれている新種の外なる世界から己の死を以て化け物を呼び込む種族。これらの対応で混沌したこの数年、七教会は瓦解していきました』

 

「我々が見る未来、なのかコレは……」

 

『今現在、七聖女様が不在。その中で魔王軍として再編された各地の大国軍は魔王統一軍、魔王軍を称し、七教会統治下から離脱する地域の防護という名目で紛争介入や戦争介入を実施』

 

 映像の中では次々に南部帝国を主軸とする各地の兵達が七教会の高格外套と各地域で睨み合いになる図が映し出された。

 

『軍門に下らぬ各国家を吸収し、第三極は存在しない大陸という図式が生まれた結果……我々大陸中央諸国連合と魔王大連合は其々の勢力を取り込むべく様々な外交戦を繰り広げたわけですが……其々の主張は平行線となりました』

 

「だろうな……」

 

『アルヴィッツを中心とする中央諸国連合はあくまで議会制民主主義と七教会の既存の統治プロセスの継続、魔王の排除を主張し、イグニシア・クルシスを中心とする魔王大連合はこれを拒否すると共に七教会の統治プロセスへの民主的な少数派の異議を受け入れるように主張しました』

 

 大陸の図式がテロップやら用意されたボードで説明されていく。

 

『七教会に疑問を持っていた層は何処の国でも一定層いた事もあり、各地で魔王大連合と大陸中央諸国どちらの派閥に着くかで意見は二分され、内紛に発展した国も多く。それにどちらの勢力も派兵する形で国が分割されたところも多い』

 

「………」

 

『結果として、祖国の統一を掲げる民主派と独立を掲げる魔王派との争いに火が点いたのがこの戦争の根本的な原因となります。大陸中央諸国はコレを期に大陸全国家への民主プロセスの導入と魔王派、反七教会派の流れを組む組織の撲滅を宣言しました』

 

「………」

 

『割れた祖国の統一は三通り。痛み分け。共倒れ。どちらかの勝利。このどれかになるでしょう。ですが、その後の来る次世代(ポスト・セブンス)はもうすぐです。両連合の合意文書は既に布達されており、どちらかの軍の損耗率が8割を超えた時点での降伏及び講和プロセスが発表されております』

 

「………」

 

『今回投入された両軍の戦力は我々が今現在持ち得る人類の総力です。大陸の亜人や異種も今回ではどちらかで参加する事を強要されました。どちらが降伏、自らに有利な講和プロセスを勝ち得るか。それが今回の戦争の結論となるでしょう』

 

「………」

 

『魔王軍が勝てば、あちらは魔王及び魔王の血統の永続的な継続と七教会派による統治プロセスに断固とした例外と楔を打つ事に成功し、我々は魔王や魔族との共存と共に更なる困難な政治と経済と軍事の時代を迎える事になるでしょう』

 

「………」

 

『逆に中央諸国連合軍が勝てば、魔王の血統の廃絶。全国家の統治プロセスの受け入れによる新たな大陸統一時代が始まります。どちらにしても亜人、異種、魔族などとの協調や融和は行われなければならず。その際にどちらがより良い時代となるか。それは時代の当事者である我々の評価に委ねられることになります』

 

「………これは」

 

 少女は話を聞く内に自分がいるのがどのような未来なのか理解するに至っていたが、同時に此処がどういう場所なのか不可解さは増していた。

 

「さて、問題です。此処にはどんな試練があるでしょう?」

 

「!?」

 

 彼女が後ろを振り向く。

 

 其処には短く刈り上げた頭と七教会の薄汚れた制服を着崩した女が1人。

 

「ソィラ・ミクラ……此処はお前の領域か」

 

 そう、そこにはニヤリと微笑む本物と然して変わらなそうな七聖女が腕組みで少女を見下ろしていたのだった。

 

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