※この作品はR-18です。

聖娼館ハルトゥム   作:Anacletus

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第五十八節「やれる事やりたい事」

 

―――天蓋蒼星第六層【???】

 

「ソィラ・ミクラ。最強最悪の奇跡。【破壊者(ワンダリカ)】の保有者、か……」

 

「何よ何よ~~。んな警戒しなくたっていいでしょうに」

 

 グニグニと。

 

 擦り切れた七教会の制服を着込む女は親し気に少女の頬を人差し指で突いた。

 

 もし彼女が本気なら今ので少女は存在事抹消されている事だろう。

 

「クラルやユアンは優しかったでしょうし、あのお節介眼鏡ちゃんは甘々だし、双子はアンタに同情的だから、助けてもくれたってだけでアタシが守護者としての態度的に普通よ」

 

 巨大な大陸最後、人類最後の大戦中の巨大戦艦内。

 

 人々は誰も彼女達を見ず。

 

 ただ、世界の時間だけが流れていく。

 

「民主主義的には普通ではなく少数派なのでは?」

 

「か~~~良い子ちゃんよね。アンタって」

 

「我を知っているような口ぶりだな」

 

「だって、アタシがシンアの何を顕すシンボルなのか分からない?」

 

「そのまま破壊衝動とか、ではないようだが……?」

 

「ま、そこら辺は後で考えてみるといいわ」

 

 横に座った聖女が男達の手からヒョイと待機中の摂取用な缶飲料に手を付ける。

 

「ぁ~~生き返る~~~」

 

「死から最も遠い聖女だろうに……」

 

「不死身なわけじゃないし」

 

「歴史を破壊出来る人間には今更では?」

 

「アタシの歴史破壊行為って一定条件付くのよ。基本的にシンアが直接手を下してないとこだけ。間接的に関わってると半端に破壊されてやり直しになるけど、殆ど同じ歴史になるわけ。死から遠いってのはあいつに関わらない限りって但し書き付きよ」

 

 横から更に缶詰をヒョイと取って中身をガポリと口に放り込んだ彼女がボリボリと大口を閉じて咀嚼、またグビリと飲料を呷る。

 

「……自分の死んだ歴史を破壊出来るというのは予想範囲だったが、そういう事になるのか……」

 

「ま、言う程大そうな能力でも無いわよ。汎用性が破壊に限ってだけ七人の内で最強ってだけ。アタシに出来る事は他の連中にも大体出来るわよ。完璧じゃないにしてもフルー辺りなら恐らくほぼ完全に同じ、くらいまで出来るでしょうね」

 

「謙虚な事だ。それでこの領域は一体何なのだ? 看たところ我々が干渉出来ない未来の様子のように見受けられるが……」

 

「ええ、その通りじゃない。まんまよ。まんま」

 

「まんま……」

 

 思わず少女の瞳が細められる。

 

「アタシは七聖女の中で唯一普通な感じよ。この能力が無きゃ、他みたいに何か突出した技能や能力があるわけじゃないわ」

 

「……(T_T)」

 

「疑わしそうね。でも、ハティアの魔導、フルーの技術、ユアンの剣技、クラルの信仰、ミュルトやメルフみたいに友好や怠惰……いや、休息みたいな本質も無いわ」

 

「……其々の聖女には其々の能力がある。それの極限系が奇跡なのだと思っていたが、お前は……破壊的な事についての才能は無いのか?」

 

「無いわよwww」

 

 思わず吹き出しそうになった女が肩を竦める。

 

「では、何故……お前の奇跡は破壊を司るのだ?」

 

「さて、どうしてかしら? それは試練の中で答えを見付けるといいわ」

 

「……それで試練の内容は?」

 

「無いわよ」

 

「は?」

 

「だから、試練の内容は何にも考えてないわ」

 

「ちょっと待て!? 此処まで来てほったらかしにする気か?!」

 

 ソィラがへらへらした笑みを浮かべる。

 

「あのねぇ。アタシ、こう見えても面倒な事考えるのは面倒だから嫌なのよ!!」

 

「……このダメ聖女め。だから、お前の事を探る度にお前の副官連中やお前のお世話係連中の話しか昇って来なかったのか」

 

「アタシ、結構現場では頑張ってんのよ? でもさぁ。ほら、結局壊しちゃう部分が多過ぎて人と接するのって、ちょっと臆病なのよ」

 

「臆病?」

 

「だって、七聖女連中やシンア以外だと殆ど歴史破壊で有った事が無かった事になっちゃうし、ついでに例外連中とは大抵相性悪いし、結局仕事をしてみても破壊したら別の人の手柄になっちゃってるし、色々これでも苦労してんの」

 

「……お前のおかげで救われた国が大陸全土にどれだけあるか。予想した通りならば、破壊されていない国は殆ど無いのではないか?」

 

「まぁ、でしょうね。間接直接問わず。一部の大国……今、此処で戦ってる主力連中の国以外はかなり変わったわよ」

 

「破壊の余地が無いのか?」

 

「そゆ事。さて……では、突然ですが、問題よ。この未来は一体何でしょうか? 今までの文脈から推察してみたら分かるんじゃない」

 

「―――まんま……本当にこの未来が我らの時間軸の未来なのか?!」

 

「ピンポンピンポーン。大正解~~」

 

「どういう事だ?! 七教会が崩壊しているではないか!!」

 

「そりゃそうでしょ。本物連中がみぃんな行方不明だったり、戦闘不能だったり、諸々問題抱えてるし」

 

「それは……そうだが、確定していると言うのか?」

 

「ええ、アタシにとっては確(・)定(・)し(・)て(・)い(・)た(・)……が正しいわね」

 

 その言葉にイフィーが思わず立ち上がる。

 

「お前―――お前は一体い(・)つ(・)の(・)ソ(・)ィ(・)ラ(・)・(・)ミ(・)ク(・)ラ(・)だ!!?」

 

 ニィィッと女が唇を吊り上げて、拍手する。

 

「此処まで言えば、さすがに気付いちゃうか」

 

「……だが、どういう事だ?! 過去改変した当人が過去にいる? いや、破壊した歴史は当人の時間軸に合わせて修正されるなら、過去に跳ぶ事は在り得ない。あくまで地続きではない現在に跳ぶはず……」

 

「過去に跳んだりも一応するわよ。ま、例外だけど。だから、アタシは不確定のソィラ・ミクラ(仮)例外版ってところになるかしら……」

 

「守護者なのではないのか?」

 

「守護者よ。でも、ちょっと他のとは違うわ。此処の守護者でもある。でも、シンアの一部であるソィラ・ミクラは破壊者を持ってないの」

 

「破壊者を持ってない?」

 

「ん~~正確には本物は所持してないって言えばいいのかしら? アタシの破壊者って奇跡ね。他のと違って複製されても同じじゃないのよ。これは本物のフルーも気付いてないんじゃないかしら」

 

「複製しても同じじゃない?」

 

「つまりね。この宇宙の現在時点の時間軸には破壊者が一つしか存在出来ないの。破壊者の複製は存在出来るけど、本物の破壊者よりも劣るのよ。コレは恐らくアタシが歴史破壊出来るからなんでしょうけど、破壊者の本質でもあるのよ」

 

「何だ? 時空間の特異点が無限に増えるのを防ぐような世界法則側の仕様か?」

 

「頭あんま良くないから、そういう事にしといて。取り敢えず、一番大事なことを伝えるとね。この世界軸の破壊者は本物が持ってるから、アタシは未来から破壊した歴史内部にいる特異点ではあっても破壊者は持ってないわけね」

 

「破壊した歴史内部……つまり、未来のお前が何らかの歴史を破壊した上でその時間軸上にいるソィラ・ミクラの複製として存在するという事か?」

 

「ややこしいけど例外ってやつよ。ま、アタシの未来を知ってる方からすると、こっちは正しく過去も未来も存在しない。単なる幻影なんだけど」

 

「……時空間系の話は詳しくないのだが、結局お前は未来のソィラ・ミクラでいいのか?」

 

「そう、本来この世界軸に存在しない未来のアタシなわけよ」

 

「未来が無い。過去が無い。その類の話は一応聞いている。シンアが原因なのだとの話をな」

 

「そうよ。だから、殆ど下位の時間関係の術式は止まってるわ。でも、アタシは違う……」

 

「それで未来のソィラ・ミクラがシンアの一部として顕現し、この異常な領域が出来たわけか」

 

「そうそう」

 

「で、何も考えてないと?」

 

「そうそう」

 

 頷くソィラは投げっ放し感もひどく頷く。

 

「……これはお前の破壊した未来。いや、過去という事でいいのか?」

 

「ん? まぁ、この世界軸で今(・)は(・)存在しない未来だけどね。アンタ達にとっては」

 

「で、何も考えてないなら、通してくれてもいいのでは?」

 

「いいわよ。別に……でも、この領域の扱いは気を付けなさいよ」

 

「気を付ける?」

 

「存在しないものが存在する。つまり、これは確定情報に成り得る可能性かもしれないわ」

 

「例外、だからか?」

 

「さぁ?」

 

「投げっぱなし……で、何か問題が出たりしているのか?」

 

「さぁ?」

 

 ピキピキしたイフィーが大きく自分を落ちつけるように息を吐く。

 

「そんな怒らないでよ? アタシが悪い事したみたいじゃない」

 

「歴史の破壊は十分に大罪に見えるのだがな……」

 

「あんなの単なる筋書きを描き直す作業よ。未来から延々と過去を破壊してると自分が何処にいるのか分からなくなっちゃうのよね。世界が変わり過ぎて何がどうなったのか理解出来なきゃ。自分の仕事の結果も分かりゃしないし」

 

「……だからか。お前の破壊は殆ど現在時点の破壊に偏っているという話は仲間内で議題になっていたぞ」

 

「観測出来るヤツがいるんだ? へ~~以外」

 

「生憎と究極生物がウチには二匹というか二人いるからな」

 

「じゃ、アタシと今の本物の違い分かるかしら?」

 

「……過去の清算を本気で始めたかどうか」

 

「……当たり。じゃ、何をどうするのかは自分で決めて。ま、適当に何か終わったらまた来るから。じゃね~」

 

 短髪な聖女様がスタスタと歩いて忙しく立ち働く者達の間を抜けて消えて行く。

 

「……自分で、か」

 

 取り敢えず、指針は自分で示して見せろと言われた少女はその心を胸に留めおいて仲間達の下へと向かうのだった。

 

 *

 

「イルトさん。イルトさん」

 

「ん? 何だ。ピアリ」

 

 周囲を最大限警戒しながらいつでも動けるようにと得物を手にして壁に背中を預け、シャイを抱っこしていた青年は横の桃色髪の少女に視線を向ける。

 

 同じように座り込む少女は現在の状況下でも試せる事があるのかどうかの確認の為、ピンク色の皿を周囲の壁から練成しては元に戻すという徒労系も真っ青な事をしていた。

 

「ピアリ……凄い能力を身に付けましたよ」

 

「?」

 

「見て下さい!!」

 

 バンッと少女が差し出したのは……皿ではなく。

 

 イルトがいつも使っている得物。

 

 棒状の何にでもなる合金の塊だった。

 

「……え?」

 

「え?」

 

 一瞬、何が凄いのか分からず首を傾げた青年に少女も首を傾げ返す。

 

「いや、ええと……何が凄いんだ?」

 

「色が違います!!」

 

「……ああ!! そういう事か……ちょっと拝借」

 

 イルトが少女から受け取った合金の棒を錬金技能で解析してみる。

 

「本当に同じじゃねぇか……そっか、とうとう……オレの錬金術を追い越される日が……オレの青春の半分くらいの成果が今、すっごい速度で追い越された!!」

 

 これには青年もガックリである。

 

 時間が曖昧な場所で数年単位いたとはいえ。

 

 殆ど錬金術の修行的な事をピアリがしていた事実は無い。

 

 つまり、ナチュラルにイルトの自信作は錬金術初心者なピアリに追い越された事が確定してしまっていた。

 

「フフフ。ピアリはこれから錬金術師としてイルトさんの一番弟子を名乗る事にします」

 

「別にいいけど、オレが教えられることって師匠の受け売りだけなんだよな。余裕で座学しかねぇ……実技追い越されると凄いフクザツ……」

 

「イルトさん。イルトさん」

 

「何だ? 今、オレは遠い目になる作業が忙しいんだ……」

 

「ピアリ。スゴイ能力に目覚めましたよ!!」

 

「今度は何だ? 重火器でも練成したか?」

 

「いえ!! さっき、見た鎧も出来ました」

 

「鎧?」

 

「コーカクガイトーとか言うのです」

 

「へぇ……そういや、さっき入って来る時に出撃寸前のって―――」

 

 ピアリがえへんと胸を張る横で床から練成されたらしき七教会の主力兵装が普通に立っていた。

 

「オイオイ。マジでディティールがまんま本物じゃねぇか。オレだってここまで造り込めないぞ?」

 

「フフン!!」

 

 褒められたピアリは鼻高々だ。

 

 だが、これはさすがに目立つから元に戻そうとイルトがハリボテに違いない鎧に触れて錬金技能で戻そうとした瞬間。

 

 バガッと鎧の背後が開いた。

 

「ハッ?!」

 

 思わず目を見張った青年が思わず後ろから内部を覗いて絶句する。

 

「オイ。これって……」

 

 中身が入っていた。

 

 人間という意味ではない。

 

 鎧内部の機構が、機密の塊だろう魔術具の数々がそのまま現物として据え付けられていたのだ。

 

「………なぁ、ピアリ」

 

「はい?」

 

「コレ、本物っぽいんだが……」

 

「はい。ピアリの自信作です!!」

 

 まったく分かっていなさそうな顔で少女が腕組みする。

 

 中身を知らないものすら錬金術が練成出来るとしたら、神の御業という他に無いが、そんなの知らない初心者ド素人丸出しな少女はリュオから貰った手袋を付けて得意満面であった。

 

「ま、まぁ……貰っとくか?」

 

 それにしても物騒なものが練成されたと青年は自身の手で触れて内部構造を解析していく。

 

「(オイオイオイ……術式の登録認証まで真っ新かよ。それにコレ……日付が数年後? ロールアウトの日が未来になってるとか。どうなってんだよ? 新型? ええと、【主上()】……フラッグシップ? それにどういう事だ?)」

 

「イルトさ~ん?」

 

「(高格外套っつったら、専属のエンジニアが付くはずのもんなのにメンテナンスフリー? 仕様書は……あった。これか……)」

 

「イルトさぁん?」

 

 思わず黙り込んで内部の情報を脳裏で参照しているイルトにピアリが首を傾げ……『イルトさんも男の子だから鉄の塊とか好きなんですね!!』という得心をされているのも知らず。

 

「(技術審議会からの特許使用許諾? 何だ? 高格外套を七教会以外が造ってる? 主要動力源が積層魔力式のカートリッジに賢者の釜や賢者の石に類する無限動力機関? でも、コイツ……精度が低い? 通常の高格外套の仕様って確か分子一つ分の精度を要求される部品があるって話だったが、こっちは……)」

 

 青年は夢中で内部を調べ尽す勢いで解析を続行する。

 

「イルトさんも男の子なんですね……」

 

「(そうか。つまり、過去の七教会製には劣るのか……教会の特許関連で許可されてないもんが幾つかあって、最新型でも数十年前の仕様にすら部品単位だと劣化版なわけね)」

 

「イリューと~?」

 

「(つまり、コイツは未来の技術で造られた過去の中古品にも劣る最新型って事だな。こんなんで戦争……此処って未来なのか? まぁ、あの同化能力見せられた後じゃ、何でもありなのは分かるけどよ)」

 

「しゃーい。はむ」

 

 さすがにシャイに髪をハムハムされた当たりで我に返ったイルトが悪戯し始めようと何処からか黒炭を取り出し、シャイに渡していたピアリをジト目で見やる。

 

「悪戯。ダメ、絶対……オーケー?」

 

「だ、ダメ!? ゼッタイ!!」

 

 悪戯を見付かってしまったピアリがササッと黒炭を回収して錬金技能で消した。

 

 というか、もしもピンク色の例のアレだったら、毒に苦しむ事になっただろう。

 

「はぁ、何か色々また面倒になった気がする」

 

 ピアリの横の壁に座り直し、シャイを再び撫で始めたイルトが溜息を吐く。

 

「コーカクガイトー役に立ちそうですか?」

 

「ああ、まぁ、腐っても七教会の主力兵装だしな。使い道は色々あるだろうよ。というか、複雑なもの錬金術で造るの禁止な? 本物で危ないのが出て来るとマジで危ない」

 

「分かりました。危なくないものを作ればいいんですね!!」

 

「うん。やっぱ皿にしといてくれ。皿投げが一番穏便だ。うん……」

 

「はい!!」

 

 ニコニコしながらピアリが再び床や壁からショッキングピングの皿を練成しては愉し気に積み上げている。

 

 シャイなどは高格外套を繁々と見やり、イルトに触っていいと首を傾げ、中身弄んなよと言われて、面白そうにペチペチと鎧を叩いたり舐めたり齧ったりしながら遊ぶ事にするのだった。

 

 イフィーが戻るまで少し休もうと気は張りながらもイルトは意識を過去に向ける。

 

 第四層。

 

 あそこで有った事を思い出しながら、師が自らに授けた叡智。

 

 カバンを横に意識して今は自分が錬金術師であるリュオの代わりなのだと。

 

 いや、それ以上のイルト・イナーシタでなければならないのだと。

 

 そう決意を新たにする。

 

 あの大森林での数百日。

 

 時間間隔も曖昧な世界で彼は己の力を知り、己の使い方を知り、己そのものを正しく認識する事に全力を傾けた。

 

 そうでなければ、老化する身体で動いて敵と相対する事など出来なかったからだ。

 

 その経験は正しく修行と言い換えても良いものに違いなかった。

 

 *

 

 ―――???日前大森林内部。

 

 運良く扉が開く直前に第四層に辿り着いたイフィーと愉快な仲間達が門を潜って森林地帯へと抜けた時、其処は……人っ子一人いない延々と続く森の最中であった。

 

 辛うじて拓けた場所を確保した一行は其処をキャンプ地として設定。

 

 周辺で第五層に抜ける道を探索する為に今までよりも更に準備をしなければとリュオが喰らったような時間の進み方の変化に対応するべく。

 

 錬金技能全開で周囲を開拓する事となっていた。

 

 まずは安全な補給場所を作るのが最優先だったのである。

 

「師匠~~こっちはいいぜ~~」

 

「了解です。イルト君」

 

 いつもの密碑で出した家の横に井戸を設置して数時間。

 

 周囲の樹木を200m程円形に切り倒し、樹木が生えて来ない内に経年劣化に強い金属で地表を被覆。

 

 畑以外は銅を地面に混ぜ込む事で草地になるのも防ぎ。

 

 その上に金と他金属の合金のレンガを敷く。

 

 錬金術に必要な魔力はざっくりとイフィーが出していたが、それにしても此処だけ別世界というくらいには風景が変わった。

 

 合金レンガ敷きの道は正しく戦闘用だ。

 

 補給場所である此処に剣獣がやってきた時、拓けた平地での全力戦闘が可能というのはこの領域においては極めて重要である。

 

 仲間が見えない場所で時間の偏差で行動不能になっていては目も当てられない。

 見付ける事が容易であれば、救助が可能だ。

 

「これで一定時間は大丈夫でしょう。経年劣化も遅れるはずです」

 

 家の前。

 

「先生~イルトさ~ん。お茶が入りましたよ~」

 

 二人で地面を整備していた師弟は共に汗を拭って家の中からやってきたピアリが持って来るお茶の入ったグラスを一気飲みした。

 

「ふ~~ありがとな。ピアリ」

 

「はい。あ、夕飯も今作ってますから、ちょっと待ってて下さいね」

 

「シャ~イ」

 

 シャイが家の前の長椅子にダラダラした様子で座っており、周辺領域に使い魔を複数放って偵察している座禅中のイフィーの膝に頭を載せていた。

 

「どうだ? イフィー」

 

「あぁ、幾つか門のようなものを発見した。ただ、100km単位から数十km単位で離れている上に我々と同じように第四層の七つの門から出て来たような者もいるようだ。どれが第五層に繋がる門なのかは見当が付かない」

 

「入ってみないと分からないってことか?」

 

「ああ、その通りだ。此処に来てから守護者の顔も見ていない。もし間違えれば、いつ開くか分からない四層の門の前で待ちぼうけを喰らう可能性もあるな」

 

「どうにかして第五層への道を見付けなきゃならないわけか」

 

「ああ、そうだ。先日の化け物の一件もある。あまり悠長にはしていられないのだが……」

 

 難しい顔になるイフィーにピアリがグラスを渡す。

 

「ん、ありがとう……この茶は……懐かしいな。大陸北東部で良く飲まれる豆茶か」

 

「はい!! お豆が出せたので入れてみました」

 

 少女が胸を張る。

 

「ちょっと変わった味だと思ってたけど、豆なのか?」

 

 イルトが繁々と氷の入ったグラス内部の黒い液体を見た。

 

「珈琲とはまた違うのだ。主にその味を知っていた知識層が同じような風味を求めて北東で主食になっていた豆を炒って飲み出したのが始まりとされている」

 

「へぇ~~~」

 

「ピアリ的には大満足な出来です!!」

 

「シャ~~い(コクコク)」

 

 横に座ってグラスを呷るシャイが更にお盆に乗せられていた炒られた黒い豆らしきものをバリボリと極めて堅そうな音を立てるのも構わずに噛砕いていく。

 

「ふふ、コレもよく昔に食べたな。大人でなければ食べられないところを母上が割ってくれて……」

 

「どういう事だ?」

 

 イルトが首を傾げる。

 

「ああ、このおやつですね。知ってますよ。確かにコレは大人用ですよね」

 

「師匠は知ってるのか? この黒い豆のおかし」

 

「お菓子じゃないんですけどね。このお茶にする際には粉砕するんですが、その前の時点の豆に砂糖と発酵調味料を加えて乾燥させた代物です。子供が齧ると歯が欠ける事から、歯欠け豆なんて言われていて……貧しい北東部では大人達の酒のつまみや口寂しい時のお供なんですよ。タバコに近いですかね」

 

「へぇ~~」

 

 相槌を打ちながら、イルトが豆をバリボリとシャイ程ではないにしても結構な量を齧って確かにコレ固いなという感想を抱いた。

 

「普通は一つずつ磨り潰すように奥歯で砕いて食べるのだがな。というか、歯まで丈夫になっているのか。普通の大人でも一度に二つは噛砕けない固さなのだが……」

 

「実は虫歯無いんだ。オレ」

 

 イルトが健康優良児だったんだがアピールをする合間にも一粒噛んだピアリがん~~と力を入れて奥歯で一粒噛砕こうと必死な顔で顎に力を入れていた。

 

「それでリュオ先生。第四層の道に付いては?」

 

「それなんですが……正解の道が移動しているような気がします」

 

「超常の力がそういう反応を?」

 

「あんまり当てにはならないんですが、勘を加えれば使い用はありますから。恐らくランダムの扉なんでしょう」

 

「……近くに来ればいいが……数百キロ移動した途中に数千キロ先に移動してしまうという状況になれば、問題だな……」

 

「時間を掛けずに移動する方法を考えないといけませんね」

 

「それはこちらでどうにかしよう。この層まで降りて来た事で我の力の一端が安定してきたようでな。後、時空間が曖昧なおかげで時空間系の術式が一部解禁出来る」

 

「使えるのですか?」

 

「仲間が持たせてくれたものだ。もしもの時の時間稼ぎに時間を早める代物をな」

 

「時間を……この内部でソレは……」

 

 リュオが難しい顔になる。

 

「まぁ、まずは我が試す。お前達はその後だ。可能であるならば、その間にピアリやイルトを更に鍛えてやって欲しい」

 

「分かりました。承りましょう」

 

「ふぇ?」

 

 田舎者丸出し少女が首を傾げる。

 

「一応、戦えるようになるのは良い事ですし、イルト君の負担も減らせるでしょうから、本格的に習ってみませんか?」

 

「レンキンジュツですか?」

 

「いえいえ、戦闘術です」

 

「……ピアリに出来るでしょうか?」

 

「出来ますよ。才能がまったく一般人レベルのイルト君が出来るくらいですから」

 

「いや、ソレはオレが傷付くんだが、師匠……」

 

「細かい事を気にしてはいけません。では、座学からで」

 

「ま、この間みたいな事があるかもだしな。自分で自分の身を守れる方がオレもいいと思うけど、ピアリはどうなんだ?」

 

「はい!! ピアリもしっかり戦いたいです!!」

 

「じゃ、決まりだな」

 

 青年が頷く。

 

「では、今日はさすがに突入一日目で疲れました。明日からにしましょう」

 

「は~い」

 

「了解。師匠」

 

 三人が纏まったのを見て、イフィーも頷く。

 

「では、そろそろ夕暮れ時だ。周辺の警戒用の術式もばら撒いたし、夕飯を摂ったら各自で自由時間にする。家から半径4m以上離れないように気を付けてくれ。それ以上は我も即応出来ないからな」

 

「了解。イフィー」

 

「はい。分かりました」

 

 イルトとピアリが揃って頷く。

 

「リュオ先生。明日までに―――」

 

「戦闘隊列と戦術案は考えておきます」

 

「よろしく頼む」

 

「ええ、僕の仕事ですから」

 

 こうして彼らの第四層での短いような長いような曖昧な生活が始まったのだった。

 

 *

 

「イルト。帰ったぞ」

 

「お帰り。何か成果あったか?」

 

 軍艦の中というのを忘れそうなリネン室の纏められた毛布の上に昇るシャイとピアリ。

 

 高格外套が何故か床から生えている壁際。

 

 そんな最中で静かに座禅スタイルでいつもの棒を片手に待っていた青年が目を開ける。

 

「色々、情報は仕入れた。が、まずそれよりもだ」

 

「ええと、ソレはピアリが見たヤツをそのまま錬金術で練成したら、本物が出来てたって事で納得してもらえれば……」

 

「中身も知らずに本物が練成出来るのか。中々、どうして面白い事になっているな」

 

「同意しとく」

 

「情報を共有した後、一端此処を離れるぞ。さすがに仮拠点にしてもマシな場所を見繕う必要がある」

 

「了解」

 

 シャイとピアリが枕投げで優劣を競い合い始めた横で現在の状況を共有するのに十

 数分程の時を要した。

 

 聖女のいい加減さを聞き終えた青年は自分達で何をするか決めて何かをして次の層に向かうというアバウトな話を前に目を胡乱としたものの。

 

 此処が自分達の未来だと聞かされて、納得もしていた。

 

 同時にまたこの状況をどうにかせねば、とも。

 

「この場所には干渉出来るのか? イフィー」

 

「いや、物体としては干渉出来るようだが、魔術や武器の結果がこちらに降り掛からないような感じと見受ける。後、やっぱり誰も我々の事は見えないし、聞こえないようだな」

 

「透明人間状態か?」

 

「その上で攻撃に巻き込まれても死なない。もしかしたら、此処はソィラ・ミクラが破壊した歴史の再現なのかもしれん」

 

「破壊された歴史。オレ達にとっての未来、か」

 

「詳しいところは分からん。だが、そうとしか今のところ言えん。問題は何をするかだ。何もしなくてもいいかもしれないが、この未来に我らの世界が繋がるとしたら、やはり大量の人死にが出るのは許容出来ん」

 

「戦争止めるか?」

 

「止められればな。それ以前にこの状態で止めようがあるのかというのも分からん。何もせずに通り過ぎる事が本当は最良かもしれん」

 

「て言いながら、そうしたそうには見えないな」

 

「ああ、そういうお前こそ、悪い笑みをしているぞ? イルト」

 

「まぁ、考えてる事は同じって事さ」

 

「では、単純明快だな。戦場で決着を付けさせてやろう」

 

「オレもまぁ戦えるようにはなったし、ある程度はやるさ」

 

「お前の強さは今の現状でも超高位超越者連中にならば十把一絡げ程度だが、高位超越者程度ならば同等くらいだ。資質的な問題で言えば、恐らく生物的には【基幹異種(バルバロス)】の同類みたいな感じ……こちらから干渉出来て、あちらから干渉出来ないのならば、ワンサイドゲームというヤツだな」

 

「行動開始は?」

 

「早いに越した事はない。ピアリ達を退避させたら、即座に取り掛かるぞ」

 

「了解」

 

 二人は頷き合う。

 

 新たな領域の最中。

 

 嵐が吹く。

 

 世界に何を為すのか。

 

 ソレを青年も少女も悩まなかった。

 

 それこそが成長であるとリュオならば言うだろう。

 

 日々進歩していくのは技術のみならず。

 

 昔から若者であると歴史は説くのだから。

 

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