第二章十三節「聖約」
―――武帝南部“帰らずの平原”より。
「ココマデダ」
大森林の南部終端。
広大な平原が開ける地点に達していたマロウ達は仲間の一人と別れる事となっていた。
火竜の神殿域からの逃亡劇。
数日の道程は強行軍だった。
それでも全員の頑張りによって支えられた道程は日の出から日の入りまでに毎日120km近くに達した。
見えない化け物と違ってしまった部族の男達の追撃も森林を抜けるまでには全て振り切った。
そして、此処からは素人でも道に迷う事なく逃げ切れる。
そう判断した部族の戦士ガナイは単独での離脱を森林脱出前夜マロウとサヤトネに告げた。
共に来れば良いと誘うマロウに対してガナイはこれを固辞。
理由は単純だった。
違ってしまった部族を放っては置けない。
それだけの話。
未だ大森林内部で見えない化け物に襲われる部族は多い。
全ての部族を大森林から脱出させ、武帝の民を守る。
使命を己に課したガナイは武帝脱出の目処が付いた時点で全てを決めていた。
「本当に一人で戻るつもりですか?」
マロウは無駄だとは理解しながらも明けに背を向けて問う。
「センシ。ミンナ。タスケルモノ」
決意は変わらない。
確認してマロウはそれ以上引き止める事は止めた。
この世には命よりも大切な事がある。
武帝の戦士は決断を下していた。
「マロウ。ツヨサ。ワスレナイ」
ガナイが槍を掴んで掲げる。
「此処までの案内。本当に助かりました。貴方が目的を達する事を信じます」
頷いたガナイがサヤトネへと振り返った。
「武帝の戦士ガナイ。その働き、この胸に刻ませて貰います。貴方の前途に幾らか助けを置かせてください」
土に汚れた顔でサヤトネが刀を抜き出し、ガナイに向けて緩やかに振る。
火竜の神殿域においてマロウへ行った加護の付与。
それと同様の行為。
「サヤトネ……」
「随分と多くの戦士達を見てきました。ですが、貴方のように誇り高く、人々の為に力を振るい続ける者は多くない。一時的とはいえ、共に戦えた事。生涯忘れません」
刀が鞘に納められ、片手が差し出される。
「アリ…ガトウ」
無骨な手が初めて少女の手と結ばれる。
内心の想いなど一欠けらも表に出さず。
しっかりと握った手が解けていく事も厭わず。
ガナイは最後の仕事とばかりに二人へ平原の抜け方を教える。
「キリデテルアイダ。ウゴカナイ。キリハレタラウゴク。キリデテルアイダ。ウゴクコトナッタラ、アシモトチュウイ。アーリスンダラーニデル」
「アーリスンダラーニ?」
サヤトネにガナイが頷く。
「シタカラオソウ。キヲツケル」
「分かりました。では」
後ろに待たせていた三人の少女を伴って、サヤトネとマロウが手を振って去っていく。
その後姿を見つめて手を振っていたガナイはやがて全員が朝靄の中に消えていくのを見送って、笑みを浮かべた。
「ドウカ。ブジデ」
腰蓑と槍を片手に戦士は芽生えた想いを胸の奥に封じた。
生きていれば、また会う事もあるかもしれない。
再び運命の交わる時までに偉大な戦士達に劣らぬ者に成ろうと。
涙より軽い明星の風が靄を運んで全てを覆い隠していく。
不意にもう見えない男のいた方角を振り返る。
「……」
サヤトネは気を取り直し、再び前を向いて歩き出した。
前には三人の少女達がいる。
先頭にはマロウ。
殿を務めたのは何があってもいいようにとの配慮からだったが、少女にはマロウがどれほどに己を取り戻しつつあるのか見る為の機会でもあった。
部族の少女達は大森林で誂えた外套に身を包んでいて、歩く速度は速い。
巨大な葉に事欠かない場所だった為。
大森林脱出の最中にサヤトネが編んだものだ。
枯れた蔦を紐代わりに縫い上げた外套は体温を下げない。
アイレンと火竜の巫女。
どちらも火の焚けない夜を凌いで体力を落とさなかった。
新たに仲間と加わった部族の少女。
マロウが名前を聞いたものの、大陸共通言語の発音ではなかった為、未だ詳しい名は分かっていない。
特別な家業で魔力資質の高い血筋のせいか。
長い名だ。
それが本来は他者に他言無用の真の名である事をまだマロウもサヤトネも知らない。
二人が名前の発音に首を傾げている間。
アイレンが真剣な顔でマロウの袖を握っていた理由に付いても……。
幼くとも女。
己の夫と定めた者に新しい女が出来れば、不安にもなる。
イーステルだけがアイレンの心情の機微に気付いていたが、それもまた言葉の不自由な半魔族化した少女に伝える術はなく。
微妙なバランスを保ちながら五人は武帝からの脱出に全力を傾けて進んでいた。
「……そろそろ休憩を入れましょう」
先を急いでいたマロウがそう言って振り返ったのは昼近く。
地平まで荒れ野の広がる場所での事。
言葉を理解したのか。
靴代わりの枯木の板も脱いでアイレンがパッタリと草の上に身を投げ出した。
「昼食にしますか?」
サヤトネの言葉にマロウが頷く。
「幾つか結界を。日も高い…少し日陰も作ります」
刀が抜かれ、振られる。
たったそれだけの動作で五人のいる野では聊か日差しが和らいだ。
何も無いように見える五人を囲んだ結界。
その強度を肌で感じつつ、マロウが食料を少女達へ優先的に配る。
大森林の中でアイレンに指差されて取った果物が幾つか。
湧き水を入れた皮袋が三つ。
マロウとサヤトネはここ数日飲まず食わずだが、それ程に疲弊はしていない為、全て少女達のものだ。
「マロウ」
飲まず食わずのマロウを心配してか。
アイレンは膝の上でしきりに果物を奨める。
特等席とばかりに膝を取られてしまったイーステルは背中合わせで一息付いて果実を一口。
「つか…れた……」
二人の様子を見つめる火竜の巫女だけが少し三人から距離を取って同じように果実を口にしていた。
その様子はマロウと少女達の関係を観察しているようにも見える。
少女達が果実を一つ食べ終わった頃。
立ち上がったマロウが巫女の方へと向かい、目の前でしゃがみ込んだ。
「どうですか? 体で辛い所はありませんか?」
数日共にいたおかげか。
言葉は分からずとも言いたい事は理解したのだろう少女が首を横に振った。
「そうですか。とりあえず武帝から脱出して色々解決していきましょう。ただ、それまでは少し頑張ってもらうことになると思います」
「……」
頭をそっと撫でる手に恥ずかしそうな顔をしたものの、巫女はそのまま手を受け入れた。
二人の様子を見つめていたアイレンとイーステルが羨ましそうな表情で水を飲む手を止めている。
(新しい枷をそろそろ強固にしておくべきですか……)
内心、マロウへ楔(くさび)として巫女を宛がう気だったサヤトネは二人の様子を見て、幾つかの算段を頭の片隅に思い浮かべた。
「サヤトネ」
考え込んでいた少女が顔を上げるとマロウが三人から離れてやってくるところだった。
「どちらに抜けるか未だ決めていませんでしたが、そろそろ考えるべきでは?」
「確かにそうですね」
マロウが懐から取り出した地図を広げる。
幾分大雑把なものだったが、現在地はほぼ正確に分かる。
大森林内部こそあまり描かれていないものの、平原から他国に抜けるルートは二つあった。
一つは南に真っ直ぐイグニシア・クルシスへと抜ける道。
もう一つは乂羅の東海岸から国を抜ける道。
最終的には二つとも帝都へと続く。
が、武帝の異常を帝国が容易に察知していないはずもなく。
そのまま南へ抜ければ、国境付近から身元確認など困難が予想されていた。
見えない化け物や武帝の男達の襲撃確率が高くても簡単に抜けられる海岸線沿いに往くか。
最短のルートで面倒が予想される国境地帯を抜けるか。
どちらも二人にとってはほぼ労力は等価。
後は少女達の安全を確保出来るかどうかだけが選ぶ上での条件となっていた。
「私は南へ向う事を勧めます。武帝内部の異常が知れていれば、国境地帯には難民もいる事でしょう。見えない化け物が何処まで手を伸ばしているか知りませんが、長い時間武帝内部に留まる東からの脱出は危険度が高い。あの子達の食料や飲み水の確保も思えば、武帝からの脱出時間は最短にするべきです」
食料や水の確保もまま成らない平原で長旅をする余力は無い。
少女達の体力的な面から言っても南への最短ルートが妥当。
そんなサヤトネの意見にマロウも頷く。
「分かりました。では、このまま南の国境地帯を目指しましょう。部族が国から逃げ出していれば、途中で避難民とも会うかもしれません。食料や水の補給が出来るかどうかは分からずとも、早めに人里に着くのが良いはずです」
二人が合意に達した時点で日は中天を過ぎていた。
休憩はそれでお終い。
少女達を促して再び隊列を組んで逃避行が始まる。
「では」
マロウが先頭を切って歩いていく。
魔族化しているイーステルはともかく。
二人の部族の少女達の足に合わせた速度。
殿に付いて黙々と周囲に気を配るサヤトネは予感していた。
このまま上手く行けば、何とか最低限休めるだけの場所があるのではないかと。
結果的にその勘は当たった。
夕暮れを過ぎた頃。
五人には夕飯の炊煙が幾つか見えた。
武帝から脱出する部族達の天幕の群れは大きく。
五人は久しぶりに屋根のある場所で夜を過ごす事となった。
*
天幕を張っていたのは部族の中でも豪族と呼ばれる支配者層だった。
火竜の巫女が五人の中に含まれていると知った彼らの歓待は手厚く。
全員が温かい寝床と食事にありつく事が出来た。
日が落ちてからの外気が氷点下を下回った外の厳しい環境を暖かな天幕から覗いたマロウは自分達がいた大森林の事を思う。
旅の途中、食料も水も豊富にあった。
気温も湿度も天気も時折豹変こそするものの、着の身着のままで生存出来ていた事を思えば、森に生かされていたと言っていい。
星も見えない曇天の深夜。
特別に宛がわれた天幕で。
何とかなりそうだと。
そう一息付いた青年は傍らで眠る三人の少女達を置いて外に出た。
天幕の外に出た途端に息は白くなり、背筋には芯まで凍りつかせるような冷気が入り込む。
「サヤトネ」
それでも寒いなんて素振りも出さず。
一人外で見張りをすると頑なだった少女に彼は声を掛けた。
「三人は?」
「もう眠りました」
「そうですか。やはり歳相応ですね」
白い息。
氷点下の平原に一人ポツンと立ち尽くす姿。
まるで氷の彫刻かと見紛う微動だにしない背中。
マロウは言葉にならない少女の形を見た気がした。
「代わります」
「いえ、これは私が勝手にやっている事ですから」
「ですが……」
振り返る少女の顔は呆れている。
「貴方以外に誰があの姦しい子達の面倒を見るのか教えてください。今日は体力もそれなりに消耗したはずです。此処で眠っておかなくてはならないのは貴方です。マロウ」
「それは貴女こそ同じでは?」
「私は一ヶ月飲まず食わずでも問題ありません。その気になれば、外部からの魔力で一年は余裕です」
冗談には聞こえない少女の能力(スペック)にマロウは笑えばいいのか問い返せばいいのか分からなくなった。
確かに少女が言う通りなら、自分がしている事は無駄という事になる。
しかし、それでもやはり戻る気にはなれず。
少女の横に青年は立つ。
見えるのは世闇。
聞こえるのは寒々しい風音。
たった一人そんな世界に立つ事を当然とする少女。
目覚めた時から共に旅してきた仲間。
今までは考えないようにしてきた疑問が次々にマロウの心を捉えていく。
どうして此処まで付き合ったのか。
何故、自分を助けてくれたのか。
本当の理由はあるのか。
まとまらない脳裏の言葉は冷たい風に押し流されて。
「寒くありませんか?」
思わず青年はそう聞いていた。
「寒くはありますが、耐えられない程ではありませんから。ご心配なく」
「そうですか」
「はい」
何処までも事務的な回答だった。
着てきた外套を貸そうかどうか悩んだ青年の配慮も切り捨てられる。
「助かります」
ありがとうと言えば少女はきっと何でもないと返す。
たぶん、そうに違いないと婉曲に表現したものの。
「いえ」
その感謝も素直に受け取られる事は無かった。
「どうしてそこまで自分に厳しくなれるのか…私には分かりません…」
思わず疑問がマロウの口を突いて出た。
チラリと横の青年を見て、少女は呆れた様子になる。
「己を定め、己を磨ぎ、己を振るう。なればこそ、自分に厳しいというのはお門違いです」
「……」
記憶喪失の身で己を語れはしない。
そう気付いて何も言えなくなる青年にサヤトネは続ける。
「マロウ。貴方にはこの世界がどう見えていますか?」
「それはどういう?」
「曇天に覆われ、闇に沈む荒れた平原。生物の匂いも無く。何者も拒絶するような冷気と枯れた風音だけが支配する場所。けれど、此処もまた私が願う世界です」
「私が願う?」
「自分に厳しいとはこの世界に身を置いた事ですか? それとも一人で立ち続ける事ですか? 私はどちらだろうと厳しいとは思いません。生存するには過酷かもしれない。でも私にとってそれは必ずしも悪い事ではない」
「悪く、ない?」
マロウは闇に沈んだ平原を見つめる。
「世界は人の願いで出来ていると言った人がいました。この世界の始まりや生い立ちの話ではありません。その人は世界が常に自分の思いでしか計れない事を知っていた」
少女が一歩踏み出して、手を風に晒す。
「どんな劣悪な環境も、どんな苛酷な状況も、今の私にとっては己を鍛える道具でしかない。昔の私は己の不幸に溺れ…壊れ壊して嘆くだけの存在でした。けれど、私は教えられた。この世には絶望を飲み下して尚歩こうとする人がいる。諦観に囚われても尚前を向く人がいる。彼は私に生き方なんて教えはしなかった。けれど、その背中はいつだって私に示してくれていた。何もかも全ては己の見方次第だと」
「何もかも……」
「そう、世界とは己の願いに比して見方が変る万華鏡。人はその投影した自らの形に絶望し諦観しているだけに過ぎない。理不尽に抗うも全てを受け入れるも思い一つ。そういう事です」
少女が遠くを見つめ、目を細めた。
「天幕の者達を起こして一箇所に集めてください。十二里先に化け物らしき気配が増え出しました」
「ッ、分かりました」
マロウが突如の事態に驚きながらも慌てず天幕の群れへと踵を返す。
「サヤトネ」
その声に振り向く事なく。
「何ですか?」
常の冷静な声での応答に青年は。
「私は―――」
「上をッ!!!」
「!?」
突如の声。
上を見上げたマロウの瞳に映ったのは幾多の魔導方陣。
「あれは転移の!?」
頭の片隅から出てきた智識を口に出した時点で事態の深刻さを彼は悟った。
「まさか、化け物達がッ!!」
「方陣の迎撃はこちらで引き受けます。とにかく避難を最優先に!」
少女が天幕の外側を重力を無視したような速度で駆け上がり、抜刀した。
一瞬後、空の上で咲き乱れていた光の方陣の形がズレて、消え失せる。
しかし、まるで無駄だと言わんばかりにズレて消えた方陣の上に新たな転移方陣が無数生まれていく。
「気を付けて!」
マロウは駆け出した。
幕屋の間を叫び回りながら、一箇所への集合と各個での戦闘を行わぬよう部族達を集め誘導する。
戦士達の幾人かがすぐにマロウの傍に加わり、避難誘導を買って出た。
その時になって初めてマロウは遠方から近付いてくる気配を察知した。
見えない化け物。
それが軍勢のように押し寄せてくる。
(転移方陣で釘付けにして、地上部隊を進行させる…く、これでは……)
上の転移方陣の対処に掛かり切りとなっているサヤトネに地上部隊まで叩く余裕はない。
「マロウ!!」
「アイレン?」
青年の下へと走ってくる三人の少女達を見て、青年は一瞬迷った。
このまま少女達と共に合流して非難先へと向うか。
それとも地上から進行してくる化け物達に対処するか。
「全員、後ろから離れないで下さい。イーステル! 二人を!!」
「わか…た!!」
フードを被る余裕が無かったのか。
着の身着のまま出てきた様子のイーステルがマロウの意を汲んで頷いた。
半魔族と化した少女は二人の部族の少女を両手で抱く。
既に恐ろしい速度で迫っていた化け物達は相変わらず見えない。
それでもマロウには迫ってくる津波のような群れが感じ取れていた。
通常の化け物達とは違う。
速度一つ、気配一つ取ってみても、今まで倒してきたものとは桁が違っている。
急速に強くなったのか。
それとも裏で糸を引く者がいるのか。
どちらだとしても、マロウのやる事は変わらない。
「不可視の化け物よ。我が剣に掛けて、貴様らを一歩も通しはしない!!!!」
走り出したマロウは天幕の群れの外へと出て剣を掲げた。
闇に沈む鈍色。
マロウの意識の底から浮かび上がる無数の智識。
それは言わば術の仕様書。
膨大な知識は並の辞典を遥かに凌駕する。
記憶喪失のマロウにすら理解出来る過去の己からの巨大な遺産。
剣を極めんとした者が開発した数千の刃術は幾多の派生と組み合わせで無限の運用を可能とする。
今までそんなものは脳裏に浮かばなかった。
しかし、危機を前にした本能か。
その一部は開陳された。
過去の己に感謝しつつ。
青年は肉体に染み付いた反射と智識のままに剣を振るう。
「【響鈴虞口(イウプタ・イウベニス)】」
基本はソレだ。
青年の唯一持つ超常の力。
そう、誰かが名付けた。
鈴のように響く謳い上手と。
『ぎゅぇあ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!!』
見えない化け物達の第一陣。
先遣の数匹が目に見える青年へ突撃を掛けようとして肉体の不調を抱えて跳躍、後退した。
それを機に跳躍しながら地を駆けて来た後方の動きも止まる。
「【葬送窮奏(ファムス・ラメンタヴィムス)】」
彼の超常の力の根幹を誰かは未知だと言った。
現代の叡智に連ならない粒子が織り成す媒質。
未見力場。
人が到達しない領域を震わせて。
光速の情報が通常空間に顕現し、微細なエネルギーを生んで作用する。
能力発動媒体が剣であり、空気を振動させたように見せかけているだけで本質は異端。
人の知性が届かない領域からの一方的な情報伝達と干渉。
運動エネルギーとなって顕現する波動は対象外部から伝わるものではなく、特定座標への発現という形を取る。
通常空間内部に存在する有り触れた媒質を使わない為、攻撃は見かけ上、いきなり現われたように理解されるだろう。
故に攻撃を避ける事は出来ず。
故に防御する事に意味は無い。
対象内部への光速の直接干渉を斬撃という型に嵌めて発動すればどうなるか。
『ギィァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ?!!!』
それは術者のイメージに比し、あらゆる破断を実現する回避不能の見えざる一撃となる。
最初に化け物達が感じたのは痛みではなく不快感。
それは軽く内部の重要内臓器官を傷付けられただけに過ぎない。
今度はその比ではなかった。
「失せろ」
剣から先。
縦50m。
横数kmにも及ぶ【網】が賽の目以上の大きさの生物を許容せず、全てを細切れの肉片へ変えた。
一瞬にして通り過ぎた網は不可視。
見えない化け物達は同じく見えない網に命を零して墜ちていく。
断末魔にビクリと三人の少女達が震えた。
幸いだったのは相手が不可視であった事か。
もしも、血が見える化け物だったならば、辺り一面は赤黒い霧雨に覆われていたと分かるだろう。
足元には大地が吸収し切れなかった生暖かく柔らかな川。
とても正気を保てるような環境ではない。
超常の力による大規模殲滅。
一瞬にして刻まれた化け物達の総数は数千を越えた。
(戦闘技能の一部が戻りましたか……)
上空の方陣を切り裂き続けていたサヤトネは少しずつ嘗ての色を取り戻していく青年の行為を見つめつつ、余力で化け物達の残存個体を間引いていく。
不意に展開され続けていた方陣が途切れた。
場の空気が変質していく様を注意深く観察しながら。
少女は再びの侵攻へ備える。
天幕の群れの中央。
武帝の戦士達が豪族の人間を中心にして警戒に当たる。
このまま夜が明けるまでは警戒を解かずにいるべきか。
そう肉体を待機状態へ移行させようとした途端。
「――――――」
グラリと天幕の上で傾いで。
サヤトネは急激な能力への負荷に意識を落とした。
*
「サヤトネ!!!」
天幕から滑り落ちていく体を目撃しながらもマロウはその場から動けなかった。
曇天の下。
立ち込める血臭に異様な気配が混ざるのを感じて。
「あらあら。まさか、御子様の御技に抗うなんて。随分と高位の能力をお持ちのようですね。あの方は」
「誰だ!?」
マロウは内心で相手が今の己には過ぎる相手だと瞬時に理解する。
漂う気配とは裏腹に声の主を今まで感知出来なかったからだ。
能力発動下のマロウは知覚能力だけで数百メートルをその圏内に置く。
今の状態ならば、相手を知覚してから能力による排除を行うまでものの刹那。
つまり、相手は知覚を完全に掻い潜って接近した事となる。
「お初にお目に掛かります。騎士様」
ぬぅっと不可視の川の中からソレは現われた。
マロウが即座に数メートル先に現われつつある黒い塊を断絶する。
細切れになるはずの黒はしかし、何一つ変化せず。
やがて、一人の女を生み出した。
修道服に身を包んだシスター。
うっすらと笑う美しい肖像。
黒髪の女。
だが、それが魔に類すると察知した青年の背筋には冷や汗が流れる。
「そう緊張せずに」
「お前がこの化け物達を……」
剣を握り締める手が最短のルートで女を叩き斬る為、力を抜いた。
「化け物とは酷い言い草ですわ。皆、良き御神の子。そう、遣いなのですから」
「御神の遣い?」
女が嫋(たお)やかに手を広げて笑みを零した。
「私は教会の者です。まぁ、神の真似事をするあの女達の教会とは違いますが」
「その魔に墜ちた教会が此処に何の用がある?」
「火竜の巫女をお渡しになって頂ければ、すぐにでもお引きしますわ」
「何の為に巫女を狙う?」
クスクスと女が袖で口元を隠した。
「全ては御神と御子様の為に。あの火竜の戦力はとても大きいですから」
「お帰り願おうか」
「残念ですけど、もう囲ませて頂きました。勿論、貴方の能力が届かない範囲で」
マロウが周囲を警戒するも知覚範囲外にいるのか。
それらしい化け物は感じられなかった。
「時間を掛けて突破出来ないとなると、しょうがありませんか」
「何を……」
パチンと女が指を弾いた。
ズルリ。
また女が現われた時のように黒いものが化け物達の不可視の残骸の中から立ち上って形を取る。
「まずは防御の要である貴方を。次に御技を妨害するあの方を。さぁ、我が子達出番ですよ」
獣の声が小さく響いた。
先程マロウが数千匹も斬殺したソレとも違う何か。
不可視の存在とは違う。
明確な形を持ったソレは凡そ化け物としか言い様がない。
人を捏ね合わせたか。
キマイラにしても人型にしても奇妙な造形。
獅子の頭。
蜥蜴の尾。
翼竜の翼。
鋼の鱗に緑色の複眼。
剥き出しの牙に隆々とした筋肉。
毒液が爪からは滴り。
唾液は大地を融かし。
声には呪いにも似た不安を掻き立てる作用。
(我が子達? 一匹ではないのか?)
マロウが思考した途端だった。
――――――!!!?
爪が、眼球を、抉るより先に、剣が一撃を防ぎ。
(早いッッッ?!!)
金切り声を上げた獣の回し蹴りが肋骨を砕き、肺から空気を全て吐き出させた。
攻撃直後の硬直に合わせたカウンター。
能力による断絶が分子レベルでの解体を化け物に送る。
しかし。
「?!」
知覚圏内の相手に対して放ったマロウの力は結果を出力し、相手を蛋白質の塊に、出来なかった。
ドン。
続けての第二打。
拳が鈍色の剣を粉々に打ち砕き、胸骨へと食い込んで吹き飛ばす。
背後でアイレンと巫女を抱えていたイーステルは咄嗟に二人を横に突き飛ばし、青年を受け止めようと獣毛に覆われた腕を広げた。
足が堪え切れず。
近くの天幕まで吹き飛んでいく。
そんな二人には目もくれず。
化け物が突き飛ばされて尻餅を付いた少女達の方へと歩き出す。
「ま…ろ……」
イーステルの判断は結果的には正しかった。
少女達を抱いたまま青年を受け止めていれば、挟まれた人間の体は圧力に耐え切れず弾けただろう。
半魔族と化した肉体の強度は並の人間を優に超える。
それでも衝撃に意識を刈り取られて、青年を受け止め切った少女は天幕の太い芯柱を圧し折りながら仰向けに倒れた。
「我が子達。良い子です。では、次に御技を拒絶する方を片付けましょう」
あまりの事に震えて立ち上がれなくなった二人の少女に魔性の笑みを浮かべ、化け物へ指示を出し、女は倒れた天幕へ向う。
化け物は言われた通り、少女達を素通りし、サヤトネがいた方向へ。
残された少女達は立ち上がる事も出来ず。
吹き飛ばされた青年のいる方角を振り返って叫んだ。
マロウと。
「……」
気を失ったイーステルの横。
肉体の激痛に動きを阻害されながらも、マロウは断絶気味の思考を高速で回転させる。
少女達の事も気になったが、それを案じる余裕は無かった。
(物理的な破断によって結合が解かれたのは確実。しかし、実態としての肉体には影響が見えなかった。物理現象の拒絶。いや、効いていないとすれば、これは相性の問題。魔力的な結合なら断てる。なら、高次の存在か。存在を特別な方法で固定しているかの二択……)
「今、お考えでしょうが、無駄です」
マロウの能力が発動する。
女の構成物質は例外なく全て分子構造を破壊されながら崩壊した、はずだ。
だが、その様子は見受けられない。
「御技に括られた我らは不死。魔力も超常の力も殺す事は能(あた)わず」
女の頭に何かが当たった。
振り返った女が笑みを深くする。
また石を投げようとした少女達の手が女の瞳に固まった。
「悪い子です、その手癖の悪い棒切れは千切り取ってしまうべきですね」
マロウへと手を掛けようとしていた女の意識が背後へと向いた。
その間にも高速で相手の正体を推定していくマロウの脳裏が一つの推測へと行き着く。
(実態としての物資が存在する。能力による攻撃で分子構造を破壊されて尚実態を保つ体。御技による不死。高位存在との契約による不死化か? いや、構造はある。あの化け物と同じで打撃するだけの実態を併せ持つなら、何故、今は“音”がしなかった?)
血を吐き出しつつ、マロウが立ち上がった。
「分かった……お前の正体が」
「あら、今終わりますから寝てて下さっても構いませんよ?」
立ち上がれない少女達に手を触れようとした女が手を止めた。
「最初からオカシイとは思っていた。知覚を潜り抜けてくる程の実力者なら、暗殺する方が容易い。なら、わざわざ姿を見せる必要も無かった。私の前に現れてみせたのは自分が此処にいると印象付ける為。そして、こちらの攻撃によって一切のダメージが通らないと錯覚させる為」
「血が足りないのでは?」
女が唇の端を吊り上げる。
マロウが砕けた剣を振り上げた。
「攻撃が効かないと言いながら、御技で不死であると嘯(うそぶ)く。矛盾や錯誤を噛ませて、対象を見誤らせる。中々、手の込んだイカサマだ!!!」
剣が地面へと一気に振り下ろされた。
「何をしたのか知りませんが、私は―――」
青年が歩き出した。
その手に剣は握られていない。
戦う事を放棄したのではない。
戦いが終わった事を暗に女へ示したのだ。
何かを言おうとする女。
その横を“通り抜けて”青年は二人の少女の傍へとしゃがみ込む。
「残骸と血液を全て分解した」
女がマロウを凝視した。
「……幻影に合せて術式を組み込んだ血肉を操る。知覚に引っ掛からないのも当たり前だ。そもそももう死んだものが形を変えて襲ってくるとは普通考えない。どれだけの攻撃を受けようと幻影は殺せない。中身が壊れても足元に幾らでも代わりはある。材料が不可視なら魔術で音を消せば中身を感付かれはしない。違うか?」
「どうやら、少し侮っていたようです。更に言わせて貰えば、血煙を含んだ生物は今頃我々の側に付いているはず、というものもありましたが、御技を拒絶する守りまで保有するとは思っていませんでした」
御技を拒絶する守り。
それが一体何を指すのか薄らと理解しながら、青年は今も倒れているだろう少女に感謝した。
「今日は引き下がります。ですが、一つだけ」
シスターが微笑してガリッと自分の頬を抉った。
「人たる身で我々の障害となった事。必ず後悔しますわ。騎士様」
「ならば、こちらからも一つ」
マロウが今までの冷静な顔に怒りを乗せて拳を握り締めた。
「外道に説法を説かれる程耄碌はしていない」
「ふふ、覚えておきます」
女は終始微笑んだまま。
姿が崩れていく。
異様な気配が去っていくのを感じながら、マロウは自分の意識が薄れていくのを感じた。
二人の少女達が慌てて青年を抱き止める。
天幕の群れの奥。
よろめきながらサヤトネがやってくるのはそれから数分後の事だった。
*
降り注ぐ灰に朽ちる樹木の下。
空は紅に凍えている。
埋み火は燃え上がり、全てを呑み込んだ。
昨日の街の営みは何処かに失せて。
悲鳴と怒号と狂声が響く。
悪とは何か。
火の粉から我が子を守ろうと井戸に投棄てる親の事か。
悪とは何か。
王政に苦しみ打倒の道を歩もうとする若者か。
悪とは何か。
人々を炎に撒いた敵国の軍か。
悪とは何か。
隣国の侵略に脅え密かに姦計を巡らした祖国か。
悪とは何か。
望まない子をこれ幸いとばかりに殺す母か。
悪とは何か。
乱に乗じて他者を虐げ奪う者か。
悪とは何か。
諦観から女を犯そうとする愚か者か。
悪とは何か。
悪為す者、それ即ち人か。
―――いや、違う。
悪とはいつでも目の前にある。
善と対ではない。
悪とは幸せを求める事に他ならない。
誰も悪いはずがなかった。
親は子の未来を願い井戸にその身を投げた。
若者は国の行く末を憂い行動に出た。
敵国は姦計を打ち破り、自国の民を守っただけだ。
祖国は増大する隣国の圧力に屈しなかったというだけの事。
食い扶持が減らなければ飢え死にするからと涙を零して母は子の首を絞めた。
乱に乗じて虐げ奪う者すら、何も無ければ罪は侵さずに済んだだろう。
女を犯そうとした男は死ぬくらいならばと想い人に打ち明け、拒絶されたに過ぎない。
悪為そうとするは人の性。
しかし、誰も悪の為に悪を為すわけではない。
己の幸せの為にこそ人は悪を為す。
誰かを虐げ、奪い、犯し、命すらも取る。
他者を切り捨てる事が悪ならば、善人など世には無い。
だから、悪を滅ぼすと決めた。
それは人が幸せを求めずとも良い世界。
少なくとも己の幸せの為に他者を切り捨てない世界。
拾われた商隊と共に砂漠を抜け、教会に預けられ、騎士となって現実を知った。
荒んで、何も出来ないと諦観していた。
そんな時、命じられたのだ。
あの方をお守りしろ、と。
荘厳な教会に聖人として住まう美しい貴女(ひと)だった。
遠方の惨事に心を痛めては出かけて行く。
旅の果てに人々を救済せんと尽力していた。
他者に己の血の一滴まで捧げる少女。
どうして、そこまで出来るのか。
そう問うたのは三回目に同行した時。
彼女は言った。
一番大切なものを救わなかったからだと。
救えなかったのではない。
救わなかったのだと。
だから、これからは全て救って生きて行くのだと。
悲しそうな笑みで、己の悪を彼女は語った。
聖人もまた悪人か。
ただの代償かもしれないと嘯いて、誰かの為の余所行きの笑顔。
初めて、人を美しいと、愛おしいと、思った。
痛ましい笑顔に腕が動いて、抱き締めれば、呟いていた。
その理想に自分も付き合わせてくれないか。
何も言わずに見上げた瞳。
頷いた顔は今にも崩れそうで。
奪った唇は少し冷たく。
零れた涙の意味も理解せず。
貪った。
離れ、胸の中で静かに嗚咽した彼女の唇が何と呟いたのか。
一度も考えはしなかった。
たぶん、それが己の為した最大の悪。
やがて、伴侶となって、理解した。
彼女はあの時、謝っていたのだ。
目の前の身勝手に唇を奪った男と自らが救わなかった一番大切な者へ。
ごめんなさい、と。
何故、気付かなかったのか。
いや、気付かないフリをしたのか。
心の底から笑みを浮かべて貰える様になっても、体を何度重ねても、変らない。
変えられなかった。
子供が出来ようと、母になろうと、何年連れ添おうと。
今も昔も少女は己の為に悪を為さない。
幸せという言葉を何処かに置き去りにしていた。
笑う事もあるだろう。
心が満たされる事もあるだろう。
家族団欒の日を過ごしもした。
しかし、誰かの幸せを祈ろうと、決して彼女は自身の幸せを願わない。
悪を赦さないと決めた男への天罰だろうか。
神が見れば、お前の伴侶には相応しいじゃないかと呆れるだろうか。
愛する女を幸せにしても、幸せになりたいとは言わせられない。
そんな男に一体どれだけの力がある。
それ故に彼は彼女にとって一番大切な者と幾度と無く戦った。
悪を滅ぼし、悪を求める為、その元凶を憎んだ。
彼女が自分の幸せを求められる世界の為に。
過去の残骸、数十年にも及ぶ間、人の運命を左右してきた存在を。
きっと、誰よりもこの世界の悪(しあわせ)を願う男を。
切り裂き続けた。
そいつは誰よりも先に彼女の悪(こうふく)を望んでいた男だった。
彼女と同じような笑みを浮かべて、彼女よりも深い笑みに己を閉じた存在。
魔王。
彼女の一番大切な貴方(ひと)。
今まで滅びた魔王と呼ばれる存在の最後の形。
不老不死。
不滅なる者。
不吉なる者。
不幸を運ぶ少年。
七つの奇跡に滅ぼされて、尚立ち上がった男。
世に在る幾多の神魔を退け、終には教会の唯一神すら打倒した。
一体、それは何の為だったか。
どうして神すら殺さねばならなかったのか。
天の軍勢を墜とし、天使の羽を踏み躙って、門を抜けて行く姿への疑問はすぐ氷解した。
共に戦った魔の一人がひっそりと呟いたから。
運命と呼ばれるものが消え失せたと。
もはや何を定める者もいないと。
人はただ人の行いだけで全てを決しなければならなくなったと。
ああ、と納得したのは解っていたからだ。
その男が彼女と同じだったから。
他者の悪(しあわせ)を考えて已まない。
誰かの為にこそ力を尽す存在だから。
彼女が望んで已まない世界を。
男は神・運命と呼ばれるものから勝ち取ったのだと。
あらゆる存在を敵に回して、彼女にすら罵られながら。
自分には出来ない事を、自分ではやれなかった事を、彼女が悪を求めてもいい世界を、男は造ってしまった。
人の身にて人を超えた聖人。
教会に管理されていた者はやがて教会の象徴として真に人々から愛された。
天の意志でもなく教会の傲慢でもなく人が人に繋ぐ遺志と力が世を覆った。
人が悪を求める事すらない理想郷。
その最初の一頁(ページ)を創造した者が誰か。
彼女は気付いていただろう。
きっと、否定しながらも受け入れて。
男が作った世界で生きていこうと決意しただろう。
己を赦さず。
己の悪(しあわせ)を求めないまま。
あまりにも擦れ違っていながら、それでも聖女達と魔王は表裏となった。
いつか少女も悪(しあわせ)を求める日が来る。
男(まおう)の望んだ通りに。
【近代化(レボリュション)】とはそういう事だ。
人々が求めた悪(しあわせ)の中で誰もがそれに気付かない。
それを求める事もない。
ソレが当たり前の世界。
いつか自分の預かり知らぬ場所で交わされたのかもしれない約束。
――――――ハティア。
名を呼んで、それが誰だったかと考える前に、再び全てが闇に溶けた。
*
「いいですか?」
コクンと二人の少女が同時に頷いた。
あの戦闘から三時間程が経っている。
意識を失ったマロウの肉体は重症ではあったが傷に致命のものは無く。
命に別状はない。
未だ警戒を解かない部族達に少女達が天幕へ押し込めれたのは一刻程前。
次の襲撃は無いだろうとサヤトネは最低限の守りを天幕と部族の戦士達に施して、マロウの治療へと専念した。
骨を繋ぎ、内臓を快復させ、記憶への干渉を行い、全ての作業が終わったのは今し方。
その間中マロウを見つめていた三人の少女達は施術が終わった時点で互いに涙を浮かべて喜び合った。
一番重症だったマロウの次はイーステルの治療をと言ったサヤトネはこの機会を逃すまいと幾つかの策を巡らし、マロウの看病を巫女とアイレンに任せた。
無論、天幕の内部を結界で割って防音し、少女達に今まで使わなかった言語共有系の魔術を使って色々吹き込んだ後の話だ。
最初こそ意思疎通が言葉で行えるようになって二人は驚いていたものの。
すぐサヤトネの話に食い付いた。
曰く。
様態が芳しくない。
このままだと危ないかもしれない。
しかし、治療として自分に出来る事は此処までだ。
これ以上の治療となると“とある行為”をしなければならなくなる。
デタラメもいいところだったが、顔色は実際悪い。
生気の無い顔に話の信憑性は抜群に上がった。
魔力や生気を補給するのに一番妥当な行為は性魔術による交合(まぐわい)。
つまりは恋人や伴侶とする愛の営みに他ならない。
マロウの妻を自称するアイレン。
そして、魔力親和性の高い血筋である巫女。
どちらも嗾(けしか)けるには絶好。
そうして魔王の騎士の意図通り、二人の看病はひっそりと始まった。
何をどうすればいいのか。
大まかに吹き込まれた二人は着ていた外套をもう脱いでしまっている。
いつものように腰紐と前に垂れる薄い布で股間を隠しただけの姿。
二人とも紋様はマロウと出合った頃から変わっていない。
紅い文様は特殊な染色方法で肌に刻んでいる為。
数ヶ月は落ちないようになっている。
褐色の肌を羞恥で火照らせた二人をようやく晴れてきた空に掛かる満月が天幕越しに照らした。
「「……」」
二人で“する”ようにと唆された二人にしてみれば、自分の行為が相手に見られるというのは羞恥を感じる以上の意味がある。
「ん……」
しかし、マロウの何処か弱々しい呼気にそんな些細な事を気にしている場合ではないと二人は同時に内心の覚悟を決めた。
『マロウ…』
ちゅっ。
そんな軽い音がしてアイレンの唇が青年の頬を捉えた。
『あ、あたしもします』
部族の間でしか通じない言語で巫女が始めて男の肌、反対側の頬へと口付ける。
マロウが巫女の様子を見ていたなら驚いたかもしれない。
大人しい少女だと思っていた相手が実は少し気の強い恥しがり屋だと知って。
自分を救ってくれたマロウの前では少し猫を被っていた少女は今本来の顔で己の頬を染める。
初めての口付け。
初めて感じた男の肌。
自分を守ってくれた人の温もり。
『マ、マロウ…』
名前を初めて呼んで。
はしたないような気がして少女が顔を両手で覆った。
包帯を巻かれた胸板を優しく撫ぜながら。
アイレンが今度は汗に濡れる下半身へと顔を移動させていく。
やがて、包帯の巻かれていない腹筋に辿り着くとチロチロと舌が肌の上で踊り始めた。
『な、何をして…』
解っていながら、それでも少女は自分より幼いアイレンの行為に動揺した様子で尋ねる。
『マロウ。ここきれいにする』
汗と多少の血に穢れた場所。
舌で清める様子は献身的な妻そのものと少女には見えた。
初めて出会った日から幾つかの言葉を交わしてこそいたものの、マロウの手前話さなかった少女にしてみれば、自分より若いのに積極的なアイレンの様子は何かいけない事をしているような感じがして恥しい。
『あ、あたしも…』
少女が震える舌先をゆっくりとアイレンとは反対側の腹筋に付ける。
汗と血。
鉄と塩の味が口に広がった。
そして、少女は目の前のアイレンがうっとりとした様子で丁寧に汚れを舌で舐め取る様子に負けた気分となる。
好きな人の為なら、この程度のことは出来てしまう。
それどころか嬉しそうにしてしまう。
それが自分とアイレンの差。
けれど、救われた事に対する感謝も、想いも、劣るものではないと証明したくて、少女も熱心に清め始めた。
ピチャピチャと二人の舌が踊る音が薄明かりの中響く。
熱心に舐めている内に少女もまた、その行為に夢中となってしまっていた。
帯びた熱のまま少しずつ舌が下がっていけば、いきつくのは男性の象徴。
牡の匂いに胡乱となったまま。
少女は目の前で大きくなっていく下穿きを見上げた。
アイレンの手がゆっくりと紐を解き、中の幹を開放する。
『~~~!!?』
男のソレならば、何度か少女にも見た経験がある。
水浴びや部族の男達との狩りの途中。
だが、それにしても同じ人に付いているとは思えないような逞しさだった。
しかし、同時に何処か見入ってしまう程に引き付けられる形でもあった。
幹は肌と同じ色をして、まるで彫刻のように雄々しい。
先端だけが薄い血の色をして、まるで何かの果実のよう。
『(これが男の///)』
少女が見入っている間にもアイレンの手が幹を優しく包み込み、舌が表面で踊り始める。
ビクビクと本能は槍を震わせて。
『(うぁ!? こ、こんなに…びくびくして……)』
衝撃を受けた少女の目前で健気な口淫が続く。
まだ一度しか経験がないはずだったが、マロウとの濃密な行為はアイレンを少しずつ開花させていた。
覚えたての行為は初々しくとも十分に心情が篭る。
長い部分は舌と唇を使って吸い付き、先端はくびれに沿って舌を這わす。
手を使った行為はまだした事がないはずだったが、触れれば気持ちいものだと教えられていたアイレンは小さな手で根元を擦り立てた。
膨れ上がり、完全に熱(いき)り勃つ幹に驚いてしまった少女はアイレンの蕩けた顔に気付いて、顔を紅くした。
いやらしく。
淫らに。
美しく。
少女の事も眼に入らない様子で幸せそうに愛撫する姿。
女とはそういう生き物なのかと初めて少女は性というものを感じた。
そんな熱が自分の中にも湧き上がっていると自覚せぬまま、少女の舌もまた自然と幹へと付けられる。
『~~~~』
熱く血潮の行き渡る鼓動。
柔らかで硬い不思議な感触。
相手の命に触れているという実感。
『ん』
嫌悪は感じなかった。
排泄する場所であるのも気にならなかった。
ただ、相手と近付いた気がして、もっと近付きたくなって、少女の舌はアイレンのように唾液で幹を塗れさせ始める。
クチュ、クチュ。
チュル、チュル。
糸を引く舌と唇が唾液を塗り込めながら、幹を懸命に舐める。
褐色の姉妹とも思える少女達の淫らな音色はやがて先端から男の蜜を零させて。
それを愛おしそうに舌で口に迎えるアイレンは見るまでも無く。
少女もまた“そういうもの”なのだと本能的に舌で受け止めていた。
『(これが…マロウの…味……)』
嫌ではない。
少女にとって、それは初めて感じる相手が心地良くなった証。
だから、アイレンと舌が交じり合うのも構わず。
先端に舌が向けられた。
幼い舌と触れ合いながら、青年の蜜に舌を溺れさせて、腰の奥から湧き上がる衝動が背筋を伝って、少女の胸を切なくさせる。
モヂモヂと擦り合わせた股間は熱く、胎の奥を震わせた。
疼きは衝動となり、やがては行動となる。
押さえ切れない劣情が頂点に達しようとした時、幹が盛大に震えた。
『マロウ』
その瞬間を歓喜でもって迎えたアイレンは舌で全てを受け止めようと口を開き、何が起きたか把握もしていなかった少女はいきなりの事に驚く暇もなく、直撃を受けた。
『!!!?』
初めて目にする牡の射精は眼前。
少女が思わず少し後ろに下がると吹き上がった白濁が顔に降り掛かった。
解っていたアイレンは顔に精を受ける悦びに背筋を震わせながら、舌でその熱と味を味わう。
顔に胸に受けた精の濃密な匂い。
クラクラと酩酊を引き起こすソレが少女に初めて牝の顔をさせる。
すぐ目の前にあるアイレンの幼くも精に濡れる悦びで恍惚とした表情。
『これが…マロウの子種……』
指で顔に付いた分を掬い取り、同じく口に含んで。
嫌ではないと少女は体に付いたものを口に運んでいく。
ジンジンと胎が疼き、精に彩られた乳房が乳首が疼く悦楽。
これを知ってはもう後戻り出来ない。
『マロウ…好き……』
アイレンがもう我慢できなくなったように腰を捩らせ、立ち上がった。
キラキラと太腿を蜜が伝い、準備はすっかりと出来ている。
自らの幼いすじを宛がい、ズプンと水音がする程に蕩けた膣(なか)へ剛直が迎えられた。
『(あ、あたしより小さいのに…こんな風に……)』
月明かりに照らされ、一つとなった場所。
青年の幹が入るとは思えない小さな割れ目は膨らんだ先端が埋没していく間も歪んで形を変えていた。
ズブズブと幼い腹が幹を受け入れ、クッキリと薄明かりの中でも形が見える。
『マ、ロウ ん♡』
切ない声。
熱い吐息を零して一番奥、子宮口まで到達した青年自身を慈しんでか。
形の浮き出た腹をアイレンが自ら撫でた。
ピッタリと吸い付いた膣(なか)は幹を離さず。
ゆっくりと腰が揺すられる。
『ひぁぅ♡ ん♡ んぅ♡』
僅かに揺するだけでも吸い付いた幼い襞は幹を離したくないと必死に食み締める。
コリコリと先端の傘の部分が膣(なか)をなめすように押し潰し。
アイレンに衝撃と甘い吐息を吐かせた。
『ひぅ! ぁ♡ あ♡ んく♡ ふぁ!? ぁ♡ んぅ♡♡』
最初は前後に揺するだけだった行為は今や上下に大きく動いている。
『(凄い…こ、こんな風に…あたしも…ここを……)』
少女とて行為を初めて見たわけではない。
小さな頃に男女の交合(まぐわい)を見てしまった事くらいある。
動物達の子作りする姿は大森林では稀な話ではない。
それでも胎が第二の心臓のように脈打ち疼く事は無かった。
『ん…』
自らより小さいアイレンの行為に少女の手が自然と股間に伸びた。
触れれば、もうヌルヌルと蕩けてしまっている。
『(あの時は…こんなに塗れなかったのに……)』
火竜に捧げられている最中。
御神体を埋め込まれた膣(なか)は確かに濡れていた。
だが、今ほどではなかった。
指はいつの間にかすじをなぞり、大切な場所へと指を潜り込ませて。
『んやぁ♡♡ こんなのぉ…ふ、くぅん♡♡』
少女は初めて己で秘部を慰めながら、アイレンとマロウの行為を見つめる。
ジュブジュブと男根が女陰に沈み込む光景。
陰影を刻まれた夫以外とは行えない行為。
若い内に娶られるのが掟である場合が多い部族の中でもアイレン程に幼いものは少ない。
少女は自分の心の家に沸き上がる感情が背徳感だとは知らなかった。
初めて目前で行われる愛の営みに魅入られて、急かされるような気持ちになるのは夫と決めた者に第一の妻がいたから。
強い戦士が子孫繁栄に妻を何人か娶るのは決して部族では珍しい事ではない。
部族ではないとはいえ、それでもマロウの力は強く。
武帝の基準でも問題は無い。
それでも青年の相手が自分では無いという事に不安を覚えてしまうのは少女が計らずも恋というものをしてしまったからに他ならなかった。
『マ、ロウ! マロウ♡』
アイレンの可憐な嬌声が青年には届いているのか。
幹が一段と膨らみ、再びの射精が近いと知れた。
初めてのマロウとの行為から幾分日にちが経っている。
サヤトネの計略で初めての行為で受精し着床まで経験したアイレンだが、本人に自覚はない。
新しい命が宿る胎の中へ、再びの精を受けるべく、行為は激しくなっていく。
『んぅぅ♡♡ マ、ロ…』
熱く燃えた蜜壷が振るえ、達した時、同じくマロウの幹が限界を超えた快楽に奥から煮え滾った精を放った。
ビュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュ。
『んぁあああああああああああああああ♡♡♡』
獣のように甘い衝撃に吼えて。
アイレンが全身を痙攣させながら恍惚に顔を蕩かせる。
緩んだ口元からは唾液が滴り落ち、涙が幾筋も汗と共に乳房を伝わる。
完全にしこり立った乳首が月明りの中で震えて。
ほんの僅かに白いものを垂らした。
二回目の行為にも関わらず。
子種を胎で受け止める快楽に溺れて、アイレンはクッタリと青年の胸に優しく倒れ込んだ。
施された性魔術の発動する。
前回、マロウがアイレンにした時とは逆にアイレンの生気が注がれ、肉体へと行き渡っていく。
赤みが戻る顔を至近で眺めて、アイレンは頬を緩ませるとそっと口付けした。
その胎はプックリと大量の精で膨れていて、白濁と蜜が交わって股間から滴り落ちている。
『これが…男女の交合(まぐわい)……』
中睦まじい交合(まぐわい)。
行為の最中、もうアイレンは全て忘れて乱れていた。
まるで占有権を主張するように繋がったままのアイレンに対抗心とも言うべき感情が沸き上がり、少女がちょっと申し訳なく思いながらもアイレンに囁く。
『つ、次は…あ、あたしの番です!』
その声にアイレンは何を言うでもなく。
ゆっくりと体を起こすと幹を引き抜き始めた。
溢れる子種。
湯気を上げる幹が抜き出される光景は少女の想像を絶して淫ら。
白い糸を何本も引かせながら、密着した体を剥がしていくアイレンは男根が抜け切るまでに味わった快楽で再び達してしまった。
『♡』
未だ衰えを知らない剛直はビクビクと反応して、再度蜜壷が下りてくるのを待つ如く滾っていく。
アイレンが横に退くと横になり、マロウの腕の中に納まって身を摺り寄せた。
『マロウ。気持ちよくなった…嬉しい…巫女様は?』
拙い言葉遣い。
だが、「巫女様は?」と聞かれて。
一体お前は何をしてやれるのかと尋ねられて。
少女は初めて感じる感情、嫉妬に苛まれながら、宣告する。
『あ、あたしはマロウを…沢山…好きって…します』
アイレンの蜜と青年の精に濡れた男根を恐々と触れながら、跨った少女は意を決して、腰を落とした。
ズリュン。
『ッッッ?≫!#*!』
初めての交合にも関わらず一気に腰を下ろした少女は思わず声にならない声を噛み殺した。
想像していたのとはまったく違う。
未知の快楽。
処女膜を失っているとはいえ、乱暴とも思える挿入に一瞬で少女の快楽中枢は振り切れた。
ガクガクと全身が振るえ、膣(なか)は突如として入ってきた異物から齎される悦楽に麻痺し、急激に幹を締め付ける。
プシャァアアアア。
そんな音がして、尿と潮が同時に吹き上がった。
『ぁ゛あ゛ッッ!!? んく゛ぅうううううん♡』
快楽に歪んでだらしなく舌を出した顔が呆然としながら、自分のしてしまった事にハッと気付く。
『あ、ぁ…ご、ごめんなさ……』
少女が思わず羞恥と申し訳なさに涙を零しそうになる。
クスクスと。
アイレンが少しだけ笑った。
それは女として勝ち誇ったようなものではなくて。
純粋に少女を巫女を可愛いと感じた故の笑みだった。
『マロウ…気持ちいいみたい』
幹がビクビクと反応しているのは二人にも解った。
『あ、後で拭きます///』
恥し過ぎる初めての失態に真っ赤になりながら、少女がゆっくりと腰を動かし始めた。
アイレンとは違い中の青年の形が浮き出ては来ないものの、ギチギチに根元まで詰め込まれた幹の太さに壮絶な圧迫感を感じて、苦しみとも快楽とも付かないものが少女の脳裏を駆け抜けて行く。
グチィ。
『んぅうう?!』
少し動いただけで少女は自分の子供を孕む為の器官、子宮の入り口が青年によって支配されているのを実感した。
完全に埋まっている先端は多少動かすだけでも恐ろしい衝撃を下半身に与える。
『ぁ…あ…これって…あたしの…大切な場所///』
本能的な予感。
このまま動きを大きくしていったら、衝撃で体が心がバラバラになってしまう。
そんな不安と期待。
これ以上進んだら戻れなくなると理解しながらも少女は動きを小さくは出来なかった。
『(あたし…この人の…マロウの…ものになるって…決めたから……)』
ゆっくりと腰が持ち上がって、その行為の“良さ”に耐えられず、落下した。
ズチュン。
『ん゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛♡♡♡』
頭の中で弾けた。
それは理性と呼ばれるものだったかもしれないし、乙女という名の遠慮だったかもしれない。
『(こんなのぉ♡ 知ったらぁ♡ もどれ…にゃ…くなるぅ)』
自分がどうにかなってしまうかもしれないという恐怖よりも、この青年との行為に没頭してしまいたいという気持ちが勝った。
腰が再び上げられ、牝の蜜壷は戦慄いて、再びの快楽に備える。
グヂュン。
『マ、ロォ…しゅきぃ…まろぉ♡』
涙を零しながら、もう青年しか見えなくなった少女の腰の奥。
麻痺していた襞は牝としての本懐、牡の幹をしゃぶり始めた。
前後上下に小刻みに動きながら、御神体では在りえる筈も無かった快楽に溺れて、少女は自らが女である事を知っていく。
グヂュン、グヂュン、グヂュン。
『ひぐ!? ひぁ゛♡ んぁ゛♡ ぁ゛~~~ッ♡』
互いの蜜で股間が月夜に濡れ光る。
屈服する悦びが、男に支配される喜びが、少女の意識を胡乱にしていく。
涙の滲む瞳では見えない。
夫と決めた男の顔。
自分だけ気持ちよくなるのではアイレンに負けてしまうとキュッと膣(なか)が締められた。
「んくッ!!」
初めてマロウの口から呼気が漏れる。
『♡』
それに気を良くして。
少女は自分を唯一貫いていいと決めた牡の槍を大切に大切に甘く絞った。
震える幹が何の前兆であるかアイレンとの行為から知った少女は歓喜の中で、その時を待つ。
『ま、ろぉ…こだねください。あたしにぃ…たくさん…きもちよくするからぁ!!』
体が震え、一際大きな絶頂が来る直前、幹を上る熱さを確かに少女は感じた。
ビュルルルルルルルッルルルルルルルルルルルルルルルルルルルッ。
『あ゛ッ あ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!』
吼えた少女はドヂュンと大きく先端を子宮口にめり込ませた。
一度では足りないと、一度、二度、三度、四度、子宮を焼き孕ませるゼリー状の子種が胎の奥底まで汚していく。
『こどもできりゅ♡ こへぇ♡ あかひゃんできゆぅ♡』
ピッタリと青年の肌を密着した股間。
ドプドプと注がれ弾けていく白濁の熱さ。
今正に青年専用となった己の女の部分。
幾度にも及ぶ射精の度に膨れていく胎。
脳裏の何もかもを融かしていく快楽。
少女にとって、それは経験した事の無い悦びだった。
『ま、ろう…あたしは貴方のものに…なりまひたぁ♡ ずっと、お傍にぃ…おいてくださいませぇ……』
女として強き男に嫁ぎ娶られ、子を成し、愛される。
遺伝子に刻まれた本能のまま、救われた時に感じた淡い想いを込めて。
少女は青年に自分の名を告げる。
『あたしの名は…アルハ・イルフラメル・レミエント・ユア。です……』
大陸共通言語では無い言葉は届かない。
しかし、制約は成された。
真名。
本当に明かしても良いのは夫か子供くらい。
第二の妻ならば、第一の妻にも教える事は在り得る。
『かなたひさしく…あなたに仕えます……』
アイレンよりも胎を大きくして微笑んだ。
ゆっくりと抜け落ちた男根の上から退いて、アイレンとは反対側の腕に治まった少女が青年の胸板越しに視線を交わす。
『どうかこれからも共に……』
女の笑みでの宣戦布告。
アイレンは強力なライバルの登場に動揺する事なく。
強さを思わせる笑みで頷いた。
太腿に滴り落ちる精液にモゾモゾと子供が出来るのはどちらが先かと切実な事を考えながら、少女は目を閉じる。
その子宮の奥。
卵巣より放たれた卵はひっそりと受精した。
三人の情事を覗き見していたサヤトネの思い通りに。
青年の目が覚めたのは翌朝の事。
情事後の濃密な匂いの中。
少女アルハの姿に思考が停止し、天を仰いだ。
こうして青年はまた泥沼へと沈み込んでいく。
三人の少女達に我が子が宿っていると知る由もなく。
全てを片付け終えて出発した五人が大森林からの超遠距離攻撃を目撃したのは昼の事。
慌しくなる国境での騒乱の火中へ。
誰もが知らず巻き込まれていった。